生命保険企業の国際事業展開に関する研究
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(2) 14. (668). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). 表 1 アジア生保市場の概況 生命保険関連主要指標: 「アジア 11 カ国+日米」(2011 年) 韓国 台湾 香港 シンガポール NIES4 計 87,910,136 1,889,930 191,148 14,183 (各国通貨建、百万) ウォン 新台湾ドル 香港ドル シンガポールドル 米ドル換算(百万ドル) 79,161 64,133 24,556 11,275 179,125 世界シェア(%) 3.01 2.44 0.93 0.43 6.81 収入保険料の対 GDP 比(%) 7.0 13.9 10.1 4.3 8.6 1人当たり収入保険料 (米ドル) 1,615.0 2,757.0 3,442.0 2,296.0 2,124.9 会社数(社) 22 30 65 17 国内総生産(名目 GDP:10 億米ドル) 1,124 461 243 260 2,088 世界シェア(%) 1.78 0.73 0.39 0.41 3.31 人口(百万人) 49.0 23.3 7.1 4.9 84.3 1 人当たり GDP(米ドル) 22,939 19,785 34,225 53,061 24,769 収入保険料. タイ マレーシア インドネシア フィリピン ベトナム ASEAN5 計 280,895 28,419 82,945,280 81,863 16,839,344 バーツ リンギット ルピア フィリピンペソ ベトナムドン 9,218 9,307 9,437 1,890 818 30,670 0.35 0.35 0.36 0.07 0.03 1.16 2.7 3.3 1.1 0.8 0.7 1.7 134.0 328.0 40.0 20.0 9.0 59.4 24 17 46 30 12 346 282 845 225 120 1,818 0.55 0.45 1.34 0.36 0.19 2.89 68.6 28.4 235.3 95.4 88.8 516.5 5,044 9,930 3,591 2,358 1,351 3,520. 中国 インド 11 国・地域計 日本 米国 869,559 2,893,702 41,393,288 537,570 (各国通貨建、百万) 人民元 インドルピー 円 米ドル 134,539 60,442 404,776 524,668 537,570 米ドル換算(百万ドル) 世界シェア(%) 5.12 2.30 15.39 19.97 20.46 収入保険料の対 GDP 比(%) 1.8 3.4 3.1 8.8 3.6 1人当たり収入保険料 (米ドル) 99.0 49.0 126.6 4,138.0 1,716.0 会社数(社) 138 23 47 946 国内総生産(名目 GDP:10 億米ドル) 7,296 1,763 12,965 5,940 14,957 世界シェア(%) 11.58 2.80 20.57 9.43 23.74 人口(百万人) 1,363.7 1,232.8 3,197.3 126.8 313.2 1 人当たり GDP(米ドル) 5,350 1,430 4,055 46,845 47,755 収入保険料. (出所:Swiss Reinsurance Company, SIGMA(World Insurance 2011)等より筆者作成). 2.アジア生保市場の動向と 外資生保企業の地位・プレゼンス. 中,生命保険市場は拡大しており今後一層の成 長が見込まれている.スイス再保険の Sigma 誌 の 2012 年 と 2011 年版 に よ れ ば,ア ジ ア 地. アジアの生保市場は,域内の諸国の他地域を. 域(11 カ 国・地域)の 2000 年/2011 年対比 の. 上回る経済発展や世界的景気低迷下においても. 経済規模(名目 GDP)の 伸 び は 4 倍弱 と,世. 相対的に堅調な情勢を受けて,その規模と世界. 界計の約 2 倍を大きく上回っており,同期間に. 市場における地位を拡大しつつある.本項で. おけるアジア地域の生命保険料収入は 4.3 倍と. は,先ず,アジア域内の代表的な市場である上. 著増しており,その世界市場に占めるシェアも. 記 11 ヶ国・地域を対象にその近況・動向の特. 2000 年 の 6.2% が 2011 年 は 15.4% へ と 急拡大. 徴点を鳥瞰する.次いで当該市場における成功. している(この期間の保険料収入の増分に占め. 要因等について,特にプレゼンスが大きく重要. るアジア地域のシェアは約 3 割となっている).. な外資プレーヤーである欧米系有力企業 3 社の. 2―1―2 アジア地域に共通する重要なトレンド・. 動向や戦略と企業行動やその特徴に焦点を当て て考察する.. 変化 アジア生命保険市場の今後の見通しを考える 上で,域内市場に共通する特に重要なトレンド. 2―1 アジア生保市場の現状・課題. や変化,トピックスとして,①事業環境のベー. 2―1―1 概況. スとなる経済成長の動向,②人口動態や中間層. アジア地域の多くの国で経済発展が見られる. の増加,③外資規制緩和の動向,④販売網の変.
(3) 生命保険企業の国際事業展開に関する研究(平賀). (669). 15. 表 2 アジア地域の経済成長動向 実質 GDP 成長率(2012 年 10 月時点の予測値). 㤶 ྎ‴ 㡑ᅜ 䝅䞁䜺䝫䞊䝹. 䝍䜲 䝬䝺䞊䝅䜰 䜲䞁䝗䝛䝅䜰. 䝣䜱䝸䝢䞁 䝧䝖䝘䝮 ୰ᅜ 䜲䞁䝗 ᪥ᮏ ⡿ᅜ 㻱㼁 ୡ⏺ྜィ. 㻞㻜㻜㻤 㻞㻚㻟 㻜㻚㻣 㻞㻚㻟 㻝㻚㻣 㻞㻚㻢 㻠㻚㻤 㻢㻚㻜 㻠㻚㻞 㻢㻚㻟 㻥㻚㻢 㻣㻚㻟 㻙㻝㻚㻜 㻙㻜㻚㻟 㻜㻚㻢 㻞㻚㻤. 㻞㻜㻜㻥 㻙㻞㻚㻢 㻙㻝㻚㻤 㻜㻚㻟 㻙㻝㻚㻜 㻙㻞㻚㻟 㻙㻝㻚㻡 㻠㻚㻢 㻝㻚㻝 㻡㻚㻟 㻥㻚㻞 㻡㻚㻢 㻙㻡㻚㻡 㻙㻟㻚㻝 㻙㻠㻚㻞 㻙㻜㻚㻢. 㻞㻜㻝㻜 㻣㻚㻝 㻝㻜㻚㻣 㻢㻚㻟 㻝㻠㻚㻤 㻣㻚㻤 㻣㻚㻞 㻢㻚㻞 㻣㻚㻢 㻢㻚㻤 㻝㻜㻚㻠 㻝㻜㻚㻝 㻠㻚㻡 㻞㻚㻠 㻞㻚㻝 㻡㻚㻝. 㻞㻜㻝㻝 㻡㻚㻜 㻠㻚㻜 㻟㻚㻢 㻠㻚㻥 㻜㻚㻝 㻡㻚㻝 㻢㻚㻡 㻟㻚㻥 㻡㻚㻥 㻥㻚㻞 㻢㻚㻤 㻙㻜㻚㻤 㻝㻚㻤 㻝㻚㻢 㻟㻚㻤. 㻞㻜㻝㻞 㻝㻚㻤 㻝㻚㻟 㻞㻚㻣 㻞㻚㻝 㻡㻚㻢 㻠㻚㻠 㻢㻚㻜 㻠㻚㻤 㻡㻚㻝 㻣㻚㻤 㻠㻚㻥 㻞㻚㻞 㻞㻚㻞 㻙㻜㻚㻞 㻟㻚㻟. 㻞㻜㻝㻟 㻟㻚㻡 㻟㻚㻥 㻟㻚㻢 㻞㻚㻥 㻢㻚㻜 㻠㻚㻣 㻢㻚㻟 㻠㻚㻤 㻡㻚㻥 㻤㻚㻞 㻢㻚㻜 㻝㻚㻞 㻞㻚㻝 㻜㻚㻡 㻟㻚㻢. (出所:IMF, World Economic Outlook). 化,⑤保険商品面の変化について述べる. ⑴ 経済成長動向の現状・予測 08 年来の世界的な景気後退状況下で特に欧 米日経済の低迷が続く中,アジア諸国の経済も その影響を被っているが,その度合は先進国へ の輸出依存度や内需割合の大きさ等により異な るがダメージは相対的に小さく,表 2 のように 今後も堅調な伸びが見込まれている.中国は高 成長 の 持続 に よ り,経済規模(名目 GDP)で 2010 年にわが国を抜いて世界第 2 位の経済大 国になっている. ⑵ 人口動態・中間層の増加 次に,経済の成長と密接な関連性を有する人 口の増加,消費財やサービス (保険商品を含む) の購買について大きな影響力を持ち富裕層と共. (出所:経産省『通商白書 2011』). 図 1 アジアにおける中間層の増加見通し. に「ボリュームゾーン」と称される中間層の増 加傾向について述べる.人口の増加傾向(国連. ASEAN などの多くの国・地域では,保険企業. では 2005 年の約 30 億人が 2050 年には 38 億人. も含めた外資企業への市場開放が進展し,出資. に増加すると予測)の中で,アジア新興国の中. 規制の緩和や新たな事業免許の交付などが行わ. 間層(世帯可処分所得「5001 ド ル 以上 35,000. れた.その後も,97─8 年のアジア通貨・金融. ドル未満」 )が急増し,富裕層(同 35,000 ドル. 危機で大きな経済的ダメージを被ったタイ・イ. 以上)も増加することが見込まれている.. ンドネシア・韓国における保険市場の回復や経. ⑶ 外資規制の動向. 済構造強化に外資企業の力を活用するとの観. 特 に 90 年代 か ら の 経済発展 の 中 NIES・. 点,中国・ベトナムの WTO 加盟約束の履行を.
(4) 16. (670). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). 典型例とする市場開放の観点から外資規制の緩. クトマーケティング(電話やインターネットに. 和が進み,外資保険企業のプレゼンスがより拡. よる販売や通販等)などの近代的な保険商品・. 大した.さらに将来に向けての市場としての重. 販売手法を導入しており,アジアの新興国生保. 要度が増す中,依然として外資出資規制2)や国. 市場が,いわば先進国の保険企業による競合の. 内の進出地域規制が残る中国・インド市場等で. 場ともなっていることにも留意が必要である.. の緩和動向が注目点になっている.. またマレーシア・インドネシア等イスラム教徒. ⑷ 保険商品面の変化. の多い国ではタカフル(イスラム教の教義に合. 投資型商品は,リーマンショックや世界的な. 3) 致した保険商品) が,インド・インドネシア・. 景気後退期に入り,それ以前の販売過熱傾向は. フィリピンなどの貧しい所得層にはマイクロ・. 落ち着きを見せ,極端な伸びはみられなくなっ. インシュアランスも重要な位置づけを有してい. ているが,今後も富裕層・中間層の顧客層を中. る.. 心に着実な販売の伸びと普及が進むものと見込. ⑸ 保険販売網の変化. まれる.中高所得者層については,所得・生活. 販売網 で は,専属 エージェン ト(保険販売. 水準 の 向上 や 核家族化 の 進展 に 伴って 保障商. 者)とバンカシュアランス(銀行による保険販. 品,貯蓄商品,年金商品への加入への積極化や. 売)が依然としてその動向の中心になると見ら. 契約金額の高額化も進行すると考えられる.ま. れている.前者については,地場有力保険企業. たアジアの諸国は子女教育に熱心なことで知ら. に典型的な,数の優位に頼り専門性・生産性の. れており,多くの人々は積極的に学資の貯蓄に. 低い販売網は,生保市場の発展・近代化傾向の. 努めており各層で教育資金の積立を目的とする. 中,顧客のニーズが多様化・高度化する中では,. 保険の普及が進むと見られる.他方,低所得層. そのトレンドにフォローできず弱体化し淘汰さ. についても各国の経済発展により所得水準が次. れる可能性が大きく,代わって外資有力企業が. 第に上昇しており,少額の保険商品(マイクロ・. 先導する形でそのレベルアップが進行しつつあ. インシュアランス)の普及が進む可能性が大き. る.他方,バンカシュアランスは各市場で急速. い.このようなアジア地域における商品開発や. な伸びを示しており,多くの市場で新契約の 30. 販売手法を検討するに当たっては各国における. ─50% 水準のシェアとなっている.上記以外の. 経済発展の度合い,顧客層の変化とニーズの違. 新チャネル・代替的チャネル(ブローカー,ダ. いを十分に考慮すべきと考えられている.この. イレクトマーケティング,小売店舗を通じた販. 点に関し,特に中国・インドが典型例であるが,. 売など)については,市場における大きな存在. 同じ国の中に様々な所得階層や嗜好・ニーズを. とはならないものと考えられるがニーズを有す. 持った人々やグループが,相当大きな人口のク. る顧客層への対応として着実に増加すると見込. ラスターとして存在し,保険販売に当たっては. まれている.そこでもノウハウに優れた外資企. ターゲット市場とその特性・特徴を理解し,そ. 業が IT の活用やコールセンターの運営ノウハ. れぞれに合った商品をそれぞれに適した販売網. ウなどで先導するケースが多いと考えられる.. で提供することが重要である.さらに,既に多 くの諸国では欧米日等の有力保険企業が参入し ており, それらが伝統的な生保商品のみならず, ユニット・リンク型(投資信託的な機能を持つ 投資型保険商品) ,ユ ニ バーサ ル 型商品,特定. 3.アジア生命保険市場で大きな影響力を 有する有力外資企業 3 社の事例と特徴 3―1 外資生保企業のアジア生保市場における 地位・プレゼンス. 疾病保障商品など,より進化した商品やバンカ. 本稿で対象事例としているプルデンシャル. シュアランス(銀行による保険販売) ,ダイレ. (Prudential: 英国),マ ニュラ イ フ(Manulife:.
(5) 生命保険企業の国際事業展開に関する研究(平賀). (671). 17. 表 3 アジアの有力生保企業 アジア主要生保市場における 10 大企業(収入保険料マーケットシェア:特記ないものは 2010 年)網掛けは外資系企業 1 Samsung 26.0 香港 AIA 16.1 台湾 Cathay 24.2 シンガポール NTUC (2011) 23.7 タイ AIA 30.4 Great Eastern マレーシア 18.9 フィリピン Sun Life 16.1 インドネシア Prudential (2011) 16.3 ベトナム Prudential (2011) 42.6 中国 China Life 33.3 インド LIC 69.8 韓国. 2 Korea 13.4 HSBC 12.6 Fubon 19.9 Great Eastern 18.7 Thai Life 12.4 Prudential 12.6 Philam L&G(AIA) 15.6 Sinarmas 13.3 Bao Viet 24.2 Ping An 12.4 ICICI Prudential 6.1. 3 Kyobo 13.0 Prudential 9.6 Chungwa 8.2 AIA 18.6 Muang Thai 10.0 AIA 8.3 Philippine AXA 11.6 Manulife 7.5 Manulife 11.6 New China 9.9 SBI 4.4. 4 ING 5.1 Manulife 9.1 Shin Kong 8.0 Prudential 16.8 Bangkok Life 8.9 ING 7.3 PRU LIFE (UK) 11.5 Allianz 7.2 AIA 7.1 China Pacific 9.7 Rajai Allianz 3.3. 5 6 Mirae Asset Shinhan 4.9 4.7 Hang Seng AXA(B) 7.2 5.3 Nan Shan China Life 7.9 5.1 Aviva Manulife 4.6 3.9 SC NewYorkLife Ayudhya Allianz 8.3 6.1 Hong Leong Allianz 4.1 3.0 Insular Life BPI Philam 8.7 7.4 Indolife Bersama Bumiputera 5.8 5.6 Dai-ichi ACE 7.0 5.6 PICC Life Taikang 7.4 7.1 HDFC Reliance 3.1 2.3. 7 Tong Yang 4.3 BOC 5.3 Allianz 4.4 HSBC 3.7 Krungthai AXA 5.8 MAA 2.9 Manulife 5.8 AXA Mandiri 5.5 Cathay 0.7 Taiping 3.3 Max New York Life 2.0. 8 9 10 10 社シェア計 Hungkuk Met Life Allianz 3.8 3.8 3.4 82.4 China Life ING AXA(HK) 2.9 2.8 2.6 73.5 Mass Mutual Bank Taiwan Far Glory 3.3 2.7 2.1 85.8 OAC Tokio Marine Axa Life 3.0 2.3 1.4 96.7 Ocean ING South East 3.8 3.2 2.3 91.2 MCIS Zurich Manulife Tokio Marine 1.9 1.6 1.6 62.2 SunLife GREPA United Coconut Generali 3.5 3.4 2 86.0 MEGA Jiwasraya AIA 5.5 5.0 4.7 76.4 Korea Life Prevoir Great Eastern 97.7 0.7 0.3 0.1 Sino Life Sunshine Union Life 2.4 1.7 1.0 88.2 Birla SunLife Tata AIG Kotak Mahindra 1.9 1.4 1.0 95.3. (出所:各国保険庁・生保協会等のデータから筆者作成). カナダ) ,AIA(米国系)の 3 社はアジア域内. 3―2―1 プルデンシャル. の多くの市場に参入し重要なポジションを占め. 英国ロンドンを本拠とするプルデンシャル社. ており域内を代表する外資生保企業といえる. (Prudential plc.,持株会社)とその子会社およ. (他方,Allianz(ドイツ) ,AXA(フランス) ,. び関連会社から構成され,世界各国で保険その. ING(オ ラ ン ダ) ,Zurich(ス イ ス) ,Generali. 他の金融サービス事業を展開する世界有数のグ. (イタリア)などの世界的な大手生保企業や我. ループである.160 年以上の歴史を持ち,2011. が国の有力企業もアジア地域に進出している. 年 12 月 31 日現在その総資産は 32.8 兆円(1 ポ. が,上記 3 社に比べると市場における位置づけ. ン ド =120 円)に の ぼ る.38 万人 の 従業員・. ははるかに小さい) .未だ外資の出資や国内の. エージェント,26 百万以上の顧客数を有する.. 支店設置等の規制の強い市場(中国・インドが. 1923 年のインドを始めとしてアジアに進出し. 典型)では,内資(地場)の有力企業が依然大. て 90 年以上の歴史を有する.同社のアジア地. きなシェアを占めているが,その両国において. 域における事業が急拡大したのは,1994 年に. も,かつての独占・ドミナント企業の多くが市. 地域本部 で あ る Prudential Corporation Asia. 場の拡大・規制緩和,競争激化の中でそのシェ. が香港に設立されて以来であり,アジアの 12. アを減少させており,この点でも事情環境の大. の国・地域で生命保険・投資信託等の事業を展. きな変化が認識できる.. 開し多くの国で上位のシェアを獲得している. アジア事業のグループ全体への貢献は 2011 年. 3―2 3 社の経営の特徴. 度 で 保険料収入 の 45%,(年換算保険料 ベー. 上記 3 社につき, その歴史,戦略,組織・人事,. ス),営業利益 30%,キャッシュ送金額 287 億. 事業活動等についての特徴について述べる.. 円と非常に大きな位置づけとなっている.アジ.
(6) 18. 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). (672). ア地域のトップである Barry Stowe 氏は本社. 務所),1999 年ベトナム(外資企業として最初. の Executive Director を 兼務 し て い る.ア ジ. の全額出資法人化)であり,加えて米国大手の. アにおける顧客数は 16 百万強,エージェント. ジョン・ハンコック生命の買収に伴い,そのマ. 数は 36 万人である.販売チャネル別保険料収. レーシア,シンガポール,インドネシア,フィ. 入 は,エージェン ト が 66%,銀行 が 29% と 二. リピンの拠点を傘下に収めた.さらに他社の. 者が太宗を占めている.同社の企業ロゴ(女性. 事業を買収して営業規模の拡大を図っている. の顔)はアジア域内でも広く認知されており,. (フィリ ピ ン:MetLife(米),Commonwealth. 積極的な CSR 活動も知られている.同社のブ. Bank of Australia(豪),チューリッヒ(スイス). ランドは 2011 年「アジアブランド調査」にお. および Pramerica(米)から買収,インドネシ. いて 1000 ブランド中上位 1/4 の中にランクさ. ア:チューリッヒ か ら 買収).メ ジャー出資 に. れている.アジア各国の拠点は,地域本部の戦. よる経営の支配を重視するため同社はインド市. 略的リーダーシップと専門的技術的な支援(商. 場 の 将来性 を 認識 し つ つ も,外資規制(現行. 品開発,販売網管理,資産運用 な ど)を 受 け,. 26%)の緩和のタイミングを待っているとされ. 地域横断的な方針・リスク管理のもとで事業を. る.また新たな市場と期待されるカンボジアで. 遂行している.. は初進出の外資生保として「先行者利益」の確. 3―2―2 マニュライフ. 保を企図している.同社がアジア事業を重視し. カナダで最大,北米でも有数の保険事業を中. ていることは,執行役員 36 名中 6 名がアジア. 心として資産運用事業などを展開する企業グ. に駐在している(その代表者がアジア地域本部. ループ(本拠 は ト ロ ン ト,持株会社 Manulife. 長で,本社 Senior Executive President である. Financial) .主にアジア,カナダ,米国を中心. Robert Cook 氏である)ことからも理解できる.. に事業を展開している. 2012 年に創業 125 周. 3―2―3 AIA. 年を迎えた.アジア進出は 1897 年の上海と香. 1919 年に上海で設立された保険代理店を嚆. 港から始まり,継続してアジア地域で事業活. 矢にアジア地域発祥で同地域における主導的な. 動を行っている外資生保企業の中で最長の歴. 生保企業 で あ り,本拠 は 香港 で あ る.元々米. 史を有する.現在アジアの 11 ヶ国・地域に展. 国 AIG グ ループ の 全額出資子会社 で あった が. 開.アジア事業の世界全体での位置づけは利益. AIG がリーマンショック後の米国政府による. ベースで約 34%,保険事業の売上高で 49%(い. 公的資金注入を受けたのに関連し,AIA 単独. ずれも 2011 年度)と大きなものとなっている.. として 2010 年に香港で新規上場を行い AIG か. また,同年のアジア地域における販売チャネル. らの独立を図りつつある(AIG による出資割. 別 の 状況(収入保険料 シェア)は,エージェ. 合は 20% 台まで減少している).24 百万以上の. ン ト が 50%,銀行 16%,ブ ローカー・直販等. 個人保険契約数,10 百万以上 の 団体保険加入. 34% と なって お り,エージェン ト が 主力 で あ. 者数を有し,香港やタイでトップシェアの地位. るが,銀行を通じた販売は 2008 年の 8% から. にある.同社の販売チャネルは保険料収入の 8. 倍増している.. 割近くを専属のエージェントが占め,残りが銀. アジアにおける地域本部は香港に所在してい. 行やダイレクトマーケティングとなっている.. る.アジア進出の歴史は,1897 年上海・香港,. 外資出資規制(26% 上限)の た め マ イ ナー出. 1899 年インド,1902 年フィリピン,1903 年イ. 資の合弁形態となっているインドを除き基本的. ンドネシア,1980 年シンガポール,1992 年中. に支店形態や全額出資またはそれに準じる出資. 国(駐在員事務所) ,台湾(支店) ,1994 年中. シェアの現地法人形態で営業を行っている.主. 国(上海・成都支店 ) ,ベ ト ナ ム(駐在員事. 要なアジア拠点展開の歴史は,1931 年シンガ. 4).
(7) 生命保険企業の国際事業展開に関する研究(平賀). (673). 19. ポール, 香港,1934 年マレーシア,1938 年タイ, 1957 年ブルネイ,1982 年マカオ,1984 年イン ドネシア,1987 年韓国,1990 年台湾,1992 年 中国(営業再開,外資で全額出資は同社のみ) , 2000 年ベトナム,2001 年インドとなっている. 2011 年度 に お け る 営業利益 の 国別内訳(合計 は 2,381 百万ドル)は図 2 のとおりである. 3―3 3 社の事業展開・経営の特徴 ⑴ 長いアジア地域での営業の歴史:アジア 地域での事業開始は,マニュライフが 1897 年, AIA が 1919 年,プ ル デ ン シャル が 1923 年 と. (出所:同社 2011 年アニュアルレポート). 図 2 AIA 社の国別営業利益. 早く,企業名・ブランドの認知も含めた営業上 の優位のみならず下記の例のような出資規制に 関する特権的メリットの享受(AIA が典型)も, 現地における長期間の事業活動による組織学習 や官民等における人脈構築等の成果であると推 量される.各社共にアジア新興国の経済発展の 中で業容を拡大しているが,特に 90 年代半ば から急伸しているプルデンシャルはその典型例 と思われる. 一般に外資企業の弱みとされる社名・ブラン ドの認知度や現地人脈は,3 社については進出 の歴史も長いために他の外資企業よりもはるか に優位にあると考えられる.例えばプルデン シャルのインドネシア拠点では,集中的なブ ランド浸透の取組みにより,15 年間余りの期 間で,創立から約 100 年の歴史を有する地場有 力企業(Bumiptra 1912)を凌駕する認知度を 達成している(この短期間のブランド浸透の取 組みと成果も,同社の過去の経験・ノウハウと 経営のコミットメントによって実現していると. ⑵ 単独出資 ま た は メ ジャー出資志向:3 社 ともにその傾向が強く自社による強力なコント ロールを意図していると考えられる.これには, 合弁形態での事業運営の難しさやデメリットに ついての過去の経験や認識に因るところが大き いこと,市場理解,ノウハウ,有能な人材を保 有しており自らが責任をもって経営が実行でき 成果を挙げられる自信を持っていることが大き な要因になっていると思われる.中でも,AIA は そ の 進出国・地域 15 中,26% の 外資出資制 限があるインドを除いた 14 か所で全額出資(単 独出資)またはそれに準じた大きな出資比率で の出資となっており,外資について現行 50% 限度の合弁出資形態と制限されている中国で唯 一の例外となる全額出資が許されていることは 特筆される.またマニュライフも中国で過半の 51% 出資が例外的に認められている.これら の事実は,いわゆる強固な人脈等を活用した「先. 推量される).AIA も同社の認知度の高さに自. 行者利益」享受の典型事例といえよう6).アジ. 信を持っており,リーダーズダイジェスト社の. ア市場の有力企業であるマニュライフが域内の. Most Trusted Brand 表彰において 8 年連続で. 重要市場 で あ る イ ン ド(26% ま で の 外資規制. 金賞を受賞しているとしている .さらに 3 社. あり)へ進出していない理由は,同社のメジャー. 5). ともに災害時支援,教育,健康,環境などの分 野で各国における社会貢献活動(CSR)に注力 しており,企業・ブランドの認知や企業イメー ジの向上に寄与している.. 出資方針7)が実現できないからとされている. ⑶ アジア地域の収入・利益の企業(グルー プ)に対する貢献度の大きさ:プルデンシャル は,06 年 か ら 親会社(在英国)へ の 現金 で の.
(8) 20. (674). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). 表 4 世界の主要保険企業ランキング 株式時価総額ベース. 単位:億円. (出所:東京海上 HD(2012)をもとに著者作成)). 収入保険料ベース(2010 年). (出所:Best Week by A.M. Best Company 2012 年 1 月 3 日号). 表 5 アジアにおける有力 3 社の比較. (45%) (30%). (49%) (34%). (100%) (100%). 36%. 27%. 45%. 78%. 56%. 73%. (出所:3 社の年次報告書等より筆者作成) * AIA は香港が本拠で,アジア地域のみで営業を行っているため,そもそもアジア地域本部という概念はない.
(9) 生命保険企業の国際事業展開に関する研究(平賀). 配当送金を開始し,その規模は 2011 年上半期 分 で 2.39 億 ポ ン ド(約 287 億円)に 増加 し て. (675). 21. 表 6 地域的なシナジーの発揮(企業内各部門と アジア地域本部による拠点支援). いる.このことは各社におけるアジア地域市場 の貢献度の高まりと重要度の大きさをより明 確に認識させることになり,経営資源の積極 投入 や ア ジ ア 地域本部・拠点 へ の 権限委譲 の 拡大につながっているものと考えられる(因 みに AIA はアジア地域のみで営業を行ってい る た め,同地域 の 企業収入・利益 へ の 貢献度 は 100% で あ る) .な お,外資規制 が 残 り,そ の国内拠点増にも事実上のハンディキャップが あ る 中国市場 で は,外資系生保企業 25 社中本. (出所:プルデンシャル社ホームページ). 稿の 3 社を含む 7 社しか純利益を計上していな い.. ウハウを活かして支援する,エージェントにつ. ⑷ 地域本部やグループ企業と各国の拠点の. いて,基本的な管理は各拠点によるが,販売制. 有機的 な 関係 : ア ジ ア 事業 に 関 す る 組織機構. 度の設計や重要な取組みについては本部がリー. は,アジア地域本部(アジア地域のみで営業す. ダーシップを取るとしている8).表 6 はプルデ. る AIA の場合はグループ本部) ,以下「地域本. ンシャルの例であるが,地域本部とグループ企. 部」という)と各国・地域の拠点という構成に. 業(資産運用等)による各国拠点への支援・管. なっている.地域本部の所在地はいずれも香港. 理のあり方がまとめられている.域内における. である.その理由としては,欧米企業がアジア. 事業の目標や戦略の決定,資本配分や業務成績. 地域の本部拠点を検討する場合に,東南アジア. の近代的な管理,商品開発・販売網構築や育成. 地域とも近接し,かつ将来性が大きい中国ビジ. の 支援,IT・統合的 な バック オ フィス 業務 の. ネスとの関連を重視しているためと推量され. 実施やサポート,域内全体を単位とする事業の. る.地域本部の機能は企業(グループ)全体と. 遂行(包括的な事業提携など),上席者を中心. しての目標.方針の明確化,IT 等バックオフィ. とする人材の管理等についてグループ全体での. ス業務や資産運用の標準化や集約化による効率. シナジー効果による付加価値がもたらされてい. 化であり, 「標準化」と現地への「適応化」の. ると考えられる.また,地域本部・拠点間の人. あり方が重要なポイントになる.この点に関. 事交流により業務上のノウハウ・スキル・人脈. し,AIA によれば,効率化の推進と迅速なサー. などが相互に伝えられることになり,人材の育. ビスの提供という観点で現地の事情に通じた各. 成にも寄与する.またアジア拠点 CEO は,親. 国の拠点への権限委譲を進めつつ,会社全体と. 会社の上席役員を兼務しており9),親会社とア. しての規模や交渉力の優位を活かした再保険手. ジア地域本部・拠点の連携がうまく機能する仕. 配・財務・IT・数理・事務支援 な ど 地域全体. 組みにもなっている.同様の拠点連携や人的交. としての効率化や IT の活用によるサービスの. 流,知の共有は 3 社に共通している.. 質向上,各拠点によるベストプラクティスの共. ⑸ 有能 な 人的資源 の 保有・活用:生保事業. 有化,重要な人事・リーダー教育の実施などと. は人が有する保障・貯蓄・投資ニーズに応える. いう観点で本部が機能を果たすとしており,例. サービスを人が提供するという性格を有するも. え ば,商品開発 は 各地 の 法制度等 の 実情 に 即. のであり,生保各社は有能で信頼される人材. して現地拠点が担当しつつ本部が専門的なノ. の 育成・活用 に 注力 し て い る(例,プ ル デ ン.
(10) 22. (676). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). シャル に お け る,各拠点の優秀層を選抜した. る.また域内での重要度を増すバンカシュアラ. 「Future Forum」と 呼 ば れ る リーダー教育 プ. ンスでも有力な銀行との間の提携関係を有し. ログラムや,優秀な新規人材を採用し計画的に. ており,特にプルデンシャルと英 Standard &. 業務・各地拠点勤務経験を積ませて幹部に育成. Chartered 銀行のアジア域内における包括的な. する「Momentum」プログラム) .アジア地域. 提携はその好例である.. 本部の幹部の多くは, 自社や業界の競合有力社,. 以上 3 社に共通する特徴や強みを中心にみた. アジア地域内を含めた海外の複数の場所で経験. が,最後に個々の特色について述べたい.先ず. を積んだものが多く,特に経営トップ層や戦略. プルデンシャルであるが,アジア事業の歴史自. や販売・マーケティングを担当とするものにそ. 体 は 古 い が,当初 は 旧英国 の 植民地 で あった. の傾向が強い.また,有力企業をまたがる転職. 市場を中心に展開していた.急拡大を見せた. 事例も多く,特に AIA(AIG 系)とプルデン. のは 1994 年にアジア地域本部を開設して以降. 10). シャルの人材は相互の入れ替わりが多い .同. で あ り,推進 リーダーと し て 長 く 地域本部 の. 時にこれら企業はアジア地域における他の保険. 長を務め,後にグループ全体の CEO となった. 企業への高度人材の供給源にもなっている.. Tucker 氏(現在 は AIA の CEO)の 存在・影. 表 5 にあるように地域本部トップの全員をは. 響力が大きかったと考えられる.商品について. じめ,その幹部には欧米人(ただし親会社の所. は本国の英国発祥で人気が高い投資型商品であ. 在国 = 本国以外の国籍の人材を多く含む)の. るユニット・リンク型保険をアジア市場でも積. 比率が高く,かつアジア地域各地での勤務歴を. 極的に販売している.マニュライフは,プルデ. も つ 者 が 多 い.他方,各国・地域 の 拠点長 レ. ンシャルと比較すると着実・漸進的にアジアで. ベルやアジア地域本部の機能分野(IT,人事,. の業容を拡大していると思われる(他の多くの. 法務など)の部門ヘッドにはアジア地域出身の. 外資企業が既に進出しているインド市場につい. 人材の比率が高くなっている.それら人材につ. て外資規制(26% 上限で経営のコントロールが. いては,プルデンシャルが公表しているように. 難しい)の故に進出を静観しているとのことで. 生保事業経験と現勤務先企業での在籍期間の長. ある).AIA は,アジア発祥であり,他の 2 社. 11). さ,内部昇格率が高いとの傾向. が見られる.. に比べ市場の理解度や人脈の強さで特色がある. さらに人材の拠点間の異動を積極的に行い能力. との印象がある.上記の中国に加えマレーシア. 向上や経験・ノウハウの共有化に努めている.. 等でも見られる同社の特権的な地位(各国規制. 上記の状況は,欧米や日本など先進地域に比べ. の例外としての大きな出資比率の許容)の確保. 相対的に生保事業の歴史が浅く有能な人材プー. はその好例と思われる.そこにはかつて AIG. ルが少ないアジアの現状において必要とする人. の子会社時代に AIG のトップに長く君臨した. 材の育成・確保を行うための取組みやその段階. Greenburg 氏(M. Greenburg)や 同社 の トッ. を示しているものと考えられる.今後,市場の. プを長く務め現在も名誉会長職にある Tze 氏. 発展に伴い経営の現地化が進む中で,より多く. (中 国 系 米 国 人), 上 記 Tucker 氏(現 CEO,. のポストがアジア人材によって担われることに. プルデンシャル出身)などのリーダーシップや. なるものと推量される12).. 人脈,本国やアジア諸国の政府・業界への影響. ⑹ そ の 他:3 社 は 地場企業 の 知識・能力水. 力が大きいと考えられる.ただし AIA は,リー. 準を超えるエージェントチャネルの構築に取り. マンショック後の AIG への米国政府による公. 組んでおり,生産性・専門性の低い販売網を数. 的資金注入後,自ら香港で IPO(株式上場)を. 多く保有する地場企業や,販売網の体制整備に. 行い AIG からの独立化を進めつつありこの過. 遅れる他の外資企業に比して優位を持ってい. 程で Tucker 氏はじめプルデンシャルから複数.
(11) 生命保険企業の国際事業展開に関する研究(平賀). (677). 23. 表 7 国際保険経営に関する諸要因 国内. 国外. 一般要因. 直接要因. 一般要因. 直接要因. 環境要因. 政治体制 の 安定,自由・ 奨励的 な 海外投資政策, 為替制度,投資保険制度, 二国間・多国間 の 海外投 資保護制度,国内での投 資機会の減少や利潤率の 低下,海外雄飛・拡張・ 国際的イメージが企業の 威信・社会的評価につな がる価値観・風土. 海外進出に関する自国保 険監督法上 の 条件・監督 当局の政策,国内市場の 構造(競争環境)や 成長 可能性. 政 治 的 安 定 度, 行 政 効 率,関係諸法制 の 整備状 況,産業政策,投資・金 融面の国際化・自由化の 程度,国際収支,経済構 造や成長率,雇用,人口, 所 得・消 費 等 生 活 水 準, 家族構成,教育水準,宗 教等,外資規制,差別的 課税,為替制度上の制限. 各国の保険監督法におけ る 認可条件,監督当局 の 外国保険業者に対する政 策・方針,財務健全性 の 裏づけとしての資本金・ 供託金・責任準備金等 に 関 す る 規定,独自 の 商 品・販売方法 へ の 要求, 現地市場の構造(参入の 難易,競争状況)と 成長 可能性. 企業主体要因. 経営理念(地元市場志向型:成長・存続のための海外への進出,国際企業イメージによる国内市場での優位, バ ン ド ワ ゴ ン 効果,本国系市場志向型:国内市場 の 防衛・確保 の 必要性),経営組織,経営資源(優位性: 新商品開発,ユニークな販売方法,優れた広告宣伝技術などマーケティング手法,アンダーライティング(引 き受け審査)能力や担保力,さらに,本国系市場志向型では,本国系顧客との関係による事業者の選考とい う点で,地元の既存業者に対する優位性を有する). の役員が入ってくるなど経営体制の大きな変革. 分析を行うために,有用と思われる先行研究を. を行っており,今後の帰趨に注目が必要と考え. レビューする.以下では,先ず生命保険業に関. られる.同時に自社(プルデンシャル)の中身. するもの,次いで企業の国際化に関する諸理論. を熟知した人材が競合企業である AIA の中核. を取り上げ,最後にサービス業の国際化に関す. を担うことによるプルデンシャルの経営への影. る理論を考察する.. 響も興味深い. 4―1 生命保険業に関する研究 3―4 その他外資企業(日系企業を含む)の状況. 4―1―1 塗明憲氏の研究(塗,1983). 上記 3 社はアジア地域への進出の歴史も長. ⑴ 生命保険業の海外進出に係る要因・動機等. く,かつ同地域を重点市場として取組み既に大. についての考察. きなポジションを有している.他方,国際的な. ⒜ 海外進出の 2 大類型としての地元市場志. 大手保険企業であるドイツの Allianz(アリア. 向型と本国系市場志向型14)を提示した.. ンツ)やフランスの AXA(アクサ)でアジア. ⒝ 国際保険経営の形態について,業務提携,. 地域 の 保険料収入(2011 年)が 全社計 の 1 割. 駐在員事務所の設置,代理店の任命,支店・現. 以下13)であることからもわかるように,後発. 地法人の設立,等を挙げ,進出先市場における. であったりアジア事業の地位・優先度が高くな. 営業活動の直接管理の重要度,進出企業の資金. い他の外資企業(日本企業を含む)の現地市場. 力,国際経営資源 の 蓄積度,市場参入 の 難易,. でのプレゼンスや影響力は相対的に小さい(表. コストなどの要素により各形態が選択される旨. 4 参照) .. を述べた. 4.先行研究のレビュー. ⒞ 国際保険経営に関する諸要因として環境 要因(国内・国外),企業主体要因を挙げており,. 上記の市場状況と 3 社の特徴・強みなどをも. 両者の要点は表 7 のとおりである.. とに,本稿の目的である(サービス業の一業種. 塗によれば,ここで示される諸要因は可変的. である)生保事業の国際化についての理論的な. であり,それらの分析を通じて判断される「推.
(12) 24. (678). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). 進・誘引効果」の評価と「抑制・抑止効果」の. 塗の考察をまとめると,生保企業の海外進出. 評価とのバランスが企業の意思決定を左右し,. について,外部環境要因と企業内部の主体的な. 前者が後者を上回る場合に国際化が実現し,前. 要因があることを指摘しつつも,当初は順調に. 者が優勢なほど支店化・現地法人化といった国. 推移したが結果として失敗に終わった米国 3 社. 際化における段階の高度化が期待されるとして. の欧州市場への進出事例の分析によれば経営者. いる.. の意図等内部の主体的な要因の影響が大きく,. ⑵ 初期の米国大手 3 社の海外市場参入に関する. 国内営業と海外営業の組織・責任体制の未分化. 考察. な ど 戦略面 や 組織体制面 で の 対応 が 不十分 で. 19 世紀後半 か ら 米国 の 大手生命保険企業. あったとしている.. 3 社(エ ク イ タ ブ ル・ニューヨーク ラ イ フ・. 塗の分析は,生命保険業を対象とする本格的. ミューチュアル)が欧州市場に進出したが,そ. な検討であり,その指摘や示唆する事項には参. の進出動機は環境要因よりも経営者の意欲やラ. 考になる点が多い.しかしながら,本稿で分析. イバル企業への対抗という企業主体要因が強. 対象としているようなアジアの新興市場の業績. く,当時米国 が 世界 を リード し て い た マーケ. が企業本体の経営・業績に大きな影響を与える. ティング技術などを競争優位として一時は大き. ような状況など経営環境の大きな変化が到来す. な発展を見た.しかしながら,事業費の増大化. る事態を経験していない時点で行われており,. や投資利回りの低下,死亡率の上昇による国際. また後述する折衷理論など企業の国際化理論の. 事業の業績悪化や,地元業者・世論の反発,現. 進展が見られる以前の研究であり,現時点での. 地保険監督庁との対立や規制の強化,米国の保. 考察には適合しにくい点が多いと考えられる.. 険監督庁による国際事業に対する見解の厳格. 4―1―2 S. ビンダーと J.L. ガイの論点 (Binder. 化,などの事情の中,当初の積極的な営業努力. & Ngai,2009). が次第 に 減退 し 第一次世界大戦頃には全て撤. マッキンゼーのコンサルタントである両氏. 退した.塗は,米国各社の海外市場(欧州)へ. は,アジア生保市場の発展につき,中長期的な. の進出が,主に経営者による主体的な意思・願. 成長期待が大きいことを述べ,外資保険会社は. 望や米国の競合企業への対抗心などに基づく拡. 多くの市場ですでに大きなプレゼンスを有する. 張競争の一環と考えられるものであり国際事業. が,さらに勢力を拡大する可能性が大きいと考. に関する組織・管理も国内事業のそれと未分化. えられること,外資企業の大きな競争優位は,. (一体化)のままであるなど参入市場の重要度. 事業遂行面における地場企業に対する優位であ. についての認識や企業としての優位性の発揮な. り,特に,新たな商品や販売面の革新に関し強. ど客観的な要件・理由に基づく事業の意図が希. みがあるとする.また,欧米有力企業や日本企. 薄で,かつ組織管理体制も不十分であり,一旦. 業に加え,アジア域内の有力生保企業が本国以. 不利な事業環境に陥ると有効な対応策を取るこ. 外のアジア域内市場に進出する動きが活発化す. となく撤退に至ったことを指摘し,各社の対応. る可能性が大きいとしている(韓国,中国,台湾,. には一貫した原則や基本方針が欠けていたと主. シンガポール,マレーシア等の企業がその候. 張している(この米国 3 社の国際事業展開のタ. 補) .具体的には下記 5 点を今後のアジア生保. イミングは,エクイタブルが 1891 年,ニュー. 市場における重要テーマとして提起している.. ヨーク ラ イ フ が 1860 年,ミューチュア ル が. ①市場 の 高成長:GDP,一人当 た り も,生. 1868 年 と,本稿 で 対象 と す る 欧米系 3 社以上. 保保険料規模,普及率,世界合計の増分の中で. に古かったがその国際展開は持続的ではなかっ. アジアのシェアの拡大,成長期待が大きい.. た) .. ②中間層 の 増加:生保市場拡大 の 重要 ファ.
(13) 生命保険企業の国際事業展開に関する研究(平賀). (679). 25. クター,地方都市(いわゆる「2・3 線級都市」. なり,特定の商品で全市場をカバーすることは. や地方部)まで波及,大都市集中ではチャンス. 困難になる.伝統的なプッシュ販売モデルから,. を逃す可能性,ホワイトカラー,事業主等の層. 顧客ニーズに基づくアドバイス中心の販売へ変. のニーズに合致した販売網,商品の提供.. 化する.投資型商品は経済環境の変化により販. ③多国籍保険会社の増加・プレゼンス拡大:. 売の鈍化はありうるが依然として重要な商品と. 外資企業は多くの市場ですでに大きなプレゼン. して継続する.他方,傷害医療,年金,イスラ. スありさらに勢力を拡大する傾向にあり,一握. ム保険の成長可能性がある.. りの企業のみがアジア市場全般での有力プレー. 4―1―3 G. パーチホルドと J. サットンの論点. ヤーといえる,次の 10 年は事業遂行の卓越性. (Perchhold & J. Sutton,2009). が鍵,商品・販売面の革新に関し外国企業の強. 経営コンサルタントである両氏は,アジア生. みがあり,外資によるシェアは 07 年の 25% 未. 保市場で成功の鍵となる 5 要因として以下の諸. 満が,次の 10 年には 30─35% にまで拡大する. 点を指摘している.. 可能性がある.アジアの有力企業による域内の. ①優れたエージェント(能力・知識・熱意が. 他国市場への参入も含め外資のシェア拡大の可. より高レベルで顧客ニーズを理解)による販. 能性はより大きい,この傾向は,歴史的に地場. 売網 の 継続的 な 構築:投資商品等複雑 な 商品. 企業が強い市場でより特徴的となる.. の 理解 と 円滑 な 販売 の 重要性,新規進出外社. ④販売網の変化:主要なポイントは専属エー. が,若くより専門性のある販売網も持つ強みあ. ジェントと銀行販売,大きな位置づけを有する. り.インドの国営生命保険公社(LIC)のシェ. 前者は現在大きなプレッシャーを受けており,. アは 2000 年の 100% が 06 年に 82%,中国人寿. より専門性を有する者や若い世代へのシフトが. (トップ企業)の上海におけるシェアは 2000 年. 起こっている,中国でも販売網の変化トレンド. の 29% が 07 年 22% に 減少 し て お り,中国 の. は要注目点のひとつで,自ら変容できない伝統. 上位 3 社計のシェアについても同様の傾向にあ. 企業にとっては致命的になるだろう.銀行チャ. る.販売網につき若く専門性のある人材による. ネルはアジア市場での新たで非連続な特徴であ. エージェントチャネル構築の必要性の増大,グ. る,ほぼ無の状態から新契約シェアの 30─50%. ループ・地位単位での標準化による効率経営の. を獲得,これまでの急速な伸びは次第に鈍化す. 追求や各拠点のベストプラクティスの他拠点に. るだろうが重要な販売チャネルとして継続す. よる共有化が重要になる.. ると予測.アジア市場の拡大に銀行が大きく貢. ②バンカシュアランスと新たな販売チャネル. 献している.銀行は手数料収入拡大でメリット. の構築:バンカシュアランスにおける販売商品. 享受するが保険会社にとっての利益への貢献度. の高度化,銀行・保険会社間の協力緊密化,保. は少ないため,今後は両者の協力で双方に付加. 険会社の利益拡大による事業価値の増大化,欧. 価値のある保険契約の増加傾向へと変わるだろ. 州での成功がアジア地域の先行事例となって経. う.さらに新代替チャネル (ブローカー,直販,. 験・ノ ウ ハ ウ が 移転.保険企業 と 銀行 の ウィ. 小売店舗など)についてシェアは小さいものの. ン・ウィン関係に変容する可能性がある.新た. 着実に増加する可能性がある.. なチャネルは規模的には小さいが着実に成長す. ⑤顧客ニーズに沿った商品の提供:複雑で高. る見込みがあり,その場合に欧米先進市場がモ. 度な商品の登場,例えば,投資商品の高度化・. デルになる.小売企業による保険販売(日韓,. 洗練化,特定セグメント顧客(アドバイス希望,. イ ン ド),ブ ローカー・独立代理店 の 増加.ダ. ホワイトカラー,中間層,年金受給者,事業主,. イレクトセールスでは,全国的な規模でのコー. 地方の富裕層)のニーズに合った商品が重要に. ルセンターを構築できれば優位に立つことが可.
(14) 26. (680). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). 能となる.. 成熟市場では M&A が選好されやすく,中国・. ③競争の激化の中で勝利できるような事業モ. インド・ベトナムでは自前化がより成功に適. デルのレベルアップ:多くの市場に先行して入. す る).ターゲット 企業 の 有無,タ イ ミ ン グ,. り利益を稼ぐという古典的な戦略は変化してい. M&A の目的が明確であることが必要である.. る.各市場 で の 競争激化の中優れた事業モデ. ターゲットを良く知る目的での小額出資も存在. ルでの競争優位の確立が求められている.バ. する.自己の強みをベースにすべきであり,そ. リューチェーン に 沿った 高度 な ス キ ル ──販. の異文化適用が大切である.各拠点が欧米等の. 売・商品 の 革新・IT・事業遂行・資産運用・. 本社へ直接レポートする体制では意思決定が遅. リスクマネジメント,人材マネジメント──の. れ,現地市場の理解も困難であるために強力な. 強化が必要となっている.銀行との差(保険会. アジア地域本部の構築が必要である.域内展開. 社は就職希望の人気先に上がらない,金銭面の. の戦略決定,資本配分,商品開発のガイドライ. インセンティブも小さい,産業の歴史が浅く経. ン,会計・監査面,域内を単位とする事業の実. 験ある管理職が少ない,ブランド・イメージが. 行,域内の有能人材の管理などが,地域本部が. 低い)を認識して強化する必要性がある.上記. 付加価値を生むためのポイントである.. の諸点への対処につき,多国籍保険企業は地場. ⑤利益に関するプレッシャーへの耐性の強化. 保険企業に対して優位にある.規模(販売量). の必要性:今後,各市場での競争激化の中,現. よりも質や付加価値が重要になり,本国先進市. 在の高収益性は減少方向に向かう可能性あり. 場や他拠点でのベストプラクティスの活用の重. (それでも先進国市場よりは高め),その傾向は. 要度が増す.IT の活用による地域内各国市場. 特にバンカシュアランスで顕在化しており,生. での事業運営のシナジーの構築・活用や,各拠. 保企業の収益を圧迫している.このような環境. 点のバックオフィス業務の地域本部での統合・. の中,特に地場企業は規模(販売量)より価値. 共通化などによる経費コントロールとコスト. 重視(収益性志向)へシフトすべきである.. 節減が重要になる.標準化の効用,資産運用の. 上記の 4─1─2 と 4─1─3 や,保険企業の実務家. 強化,人材育成(他の業界に劣後しておりその. による報告・発表(日本保険学会による「グロー. 改善にはインセンティブを高めることも必要) ,. バリゼーションと保険会社の海外進出」をテー. 資産負債管理(ALM)の 高度化 や 資産運用企. マとする平成 23 年度シンポジウムと同学会誌. 業の創設・育成などの取り組み.また上記シナ. 『保険学雑誌』第 616 号所収の各論文などが代. ジー効果については,過剰な要員配置や権限の. 表的なものであろう)は,アジアの生保事業の. 肥大化などで地域本部のガバナンスモデルが適. 現状や方向性を考える上では重要なものである. 切に定められ実行されないと,本部機構の存在. と考えられるが,それらはあくまで事実の提示. が付加価値をもたらさず,迅速な意思決定や行. や自説の主張を行ったものであり本稿の目的で. 動,生産性を阻害することがありうる旨も指摘. ある経営理論的な観点からの考察を行う上では. している.. 直接的に援用することはできない.. ④アジア地域におけるビジネスチャンスの獲 得:欧米日の企業だけでなく,アジア域内の有 力地場企業の海外進出も増える,そこでの重要. 4―2 製造業 や サービ ス 業 の 国際化 に 関する 先行研究. 点は,市場の優先度づけ,各市場実態・利益傾. 以下 で は,生保事業 の 国際化 を 考 え る 際 の. 向 や 参入上 の 要件 の 把握,他拠点・地域 で の. ベースや参考となると考えられる, (製造業・. 経験・スキルの活用・応用,M&A か自前進出. サービスに共通する)企業の国際化に関する研. かの決定はおかれた諸状況による(例として,. 究(特に折衷理論),サービス業の国際化に関.
(15) 生命保険企業の国際事業展開に関する研究(平賀). (681). 27. する研究,銀行・小売業に関する研究の要点に. ると,発展途上国へ生産をシフトさせていくと. ついてその主要点を考察する.. する.特定の製品の世界市場におけるプロダク. 4―2―1 企業の国際化研究. ト・ライフサイクルにおける地域的なタイムラ. 企業の国際化に関連する諸理論につき,なぜ. グを活用し,世界の各市場で需要の大きい製品. 企業は多国籍化するのか,その場合の特徴・重. を供給できるとする.しかし本理論はアメリカ. 要点は何かといった命題を中心とする理論につ. 経済の影響力が大きく多国籍企業のほとんどが. いての流れを見たうえで,それらを総合的にま. アメリカ企業であった 1960 年代に開発された. とめたものでサービス業にも適用可能とされる. ものであり,その後の日本・ヨーロッパや新興. 折衷理論につきレビューする.. 国の経済発展の中では説明力を大きく失ってい. ① ハ イ マー = キ ン ド ル バーガー命題:企業. る.. の 国際化(多国籍企業化)に つ き,そ れ 以前. ④内部化理論:企業が海外の企業と市場を介. の資本移動論(利子率の低い国から高い国へ. して製品,サービス,技術などの取引を行う場. 資本が移動するとする)と異なり,ハイマー. 合には取引コストが発生する.そのコストが高. (Hymer, 1960)は 企業 の 海外事業 で の 投資 の. ければ企業は自ら海外子会社を所有し,それを. 目的は経営を支配し事業収益を挙げる直接投資. 活用して自社製品を販売する方法を検討するこ. であるとし,外国企業は進出先の国では,地場. とになる.市場取引を企業内取引で代替すると. 企業に比べ情報へのアクセス等不利な面がある. 捉え内部化と呼ぶ.本理論の本格的な展開はバ. が,それを克服して事業活動を行う理由につき. ク レー = カ ソ ン(Buckley & Casson,1976),. 当該企業による優位性の保有に着目した.キン. ダニング(Dunning, 1977),ラグマン(Rugman,. ド ル バーガー(Kindleberger, 1969)は,優位. 1980)などにより行われた.内部化により取引. 性の源泉を, 製品差別化やマーケティング技術,. 相手の機会主義的行動を抑制することができる. 価格支配など,特許技術・ノウハウ,資本市場. 一方,そのコストとしては,インセンティブの. での差別化,優れた経営能力の企業内蓄積,規. 低下,階層が縦長になるに従って生じる情報の. 模の経済性,政府政策による参入規制の 4 点と. 遅延,歪み,異なる企業の統合による生産効率. した.この点に関し, ケイブス (Caves, 1971)は,. の低下といった問題がありうるとされる.. 特許技術やブランド,広告活動,販売サービス. ⑤折衷理論(OLl パ ラ ダ イ ム):ダ ニ ン グ. などの製品差別化能力を重視している.. は,内部化理論だけでは,多国籍企業の行動の. ②寡占反応論:ニッカーボッカー(Knicker. 全体を説明することは難しいとして,内部化. bocker, 1973)は,海外進出をする競争企業と. 理論に立地論と産業組織論の考え方を加えて. 同一行動 を と る と い う 寡占企業 の 対抗的行動. 国際経営 の 一般理論化 を 目指 し た(Dunning,. (バンドワゴン効果)から企業の国際化を説明. 1979) .そこでは海外生産を説明する上で 3 つ. しようとした.. の要素が同時に満たされなければならないと. ③ プ ロ ダ ク ト サ イ ク ル モ デ ル:バーノ ン. 主張される.3 つの要素とは,所有特殊的優位. (Vernon,1966)は,製品がライフサイクルに. (ownership-specific advantages),立地特殊的. 沿って成熟するにつれ,寡占競争が不安定とな. 優位(location-specific advantages),内部化優. り,企業が海外生産に着手すると考え,アメリ. 位(internalization advantage)である.. カでの新製品の開発とアメリカ市場への供給,. 所有特殊的優位は,技術や所有権等の無形資. その製品が成熟期を迎えると他の先進国市場に. 産 に 代表 さ れ る 資産優位(製品 イ ノ ベーショ. 新製品として供給するため現地に生産拠点を. ン,コード化・暗黙知を有する人材,ファイナ. シフトさせる.そこで当該製品が成熟期を迎え. ンス・生産管理・組織・マーケティングシステ.
(16) 28. (682). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). ムなどの能力等や相互補完的な資産)と,自社. ワークとして活用することとする.ただし,折. が所有する資産優位を効果的に組み合わせて活. 衷理論については理論モデルというよりも理論. 用する能力である取引優位(グローバルな自社. の構築に向けた分析的枠組みの提示に止まって. のネットワークの中で,企業の資産優位を効率. いるとの評やダニング自身も述べているように. 的に管理・利用する能力で資金力,技術力,組. サービス業への適用に当たっては各業種ごとの. 織力,管理力等)からなる.. 個別性の考慮が必要であるとしていることか. 立地特殊的優位は進出国(受入国)が提供す. ら,本稿では,生命保険業の特性や当該業種に. る現地特殊的な要因であり,所有特殊的優位の. 専門的な観点を踏まえて分析や理論の精緻化を. 形成,生産立地の選択,海外子会社の現地での. 行うこととする.. 経営環境などに影響を及ぼすもので,エネル. 4―2―2 サービス業の国際化に関する研究. ギー,原材料,部品,中間財などの価格や品質,. サービス業に関わる主要な理論を概観するに. 現地市場の需要規模,輸送および通信コスト,. 当たり,その前提となるサービスの特性とし. 法人税・関税など経済政策,政府規制,非関税. て,①無形性(intangibility) ,②非貯蔵性(non-. 障壁,インフラ条件,文化,政治,商慣習の違. storability) ,③輸送不可能性(non-transportability) ,. いなどが挙げられる.. ④生産と消費の同時性(simultaneity of production. 内部化が有利な状況とは,中間財や情報,技. and consumption) ,⑤生産者と消費者の近接性. 術などの所有特殊的優位を外部市場で取引する. ( proximity between producer and consumer). よりも,自社内で管理・利用した方が利益が増. の概念を提示し以下で行う分析の参考としたい. すような状況であり,内部化優位は一般的には. と考える.下記⑴~⑶の諸理論は,サービス業. 外部市場の不完全性や市場の失敗に起因すると. の多様性についての認識や類型化などの観点の. しその根拠として以下の諸点を挙げている.. 重要性やそのための基本的な視点を提示してい. ① 取引相手の探索および交渉コストの回避・. ると考えられ,生命保険事業に関する分析を行. 削減 ② モ ラルハザード,情報の非対称性,および 逆選択の回避 ③ 契約不履行や訴訟コストの回避. う上でのベースとして有用であると考えられ る. ⑴ ボドウィン = ハルブリッチ = ペリーの研究 (Boddewyn et al., 1986). ④ 現地市場ごとに差別価格が適用できない場合. 国境を超えるサービスを,「国際取引が可能. ⑤ 品質管理の向上. なサービス」(生産過程から分離されるサービ. ⑥ 相互依存的な活動の効率化. スや生産現場から消費者の需要場所へ国境を越. ⑦ 先物市場の不在への対応. えても移転が可能なサービス),「立地制約的な. ⑧ 受入国政府との関係の改善. サービス」(生産者と消費者の相互作用を必要. さらに有形製品の海外生産にとどまらず保険. としサービスの生産と消費に時間的・空間的制. 業を含めたサービス業の国際化や国際提携と. 約があり立地の束縛を受けるサービス),「混合. いった企業の行動についても OLI パラダイム. サービス」(上記の中間的に,生産過程の一部. のフレームワークの中で説明することができ. は立地制約的であるが,その他は国際取引が可. ると述べ理論の拡張を行っている(Dunning,. 能なサービス)の 3 つに分類し,立地制約を受. 1979) .. けるサービスには輸出という参入方式が採用さ. 折衷理論は多国籍企業の在り方を説明する上. れないなど,製造業とは異なりサービスの国際. で考察すべき諸要素や変数を整理したものとし. 化の分析には,サービスの特徴を考慮する必要. て有用であり本稿での考察の中心的なフレーム. があることを示した..
(17) 生命保険企業の国際事業展開に関する研究(平賀). (683). 29. ⑵ エラミリの研究(Erramilli,1990). 優位に関する質の不安定性. サービス業の海外市場参入行動が,製造業に. ・範囲の経済性. 比べ多様性に富んでいる理由を,特に「生産と. ・純粋なサービスの無形性・消滅性による対面. 消費の不可分性」という特性に求めたが,同時. の必要性. にその特性の適合度はサービス分野によって違. ・戦略的・文化的に重要性を有するサービス業. いがあり,それが該当しない分野では直接的. に関する各国の外資参入規制. な進出ではなく輸出も可能になるとした.具. ・各企業によるニッチ市場や各顧客に対する差. 体的にどの分野が輸出可能となるかについて,. 別化され個別化された対応. 「ハード・サービス」 (サービスがディスクや書. ・旅行業,金融,貿易などの諸サービスにみら. 類など目に見える形に具現化されるもの) と 「ソ. れる需要・供給が共に発生する特性. フト・サービス」(サービスが何らかのものに. その上で,製造業との相対的な比較を踏まえ. 具現化できないために生産と消費が同時に発生. てサービス業についての所有特殊的優位,立地. する)に分類し,海外参入モードとして,前者. 特殊的優位,内部化優位について以下のように. は輸出,後者は直接投資が選択されるとした.. 述べている.. ⑶ ラ ブロック = イップの研究(Lovelock and. ・所有特殊的優位:ネットワークを活用した交. Yip,1996). 渉力,情報収集力,リスク回避力など有形資産. サービスの種類がグローバル戦略の策定に影. よりも無形資産に重要な事項を挙げる.. 響を与えることを指摘しオペレーションの観点. ・立地特殊的優位:製造業に重要なコスト要因. から検討しサービスが生み出されるプロセスに. よりも市場接近の要因がより重要とする.内部. 顧客がどの程度参画するかによってサービスを. 化優位:情報志向や専門的サービス,商標やイ. 次の 3 つに分類した .①人を対象にするサー. メージを重視する業種,貿易関連業種では内部. ビス(サービスの生産と消費が同時に行われる. 化優位が海外進出の誘因になるが,リスク分散,. ため,顧客が到達可能な範囲内に拠点を置くこ. 暗黙知,現地での出資を要する政府規制,ホテ. とが必要とされる) , ②所有物を対象とするサー. ル・レストラン・レンタカーなどでは少数出資. ビス(顧客が所有するものを対象としたサービ. 合弁やノンエクイティの契約が選好されたり,. ス活動であり,対象物の価値を高めるために行. 投資信託・不動産・傷害保険では複数国の企業. われる.サービスの生産と消費の同時性は①よ. との連合が行われるなど業種により相違するこ. りも小さい) ,③情報を対象とするサービス (情. とが指摘されている.. 報の収集,加工,解釈,伝達作業を経て提供す. 特にダニングが本稿のテーマである生命保険. るサービスの価値を高める,情報通信や IT の. 業に関する 3 つの優位性として挙げているもの. 活用により人的関与を相当程度低くすることが. を抜粋すると以下のとおりである.. 可能で,各国への拠点配置の必要性が相対的に. ・所有特殊的優位:保険会社への評判・イメー. 小さい) .. ジ,規模の経済性・範囲の経済性,専門性,国. ⑷ 折衷理論のサービス業への適用について. 際的な顧客へのアクセス. a.ダニング自身による分析(Dunning,1989). ・立地特殊的優位:保険契約者との近接性,大. ダニングは,製造業と比較した場合のサービ. 手企業間の寡占化戦略,政府による海外への付. ス業の国際展開に特有の観点として以下を指摘. 保規制. している.. ・内部化優位:リスク分散,暗黙知,現地での. ・サービス業における人の要素の重要性と,各. 出資を求める政府規制. サービスの単発性の故の競争優位,所有特殊的. ダニングは,保険業に関して上記のような言. 15).
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