がんサバイバーのメンタルヘルスと食・栄養 127
(受付日:2020 年 6 月 30 日/受理日:2020 年 8 月 12 日)
*東京都小平市小川東 4-1-1 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(〒187-8551)
Department of Clinical Epidemiology, Translational Medical Center, National Center of Neurology and Psychiatry, 4-1-1,Ogawa-Higashi,Kodaira City,Tokyo,187-8551,Japan
©2020 Japanese Journal of Behavioral Medicine
行動医学研究 vol.25,No.2,127-134,2020
[総説]
がんサバイバーのメンタルヘルスと食・栄養
Diet and nutrition for better mental health among cancer survivors
大久保亮
1、佐々木洋平
1Ryo OKUBO, Yohei SASAKI
1
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
トランスレーショナル・メディカルセンター情報管理解析部臨床研究計画・
解析室
Department of Clinical Epidemiology, Translational Medical Center, National Center of Neurology and Psychiatry 一生のうちに、日本人の約半数ががんと診断される。がんの早期発見および治療の進歩によ り、がんサバイバー(がん既往のある患者)の数は急速に増加しており、その支援は重要な課題となって いる。近年、食・栄養がメンタルヘルスの予防やマネジメントに影響を持つことが示され、食・栄養をメ ンタルヘルスの改善に活用していくことを目指す、栄養精神医学という学問領域が注目されている。本 稿では、不飽和脂肪酸と腸内細菌叢に関する研究を中心に、食・栄養とがんサバイバーのメンタルヘルス について概観し、がんサバイバーの再発不安に着目した我々の研究を紹介する。現時点において、食・栄 養だけの介入が標準的な向精神薬や精神療法にとって代わるほど強力であるというエビデンスはなく、 紹介した知見は、エビデンスレベルが低いものが多いのが実情である。しかしながら、食・栄養に対する がんサバイバーの方の関心は高く、有効性が実証できた場合、普及が容易である。がんサバイバーに対す る栄養精神医学の研究が今後盛んにおこなわれ、がんサバイバーの方々がより良く生きるための手助け となることを切に願っている。 ダイエット、がんサバイバー、メンタルヘルス、うつ病 要約 キーワード
128 行動医学研究 Vol.25, No.2
Approximately half of all women and men are estimated to be diagnosed with cancer during their lifetime in Japan. Owing to advances in early detection and treatment of cancer, the number of cancer survivors is rapidly increasing, and their support become important agenda in recent years. It has been shown that food and nutrition have an impact on the prevention and management of mental health, and “nutritional psychiatry”, which aims to utilize food and nutrition for addressing the large disease burden of mental disorders, has been attracting attention. In this paper, we reviewed the impact of diet and nutrition on mental health with emphasis on unsaturated fatty acids and intestinal microbiota. Although cancer survivors are strongly interested in information about what they can do to help them get better, few studies address the impact of diet and nutrition on mental health among cancer survivors to date. We sincerely hope that nutritional psychiatry research on cancer survivors will be actively conducted in the future, and that it will help cancer survivors to live better.
Keyword Diet; nutrition; n-3 polyunsaturated fatty acid; fear of cancer recurrence; gut microbiome; cancer survivorship; mental health; depression; anxiety; probiotics
はじめに
一生のうちに、日本人の約半数ががんと診断さ れる。がんの早期発見および治療の進歩により、 がんサバイバー(がん既往のある患者)の数は急速 に増加しており、その支援は重要な課題となって いる。がんサバイバーの生活において、何を食べ ればよいのかという食・栄養の問題は、大きな関 心事である。近年、食・栄養がメンタルヘルスの予 防・発症・マネジメントに影響を持つことが示さ れつつある。本稿では、基礎・臨床ともに盛んに研 究がなされている、不飽和脂肪酸と腸内細菌叢に 関する研究を中心に紹介する。がんサバイバーにおける食・栄養
がんサバイバーが、初期治療が一段落した後に 悩まれるのが、「どのような生活をすればよいか」 という点である。日本のがんサバイバー619 名を 対象とした調査で、半数が「病状を良くするため に患者自身でできることについての支援」が満足 に受けられていないとしていた1。そういったがん 罹患後の生活の中でも、一般的に健康障害の危険 因子とされている食・栄養は2、がんサバイバーの 方の関心が高い。しかしながら、日本のガイドラ インにおいて、食・栄養に関する記載は限られて おり、乳がんガイドライン以外に記載はほとんど なかった3。ガイドラインは主に医療者を対象とし たものであるが、昨今においてはがんサバイバー 自身が参照することも多いことから、食・栄養に 関する記述がもっと増えていくことが望ましい。 乳がんにおいて、食・栄養の要因の中で、がんサ バイバーの予後の危険因子として、最も明らかに なっているのが、BMI 30 以上の肥満である。BMI が 30 を超えた肥満の場合、乳がん再発、死亡の危 険性が増加することが示されている。日本人を対 象とした研究では、肥満者(BMI≧30)に加えて、る い痩者(BMI<18.5)で全死亡のリスクが有意に高か った。一方、高体重者(BMI が 25-30)では有意な死 亡率の上昇はなかった4。現時点で特定の栄養素が がんの予後に有効という明確な根拠はなく、厳格 な食事療法や高額のサプリメントは避けるべきで ある。 日本の一般住民の調査であるが、全国の男女 7 万人を 15 年間追跡して食事のバランスと死亡の 関連について調べた研究では、「食事バランスガ イド」(厚生労働省・農林水産省、平成 17 年)の推 奨に従い、食事のバランスが良ければよい程、死 亡のリスクが低下するとの結果が得られている5。 日本は長寿国であるが、高度経済成長などの社会 経済的要因、国民皆保険などの医療制度以外に、 魚と大豆食品を多くとり、脂肪が少ない、日本の 伝統的な食習慣が長寿に寄与していると推測でき る。日本のエビデンスを考えると、日本の乳がん サバイバーは、再発や死亡に限って言えば、バラ ンスのとれた常識的な食生活を心がけ、肥満やる い痩など、極端な体重を避けることが、最も望ま しいと考えられる。がんサバイバーのメンタルヘルスと
食・栄養
がんサバイバーの 3 割は精神的苦痛を抱えてい るとされている。その苦痛は幅広く、適応障害や うつ病、自殺のように、専門家の対応が必要とな る問題から、がん再発の不安など、治療の対象と Summary Keywordがんサバイバーのメンタルヘルスと食・栄養 129 なりづらい精神的苦痛まで幅広く存在する。特に がん再発不安は、がんサバイバーの精神的苦痛の 中でも、多くの方が抱えて苦痛に思い、支援が十 分に届いていない問題である。英国と日本の調査 で、両国ともがん再発不安のケアまたは支援が十 分に届いていない課題として最上位に挙げた6。縦 断的研究において、がん再発不安は初期治療終了 後数年が経過しても持続し、半分以上のがんサバ イバーは中等度以上の、7%は重度のがん再発不安 を有するとされ6、時間外受診や生活の質の低下、 社会機能の低下と関連すること6が示されており、 適切な対応が求められている。 がん再発不安が極度に強い場合は、不安障害の 治療に準じた薬物療法・精神療法が施行される。 薬物療法には薬物相互作用、筋弛緩作用による転 倒や鎮静、薬剤性の認知機能低下、精神療法には 実施できる治療者が少ないという問題がある。そ のため、がんサバイバーが安心して、気軽に利用 できるような、がん再発不安に対する安全かつ普 及が容易な治療法が求められている。 近年、食・栄養がメンタルヘルスに影響を及ぼ すことが注目されている。食・栄養は副作用のリ スクが低く、有効性が実証された場合、普及が容 易である。様々な成分・観点から研究が行われて いるが、その中でも魚や一部の植物に含まれるオ メガ3系脂肪酸と、腸内細菌叢の改善が見込まれ るビフィズス菌・乳酸菌などの有用菌(プロバイオ ティクス)については、基礎・臨床研究が盛んにお こなわれており、不安症状、抑うつ症状などへの 効果が期待されている。本稿では食・栄養の中で も上記 2 つを取り上げる。
血中脂肪酸バランスとがんサバイバーの
メンタルヘルス
脂質の主成分である脂肪酸は、飽和脂肪酸と不 飽和脂肪酸に分かれる。その中でも、多価不飽和 脂肪酸は脳の発達や機能にかかわる重要な物質で あり、大きく分類するとオメガ 3 系とオメガ 6 系 の 2 種類に分かれる。主なオメガ 3 系脂肪酸は、 青魚に多く含まれるエイコサペンタン酸(EPA)と ドコサヘキサエン酸(DHA)、さらに亜麻仁油、エゴ マ油、サチャインチ油、チアシード油などに多く 含まれるαリノレン酸(ALA)である。オメガ 3 系脂 肪酸は、植物油脂に含まれるリノール酸や肉に含 まれるアラキドン酸などオメガ 6 系脂肪酸ととも に生体膜の二重層を構成する成分であり、体内で 合成できない必須脂肪酸である。オメガ 3 系脂肪 酸は、中性脂肪の低下、血管内皮細胞の機能改善、 血栓生成防止などいろいろな生理作用を有してお り、冠動脈疾患の罹患数減に寄与することが知ら れる。オメガ 3 系脂肪酸ががんに与える影響に関 しても長年研究され、有効性が示唆された報告も あるが、近年の大規模なメタ解析では、オメガ 3 系 脂肪酸の摂取が、がん診断、がん死亡を改善する という結果は得られなかった7。 オメガ 3 系脂肪酸と精神症状の関連に関して基 礎・臨床研究両面から、研究が進められている。近 年、日本の地域住民を対象にオメガ 3 系脂肪酸が 豊富に含まれる魚食とうつ病罹患のリスクを検討 した研究でも、魚食のうつ病罹患の危険性につい て、最も魚の摂取が最も少ないグループに比べて、 2 倍の量を 1 日に食べているグループでは、うつ 病罹患のリスクは半分以下であった8。介入研究で もオメガ 3 系脂肪酸のうつ病治療における補助的 役割が確認されている。うつ病治療にオメガ 3 系 脂肪酸を用いたランダム化比較試験をまとめたメ タ解析では有効性が報告されており、特に DSM で 大うつ病と定義されたうつ病患者に対して顕著な 効果を発揮すること、オメガ 3 系脂肪酸の中でも、 EPA が 50%以上含まれているサプリメントでプラ セボに比べて有意な効果(Hedge’s G=0.61)があ ることが示されている9。 がんサバイバーのメンタルヘルスに関しては、 オメガ 3 系・オメガ 6 系脂肪酸とうつ病の関連を みたところ、血中オメガ 6 系脂肪酸のリノール酸 (通常の食用油に多く含まれる)の割合が高い程、 抑うつ症状が高いという関連がみられ、その関連 は特に化学療法後のサバイバーで強いという結果 であった。一方オメガ 3 系脂肪酸とうつ病の関連 は見出されなかった。これまでにも肺がん患者、 心筋梗塞患者におけるうつ病はオメガ 3 系脂肪酸 との関連が見出されておらず、基礎の身体疾患が 二つの関連に影響している可能性がある10。 オメガ 3 系脂肪酸と不安症状の関連についても 研究が進められている。動物実験において、摂取 する餌のオメガ 3 系脂肪酸をオメガ 6 系脂肪酸に 対して増やすと、獲得される恐怖記憶が軽減する ことが見出されている11 12。その機序として、オメ ガ 3 系脂肪酸の増加が生体膜の流動性を増加さ せ、扁桃体の過剰活動が抑制に繋がるという神経 生理学的機能制御が示唆されている11 12 。恐怖記 憶制御不全は、外傷性ストレス障害(PTSD)など不 安症の中心的な病態として知られている。我々が 行った、不安症状治療にオメガ 3 系脂肪酸を用い たランダム化比較試験をまとめたメタ解析でも有 効性が報告されており、オメガ 3 系脂肪酸を摂取 した群はオメガ 3 系脂肪酸を摂取していない群と 比較して、不安症状が軽減されることが明らかに なり(Cohen’s d=0.37)、特に身体疾患や精神疾患 等の臨床診断を抱えている人を対象にした場合に より抗不安効果が大きい(Cohen’s d=0.51)こと が示された13。130 行動医学研究 Vol.25, No.2 我々のグループではがん再発不安とオメガ 3 系 脂肪酸の関連を検討する研究を行った。乳がんサ バイバー130 人を対象に、オメガ 3 系・オメガ 6 系 脂肪酸とがん再発不安の関連をみたところ、血中 ALA(えごま油、アマニ油、くるみに多く含まれる) の割合が高いほど、がん再発不安が低いという関 連がみられ、その関連は抑うつ症状など他の精神 症状と独立したものであった14。ALA は恐怖記憶の 処理を促進するという臨床試験の報告もあり、ALA 摂取が再発不安軽減に有用な可能性が示唆された 15。
腸内細菌とがんサバイバーの
メンタルヘルス
ヒトの皮膚や粘膜面には膨大な数の細菌群が常 在しているが、特に大腸では体内で最も高密度な 常在細菌叢が形成されており、内容物 1g 当たり 10-100 億個の細菌が生息している。その細菌数は 総計 40 兆個にも及ぶとされ、これは約 30 兆個と 推察されるヒト個体を形成する細胞数よりも多 い。さらにヒト腸内細菌叢は 500-1000 菌種にも上 るとされ、それらが複雑な代謝系を構築している。 次世代シーケンサーなどの遺伝子配列解析技術の 進歩や、細菌種ごとに特徴的な 16S リボゾーム RNA 遺伝子を標的としたメタ 16S 解析という手法によ り、比較的安価にかつ少量の DNA から腸内細菌叢 の群集解析が可能となっている。 近年の研究から腸内細菌叢が身体の健康に密接 にかかわっていることが報告されている。例えば 動物実験では、肥満の人の腸内細菌叢を移植され たマウスと健常者の腸内細菌叢を移植されたマウ スを比較すると、前者では顕著な体重増加が起こ ることが知られている。腸内細菌叢とがんとの関 連も近年注目されている。特定の腸内細菌が、大 腸・肝臓・乳がんの発がん16-19、抗がん剤の治療成 績 20、免疫チェックポイント阻害薬の効果に影響 する 21との報告がある。例えば、免疫チェックポ イント阻害薬の一つである、PD-L1 阻害薬の抗が ん効果にビフィズス菌の関与が報告されている 22。 脳と腸とは、ホルモンやサイトカインなどの共 通する液性因子や免疫系・自律神経系など様々な 経路を介して双方向的に情報伝達を行っている。 例えば我々はストレスを感じると下痢や便秘など の便通異常を生じる。逆に、腸管粘膜の炎症やバ リア機能障害により、不安感などの情動や行動、 食欲などが変化することが知られている。この脳 と腸の関連を理解する上で重要な要因として、腸 内細菌叢に注目が集まっている。腸内細菌叢は食・ 栄養の影響を強く受けるため、食・栄養と脳機能 を考える上で、腸内細菌叢の関与に関する研究は 欠かすことができない。 近年の研究から腸内細菌叢が脳の発達や機能に 密接に関わっていることが報告されており、脳の 発達への関与が多くの研究から示唆されている。 例えば、腸内細菌叢が欠如した無菌マウスでは、 海馬、扁桃体、帯状皮質などの不安や恐怖に関与 する神経領域の発達が異常を来し、恐怖記憶など の記憶を維持するために必要な神経発達が障害す る 23。さらに、腸内細菌叢バランスの乱れが全身 性の炎症につながる可能性が示唆されている。腸 内細菌叢バランスの乱れは、腸管と血流の間の物 質の流れを調節する腸上皮バリアの透過性を亢進 させる 24。こうした腸上皮バリアが障害された状 態では、細菌由来毒素の全身性血流への流入(内毒 素血症)が増加することで、全身性の炎症が引き起 こされる 25。こうした状態は、不安様行動や恐怖 記憶処理などの脳機能に影響を与える 26,27。さら に、腸内細菌叢は、短鎖脂肪酸や、神経伝達物質な どの代謝に関わることが知られている。食物繊維 の発酵から産生される短鎖脂肪酸が、腸恒常性の 維持および脳機能の調節において重要な役割を果 たしていることが示されている6。 ヒトを対象とした研究でも、腸内細菌叢とメン タルヘルスの関連が示されている。英国の6万人 以上を対象とした大規模な疫学調査では、精神疾 患の診断前の 1 年間の抗生物質曝露はうつ病およ び不安症を発症するリスクを増大させた 28。さら に、アンチバイオティクス(抗生物質)に対して、 腸内細菌叢のバランスを改善することによって宿 主の健康に好影響を与える生きた微生物は、プロ バイオティクスと呼ばれるが、このプロバイオテ ィクス摂取によって、前述の内毒素血症や不安様 行動が回復することが動物実験で報告されている 29-31。ヒトでも、プロバイオティクスの一つである 乳酸菌やビフィズス菌の摂取により、被験者の感 情や感覚に関わる部位の脳活動が活性化すること が明らかになっている32。 我々も、プロバイオティクスがヒトの腸内に到 達し、精神機能に影響を与えるかどうかを調べる ために、本邦で初めて、精神疾患患者にビフィズ ス菌を投与し、不安抑うつ症状の変化を検討する 臨床試験を行った。ビフィズス菌は、特に腸内環 境が悪い方の不安抑うつ症状を軽減し、腸管バリ ア機能を高めることで効果を発揮する可能性が示 唆された 33。さらに、近年出版されたプロバイオ ティクス介入研究のメタ解析において、抑うつ症 状 (Cohen’s d=0.24) 、 不 安 症 状 (Cohen’s d=0.10)それぞれに対して有意ではあったものの 効果は小さいものであった。しかしながら、精神 科もしくは身体科の診断がついた方では抑うつ症がんサバイバーのメンタルヘルスと食・栄養 131 状 (Cohen’s d=0.73) 、 不 安 症 状 (Cohen’s d=0.43)ともに効果は比較的大きかった34。今後プ ロバイオティクスが有効な患者像を同定し、有効 なプロバイオティクスが何かを明らかにするよう な研究が期待される。 我々のグループでは前述の不安症と腸内細菌叢 の関連から、がん再発不安と腸内細菌叢の関連を 検討する研究を行った。炎症を惹起するとされる バクテロイデス属とがん再発不安に正の関連があ り、腸管バリア機能を高めるなど腸内環境の維持 に関わる短鎖脂肪酸の一つの酪酸を主に産生する ファーミキューティス門と再発不安に負の関連が 認められた。さらに、腸内細菌全体を評価する指 標である、多様性指標とがん再発不安に負の関連 が認められ、特に化学療法後の患者で腸内環境と 再発不安の関連が強く認められた 35。それらの結 果から、化学療法による腸内環境の乱れががん再 発不安に関連している可能性が示唆された(図 1)。
図 1 Possible mechanism underlying fear of cancer recurrence among cancer survivors with chemotherapy
食・栄養によるがん再発不安の軽減を
目指して
再発不安は心理学的なモデルに基づいた心理療 法の開発が模索されている 36,37一方で、身体症状 の存在や程度、化学療法や放射線療法の既往など 生物学的な危険因子も指摘されている 38。再発不 安は、日常生活上の些細な刺激によって再発に関 連した恐怖記憶が想起される現象であり 38、再発 不安の強さは恐怖記憶の制御不全によって生じる 心的外傷後ストレス障害と強い関連が認められる ことから 39、恐怖記憶の制御不全が再発不安の病 態の根底にあることが示唆される。 これらの研究から、がん再発不安に対してプロ バイオティクス介入を行い、症状の軽減を目指す 研究を現在計画中である。がん再発不安は、化学 療法の既往が危険因子である。化学療法は全身性 の慢性炎症を引き起こし、さらに腸管バリア機能 を低下させ、腸内細菌の多様性を低下させるなど、 腸内環境を増悪させることが知られている。下図 のように、オメガ 3 系脂肪酸摂取は抗炎症作用や 恐怖記憶制御に関わる扁桃体の過剰活動の正常化 を介して、プロバイオティクスは腸管バリア機能 と腸内環境の改善を介して不安症状を軽減させる 可能性がある6(図 2)。図 2 Can fear of cancer recurrence be reduced by diet? We hypothesize that nutritional interventions could improve fear of cancer recurrence. Abbreviations: LPS,
lipopolysaccharide; BDNF, brain-derived neurotrophic factor; CB, cannabinoid.
132 行動医学研究 Vol.25, No.2
最後に
本稿では、食・栄養とがんサバイバーのメンタ ルヘルスについて概観し、がんサバイバーの再発 不安に着目した我々の研究を紹介してきた。現時 点において、食・栄養だけの介入が標準的な向精 神薬や精神療法にとって代わるほど強力であると いうエビデンスはない。むしろ生活における行動 変容介入(身体活動、体重管理、禁煙など)の一部 と考えるのが妥当である40。本稿で振り返った食・ 栄養をメンタルヘルス改善に活用していくことを 目指す、栄養精神医学の領域はまだ新しく、紹介 した知見もエビデンスレベルが低いものが多いの が実情である。しかしながら、食・栄養に対するが んサバイバーの方の関心は高く、有効性が実証で きた場合、普及が容易である。がんサバイバーに 対する栄養精神医学の研究が今後盛んにおこなわ れ、がんサバイバーの方々がより良く生きるため の手助けとなることを切に願っている。文献
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