3. 脊 柱 の 老 人 性 変 化 と腰 痛 九州大学教授 天 児 民 和 講 師 竹 光 義 治 井 上 知 憲 石 川 巖 山 口 淳 緒 言 腰 痛 は 整 形 外 科 患 者 の 中 で も最 も頻 度 の 高 い 症 状 で, 根 本 的 に は 脊柱 を 直 立 し歩 行 す る様 に なつ た人 類 に特 有 な苦 痛 で あ る と も言わ れ(3), 腰 部 全 組 織 い ず れ に 病 変 が あつ て も同様 に現 れ る(1)(2)。そ の部 位 と本 態 に つ い て, 我 々は 可能 な 限 り原 因を 探 究 し, 適 切 な る治 療 を与 え るべ く努 力 しな け れ ば な らな い。 しか し, 現 在 の医 学 に 於 て は, 未 だ 原 因 の総 ては 明 らか に され 得 ず, 隔 靴 掻 痒 の 感 を 免 れ な い 。 腰 痛 患 者 は 数 か ら言 え ば25∼30代 に 多 い 。 しか し, 外 傷 炎 症 を 除 け ば, 何 らか の 点 に お い て, 腰 部 支 持 組 織
の 老 化 現 象 と関 連 して い る と言 え よ う。 支 持 組 織 の 老 化 は 出生 と共 に 始 まつ て い る と 言 つ て も過 言 で は な い 。我 々がS35を 用 い, 動 物 に お い て 軟 骨 と骨 基 質 の Chondroitin sulfate 代 謝 に つ い て の 老 化 現 象 を 研 究 した 結 果 は, こ れ を 如 実 に 物 語 つ てお り(18), Ca45に つ い て も 殆 ん ど同 様 の傾 向が あ る こ とを認 め て い る。 脊 柱 の老 化 現 象 は 先 ず 椎 間軟 骨 に 現れ, そ の 障 害 に よ る根 性 坐 骨 神 経 痛 や腰 痛 が10代 終 り か ら20代 に 多 く生 じ, 30∼40代 以 後 に な る と, 椎 間 板 変 性 と相 俟 つ て, 反 応 的 な 脊 椎 縁 骨 増 殖 に よ る変 形 性 脊 椎 症 が急 に 増 加 し て来 る。 教 室 中本(15)は 椎 間板 の 年 令 的 変 化 を92例 の 解 剖 体 に よつ て 調査 し (図1), 一 般 に 年 令 と共 に 全 身 に対 す る 高 さの 比 率 が 低 下 す る こ と, 髄 核 造 影 像 が 次 第 に 乱れ る こ と, 但 し脊 椎 粗 鬆 症 で は, む しろ 丸 く大 きい 事 な どを 認 め た。 女性 が75%以 上 を 占め る脊 椎 粗 鬆 症 は, 更 年 期 以後 よ り増 加 し. 変 形 が 加 わ つ て腰 痛 の原 因 とな つ て い る。 今 回, 我 々は, 脊柱 に 変 化 の あ る老 人 性 の腰 痛 疾 患 に 限定 し, これ に 関 す る教 室 の主 な研 究 業 績, 更 に, 最 近 に お け る治 療 法 と成 績 を 紹 介 し考 察 を加 え た い。 1 労 力 の 種 類 と腰 痛一般 に つ い て 腰 痛 の 頻度 は職 業 と環境 に よつ て異 な り, 農 村 で は老 年 老 程 多 く, 島 の調 査 に よれ ば(17)40 代25%, 50代35%腰 痛 を 有 してい る に対 し, 教 室 渡 辺(21)が 炭 鉱 労 働 者 に つ い て 調 査 した も ので は, 腰 痛 患 者 は む しろ淘 汰 せ られ る た め に30代 を ほ ぼ 最 高 と して増 加 して い な い。(表 1,2)。 更 に, 大 工 場 軽 中 労 働 者 に 比 し明 らか に 炭 鉱 労 働 者 に 頻 度 が高 く, 鉱 内 は 鉱 外 よ り二 倍 程 率 が 高 い こ とは, 労 働 の 重 さが 腰 痛 の原 因に な り易 い こ とを物 語 つ て い る。 渡 辺 はO炭 鉱 病 院 に お け る腰 痛 患 者 二 百 余 例 に レ線撮 影 を 行 い, そ の 50%に 変 形 性 脊 椎 症 を認 め, 最 も頻 度 の高 い 病 変 で あ る事 を 指 摘 して い る。 2. 変 形 性 脊 椎 症 脊柱 老 人 性 変 化 の 最 も重 要 な も の の一 つ で, 炭 鉱 労 働 者 で は20代3.3%に 対 し30代38%, 40代80%, 50代 以 上 は92%以 上 に 発 現(21)(表3), また 教 室 浪 越(14)が一 般 人 屍 体70例 に つ い て 調 査 した 結 果 も これ と大 差 は な いが, 前 者 に 比 して30代 40代 に 於 け る率 が10∼20%低 くな つ て い る。 原 因 ・成因 に 関 す る考 察: 脊 椎 変形 は 椎 間軟 図1 髄 核 造 影 所 見 の 年 令 的 変 化 (中 本 に よ る) 表1 年 令群 人員に対す る腰痛の頻度 (島及び渡辺に よる) * 実態調査に よる年間腰痛老 表20炭 鉱 に お け る年 令 別 腰 痛 患 者 発 生 頻 度 (5年 間) (波辺 に よ る) 表3 変形性脊椎症 の変化 の程度 と年令 (渡辺に よる)
骨 の 損 傷, 変 性 に 続 発 す る もの で あ る事 は 認 め られ てい る。 浪 越, 中本 が 指 摘 して い る如 く, 椎 間 軟 骨 は10代 後 半 に退 行 変性 を し始 め, 線 維 輪 断 裂, 髄 核 転 位 脱 出等 は20代 に 多 く生 じ 始 め る。 弾 力 性, 固定 力 を 失 い, 脊 椎 に 附 着 す る諸 靱 帯, 腱, 関 節 嚢 に 異 常 の 索 引 力, 圧 力 が 加 わ る と言 う機 械 的 刺 戟 に対 し, 又, そ れ らの 組 織 的 化 学 的 変 化 に 呼 応 して, 脊椎 縁 当 該 部 位 に 反 応 性 骨 増 殖 を 生 成 す る。 教 室 陳 内 は(7), 嘗 て 椎 間 板 に 物 理 的 化 学 的 刺 戟を 与 え, 実 験 的 に 容 易 に 変 形 性 脊 椎 症 を 生 ぜ しめ て い る。 レ線 所 見 (図2): 種 々な 形 と 大 い さ の 骨 堤 形 成 が 第 一 で, 椎 間 板 の高 さ の 減 小 不 整, 石 灰 化, 椎 体 面 硬 化, 関 節 裂 隙 狭 小 変 位 等 が 見 ら れ, 変 化 の 程 度, 罹 患 椎 数 は 年 令 と共 に 増 加(8), 老 年 者 で は 骨 粗 鬆 が 加 わ つ てい る。 症 状 発 現率 に つ い て: これ らの変 化 を 有 す る もの の 内, 腰 痛や 神 経 障 害 を 来 す も のは む しろ 一 部 に過 ぎな い 点 に 問 題 が あ る。 レ線 像 で40 代 の もの の80%に 変形 を 認 め 乍 ら, 疼 痛 を 訴 え た も の は10∼30%に 過 ぎな い 。 我 々が, この三 年 間 に来 院 した306例 に つ き, 障 害 状 態 を 調 査 した 処, 腰 痛 のみ 訴 えた も の は, 第1度 (軽 度 の変 形) 49%, 第2度 (中 等 度) 57%, 第3度 (高 度) 35%, 下 肢 に疼 痛 や 神 経 障 害 を 来 して い る も のは, 第1度51%, 第2度43%, 第3度65%と な り, 第3度 に 多 少 多 くな つ て い る他, 障 害 程 度 は 骨 変 形 程 度 と殆 ん ど明 らか な 関 係 は 見 出せ な か つ た 。 椎 間 板 の 著 明 な 変 性 圧 潰 が 下 部 腰 椎 に 存 在 し て も, 根 性 坐 骨 神 経 痛 を 来 さ な い例 は 多 い。 但 しこれ らは 日常 生 活 の範 囲 内で あつ て, 労 働 に 耐 え うる能 力 に つ い ては 変 形 の程 度 が 関 係 して い る と思 わ れ る。 下 肢 の 疼 痛, 知 覚 障 害 を 合 併 して い る もの が 約 半 数, Lasegue 症 候 が35%例 に存 在 す る 事 は 注 目す べ きで あ ろ う。 そ の 原 因 に つ い て は, 椎 間 板 ヘ ル ニ ァ の合 併, 椎 体 後 縁 の骨 増 殖 が 挙 げ られ る。 また, 症 例 中に は, 椎 間 板 変性 に よ り椎 体 後 方 辻 りが 起 り, 後 縁 で馬 尾 神経 を 圧 迫 障 害 した と思 わ れ る例 が あ る事 は注 目す べ きで あ ろ う。症 例 は そ の1例 で, Myelography に よ り造 影 剤 通 過 障 害 を 明瞭 に 認 め, 椎 弓切 除 術 に て軽 快 した (図2)。 腰 痛 の 原 因に つ い て も, 所 謂 腰 痛 症 と同様, 確 な 事 は 不 明 で あ る。 恐 ら く硬 膜 や 諸 靱 帯, 関 節 嚢, 筋 膜 等 に お け る Fibrositis, Neuritis 等 に よ る ので は な いか と考 え られ, 筋 膜 性 腰 痛 に つ い て は諸 富(12)の 詳細 な研 究 が あ る。 治 療, 遠 隔 成 績: 変 形 性 脊椎 症 の治 療 は 大 部 分 で 対 症 的 で あ る が, 椎 間 板 ヘ ル ニ アを 合 併 し た り, 後 方是 りが あ つ て 神 経 根 を 圧 迫 して い る 場 合 に は, 椎 弓切 除 を 必 要 とす る事 は 勿論 で あ る。 疼 痛 を 有 す る変 形 性 脊 椎 症 に 対 し我 々が 行つ て い る非 観 血 的治 療 は-1) 全 身 的 局 所 的 安 静, 疼 痛 の強 い 時 期 に は, 或 期 間 ギ プ スベ ツト や 軟 性 コル セ ッ トの適 用 が 有 効 で あ る。 2) 薬 物 と して は 鎮 痛,鎮 静,筋 弛 緩 剤 を 投 与 す る。 ビ タ ミ ンB1, C剤 の 大 量 投 与 コ ン ドロ イ チ ン硫 酸 塩 の 静 注 併 用 も奏 効 す る様 で あ る。 副 腎 皮 質 ホル モ ンは 殆 ん ど無 効 で あ るが, 関 節 リュ ーマ チ を 合 併 す る例 で は 腰 痛 に 対 して も有 図2 変 形 性 脊 椎症 ミエ ロ グ ラ フ ィ ー像 第2, 3腰 椎 間 に て造 影 剤 が 停 止 して い る最 も高 度 な る例 の1つ
効 な こ とが あ る。3) 中 等 度 以 下 の例 に, 数 年 前 よ り骨 盤 牽 引 を 適 用 し, 約40%例 に 有 効 で あ る こ とを 認 め た。 最 近 我 々は 間 激 的 機 械 牽 引 装 置 を 設 置 し, 応 用 して い る 。有 効 率 は 重 錘 牽 引 よ り高 く, 使 用 中 も快 適 で あ る と 言 わ れ る(18)。4) 温 熱 水 治 療 法 の 効 果 に つ い て は 特 に 記 す る迄 もな い で あ ろ う。5) 恢 復 訓 練, 生 活 指 導, 精 神 的 指 導 も勿 論 重 要 で あ る。 我 々は 今 回, これ らの疾 患 の 長 期 経 過 に つ き 調 査 した 処, 3∼10年 後 の現 在, 結 果 の 判 明 せ る67例 中, 既 に 痛 み が治 療 して い る もの19 (31%), 軽 快29 (45%) 不 変14 (22%) 悪 化 2 (3%) とな り2/3が 治 療 又 は 軽快 して い る 事 は 注 目す べ きで あ ろ う。 変 形 の程 度 と予 後 の 良 否 は, 殆 ん ど相 関 々係 を 認 め な い。 只, 変 形 の 非 常 に 高 度 な 例 は, 痛 み も知 覚 障 害 も頑 固 に 残 存 して い る例 が あ る。 尚, 痛 み を 誘 発す る 因 子 は, 農 作 業 の 様 な 腰 の 屈 伸 を 繰 返 す こ と, 中腰 の 仕 事, 長 途 の 歩 行, 荷 物 の 運 搬, 寒 冷 の順 に な つ て い る。 3. 脊 椎 粗 鬆 症 レ線 所 見 (図3) 腰 痛 を 来 す 脊 柱 の老 化 現 象 の 内, 最 も重 要 な もの の 第2は 脊 椎 粗 鬆 症 で あ る。 骨 格 に お い て 骨 質 の 量 が 減 少, 即 ち, 骨 の無 機 塩 類 も有 機 基 質 も 同比 率 で 減 少 して い る もの で, 皮質 も骨 梁 も韮 薄 細 少 化 し, 強 靱 性 を 失 つ て, 体 重 のみ に て 容 易 に 病 的 骨 折 し, 圧 潰 変 形 を 来 す に 至 る。 椎 間 軟 骨 は 逆 に 水 分 量 を 増 して膨 化 す る た め, 脊 柱 は 屡 々魚 椎 状 を 呈 して い る。 レ線 で骨 透 化、 性 が 増 し, 残 存 骨 梁 と皮質 の outline は 却 つ て 明 瞭 化 して い る のが 見 られ る。 老 人 性 後轡 は, 胸 椎 に お い て 狭 小 化 せ る椎 間 板 と前 縦 靱 帯 の 石 灰 化 変 性 を 伴 い, 背 筋 力 不 全 に よつ て起 つ た も の で, 高 度 の 場 合, 強 直 を 起 す に至 る。 脊 椎 粗 鬆 症 で, 下 部 腰 椎 に 偽 性 た り症 を 伴 つ て い る例 が あ る事 は 興 味 深 い 。 病 因: 骨 粗 鬆 は 老 人 の場 合, 生 理 的 と見 て よ い で あ ろ う。 現 在, 老 人 性 骨 粗 鬆 症 は 骨 生 成 の 減 退 が 主 で あ る事 は 認 め られ て お り(20), 原 因 と して は, 性 腺 の 衰 退, 殊 に Anabolic steroides の 減 少 と(16), 栄 養 殊 にCa摂 取 量 不 足(13)が挙 げ られ て い る。 原 因 の 一 部 に は, 細 尿 管 の 再 吸 収 機 転 の 変 化 も関 係 が あ り, 教 室 前 園 の 研 究 で は(11), 性 ホ ル モ ン も腎 に 作 用 して, 上 皮 小 体 ホ ル モ ン とは逆 に, 尿 中 無 機P, Caの 排 泄 を 減 少 させ る 作用 が あ る事 を 証 明 して い る。 胃腸 障 害, 糖 尿 病 や 腎疾 患 を 有 して い る もの が 時 に 見 られ る が, 原 因 的 関 係 に つ い て は, 未 だ 充 分 に判 明 して い な い(20)。 症 状, レ線 所 見 との 関係: 脊 椎 粗 鬆 の み で は疼 痛 は な い。 続 発 した 大 小 の 圧 迫 骨 折, 椎 体 変位, 後 縁 骨 棘 形 成 等 に よ る硬 膜 刺 戟, 周 辺 軟 部組 織 に お け る Fibrositis, Neuritis 等 に よ り疼 痛 が 起 る の で あ ろ うと考 え られ てい る。 殆 ん ど誘 因 と思 うこ と は な く痛 み を 発 し, 脊 柱 よ り も腰 背 筋 肉, 仙 腸 関 節 領 域 に 訴 え る ものが 多 い 。 骨 粗 鬆 と椎 体 変 形 の 両 者 を 加 味 し, レ線 所 見 か ら疾 患 の程 度 を 三 段 階 に 分 け る と, 年 令 と共 に 高 度 な も の が 多 くな つ て い る のは 当 然 で あ ろ うが, 患 者 数 と しては 中等 度 の も の が 多 く, 一 般 に, 骨 変 化 の 程 度 と疼 図3 脊 椎 粗 鬆 症
-49-痛 や 神経 症 状 の 発現 率, 程 度 とは, 著 し く高 度 な 場 合 は 別 と して, 無 関 係 で あ る と云 う興 味 あ る 結 果 を 得 て い る。 図4a, b胸 腰 椎 部 に 病 的 骨 折 を 屡 々起 す た め, 激 しい 疼 痛 が 季 肋 部や 腹 部 に 放 散 す る事 が 多 い。 又 当然, 癌 転 移, 副 甲 状 腺 機 能 亢 進 症, 骨 軟 化 症, 多 発性 骨 髄 腫 等 と も 鑑 別 しなけ れ ば な らな い。 下 肢 に 異 常 を 訴 え る もの は, 各 程 度 と も35∼45%に 存 在 し, 知 覚 障 害 を有 す る もの は3%に あ つ て 比 較 的 少 い 。 血 液 化 学 的 所 見 (表4): 明 らか な こ とは, 大 多 数 に お い て血 沈 値 の 中 等 度 の 亢 進 を 見 る こ とで, 血 清 総 蛋 白量 は総 て 正 常 で あ るが, 骨 粗 鬆 の 程 度 が増 す に つれ て, Alb. の 減 少 Glob. 中 β及 び γの 増 加 が 認 め られ た 。 血 清 無 機 燐
Ca, alkali, acid-phosphatase は す べ て 正 常 値 で あつ た 。 治 療 と遠 隔 成 績 (図5): 我 々が 今 回3∼10 年 後 の 予 後 調 査 を 行 つ た 結 果, 成 績 が 判 明 した 31例 中29%は 単 な る対 症 療 法 に て殆 ん ど完 全 に 痛 み は 消 失, 26%が 軽 快 して お り, 不 変26 %, 悪 化1096, 死 亡9.7%と なつ て い る 。 レ 線 所 見 に て粗 鬆 程 度 の進 行 して い る もの も存 在 した 。 治 癒 乃 至 軽 快 した55%の 例 に お い て, 効 果 が あ つ た と思 わ れ る治 療 法 は, 鎮 痛 剤, 男 女性 ホ ル モ ン, ギ プ スベ ッ トや コル セ ッ トに よ る安 静 固 定, 温 熱 水 治 療 等 で あ る と答 え て い る。 我 々は 数 年 前 よ り各 種 蛋 白 同 化 ス テ ロイ ドホ ル モ 図4a 脊 椎 粗 鬆症 の程 度 と障 害 との関 係 図4b 変 形 の 程 度 と予 後 の関 係 図5 脊 椎 粗 鬆症 遠 隔 調 査 成 績 (31例) 表4 骨 粗鬆患者の血沈値 (血清蛋 白及び分劃, ム コ蛋 白等 の平均値)
-50-ン を2∼10カ 月 間 に わ た り投 与 し観 察 した 結 果(3) anabolic steroids は2∼3週 で 疼 痛 緩 解 効 果 を 認 め 始 め, 尿 中N, Caの 排 泄 が 減 少, 21例 中13例 に2∼5kgの 体 重 上 昇 を 認 め た 。 ま た, 血 沈 値 が 若 干 好 転 し て い る が, 他 の 血 清 化 学 的 所 見 は 有 意 の 変 化 を 見 な か つ た 。 レ線 所 見 で 骨 粗 鬆 程 度 の 改 善 は 一 例 も 認 め な か つ た が, 一 般 に 体 力 が 上 昇 し, か な り の 家 事 労 働 に 耐 え ら れ る 様 に な る 事 は 確 か で あ ろ う。 し か し 未 だ 若 干 の 副 作 用 を 有 し て い る た め, 大 量 長 期 使 用 は 慎 し む べ き で あ り, 計 画 的 に 与 え て こ そ よ い 結 果 が 得 ら れ る こ と を 経 験 した 。 同 時 に Ca剤, 乳 製 品 を す す め る こ とは 有 意 義 で あ る と思 う。 生 活 指 導 や 精 神 面 に お け る 援 助 は 肝 要 で あ る 。
4. Senile ankylosing hyperostosis of tLe spine (Forestier-Rotes)
脊 柱 の 老 人 性 疾 患 で, 腰 痛 や 神 経 症 状 を 起 す こ と は 少 く, 強 直 性 脊 椎 関 節 炎 及 び 変 形 性 脊 椎 症 と の 鑑 別 上 問 題 に な る も の に 所 謂 Forestier 氏 病(5)が あ る 。50才 殊 に60才 以 上 の 老 人 の 胸 椎 腰 椎 稀 に 頸 椎 の 前 縦 靱 帯 が 殆 ん ど連 続 的 に 化 骨 す る もの で あ る(9)(図6), が 強 直 性 脊 椎 関 節 炎 と異 る 点 は, 脊 椎 関 節 が 原 発 的 に 侵 さ れ ず, 骨 粗 鬆 も少 く, 仙 腸 関 節, 他 の 関 節 の 炎症, 強 直 を 伴 わ な い 。 しか し両 者 とも陳 旧化 す る と 鑑 別 が 困 難 な こ とが あ る。 予 後 が 良 好 で 疼 痛 も 軽 い た め, 余 り大 げ さな 治 療 は 必 要 な い とされ て い る(5)(10)。我 々 も これ と思 わ れ る症 例 を9例 経 験 して い る。 結 語 老 人 に お い て は 変形 性 脊 椎 症 も脊 椎 粗 鬆 症 も 或 程 度 は 生理 的 の もの で あ り, 骨 変 化 の 程 度 と 障 害 程 度 及び 経過 の 良 否 とは, 著 し く高 度 な 場 合 は 免 も角 と して, 殆 ん ど一 致 して い な い 事 は 大 き い問 題 で あ り, 腰 痛 の診 断 及び 治 療 上注 意 す べ きで あ ろ う。 腰 痛 を来 した これ らの 患者 に つ い て, 長 期 間 の 経過 を 調 査 す る と, 何 れ も 1/2∼2/3の 例 が 単 な る対 症 療 法 に て痛 み が治 癒 又 は 緩 解 して い る こ とは, 老 人 に とつ て幸 運 な こ と で あ る が, 腰 痛 の 真 因 究 明, 治 療 法 の進 歩, そ して 予 防 法 に つ い て, 一 段 と研 究 を 進 め ね ば な らい 事 を 痛 感 してい る。
図6 Senile Ankylosing Hyperostosis of the Spine 引 用 文 献 1) 天 児 民 和: 綜 合 臨 床, 1 (9): 894, (1952). 2) 天 児 民 和: 治 療, 38 (2): 245, (1956). 3) 天 児 民 和, 竹 光 義 治, 他: 臨 床 と 研 究: 39 (9); 1401, (1962).
4) Goff: Clinical Orthopedics Vol 5: 8, (1955). 5) Forestier, J., & Rotes-Querol, J.; Anuales of
the Rheumatic Diseases 9: 321, 1950. 6) 長 谷 川 春 雄: 福 岡 医 学 雑 誌, 49 (3): 477, (1958). 7) 陣 内 日 出 二: 福 岡 医 大 誌, 32 (7): (昭14). 8) 久 木 田 康: 医 学 研 究, 29 (3): 850, (1959). 9) 笠 井 実 人, 得 津 雄 司, 他: 整 形 外 科, 13 (5): 381, (1962).
10) Lackner, J.; Fortsch. Rontgenstr, 91: 71, (1959).
11) 前 園 三 郎: 医 学 研 究24 (2): 47, (1954). 12) 諸 富 武 文: 整 形 外 科 と 災 害 外 科, 1: 51, (昭27). 13) Nordin, B. E. C; Bone as a Tissue, Editors; Rodahl, K., Nicholson, J. T., Brown, E. M.
-51-Mc Graw-Hill Book Company, Inc. (1960). 14) 浪 越 康 夫: 日 整 会 誌, 4 (1): 42, (昭4). 15) 中 本 富 士 郎: 広 島 医 学 4 (12): 842, (昭28). 16) Reifenstein E. C. Jr.: Bone as a Tissue 83, Mc
Graw-Hill Book Company Inc. (1960). 17) 島 啓 吾, 石 橋 大 和, 他: 日 整 会 誌, 24: 239 (昭
25).
18) Takemitsu, Y.: Kyushu Journal of Medical Science 12 (5): 251, (1961).
19) 竹 光 義 治, 杉 岡 洋 一, 他: 整 形 外 科 と 災 害 外 科, 11 (2), 投 稿 中
20) Urist, M. R.: Bone as a Tissue p. 18, 前 記. 21) 波 辺 良 之: 医 学 研 究, 25 (9): 1689 (昭30).