災害科学と情報技術:2.東日本大震災からの復興まちづくりと地理情報システム -ジオデザインの紹介-
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(2) |2|東日本大震災からの復興まちづくりと地理情報システム―ジオデザインの紹介― 2). 6 つのモデルと問いから構成される . まず,図 -1 の太矢印に従い,①表現. ジオデザイン・チーム 地域の理解. モデルから⑥意思決定モデルまでの問. 研究の実行. ・対象地域の特性,空間,時 間はどのように記述されるべ きか?. ①表現モデル. 行い,地域理解を深める.その上で,. ・対象地域はどのように営ま れているのか?. ②プロセスモデル. ・対象地域は現在,良い状況 にあるといえるだろうか?. ③評価モデル. ・対象地域は将来どのように 変わり得るか?. ④変化モデル. ・変化はどのような違いを対 象地域にもたらすか?. ⑤インパクトモデル. ・対象地域は,どのように変 化させるべきか?. ⑥意思決定モデル. 逆の順で⑥から①までを振り返り,何. ステークホルダ による協議. が地域にとって解決すべき課題である のか,どのように地域は特徴づけられ, どのような GIS データが必要になる のかを検討する.以上の準備段階を経. 意思決定. て,改めて①から⑥までを通してジオ. 手法の特定. デザイン案を考えていく.そして,合 意形成に至るまで,前の段階に立ち戻 り,デザインの再考を繰り返す.. フィードバック(再検討 ). いかけに関して現地調査や資料収集を. 図 -1 ジオデザインのためのフレームワーク (文献 2)を筆者加筆). このフレームワークに基づく一連の作業は,1 つ のチームですべてを担当するわけではない.主に, ①∼③までは地域をよく知る専門家で構成される複. 気仙沼生活圏を対象としたジオデザイ ンの事例. 数の専門家チーム(たとえば,大学研究者,郷土史家,. ➡➡ワークショップの概要. 不動産業者,自然保護団体)が,④∼⑥までは地域. 本ワークショップ(以下,WS)は,東北大学リ. のステークホルダで構成される複数のデザインチー. ーディング大学院グローバル安全学トップリーダー. ム(たとえば,地元の漁業組合,観光業者,青年団. 育成プログラムの一環で開講した.受講生は,地理. 体)が分担する(ただし,教育プログラムでは,学. 学や経済学,工学を専攻する大学院生 11 名である.. 生が役割を変えて演じる) .最後に,地元住民やス. 講師は,筆者らが担当した.本 WS では,気仙沼. テークホルダによるデザインの協議が行われる.本. を中心に大船渡と陸前高田,南三陸で構成されるエ. フレームワークの各段階における明確な役割分担に. リアを「気仙沼生活圏」と設定し,地域調査を含む. よって,地域の多様な人々の意見を地図に投影でき,. 計 6 日間の WS の中で,図 -5 に示す復興まちづく. ボトムアップ型の合意形成が実現可能となる.なお,. りのジオデザインに取り組んだ.. ジオデザインを効果的に進めるために,各段階で. まず,受講生は,2014 年 7 月に気仙沼生活圏で. GIS の情報や分析が積極的に活用されていることに. 現地調査を実施し,対象地域の理解を深めた.その. 注意されたい.. 後,2014 年 8 月に 4 日間の WS を開講した(図 -2).. 図 -2 東北大学でのジオデザ イ ン・ ワ ー ク シ ョ ッ プ の様子. 情報処理 Vol.57 No.3 Mar. 2016. 231.
(3) ■特集 震災. 5 年特別企画:災害科学と情報技術. 土地利用(震災前). 津波浸水域. 標高. 人口密度. 図 -4 評価マップの例. 図 -3 表現モデルの例 . たちあがる大船渡. 津波浸水のリスク. 自立する都市(陸前高田). 活気のある水産業(気仙沼) 海と草原の見える街(南三陸). なお,空間データの処理・分析には,ESRI 社の ArcGIS for Desktop を使用した.. 図 -5 デザインチーム により提示され た復興計画案(変 化モデル). ④変化モデル:変化モデルの作成は,デザインチ ームが担当する.本 WS では,大船渡と陸前高 田,気仙沼,南三陸の市街地別にチームを分けて. ➡➡ジオデザインの実践. 復興計画案の作成に取り組んだ.各チームは,現. ①表現モデル:ジオデザインは,対象地域を記述す. 地調査や地域特性から復興シナリオ(「たちあが. るために必要な空間データを特定することから始. る大船渡」,「自立する都市」(陸前高田),「活気. まる.本 WS では,震災前後の土地利用や地形起. のある水産業」(気仙沼), 「海と草原の見える街」. 伏,災害履歴,人口統計,公共施設,交通施設に 関する空間データを事前に準備した(図 -3). ②プロセスモデル・③評価モデル:住宅地と水産業,. マップを GIS 上で重ね合わせて,住宅地や商業・ 観光地,工場地,公園・緑地,新施設用の造成地,. 商業地,観光業に対する立地の魅力,避難困難と. 農地等を,復興シナリオに即して適地に配置させ. 津波浸水,景観に対するリスクを地域の構成要素. ていった(図 -5).. として選定した.たとえば,津波浸水リスクを担. ⑤インパクトモデル:変化モデルで配置された土. 当したチームは,海岸線からの距離と標高,津波. 地利用の立地が,5 段階(好ましい,整合的,可. 浸水履歴がリスクを構成する要素と考え,3 つの. 能,不可能,限界)で評価される.1 つの専門家. 指標を重ね合わせ,潜在的リスクを 5 段階で評価. チームから良い評価が得られても,別のチームか. した.このプロセスモデルは,ArcGIS の Model. らは悪い評価になる場合も多い.デザインチーム. Builder を用いて,具体的な空間処理へと落とし. は,このインパクトモデルによる評価を基にデザ. 込んだ.評価モデルの成果物として,専門家チー. インの修正を図った.. ムから 7 つの評価マップが提示された(図 -4).. 232. (南三陸))設定し,専門家チームが作成した評価. 情報処理 Vol.57 No.3 Mar. 2016. ⑥意思決定モデル:本 WS の最終日,ホワイトボ.
(4) |2|東日本大震災からの復興まちづくりと地理情報システム―ジオデザインの紹介―. ード一面に,各デザインチームが提出したジオデ ザイン案に対する評価結果が掲示された.どのデ. Skype による コミュニケーション↓. ザイン案が優れているか,これは地域住民役とな った学生の投票で決定する.この意思決定は,各 復興計画に対するインパクトモデル(評価マップ) に基づく定量的評価だけによらない.そのコンセ プトや土地利用配置の適正,地図に表現しきれな. ↑ブラウザ上での操作. い地域を復興し活性化させる具体的な政策や仕組. 図 -6 オンラインでのジオデザイン・システムの実験. みなどの質的側点も最終判断に考慮された.. い状況や拒否反応を招くことになる.従来,まちが. 今後の方向性. 描かれた大きな地図を囲んで行われた議論と同様に,. 災害復興からのまちづくりと情報処理の観点から,. 分析内容や議論の透明性を高められ,多様な参加者. ジオデザインの今後の方向性を提示し,本稿のまと. が抵抗なく使えるジオデザインの情報システムや情. めとしたい.. 報の可視化が望まれる.. 1 つの方向性は,オンライン上でのジオデザイ 3). ン・ シ ス テ ム「Geodesign Hub」 に 示 さ れ る . Hrishikesh Ballal 氏と Carl Steinitz 氏が開発した システムを用いて,アメリカとイギリス,日本の研 究者らがスカイプでコミュニケーションをとりなが ら,福島県相馬市の復興計画案をオンライン上で作 成する実験が昨年に行われた(図 -6).災害の被災 地が遠隔地で専門家が訪問できない場合や,住民や. 参考文献 1)只野聡一 : 被災自治体における GIS 活用,第 18 回地域防災計 画実務者セミナー(オンライン),入手先 <http://www.drs. dpri.kyoto-u.ac.jp/projects/jitsumusha/18/11_tadano.pdf> (参照 2015 年 11 月 11 日). 2 )Steinitz, C. : A Framework for Geodesign : Changing Geography by Design, Esri Press, New York (2012). 石川幹 子,矢野桂司(編訳):ジオデザインのフレームワーク―デザ インで環境を変革する―,古今書院(2014). 3) Ballal, H. and Steinitz, C. : Geodesign Hub(オンライン),入 手先 <https://www.geodesignhub.com/>(参照 2015 年 11 月 11 日). (2015 年 11 月 13 日受付). ステークホルダが他地域に長期離散し一堂に会せな い場合に,オンラインでのジオデザインは有効な解 決策になり得る. もう 1 つの方向性は,ジオデザインの参加者同. 花岡和聖 [email protected] 東北大学災害科学国際研究所・助教.地理情報システムや人口統 計のビッグデータを活用した災害復興研究に取り組む.. 士のスムーズなコミュニケーションである.現在の. 磯田 弦 [email protected]. GIS やその空間処理によってジオデザイン作成を短 時間で効率的に行えるが,それが,直ちに,人々の. 東北大学大学院理学研究科・准教授.計量的手法で都市から農村 の研究に従事する . 立命館大学における Steinitz のワークショップ に 5 年にわたり参画.. 合意形成の円滑化に結びつくわけではない.評価や. 杉安和也 [email protected]. 意思決定にかかわる処理に,専門的な情報処理能力 が求められたり,逆に,完全にブラックボックス化 されたりすると,一部の参加者が議論に参加できな. 東北大学災害科学国際研究所・助教.インフラ・住宅再建に着目 した災害復興過程の研究,GPS を活用した津波避難訓練の運営に取 り組む.. 情報処理 Vol.57 No.3 Mar. 2016. 233.
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