魚類の光受容能の解析と単色光照射による生理学的 な変化に関する研究
著者 早坂 央希
ファイル(説明) 博士論文要約
博士論文要旨(English) 博士論文要旨(日本語) 最終試験結果の要旨 論文審査の要旨 学位授与番号 17701甲連研第996号
URL http://hdl.handle.net/10232/00031716
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博士論文要約
(Summary)平成 30年入学
連合農学研究科 農水圏資源環境科学 専攻 氏 名 早坂央希 タイトル 魚類の光受容能の解析と単色光射による生理学的な変化に関する研究
キーワード( 性統御 ) ( 性分化 ) ( 光波長 )
■第1章
魚類では、成長速度や肉質、生殖腺など形態的、生理学的な性差が存在するため、これらを 人為的に制御できれば養殖魚の市場価値を高められる。例えば、トラフグでは精巣を有するオ スに価値がある一方で、チョウザメでは魚卵に価値があり卵巣を有するメスが高値で取引され る。これらの様に、市場価値の高い性のみを生産ができれば養殖の効率化に大いに寄与でき る。現在、性ホルモン投与による性転換誘導を介した単一性生産が行われいてるが、性ホルモ ン投与によって配偶子の質の低下をまねくなど問題がある。そこで、環境刺激による性転換機 構に着目し、単一性生産技術への応用の可能性を検討した。
一部の魚類種では、環境を変化させることで遺伝的に規定される性とは異なる表現型の性が 誘導されることが知られている。例えば発生初期のメダカを高水温に暴露することで、遺伝的 にメスでありながら精巣を有する性転換オスが出現することが報告されている。水温以外に も、溶存酸素濃度、pH等の環境要因が性分化に影響を及ぼすことが知られている。しかし、
魚類にとって重要な環境要因の一つである光が性分化に与える影響については報告がない。
本研究では、性決定遺伝子が同定されているメダカを用いて、特定波長の光の照射が性分化 に及ぼす影響を検証し、得られた知見の養殖対象魚種への応用の可否を検討した。初めに、メ ダカに照射する光波長と光強度を決定するために、網膜電図法で視感度と閾値の決定を行っ た。これらの情報を元に、発生初期より特定波長の光を照射してメダカを飼育したところ、遺 伝的にメスでありながら精巣を有する性転換個体が出現した。この性転換個体は、受精能を持 つ機能的な配偶子を生産し、正常なメスの配偶子と交配させると、次世代が全メス集団となる ことが明らかとなった。この特定光波長照射による性転換誘導技術が養殖対象魚に応用できる かナイルティラピアを用いて検討した。
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■第2章
網膜電図(ERG : electroretinogram)は、多くの動物で光刺激に対する視覚応答の特性を明 らかにする一般的な手法である。ERGの記録では、網膜内の多数の細胞から生成された一つの 連続した電位を記録する。記録された電気信号は、異なる細胞から生成された電位で構成され る4つの波 (a-d波) に分けられる。その中でもb波の応答振幅は、閾値レベルを決定するため の測定に用いられる。ERG記録は、視覚の研究における標準的な技術の一つとして使用されて きたが、簡易かつ迅速に閾値を決定するための分析方法はまだ確立されていない。閾値は一般 に、弱い光刺激から応答が飽和するまでの刺激強度を求め、この応答強度と刺激強度との関係 性に基づいて決定される。この関係性をV/logI曲線として求め、Naka-Rushton関数等の式に適 用する。そして閾値は、指標電圧に達する刺激強度として回帰式から得られる。この指標電圧 は、電気的ノイズが存在する記録よりも上の値を実験者が決定して設定する。しかし、実験者 が設定する指標電圧によって閾値強度が変化する可能性がある。そこで、 典型的な緩電位のシ フトを示す ERG 波形の相似性と最大応答振幅の遅延時間と光強度の関係性について相互相関 解析によって閾値を決定する技術を開発した。この技術を用いてメダカの暗所と明所における 視感度と閾値の決定を行った。暗所下では、520 nmに最も高い視感度を持ち、470 nm、380 nm、
580 nm、620 nmの順に高い値を示した。明所下では、500 nmに最も高い視感度を持ち、520 nm、
470 nm、580 nm、620 nmの順に高い値を示した。暗所下での閾値は、520 nmに最も低い閾値を
持ち、470 nm、380 nm、580 nm、620 nmの順に低い値を示した。明所下での閾値は、380 nm、
520 nm、500 nm、580 nm、470 nm、620nmの順に低い値を示した。
これらのメダカの各光波長に対する閾値は、先行研究での他魚種の例と比較して同等の視覚 機能を有していることが示された。
■第3章
網膜電図の結果を元に、メダカに照射する光波長と光強度を決定した。メダカは XX/XY型 のオスへテロの生殖様式をとり性決定遺伝子dmyが同定されている。そこで、特定の光波長
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の発生初期からの照射が性分化に及ぼす影響について性決定遺伝子dmyを指標とした遺伝的 な性と生殖腺を指標とした表現型の性に着目し解析を行った。特定の光波長照射試験区では、
15.9%の個体で遺伝的な性と表現型の性が不一致となる個体が出現した。次に、この性転換個 体が生産した配偶子の機能性と、その配偶子の受精能を交配試験によって明らかにした。初め に、性転換個体の腹部を圧出したところ精子が得られた。この精子は運動能を有し、この精液 を用いて正常なメスから得られた未受精卵と人工授精を行ったところ、受精卵が得られ正常に 発生が進行した。この人工授精によって作出した次世代は、遺伝的な性 も表現型の性も共にメ スである全メス集団となった。次に、特定の光波長照射による性転換誘導の時期を推定した。
性転換時期を推定するために、遺伝子olvasにGFPが組み込まれたトランスジェニックメダカ を用いて生殖細胞数を計数した。遺伝的にメスでありながらオス型の生殖細胞数を示す個体が どの時期に出現するか検討したところ、孵化後3日の個体で生殖細胞数が有意に減少している ことが明らかになった。そこで、これらの時期の個体のコルチゾル濃度を測定したところ試験 区間で差はなかった。これらのことから、発生初期に特定の光波長を照射することで遺伝的に メスでありながら精巣を有する機能的な性転換が誘導されることが明らかになった。 また、特 定の光波長照射による性転換誘導時期は孵化後3日前後で誘導され、この時期のコルチゾル濃 度は試験区間で差がなく、先行研究と比較しても高くないことが示唆された。
■第4章
メダカを用いた光照射試験では、特定の光波長を照射することで遺伝的メスから表現型オス への性転換が誘導され、交配試験の結果より次世代が全メス集団となることが明らかになっ た。この全メス集団作出技術が養殖対象魚種に応用できれば性ホルモン投与に依存しない単一 性生産が可能となる。そこで、養殖対象種であるナイルティラピアを用いて光照射試験を行っ た。光源には昼白色、青色、緑色、赤色のLED電球を用いた。人工授精によって得た受精卵 を各光試験区に分配し性分化が終了する85日齢まで飼育を行い遺伝的な性と表現型の性の不 一致率を算出した。しかし、全ての試験区で遺伝的な性と表現型の性が不一致となる個体は出 現しなかった。
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■第5章
本研究では、これまで測定方法が確立していなかった視覚閾値決定方法を確立し、この技術 を用いてメダカの視感度と視覚閾値の決定を行った。新しく開発した視覚閾値決定方法は、従 来の方法に比べて迅速に応答の有無を判定できるため、実験時間の短縮につながり安定して記 録を取ることができた。得られた記録の解析よりメダカの視感度と視覚閾値は他の魚種と同等 かそれ以上であることが明らかになった。
視覚機能解析の結果より感度の高い波長を選択し、メダカが十分に感受できる光強度を設定 した。発生初期より特定の光波長を照射して飼育を行った結果、遺伝的な性と表現型の性が不 一致となる性転換個体が出現した。これらのことから性分化に影響を及ぼす環境要因として光 波長が要因となっていることをはじめて示した。さらに、水産養殖対象種であるナイルティラ ピアでは、特定光波長照射と光周期の2条件を組み合わせて飼育したところ、一部の試験区で 性転換個体が観察された。
現在、養殖業対象とした光波長の制御による成長、成熟、性分化等の魚類の生理状態を制御 する技術の開発が行われている。本研究で得られた知見が、光波長を用いた新たな養殖技術の 開発の一助となると信じる。