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医学部6年間で文化人類学を学んだ医師の気付き

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Academic year: 2021

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医学部 6 年間で文化人類学を学んだ医師の気付き

藤田 和樹(国民保険町立小鹿野中央病院)

私は医学部入学後 6 年間、在籍した大学の文化人類 学者に付き、古典を読むことを基本として文化人類学 を学んできた背景を持つ医師である。特異な経過を辿 った私が、これまでに人類学的な考察により得た気付 きには大きく 3 点ある。 1 点目は、私が「医師化」と名付けている過程だ。 医学生は医学教育で専門用語の使用、採血等の専門的 手技の実践、指導医やカンファレンス(カンファ)を 通じた医師特有の考え方の吸収を行う。学生の内に先 生と呼ばれた彼、彼女らは、医師と同様に専門用語を 扱えることに喜びを感じ、冗談も含め医師固有の言動 を真似ることで、医師の振る舞いを体得していった。 まだ医師ではない医学生が、かつて持っていた常識を 少しずつ失い、医師の常識を獲得していくこの過程 は、医学生本人にとっては基本的に無自覚なものであ った。私は「はじめは新鮮で驚きを持っていた医師特 有の文化が、医療現場での経験を繰り返す中で、やが て自明のものとなっていく、本来無自覚な過程」と定 義しているこの医師化に関し、多少自覚的であった。 医師化のもたらすものは多義的であり、診断し治療す ることができる医師になるためには絶対的に不可欠 な過程である一方、医師でない人間の感覚から離れて しまう弊害もある。そして重要なことに医師化は、医 師になると一層加速する。西洋医学を施すという機能 を果たすために要求される視点からだけでは決して 見えて来ない、あるいは非常に見えにくい部分に、患 者の生活を支える上での重要なものがあることは少 なくない。特に生活の場に医療が入っていく在宅医療 においては、医学的に正しいことではなく、生活を踏 まえた上で適切な医療を模索する必要がある。自らが 医師化することを客観視する視点は、医学のみの視点 で抜け落ちる部分への気付きを可能にすると考えら れ、私にとって重要なものだ。そのため医師化しつつ、 同時に医師化しない部分の拡大も意識している。 2 点目は、了解できない患者や家族と遭遇した場合 の受け止め方だ。医師は患者に治療方針を説明し、患 者の選択を確認し、支援しながら診療を進める。自由 意思による自己決定権が前提にはあるものの、医師と しては基本的には絶対に選択すべき方針が明らかに 存在するという状況も存在する。しかし丁寧に時間を かけて説明しても死生観の違いや現代医学の説明体 系を共有できない状況のため、選択すべきと考える治 療が拒否される場合や、選択すべきでない治療を望む 場合がある。医師としては歯がゆいサファリングであ るが、理解の無い患者と決めつけてしまうと先に進めな い。ここで文化人類学は「了解できないが、本人の中で は合理的な説明体系があるはずだ」と捉えることを、可 能にする。大切なのは了解困難な説明体系を理解するこ とでなく、自分が依拠している現代日本医療と異なる信 念が存在することを認識することだと思う。持てる技術 を施せないことの苦悩や、患者への負の感情が問題とな ることは当然多い。しかし人類学的思考は臨床判断上の 岐路での選択肢を増やし、その時点の暫定解を見つけな がら前に進むことを円滑にすると考える。 3 点目は、職業ごとに視点の違いがあるが、同じ医師 でも場面により視点が変わり得るという点である。医師 のカンファで、患者は医学用語により客観的所見の集合 としてまとめられる。一方で看護師の申し送りでは、客 観的所見以外に重要な要素として、患者自身の言葉が日 常的に入ってくる。時に医師にとっては冗長に感じられ さえする。しかし興味深いことに、例えば緩和ケアの患 者のプレゼンテーション(プレゼン)では、通常は客観 性や簡潔さが求められる医師が、患者の言葉そのものを カンファで用いることが多い。恐らく医師自身は非緩和 ケア患者と異なるプレゼンをしている自覚はない。客観 性を重視する教育を徹底されてきた医師が、自然と重要 なものとして患者の言葉を用いていると思われる。そこ では医師のプレゼンが、まるで朝の看護師の申し送りの ように聞こえる。バイロン・J・グッドが「医学の言語 を学ぶということは日常の常識世界のために新しい単 語を学ぶことではなく、まったく新しい世界を構成する こと」だと表現したように、それぞれの職種は固有の言 語を使うことで、独自の専門的な視点を作り上げる。浮 ヶ谷も看護師のカルテ記載とその視点形成に言及して いる。医学の言語の特徴とされる客観性や簡潔性は実は 手段であり、患者をより良くする目的において、必要な 場合には患者の主観をプレゼンに取り入れている。医学 の言語の機能は最適な情報伝達であり、患者によっては 主観も客観も同等に意味を持つのだ。 私は文化人類学の視点を持ちながら医学生から医師 になった。日々の診療自体がフィールドワークになり、 人類学的視点は医学以外の視点から医療を見つめ直す ことを可能にし、複数の選択肢をもたらしている。私の 事例を通じ、人類学的思考がもたらす選択肢の可能性を 検討する。

キーワード:文化人類学 医学教育 医師化 フィールドワーク サファリング

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