博 士 ( 獣 医 学 ) 田 中 聖 一
学位 論文題 名
Establishment of murlne model of latent infection with pseudorabies vlruS
(マ ウスに おけ るオ ーエス キー 病ウ イル ス潜伏感染モデルの確立)
学位論文内容の要旨
オーエスキー病ウイルス(PrV) はブタを宿主とするへルペスウイノレスで三又神経 節に潜伏感染し、宿主がストレスを受けると活性化する。活性化したウイルスは体外 に排泄され、新たな感染源となる。潜伏感染している個体を完全に排除することは難 しく、オーエスキー病を完全に清浄化することは困難で、養豚業に与える影響は非常 に大きい。従ってPrV の潜伏感染と活性化の機構を調べることは大変重要である。し かし、ブタのストレスの研究は進んではおらず、潜伏感染したウイルスの活性化には 寒冷暴露や副腎皮質ホルモンの過剰投与が行われているに過ぎない。しかも潜伏ウイ ルスの活性化に対して安定した結果が得られていないため、より効率的にウイルスを 活性化する因子を探索する必要がある。加えてPrV は宿主域は広いが、ブタ以外の動 物では自然界で潜伏感染が成立することはない。このため、PrV の潜伏感染のメカニ ズムを研究するためにはブタを使用する以外にない。唯一、
Osorioらが1992 年にワ クチン株を利用したマウスPrV 潜伏感染モデルを報告したが、野外株や強毒株での試 験例 は報 告さ れて いない 。こ れらをふまえ、筆者は次のような研究を行った。
1
.神経伝達物質であるアセチルコリン(Ach) により潜伏PrV の活性化を試みた。
PrV
野外株、YS‑81 で5 週齢ブタを攻撃し、
PrV潜伏感染ブタを作出した。この一群
にAch 10‑3Mxlml を耳根部筋肉内に4 日間、連続投与した。他の群にはそれぞれデ
キサメサゾン(Dex) 、陰性対照としてそれぞれの溶媒を1ml ずつ投与した。臨床観
察と鼻腔スワブからのウイルス分離を試みた。また、これとは別の一群から神経臓器
を採取し、一方にAch を加えて
clonedporcinekidney(CPK )細胞と共に37 ℃で培
養、細胞変性効果の有無を判定した。Ach を投与したブタは投与直後に副作用による
症状を示したが、症状はすぐに消失した。Dex 投与群のブタは投与を続けるにっれて
副作用による症状を示し、うち数頭は死亡した。ウイルスの鼻汁への排泄はAch 群で
のみ確認された。Ach 存在下で三叉神経節乳剤と培養した細胞のみ細胞変性効果を示
した。これらの結果により、Ach は潜伏しているウイルスを活性化する可能性が示唆
さ れ 、 潜 伏 ウ イ ル ス の 活 性 化 と い う 点 で は
Dexよ り も 優 れ て い た 。
2. Osorioらの報告を元に日本の野外分離株である
YS‑81株を用いて同様の試験を
行い、マウスモデルへの応用の可能性を検討した。
6週齢BALB/c マウスの腹腔内に
生理食塩水
(PBS)で1:128 に希釈したブタ抗PrV 血清を投与し、その30 分後に10 、
102
、
l03 LDso相 当の
YS‑81で 腹腔内攻撃した。攻撃から89 日および126 日後、生 残したマウスから三叉神経節を採取し、潜伏ウイルス活性化試験に供した。前処置し たマウ スは
l03 LDso相当のYS‑81 に対しても大半が生残し、三又神経節内にPrV が 存在していることが確認された。以上のことから、本法によって野外株であるYS .81 株 に よ る マ ウ ス 潜 伏 感 染 モ デ ル を 確 立 す る こ と が 可 能 で あ っ た 。
3.作製したマウスPrV 潜伏感染モデルの解析を進め、マウスからのウイルス回収に つ い て検 討 を加 え た。
6週齢
BALB/cマウス の腹腔内に
PBSで1:128 に希釈し たブ タ抗
PrV血清を 前投与し、 その
30分後に
2xl02 LDso相 当の
YS‑81で 腹腔内攻撃し た。攻撃から
2カ月以上生残したマウスを潜伏感染マウスとして使用した。Ach また はDex を腹腔内投与し、鼻腔スワブを採取して排泄されるウイルスの検出試験に供し た。薬剤投与から2 週間後に血清を採取し、血中抗体の検出を行った。いずれの薬剤 でもウイルス活性化の誘発が確認された。ウイルス排泄の時期は両薬剤間で異なり、
PrV
活性化メカニズムの違いが予想された。
4. PrV
マウス潜伏感染モデルにおける潜伏ウイルスの活性化が実際のストレス環境 下でも認められることを確認するために各種ストレスを潜伏感染マウスに与え、PrV の活性化やそれに伴う一連の変化について検討した。潜伏感染マウスに拘束ストレ ス、移動ストレス、寒冷暴露のいずれかを
1日
2時間、3 日間連続して与え、実験開 始から6 日間、鼻腔スワブ中の排泄PrV を検出した。試験終了後、全てのマウスから 三叉神経節と血清を採取し、ウイルス検出と中和試験に供した。いずれのストレスを 与えた潜伏感染マウスからもウイルスの活性化が確認された。すなわち、これまで各 種 試 薬 で 再 現 さ れ た
PrV活 性 化 は 実 際 の ス ト レ ス 環 境 下 で も 再 現 さ れ た 。
5.ウイルスの活性化と免疫系との関係を明らかにするために、ストレスに関わって いる免疫系サイトカイン、IL‑1 ロ、IL‑6 、TNF‑ のの動態について解析を行った。潜伏 感染マ ウスに
Ach腹腔内接種 を3 日 問行い、初回投与時から1 群ずつ殺処分して血 清、脳乳剤中のサイトカイン量を酵素抗体法により測定した。鼻腔スワブは
PrV検出 に供した。これとは別の潜伏感染マウスから三叉神経節を採取し、
IL‑6またはIL‑1 ロ存在 下でCPK 細胞とともに混合培養して
PrVの活性化の有無を確認した。血清、
脳乳剤中のサイトカイン量を測定したところ、IL‑6 、IL‑1 ロがウイノレス排泄に先立っ て上昇 した。潜伏 感染マウス の三又神経節を
IL‑6または
IL‑1存在下でCPK 細胞と ともに 混合培養しても
PrVの活性化は認められなかった。以上のことから
Achによ ってストレス状態が惹起されていることが確認されたが、IL‑1 ロ、IL‑6 を介している ものではないと推察された。
このように本マウスモデルは
PrV潜伏感染と活性化の研究やストレスの研究を行う
上で非常に有益なものであり、本モデルの活用によってPrV をはじめとするへルベス
ウイルスの潜伏感染―活性化の機序をより詳細に検討することが可能となった。
学 位論文 審査の要旨 主査 教授 安居院高志 副査 名誉教授小沼 操 副査 副査
准教授 准教授
大橋 佐々木
和彦 宣哉
学位論文題名
Establishment of murlnemodeloflatentinfeCtionWith pSeudorabieSVlruS
(マウスにおけるオーエスキー病ウイルス潜伏感染モデルの確立)
オ ー エ ス キ ー 病 ウ イ ル ス(PrV)は プ タ を 宿 主 と す る へ ル ペ ス ウ イ ル ス で 三 叉 神 経 節 に 潜 伏 感 染 し 、 宿 主 が ス ト レ ス を 受 け る と 活 性 化 す る 。 活 性 化 し た ウ イ ル ス は 体 外 に 排 泄 さ れ 、 新 た な 感 染 源 と な る 。PrVは 宿 主 域 は 広 い が 、 ブ 夕 以 外 の 動 物 で は 自 然 界 で 潜 伏 感 染 が 成 立 す る こ と は な い た め 、 こ れ ま で げ っ 歯 類 を 用 い たPrVの 潜 伏 感 染 モ デ ル は 確 立 さ れ な か っ た 。 申 請 者 はPrV潜 伏 感 染 モ デ ル の 確 立 を 目 指 し 研 究 を 行 い 、 以 下 の こ と を 明 ら か に し た 。
1. ま ず ブ タ にPrVを 接 種 し 、 潜 伏 感 染 状 態 に し た も の に 、 ア セ チ ル コ1」 ン(Ach)を 投 与 す る こ と で 、 ウ イ ル ス が 排 泄 さ れ る こ と を 示 し た 。
2. BALB/cマ ウ ス に ブ 夕 抗 PrV血 清 を 前 投 与 す る こ と でPrV潜 伏 感 染 モ デ ル を 作 製 す る こ と に 成 功 し た 。 こ の マ ウ ス か ら 三 叉 神 経 節 を 摘 出 し 、in vitroでAch処 理 す る こ と で ウ イ ル ス が 排 泄 さ れ る こ と を 確 認 し た 。
3. 上 記 の マ ウ スPrV潜 伏 感 染 モ デ ル にAchま た は デ キ サ メ 、 サ ゾ ン を 腹 腔 内 投 与 す る こ と で ウ イ ル ス が 排 泄 さ れ る こ と をin vivoで も 確 認 し た 。
4.上 記 の マ ウ スPrV潜 伏 感 染 モ デ ル を 拘 束 ス ト レ ス 、 移 動 ス ト レ ス 、 寒 冷 ス ト レ ス と . い っ た 自 然 状 態 の ス ト レ ス に 暴 露 し た と こ ろ 、 い ず れ の ス ト レ ス で も ウ イ ル ス の 再 活 性 化 が 起 こ る こ と を 確 認 し た 。
5.ウ イ ル ス の 活 性 化 と 免 疫 系 サ イ ト カ イ ン と の 関 係 を 明 ら か に す る た め に 、 ス ト レ ス に 関 わ っ て い る 免 疫 系 サ イ ト カ イ ン 、 イ ン タ ー 口 イ キ ン −1 (11‑1)p、IL−6、 腫 瘍 壊 死 因 子‑aの 動 態 に つ い て 解 析 を 行 っ た 。 上 記 マ ウ ス 潜 伏 感 染 モ デ ル にAchを 腹 腔 内 投 与 し 、 血 清 及 び 脳 乳 剤 中 の サ イ ト カ イ ン 量 を 測 定 し た と こ ろ 、IL−6、IL−1ロ が ウ イ ル ス 排 泄 に 先 立 っ て 上 昇 し た 。 し か し 潜 伏 感 染 マ ウ ス の 三 叉 神 経 節 をIL−6ま た はIL―1存 在 下 で 培 養 し て もPrVの 活 性 化 は 認 め ら れ な か っ た 。 以 上 の こ と か らAchに よ っ てIL−iB、ILー6 の 産 生 は 亢 進 す る も の の 、 ウ イ ル ス の 活 性 化 は こ れ ら の サ イ ト カ イ ン だ け で は 説 明 で き な い こ と が 判 明 し た 。
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