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腱 の 形 態 形 成 に 関 す る 研 究      ―伸展負荷の及ぼす影響一

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Academic year: 2021

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     博 士 ( 農 学 ) 海 津 幸 子      学位論文題名

腱 の 形 態 形 成 に 関 す る 研 究      ―伸展負荷の及ぼす影響一

学位論文内容の要旨

  骨格筋の補助装置であり定型強靱結合組織である腱は、張力伝達機能に起因する特 異的な構造を有していることが知られているが、この特異な形態の形成機序の全容は 未だに明らかにされていない。本研究では、腱の形態形成機序の解明を目的として、

in vivoでは成長に伴う腱の構造や構成成分の局在、生化学的特性の変化について、

in vitroでは培養モデルを用いて腱の形態形成に及ぼす伸展負荷の影響について検討 した。

  ブ夕深趾屈筋腱のコラーゲン細線維は骨から骨格筋へと互いに平行に走行してコラ ーゲン細線維束を形成していた。このコラーゲンの配列によって特徴付けられる腱の 構造は出生時にはすでに獲得されており、成長に伴って一本一本のコラーゲン細線維 が太くなったり、波打構造が大きくなるなどの変化が観察されたが、骨から骨格筋へ という基本構造は変化しなかった。また、腱にはI、III、IV、V、VI刑コラーゲン が含まれており、外腱周膜、内腱周膜および腱周膜にはI、III、V、VI型コラーゲ ンが、腱線維にはI、III、V型コラーゲンが、そして腱ネ脚包にはI、III型コラーゲ ンが局在していた。IV型コラーゲンは外腱周膜と内腱周膜に存在する血管、神経の みに局在していた。この様なタイプ別コラーゲンの局在は立体構造と同様、成長に伴 う変化を示さなかった。一方、コラーゲンの酢酸抽出性や線維形成能などの生化学的 な特性は成長に伴って変化した。腱の主要構成成分であるコラーゲンは、腱に含まれ るタンパク質の80%以上を占め、成長に伴って増加した。酢酸抽出性については、

酢酸可溶性コラーゲンは成長に伴って直線的に増加し、不溶性コラーゲンは最初は 徐々に、後に急速に増加した。この酢酸不溶性コラーゲンの増加曲線は体重の増加曲 線と非常に類似していた。また、酢酸可溶性コラーゲンをタイプ別に見ると、その大 部分がIおよびIII型コラーゲンであった。一方、不溶性コラーゲンではIおよびIII 型コラー ゲンは15〜35%程 度で、VI型コ ラーゲンがもっとも多く約50%であっ た。また、抽出コラーゲンを中性条件下で37℃で恒温保持して再線維化させたもの を走査電子顕微鏡で観察すると、1目齢のものは細いコラーゲン細線維束が特定の方 向を持たずにランダムなネットワークを形成していたが、154日齢では方向性はない ものの、数本のコラーゲン細線維が集まって太い細線維束を形成していた。以上のこ とから、出生後にin vivoで観察される変化は腱の形態的な変化ではなく、腱の構成 成分であ るコラーゲ ンの量的お よぴ質的な 変化であることが明らかとなった。

  線維芽細胞の一種である腱細胞はin vivoで運動による伸展負荷を受けながら腱の 立体構造を維持する細胞外マトリックスを合成・分泌している。腱細胞による細胞外

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マ トリ ックスの合成・分泌に伸展負荷がどのような影響を与えているのかを明らかに す る た め 、FLEXERCELL STRAIN UNIT SYSTEM(FLEX‑SYSTEM、FLEXCELL)を 用いてブ夕深趾屈筋腱細胞に直接伸展負荷を加えて培養を行った。亅腱細胞は通常に培 養 した 場合には敷石状の丸みを帯びた形状を呈し、ランダムに細胞突起を仲ばしてい た が、 伸展負荷を加えて培養した場合には伸展方向と平行に細胞突起を仲ぱして紡錘 形を呈していた。増殖速度は、伸展培養した場合には通常培養と比較して低゛「し、培 養 二週 間後 の通 常培 養で は細 胞数が 播種時の9倍であったのに対し、伸展培養では/1 倍にしか増加しなかった。また、ネ脚包外マトリックス合成に関しては、腱細胞は通常 に 培養 した場合も伸展負荷を加えて培養した場合も、コラーゲンやコラーゲンネット ワ ーク 形成の足場となるフィブロネクチンを合成していた。腱細胞により合成・分泌 された細I胞外マトリックスはネ川胞外にネットワークを構築していたが、通常に培養し た 場合 にはネットワークがランダムであったのに対し、伸展培養した場合には伸展方 向 と平 行に走行していた。以上の事から、腱細胞によって合成・分泌された細胞外マ ト リッ クスが腱に特異的を構造を構築するには、伸展負荷が必要であることが示唆さ れた。

  更に 、腱細胞を取り囲むマトリックスに対する伸展負荷の影響についても調べるた め 、ラ ット 深趾 屈筋 腱細 胞を 含むブ タアキレス腱由来のI型コラーゲンゲルに伸展負 荷 を加 えて培養したものを腱の培養モデルとした。腱細胞のコラーゲン合成能は伸展 負荷を加えると通常に培養した場合とは異なり、in  vi voで観察されたI、III、IV、V お よぴVI型 コラ ーゲ ンを 合成 してい た。しかし、コラーゲンゲル中で培養した腱荊0 胞 は伸 展負 荷の 有無 に関 らず 合成し たコ ラー ゲン を細 胞外 には 分泌せず、細胞外に ネ ット ワークを構築した単層培養時とは異なる挙動を示した。また、伸展負荷を加え ら れた コラ ーゲ ンゲ ルは 培養n数の 経過に伴ってその構造を著しく変化させた。ゲル 断 面を 観察すると伸展負荷を加える前のゲルはランダムなコラーゲンネットワークで 構 成さ れて いた が、 伸展 培養7日目 になると伸展培養用シャーレとの接着面からゲル 表 面へ とゲルの半分程度のところまで斜めにコラーゲン細線維が走行するようになっ た 。伸 展培 養14日目 にな ると コラー ゲン 細線 維の 構造 変化 がゲ ルの表面近くにまで 及 ぷよ うになり、特に表面に近い部分ではコラーゲン細線維が表面とほぼ平行に走行 し てい た。伸展負荷を加えないゲルではこのような変化は観察されず、コラーゲンゲ ル はラ ンダムなネットワークのままであった。更にコラーゲンゲルの表面を観察する と 、伸 展培 養3日 目で はコ ラー ゲン はラ ンダ ムな ネッ トワ ークを‑成しているのみで あ った が、 伸展 培養7日目 にな ると 数本のコラーゲン細線維東が伸展方向と平行に走 行 する よう にな り、 伸展 培養10日目 には ゲル 表面 のコ ラー ゲン 線維の大部分が伸展 方 向と 平行 に走 行し てい た。 伸展培 養14日目 にな ると 伸展 方向 と平行に走行するコ ラ ーゲ ンがより密になっていた。一方、通常培養した場合は横断面と同様に培養日数 が 経過 してもランダムなネットワークしか観察されなかった。伸展培養した場合、ゲ ル 表面 のコ ラー ゲン 細線 維の 構造はin vivoで観察されたものに類似しており、伸展 負 荷 が 腱 の 形 態 形 成 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。  .   以上 の結 果か ら腱 の形 態形 成につ いて 次の よう な仮 説が 導か れた。腱の形態形成 は 三つ の段階に分けることができる。まず第一段階として骨格筋から発生する張カを 骨 へと 伝達するとぃう機能を果たすため、伸展負荷という物理的要因によって腱の基 本 的な 構造が形成される「形態的な変化」が生じる。次に、第二段階として、運動や 体 重増 加による負荷の増加に対応するため「量的変化」が生じてコラーゲン含量が増

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加する。最後に第三段階として「量的な変化」と一部平行してコラーゲンの酢酸抽出 性や線維形成能などの生化学的性質が変化する「質的な変化」が生じる。以上の三段 階を経て成熟した腱の形態が形成されると推測され、伸展負荷とぃう物理的要因が腱 の 形 態 形 成 に お い て 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。

(4)

学位論文審査の要旨

主 査    教 授    近 藤 敬 治 副 査    教 授    高 橋 興 威 副査   助教授   中村富美男

     学位論文題名

腱の形態形成に関する研究

―伸展負荷の及ぼす影響一

   本論文は5 章で構成され、図46 、弓1 用文献42 、総頁数110 の和文論文 で、他に参考論文1 編が添えられている。

  コ ラー ゲンを 主成分とす る真皮や腱 は各種生体 材料の原料 として利用 されて きた 。 特に、 腱ではコラ ―ゲン線維 が真皮のよ うに絡み合 うことがな く、カの 伝達 方 向に平 行に配列し ていること から、微細 で均ーな不 溶性コラー ゲン線維 を得 や すく、 強度の高い 創傷カバー 材の原料と して注目さ れている。 腱が張力 伝達 機 能に起 因する特異 的な構造を もつことは 知られてい るが、この 特異な形 態形 成 の全 容 は未 だ 明ら か にさ れ てい な い。

  本 研究 は腱の 生体材料と してのより 広範な利用 を探るため に、生体内 及び生 体 外 の 両 面 か ら 腱 の 形 態 形 成 機 序 を 追 究 し た も の で あ る 。

  研究 成果の大要 は下記のよ うにまとめ られる。

  1. ブ タ の 成 長 に 伴 う 腱 の 構 造 変 化を 形 態学 的 、生 化 学 的に 捉 えて い る。

  @コ ラ ―ゲ ン線維 が東になっ て互いに平 行に走行す る腱に特有 な構造は出 生 時 に は既 に 確立 さ れて い るこ と 、 およ び 出生 後6ケ 月間で個々 のコラーゲ ン細 線 維 の 太 さ が 約2倍 (52Um―102Um) に な る こ と を 観 察 し 、 こ の こ と が 成 長 に 伴 う 体 重 増 や 運 動 能 カ を 支 え る も の で あ る こ と を 明 ら か に し た 。   ◎腱 に はI、 川 ,IV、V、VI型 コ ラー ゲ ンが 含 まれ て おり 、 外腱 周 膜、 内 腱 周 膜 およ び 腱周膜 には|、 II、|V、V、VI型が、腱線 維には|、 川、V型 コラ ー ゲンが局在 することを 確認した。 細線維の太 さを帯IJ限するV型コラ―ゲンが 出 生 時に 比 ベ減少 することを 見い出し、 コラ―ゲン 細線維の太 さが成長に 伴っ て 増 加す る ことと の関連性を 示唆した。 また、運動 負荷を強く 受ける、心 臓、

関 節 軟骨 、 椎間 板 に豊 富 に存 在 す るVI型コ ラー ゲンが主にI型コ ラーゲンか ら

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なる腱線維周囲の周膜に局在することを確認し、VI 型コラーゲンの存在が腱の 強度維持に寄与していることを明らかにした。

  

◎腱の主要構成成分であるコラ―ゲン含量は

182

日齢まで成長に伴って増加 したが、酢酸に対する溶解性は真皮のそれに比べはるかに高く、しかも出生後

98

日齢まで変化を示さず、その後低下し

5

歳齢ではほとんど溶解しなかった。

このことから、量的変化は短期間で達成されるが共有架橋結合の導入を伴う質 的変化は比較的長期間に及ぶと推測している。このことは電気泳動像からも確 認した。すなわち、塩基性アミノ酸および芳香族アミノ酸残基に吸収されるク マシーブリリアントブル―による染色性が低下し、成長に伴って吸着阻害を生 じ る 化 学 的 な 変 化 が 腱 コ ラ ― ゲ ン に 生 じ て い る こ と を 明 らか に した 。

  2.

腱細胞は生体内において伸展負荷を受けながら腱特有な立体楕造を維持 するコラ―ゲンを合成、分泌している。そこで、腱細胞に与える伸展負荷の影 響を明らかにするため、月建細胞に直接伸展負荷を加える培養実験を行った。

  

@単層培養の実験から、伸展負荷の有無に関わらず、腱細胞はコラーゲンや コラ―ゲンネ`ソトワークの足場となるフィブ口ネクチンを合成、分泌すること を確認した。また、腱細胞が分泌する細胞外マ卜リックスf まネッ卜ワ―クを構 成するが、通常に培養した場合のネ`ソ卜ワークはランダムであったのに対し、

伸展負荷を加えて培養した時には伸展方向と平行に走行することを観察し、膿 細胞によって合成、分泌される細胞外マトリックスが腱特有な構造を楕築する には伸展負荷が必要であることを実証した。

  

◎腱細胞を取り囲むマトリックスに与える伸展負荷の影響を明らかにするた め、腱細胞を合むコラーゲンゲルに伸展負荷を加えた実験を行った。伸展負荷 を加えられた腱細胞は生体内の場合と同様なコラ―ゲン合成能を示すが、細胞 外には分泌しないことを確認した。―方、培養に用いたコラーゲンゲルは伸展 負荷によって、その構造を変化させた。すなわち、ランダムな構造であったコ ラーゲンゲルが伸展負荷の方向と平行に走行するようになり、その線維束は生 体内のものと類似した構造であることを明らかにした。

  

以上のように、本研究は生体内における腱コラーゲンの形態学的、生化学的 特性を明らかにすると共に、腱の形態形成にとって伸展負荷が重要な役割を果 たしていることを初めて実証したものであり、腱の生体材料としての広範な利 用に寄与するものとして学術上高く評価される。

  

よって、審査員一同は、海津幸子が博士(農学)の学位を受けるに十分な資

格を有するものと認めた。

参照

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