• 検索結果がありません。

太田川放水路に形成された干潟の生態環境に関する考察

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "太田川放水路に形成された干潟の生態環境に関する考察"

Copied!
15
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)土木学会論文集B Vol.66 No.4,344-358,2010.11. 太田川放水路に形成された干潟の 生態環境に関する考察 中下 慎也1・日比野 忠史2・駒井 克昭3・福岡 捷二4・阿部 徹5 1学生会員. 広島大学大学院工学研究科・日本学術振興会特別研究員DC (〒739-8527 広島県東広島市鏡山 1-4-1) Email: [email protected] 2 正会員 広島大学准教授 社会環境システム(同上) 3 正会員 広島大学助教 社会環境システム(同上) 4 フェロー会員 中央大学教授 研究開発機構(〒112-8511 東京都文京区春日 1-13-27) 5正会員 中国地方整備局太田川河川事務所(〒730-0013 広島県広島市中区八丁堀3-20). 太田川放水路に形成されている干潟の特性を明らかにするために,1996年から2008年にかけて底質,水 質の経年変動,生物分布および有機泥の捕捉調査を行った.さらに,生態環境の形成に果たす河川構造物 の役割について検討するために,生物分布,底質,地下水質,地下水位調査を行った.調査結果より,二 枚貝の棲息には地盤内の間隙の保持等,地下水流動によって起こる二次現象が重要であることを明らかに した.また,護岸前後に形成された水位差によって促進される地下水流動が地盤内の間隙への有機泥の堆 積抑制等に寄与していることを明らかにし,地下水環境を考慮した河川構造物の構築により安定した多様 な生態環境が形成されることを示した.. Key Words : benthos, groundwater, river structure, tidal flat, water quality and sediment environment. 1. はじめに. 往最大の洪水を経験した.放水路は洪水に伴う土砂輸送 や数日間継続する河川水の淡水化等の多大な擾乱を受け 太田川は太田川デルタの扇頂で放水路と5本の市内派 ており,洪水によって生態環境が甚大な影響を受けてき 川に分派している.広島湾における潮差は年間を通じて たことが考えられる. 約4mあり,放水路では満潮時に海水が河口から10km上 また,河口への砂礫の堆積により形成された太田川デ 1) 流の分派域を越えて遡上している .この潮差とデルタ ルタは地下30m付近まで砂礫が堆積し,地下水位の変動 地形の緩やかな河床勾配によって放水路には砂質干潟が 量が大きい特性を有している7).沿岸帯水層における水 発達している.放水路は1969年の構築から約40年を経て, 循環については帯水層中に形成される塩水楔について多 現在では自然干潟としての機能を十分に有しており,海 く議論がなされてきたが8), 9),生態環境を考慮した研究 域から汽水域に棲息する底生生物が多く棲息している. は少ない.太田川では,太田川デルタ地下水が河川の塩 デルタ河口干潟の生態環境(底質環境,水質環境,生 分状態や海域・河川への有機泥の堆積等に影響を及ぼし 物棲息環境)を形成する重要な要因として,水温や塩分 ていることが徐々に明らかとなっており10), 11),広域的な だけでなく,海水の遡上形態,干潟に輸送される有機泥 地下水循環もデルタ河口干潟の生態環境を形成する重要 2) 3) の性状 ,干潟に繁茂する藻類の種類や出現量 ,河川流 な要因であることが予想される.そこで,本研究では十 数年にわたる連続調査結果から,太田川放水路に形成さ 量,地下水流れ4), 5), 6) 等が挙げられる.特に,太田川放水 れた干潟の特性を明らかにし,洪水やデルタ地下水位の 路に流入する淡水流量は祇園水門(放水路)と大芝水門 変動等を含めた種々の要因が生態環境に及ぼす影響につ (市内派川)によって制御されており,平水時には計画 いて検討した. 上,概ね放水路へ1割,市内派川に9割が分派されている さらに,河口から5.5km上流の太田川放水路中流域に が,洪水時(分派前の流量が450m3/s以上)には祇園水門 は河道内に構築された石積護岸により,河道が低水路と が開放され,放水路への流出量が急激に増大する.太田 3 高水敷に区分されている.河道が複断面形状を有する場 川では1980年代からピーク流量が1000m /sを超える洪水 3 合には,高水敷と低水路間に地下水流が形成されること を25回以上経験しており,特に2005年には6500m /sの既. 344.

(2) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,344-358,2010.11. が予想される.沿岸域に構築された構造物が生態系に及 ぼす影響に関しては,防波堤周辺の流れ場に応じて変化 する底質環境や生物棲息環境について多くの研究がなさ れている12), 13)が,河川構造物周辺に形成された地下水場 や生態環境を対象とした知見は少ない.そこで,豊かな 河川環境を創造するために必要な機能を発揮する構造物 の在り方について明らかにすることを目的として,河川 構造物周辺で形成された生態環境について検討した.. 3章 太田川放水路に形成された干潟の特性 3.(1), (2) 放水路に棲息する生物の分布と年変動 (生物調査). 3.(3) 河川水質,干潟土壌の特性 (底質調査,水質調査). 3.(4) 干潟へ輸送される有機泥の性状と底質環境の変化 (有機泥捕捉調査,底質調査). 3.(5) 干潟土壌と二枚貝の棲息環境 (底質調査,生物調査). 3.(6) 洪水による生態環境の変化 (水質調査,底質調査,生物調査). 4章 河川構造物周辺に形成された生態環境. 2. 干潟の生態環境を明らかにするための手法. 4.(1) 複断面河道周辺に形成された地下水環境 (地下水質調査,地下水位調査). (1) 研究の手順 図-1には本研究の調査内容と検討項目が示されている. まず,太田川放水路全域を対象として1996年から2009年 の間に底質,水質の経年変動,生物分布および潮汐に伴 って輸送される有機泥の捕捉調査を行った.調査結果か ら,河口域の水温・塩分,デルタ地下水位等の周辺環境 の長期変動や干潟の底質環境(有機物量,細粒分含有率, 間隙率等)と底生生物の棲息数の関係について明らかに した.また,観測期間中に発生した洪水に伴う擾乱によ る生態環境の変化についても擾乱前後の調査結果を用い て検討を行った. 次に,太田川放水路中流域の河川構造物(石積護 岸)周辺に形成された干潟を対象に,2004年から2009年 の間に生物分布,底質,地下水質,地下水位調査を行い, 護岸周辺に形成された底質環境,地下水環境の特性を明 らかにし,生態環境の形成に果たす河川構造物の役割に ついて検討した.さらに,太田川放水路全域で行った調 査と同様に観測期間中に発生した大型藻類の繁茂や洪水 による干潟表層の底質,地下水環境の変化に着目し,有 機泥堆積下における生態環境,洪水によって生じる低水 護岸周辺干潟の地下水の淡水化と塩分の回復機構につい て検討した.. 4.(2) 護岸周辺に形成された底質,生物棲息環境 (底質調査,生物調査). 4.(3) 洪水による干潟地下水の塩分変動 (地下水質調査). 4.(4) 干潟環境の形成に果たす河川構造物の効用. 豊かな河川環境を創造するために必要な機能を発揮する構造物の在り方. 図-1 調査内容と検討項目 Gion gate 0. 2 km. St.6 (Nagawaku). St.5 (Gion) St.4 (Mitaki). Ota River Floodway. Oshiba gate. Oshiba. St.3 (Koi). St.2 (Kougo). Branch Rivers. St.1 (Kusatsu) Water quality Sediment survey Biological environment Groundwater level. Offshore the river mouth. 図-2 太田川放水路で行われた調査と調査地点. (2) 底質,水質,生物棲息環境の調査 図-2には太田川放水路で行われた調査と調査地点が示 されている.調査地点は太田川放水路河口のSt.1(草 津)と河口から3km上流のSt.2(庚午),5.5km上流のSt.3 (己斐),7.5km上流のSt.4(三滝),9km上流のSt.5(祇 園)および10.5km上流のSt.6(長和久)に設定された. a) 底質調査 干潟の底質環境は,干潟土壌の粒度分布,有機物量, 栄養塩量等から検討した.2003年から2008年の6年間, 夏期を中心に約1ヶ月の間隔で37回干潟土壌を採取し, 自然環境の変動に伴う干潟底質の変化を調査した.干潟 土壌は干出時に深さ5cm程度まで採取され,含水比,強 熱減量(IL),粒度分布が測定された.さらに,二枚貝 の棲息が確認された場において,乾燥試料の炭素,窒素. 3.0. Water temp. and salinity Water temp. and depth Sediment survey and biological environment. Flood plain. 2.0 1.0. Vegetation. Tide pool. Revetment. Sediment trap. Main channel tidal flat. 0.0. Pier. -1.0 Observation well. -2.0. Groundwater table. -3.0 10. 20. 30. 40. 50 60 70 80 90 100 110 120 130 150 140 150 Distance from letf distance mark [m]. 図-3 太田川放水路中流域(St.3)における横断地形と機器設 置位置(図中には実線で 2009 年 1 月 15 日に測定された 大潮最干時の地下水面位置を示す). 345.

(3) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,344-358,2010.11. 含有量,湿潤試料の栄養塩(クロロフィル-a,フェオフ ィチン,塩化物量等)が測定された. また,大型藻類の異常繁茂が確認された期間において は,30cm×30cmのコドラート内に出現した藻類,干潟土 壌を採取し,藻類の乾燥重量と干潟土壌のILが測定され た.干潟土壌の栄養塩は底質調査法14),含水比,IL,粒 度分布はJIS規格に基づいて分析された. b) 有機泥捕捉調査 干潟に堆積する有機泥の沈降量は,河道に設置した円 筒容器(セジメントトラップ)に捕捉された有機泥量か ら検討した.本調査で捕捉された有機泥は,二次元水路 を用いた室内実験において流速が20cm/s程度の流れであ れば有機泥の捕捉が安定していること15),太田川放水路 における底層(河床面+40cm)の流速が最大で30cm/s程 度であること16),河床面+30cmに設置したときに底質の 巻き上がりの影響が出ていないこと2)から,干潟に堆積 する有機泥を捕捉しているといえる.St.2,St.3では,内 径10cmのセジメントトラップの上端が干潟面から30cm になるように埋設され,St.5においては内径7cmのセジ メントトラップ6本の上端が干潟面から30cmになるよう に河床上に設置された.セジメントトラップの設置期間 は15日または30日間を基準としている.セジメントトラ ップに捕捉された有機泥は浮遊物質量(SS),粒度分 布,IL等が測定された.SSは沿岸環境マニュアル217)に 基づいて分析され,セジメントトラップの開口部の面積 と冠水時間からSSfluxが算出された.有機泥は,75μmの ふるいを用いて分けられた後,ふるい通過分は SALD2000-J(島津製作所)を用いて粒度分布が分析され. る生物棲息数を検討した.調査は年に3回(春季,夏季, 秋季)を基準として,大潮干潮時に図-2に示すSt.1(右 岸),St.3(左岸),St.4(左岸),St.5(右岸)の河岸 干潟で行われた.調査場所は各干潟の横断面に沿って, 高潮位帯,中潮位帯,低潮位帯の3地点で行われ, 50cm×50cmのコドラート内の深さ20cmまでに出現した生 物の種類と個体数が測定された. (3) 河川構造物周辺での地下水環境と生物棲息調査 a) 地下水質・地下水位の連続測定 図-3にはSt.3における河道の横断地形と機器設置位置 が示されている.地形に併せて実線で2009年1月15日に 測定された大潮最干時の地下水面が示されている.タイ ドプールは大潮期においても河川水が残留しており,水 量は河川水位とともに低下している. 地下水質は,干潟地盤下25cmに塩分・水温計を埋設 することで連続測定された.埋設して計測した塩分の精 度は採水した塩分との比較によって確認されている.低 水路干潟の機器は大潮最干地下水位(LGWL)以下に設 置された.同時に,河床付近の河川水の塩分・水温が連 続測定され,地下水と河川水の水質が比較された.また, タイドプールと低水路干潟の観測井(ストレーナ付塩ビ 管)に水温・水位計(JFEアドバンテック社)が設置さ れ,地下水位が連続測定された. b) 鉛直方向の地下水質,底質,生物調査 タイドプールを有する低水路干潟において,干潟表層 の地下水質の鉛直分布を測定し,石積護岸周辺で形成さ れる地下水の流れ場(タイドプール方向から低水路干潟 への地下水の流出)が推定された.さらに,2007年には 大型藻類の繁茂により有機泥が数mm堆積した干潟の凹 地において,地下水質の鉛直プロファイルと地盤内の棲 息生物を測定することで,有機泥堆積下での生態環境が 検討された.干潟地盤内の水質は,地下水多項目水質計 (AAQ-1183,JFEアレック社と556MPS,YSIナノテック 社)を用いて測定された. さらに,図-3に示す低水護岸から約20m地点において 低水路干潟表層から鉛直方向10cm毎に,現地干潟の優 占種であるイソシジミ(Nuttallia olivacea)の棲息数, IL,. た.また,出水後にはセジメントトラップで捕捉された 沈降土砂量から干潟への土砂堆積厚さが推定された. c) 水質調査 河川水の水温・塩分変動は,St.1,St3,St.5の3地点に 塩分・水温計(JFEアドバンテック社)を設置すること で測定された.塩分・水温計は朔望平均干潮位付近に設 置されており,潮位変動に伴った塩分を測定している. 機器設置高はSt.1ではT.P.-1.3m,St.3ではT.P.-1.2m,St.5で はT.P.-0.5mである.河川水位は,St.3で圧力計によって 測定した水位のほか,河口(St.1)と河口から15km上流 の矢口第一(非感潮域)では国土交通省によって計測さ れた1時間毎のデータを使用している. 太田川放水路周辺の水質環境として,国土交通省によ って大芝では1時間毎の太田川デルタの地下水位,太田 川放水路河口沖(河口から約3km地点,図-2)では表層 (Surface-1m)と水深約20m(Bottom+1m)の海水温・塩 分が年に4回測定されている. d) 生物調査 1996年から2008年にかけて生物調査を継続的に行い,. 湿潤密度,含水比,土粒子密度の測定を行い,低水護岸 周辺に形成されている生態環境が検討された.生物棲息 数は10cm毎に30cm×30cmの範囲に出現したイソシジミ の個体数(1m2当りに換算)とし,間隙率は湿潤密度, 含水比,土粒子密度の分析結果から算出された.. 3. 太田川放水路に形成された干潟の特性 (1) 放水路干潟における底生生物の棲息分布 図-4 には(a)放水路に形成されている干潟地形と生物. 太田川放水路に棲息する生物の出現数と底質環境に対す. 346.

(4) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,344-358,2010.11. (a). 2km. 0 (b). St.1 イワフジツボ. St.5. St.4. St.3 (Chthamalus challengeri hoek). シロスジフジツボ (Balanus albicostatus) アナジャコ (Upogebia major). ニホンドロソコエビ (Grandidierella japonica). ニホンスナモグリ (Callianassa japonica ortmann). ウミナナフシ(Anthuridea) ヤドカリ (Anomura). チゴガニ (Ilyoplax pusilla) ヒライソガニ (Gaetice depressus). ケフサヒライソガニ (Hemigrapsus penicillatus) オサガニ (Macrophthalmus abbreviatus) マメコブシガニ (Philyra pisum). アシハラガニ (Helice tridens). コメツキガニ (Scopimera globosa). ヒメアシハラガニ. (Helice japonica). ヤマトオサガニ (Macropbtbalums japonicus). Crustacea. アラレタマキビ (Nodilittorina radiata) ホソウミニナ (Batillaria cumingii) ヒメコザラガイ (Patelloida pygmaea) マテガイ (Solen strictus). ホトトギスガイ(Musculista senhousia) アラムシロガイ (Reticunassa festiva) ソトオリガイ. カリガネエガイ (Barbatia virescens). (Laternula limicola). マガキ (Crassostrea gigas) クチバガイ (Coecella chinensis). アサリ (Ruditapes philippinarum) オキシジミ (Cyclina sinensis). チロリ (Glycera chiror). ヤマトシジミ (Corbicula japonica) イソシジミ (Nuttallia olivacea). イソゴカイ (Perinereis nuntia). ゴカイ (Neanthes japonica) イトゴカイ (Capitella capitata) Polychaeta. スジホシムシモドキ (Siphonosoma cumanense) イワムシ. Bivalve, Gastropoda. スピオ (Spionida). (Marphysa sanguinea) ヒラムシ (Polycladida). タテジマイソギンチャク (Haliplanella lineata). 図-4 (a)干潟地形と生物調査地点. Other. (b) 生物の棲息分布(1996~2008 年に棲息が確認された生物種). (St.No.は図-2 に示した地点と同じで太線が調査地点を示す:St.1 (右岸),St.3 (左岸),St.4 (左岸),St.5(右岸)の 4 地点). 調査地点,(b)1996 年から 2008 年にかけて放水路干潟で 棲息が確認された底生生物の棲息分布が示されている. 太田川放水路全域に干潟地形が発達しており,多様な生 態系が形成されていることがわかる.以下に太田川放水 路に棲息する代表的な底生生物の棲息状況について述べ る. a) 甲殻網 太田川放水路に棲息している代表的な甲殻網は,放水 路全域のいたる所の石垣や転石周辺に棲息するヒライソ ガニ(Gaetice depressus),ケフサイソガニ(Hemigrapsus penicillatus)である.ヒライソガニとケフサイソガニは 同様の干潟材料で構成される干潟に棲息している.St.3 付近には図-3 に示したように低水護岸が構築されてお り,大潮満潮時のみ冠水する護岸背面の高水敷には塩生 植物が繁茂している.地盤高の低いタイドプールには河 川水の流入とともに有機泥が堆積するため,底質はシル ト分を多く含んでおり,それぞれ低水路干潟と異なる底 質環境が形成されている.低水護岸前面の砂干潟にはコ メツキガニ(Scopimera globosa)やチゴガニ(Ilyoplax pusilla)が多く棲息している.護岸背面の塩生植物が繁 茂する高水敷にはアシハラガニ(Helice tridens),シル ト分を多く含むタイドプール付近にはヤマトオサガニ. (Macropbtbalums japonicus),中間域にはチゴガニが棲息 しており,底質環境に応じた多様な棲息分布が形成され ている. シロスジフジツボ(Balanus albicostatus)は放水路全域 に分布している.シロスジフジツボは低塩分に対する耐 性が強く 18),その棲息域は他の底生生物と比較して広い のが特徴である.イワフジツボ(Chthamalus challengeri hoek)は主に外洋性海岸に棲息していることが知られて おり 18),太田川放水路では河口付近の潮間帯最上部に棲 息している. アナジャコ(Upogebia major)はSt.1からSt.3の砂泥質干 潟に広く分布し,干潟を優占している(50cm×50cm内に 30 ~ 100 個 の 巣 穴 を 計 測 ) . ニ ホ ン ス ナ モ グ リ (Callianassa japonica ortmann)はアナジャコの棲息地と比 較して砂地に近い地点に多く棲息している19).一般的に アナジャコは巣穴の維持・形成のため,地下水流動性の 低い干潟に棲息しており,太田川放水路のアナジャコが 優占する干潟(Creagerの式から推定されたSt.1の透水係 数k = 0.0027cm/s)ではアサリやイソシジミ等の二枚貝を 確認することはできていない.地下水流動性と棲息する 底生生物種に相関関係があることがわかっており20),地 下水流動性の低下は,地下水の停滞や干潟の泥化が進ん. 347.

(5) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,344-358,2010.11 16 (a-1) 甲殻類 14 12 10 8 6 4 2 0 1200 (b-1) 甲殻類 1000 600. St.1. St.3. St.4. St.5. 16 (a-2) 二枚貝網,腹足網 14 12 10 8 6 4 2 0 500 (b-2) 二枚貝網,腹足網 400 300. 400. 200 200. 100. 0 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008. 0. 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008. Time [year] (1996-2008). Time [year] (1996-2008). 図-5 太田川放水路の各調査地点に棲息する底生生物(甲殻綱,二枚貝綱,腹足綱)の(a)種類数,(b)個体数の経年変動 34. 3.0. 33. 2.0. 32. 1.0. 31. 0.0. 30 29 28 1.0. -1.0 Surface -1m (a). SP SM FL WT. -2.0. Bottom +1m. -3.0 500. (c). 0.8. 400. 0.6. 300. 0.4. 200. 0.2. 100. 0.0. (b). 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008. Time [year] (1996-2008). 0. Sur. 18.0 25.8 22.6 10.7 Bot. 14.7 23.5 22.9 11.0. (d). 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008. Time [year] (1996-2008). 図-6 干潟周辺環境((a)海域塩分,(b)海域水温,(c)太田川デルタ地下水位,(d)月降水量の経年変動(水温は季節毎の 13 年間の平均 値からの差,太田川デルタ地下水位は 1 ヶ月の平均水位が示されており,水温の各季節の平均値が左下に示されている). でいることを示していることから,アナジャコの棲息の 有無で簡易的に干潟の地下水環境が推定できる. b) 二枚貝網・腹足網 太田川放水路に棲息している代表的な二枚貝は,アサ リ ( Ruditapes philippinarum ) , オ キ シ ジ ミ ( Cyclina sinensis ) , イ ソ シ ジ ミ , ヤ マ ト シ ジ ミ ( Corbicula japonica),ソトオリガイ(Laternula limicola),クチバガ イ(Coecella chinensis)である.アサリは St.3 で出現が確 認された時期もあるが,主に河口から St.3 の数 km 下流 まで棲息している.St.3 ではイソシジミ,St.4,St.5 にお いてはヤマトシジミが優占種となっている.ソトオリガ イは St.3 周辺の泥の堆積した場所に棲息しているが,砂 地においても数 cm 程度の泥の堆積とともに棲息が確認 されるため,干潟土壌の泥化状態の指標として用いるこ. とができる. c) 多毛網 太田川放水路ではゴカイ(Neanthes japonica)がSt.4~ St.5付近の砂質干潟を中心に最も多く棲息している.イ トゴカイ(Capitella capitata)は,St.1付近の砂泥質干潟に おける優占種となっており,St.3より上流域の砂質干潟 においても,砂干潟上に泥が数cm程度堆積すると堆積 泥に巣穴を掘り,泥と砂の境界付近に棲息が確認される ようになる. (2) 放水路干潟での生物棲息の経年変動 図-5 には太田川放水路の各調査地点に棲息する底生 生物(甲殻綱,二枚貝綱,腹足綱)の種類数,個体数の 経年変動,図-6 には(a)放水路河口沖での塩分,(b)水温,. 348.

(6) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,344-358,2010.11. (c)太田川デルタ地下水位(大芝),(d)広島地方気象台で 測定された月降水量の経年変動が示されている.生物調 査は図-4(b)に示す生物種を対象に行われているが,イワ フジツボ,シロスジフジツボの個体数は 1000 を超える ため,図-5 の甲殻綱の個体数にはフジツボ類の出現数 が除かれている.また,図-6 の水温は季節毎の 13 年間 の平均値からの差を示しており,各季節の平均値が左下 に示されている. 図-5 から放水路に出現する生物は種類数,個体数と も河口に近づくにつれて多くなっており,海域~汽水域 での多様性が高いことがわかる.また,経年的な変動を 見ると,個体数は季節的な変動量に比べて年の変動量が 大きいことがわかる.甲殻綱および二枚貝綱,腹足綱の 種類数,個体数とも放水路全域で大きく異なっているが, 数年間の変動傾向は各調査点で類似の傾向が現れる期間 がある. 図-6(b)に示したように冬期の海水温が上昇した 1999 年には個体数の減少が確認されるが,2000 年~2003 年 には海水温の低下に伴って二枚貝網,腹足網の個体数は 回復している.特に秋期の海水温が急激に低下した 2003 年には,多地点で種類数,個体数が大きく増加し ている.2005 年以降の海水温の上昇では,二枚貝網, 腹足網の個体数の低下が確認される.海水温が大きく上 昇,減少した年には海藻の繁茂状況によって干潟底質が 変化するため,生態環境を変える要因となっていること が予想される.海水温の変化に伴う個体数の変化は,単 純に生物の水温に対する耐性を示しているのではなく, 海藻の繁茂や有機泥の性状変化等による有機泥の堆積, 底生生物が捕食する懸濁物質の性状変化等がもたらす底 質環境の変動に対する耐性も含まれていると考えられる. 太田川デルタ地下水位は降水に応答して変動している (ただし,季節的な変動は海水位に依存している11))こ と,デルタ地下水位に対応して太田川河口沖の水深20m (Bottom+1m)付近の塩分が低下する傾向が見られるこ とから,デルタ地下水の河口域への流出量が塩分の季節 的な変化に寄与していることが示唆される.デルタ地下 水は年間を通じて約18℃の水温を維持しており7),デル タ地下水の流出により地盤内水温は安定側に変化(夏期 には水温低下,冬期には水温上昇)する.1996年以降, 甲殻綱,二枚貝綱,腹足綱の種類数は全体的にデルタ地 下水位(海水位)の上昇とともに増加しており,デルタ 地下水の河口域への流出も生態環境を形成する要因とな っていることが予想される.. 30 20. (a) St.1 Water level. 10 0 30 20. 2 0 -2. (b) St.3. 10 0 30. 0 (c) St.5. Salinity. 20. River dishcarge. 500 1000. 10 0 4. 5 6 Time [month] (Apr. - Jul.,2004). 7. 図-7 2004 年 4 月~7 月に測定された河川水の塩分変動(塩分は 満潮時のみを取り出しており,(a)の右軸は河川流量を示 す) 100 80. St.1 St.2. 60. St.3. 40. St.4 St.5. 20 0 0.01. 0.10 Grain size [mm]. 1.00. 5.00. 図-8 太田川放水路の各調査地点にて 2008 年 5月に採取された. (3) 放水路の河川水質,干潟土壌の特性 図-7 には 2004 年 4 月~7 月に St.1,St.3,St.5 の干潟面 上で測定された河川水の満潮時の塩分と河川流量の時系 列変化,図-8 には 2008 年 5 月に St.1~St.5 で採取された. 349. 干潟土壌の粒度分布. 干潟土壌の粒度分布が示されている.太田川放水路は海 水遡上量の季節的な変化により,St.3 においては春期 (4 月)と夏期(7 月)で 10 程度の塩分差が現われてい ること,出水により放水路全域で急激な塩分変動が生じ ていることから,長期的に安定した塩分場が形成されて いない.しかし,生物の棲息数・地点は河川水の急激な 塩分変動に呼応して大きく変化しているわけではなく, 図-4 と図-5 に示したように放水路の全域にわたって生 物が安定して棲息する場が形成されている. 干潟土壌は採取位置毎に異なった粒度分布を有してい る.放水路中流域~上流域(St.3~St.5)には細粒分 (75μm以下の粒子,粘土・シルト分)含有率が1%程度 の砂質干潟が広がっているが,St.5のように捨石や河道 断面の影響で局所的に高くなっている場所もある.下流 域(St.1~St.2)では,細粒分含有率が5%を超える砂泥 質干潟が広がっている.また,細粒分は高水敷に形成さ れたタイドプール(St.3)にも多く含まれていることが わかっている21).放水路の干潟土壌は河川流量や河口か らの距離のみによって決定されているのではなく,干潟 の周辺環境や河川構造物の構築によって空間的に多様な.

(7) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,344-358,2010.11. 材料特性を有している. (4) 干潟へ輸送される有機泥の性状と底質環境の変化 a) 有機泥沈降(輸送)量の季節変動 図-9 には 2004 年 6 月~2005 年 10 月の間に測定された (a)矢口第一での河川流量,(b)太田川放水路における有機 泥の沈降量,(c)細粒分含有率,(d)干潟土壌の IL の経時 変化が示されている.セジメントトラップは T.P.-0.5m~ +0.5m の範囲に設置されており,河川水位が T.P.+0.5m~ 2m の範囲の有機泥を捕捉しているため,有機泥の多く は海水とともに河口域から輸送されたものとして扱うこ とができる 2),22). 調査を行った 2004 年~2005 年では,有機泥の沈降量 は夏期に多く,7 月~9 月には放水路全域で 13g/m2/h 程 度の沈降量があり,8 割以上が細粒分であった.最も沈 降量が多かったのは 2004 年であり,各地点の最大値は St.2 で 28g/m2/h,St.3 で 22g/m2/h,St.5 で 20g/m2/h,St.6 で 28g/m2/h であった.冬期から春期(12 月~3 月)には 2 ~3g/m2/h の沈降量であり,夏期と比べ 2 割程度でしかな い. 夏期に有機泥の沈降量が多いにもかかわらず,干潟土 壌の IL は年間を通じて 3%以下で安定している.さらに, 2004 年と 2005 年の夏期には St.6 と St.3 でそれぞれ IL の 増加が生じているが,秋期には IL が低下する傾向にあ る. b)大型藻類の異常繁茂に伴う底質環境の変化 図-10 には 2003 年に測定された(a)矢口第一での河川流 量, (b)St.3 の低水路干潟における有機泥の沈降量,(c)異 常繁茂したオゴノリ(Gracilaria vermiculophylla (Ohmi) Papenfuss)の乾燥重量と干潟土壌の IL の経時変化が示さ れている.IL はオゴノリの繁茂期に大きく,3 月~6 月 に生じた干潟土壌の IL の急激な変化(泥化)はオゴノ リの異常繁茂と枯死によって生じている.泥化によって 生物相も大きく変化しており,河口付近に多く棲息する アナジャコが St.3 付近で初めて確認され(32N/m2),ソ トオリガイやイトゴカイの個体数も増加した.水温の上 昇とともにオゴノリの繁茂量が低下し,6 月の数回にわ たる出水(ピーク流量 800m3/s 以下)後に干潟表層の堆 積泥量が減少し,7 月上旬には干潟土壌の IL が約 1%ま で低下した.IL の低下とともに生物相は砂干潟におけ る生物相に戻っており,数ヶ月程度のオゴノリの異常繁 茂では,干潟の生物相が壊滅的な被害を受けていないこ と,オゴノリの掃流によって生物相が短期間に回復可能 であることが示唆される. 夏期の干潟土壌のILは有機泥の平均沈降量が13g/m2/h と高いにもかかわらず1%程度の増加であるのに対し, オゴノリの繁茂期には有機泥の沈降量が2g/m2/hと小さい が,ILは3%程度増加していることから,オゴノリの異. 350. 7000 6000 (a) 3000 2000 1000 0 30. (b). St.2. St.3. St.5. St.6. 20 10 0 100 95. (c). 90 85 80. St.6 (d). 4 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0. St.5 St.3 St.2 Jun./04 Aug.. Oct.. Dec.. Feb./05 Apr.. Jun.. Time [month] (Jun.2004 - Oct.2005). Aug.. Oct.. 図-9 2004年 6月~2005 年 10 月に測定された(a)矢口第一での河 川流量,(b)太田川放水路における有機泥の沈降量,(c)細 粒分含有率,(d)干潟土壌の IL の経時変化(図(d)は干潟 土壌採取日が縦線で示されている) 3000. (a). 2000 1000 0 40 30 20. (b) Average SSflux during summer season (13g/m2/h). 10 0 6 5. (c). 600. IL. 500. Dry weight. 4. 400. 3. 300. 2. 200. 1. 100. 0. 3. 4. 5 6 7 8 9 10 Time [month] (Mar. - Dec.,2003). 11. 12. 0. 図-10 2003 年に測定された(a)矢口第一での河川流量,(b)St.3 における有機泥の沈降量,(c)異常繁茂したオゴノリ の乾燥重量と干潟土壌の IL の経時変化(図(b)には実 線で 2004~2005 年の夏期の平均沈降量が示されてい る). 常繁茂による底質環境の変化量は大きいことがわかる. オゴノリ周辺に沈降・堆積した有機泥はオゴノリによっ て再浮遊が阻害され,河床の泥化が進んだものと考えら れる.ただし,ILの増加は4%程度に抑えられており, 干潟表層において有機泥の分解が効率的に行われている ことが推定できる.河口においてはオゴノリが繁茂し, 有機泥が堆積した場においてアサリの棲息が促進されて おり(詳細は次節で述べる),河床の泥化が生態環境の 悪化に直接繋がるわけではない.生物の棲息状況は,気.

(8) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,344-358,2010.11 30. (a). 25 20. 0. 5. 1. 4.5. Fine fraction content. 2. Distance. 3 4 5. 15 10. 0 1. 1.5. 2. 2.5. 3. 3.5. 4. 4.5. 5. 3. 0.25. 0.4. 0.2. 2. 0.3. 0.15. IL. 0.2. 0.1. COD. 0.1. 0.05. 1.5 1. 8. 0. 0 0. 5.5. 5. 10. 15. 20. 25. 0 0. 30. 5. 2. 2. 0.4. 4. 1.8. 1.8. 0.3. 3. 1.6. 1.6. 0.2. 2. 1.4. 1.4. 0.1. 1. 1.2. 1.2. 0. 1. 5. 10. 15. 20. 25. 30. 2.2. (e). Chl-a. 10. 15. 20. 25. 30. Fine fraction content [%]. 2.2. 0. 5. Fine fraction content [%] 6. 0. 0.3. 2.5. 0.5. Pheo.. 0.35. T-P. 0.5. Chloride ion content [mg/g]. (d). T-N. 0.6. 3.5. 7. 0.6 0.5. 0.4. (c). 0.7. 4. 6 5. 0.8. (b). (f) (d). 1 0. 5. Fine fraction content [%]. 10. 15. 20. 25. 30. 0. 5. Fine fraction content [%]. 10. 15. 20. 25. 30. 35. Water content [%]. 図-11 太田川放水路の干潟土壌の細粒分含有量と物理特性,栄養塩の関係 1. ヤマトシジミ 0.1. イソシジミ (b). (a). (c). 0.01. 0. 1. 2. 3. 4. 5 0. 5. IL [%]. 10. 15. 20. 25. 30 1. 1.2. 1.4. 1.6. 1.8. 2. 2.2. オキシジミ. Wet density of sediment [g/cm3]. Fine fraction content [%]. アサリ. 1. クチバガイ. 0.1 (d). 0.01 0. 1. 2. 3. 4. 5. Chloride ion content [mg/g]. 6 0. ソトオリガイ. (f). (e) 1. 2. 3. 4. COD [mg/g]. 5. 0. 0.2. 0.4. 0.6. 0.8. T-N [mg/g]. 図-12 太田川放水路における二枚貝の棲息数と棲息地点の干潟土壌の(a) ~ (c)物理特性,(d) ~ (f)栄養塩の関係 (棲息数は観測期間中の最大棲息数を 1 として無次元化して表している). 土壌内に残留する塩分は接触する河川水の塩分と保水能 力の高い細粒分の含有量に依存していることがわかる. クロロフィル-a,フェオフィチンは細粒分の増加に伴っ て含有量が大きくなる傾向にあるが,細粒分含有率が 5%以下の土壌内にも多く含まれている(図-11 (d)).こ (5) 干潟土壌と二枚貝の棲息環境 れは,干潟表層では微細藻類の生産量が高く 24),微細藻 a) 干潟土壌の性状 類の付着基盤は粒径の粗い砂となるため,細粒分の少な 図-11 には二枚貝の棲息が確認された地点の干潟土壌 い土壌でクロロフィル-a が高くなることを示している. の細粒分含有率と栄養塩状態等の関係が示されている. b) 二枚貝の棲息環境 干潟土壌の塩化物残留量は河口からの距離と細粒分の 図-12 には 2003 年~2008 年に調査した太田川放水路に 含有量によって決まっている(図-11(a)).また,有機 おける二枚貝の棲息数と棲息地点の干潟土壌の物理特性, 物は細粒分の増加に伴い増加しており(図-11(b)),有 栄養塩との関係が示されている.図中の縦軸は 1m2 当た 機物の付着のため栄養塩の含有量が多い(図-11 (c), 3 りに出現した二枚貝の個体数の最大値(ヤマトシジミ (d)).有機物の密度は 1.5g/cm 程度で,かつ保水能力が 200,イソシジミ 96,オキシジミ 56,アサリ 120,クチ 高い 23)ため,細粒分の含有量が多いと,湿潤密度,含水 比は大きくなる傾向にある(図-11 (e),(f)).そのため, バガイ 44,ソトオリガイ 11)を 1 として各地点での出 象擾乱や水質変化によって直接的に生物が受ける影響よ りも,それらが引き起こす棲息環境の変化の影響が大き いことがわかる.. 351.

(9) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,344-358,2010.11. 現数を最大出現数で除することにより無次元化されてい 40 る.2005 年以降は干潟土壌の物理特性(IL,細粒分含有 St.5 30 率,湿潤密度)のみ測定されているため,各図で調査数 20 が異なる.底生生物の棲息量の支配要因については様々 10 0 な研究が行われており,例えばアサリに関しては IL が Main channel St.3 8%以下,細粒分含有率が 35%以下で棲息可能であるこ と等がわかっている 25).太田川放水路に形成された干潟 60 Washout 50 の IL は最大で 5%,細粒分含有率は 30%程度(図-8,図 40 -11)であることから,どの地点においても二枚貝の棲 St.2 30 息条件は満たしていると予想される.そのため,二枚貝 20 は図-12(d)で示したように河口からの距離(塩化物残留 10 0 量)によって概ね棲み分けがなされているが,本論文で Main channel Tidepool はその中での物理特性や栄養塩等の各要因が棲息量に及 図-13 洪水(ピーク流量約 6500m3/s)に伴う太田川での沈降 ぼす影響について検討した. 土砂量(●は観測地点,□は容器の深さ) 二枚貝の棲息可能な場における干潟土壌の湿潤密度は 3 (a) St.1 2g/cm 程度以下となっている.主に砂で構成される干潟 30 土壌の湿潤密度が小さいのは間隙率が大きいためである. 20 10 ヤマトシジミ,イソシジミの棲息する干潟土壌の細粒分 0 含有率は 5%以下と少ないため,有機物量は少ないが, 30 (b) St.3 二枚貝の餌となるクロロフィル-a は図-11 で示したよう 20 10 に細粒分含有率が 5%以下の土壌内にも多く含まれてい 0 る.すなわち,有機物量の少ない砂泥内においても間隙 (c) St.5 30 が大きく保たれている土壌内にはヤマトシジミ,イソシ 20 ジミの餌となる微細藻類が供給されやすいことが推定で 10 0 きる. 2 3000 0 なお,図-12(a)よりアサリはヤマトシジミ,イソシジ 2000 -2 River discharge Water level 1000 ミよりも有機物(細粒分)が多い場において棲息数が多 (d) 0 くなっている.アサリは,大型藻類(オゴノリ)の繁茂 8 9 10 Time [month] (Aug. - Oct.,2004) 域である St.1 のオゴノリの下で多く確認された.図-11 (b)と比較すると,大型藻類により有機泥が捕捉されるこ 図-14 2004 年 8 月~10 月における(a)St.1,(b)St.3,(c)St.5 の塩 分,(d) St.1 での水位と矢口第一での河川流量の時系列 と 26)で IL が 2.8%と高いにもかかわらず,細粒分含有率 変化 は 8%と低く抑えられている.干潟の表層に繁茂したオ 27) ゴノリによって,エイ等によるアサリの食害 が抑えら れるとともに,細粒分含有量が低いため,水管を通じて (6) 洪水による生態環境の変化 行われるアサリの摂餌が阻害されないことや土壌内での a) 洪水による土砂堆積 2004 年 8~9 月には 2 度の高潮(既往最大の 2.1m と 間隙水の流動性が低下していないことがアサリの棲息を 増加させていると考えられる.また,クチバガイ,ソト 1.5m)と洪水(ピーク流量約 2700m3/s)により St.3 で 20 オリガイは細粒分の多い高 COD の地盤に好んで棲息し ~30cm,同様に 2005 年 9 月には既往最大の洪水(ピー ており,比較的間隙率の低い(湿潤密度の高い)土壌中 ク流量約 6500m3/s)により 50cm 以上の干潟への土砂堆 積があり,太田川放水路全域でも干潟地盤高が大きく変 においても棲息可能であることがわかる. 以上から,アサリやヤマトシジミ等の二枚貝の棲息には土 化した.図-13 には 2005 年 9 月に発生した既往最大の洪 壌内に含まれる有機物量のほかに地盤内の間隙率が重要で 水後にセジメントトラップに捕捉された沈降土砂量が示 あることが明らかとなり,地盤内への微細藻類の輸送や間隙 されている.図中の太線は容器の深さを示している.な の保持には地下水流動が重要な役割を果たしていると予想 お,St.2 では洪水による容器の流出により,沈降土砂量 の測定ができていない. される. St.3 の低水路干潟では 60cm 以上の土砂が捕捉され (長さ 60cm のセジメントトラップが満杯),低水路干 潟には 50cm 以上の土砂が堆積していたことを確認して. 352.

(10) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,344-358,2010.11. いる.放水路における土砂の輸送は,図-13 や出水後の 土砂の堆積状態から,干潟地盤の浸食が起きて土砂の堆 積位置が変化するのではなく,上流から運ばれた土砂が 新しく干潟に堆積していると推測できる. b) 洪水下での河川水の淡水化 図-14 には 2004 年 8 月~10 月における(a)St.1,(b)St.3, (c)St.5 の塩分,(d)St.1 での河川水位と矢口第一での河川 流量の時系列変化が示されている.ここで,淡水化期間 とは河川水の塩分濃度が 5 以下になった期間とした. 2004 年 8 月~10 月に発生した 1000m3/s 程度の 6 回の出 水によって太田川放水路全域で塩分の低下が確認されて いるが,河川水の淡水化期間は 6 回の出水でそれぞれ異 なっている.St.5 での満潮時の塩分は St.1 での干潮時の 塩分と同程度であり,干潮時に河口にあった水塊が満潮 時に St.5 まで遡上していることが考えられる.出水後の 数日間,St.1 での塩分は干潮時に 10 以下まで低下し,満 潮時に 30 程度まで回復していることから,河道内に淡 水が滞留していること,St.3,St.5 では,満潮時において も塩分が 0 となっていることから,出水後の数日間は放 水路の中流~上流域の河川水は全層が淡水化しているこ とがわかる. 太田川放水路の河口域では干潮時に河川水の淡水化の 影響が数日間継続し,中流域~上流域にかけては大潮満 潮時においても河川水が淡水化しているため,底生生物 への影響が予想される. c) 洪水による底生生物の棲息数の変化 図-15 には 2004 年の高潮・洪水と 2005 年の洪水の前 後で行われた生物調査結果から太田川放水路に棲息する 代表的な生物種の個体数の変化が示されている.2004 年の高潮・洪水では顕著な個体数の減少は見られないが, 2005 年の洪水では全ての生物において個体数の減少が 確認できる.カニ類の減少は土砂の堆積した低水路に近 い高水敷上で見られたが,土砂が 10cm 程度堆積しても カニ穴が崩壊するわけではなく,壊滅的な状態になるわ けではないことを確認している.また,河口域において イワフジツボの減少が顕著であるが,外洋性のイワフジ ツボは洪水後に海域からの漂着が期待でき,洪水によっ て大きく生物相が変化することは考えられない. 2004 年の高潮・洪水では 20~30cm の土砂堆積であっ たのに対し,2005 年の洪水では図-13 に示したように 50cm を超える顕著な土砂堆積があった.図-16 には 2006 年 3 月(洪水の 6 ヶ月後)に St.3 の低水路干潟 (1m×1m×1m)で確認されたイソシジミの殻長毎の個体 数が示されている.イソシジミは一般的に干潟表層から 20cm 程度の範囲に棲息し,干潟冠水時に表層の懸濁物 質を摂餌し,干潟干出時に地盤内へ潜砂することが知ら れている 25)が,50cm 以上の土砂堆積があったにも関わ らずイソシジミは大潮最干時の平均地下水面(LGWL). 300. チゴガニ. 100. 10. イソシジミ. 8 6. 10. 4 2. 1 4000 1000. シロスジフジツボ. 0 20. ヤマトシジミ. 15. 100. 10. 10. 5 0. 1 2000. イワフジツボ. Apr./04 Oct./04 Apr./05 Oct./05. 1500 1000. St.1. St.4. 500. St.3. St.5. 0. Apr./04 Oct./04 Apr./05 Oct./05. 図-15 2004 年の高潮・洪水と 2005 年の洪水前後での太田川放 水路に棲息する代表的な種の個体数変化 30 25 20 15 10 5 0. 1.5-2.0 2.0-2.5 2.5-3.0 3.0-3.5 3.5-4.0 4.0-4.5 5.0-5.5 Shell length [cm]. 図-16 2006 年 3 月(洪水の 6 ヶ月後)に St.3 の低水路干潟. 353. (1m×1m×1m)で確認されたイソシジミの殻長毎の個 体数. 付近の 50cm~80cm に高密度に棲息していた.イソシジ ミの成長速度 1~2mm/月程度 28)を考えれば,洪水前に地 盤表層に棲息していたイソシジミが土砂堆積後も 50cm ~80cm の深い土砂内で棲息し続けていたことがわかる. 通常,生物調査は干潟表層数 10cm の深さで行うため, 洪水による土砂堆積後には新しく堆積した土砂上での調 査になる場合が多い.図-15 に示した 2005 年の洪水後に は 50cm を超える土砂堆積があったが,洪水後の二枚貝 の生物調査は干潟表層から 20cm までの調査結果である ため,洪水後の二枚貝の減少として評価されることにな る. 干潟深部でのイソシジミの棲息は,放水路干潟では干 潟深部においても二枚貝の棲息が可能な機構が造られて いることを示すものである.放水路干潟に棲息する底生 生物への洪水による土砂堆積,淡水化の影響が小さいの は,低水護岸等の河道内に構築された構造物周辺の地形 や流れ場との関係が深いと考えられる.次章では,低水 護岸周辺に形成された生態環境,地下水環境を明らかに し,河道内において豊かな生態系を創造するための河川 構造物の役割について検討する..

(11) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,344-358,2010.11. 4. 河川構造物周辺に形成された生態環境 (1) 石積護岸周辺に形成された干潟地下水環境 a) 干潟地盤内での塩分分布 図-17 には 2007 年 6 月 1 日(大潮最干時)に測定され た干潟地盤内での地下水面と塩分分布が示されている. 観測時,タイドプールの塩分は 22.1,流水部では 18.7 で あった. 干潮時にはタイドプールから低水路干潟に水位勾配が 形成されており,タイドプールに溜まった河川水が干潟 表層を流下するため,低水路干潟では地盤表面と地下水 面は概ね一致(地盤勾配と地下水勾配が一致)している. 干潮時においても地盤内に高塩分水が残留しており,下 げ潮時に河川水の地盤内への浸透の影響が小さいこと, 流水部に向かって塩分が高くなっていることがわかる. b) 地下水流の発生機構 図-18 には 2006 年 10 月 8 日~9 日(大潮期)の間に測 定された放水路河口(St.1),己斐(St.3)におけるタイ ドプールおよび低水路干潟での水位が示されている.図 中には護岸高(T.P.+0.65m)が実線で,低水路干潟地盤 高(図-3,17 の 70m 地点,T.P.-0.4m)が破線で示されて いる. タイドプール水位の下降速度は護岸の地下構造や土砂 の堆積状態によって変化するが,河川水位が護岸高より 低くなると,護岸によりタイドプールと低水路に水頭差 ができる.この水頭差は水位下降速度に約3倍の差(タ イドプール:0.08m/h,低水路:0.25m/h)があるため, 干潮に向かって低水路に向かう水面勾配が増大していく. 図-18では干潮時に河川水位はT.P.-1.5m程度まで低下す るが,干潟地盤内(干潮時の流水際から約30m地点)に おいては,地表面下20cm(T.P.-0.6m)程度までに地下水 位が保たれている.干潮時に地下水面が高く保たれ,図 -17に示す塩分分布が形成されているのは,タイドプー ルに向かって正の水位勾配が形成され,満潮付近にタイ ドプールに溜まった河川上層水(低塩分水)が低水護岸 内や地盤内を通り低水路干潟へ流出しているためと考え られる. (2) 護岸周辺に形成された底質,生物棲息環境 a) 干潟地盤内での底質,生物棲息数の鉛直分布 図-19 には(a)2006 年 5 月 2 日と 8 月 8 日に測定された 低水路土壌の IL,(b)2006 年 5 月 2 日に測定された低水 路干潟における二枚貝(イソシジミ)の棲息量と干潟土 壌の間隙率の鉛直分布が示されている(調査地点は低水 護岸から 20m地点,図-3 参照).図(a)には図-17 の地下 水面に対応する LGWL が実線で示されている. 干潟土壌の間隙率は 50%程度(湿潤密度 1.3g/cm3)と 高く,100N/m2 を超えるイソシジミが棲息している.図-. 354. 0.2 Revetment 0 -0.2 23 Main channel tidal flat -0.4 24 Tide pool River -0.6 (22.1 psu) 25 (18.7 psu) -0.8 25 26 -1 27 28 -1.2 -1.4 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100 105 Distance from left distance mark [m]. 図-17 2007 年 6月 1 日(大潮最干時)に測定された低水路干 潟地下水の塩分横断分布(図中の○は測定地点を表し ている) 3. River mouth (St.1). Tidal flat. Tide pool. 2 Height of revetment (T.P.+0.65m). 1 0. Ground level of tidal flat (T.P.-0.4m). -1 -2 22:00. 0:00. 2:00 4:00 6:00 8:00 Time [hour] (8 - 9 Oct.,2006). 10:00. 12:00. 図-18 2006 年 10 月 8 日~9 日の河口水位(St.1)と低水路干 潟,タイドプールの水位変動(河口水位は 1 時間,他 は 10 分間隔の測定,図中の実線は護岸高(T.P.+0.65m), 破線は低水路干潟地盤高(T.P.-0.4 m)を示す). 16 で示した地表面下 80cm でのイソシジミの棲息は LGWL を基準とすれば同様の棲息分布となっている. IL は LGWL を境に 2 倍程度の差がある.太田川放水路 では夏期に 13g/m2/h 程度の有機泥の沈降量があることか ら,有機泥の分解,消費または地下水流れによる輸送が 無ければ,表層で IL が多くなるのが自然である.しか し,LGWL 以深では表層付近より 2 倍程度 IL が高くな っており,地下水の流れによって有機物が下層に輸送さ れていること,間隙率が高く維持されることが推定され る.低水護岸周辺で干潟地盤内に有機物が輸送され,間 隙率が高く維持されることで,洪水による土砂堆積後に も干潟深部でイソシジミの生存を可能にしたと考えられ る. a) 有機泥堆積下でのイソシジミの棲息 2007 年は降水量が少なく,St.3 では平年に観測されて いない海域産のホソジュズモ(Chaetomorpha crassa)29)が 干潟上に繁茂し,干潟上の凹地には数 mmの有機泥の堆 積があった.このため,有機泥が堆積している土壌では 表層の 2cm 程度が黒色(還元)化しており,ゴカイ類 が巣穴を形成していた.泥化した場では,通常期に優占 するイソシジミに代わり,細粒分を多く含む土壌内に棲 息するソトオリガイが優占していた.ただし,低水路干.

(12) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,344-358,2010.11. 潟に形成された凸地には有機泥は堆積しておらず,地盤 下約 10cmの地盤内にはイソシジミが優占していた. 図-20 には 2007 年 7 月 30 日に低水路干潟で測定され た有機泥が数 mm 堆積した干潟地盤内の(a)水温,(b)塩分, (c)ORP のプロファイルが示されている.調査地点の地 下水位は地表面から 2cm の深さにあり,観測時間中に 河川水が対象地点に浸入することはなかった. ORPは全層で負の値を示し,還元的になっているが,. 0.3. 0.4. IL [%] 0.5 0.6. Number of individuals [N/m2] 40 80 120 0.8 0. 0.7. 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6. 060502. 地下8cm程度の深さで正の値に近づき,塩分も高く(極 Number 060808 0.7 (b) Porosity (a) 値)なっている.水温は地表面の数cmまで表面水温の 0.8 30 40 50 60 影響が強く現れ,水面下10cm層よりも1℃以上高くなっ Porosity [%] ている.これらのことは地下水面下5cm以下の深さにお いても酸素を含む地下水が流れていることを示している. 図-19 低水路干潟における(a)IL,(b)二枚貝(イソシジミ)の 棲息数と間隙率の鉛直分布(図中の実線は LGWL を示 有機泥の堆積は干潟表層を還元化させるが,地下水の流 す) 動があることで還元層は薄く,干潟の泥化を局所的なも o のにしていることがわかる. Temperature [ C] Salinity ORP [mV] (3) 洪水による干潟地下水の塩分変動 図-21 には 2004 年 8 月 31 日(大潮期)と 9 月 7 日 (小潮期)に来襲した(a)TY0416 と(b)TY0418 によって引 き起こされた洪水,高潮に伴う低水路干潟とタイドプー ル地盤内の塩分,水温と河川水位,大芝におけるデルタ 地下水位,矢口第一における河川流量の時系列変化が示 されている(センサーの設置位置は図-3 参照). a) 干潟地盤内表層の淡水化期間 河川水の淡水化は図-21 に示した 1100m3/s を超える 2 回の洪水で 1.5~2 日間継続している.9 月 7 日 (TY0418)には洪水(ピーク流量 2800m3/s)と高潮(偏 差 2.8m)によって低水路干潟表層(GL-25cm)が淡水化 した期間がある.これに対し,8 月 31 日(TY0416)の 出水(ピーク流量 1110m3/s)と高潮(偏差 1.8m)では数 10 分程度の塩分低下はあるが地下水の淡水化は起こっ ていない.両出水においても低水路床の塩分は 0 を示し ており,出水によって干潟地盤内の塩分が低下する機会 は両出水とも同様にあると考えられる.淡水化した河川 水の干潟地盤内への浸入は,太田川デルタ地下水位と低 水路干潟の河川水位との関係が指摘されている 7).出水 によって潮汐変動が洪水波に隠れた後,河川水位がデル タ地下水位よりも高い状態が長く維持される小潮期に地 盤内に淡水化した河川水が浸入していることがわかる. b) タイドプール地盤内での塩分低下 両出水によって,タイドプール地盤内の塩分低下は確 認されるが,淡水化は生じていない.小潮期においては, 低水路干潟地盤内の塩分低下後にタイドプール地盤内の 塩分低下が確認される(7.9 日).この塩分低下は低水 路干潟地盤内の塩分低下と同様にデルタ地下水位との差 によって生じていることが予想され,主に砂で構成され る低水路干潟とシルト分で構成されるタイドプールの透. 355. 26.5 27 27.5 28 28.5 25 0 0. 26. 27. 28. 29. -80 -60 -40 -20. 2. 2. 2. 4. 4. 4. 6. 6. 6. 8. 8. 8. 10. 10. 10. 12. 12. 12. 14. 14. 14. 16. 16. 16. 18. 18. 20. (a). 20. 0. 0. (b). 18 20. (c). 図-20 2007 年 7月 30 日に測定した有機泥が数 mm 堆積した 干潟地盤内の(a)水温,(b)塩分と(c)ORPプロファイル. 水性の違いによって時間差が生じていると考えられる. 洪水後には,タイドプールと低水路干潟の水位差が発 生するタイミングでタイドプール地盤内の塩分変動が生 じており(9.4 日),タイドプールに残留した河川水が 地盤内へ浸透していることがわかる.これらのことから, タイドプール地盤内の塩分変動はデルタ地下水位との水 位差に加え,低水路干潟との水位差,干潟底質の違いに よって低水路干潟表層とは異なる挙動を示すことがわか る. c) 低水路干潟地盤内地下水の塩分回復 図-21(b)に示すTY0418の洪水による低水路干潟表層の 塩分低下では河川水の塩分回復後に塩分の上昇がある. 塩分の上昇速度は低下速度に比較して遅く,この時の地 下水温が河川水温に比較して低いことから河川水の直接 的な浸入のみで生じていないことが予想できる.さらに, 河川水が淡水であるにも関わらず,低水路干潟地盤内の 塩分が上昇しており(8.5日),河川水が淡水化した期 間においても地下水流によって地盤内塩分が回復するこ.

(13) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,344-358,2010.11. 30. 30 Tidal flat (GL-25cm). 25 20. Tidal flat (GL-25cm). 20. Tidepool (GL-25cm). 15. River bed. 25 15. 10. Tidepool (GL-25cm). 10. 5. (a-1) 0 28 26 24 22 20 18 (a-2) 16 3 (a-3) 2 1 0 -1 -2 30.5. 5. (b-1) 0 28 26 24 22 20 18 (b-2) 16 3 2 1 0 -1 (b-3) -2 7.5. River bed Tidepool (GL-25cm) Tidal flat (GL-25cm) River bed. Tidal flat. Tide pool. 3000. Delta. 2000 1000 River discharge. 31 31.5 Sep.1 1.5 Time [day] (Aug.30-Sep.1,2004). 0 2. (a)大潮期(TY0416). Tidepool (GL-25cm) Tidal flat (GL-25cm) River bed Tidal flat. Tide pool. Delta. River discharge. 3000 2000 1000. Height of revetment. 8. 8.5 9 Time [day] (Sep.7-9,2004). 9.5. 0 10. (b)小潮期(TY0418). 図-21 (a)TY0416 と(b)TY0418 によって引き起こされた洪水・高潮に伴う干潟地盤内の塩分,水温と河川水位,太田川デルタ地下 水位,河川流量の時系列変化(センサーの設置位置は流水部河床上,低水路干潟では地表面下 25cm(GL-25cm),タイドプ ールでは地表面下 25cm(GL-25cm)). とがわかる.淡水化した低水路干潟表層への塩水供給は, 洪水時にも淡水化していないタイドプールから起こって いることが考えられ,低水路干潟表層が淡水化した場合 にはタイドプールから低水路干潟への塩水の供給が起こ り,低水路干潟内の淡水化を長期化させないと推測され る. (4) 生態環境の形成に果たす河川構造物の効用 図-22 には太田川放水路中流域に構築された低水護岸 周辺での地下水流れの構造とその効用および底生生物の 棲息環境に与える影響がまとめられている. 潮位変動によってタイドプールと低水路干潟間に地下 水流れが生起される(1).干潮時には,タイドプール 方向からの地下水流れが継続することによって干潟地盤 に沿った高い地下水面が維持される(2).干潟地盤内 では,水平方向の地下水流れに加え(3),鉛直方向の 地下水位変動による流れも生じている(4).この地下 水流れによりLGWL以浅の地盤内に有機泥の堆積が制限 され,クロロフィル-aの十分な供給がなされるため,二 枚貝に適した棲息環境が形成されている.したがって, 平水時においても地下水流れによって干潟の泥化が地盤 表層のみに抑えられ,二枚貝の棲息環境を維持している. さらに,出水によって低水路干潟地下水が淡水化した場 合においても,タイドプール方向からの地下水流れによ って塩分が回復し,淡水化の影響が長期化しないため, 底生生物の棲息が阻害されることは少ない.. 356. タイドプール. 低水護岸(石積) 低水路干潟. (4) (1). (2) (3). (1):タイドプールと低水路干潟の水位差が作る地下水流れ (2):地下水流れによる高い地下水面の維持 (3):地下水流動に伴う有機泥の輸送 (4):鉛直方向の地下水位変動による地盤内での有機物の輸送. 図-22 低水護岸周辺での地下水流れ構造とその効用. 5. おわりに 本論文では,太田川放水路に形成された干潟の特性お よび河川構造物周辺に形成された生態環境の特性,生態 環境の形成に果たす河川構造物の役割について明らかに した. 1) 生物棲息環境は直接的な水温や降水量の変化よりも, 水温変動に伴う大型藻類等の繁茂とそれに引き続く 有機泥の堆積状況の変化や,出水に伴うデルタ地下 水位の上昇等の様々な環境の変化に依存している. 2) アサリやヤマトシジミ等の二枚貝の棲息には土壌内 に含まれる有機物量のほかに地盤内の間隙が十分保 持されること,地下水流動性があることが重要であ る. 3) 河道内における護岸等の河川構造物の構築は,河道.

(14) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,344-358,2010.11 11) 日比野忠史, 松本英雄, 水野雅光 : 太田川デルタ地下水 の流動と海底濁度層の形成, 海岸工学論文集, 第 53 巻, pp.1146-1150, 2006. 12) 加藤史訓, 佐藤愼司, 三輪竜一 : 海岸域の底生生物とそ の生息環境に関する全国的調査, 海岸工学論文集, 第 46 巻, pp.1136-1140, 1999. 13) 上月康則, 村上仁士, 伊藤禎彦 : 海岸構造物周辺の底生 動物群集に関する現地調査, 海岸工学論文集, 第 42 巻, pp.1201-1205, 1995. 14) 環境庁水質保全局 : 底質調査方法とその解説改訂版, pp. 76-86, 日本環境測定分析学会・丸善, 1988. 15) 細川恭史, 三好英一, 関根好幸, 堀江毅 : 内湾における 有機微細粒子の沈降速度の実測, 海岸工学論文集, 第 35 巻, pp.372-376, 1988. 16) 川西澄, 筒井孝典, 中村智史, 西牧均 : 太田川放水路に おける土砂動態と底質変動, 海岸工学論文集, 第 52 巻, pp.906-910, 2005. 17) 日本海洋学会 : 沿岸環境調査マニュアル 2[水質・微 生物篇], pp.65-66, 恒星社厚生閣, 1990. 18) 武田正倫 : 原色甲殻類検索図鑑, pp.242-243, 北隆館, 1982. 19) 三宅貞祥 : 原色日本大型甲殻類図鑑(1), pp.91-92, 保育 社, 1982. 20) 水産庁 : 干潟生産力改善のためのガイドライン, 2008. 21) 富田智, 長戸宏樹, 日比野忠史, 西牧均, 松本英雄 : 太田 川河口における有機泥の挙動に関する研究, 水工学論 文集, 第 49 巻, pp.1411-1416, 2005. 22) 今川昌孝, 駒井克昭, 日比野忠史, 阿部徹, 西田芳浩 : デ ルタ河川河口部に堆積する有機泥の分布特性, 水工学 論文集, 第 53 巻, pp.1447-1452, 2009. 23) 西村尚哉, 駒井克昭, 今川昌孝, 日比野忠史 : 有機懸濁 物質の形成に関する基礎研究-有機物の付着特性-, 海岸工学論文集, 第 55 巻, pp.1056-1060, 2008. 24) 鮎川和泰, 村上誠, 福森亮子, 大谷修司, 奥村稔, 岡田光 正, 福岡捷二, 清家泰 : 感潮河川 DO に及ぼす干潟付着 藻類の寄与について, 日本陸水学会講演要旨集, 第 71 巻, p.266, 2006. 25) 新保裕美, 田中昌宏, 越川義功, 柵瀬信夫, 池谷毅 : 現地 調査によるアサリ生息量と環境要因との関係の検討 -神奈川県金沢湾・干潟湾を対象として-, 海岸工学 論文集, 第 46 巻, pp.1216-1220, 1999. 26) 栗原康 : 河口・沿岸域の生態学とエコテクノロジー, pp.88-92, 東海大学出版会, 1988. 27) 川原逸朗, 伊藤史郎, 山口敦子 : 有明海のタイラギ資源 に及ぼすナルトビエイの影響, 佐賀県有明水産振興セ ンター研究報告, 22 号, pp.29-33, 2004. 28) 伊藤絹子, 佐々木浩一, 大森迪夫, 大方昭弘 : 現地実験 法により求めたイソシジミ Nuttallia olivacea の成長速 度, 日本ベントス学会誌, Vol.56, pp.9-17, 2001. 29) 田中次郎, 中村庸夫 : 日本の海藻 基本 284, p.21, 平凡 社, 2004.. 内の流れの制限だけでなく地下水の流れ場にも影響 を与えている.タイドプールと低水路干潟の水位差 によって促進される地下水流れが,干潟地盤内にお ける高地下水面の維持,有機物の輸送,間隙内への 有機泥の堆積抑制に寄与している. 4) 太田川放水路では,地下水流れによって豊かな生態 環境が形成され,洪水や泥化等の擾乱を受けた場合 においても,干潟地盤内で底生生物の棲息環境が維 持されている. 謝辞:本研究は科学研究費補助金(特別研究員奨励費, 課題番号20・4714)の助成を受けて実施されている.ま た本調査は,保光義文氏をはじめとする広島県環境サポ ーターのメンバーの協力を得ている.記して,謝意を表 する. 参考文献 1). 日比野忠史, 中下慎也, 花畑成志, 水野雅光 : 河口干潟 で形成される土壌環境と底生生物の棲息要件, 海岸工 学論文集, 第 53 巻, pp.1031-1035, 2006. 2) 長戸宏樹, 越智達郎, 日比野忠史, 福岡捷二 : 太田川河 口域における有機泥の循環に関する基礎的研究, 水工 学論文集, 第 51 巻, pp.1195-1200, 2007. 3) 工藤教勇, 児玉真史, 徳永貴久, 松永信博 : 干潟におけ るアオサの消失が生物生息環境に及ぼす影響, 海岸工 学論文集, 第 50 巻, pp.1081-1085, 2003. 4) Burnett, W. C., Bokuniewicz, H., Huettel, M., Moore, W. S. and Taniguchi M.: Groundwater and pore water inputs to the coastal zone, Biogeochemistry, Vol. 66, pp. 3-33, 2003. 5) Dale, R. K. and Miller, D. C.: Spatial and temporal patterns of salinity and temperature at an intertidal groundwater seep, Estuarine, Coastal and Shelf Science, Vol.72, pp.283-298, 2007. 6) トウナロン, 駒井克昭, 日比野忠史, 中下慎也 : 干潟地 盤内での微細粒子の移動に関する基礎的事項の解明, 海岸工学論文集, 第 55 巻, pp.1276-1280, 2008. 7) 駒井克昭, 日比野忠史, 阿部徹 : 太田川デルタにおける 河川と沿岸帯水層での水循環, 海岸工学論文集, 第 55 巻, pp.1216-1220, 2008. 8) Zhang, Q., Volker, R. E. and Lockington, D. A.: Experimental investigation of contaminant transport in coastal groundwater, Advances in Environmental Research, Vol.6, pp.229-237, 2002. 9) 内山雄介 : 砂浜海岸帯水層における潮位変動に伴う循 環流の形成機構, 土木学会論文集, No.670, pp.37-48, 2001. 10) 駒井克昭, 日比野忠史, 水野雅光 : 河川感潮域における 淡水流入量の推定, 海岸工学論文集, 第 54 巻, pp.976980, 2007.. (2009. 11. 12 受付). 357.

(15) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,344-358,2010.11. STUDY ON ECOLOGICAL ENVIRONMENT OF TIDAL FLAT IN THE OTA RIVER FLOODWAY Shinya NAKASHITA, Tadashi HIBINO, Katsuaki KOMAI, Shoji FUKUOKA and Toru ABE In order to understand the characteristics of the tidal flat in the Ota River Floodway and the role of the river structure on the formation of tidal flat environment, the investigation of sediment, river water, groundwater, biological environment and organic matter transport were carried out from 1996 to 2009. It was found that the generation of groundwater flow was caused by the water level difference around the revetment. Hence, the secondary phenomenon caused by groundwater flow was important factor for the range of bivalve and the formation of tidal flat environment. It was suggested that the various tidal flats are formed by the construction of river structure, which considered groundwater environment.. 358.

(16)

参照

関連したドキュメント

At Geneva, he protested that those who had criticized the theory of collectives for excluding some sequences were now criticizing it because it did not exclude enough sequences

In this, the first ever in-depth study of the econometric practice of nonaca- demic economists, I analyse the way economists in business and government currently approach

In Section 13, we discuss flagged Schur polynomials, vexillary and dominant permutations, and give a simple formula for the polynomials D w , for 312-avoiding permutations.. In

Then it follows immediately from a suitable version of “Hensel’s Lemma” [cf., e.g., the argument of [4], Lemma 2.1] that S may be obtained, as the notation suggests, as the m A

[Mag3] , Painlev´ e-type differential equations for the recurrence coefficients of semi- classical orthogonal polynomials, J. Zaslavsky , Asymptotic expansions of ratios of

[r]

1.はじめに Table.1 a TERRA/MODIS Data Specification NASA.MODIS.Web Band bandwidth Spatial 広島工業大学では、EROS 衛星、LANDSAT-7 衛星に加えて、 Primary Use

Conservation of water quality of rivers in Japan is an important national measure to support the life of the people and industry. However, concerns about ensuring the water