新進研究者 Research Notes
日本科学哲学会
科学基礎論学会
第1号 (2018 年)
公理の有用性と加速定理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 今村 拓万 1 人工知能の自律性について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 山崎 かれん 8 精神医学における生態学的アプローチ ― Thomas Fuchs の論考から ― ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 三笠 雅也 17 毒パズルと脳走査装置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 佐藤 広大 26 内的確率測度とフィルタリングアルゴリズムによる整合測度の構成 ・・・・・・ 上田 恭平 35 存在論の方法としての Truthmaker 理論はどのような条件を満たすべきか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 吉田 佑介 43 心の哲学と神経科学における心脳問題と心的因果の取り扱いに関する論考 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 櫻井 圭介 52 理由のために行為することと実践的推論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 中根 杏樹 61 認知的侵入可能性と認識的影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 原田 夏樹 70 真理の表現的機能と反映原理について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 林 大智 78 セラーズが言う自己についての「報告」とはどのようなものか? ・・・・・・・・・ 過能 洋平 86 状況づけられたエージェントの推論活動 ― アブダクションと常識推論をめぐって ― ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 森 悠貴 93 様相の形而上学における傾向性主義を退ける ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 大畑 浩志 101 死の害のタイミング問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 佐々木 渉 110 行為の合理化の論理構造 ― 主たる理由の時間的・様相的特性を巡って ― ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 笹本 もも 119 部分構造論理における埋め込み定理に対する相意味論的アプローチ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 田中 大海 127 Contemporary Debates on Possible Worlds ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 遠藤 進平 135 グラウンディング概念の理解における実体の役割について ・・・・・・・・・ 後藤 真理子 144 ダメット意味理論再考 ― 実践能力としての理解 ― ・・・・・・・・・・・・・・・・ 三上 温湯 153JAPANESE STUDENT RESEARCH NOTES OF PHILOSOPHY OF SCIENCE
Philosophy of Science Society, Japan
Japan Association for Philosophy of Science
No. 1Contents
Takuma Imamura: Usefulness of Axioms and Speedup Theorem ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 Karen Yamazaki: On Autonomy of Artificial Intelligence ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 Masaya Mikasa: Ecological Approach in psychiatry: From Thomas Fuchs's studies ・・・・・・・・17 Kodai Sato: The Toxin Puzzle and The Brain Scanner ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 Kyohei Ueda: Construction of Coherence Measure from Internal Probabilistic Measure
and Filtering Algorithm ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 Yusuke Yoshida: What Is Required for Truthmaker Theory to Be a Methodology of
Ontology? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 Keisuke Sakurai: Discussion on mind-brain problem and mental causation in philosophy
of mind and neuroscience ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 Anju Nakane: Acting for Reasons and Practical Reasoning ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61 Natsuki Harada: The Cognitive Penetrability and Epistemic Influence ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70 Daichi Hayashi: On the Expressive Function of Truth and Reflection Principles ・・・・・・・・・・・78 Kano Yohei: What kind of “report” about self argued by Sellers? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86 Yuki Mori: Reasoning activities of a situated agent: Abduction and Commonsense
reasoning revisited ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・93 Hiroshi Ohata: Dismissing the Dispositionalism in Metaphysics of Modality ・・・・・・・・・・・・ 101 Wataru Sasaki: The Timing Puzzle of Death's Badness ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・110 Momo Sasamoto: How to analyze rationalizations to actions: a proposal to some
extension of modal logic ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・119 Hiromi Tanaka: A Phase Semantic Approach to Embedding Theorems in Substructural
Logic ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・127 Shinpei Endo: Three layers of counterarguments to concrete modal realism ・・・・・・・・・・・・・・135 Mariko Goto: On the role of a substance in understanding the concept of grounding ・・・・・144 Onyu Mikami: Dummett’s Program of Theory of meaning revisited: On Understanding
公理の有用性と加速定理
Usefulness of Axioms and Speedup Theorem
今村 拓万
Abstract
Usefulness is one of the most useful criteria when choosing a new axiom. This criterion is not based on mathematical platonism, so is acceptable for both mathematical formalists and anti-platonists. In this paper, I argue that this criterion is void when interpreting the term “useful” as “shortening the proofs”. The Ehrenfeucht–Mycielski speedup theorem plays an essential role in my argument. I briefly discuss the implication of my argument to mathematical platonism.
1 研究テーマ
G¨odel [4] は, 数学の基礎理論足り得る如何なる公理系も, その内には証明も 反証も出来ない文を持つことを示した. Post はこの定理について次のように 述べている (Post [11, p.295]):
The conclusion is unescapable that even for such a fixed, well de-fined body of mathematical propositions, mathematical thinking is, and must remain, essentially creative.
A を何らかの数学の基礎となる公理系とすれば, G¨odel の定理より, A からは 証明も反証も出来ない文 (独立な文) φ が存在する. 我々は A に新たに φ ま たは¬φ を公理として付け加えることで, より強い公理系 A′ を得ることがで きる. A′ も G¨odel の定理の前提条件を満たすので, A′ からは独立な文 ψ が 存在する. 我々は再び ψ または¬ψ の何方を公理として採用するかの選択を 迫られる. この手続きはいくらでも繰り返すことが出来, 決して完全な公理系 に到達することはない. この公理選択という「創造的」営みは数学基礎論の ひとつの役割であろう. 本研究のテーマは公理選択の合理的基準である. すな わち, 公理選択の営みはどのように進められるべきか, そのような指針は設定 可能なのか, といった問いを扱う. 2 研究の背景・先行研究 いま A を数学の基礎となる公理系とする. G¨odel の定理より, このような 体系は必ず証明も反証も出来ない文 φ を持つ. A に φ または¬φ を付け加 えることでより強い公理系 A′ を作ることができる. この際, どちらの公理を 付け加えるのがより良いかを判断する基準を考えたい. もし我々が A に関す る数学的実在論にコミットするならば, A は数学的実体に関する真理を記述 1
する体系として意図されたものであるから, 付け加える公理は数学的実在の世 界に於いて真であるべきである. これが公理選択の指針となる. 次に反実在論 的な立場から公理の良し悪しを判断する基準を考えよう. 既存の体系と新た な公理が無矛盾であるか, という整合主義的な判断基準は, この状況では何も 教えてくれない. A に φ と¬φ のどちらを付け加えても無矛盾だからである. 本紙では, 実在論にコミットしない公理選択の基準として, どちらの公理の追 加がより有用であるか, というプラグマティックな基準を検討する. Zermelo–Fraenkel 集合論 ZF に選択公理 AC を追加することを考えよう. G¨odel と Cohen が証明したように, AC は ZF に於いて証明も反証もできな い命題である.1 ZF は現代数学を展開するには不十分であり, AC がほぼ必須 といってもよい状態になっている.2 例えば, 超準解析を展開する為には, ZF では不充分であることが知られている.3 ZF に AC を付け加えることによっ て初めて超準解析が展開できるようになるということである. AC はこのよ うな有用性によって良い公理であるということができる. 他方で AC の否定 ¬AC が数学に於いて有用な場面はあまり知られていない.4 したがって, 有用 性を基準にするならば,¬AC ではなく AC を追加するのが良い, と言い得る. 3 筆者の主張 上の議論を完全にする為には「有用」とは何かということを明らかにしな ければならない. そのひとつの基準として「既存の定理の証明がより簡単に なるか」がある. ZF に於ける AC はこの基準を満たしているように思われ る. 例えば, ZF の定理であって, 超準解析を (したがって隠伏的に AC を) 用 いることでより簡単に証明できるものが, 多数知られている. この他にも AC が有効な場面は少なくない. 本紙の目的はこの基準が実際には空虚であるこ とを示すことである. 3.1 Ehrenfeucht–Mycielski の加速定理 計算可能性理論の基本的な概 念を用いる (Griffor [5] を参照). いま計算的枚挙可能 (c.e.) な公理系 A に文 φ を追加した公理系 A + φ を考える. ただし A +¬φ は決定不可能であると 仮定する. 矛盾した公理系は決定可能であるから, A +¬φ は無矛盾である. すなわち φ は A で証明できない. したがって A + φ は A よりも真に強力な 公理系である. このとき新たに証明可能となる文はどれくらい豊富に存在す るであろうか. 次の定理はそのような文の集合が計算論的に非常に複雑であ ることを述べる. 補題 1. 任意の c.e. 公理系 A と文 φ に対して, A +¬φ が決定不可能ならば, NewThm (A, φ) ={ ψ | A ̸⊢ ψ ∧ A + φ ⊢ ψ } 2
は c.e. でない. 証明. 仮定より A +¬φ の定理集合 Thm (A + ¬φ) は co-c.e. でない. とこ ろが φ∨ ψ ∈ NewThm (A, φ) ⇐⇒ A ̸⊢ φ ∨ ψ ⇐⇒ A + ¬φ ̸⊢ ψ ⇐⇒ ψ /∈ Thm (A + ¬φ) .
したがって, もし NewThm (A, φ) が c.e. ならば, Thm (A +¬φ) は co-c.e. で
ある. これは不合理. ゆえに NewThm (A, φ) は c.e. でない.
公理系 A に於いて既に証明可能な文であっても, A + φ ではもっと簡単に 証明できる, ということが有り得る. 次の定理はそのような文が必ず存在し, さらにその簡単化の度合いを計算可能関数の範囲で自由に制御できることを 示す.
定理 2 (Ehrenfeucht and Mycielski [3]). 任意の計算可能公理系 A と文 φ に 対して, A +¬φ が決定不可能ならば, 任意の計算可能関数 r : N → N に対 して, 文 ψ が存在して, A⊢ ψ かつ r ∥ψ∥A+φ≤ ∥ψ∥A が成り立つ. ここで ∥φ∥A は A に於ける φ の証明図の複雑さ 5の最小値を表す. 証明. いまこの定理が成立しないと仮定する. すなわち, 任意の文 ψ に対して, A⊢ ψ =⇒ r ∥ψ∥A+φ>∥ψ∥A が成り立つ. 図形 Π に対して|Π| で Π の複雑さを表す. すると NewThm (A, φ) = { ψ∈ Thm (A + φ) ∀Π. |Π| < r ∥ψ∥A+φ → Π is not a proof of ψ in A }
より NewThm (A, φ) は c.e. である. これは前補題に反する.
例として r (x) = 2xの場合を考えてみよう. Ehrenfeucht–Mycielski の定理 より, A で証明可能なある文 ψ が存在して, 2∥ψ∥A+φ ≤ ∥ψ∥ Aが成り立つ. こ の最後の不等式は ∥ψ∥A+φ ≤ log2∥ψ∥A と同じことである. すなわち, φ を 公理として A に付け加えることによって, ψ の証明の複雑さが対数を取った 分だけ減少するわけである. r をより急増加な関数とすれば, それに応じて証 明の複雑さは急減少する. 一般に公理系 A とその拡大 A′ について「A で証 明できる文が A′ ではもっと簡単に証明できる」という形の定理を加速定理
(speedup theorem) という. Ehrenfeucht–Mycielski の定理は加速定理の典型 例である.
3.2 有用性条件の空虚性 以上の準備のもとで, 最初に述べた「有用性」の条 件が空虚であることを示す. A を数学の基礎となる公理系とする. より正確に いえば, A は無矛盾かつ計算可能な公理系であって, Robinson 算術を翻訳可能 であると仮定する. Rosser [12] はこのとき A が本質的決定不可能となること を示した. φ を A に於いて証明も反証もできない文とする. φ は A で証明さ れないので A+¬φ は無矛盾である. A は本質的決定不可能であるから A+¬φ は決定不可能である. ゆえに A と A + φ に対して Ehrenfeucht–Mycielski の 定理が適用できる. すなわち, A に於いて既に証明可能でありながら, A + φ に於いては遥かに簡単に証明できる, というような文が存在する. すなわち φ は有用である. ところがこの議論は A と A +¬φ に対しても通用する. すな わち φ だけではなく¬φ もまた有用である. したがって「既存の定理の証明 がより簡単になるか」という有用性の条件は空虚である. Ehrenfeucht–Mycielski の定理がその存在を教えてくれる文は, 数学的には 無内容であるかもしれない. そこで, 有用性の条件を「数学的な内容を持つ定 理の証明がより簡単になるか」といった風に変更すれば, 上記の議論から逃 れられる. ただし「数学的な内容を持つ」とは何であるかという別の問題が 生じてくる. Arrow [1] の不可能性定理は, 非独裁制などの望ましい諸条件を 満たす社会的選択ルールが存在しないことを示す, 社会的選択理論の基本定 理である. これは一見すると数学的内容に乏しい定理のように思われるが, 実 際には, 有限集合上には非単項超フィルターが存在しないという, 集合論の定 理と本質的に同じことを述べているのである (Kirman and Sondermann [9]). この事実を鑑みれば, Arrow の定理もまた (超フィルターに関する定理と同様 に) 数学的な内容を持つものであることが分かる.6 これは次のことも示唆し ている. すなわち, ある命題が数学的な内容を持つものであるか否かは, それ を評価する主体の知識, さらには, その時代の数学の在り方や他の学問との関 係, といったものに依存する. 一見して数学的な内容を持たないように思われ る定理も, 数学やその周辺分野の発展によって, あるいはパラダイムの転換に よって, 数学的な内容を持つものであると再評価される可能性を秘めている, ということである. 再び ZF と AC を例にこの状況を説明しよう. AC によって証明が簡単化 される ZF の定理は, Ehrenfeucht–Mycielski の定理に訴えるまでもなく, 具 体的に挙げることが出来る. それらは解析学に於ける定理であったり, 位相 空間論に於ける定理であったりする. それらは数学的な内容を持つ. 他方で, Ehrenfeucht–Mycielski の定理がその存在を保証する,¬AC によって証明が簡 単化される定理は, 数学的な内容を持っている保証がないのである. したがっ 4
て, AC は有用であると言えるが,¬AC は有用であるとは言えない.7 しかし ながら, このような公理選択基準は永久不変のものではなく, 数学の有り様に 左右されるものである. 3.3 数学的実在論への影響 前節の議論は数学的実在論に対しても含意を齎 す. いま A を数学的実在の世界 W に於ける真理を記述する体系, φ を A に 於いて証明も反証も出来ない文とし, φ の W に於ける真偽を調べたい. そこ で, A に対して φ を公理として付け加えた場合と,¬φ を公理として付け加え た場合とを比較し, より良い公理を W に於いて真であると判断する. もちろ ん, これはアブダクションの形式を取っているから, 可謬的であり, 一般には 真理性を担保しない. さて, ここで「良い」という語を前節までの「有用」と 同じ意味に解釈するならば, 前節の議論より, A に於いて φ と¬φ はどちら も同様に良い公理となる. したがって φ の W に於ける真偽について何も知 ることが出来ないわけである. 4 今後の展望 第一に, 本紙の議論を科学的実在論にまで拡張することである. 通常, 検証し たい自然法則が与えられたとき, それが現象と矛盾せず, かつ現象をより良く 説明するならば, その物理法則は (近似的に) 真であると見做される (Harmann [6]). この場合には,「より良い説明」を「より簡単な説明」と同一視したとし ても, 本紙の議論をそのまま適用することは出来ない. 基礎となる科学理論が 加速定理の前提条件を満たすとは限らないからである. さらに, 仮に加速定理 の前提条件が満たされたとしても, 定理によって存在が保証せられる加速可能 な文が現象の記述になっている保証はない. したがって, 本紙の議論を科学的 実在論に適用する場合, 何らかの修正を必要とする. もしそのような修正が可 能ならば, これは Fraassen [14, p.146] による科学的実在論批判の議論を支持 する傍証となりうる. 第二に,「有用性」のより精密な概念規定を行い, 以って本紙で述べた空虚 性の問題を克服することである. これにより, 有用性に基づく公理選択の可能 性が理論的に保証される. 注 1選択公理の独立証明の詳細については Kunen [10] を参照.
2Howard and Rubin [7] には選択公理が本質的に関与する数学の諸定理が
豊富に記されている.
3ZF に超準解析の原理を追加した公理系 IST− は ZF よりも真に強くなる ことが知られている. より正確には ZF に BPI と呼ばれる選択公理の弱形を 追加した公理系 ZF + BPI の保存的拡大となる (Hrbacek [8]). 4ただし, このことは,¬AC を仮定した数学がよく研究されていないとい う, 非本質的な理由によるものであるかもしれない. 実際, 1960 年代より, AC と矛盾する (したがって¬AC を導く) 公理である決定性公理 AD が研究され, その有用性が徐々に明らかになってきている. 例えば田中 [15] を参照.
5ここで証明図の複雑さの尺度は static complexity measure (Blum [2]) を
成すものであれば何でもよい. 最も簡単な例としては証明図のコードがある. 6なお, Arrow の定理は Brouwer の不動点定理とも同値であることが知ら れている (Tanaka [13]) が, これらの間のつながりは, 超フィルターに関する 定理との間のつながりほどには直接的ではない. 7これもまた¬AC を仮定した数学の研究が不十分であることに起因する ものである可能性は否めない. 数学的に内容のある定理の中から¬AC によっ て簡単化されるものが見つかることは有り得る. 文献
[1] Kenneth J. Arrow. Social Choice and Individual Values. John Wiley & Sons, 1951.
[2] Manuel Blum. On the Size of Machines. Information and Control, 11(3):257–265, 1967.
[3] Andrzej Ehrenfeucht and Jan Mycielski. Abbreviating proofs by adding new axioms. Bulletin of the American Mathematical Society, 77(3):366– 367, 1971.
[4] Kurt G¨odel. ¨Uber formal unentscheidbare S¨atze der Principia Math-ematica und verwandter Systeme I. Monatshefte f¨ur Mathematik und Physik, 38(1):173–198, 1931.
[5] Edward R. Griffor, editor. Handbook of Computability Theory. Elsevier, 1999.
[6] Gilbert H. Harmann. The inference to the best explanation. The
Philo-sophical Review, 74(1):88–95, 1965.
[7] Paul Howard and Jean E. Rubin. Consequences of the Axiom of Choice. American Mathematical Society, 1998.
[8] Karel Hrbacek. Axiom of Choice in nonstandard set theory. Journal of
Logic & Analysis, 4(8):1–9, 2012.
[9] Alan P. Kirman and Dieter Sondermann. Arrow’s theorem, many agents, and invisible dictators. Journal of Economic Theory, 5(2):267– 277, 1972.
[10] Kenneth Kunen. Set Theory: An Introduction to Independence Proofs. North Holland, 1983.
[11] Emil L. Post. Recursively enumerable sets of positive integers and their decision problems. Bulletin of the American Mathematical Society, 50(5):284–316, 1944.
[12] Barkley Rosser. Extensions of some theorems of G¨odel and Church.
The Journal of Symbolic Logic, 1(3):87–91, 1936.
[13] Yasuhito Tanaka. On the equivalence of the Arrow impossibility the-orem and the Brouwer fixed point thethe-orem. Applied Mathematics and
Computation, 172(2):1303–1314, 2006.
[14] Bas C. van Fraassen. Laws and Symmetry. Oxford University Press, 1989.
[15] 田中 尚夫. 決定性公理に関する最近までの諸結果について. 数学, 29(1):53– 64, 1977.
(京都大学)
新進研究者 Research Note 1 新 進 研 究 者 Research Note
人 工 知 能 の 自 律 性 に つ い て
山 﨑 か れ ん AbstractCan artificial intelligence be autonomous like human agents ? In this article, I adopt Frankfurt’s and Bratman’s views of “personal autonomy” as possessed by human agents and examine whether BDI agent can have
it. BDI agent is an artificial agent in a field of artificial intelligence studies. The architecture of BDI agent focuses on mental states of human agents. I point out that BDI agent doesn’t hold some features of
personal autonomy, but it can be said that it will have “self-governing policy” which Bratman takes as one important element of personal
autonomy. (1) 研 究 テ ー マ 自 ら の 行 為 を 自 ら 決 定 す る と い う 行 為 者 と し て の 人 間 が 持 つ 自 律 性 を 、 人 工 的 な エ ー ジ ェ ン ト が 持 ち う る か ど う か 検 討 す る 。 (2) 研 究 の 背 景 ・ 先 行 研 究 昨 今 な に か と 話 題 に の ぼ る 人 工 知 能 に つ い て の 言 説 の 内 で は 、「 自 律 性 」が 一 つ の 標 語 と な っ て い る 。 人 工 知 能 が 自 律 性 を 獲 得 す る こ と で 人 間 に よ る 制 御 が 効 か な く な る こ と が 不 安 だ と か1、人 工 知 能 に 汎 用 性 を 持 た せ る た め に は 自 律 性 を 付 与 す る こ と が 効 果 的 だ と か 言 わ れ て い る ( 栗 原 ほ か, 2017)。 し か し 、 人 工 知 能 の 研 究 開 発 の 現 場 や 、 人 工 知 能 開 発 に つ い て 言 及 す る 研 究 を 見 て も 、 自 律 性 と い う 言 葉 の 使 用 は 多 岐 に わ た る 。 そ う し た 状 況 を 指 摘 し て い る 研 究 と し て 、 認 知 科 学 者 で あ る ト ム ・ フ レ ー ゼ ら の も の が あ る 。 フ レ ー ゼ ら は 、 人 工 生 命 研 究2 に お い て 適 切 な 自 律 性 の 形 を 提 案 す る た め に 、 ロ ボ テ ィ ク ス や 人 工 知 能 研 究 、 人 工 生 命 研 究 を 参 照 し て 人 工 的 な 主 体 を 構 築 す る 際 の 自 律 性 を 分 析 し て い る 。 フ レ ー ゼ ら は 、 環 境 と の 間 で の 安 定 し た 、 柔 軟 な 相 互 作 用 能 力 か ら 特 徴 づ け ら れ る 「 行 動 の 自 律 性 」 と 、 オ ー ト ポ イ エ ― シ ス 研 究 的 な 伝 統 か ら 特 徴 づ け ら れ る 「 構 成 的 な 自 律 性 」 と い う 二 つ の 区
新進研究者 Research Note 2 別 が つ け ら れ る こ と を 指 摘 し た 。 行 動 の 自 律 性 は 、 環 境 と 相 互 作 用 し つ つ 、 初 期 の 設 計 や 行 動 時 の 持 続 的 な 介 入 に よ る こ と な く 動 作 す る 能 力 や 、 さ ら に そ の 上 で 目 標 を 作 り 達 成 す る 能 力 、 ま た 行 動 の 柔 軟 性 が 高 い と い う こ と な ど か ら 特 徴 づ け ら れ る 。 一 方 で 構 成 的 な 自 律 性 は 、 自 己 創 出 性 な ど か ら 特 徴 づ け ら れ る 生 命 シ ス テ ム に 注 目 し た も の で 、 本 来 的 に は 生 物 に し か 達 成 し え な い 、 非 常 に 制 約 の 大 き い 自 律 性 概 念 だ と 指 摘 さ れ て い る 。 今 回 は 前 者 の よ う な 、 主 体 の 動 作 に 主 眼 を 置 い た 自 律 性 を 主 題 と し た い 。 動 作 す る 主 体 、 あ る い は 行 為 者 を 人 工 的 に 構 築 す る こ と や 、 そ う し て 構 築 し た 人 工 的 な 行 為 者 を 用 い て 研 究 を 行 う 人 工 知 能 研 究 の 領 域 を 「 エ ー ジ ェ ン ト 研 究 」 と い う 。 エ ー ジ ェ ン ト 研 究 に は い く つ か の 異 な る 領 域 が あ る が 、 そ の 中 に 、 世 界 の 中 で 環 境 に 応 答 し 、 判 断 し て 行 動 す る エ ー ジ ェ ン ト を 作 る 研 究 が あ る 。 エ ー ジ ェ ン ト の 例 と し て は 、 現 実 世 界 で 活 動 す る 知 能 ロ ボ ッ ト や 、 仮 想 的 な 世 界 で 行 動 す る ゲ ー ム の キ ャ ラ ク タ ー が 挙 げ ら れ る 。 特 に 自 律 性 を 強 調 し た も の を 自 律 エ ー ジ ェ ン ト と も 言 う が 、 こ う し た エ ー ジ ェ ン ト に つ い て 言 わ れ る 自 律 性 を 詳 し く 見 て み よ う 。 ゲ ー ム の プ ロ グ ラ マ で あ る マ ッ ト・バ ッ ク ラ ン ド は 、「『 自 律 エ ー ジ ェ ン ト 』 と い う 用 語 を 、 あ る 程 度 に 自 律 的 な 動 作 を 遂 行 す る、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、よ う な エ ー ジ ェ ン ト に 関 し て 用 い る 。 例 え ば 、 道 中 で 壁 に 出 く わ す と か い う よ う な 予 期 せ ぬ 状 況 が 起 き た と き 、 自 律 エ ー ジ ェ ン ト は そ れ に 対 し て 反 応 し 、 適 切 に 動 作 を 生 成 す る、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 こ と が で き る 」( 傍 点 は 筆 者 ) と 著 し て い る 。 人 工 知 能 に 関 す る 哲 学 的 論 考 を 多 く 行 う ヴ ィ ン セ ン ト ・ ミ ュ ラ ー は 、 主 体 の 行 動 の 柔 軟 性 に 着 目 し 、 そ れ を 与 え る た め に 自 律 性 が 求 め ら れ る と し た 。 ミ ュ ラ ー は 、 自 律 的 な 主 体 に 関 し て 、「 主 体 X は 、 X が 主 体 Y か ら の 入 力 な し に 目 的 を 追 い 求 め る 程 度 に お い て 、Y か ら 自 律 的 で あ る 」 と 特 徴 づ け る 。 人 間 の 行 動 決 定 過 程 に つ い て の マ イ ケ ル ・ ブ ラ ッ ト マ ン の 分 析 を も と に 、 主 体 の 心 的 状 態 に 焦 点 を 当 て て 自 律 エ ー ジ ェ ン ト を 構 築 し よ う す る 研 究 も 行 わ れ て い る 。BDI モ デ ル に 基 づ く BDI エ ー ジ ェ ン ト で あ る 。こ の 研 究 で は 自 律 エ ー ジ ェ ン ト と は 、 人 間 と 同 じ よ う に 目 的 を 持 ち 、 そ れ を 達 成 す る 方 法 を 考 え て 、 そ の た め に 行 動 す る よ う な エ ー ジ ェ ン ト だ と さ れ て い る 。BDI モ デ ル は 、 心 的 状 態 の モ デ ル と そ の 時 間 的 変 化 を 用 い て 、 複 数 の 目 的 を 並 行 し て 扱 う こ と を 可 能 に す る こ と で 、 人 間 の 合 理 的 な 行 動 決 定 を 模 倣 し 、 自 律 エ ー ジ ェ ン ト を 実 現 し よ う と す る 。 心 的 状 態 の 中 で も 情 動 が 行 動 を 動 機 づ け る こ と に 注 目 し 、 ロ ボ ッ ト に 情 動 シ ス テ ム を 与 え る こ と で 自 律 的 な 行 動 生 成 を 目 指 す 研 究 も あ る ( 錦 田, 2016 な ど ) 。こ う し た 研 究 で は 、ロ ボ ッ ト の 情 動 を 作 り 出 す こ と で 、ロ ボ ッ ト が
新進研究者 Research Note 3 自 ら 考 え 、 自 ら の 意 志 に よ っ て 行 動 す る よ う に な り 、 そ れ こ そ が 自 律 性 の 実 現 だ と 考 え ら れ て い る 。 こ の よ う に し て 、 人 工 的 な 行 為 者 の 自 律 性 を 見 て い く と 、 自 律 性 に つ い て さ ら に 二 つ の 観 点 が あ る こ と が 見 て 取 ら れ る 。 一 つ め の 観 点 は 、 そ の 主 体 の 行 動 が 環 境 に 対 し て 柔 軟 で あ り 、 外 部 か ら の 制 御 を 受 け ず に ふ る ま う と い う 点 か ら 自 律 性 を 言 う も の で あ る 。 た と え ば 、 バ ッ ク ラ ン ド は 自 律 的 に 動 作 す れ ば 、 自 律 エ ー ジ ェ ン ト だ と し た 。 ミ ュ ラ ー も 、 外 部 か ら の 入 力 な し に 目 的 を 追 う と い う と こ ろ に 自 律 性 を 定 め た 。 二 つ め の 観 点 は 、 そ の 主 体 の ふ る ま い が 、 ま さ に そ の 主 体 自 身 の 欲 求 や 信 念 、 意 図 、 目 的 選 択 と い っ た 心 的 状 態 に よ っ て 生 み 出 さ れ て い る と い う 点 か ら 自 律 性 を 言 う も の で あ る 。BDI エ ー ジ ェ ン ト は 人 間 の 心 的 状 態 に 着 目 し て い た 。 ま た 、 情 動 モ デ ル を 与 え る こ と で 自 律 的 な 人 工 物 を 作 る と い う 構 想 も 、 情 動 が 行 動 生 成 の た め の 主 体 の 思 考 や 意 思 を 生 み 出 す こ と に 期 待 し て い る 点 で 、 情 動 や 思 考 、 意 思 と い っ た 心 的 状 態 が 自 律 性 に は 不 可 欠 だ と 考 え て い る だ ろ う 。 つ ま り 、 こ の 二 つ の 自 律 性 の 違 い は 、 自 律 エ ー ジ ェ ン ト の 自 律 性 を 主 体 の ふ る ま い か ら 捉 え る か 、 そ れ と も 主 体 の 心 的 状 態 か ら 捉 え る か と い う 観 点 の 違 い で あ る 。 以 降 で は 、 上 で 挙 げ た う ち の 二 つ め の 観 点 を 問 題 に す る 。 哲 学 に は 、 行 為 者 た る 人 間 の 重 要 な 特 性 と し て 自 律 性 を 分 析 し た 「 人 格 的 自 律 性(Personal Autonomy)」と い う 考 え が あ る 。粗 く 言 う と 、人 格 的 自 律 性 で は 「 自 ら の 行 為 を 自 ら の 欲 求 や 信 念 な ど に よ っ て 決 定 で き る 」 と き に そ の 行 為 者 は 自 律 し て い る と さ れ る 。 つ ま り 人 格 的 自 律 性 に よ る と 、 行 為 者 の 心 的 状 態 の あ り 方 が そ の 自 律 性 を 実 現 す る の だ 。 先 に 挙 げ た 二 つ め の 観 点 を と る 上 で 、 人 格 的 自 律 性 は 人 間 と い う 行 為 者 の 自 律 性 に つ い て の 適 切 な 分 析 だ と 考 え ら れ よ う 。 人 工 知 能 の 開 発 目 標 に は 、 「 人 間 の よ う な 」知 的 ふ る ま い を す る 人 工 物 を 作 る 、と い う も の が あ る3。そ の た め に 、 人 間 と い う 行 為 者 の 一 つ の 特 徴 と し て 人 格 的 自 律 性 が あ る と す る と 、 そ れ を 人 工 知 能 あ る い は 人 工 的 な 行 為 者 に 持 た せ る と い う こ と が 考 え ら れ て も よ い だ ろ う 。 先 に 挙 げ た 自 律 エ ー ジ ェ ン ト の 自 律 性 に つ い て の 二 つ め の 観 点 は 、 エ ー ジ ェ ン ト の 自 律 性 を 構 築 す る た め の 手 段 と し て 、 人 格 的 自 律 性 が 要 求 す る よ う な 心 的 状 態 を エ ー ジ ェ ン ト に 持 た せ な け れ ば な ら な い と 考 え る 、 エ ー ジ ェ ン ト 設 計 上 の 立 場 で あ る と も 言 え る 。 で は 、 こ の 立 場 で 設 計 さ れ た エ ー ジ ェ ン ト は 、 人 格 的 自 律 性 と し て 分 析 さ れ て い る 自 律 性 を 本 当 に 持 つ こ と が で き る の だ ろ う か 。 こ こ か ら は 、 人 格 的 自 律 性 を 人 工 的 な 行 為 者 が 持 ち う る か ど う か を 問 う て い く4。
新進研究者 Research Note 4 (3) 筆 者 の 主 張 ま ず は 、 問 題 に す る 人 格 的 自 律 性 が ど の よ う な も の か を 明 ら か に し て お き た い 。 人 格 的 自 律 性 の 議 論 は 1970 年 代 の ハ リ ー ・ フ ラ ン ク フ ァ ー ト や ジ ェ ラ ル ド ・ ド ウ ォ ー キ ン の 論 考 に 端 を 発 す る 。 こ こ で は 、 そ の 後 の 議 論 に 広 範 な 影 響 を 与 え る フ ラ ン ク フ ァ ー ト の 議 論 を 取 り 上 げ 、 そ こ か ら 人 格 的 自 律 性 の 骨 子 を 理 解 す る 。 そ し て 、 フ ラ ン ク フ ァ ー ト の 不 足 を 補 う も の と し て ブ ラ ッ ト マ ン の 説 を 導 入 し 、 今 回 検 討 す る 人 格 的 自 律 性 の 概 念 を 明 確 に し た い 。 フ ラ ン ク フ ァ ー ト に よ る と 、 人 間 は な に か を す る / し な い と い っ た こ と を 欲 す る よ う な 「 一 階 の 欲 求 」 に 対 し て 、 そ の 欲 求 を 持 つ こ と が よ い の か ど う か を 反 省 的 に 評 価 す る 態 度 を 持 つ よ う な 行 為 者 で あ る 。 こ の 反 省 的 な 自 己 評 価 を 行 う 心 的 状 態 は 「 二 階 の 欲 求 」 と も 呼 ば れ る 。 そ し て 、 そ の 二 階 の 欲 求 の う ち 、 あ る 一 階 の 欲 求 が 自 ら の 意 志 に な る ( = 実 際 に 行 為 を 引 き 起 こ す ) こ と を 望 む 二 階 の 欲 求 の こ と を 「 二 階 の 意 欲 」 と 呼 び 、 フ ラ ン ク フ ァ ー ト は 二 階 の 意 欲 を 持 つ も の を 人 格 と し て 認 め た 。 ま た 、 二 階 の 意 欲 が 成 立 し て い る 状 態 を 、 そ の 人 が 一 階 の 欲 求 に 同 化 し て い る と も 言 う 。 こ の 立 場 は 高 階 の 心 的 状 態 に よ る 自 己 統 制 の 仕 組 み を 明 ら か に す る こ と で 自 律 性 の 成 立 を 説 明 し 、 階 層 的 ア プ ロ ー チ と 呼 ば れ て 広 く 影 響 を 与 え て い る 。 し か し 一 方 で 、 単 に 欲 求 の 階 層 的 な 構 造 か ら 自 律 性 を 説 明 す る の で は 、 高 階 の 欲 求 も 単 な る 欲 求 に し か す ぎ な い の で 、 そ れ だ け で は 行 為 者 が 一 階 の 欲 求 を 支 持 す る こ と を 保 証 す る 権 威 を 持 ち え な い だ ろ う 、と い う 問 題 が 起 こ る 。 フ ラ ン ク フ ァ ー ト は そ う し た 問 題 を 避 け る た め に 、 た だ 二 階 の 意 欲 が 一 階 の 欲 求 を 欲 す る と い う だ け で は な く て 、 そ の 人 が 二 階 の 意 欲 を 自 ら の も の と し て 受 け 入 れ る こ と も 必 要 だ と 付 け 足 し た 。 こ れ を 満 足 と 呼 び 、 行 為 者 が 一 階 の 欲 求 を 欲 す る 二 階 の 意 欲 に つ い て 反 省 を 行 っ た あ と も な お 、 そ の 二 階 の 意 欲 を 変 更 す る と い う 気 が 起 こ ら な い と き に 、 そ の 二 階 の 意 欲 に 満 足 し て い る と 言 わ れ る 。 そ し て そ の よ う に 二 階 の 意 欲 に 満 足 し て い る と き に 、 行 為 者 は 一 階 の 欲 求 に 同 化 し て い る と 考 え る の で あ る 。 し か し 、 ブ ラ ッ ト マ ン は こ の よ う な フ ラ ン ク フ ァ ー ト の 提 案 で は 十 分 で は な い と 考 え 、 そ の 論 考 を さ ら に 発 展 さ せ る 形 で 分 析 を 行 う 。 ブ ラ ッ ト マ ン に よ る と 、 自 律 的 な 行 為 者 の 特 徴 と し て 「 計 画 す る こ と 」 が あ り 、 計 画 に よ っ て 複 数 の 時 点 に ま た が る 行 為 の 組 織 的 な 統 一 が 可 能 に な る 。 人 間 は 時 間 的 な 広 が り の 中 で 活 動 す る 社 会 的 な 行 為 者 だ が 、 計 画 を 持 つ こ と で 行 為 の 直 前 に そ の 手 段 に つ い て 考 え る 必 要 が な く な り 、 ま た 個 人 内 部 で の 活 動 の 調 整 と 他 人 と の 間 の 活 動 の 調 整 が 可 能 に な る の だ 。 そ し て ブ ラ ッ ト マ ン は 、 計 画 を 構 成 す る 一 つ の 要 素 と し て 、「 意 図 」と い う 心 的 状 態 に 、あ る 重 要 な 独 自 の 役 割
新進研究者 Research Note 5 を 与 え て い る 。 こ の よ う な 意 図 は 比 較 的 特 定 さ れ た 状 況 に お い て あ る 種 の 仕 方 で 行 為 す る と い う 、行 為 に 対 し て の コ ミ ッ ト メ ン ト で あ る 。意 図 の 中 に は 、 あ る タ イ プ の 状 況 が 生 じ る た び に 一 定 の 行 為 を 行 う こ と ( 車 に 乗 る と き は シ ー ト ベ ル ト を 締 め る 、 と か ) に コ ミ ッ ト す る 、 よ り 一 般 的 な 意 図 が あ る 。 こ れ は 「 方 針 」 と 呼 ば れ る 。 こ の よ う な 方 針 は 、 行 為 に 関 す る も の か ら 一 階 の 欲 求 に 関 す る も の へ と 拡 張 さ れ 、 一 階 の 欲 求 に 関 す る も の は 特 に 「 自 己 統 制 的 方 針 」 と 呼 ば れ る 。 ブ ラ ッ ト マ ン は 自 己 統 制 的 方 針 の 例 と し て 、 チ ョ コ レ ー ト の 誘 惑 に 負 け な い よ う に し よ う 、 と か 、 陽 気 で あ ろ う と す る こ と に 努 め よ う 、 と い っ た こ と を 挙 げ て い る 。 自 己 統 制 的 方 針 は 、 実 践 的 推 論 に お い て あ る 欲 求 を 行 為 の 理 由 と し て 扱 う こ と を 可 能 に す る も の で あ り 、 こ の こ と が 欲 求 に 対 す る 行 為 者 の 支 持 を 意 味 す る の で あ る 。 そ し て 、 ブ ラ ッ ト マ ン は こ こ に 「 満 足 」 に つ い て の 彼 な り の 考 察 を 組 み 込 む 。 あ る 人 が 持 つ 自 己 統 制 的 方 針 に 、 異 議 申 し 立 て を す る 別 の 自 己 統 制 的 方 針 が な い と い う こ と が 、 そ の 人 が 自 己 統 制 的 方 針 に 対 し て 満 足 し て い る と い う 状 態 で あ る 。 行 為 者 が 自 分 の 満 足 す る 自 己 統 制 的 方 針 で 欲 求 を 肯 定 的 に 評 価 し 、 そ の 欲 求 を 実 践 的 推 論 に お け る 行 為 の 理 由 と し て 扱 う こ と で 、 そ の 自 己 統 制 的 方 針 が そ の 欲 求 に 対 す る 行 為 者 の 支 持 を 保 証 す る 権 威 に な る と 考 え る の だ 。 ブ ラ ッ ト マ ン 自 身 も ほ の め か し て い る が 、 他 に も 自 律 的 な 行 為 者 の 特 徴 づ け と し て 適 切 な 性 質 は あ る だ ろ う 。 し か し 、 少 な く と も こ こ ま で 見 て き た 考 察 は 自 律 的 な 行 為 者 が 持 つ 重 要 な 特 徴 を 捉 え て い る と 考 え ら れ よ う 。 以 下 で は 、 今 ま で 見 て き た フ ラ ン ク フ ァ ー ト と ブ ラ ッ ト マ ン の 考 察 か ら 、 人 格 的 自 律 性 を 考 え る 。 つ ま り 、 高 階 の 態 度 が 一 階 の 欲 求 を 反 省 す る と い う 欲 求 の 階 層 的 な 構 造 の 上 で 、 長 期 的 な 視 野 を 持 っ た 自 己 統 制 的 方 針 が 一 階 の 欲 求 を 肯 定 的 に 評 価 し 、 そ れ を 実 践 的 推 論 に お け る 行 為 の 理 由 と す る こ と で 自 己 統 制 的 な 行 為 を す る こ と の で き る 主 体 を 、人 格 的 自 律 性 を 有 す る 主 体 だ と 言 お う 。 人 工 的 な 行 為 者 は こ の よ う な 人 格 的 自 律 性 を 持 つ こ と が で き る の だ ろ う か 。 し か し 人 工 的 な 行 為 者 一 般 に つ い て 問 う こ と は 難 し い た め 、 こ こ で は 具 体 的 な 例 と し て 先 に も 挙 げ た BDI エ ー ジ ェ ン ト を 分 析 の 対 象 と す る 。 BDI エ ー ジ ェ ン ト は 、 ブ ラ ッ ト マ ン の 意 図 と 計 画 に つ い て の 論 考 を 参 考 に し 、 人 間 の 心 的 状 態 に 焦 点 を 当 て て エ ー ジ ェ ン ト の 行 為 を モ デ ル 化 し た BDI モ デ ル に 基 づ く も の で あ り 、 そ の 意 味 で も こ こ で の 分 析 対 象 と し て 興 味 深 い 。 ブ ラ ッ ト マ ン は 、 人 間 が 合 理 的 に 行 為 す る と き に は 、 信 念 (Belief)、欲 求 (Desire)、 意 図 ( Intention) と い う 三 つ の 心 的 状 態 が 深 く 関 与 し て い る と 考 え た 。BDI モ デ ル は そ の 分 析 を 下 敷 き に し て 自 律 エ ー ジ ェ ン ト を 構 築 し よ
新進研究者 Research Note 6 う と す る 、 工 学 的 な 設 計 指 針 で あ る 。BDI エ ー ジ ェ ン ト は 工 学 的 な モ デ ル 化 を 経 て 実 現 さ れ た 三 つ の 心 的 状 態 と そ の 時 間 的 変 化 を 反 映 さ せ て 意 思 決 定 を 行 う 。特 に BDI エ ー ジ ェ ン ト は 自 ら 欲 求 を 持 た な い た め 、BDI モ デ ル に お け る 欲 求 は 外 部 か ら 与 え ら れ る 目 標 と な っ て い る 。 BDI エ ー ジ ェ ン ト の と る 動 作 は 、 次 の よ う に ま と め ら れ る5。 ① 与 え ら れ た 目 標 ( 欲 求 ) を 読 み 込 む 。 ② 実 践 的 推 論 に よ っ て 目 標 を 達 成 す る 手 段 を 定 め て 、 そ の 手 段 を 実 行 す る と い う 計 画 を 、 意 図 と し て 形 成 し 、 そ れ を 保 持 す る 。 ③ 環 境 に つ い て の 信 念 を 得 て 、実 行 の 前 提 と な る 条 件 が 満 た さ れ れ ば 、そ の 意 図 が 実 行 し よ う と し て い る 手 段 が 遂 行 さ れ る 。 ④ 意 図 は そ れ ら の 手 段 を 順 次 実 行 に 移 さ せ る 。 ま た そ の 手 段 が 、 BDI エ ー ジ ェ ン ト が 直 接 遂 行 で き な い 複 雑 な 動 作 で あ る 場 合 、 そ の 手 段 を 副 目 標 と し て 設 定 し 、 副 目 標 を 達 成 す る た め の 副 計 画 を 立 て る 。 ⑤ 一 度 形 成 さ れ た 意 図 は あ る 程 度 の 持 続 性 を も ち 、こ れ に よ っ て 、目 標 達 成 に 向 け た 動 作 が 一 貫 し た も の と な る 。 今 の と こ ろ BDI エ ー ジ ェ ン ト が 完 全 な 形 で の 人 格 的 自 律 性 を 持 ち え な い こ と は 明 ら か で あ る よ う に 思 わ れ る が 、 何 が 不 足 し て い る の か を 具 体 的 に 挙 げ て み た い 。 ま ず 、BDI エ ー ジ ェ ン ト に は 、 欲 求 を 自 ら 生 み 出 す 機 構 が 欠 け て い る こ と は 明 ら か で あ ろ う 。BDI エ ー ジ ェ ン ト に と っ て 欲 求 と は 、 設 計 者 や 使 用 者 か ら 与 え ら れ た 目 標 で あ り 、BDI エ ー ジ ェ ン ト は そ れ を 反 省 、 評 価 せ ず に 、そ の 目 標 を 達 成 す る た め の 行 為 を 実 行 し よ う と す る 。そ れ ゆ え 、BDI エ ー ジ ェ ン ト は 欲 求 を 反 省 、 評 価 す る よ う な 機 構 も 持 っ て い な い 。 た だ し 、BDI エ ー ジ ェ ン ト は 与 え ら れ た 目 標 を 達 成 す る た め の 手 段 を 講 じ て 、 そ の 手 段 を 実 行 す る 意 図 を 形 成 す る こ と で 、 人 間 の よ う な 自 律 的 な 行 為 者 の 一 側 面 を 捉 え る よ う に 作 ら れ て い る 。こ う し た 意 味 で は 、「 計 画 す る こ と 」 と い う 自 律 的 な 行 為 者 の 一 側 面 を 掬 う も の に な っ て い る 。 目 標 を 実 行 し よ う と い う 意 図 が 、BDI エ ー ジ ェ ン ト が 直 接 実 行 で き る 動 作 よ り も 複 雑 な 手 段 を 必 要 と す る と き 、BDI エ ー ジ ェ ン ト は そ の 手 段 の 実 行 自 体 を 新 た な 目 標( 副 目 標 )と す る 。そ し て BDI エ ー ジ ェ ン ト は そ の 副 目 標 を 達 成 す る た め に 、さ ら に 手 段 を 講 じ て そ れ を 実 行 す る と い う 意 図 を 形 成 す る 。 BDI エ ー ジ ェ ン ト が は じ め に 持 つ 目 標 ( 欲 求 ) は 、 設 計 者 や 使 用 者 か ら 与 え ら れ る 。 一 方 、 与 え ら れ た 目 標 を 達 成 す る た め の 副 目 標 は 、 自 ら 立 て た 目 標 ( 欲 求 ) で あ る 。 副 目 標 を 立 て る と き 、 そ こ で は そ の 副 目 標 が 与 え ら れ た
新進研究者 Research Note 7 目 標 を 達 成 す る た め の 適 切 な 目 標 た り う る か 、 と い う 評 価 や 反 省 が な さ れ る は ず で あ る 。 つ ま り 副 目 標 に 対 し て 、 そ れ が 自 分 に 与 え ら れ た 目 標 を 達 成 し よ う と い う 意 図 に 沿 う か も の な の か ど う か と い う 評 価 、反 省 が な さ れ る の だ 。 こ こ に お い て 、自 己 統 制 的 方 針 を BDI エ ー ジ ェ ン ト が 持 つ こ と に な る と 考 え て も よ い の で は な い か 。 長 期 に わ た る 複 雑 な 計 画 を 通 し て は じ め て 達 成 さ れ る よ う な 目 標 を BDI エ ー ジ ェ ン ト に 与 え た と き 、そ の 目 標 を 首 尾 よ く 遂 行 す る た め に 一 般 的 な 意 図 、 つ ま り 方 針 を 立 て な け れ ば な ら な い だ ろ う 。 こ の 方 針 の 中 に は 自 己 統 制 的 方 針 も 含 ま れ よ う 。 な ぜ な ら 、 自 分 の 立 て た 副 目 標 ( 欲 求 ) が 、 与 え ら れ た 目 標 を 実 現 す る た め に 適 切 で あ る か ど う か を 評 価 、 反 省 し 、 か つ 、 そ の 副 目 標 を 実 践 的 推 論 に お け る 行 為 の 理 由 と す る こ と を 可 能 に す る よ う な 方 針 ( す な わ ち 自 己 統 制 的 方 針 ) も 必 要 に な る と 考 え ら れ る か ら で あ る 。 こ の こ と か ら 、BDI エ ー ジ ェ ン ト は 今 回 定 め た 人 格 的 自 律 性 が 必 要 と す る 行 為 者 の 性 質 を 、 部 分 的 に で は あ る が 備 え て い る と 言 え よ う 。 (4) 今 後 の 展 望 BDI エ ー ジ ェ ン ト は 人 間 の よ う な 形 で 自 ら 欲 求 を 持 つ こ と が な い と い う 点 に お い て 、 今 回 定 め た 人 格 的 自 律 性 を 持 つ こ と に は な っ て い な い 。 こ の 問 題 に 対 処 す る た め の 研 究 と し て 二 つ の 方 向 を 考 え て い る 。 一 つ は 人 工 物 に 自 ら 欲 求 を 生 み 出 す 機 構 を 与 え る と い う 方 向 、 も う 一 つ は 自 ら 欲 求 を 持 た な い 人 工 物 に 自 律 性 を 認 め る と い う 今 回 と は 異 な る 形 の 自 律 性 概 念 の 構 築 を 行 う と い う 方 向 で あ る 。 特 に 後 者 に つ い て は 、 道 徳 的 責 任 を 帰 せ ら れ る 人 工 的 主 体 の 研 究 と し て 倫 理 学 の 方 面 か ら も 検 討 が 試 み ら れ て い る よ う な の で 、 そ う し た 知 見 を 取 り 入 れ つ つ 考 察 を 深 め た い と 考 え て い る 。 1 長 倉 (2017) な ど で 、こ う し た 不 安 を 煽 る 言 説 が 批 判 的 に 指 摘 さ れ て い る 。 2 人 工 生 命 研 究 は 、 ロ ボ ッ ト や ソ フ ト ウ ェ ア 上 の モ デ ル に よ っ て 、 生 命 シ ス テ ム を 人 工 的 に 模 倣 す る も の で あ る 。 人 工 知 能 と 人 工 生 命 と い う 双 方 の 研 究 領 域 は 、 ど こ ま で 共 通 し て い る か を 指 摘 す る こ と は 難 し い が 、 人 工 的 な 行 為 者 の 自 律 性 を 考 え る 上 で は フ ロ ー ス ら の 分 析 が 役 立 つ と 考 え ら れ る 。 3 中 島 (2013) な ど 、 こ の シ リ ー ズ で は 人 間 の 知 能 の 解 明 が 人 工 知 能 研 究 の 目 的 の 一 つ だ と 繰 り 返 し 述 べ ら れ て い る 。そ の た め に 、「 人 間 の よ う な 」知 的 ふ る ま い を す る 人 工 物 の 構 築 が 目 指 さ れ て い る と 考 え ら れ る だ ろ う 。 4 こ の 種 の 考 察 と し て 、た と え ば Schmidt et al. (2006) は 以 下 の 本 文 で 述 べ る よ う な フ ラ ン ク フ ァ ー ト 的 な 欲 求 の 階 層 構 造 を 人 工 知 能 が 持 つ か ど う か を 問 う て い る 。
新進研究者 Research Note
8
5 新 出 (2010) の ま と め を 参 考 に し た 。
(5) 主 要 参 考 文 献
Bratman, Michael (1987). Intention, Plans, and Practical Reason,
Harvard University Press. (門 脇 俊 介 & 高 橋 久 一 郎 (訳 ) (1994). 『 意 図 と 行
為 合 理 性 、 計 画 、 実 践 的 推 論 』 , 産 業 図 書 .)
Bratman, Michael (2000). “Reflection, Planning, and Temporally
Extended Agency,” The Philosophical Review, 109(1), 35–61.
Buckland, Mat (2004). Programming Game AI by Example, Jones &
Bartlett Learning.
Frankfurt, Harry (1971). “Freedom of the Will and the Concept of Person,”
The Journal of Philosophy, 68(1), 5-20.
Froese, Tom et al. (2007). “Autonomy: a review and a reappraisal,” In: e
Costa, F. Almeida et al. (eds.) Proceedings of the 9th European Conference
on Artificial Life, Springer-Verlag, 1-13.
Müller, Vincent (2012). “Autonomous cognitive systems in real -world environments: Less control, more flexibility and better interaction,”
Cognitive Computation, 4(3), 212-15.
Rao, Anand et al. (1995). “BDI Agents: From Theory to Practice ,”
Proceedings of the First International Conference on Multiagent Systems,
312-319.
Schmidt, Colin et al. (2006). “Robots, Dennett and the autonomous: a terminological investigation ,” Minds and Machines, 16(1), 73-80.
Taylor, James (eds.) (2005). PERSONAL AUTONOMY New Essays on
Personal Autonomy and Its Role in Contemporary Moral Philosophy, Cambridge University Press.
栗 原 聡 ほ か (2017). 「 汎 用 AI 実 現 の た め の 鍵 と な る 自 律 性 と マ ル チ モ ー ダ ル 性 に つ い て の 考 察 」, 第 31 回 人 工 知 能 学 会 大 会 発 表 原 稿 . 新 出 尚 之 (2010). 「 自 律 エ ー ジ ェ ン ト の 論 理 モ デ ル 」, 『 人 工 知 能 学 会 誌 』, 25(3), 419–428. 長 倉 克 枝(2017). 「『 人 工 知 能 脅 威 論 』が 覆 い 隠 す 、本 当 の 問 題 は 何 か ? ― ― 日 仏 の 研 究 者 が 議 論 」, ハ フ ィ ン ト ン ポ ス ト 日 本 版 , http://www.huffington post.jp/katsue-nagakura/ai-ethics_b_16904442.html , (2017/11/26 参 照 ). 中 島 秀 之(2013). 「 レ ク チ ャ ー シ リ ー ズ『 人 工 知 能 と は 』第 一 回 人 工 知 能 と は(1)」 , 『 人 工 知 能 学 会 誌 』 , 28(1), 139-143.
新進研究者 Research Note 9 錦 田 将 悟 (2016). 「 自 律 ロ ボ ッ ト の た め の 情 動 に 基 づ く 意 思 決 定 シ ス テ ム に 関 す る 研 究 」, 山 口 大 学 大 学 院 理 工 学 研 究 科 博 士 論 文 . 人 工 知 能 学 会 (編 ) (2017).『 人 工 知 能 学 大 事 典 』 , 共 立 出 版 . ( 東 京 大 学 )
新進研究者 Research Note 1 精 神 医 学 に お け る 生 態 学 的 ア プ ロ ー チ ―Thomas Fuchs の 論 考 か ら ― 三 笠 雅 也 Abstract
It is a well-known fact that each Japanese psychiatrist is trying to approach to his/her patients in various styles. What theoretical approach
is the most appropriate to a person with mental illness ?
The brain has been widely studied in biological psychiatry, particularly in psychopharmacology and neuroimaging. They think that mental il lness can be reduced to a disease of the brain. This thinking is objected to by Thomas Fuchs’ ecological concept of th e brain. From the standpoint of a
clinical psychiatrist, ecological approach would give full weight to a person with mental disorder. By the adoption of this approach, a patient
could reinforce each narrative identity from the dialogue with his/her psychiatrist. (1) 研 究 テ ー マ 本 邦 の 臨 床 で は 、 精 神 科 医 に よ っ て 患 者 へ の ア プ ロ ー チ が 著 し く 異 な っ て い る と い う 現 況 が あ る 。 そ れ で は 、 精 神 疾 患 を も つ 患 者 に 対 し て 、 ど の よ う な 理 論 的 ア プ ロ ー チ が 適 当 な の だ ろ う か 。 ま た 、 こ の ア プ ロ ー チ 選 択 は 、 精 神 疾 患 を ど の よ う に 捉 え る か と い う 問 題 に も 繋 が る 。果 た し て 精 神 疾 患 は 単 な る 脳 の 障 害 と 考 え る べ き な の だ ろ う か 、 そ れ と も 脳 を 超 え る 障 害 と 捉 え る べ き な の だ ろ う か 。 (2) 研 究 の 背 景 ・ 先 行 研 究 18 世 紀 後 半 か ら 19 世 紀 に か け て 精 神 医 学 が 生 ま れ て か ら 、 生 物 学 的 ア プ ロ ー チ 1と 心 理 学 的 ア プ ロ ー チ が 互 い に 興 隆 と 衰 退 を 繰 り 返 し て き た 。20 世 紀 中 頃 に は 精 神 分 析 を 代 表 と し た 心 理 学 的 ア プ ロ ー チ が 主 流 の 時 代 も あ っ た 。 し か し そ の 後 、1950 年 代 か ら 再 び 生 物 学 的 ア プ ロ ー チ が 主 流 に な っ た 。そ れ は 精 神 薬 理 学 の 興 隆 が 大 き い 。例 え ば 統 合 失 調 症 に 対 す る ク ロ ル プ ロ マ ジ ン 、 う つ 病 に 対 す る イ ミ プ ラ ミ ン な ど の 有 効 性 が 実 証 さ れ た か ら で あ る 。 そ の 後 も D2 仮 説 や モ ノ ア ミ ン 仮 説 な ど に よ っ て 、 よ り 副 作 用 の 少 な い 薬 物 が 数 多 く 発 売 さ れ て き た 。ま た 神 経 画 像 に 関 し て は 、黒 木(2016)は 「近 年 の 脳 画 像 研
新進研究者 Research Note 2 究 の 進 展 は 目 覚 し く 、 従 来 、 想 像 も つ か な か っ た よ う な 斬 新 な 脳 の 理 論 を 提 供 し つ つ あ り 、精 神 疾 患 の 分 類 に も 影 響 を 与 え つ つ あ る 」(154 項 )と し て 評 価 し て い る 。し か し 、一 方 で 黒 木(2016)は 「近 年 、真 に 新 た な 向 精 神 薬 の 候 補 薬 の 開 発 は 途 絶 え て お り 、 従 来 の モ ノ ア ミ ン 仮 説 を 凌 駕 す る 確 か な 開 発 の 里 程 標 と な る べ き 理 論 も 登 場 し て い な い 。 欧 米 の 主 要 な 薬 理 学 専 門 誌 が 、 し き り に 精 神 薬 理 学 の 危 機 や 衰 退 を 警 告 し て い る の が 現 状 で あ る 。 … … 現 在 も ま た fMRI(機 能 的 磁 気 共 鳴 画 像 法 )や MEG(脳 磁 図 )な ど 脳 科 学 の 巨 大 技 術 の 精 神 医 学 へ の 応 用 が 精 力 的 に 進 め ら れ て い る 。 し か し な が ら 、 他 の 医 学 領 域 と 異 な り 、 精 神 医 学 の 場 合 、 そ れ ら が 新 し い 世 界 を 見 せ て く れ て い る 興 奮 の 期 間 は あ ま り に も 短 く 、 幻 滅 へ と 転 じ や す い 」(154-164 項 )と 述 べ て い る よ う に 、 最 近 の 生 物 学 的 精 神 医 学 に は 閉 塞 感 が 漂 っ て い て 、 精 神 薬 理 学 が 停 滞 し て い る こ と 、 神 経 画 像 が な か な か 臨 床 に 応 用 で き て い な い こ と を 示 し て い る 。 こ れ は 臨 床 現 場 で の 精 神 科 医 が 実 感 し う る も の で あ り 、 一 時 期 の 新 規 薬 物 の 発 売 ラ ッ シ ュ が 落 ち 着 い て き て い る こ と 、 脳 画 像 検 査 が 補 助 診 断 に 留 ま っ て い る こ と か ら も 推 測 さ れ る だ ろ う 。 現 代 で は 患 者 の 対 人 関 係 の 問 題 も 注 目 さ れ る よ う に な り 、 こ の 社 会 的 ア プ ロ ー チ も 含 め た 、 生 物 ・ 心 理 ・ 社 会 モ デ ル の 折 衷 主 義 的 ア プ ロ ー チ に 落 ち 着 い た か の よ う に な っ て い る 。そ れ に 対 し 、ア メ リ カ の 精 神 科 医 で あ る ナ シ ア・ ガ ミ ー Nassir Ghaemi は 多 元 主 義 2的 ア プ ロ ー チ を 訴 え て い る 。た だ し 村 井 (2016)は 、 こ れ は 本 邦 で は 馴 染 み の ア プ ロ ー チ で あ り 、 ド イ ツ の 精 神 病 理 学 の 影 響 を 受 け た 本 邦 の 精 神 医 学 は 、 精 神 疾 患 を 「心 因 」「 内 因 」「 外 因 」に 区 別 す る 三 分 法 で 診 断 を 行 い 、 そ れ に よ っ て 異 な る 治 療 を 選 択 す る と い う 過 程 、 こ れ こ そ 多 元 主 義 そ の も の で あ る(210 項 )と 述 べ て い る 。 す な わ ち エ ビ デ ン ス
に 基 づ く 医 療 3Evidence-based medicine(以 下 EBM)全 盛 の 米 国 精 神 医 学 で
は 目 新 し く て も 、 本 邦 の 臨 床 に は 昔 な が ら の 多 元 主 義 が 根 付 い て い る の で あ る 。 し か し 、 こ れ が 余 計 に 本 邦 の 現 代 精 神 医 学 の な か で の 乖 離 を 顕 在 化 さ せ て い る 。 患 者 に 対 し て 上 の 世 代 の 精 神 科 医 は 昔 な が ら の 多 元 主 義 的 ア プ ロ ー チ を 採 る 。 一 方 で 、 下 の 世 代 の 精 神 科 医 は 折 衷 主 義 的 ア プ ロ ー チ を 採 る 。 す な わ ち 若 い 精 神 科 医 は 操 作 的 診 断 基 準 4に 従 っ て 診 断 を 行 い 、 治 療 は 生 物 学 的 ア プ ロ ー チ(薬 物 療 法 )や EBM に 基 づ い た 認 知 行 動 療 法 を 採 用 す る 。現 代 の 精 神 医 学 で は 、他 の 医 学 領 域(身 体 医 学 )の よ う に EBM に 従 っ て 、あ る 意 味 で 均 一 的 か つ 画 一 化 さ れ た 医 療 を 提 供 す る 傾 向 が 強 い 。 例 え ば 、 精 神 疾 患 に お い て も ガ イ ド ラ イ ン の 方 針 に 沿 っ て 、 治 療 を 行 う 精 神 科 医 も 珍 し く な く な っ た 。 ま た 、 ベ ン ゾ ジ ア ゼ ピ ン 系 の 抗 不 安 薬 の 長 期 投 与 を 実 際 に 控 え る 風 潮 も 出 て き て い る 。EBM に 従 う と 、必 然 的 に 生 物 学 的 精 神 医 学 に 偏 重 し て い く こ
新進研究者 Research Note 3 と に な る で あ ろ う 。 し か し 臨 床 で の 精 神 医 学 の 特 徴 と し て 、 同 じ 病 名 で あ っ て も 患 者 ご と に 病 状 が 異 な る た め 、 そ の 時 点 で の 、 す な わ ち 横 断 面 で の 症 状 だ け で な く 、 時 間 の 経 過 で 病 態 の 質 の 変 化 を 診 て い く 縦 断 面 が 必 要 不 可 欠 で あ る 。 そ の た め EBM は 臨 床 場 面 で は 不 適 当 で あ る と い う の が 上 の 世 代 の 精 神 科 医 の 見 解 で あ る 。 そ の EBM の 反 動 と し て 、 物 語 に 基 づ く 医 療 5Narrative-based medicine(以 下 NBM)の 重 要 性 が 唱 え ら れ た り し て き た 。 (3) 筆 者 の 主 張 こ の 現 代 の 精 神 医 学 に お け る 乖 離 の 原 点 と し て 、1845 年 に グ リ ー ジ ン ガ ー が 唱 え た 有 名 な 命 題 で あ る 「 精 神 病 は 脳 の 病 気 で あ る Die
Geisteskrankheiten sind die Gehirnkrankheiten」は 重 要 で あ ろ う 。 近 年 神 経 科 学 の 発 展 と と も に 、こ の 命 題 は 現 代 の 精 神 科 医 に 強 く 影 響 を 与 え て い る 。 特 に 下 の 世 代 の 精 神 科 医 ほ ど 、 生 物 学 的 ア プ ロ ー チ を 患 者 に 対 し て 採 っ て い る 場 合 が 多 い で あ ろ う 。 も ち ろ ん 、 こ の 潮 流 は 理 解 で き る も の で あ る 。 脳 の 機 能 不 全 に よ り 精 神 疾 患 が 発 症 し 、 病 的 体 験 な ど の 症 状 と し て 現 出 す る 。 問 診 に よ っ て 患 者 の 症 状 を 並 べ て 、 横 断 的 に 診 断 し 病 名 を つ け る 。 そ し て 患 者 に 対 し て D2 仮 説 や モ ノ ア ミ ン 仮 説 な ど を 説 明 し 、 病 気 の 原 因 は 脳 内 の 神 経 伝 達 物 質 の 過 剰 や 不 足 に よ る も の で あ る と し て 薬 物 療 法 を 行 う 。 こ れ は 現 在 の 臨 床 現 場 で 最 も 行 わ れ て い る ア プ ロ ー チ で あ ろ う 。 し か し 本 稿 で は 、 精 神 疾 患 が 脳 の 障 害 に 還 元 し う る と す る 生 物 学 的 ア プ ロ ー チ を 否 定 的 に 論 じ る 。 そ の 前 段 階 と し て 、 ま ず 主 観(主 体 )は 脳 活 動 に 還 元 さ れ る と い う 還 元 主 義 を 否 定 す る 。 そ の 論 拠 と し て ド イ ツ の 精 神 病 理 学 者 ト
ー マ ス ・ フ ッ ク ス Thomas Fuchs の 「 脳 の 生 態 学 的 考 え 方 ökologische
Konzeption des Gehirns」を 採 用 す る 。 こ の 考 え は 「脳 は 人 と 環 境 の 相 互 作 用 に 根 差 し て お り 、 脳 は せ い ぜ い 生 物 学 的 、 精 神 的 、 社 会 諸 過 程 が 相 互 に 反 応 し あ う た め の 媒 介 お よ び 変 換 の 器 官 と み な す べ き で あ る 」( フ ッ ク ス,2016,265 項 )と い う も の で あ る 。 フ ッ ク ス(2016)は 「人 の 脳 を 調 べ て み て も 、 そ こ に は 人 の 知 覚 も 、 志 向 も 、 不 安 も 、 痛 み も 見 出 せ な い … … な ぜ な ら 脳 も 、 個 々 の 脳 中 枢 も 、 体 験 の 主 体 で は な い の だ か ら 。 … … そ れ は 生 き 物 で あ り 、 生 き て い る 有 機 体 で あ り 、 ひ と 自 身 で あ る 」(266 項 )と い う 記 述 に あ る よ う に 、現 象 学 に お け る 主 体 の 体 験 を 重 視 し て お り 、 こ れ は 決 し て 三 人 称 パ ー ス ペ ク テ ィ ヴ(客 観 性 )に は 還 元 さ れ え な い と し て い る 。 一 人 称 パ ー ス ペ ク テ ィ ヴ(主 観 性 も し く は 自 己 意 識 )が 生 じ る の は 、 生 き て い る 存 在 そ の も の に 生 じ て お り 、 そ れ は 環 境 と の 相 互 作 用 に よ り 成 り 立 っ て い る と 考 え る の で あ る 。 す な わ ち 、 精 神 は 脳 が 生 み 出 す
新進研究者 Research Note 4 の で は な く 、有 機 体(生 体 )6全 体 が 生 み 出 す の で あ り 、そ し て そ の 成 立 に は 環 境 と の 相 互 作 用 が 必 要 不 可 欠 で あ る と 考 え て い る 。 こ の 考 え は 現 在 で は 珍 し い も の で は な く 、 認 知 科 学 で は エ ナ ク テ ィ ヴ 7enactive な 認 知 と し て 知 ら れ て い る 。フ ッ ク ス(2010)は こ の エ ナ ク テ ィ ヴ 認 知 神 経 科 学 を 「身 体 性 や 行 為 を 強 調 し 、前 反 省 的 な 次 元 か ら 意 識 を 捉 え 直 そ う と す る 」(106 項 )と 述 べ て い て 、 神 経 科 学 を 現 象 学 的 立 場 か ら み た も の で あ る と 考 え て い る 。 フ ッ ク ス(2016) は 生 態 学 的 考 え 方 と し て 、 3 つ の 次 元 を 提 示 し て い る (267-269 項 )。1 つ 目 は 脳 と 身 体 の 相 互 関 係 、2 つ 目 は 「脳 と 身 体 」と 環 境 の 相 互 作 用 、3 つ 目 は 人 と 人 の 相 互 作 用 で あ る 。 以 下 に 簡 略 に 述 べ る 。 1 つ 目 に 関 し て は 、「植 物 的 次 元 で 成 立 し て い る 脳 と 有 機 体 の 統 一 が 、よ り 高 次 の 脳 機 能 も 包 含 し て い る … … 知 覚 、 感 情 、 思 考 、 行 為 な ど 全 て の 意 識 活 動 は 、 決 し て 新 皮 質 の 神 経 過 程 の み に 基 づ い て い る の で は な い 。 す べ て の 意 識 活 動 は 有 機 体 全 体 と そ の ア ク チ ュ ア ル な 状 態 に 関 係 す る 生 命 維 持 お よ び 情 動 の 持 続 的 な 制 御 過 程 に 基 づ い て い る 」(フ ッ ク ス ,2016,267 項 )と 述 べ て い る よ う に 、 脳 活 動 に は 身 体 の 下 位 シ ス テ ム(生 理 学 的 側 面 )と の 相 互 関 係 が 不 可 欠 で あ り 、 素 朴 に 考 え る よ う な 、 脳 の 高 次 機 能 か ら の 指 令 が ト ッ プ ダ ウ ン に 降 り て く る だ け で は な い と 主 張 す る 。 一 方 で 自 己 意 識(精 神 )は 、 そ の 状 況 に お け る 有 機 体(生 体 )全 体 の 複 雑 な 働 き で あ る と し て い る 。 2 つ 目 に 関 し て は 、「脳 は ま た 、環 境 と の 感 覚 運 動 の 相 互 作 用 に も 根 差 し て お り 、 脳 は 我 々 の 知 覚 と 運 動 を 媒 介 し て い る 。 … … 脳 は 第 一 に 、 媒 介 の 器 官 と し て 、知 覚 と 運 動 を 結 び つ け る 器 官 と し て 作 用 す る 」(フ ッ ク ス ,2016,267‐ 268 項 )と 記 述 す る よ う に 、 有 機 体 (生 体 )の 知 覚 と 運 動 は 表 裏 一 体 で あ る が 、 こ れ を 媒 介 し て い る の が 脳 だ と し て い る 。 そ し て 「意 識 さ れ た 状 態 と は 常 に 、 環 境 の 中 で 活 動 す る 有 機 体 全 体 の 状 態 で あ る 。 主 観 性(主 体 性 )は 、 身 体 に 具 現 化 さ れ 、環 境 に 根 差 し て お り 、常 に『 生 態 学 的 な 主 観 性(主 体 性 )』で あ る 。 … … 我 々 は 本 来 、 常 に 既 に 、 我 々 の 身 体 を 超 え 出 て い る の で あ り 、 我 々 の 自 己 体 験 も ま た 『 生 態 学 的 』 な の で あ る 」(フ ッ ク ス ,2016,268 項 )と も 述 べ る よ う に 、自 己 意 識(精 神 )は 身 体 に 具 現 化 さ れ た 単 な る 有 機 体 (生 体 )で は な く 、環 境 と 相 互 作 用 し て い る 有 機 体(生 体 )全 体 こ そ が 自 己 意 識 (精 神 )で あ る と 考 え る 。す な わ ち 自 己 意 識(精 神 )は 、有 機 体 (生 体 )と 環 境 の ど ち ら に も 根 差 し て い る の で あ る 。身 体 を 超 越 し て 環 境 側 に 重 心 を 移 す と き に 、こ れ を 強 調 し て 「生 態 学 的 」と 名 付 け る と 考 え て も よ い か も し れ な い 。 3 つ 目 に 関 し て は 、「脳 は 、対 人 的 お よ び 生 活 史 的 に 形 成 さ れ 、影 響 さ れ る 器 官 で あ る … … 脳 が 精 神 を 生 産 す る の で は な い 。 生 き て い る 、 身 体 に 具 現 化 さ れ た 精 神 が 、 脳 を 創 り 出 す … … 脳 は 、 我 々 の 経 験 す べ て を 、 永 続 的 な 準 備