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内部者取引規制とイギリス法の動向: 沖縄地域学リポジトリ

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Title

内部者取引規制とイギリス法の動向

Author(s)

金子, 勲

Citation

沖大法学論叢 = OKIDAI HOGAKU RONSO, 2(1): 26-66

Issue Date

1976-03-31

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12001/6462

(2)

内部者取引規制とイギリス法の動向

金子動

はしがき 内部者取引に対する現行法およ び自主規制 l判例法2制定法 I Ⅱ 3自主規制(以上本号) 内部者取引に関するアメリカ法則 諸改正案の展開と政策的根拠 むすび ⅢⅣV Iはしがき

会社の職務を遂行するする過程において,取締役等の役職員すなわち会社

内部者は,その地位のゆえに,現在の株主あるいは一般投資者と比べて,は

るかに多くの会社の'情報に接する機会を有している。このうち会社の経済状

態等に関する情報は,当該会社の株式取引に関して重要である。したがって,

これらの内部者が自社の株式取引を行なえば,その相手方よりも優越した地

位にたつことが可能であることはいうまでもない。しかし,この可能性があ

るからといって,内部者による自社株式その他の証券の取引をすべて禁止も

しくは制限することは,会社および株主にとって必ずしも有利なことではな

い。なぜなら,個人の利益追求という「誘因」は,自由企業制度にとっては,

基本原理ともいうべきものであり,内部者が,その会社の株式を保有するこ

とにより,自己の株式保有より生ずる利益を会社の利益増大に関連せしめ,

会社業務に励むことは,会社と株主の双方に利益をもたらすとする観点は,

現在の株式会社制度のもとでも無視しえないからである。

しかしながら,内部者が,自らの内部者としての職務または地位により,

株主あるいは一般投資者にはいまだ明らかにされていない会社の重要な情報

を取得した場合に,それを利用して自社株式の売買を行ない,株主その他の

犠牲において利得するなら,これを不当な取引行為として禁止すべきことに

-26-

(3)

疑問の余地はない。ほんらい,ひろく理想的な証券市場とは,取引当事者の 間で,その取引に関係するすべての事実につき,可能なかぎり完全・正確な 情報をもとにして価格が決定される,自由かつ公開の市場でなければならな い。この観念を破壊しまたはこれに疑問を生ぜしめるような要因は,いずれ も,市場における株主あるいは一般投資者の信頼を減じ,したがって,証券 市場そのものの維持を阻害することになろう。 そこで,ここに,内部者が会社の機密J情報を濫用して株式取引を行なうと いう危険がある一方,自社株式の保有それ自体は禁止さるべきではないこと から,どこで両者のバランスをとるかという重要な問題が生ずる。すなわち, ある場合には,株主・投資者保護の観点から,内部者の株式取引に規制を加 えなければならない。 これは,アメリカにおいて,いわゆるインサイダー・トレーディング(in-sider-trading,イギリスではinsider-dealing,会社内部者取引,会社 機密関与者の証券取引)の規制として扱われている問題である。この規制は, アメリカでは,当初,判例法で実現され,後に連邦の証券関係立法で投資者 保護の規定が置かれて,現在に至るまで著しい発展を遂げている。もちろん, 内部者取引の規制は,アメリカ法に固有の問題ではなく,近時,ヨーロッパ 諸国においてもこの分野の規制の必要性に対する関心が高まり,法制面の整

備強化の方向をうち出している。(')

イギリスにおいても,すでに,1948年会社法は,取締役の証券保有と その異動状況に関する情報開示の規定を導入して,内部者取引を規制する方 向を示した。さらに,1967年会社法は,取締役に関する開示規定を完備 するとともに,主要株主に関しても同様の規定を新設している。1967年 改正法の特色としては開示義務の強化ということがいわれるが,これらの諸 規定もその一環をなすものである。イギリス法のこの傾向は,伝統的な開示 主義(disclosurephilosophy)の立場にたち,内部者取引そのものを

直接に規制.制限するよりも,より正確な開示基曇豊課して,それによって

間接的にこのような取引を抑止する効果を企図しているといえよう。(3)

従来,イギリスでは内部者取引一般の規制の重要性についての認識は,必 -27-

(4)

ずしも高いものであったとはいえないが,とくにtake-overbidの規制と

の関連においてはしばしば論じられてきた。実際にも,bidの公表前に対象

会社株式が急激に値上がりし,内部情報濫用の疑問がもたれた事例が多くあ

ったという。(4)

これは,take-overbidに関する情報が,取締役等の会社内部の者にの

み知られている場合に,これらの者がその情報を利用して不当な株式取引を

行なうという危険であり,この点については,基本的な観点から,たとえば

つぎのような指摘がなされている。

irtake-overbidを行なう者(申込人bidder)の接触をうけた取締

、役が,bidが行なわれそうだという知識を利用して,市場で株式を買付け

ること,あるいはその他の者,実際上,会社の顧問や使用人などが自己の

ためにそうすることは,めずらしいことではない。この場合,ある意味で

は,完主たる株主は,損失をうけなかったといえよう。というのは,その

株主が自ら進んで,当該価格で売付けようとし,bidが決定する前に売

付けたとするなら,その者がbidの公表まで待った場合には受領できた

であろう増加した価格というものは,まったく偶然性のものだからである。

しかしながら,bidの近いことを知らずに,株主が善意の第三者に対し売

付ける場合には,このような議論が有効であるとしても,bidを知ってい

る取締役あるいはその関係者が,株式を買付けた場合には,決してこのよ

lこ論ずることはできない。すなわち,売主が偶然的利益を失うことが不当

か否かにかかわらず,この利益が「インサイダー』に発生することは,明

らかに不当である。」(5)

現在では,このようなtake-overbidのさいの内部者取引に関しては,

自主規制たるCityCodeに規定が置かれている。この自主規制の存在とい

うことは,イギリスにおける内部者取引規制の特色であるが,ほかに証券取

引所規則があり,上場会社の内部者による証券保有の開示を義務づけている。

したがって,会社法の開示規定とならんでこれらの自主規制の機能を検討し

ておくことは重要である。 しかし,これらの自主規制には,たとえばCityCodeはtake-overbid -28-

(5)

の場合の取引だけを対象とするというように適用範囲が限定されていること,

あるいは,まさに自主規制であって法的規制ではないという限界のあること が問題となる。 以上のように,会社法の開示規定と限定的ではあるがこれを補完する自主

規制とによって,イギリスにおける内部者取引の規制は,その開示規制の面

では相当完備したものとなっている。これに加えて,ここ数年,さらに内部

者取引自体を一般的に禁止ないし制限せよとの要請が高まり,政府は会社法

改正によってこれに答える意向を明らかにした。 この内部者取引の問題に関しては,周知のように,コーエン・リポートが 先鞭をつけ,ジェンキンス・リポートの勧告は前述の1967年法の開示規 定に結実しているが,1973年7月の会社法改正に関する報告書ならびに

これにもとづく同年12月の改正法案では,イギリス法にとっては画期的な,

内部者取引を罰則をもって禁止する方向が示されている。さらに,1974

年の労働党への政権交替の結果,いわゆる会社法改正緑書(GreenPaper)

が発表されたことから,イギリスにおけるこの問題は,新たな展開の可能性

を含んでいるように思われる。

そこで本稿では,コーエン・ジェンキンス両リポートをはじめとして,前

述の1973年報告書ならびに改正法案およびこれに先立つ1972年の

JusticeReport,そして労働党の緑書にいたるまでの諸改正案について,

内部者取引に対しイギリスにおいてはいかに対処してきたか,あるいはいか

なる根拠または政策的見地から規制を展開し,今後発展させようとしている

のかという点に関して,沿革的に,検討することを一つの目的としたい。(6)

ところで,英米においては,会社内部者の典型である取締役は,会社に対

し信任関係(fiduciaryrelation)にたち,いわゆるわが商法等にいう

善管義務とは別個異質の信任義務を負担する。取締役の信任義務は,取締役

と会社との間に生ずる利害の衝突の問題を解決するための法理であり,取締

役が会社経営上与えられている権限・地位を,会社の利益を犠牲にして,そ

の個人的な目的に用いて利得するのを防止することを意図している。内部者 取引の規制として問題となるのは,直接には,内部者としての取締役と個々 -29-

(6)

の株主あるいは一般投資者との利害衝突であって,ここには会社との利害衝 突はない。しかし,ここで取締役が,その「地位により取得した」会社の機

密情報を利用して自社株式の取引を行なうということは,取締役の「地位利

用行為」という面からは,信任義務に関連する問題とみることもできよう。

事実,アメリカでは,取締役の信任義務を根拠にその株式取引を制限する判

例法の形成があり,これが内部者取引規制の先駆けとなったからである。

これに対し,イギリスではアメリカとは相当異なる方向へ進んでいるので,

本稿では,はじめに,この領域で既存の信任義務の法理がいかに機能してき

たか(あるいは機能する可能性があったか)を,判例法について検討し,つ

ぎに,それが充分に機能しえない場合に,立法上ではいかに対処しているか,

さらに自主規制についても概観した上で,諸改正案の検討に至るつもりであ る。 また,この過程で,この問題について最も機能している規制方法をもつア メリカ法がどのような影響を与えているかということも興味ある点である。

なお,英連邦諸国のうち,カナダ連邦会社法ならびにオンタリオ州証券法は,

アメリカ法にかなり接近した規制を実現しているので,随時これらを参照し

イギリスの現行法制と対比しておくことは,本稿の立場から,意義あること

と思われる。 注(1)イギリス,西ドイツ,フランス各国の規制の比較研究として,竹内ほか「内部 者取引」証券研究41巻133頁(1975年)以下がある。 (2)このイギリス法の規制方法は,わが国の証券取引法における規制の機能を検討 する場合に参考になる。証券取引法189条は,会社の役員または主要株主がそ の職務または地位により取得した機密を不当に利用して自社株式の取引により利 得することを防止するため,これらの者の6ケ月の期間内における,自社株式の 売買および反対売買による利得の会社への提供義務を規定している。この規定に ついては,その運用上の実効性の点で批判が多いが,とくに,昭和28年の改正 の際に,立法時にはおかれていた,役員。主要株主の自社株式の所有および異動 状況の報告義務を定めた188条を削除した結果,取締役等による会社の株式の -30-

(7)

短期売買の発見が困難となり,事実上189条は運用できない状態にあるという 指摘がなされている。189条を機能させるためにこの報告義務を復活させる必 要があるとすれば,イギリス法の詳細な開示規定は,有益な示唆を与えるものと 思われる。. (3)Weinberg,Take-OversandMergers,328(3rded.,、1971) 参照。 (4)Hadden,CompanyLawandCapitalism,369(1972)参照。 (5)Weinbergsupranote(3),at327. (6)従来,わが国でイギリスの内部者取引規制を紹介したものとして,中島「イギ リスにおけるインサイダ・トレイディング(会社内部者取引)規制の現状と問題 点」茨城大学政経学会雑誌31号193頁(1973年)渋谷「イギリスにおけ る内部者取引規制の現状と将来の方向」前掲注(1)証券研究41巻177頁,中村 「イギリス会社法改正の方向」証券26巻303号26頁(1974年)がある。 なお,本稿のIはしがき,およびⅡの1判例法の部分は,筆者がかって発表し た「インサイダー・トレーディングとイギリス法」(沖大論叢12巻1号(通巻 18号)48年3月)と題する未完の論稿を加筆,訂正したものであることをお 断わりしておきたい。 △ 魚 -31-

(8)

Ⅱ内部者取引に対する現行法および自主規制 1判例法内部者取引の規制という視点から,イギリス判例法を検討し た場合には,取締役の信任義務の関連で自社株式取引のさいに生ずる責任を

問題にした判例が注目される。そこで,この場合を,会社に対する責任と株

主に対する責任とに分けてみてゆくことにする。

(1)会社に対する責任内部者たる収締役が,その地位により取得した情

報を利用して自社株式の取引により利得するという内部者取引の問題は,前

述のごとく,「地位利用行為」という1mで,イギリス法上,いわゆる信任義

務(fiduciaryduty,忠実義務dutyofloyalty)に関連する問

題といえる。内部者取引の規制は,ほんらい,内部情報の濫用に対して株主

・一般投資家を保護することを目的とするが,ここでは,まず,この信任義

務の観点から,会社に対する責任が成立しないかという点につき考察する。

イギリス法においては,11(締役は,会ネ|:に対し信任関係にあり,この効果

として偏任義務を負柵している。そして,この取締役の信任義務は,agent,

trusteeらのいわゆるfiduciary一般が負う信任義務と,基本的には,同

一であると解されている。(7)

(8)

これらの俗イ「的地位(fiduciaryposition)にある者は,信任的性質

を有する子殿を通じて,いかなる秘裕の利益も収得してはならない,あるい

は,rlLLの義務と個人的利益とが衝突するような立場に身をおいてはならな

いというのが,術wjk1Z,確立した1%〔,1,,である。(9)

」lX締役についても,この原則にしたがい,取締役たる地位の利用によって

個人的利縦をえてはならない,あるいは,その会社に対する義務と自己の個

人的利11tが衝突するような地位にたってはならないとするルールが,その信

(「義務の什rとなっている。

したが-'て,僧'磯務の翻点からはたとえば冊締役と会社との取り'は,

nきされないのが原則となる。たしかに,会ネl:制定法および判例法においても,

かっては【|己収引を厳枯に禁」|ニするという原則によって,この''11題の解決を

はかっていた`,しかし,このような収リ|を全面的に禁止することが,会社に

-32-

(9)

とって必ずしも有利とはいえず,会社実務の現実の要求にあわなかったこと はいうまでもない。そこで,実際には,会社の定款に規定することにより明 示の授権がなされていれば,取締役は会社と取引をなすことが可能とされて 右の原則は緩和されている。この場合に,現在では,取締役は,当該取引に 関して有する利益を取締役会に開示しなければならない(1948年法19 9条)。開示は,株主総会に対してではなく,取締役会に対してなすことで 足りる。この点で基本となる衡平法上の原則と異なる。衡平法上の原則にし たがえば,取締役が会社と有効に取引をなしうるためには(定款に特別の規 定がない限り),株主に対する充分な事実の開示と株主総会の承認が要件と

なるからである。u')

取締役が会社と取引する場合に関しては,衡平法の原則は,以上のように 立法および定款作成によって緩和されているが,これに反し,取締役が,直 接・間接に会社と取引するということ以外の態容において,その地位を利用 した結果,会社の知らない秘密の利益をえた場合には,いぜんとして,衡平 法の原則の厳格な適用がある。要するに,取締役としての特別な地位を利用 するのでなければえられない利益は,そのすべてを会社に返還すべきものと

される。⑫

この衡平法の原則を示し,かつ,取締役の内部者取引の場合の責任を問題 にするわれわれの立場から注目すべき判例として,Regal(Hastings),

Ltd.v・Gulliverandothers(1942年)事件がある。('3

本件では,映画館を経営する原告会社が,子会社を設立して,さらに二つ の映画館の長期の1easeをえたのち,親子両会社の営業譲渡をする計画をた てた。二つの映画館の貸主は,子会社の払込済資本が5,000ポンドに達する までは,会社取締役(親会社たる原告会社の取締役,当該会社の支配株主で もあった)が賃料債務を保証することを要求した。原告会社は,子会社の資 本金額(5,000ポンド)を出資する予定であったが,実際には,そのうち 2,000株(額面1ポンド)の引受しかできず,また,取締役(被告)は右の 個人保証をのぞまなかったので,その代わりに,取締役らが残り3,000株 を引き受けることにした。取締役は自ら株式引受をなしたが,そのうちの- -33-

(10)

人で取締役会議長のGulliverだけは,自身でそうすることができなかったの

で,かれの友人とかれがほかに関係していた(社員であり取締役でもあった)

二会社が引受をするように手配した。また,原告会社の弁護士も取締役の依

頼により株式を引き受けた。なお,この資本調達方法は,取締役会で決定さ

れ,そこには弁護士(被告)も出席していた。資本の調達が完了し,lease

をえたのち,被告らは,当初の営業譲渡計画を変更し,親子両会社の株式を

譲渡した(原告会社の支配権(経営権)は株式譲受人に移転)。この譲渡に

おいて,被告ら(取締役および弁護士)は,自分たちの保有していた子会社

株式の一株につき2ポンド16シリング1ペニーの利益をえた。そこで,原

告会社の新経営者(新取締役)は(原告会社を代表して),旧取締役および

弁護士に対し,それぞれが原告会社における取締役および弁護士としての地

位の利用により右の利益をえているとして,それを会社に返還することを求

めた。

HouseofLordsは,取締役が子会社株式を取得することのできた機会

(opportunity)および特別の知識(specialknow1edge)は,fidu-ciaryとしてのかれらに帰属したのであるから,その株式の売却によってえ

た利益は会社に返還すべきであるとして,原告会社の請求を認めた。Lord

Russellはつぎのように述べている。(14

「信任的地位を利用して利益をえた者はこれを返還すべき責任があると

いう衡平法のルールは,決して,詐欺が存じたとか善意(bonafides)

でなかったといえようなことに依存するものではない。またつぎのような

問題あるいは考慮によるものでもない。すなわち,当該利益がそうしなけ

れば原告に帰属したかあるいはすべきものであったかどうか,利得した者

が原告のためにその利益を生じた源泉を取得すべき義務を負っていたかど

うか,その者が原告の利益になるように危険を負担し行動したかどうか,

原告がその者の行為によって実際に損害をうけたのかあるいは利得したの

かというような点は関係ないのである。この責任は,当該事情のもとで,

利益をえたという事実のみから生ずる。利得者がいかに誠実かつ善意であ

っても,その責任を問われる危険を回避することはできない……」。

-34-

(11)

「私の意見では,取締役たちは,その取締役としての権限の行使に関し Regal(原告会社)に対して信任関係にたち,また,かれらがこれらの株 式を取得できたのは,Regalの取締会であったことはおよびその職務遂 行の過程にあづたということにのみよるのであるから,かれらは,そこで

えた利益についてはaccountすべきである。Keechv・Sandford…⑬

および同様の先例で確立された衡平法上のルールは,かれらに対しても厳 格に適用される。Regalが資金不足により株式を取得できなかったこと, および,取締役たちは株式引受にあたり一般投資家の-人として実際には 行動していたことを理由として,これらの先例どは区別さるべきである と主張された◎私はこの議論を認めることはできない。KeechvdSan- dfordの受益者(cestuiquetrust)は,easeを取得することは 不可能であったが,それにもかかわらず受託者(trustee)の責任が認め られたのである。取締役たちがたんなる一般投資家の-人として引受をな したという指摘は,事実を曲解している。かれらは,そうしようと思えば, Regalの株主総会の承認決議(事前あるいは事後の)によって責任を免 れることが可能であった。この承認がなかったことで,accountすべき責 任が認められなければならない。」

同じく取締役の一iI6iであり.取締役会議長でもあったGulliverについて

は,かれの三関係者は子会社株式の取得,売却によって利益をえたが,かれ

自身には「株式もその利益も帰属しなかったIDことを理由に,その責任は否

定された。また,会社の弁護士は子会社株式により自ら利得しているが,そ

の返還を命ぜられなかった。この点についてLordRussellはつぎのよう

に説明する。u3

r法的には,利益を生じたかれの行為は,Regalの要請によりなされ たのであり,弁護士が,依頼人の同意のみならずその要請により当事者と なった取引から自己のために利益をえた場合にも,これをaccountすべき であるとするような判断を正当化しうる原理あるいは先例については,私 は何も知らない。」

本件で弁護士を免責せしめたのは,信任関係そのものの本質を狭く解した

-35-

(12)

というよりも,依頼人の同意・要請があったことによるのは注意すべきであ

る。u9

以上のようなfiduciaryがfiduciaryとしての地位.資格において活動 する間にえた利益についてaccountすべき責任を負うという原則は,最近

のPhippsw・Boardmap③n.ヨn.the⑰(196790事件において再

確認されていろ。 事案は遺言信託(wiⅡtrust)の受託者のために行動していた弁護士 の責任に関するものである。この信託の財産中には,ある私会社(private company)の株式(当該会社の発行済株式総数の4分の1強)が含まれてい た。遺言者の死亡の後に,受託者の弁護士であったBoardman(被告)が 会社の財務状態を調査したところ,満足しうるものではなかったので,これ… を改善するためには何らかの思いきった策を講ずろ必要があるとの結論に達 したdそこで,かれとT(信託の受益者の一人,被告)は,信託受託者の代 理人の資格で会社の年次株主総会に出席し,信託の利益を代表せしめるため に,Tを取締役に選出しようと試みたが失敗したので,つぎに,かれら自身 で個人的に他の株主から残余の株式を収得して会社の支配権を獲得(take- overbid)することにした。このことを,BoardmanとTは,信託の二 人の受託者に対して説明(開示)したが(受託者は三人いたが当該状況を判 断することのできない状態(老衰のため)にあった他の-人に対しては説明 しなかった。なお,法的には受託者にこの私会社株式を買増しする権限がな かったこと(遺言書の受託者投資条項にもこれを許す定めはなかった),お よび実際にも,かれらにそうする意図も資金的余裕もなかったことが明らか にされている。 Boardmanは,会社から株主のリストをえて,支配株主であった会社取 締役との長期にわたる交渉を開始した。この交渉の間,あるいはすくなくと もある時点では,かれは,信託の保有株式を代表して(たとえばこの資格で 株主総会に出席するとか)行動したものとみなされた。かれは,交渉の過程 およびその結果から,会社の業務と資産価格に関する多くの情報をえること ができた。けつきよくかれの努力によって交渉は成立し,かれとTは,取締 -36-

(13)

役から,信託の資金以外の源泉で,残余の株式を取得してtake-overbid を完成した。結果として,この取引は,かられと信託の双方に利益をもたら すことになった。すなわち,その後会社は,営業用財産の一部を売却し,一 株につき株式取得価格をはるかに上まわる資本的利益の分配をすることが可 能となり,さらにこの分配後にも会社株式はなお相当の価値があったからで ある。ところが,受益者の一人(かれは交渉に関して相談をうけてはいたが その間の事情を充分に知らされていなかった)は,Boardmanらがこの私 会社株式取得の結果えた利益を信託に返還することを求めた。Houseof Lordsは,多数意見でRegal事件に従い,この請求を認め,被告は,私会 社取締役と交渉するにあたり信託を代表して行動したとみられるので自らを 特別な信任的地位においたのであり,この特別な地位とfiduciaryとして えた情報によって株式の買入をなすことができた。そしてこの場合,かれら が誠実(honestly)かつ公然と(openly)行動し信託にとっても利益を もたらしたという事実は関係ない,と判示した。 多数意見のうち,LordCohenは,情報または機会(opportunity)の たんなる利用だけでは責任(accountability)を生ぜしめないが,本件に おいては,Regal事件と同じく,被告らがfiduciaryとして活動する間 に,情報を手に入れ株式取得の機会をえて利得したのであるから責任が認め られ,かつ,かれらはagentとして「〔かれらの〕利益と本人(principal) に対する〔かれらの〕義務の間に抵触の可能性(possibilityofconf- lict)がある」という理由で,そのえた利益をaccountすべきであると述べ

た。21)

LordHodsonとLordGuestは,機密`情報を「信託の財産(prope- rtyofthetrust)」とみなすことは適当であり,この理由によって のみ被告はその財産の果実をaccountせねばならないのであるという見解

を示した?zなお,LordGuestは,本人自体が株式を取得しえなかったこ

とおよびagentが本人と競争関係に立たなかったということは関係がない,

と明言している。G3

要するに,多数意見によれば,信託が被告からその利益を回復しうる根拠 -37-

(14)

は,かれらが信任義務に違反していること,および機密情報を財産とみなし

て単信託に属する財産を利用したという点にある。閲

ところで,以上,Regal・Phipps両事件を参照してきたのは,取締

役等の内部者取引の場合に,会社に対する責任成立の可能性をさぐるためで

あったが,この問題に関してGowerは,「代理(agency)の法理という

ものは,取締役が機密情報を濫用した結果,株式取引に関し得た利益を会社

が取締役から回復することができるほどに充分,弾力的(elastic)である」

と述べているP0また,LoSsは,G・werのこの見解を引用しつつ,内部

者の会社に対する責任を認める基礎として,イギリスの法律家が利用できる

先例として,Regal・Phipps両事件のほか,Readingv・Attorney-F-芒護加川饗蹴継:wⅢ伽i・瞳

したがって,衡平法の一般原則および以上参照した諸先例から,理論的に

は,つぎのルールが成立する可能性がある。すなわち,会社の同意なしに,

取締役(およびその他の内部者)が,その信任的地位により取得した機密情

報を利用して利得するときは,会社に対してそれを返還(account)すべき

責任を負うというものである。このルールは,一種の厳格責任(stricti

liabilityBlともいいうるもので,取締役等の内部者は,その動機(mo-tives)のいかんにかかわらず(bonafideであっても)jaccount

しなければならない。内部者の取得が誰かに損害を与えたか否かにかかわら

ず,あるいは実際,たとえそれが会社の利益のためであったとしても,その

利益をaccountすべきであるという厳格な責任要件が成立するであろう。

また,このルールは,不利な機密情報を,そのままでは損失を生じるので,

それを回避するために利用したという情況においても,同じく適用されうる

であろうが,現在までの判例でこの問題検討の手がかりとなるものはなし浮

そこで具体的には,たとえば,取締役が,会社の有利な営業譲渡の申込が

あったことを知って株式の買入により利得した場合に,このルールを適用す

れば,取締役の会社に対する責任が認められるであろうし,また,take-

overbidの場合に,取締役に対する申込人の折衝は,その者が会社の取

-38-’

(15)

締役であるという理由だけでなされるのであるから,「特別な知識('情報)」

がこの場合,会社株式について申込まれたtake-overbidに関連する

ものとして,このルールを適用することも可能であろう。なお,rfiduciaryl

に責任が認められる前提として,その者が義務を負う相手方が自ら利益を取

得できる地位になければならないということを示す必要はない」のであるか

ら,会社が自己株式を取得できないという事実は,市場での株式買付による

会社のtake-overにつきr特別な知識」で有位にたつ取締役に対して,

会社に対し責任を負わせる妨げとはならない』33

さて,このように,取締役らの会社に対する信任義務の違反が立証される

なら会社に対する責任が認められることになるが,つぎに問題となるのは,

取締役(およびその他の内部者)が第三者に機密情報を与えた結果,その第

三者が利得したという場合には,取締役はその第三者の利益についても責任

例 を負うことになるかという点である。

前述のRegal事件においては,取締役の一人であるGulliverは,自らは

子会社株式を取得しなかったが,かれの関係者のために株式引受の手配をし,

これらの関係者は相当な利益をえたのであった。そして,GUlliverに対

し,かかる利益について責任を負うべきであるとの訴えが提起されたが,裁

判所はこれを却下している。また,会社弁護士は子会社株式取得により利得

したが,取締役会の承認があったことを理由に,免責されている'1F)しかしな

がら,この場合に取締役会の同意をえたといっても,これら取締役と弁護士

はもともと協同して活動していたのであるからこの点に疑問は残る。

このRegal事件におけるGulliverおよび弁護士は,他の取締役に対し

てはむしろ指導的立場にあったにもかかわらずかれらの責任を認めなかった 80

という点でも,本件判決は批判されている。ただし,本件判旨にそって考え

た場合にも,Gulliverのようなfiduciaryが,第三者(関係者)の利益に

ついては責任を負わしめられないという本判決のこの部分にもとづく判旨は,

fiduciaryが,情報の開示に関しては,会社の利益において善意(good

faith)で行動している場合に限定されると解して,本件では,「機密`情報

を開示すべきでない」という信任義務の違反はなかったと判断することも可

-39-’

(16)

能であろう。87)

ここでの問題は,近時のアメリカ法において,内報授与者(tipper)お よび内報受領者(tippee)の責任として論議されている問題に通ずるもの である。イギリス法の領域では,いまだ,この点につき答える直接の先例は

見出せないが,たとえば,機密↓情報を第三者に漏らすことが不開示(non-disclosure,機密保持)という取締役(その他の内部者)の信任義務の明

らわな違反となる場合に,第三者(tippee)が,取締役が自分に情報を与 えることはその信任義務の違反であることを知っていたか,あるいは知って

いるべきであった場合には,当該取締役と第三者は,会社がこうむった損害

につき責任を負うとすることは必ずしも不可能ではないと考えられる。また,

tippeeがfiduciaryのpartnerその他の関係者である場合も同様の結果

となりうる。そして,さらに,たとえtippeeが善意であって会社がこれを 攻撃することができない場合にも,信任義務違反のある取締役らのfiduci-aryには,自ら利得しているときと同じくtippeeの利得につき責任を負わ

せることは不合理ではなかろう解

なお,この刀向は,後述のジェンキンス・リポートの勧告(paras、89,

99(b))が受けいれられたなら,内部者l1Xdlにおける内報授与者,受領者の

IHI題の規制へという発展の可能性を含んでいたと考えられよう。 会#|:に対する責任の1mから,以上のような,いわば制裁・罰則的なルール 成立の「J能性は認められたわけであるが,問題は,このルールが実際に適用

され,内部者(およびその者から情報を受領した者)のえた利益を会社に回

復させても,この場合に損害を受け真に保護を必要とする株主(株主譲渡人)

の,直接には,助けとはならないということである。たとえば,Regal事

件においては,原告会社が旧取締役から利益を回復することにより,株式譲

受人(文配権を譲り受けた原告会社の新取締役ら)に,株式譲受の対価の事

後的引下げという不当な結果がもたらされたと批判されている。一般的にい

えば,株式の議渡人は何の利益もえられず,一方,会社は「思いがけい利得」

をすることにもなるという不都合が/tずるのである。691

しかしながら,このような難点はあっても,このルールが成立する場合に

その怠義は,」lX締役等の内部者に対し,その利益を11Xり上げて会社に提供す

-40-

(17)

ることを要求するという,規制の政策的見地から,より重要な効果を有する ことにある。それにより機密(内部)情報濫用による利得,あるいはそうす ることへの誘惑防止の抑止力として,これが機能することを期待するわけで

あるj4Cl

(2)株主に対する責任不当な内部者取引により直接に害される者は,い うまでもなく,取締役等の内部者と直接に取引した者である。そこで,つぎ に,イギリス法上,機密(内部)情報を利用して取引した取締役等は株主に 対しても何らかの義務を負うことになるかという点の検討に進む。この点に 関し,イギリスでは,従来,多くの批判のあるPercivalv・Wright(1

902)事鎧lLいう判決がただ一つある。この判決以来,会社の取締役と株

主の間には,何の信任関係も存在しない,すなわち,取締役はあくまでも会 社に対してのみ信任義務を負うのであって,株主に対しては何の義務も負わ ないという,これが現在に至るまで確立したルールであるとみられている。 したがって,当然の帰結として,取締役は株主でもない一般投資者に対して は,何ら信任関係上の責任はないことになる。そして,このことは,取締役 が自己の会社の株式取引にあたり,その内部情報を個人的に利用することに 脳 ついては,法的には,白紙委任をえているようなものだとも批判されている。

PercWah,、Wright事蝿おいては,株主(原告)がその持株を

1株につき12ポンド5シリングで譲り渡すべく適当な譲受人を探している 旨,会社の秘書役(secretary)に申し出た。この交渉の結果,会社の3人 の取締役(被告)が(自己の利益のために)12ポンド10シリング(原告 が新たに指定した価額)で譲り受けた。ところが,被告らは取締役として, 第三者が会社と営業譲渡の交渉をしており,株式取得の対価として申し出た 価額は前記取引価額よりかなり高いものであることを知っていた。そこで, 株主(原告)が,取締役はbidを予期していたこと,そういう知識をもって いた点に関しては信任的地位にあったのであり,これを開示しなかったこと は衡平法上の義務に反するとして,株式譲渡契約を取消すことを求めた。こ れに対し,裁判所は,かかる情況において取締役は何らの開示義務も負わな いとしてその請求を斥けた。 -41-

(18)

裁判所がこのような判断を下した根拠は,次の判示に明らかである。M

「私の意見では,株式を購入した取締役は売主である株主に対しては,

結果として流れてしまった交渉を〔に関し〕何ら開示すべき義務を負わな

いものである。これに反する見解は,取締役は交渉を開示しないなら株式

の購入も売却もできないことになろうし,交渉のはやすぎる開示は会社の

.最善の利益に反することになるであろうから肌取締役をもっとも困難な状

態におくことになろう。」

この判決の結果,その後のイギリスにおいては,取締役は通常の経営の過

程において知りえた事実については株主に対し開示義務を負わない,すなわ

ち取締役の自社株式取引には何の制約もないという趣旨のルールが成立した

ものとうけとられてきたわけであり,イギリス判例法において,内部者取引

規制に関するルールの成立に対する最大の障害となったのである。

しかしながら,判決それ自体は,事実関係からすれば,かかる広範なルー

ルを設定するものではなく,裁判官は〆主として,bidがけつきよく不成

功に終わったこと,また最初に取締役に申し出て売却価額を指定したのは株

主であったことから,何ら不公正取引の問題はなかったという事実に依拠し

たのであったし,さらに,より一般的には,実際に,取締役の直接の利得は

実現しなかったのであって,そのためかれらがaccountを要求されるべき何

ものも存在しなかったのである,という批判が有力である。また,この判決

の下された今世紀初頭という時期は,会社法においてもIaissez-faire

思想が支配的であったという時代的背景も無視しえないであろう。そしてと

もかくも法が,最初に,取締役の道徳的背反がとくに少い事例に関して発展

したのは不幸なことであったが,この判決は今日では,上級裁判所により踏

襲されないであろうとも評されている申したがって,このような理由から,

本判決のより満足しうる解釈は,内部情報の利用によって実現した個人的利

益をaccountすべき責任の可能性はそのままに(しておくべきで),情報の

不開示を理由に契約の取梢(rescission)を訴えた部分に本件判示を限定

すべきである,という見解があるj40

Percivalv・Wright事件判決が,一般にうけとられているように広

-42-

(19)

い適用範囲をもつとしても,その後これは,ある程度まで限定される方向が 示されている。すなわち,PrivyCouncilのAllenv・Hyatt(19

,4)事繩おいては,取締役が当該取引のイニシアティヴをとって自ら直

接に利得したという特別な事情があった場合において,取締役らは株主にと ってその利益のtrusteeである,と判示された。 本件は,カナダのオンタリオ州裁判所判決に対する上訴事件であるが,事 案はつぎのとおりである。会社取締役たちは,他の会社と合併交渉をしてい たが,かれらの保有していた会社株式は3分の1弱であったので,支配権を 確保して合併を成功させるため,かれらが株式を購入できるように,残余株 主たちとオプション譲受の交渉をした。オプション契約のもとで株主たちと の間に決定された価額は総額およそ22,000ドルだったが,合併成立により 相手会社から支払われた金額はおよそ42000ドルであった。加えて,取締 役たちは,新会社において相当量の株式を保有することになった。そこで, オプションを譲渡した株主たちは,取締役たちが株主に支払った額と相手会 社から受領した額の差額としてえた相当の利益については,かれらは株主の ためのtrusteeであるとする判決を求めて訴えた。PrivyCouncilはカ ナダの裁判所の判決を支持して,取締役がオプションを取得したとき,当該 状況においては,かれらは株主の代理人で.あった,すなわち,取締役たちは, 本件では,agentとして会社自体のために活動する場合と同じ根拠で,個

々の株主に対しかれらのために活動するものとみられるべきである,と判示

した。 そこで,ここに,ある特別な事情(certainspecialcircumstances) が存在する場合に,取締役が自己の行動により,自らを株主に対し信任的地 位においたとみなすことができるなら,重要な情報を開示せずに利益をえた 取締役は,相手株主に対し責任を負うものである,というルールの成立をみ

ることが可能である轡けつきよく,このような場合の取締役は,かれらが会

社のために活動するときと同じく,株主との関係では,principalに対す るagentの地位にあるとみることになる。ちなみに,後述するアメリカにお ける特別事情原則(specialfactdoctrine)の先駆となったstrong 夕 -43-

(20)

v・Repide事件判決も,取締役と株主との間にagencyの関係を認めた判

決である。

以上のルールが,一般的に成立すれば,取締役も,場合により,個々の株

主に対し,信任義務を負うことになり,ここから判例法においても,内部者

取りI規制へと発展する可能性があったわけである。具体的には,たとえば,

株主がnらのために取締役に,take-overbidのさいの潜在的申込人と

交渉する権限を与えたような場合には,右のルールを適用することができよ

う。しかしながら,般近まで,通常の場合には,対象会社の取締役が見込の

ある申込人と条件を交渉し,かつ椎l鱒状を添えて申込書を株主に対し送付し

たという寝実があっても,(取締役が株主に対し)自己を信任的地位におい

たという意味を生ぜしめるに充分であるとはみなされないとうけとられてき

たというc岨

なお,付言するなら,取締役が僧、渇係にたつのは,会社に対してのみで

あって{llil々の株主に対してではないという一般的ルールの例外が,特別な場

合には,制定怯においても認めらオ[ていることに注意すべきである。すなわ

ち,take-overbidに関する取締役の義務について,1948年会社法

第193条は,一定の申込(offer郷)結果として株式の譲渡がなされた場

合に,株主への株式i護波の申込通知には,取締役の地位の喪失に対する補償

または辞任に対する反対給付として,〕11銭会社の取締役になされた支払に関

する綱lMWj1iL1するように保証する,あらゆる相当の手段をとることが取締

役の義務である,と定めている(Iiij条1」;、)。さらに,この開示を怠りかつ

繊渡の対象となった祁類の株式を有する株主の承諾をうけないとき,当該取

締役は(仰'1§により譲受人も)罰金川」に処せられるだけでなく(同条2項),

収縮役(ノ)受付化た金額は,申込を承継した株主のために,受託者(intrust)

としてうけとったものとみなされる(同条3項)。この規定は,株式の譲受

'|'込は,もちろん,llT接株主に対してなすことも可能ではあるが,多くの場

合に譲渡会;1:の取締役を線巾してiiなわれているので,譲受人と株主の間に

r連絡磯Ⅲ,として介在する取締役が何らかの名目で特別の利益をうけるこ

とあるいは支配権の移転にともない取締役としての地位を喪失しまたは辞

-44-

(21)

任することについて,譲受人から補償または反対給付をうけることも,当然, 考えられ,このような取締役の利得を防止するために「隠れた利益」を開示 せしめることにある。そして,同条の規定する取締役の開示義務は,会社お よび株主の全体に対して負うものではなく,取締役を通して株式を譲渡した 株主に対するものであり,この義務に違反するときは,取締役の取得した利 益は,これらの株主に帰属するものとされている。したがって,このかぎり で,取締役は個々の株主に対して信任関係にたつものではない(個々の株主

の受託者ではない)という一般的ルールの例外が認められているわけである?')

取締役が利得することは,逆にみれば株主が不当に低い対価しか受領しえ なかったことを意味し,この点から同条規定は正当であり,前述のRegal 事件は,この方法が認められれば不当な結果はさけられたはずであると評さ

れている。152

(3)問題点Regal(Hastings)v・Gulliverおよびphippsv・ Boardmanの両事件判決を核に,判例法は,取締役等の会社に対する責任 を認める信任義務を根拠としたルールを成立させている。そして,このルー ルを取締役以外の役員・顧問弁護士・会計士あるいはその他専門職業的に会

社に関係する者たちに拡大することは可能である。63

しかしながら,内部者の会社に対する責任を追及できたとしても,これだ けでは実際に損害をこうむった取引の相手方のr直接的」保護にはならない という前述の問題のほかに,判例法上,このルールを適用して内部者取引規 制を展開させようとする場合には,さらに別の困難がある。それは,イギリ

ス会社法においては,FOS&,、Harbottに(1843f鴦件判決により

確立された,裁判所は会社の内部的経営の問題に対しては干渉しない,すな わち,会社に対する不正行為あるいは会社の経営における内部的な不当行為 に対しては少数株主(minorityshareholder)の訴があっても裁判所は 干渉しない,というルールがあるからである。このため,会社が内部者に対 する訴の提起を拒否するなら,そのときは一般には,少数株主の代表訴訟は 困難である。「会社の能力外の行為(ultraviresact)」「少数株主 に対する詐欺(fraudontheminority)Jなどのあった場合以外の, -45-

(22)

訴えられた行為が株主総会において単純多数決によって有効に追認しうるも

のであれば,このルールが株主の訴訟を妨げることになろう。155)

通常,「少数株主に対する詐欺56がないときには,取締役.役員などの内

部者の信任義務違反は,株主総会で承認あるいは追認され,また信任義務違

反の内部者が弁護士その他の専門家であれば,そのとき「少数株主に対する

詐欺」がなければ,違反は取締役会で承認あるいは追認されるであろう。判

例法は,内部者が利得するために機密情報を利用することが,株主総会によ

り承認あるいは追認されえないような「少数株主に対する詐欺」を構成する

ものか否かという点に関しては,確定していないように思われるbRega1

事件において,HousoofLord&は,取引が株主総会により承潔れて

いたなら,「取締役はその利益を返還すべき責任を負わしめられなかったであ

ろうことを示窟いるが,これに対しカナダの判決であるが,Zwicke[

vdStanbury事件判決は)取締役による機密情報の利用が株主総会の過半

数により承認されえないことを示している』591-

.なお,株主の訴訟が認められたとしても,実際にはさらに,弁護士報酬を

含む訴訟費用などのイギリスにおける訴訟制度上の問題が,法のエンフォー

スメントの面から重要な問題として残るのはいうまでもない。㈹ペ

以上が会社に対する関連での問題点であるが,一方,内部者の株主に対す

る責任の面では,Percivalv・Wright事件判決により形成された取締

役は株主に対し信任関係に立たないとする一般的ルールは,ある特別な事情

においては信任関係を認めるAllenv・Hyatt事件判決によって,とも

かくも,ある程度まで限定されることになった。しかしながら,Allenv・

Hyatt事件判決がPercivalv、Wright事件判決を限定する程度は,

いまだ不確実であり,おそらくは,株主と取締役が相対してする取引で,取

締役が当事者の行為により信任関係におかれろという場合のように,非常に

狭い範囲の場合にかぎられよう。

また,たとえ,Percivalv・Wright事件判決が裁判上破棄され,

取締役が会社株主に対し信任義務を負うとされても,裁判所にとって,いぜ

んとして,役員・主要株主といった収締役以外の内部者に取締役の場合のよ

-46-

(23)

うな義務を課すことは困難であろう。あるいは,内部者から株式を譲り受け た相手方が,取引の当時会社の株主でなかったなら,このような者に対し信 任関係が確立されようとも考えられない。さらに,最も重大な問題は,Pe-rcival判決のルールを変更しても,証券取引所において取引が行なわれた 場合にそれをr跡づける」困難さから,ほとんど相対(face-to-face) で行なわれる取引のほか,内部情報濫用の是正においては,実際上の効果は 6, 期待しにくいということである。 注(7)イギリス法上の取締役の信任義務(忠実義務)に関しては,Gower,ThePri- nciplesofModernCompanyLaw,515-549(3rded., 1969),星川・取締役忠実義務論(1972年),赤堀「取締役の忠実義務 (1)」法学協会雑誌85巻1号8-61頁(1968年)参照。 (8)いかなる者が信任的地位にあるかに関しては,判例法上必ずしも明確ではない が(この点については,Underhill,LawofTrusts&Trutees, 214(l1thed.,1959参照)会社に対する関係では〆取締役のほ かに,役員,使用人などがこの地位にあり,ある場合には,弁護士,会計士など の専門的助言者(professionaladviser)もこれに該当するといえよう。 もちろん,これらの者と会社との法律関係の基礎は,principalとagent, あるいはmasterとservantというように異なり,したがって,それぞれの

地位において負担する信任義務の程度も,それぞれの信任関係の特殊性に依存し

て,強度のものから低度のものまでありうるわけである。 これらの信任的地位にある者を,内部者としてとらえ,その株式取引の規制を 問題にしてゆくことも可能であろう。ただし,この立場では,いわゆる主要株主 を内部者として扱うことが困難になる。通常,会社に対し,特別の関係が存在し ないかぎり,かかる株主を会社のagentとみることはできず,したがって,信 任関係上の義務を負うものとすることはできないからである。 (9)Lewin,Trusts,143(16thed.,1964);Keeton, TheLawofTrusts,264(8thed.,1963),四宮「受託 者の忠実義務」未延記念英米私法論集133頁(1963年)参照。 -47-

(24)

qOIJointStockCompaniesAct,1844の29条は,取締役が会社

と契約を結ぶには,株主総会の同意のあることを要件としていた。また,その後

これにかわる,JointStockCompaniesAct,1856のTableB

には,取締役が会社の締結する契約に,直接,間接に利害関係を有する場合には,

その資緒喪失(disqualification)を生ずる旨の規定(47条)がおかれ,

これは,CompaniesActl862のTableA(57条)を経て,194

7年まで続いている(1948年会自社法TableAの84条3項により資格喪失

の規定は削除された)。

mGower,supranote(7),at530,・赤堀・前掲注(7)30頁。

なお,取締役と会社との取引に関して,衡平法上の厳格な原則が,立法および

定款作成の実務上において緩和されたことについては,Gower,supranote

(7),at526-535,赤堀・前掲注(7)27-44頁,星川・前掲書注(7)

参照。

q2Gower,supranote(7),赤堀・前掲注(7)49.52頁参照。また,

この場合には,衡平法の原則を排除する定款規定は,1948年法205条(定

款による取締役の免貿の限界,と画する』,I正)に触れる場合が多いことから,実務

.」二も一般的でないといわれる。 (13)〔1942〕lAIIE.R、378(H、L、)

なお,本件については.Gower,supranote(7),at535-537,

亦功i・liij掲注(7)50-51頁に率案の解脱および批判がある。 M)Ibid、atpp、386,389.

U5)(1726)Sel.Cas・Ch、61,この事件は,信託受託者の受益者に

対する戊任を認めた最初の判例である。

q6)これらの関係者に対しては,訴は提起されなかった。なお,Gulliverおよ

びその関係者の責任については,いわゆる唾tiPPer,tiPPee”の問題として

後述する。

07)〔1942〕IAIIE.R、378at390,perLordRus-

sellofKillowen q31bid・atp、391. -48-

(25)

qgrGarton(本件の被告の一人である会社の弁護士一筆者注)の場合は,株式 を引き受けるにさいしてRegalの了知と同意(know1edgeandconsent) のもとに行動したのであり,したがづて信任的地位にある者が利益をaccount すべき責任に関する一般原則の例外となる」(Ibid・atp、383,per ViscountSankey)。 CO〔1967〕2A.C、46(H、L、) なお,本件の解説,批判については,Gower,supranote(7),at 537-540;Jones,UnjustEnrichmentandFiduciary's Loyalty,84L、Q・Rev、472,481-486(1968)参照。 eDIbid・atpp、103,104. 221bid・atpp、109,115. 231bid、atp、117. 24)一般に,(衡平法の原則に従い),取締役はその信任関係上託された会社の財 産を個人的な目的のために利用することはできないという場合,この会社財産の 中には,(ことばの厳格な意義での財産のほかに)のれん(good-will)な どとともに秘密の知識・情報も含まれる(Gower,supranote(7),at 546,547)。 e5Jones,supranoteeOI,at484参照。 eOGower,InvestorProtectioninTheU.S、A、,15M. L・Rev、446,452-453(1952).さらに,Gowerは,イギリ P スでは,し、まだこのような大胆な請求をした会社はないが,アメリカでは成功し た事例があると述べて,Brophyv・CitiesServiceCo.(1949) 31Del・Ch、241,70A、2.5事件を引用している(Brophy事 件に関して後述Ⅲ)。 27)〔1951〕A、C、507.本件は,代理人が,本人より選任された権限あ る地位(Positionofauthority)を,それにより自己の私的利益を得 るために利用するなら,そのときは本人に対し利益を返還すべき責任を生ずる, というものである。 脳(1874)L、R・10Ch・App、96.本件では,株式の市場価格 -49-

(26)

が額面を越えている場合に,額面で株式引受をなした会社取締役は,そうすると とができたのは取締役という地位にあったからであるとして,そのプレミアムに ついては会社に返還すべきものとされた。 (291〔1953〕2S.c、R、438.これは,Regal事件に従い,「取締 役としての資格において取得した知識により利得した」取締役の責任を認めたカ ナダの判決である。 BdLoss,TheFiduciaryConceptasAPpliedtoTrading byCorporate“Insiders,,intheUnitedStates,33M. L・Rev、34,37(1970). BDGower,supranote(7),at56. B2iCrawford,InsiderTrading,8CanadianBarJournal 400,405(1965). B3IWeinberg,supranote(3),at335;Gower,supranote (7),at545. (34)Jones,supranoteeOI,at499-500参照。 Ba前注09参照。 B6IGower,supranote(7),at536-537;Jones,supra noteCOI,at500(notel9). B7)Crawford,supranoteB2,at405. B81Crawford,supranoteB2,at405-406iJones,supra note(201,at554-556参照。なお,この点につき具体的にいかなる手続 をとりうるかに関しては,Gower,supranote(7),at554-556参照。 B91Gower,supranote(7),at536,542;赤堀・前掲注(7)57頁 参照。なお,1948年法193条との関連で後述。 (40IWeinberg,supranote(3),at335-336参照。 岨)〔1902〕2Ch、421. ㈹Gower,supranotei261,at452. Q31本件の解説.批判に関しては,Gower,supranote(7),at517; Hadden,supranote(4),at249-252;Weinberg,supra -50-

(27)

note(3),at336,渋谷・前掲注(6)179-180頁参照。 仰〔1902〕2Ch、421at426,perSwinfenEadyJ・ U5)Weinbergbsupranote(3),at336. U6IHadden,supranote(4),at250;Gower,supranote(26), at452参照。 (47)(1914)30T、L、R、444,P.C・(1914)17,.LoRo7o Q8IWeinberg,supranote(3),at336;Hadden,supranote (4),at250;渋谷・前掲注(6)180頁参照。 I491Weinberg,supranote(3),at336.なお,後述するCityの慣 行の近時の発展によれば,このような問題が裁判所により決定されるときには, take-over状態での対象会社取締役の行為は,通常の場合,株主に対し信任 義務を生ぜしめるような行為であるという結論に導かれるであろうという。 CityCodeは,申込は直接,株主に対してよりも,第一に,対象会社の取締 役会またはその顧問に対して提出すべきものと定め(Rulel),対象会社の株 主に対する当該会社の取締役会の義務についても多く言及している。CityCode は法を創造することはできないが,それは商事慣行に影響を及ぼすものとみるこ とができるという(Weinbergsupranote(3)at336-337)d l5Q申込とは,(a)株主の全体に対する申込,(b)ある会社が,他の会社をその従属 会社とする目的でなされた申込,(C)ある個人が,株主総会で議決権の3分の1以 上を行使し,またはこれを支配しうる権利を取得する目的でなした申込,(d)一定 の承諾を条件とするその他の申込,をいう(193条1項)。 6、酒巻「会社支配を目的とする株式の貢取」取締役の責任と会社支配206-208 頁(1967年),Gower,supranote(7),at541-542参照。 152前注B9I参照。 倒前注(8)参照。 剛(1843)2Hare461;67E、R、189. I53Fossv・Harbottle事件の解説およびここで成立したルールが株主の 権利のエンフオースメントにさいしいかに作用するかという点に関しては,Go- wer,supranote(7),at581-595;Haddemsupranote(4), -51-

(28)

at87-88,262-279参照。また,アメリカ法と対比して,イギリスの 法状態を批判したものに,Gower,SomeContrastsbetweenBri- tishandAmericanCorporationLaw,69Harv.L・Rev、 1369,1385(1956)がある。 なお,理論上,実際上株主が訴を提起できない場合にも,現在では,商務省 (BoardofTrade,現在では通商産業省DePartmentofTrade andlndustry)の調査権および訴訟提起権が存在するとどに留意すべきで ある(この権限の内容については後述)。 (50「少数株主に対する詐欺」の意味に関しては,Gower,supranote(7), at564参照。 157)本件においては,取締役は会社株式の過半数を保有していたのであるから,株 主総会の承認をうるのに困難はなかったはずである(Gower,supranote (7),at536)。 ㈱前注鯛参照。 I591Crawford,supranoteB2i,at407;および承認されうる場合と されえない場合の区別に関しては,Gower,supranote(7),at565- 566参照。 ㈱この点に関しては,Gower,supranoteI55),atl385;Loss, supranoteBOat34;Hadden,supranote(4),at276- 278参照。 i6DGower,supranote(7),at518;Crawford,supranoteB2), at406参照。 -52-

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