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年次事業報告書の国際比較

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年次事業報告書の国際比較

大 矢 知 浩 司

1 アンケート調査の目的および内容 (1) 年次事業報告書研究の現状  企業の公表する年次事業報告書は,企業内容を知るための重要な,また,継 続的な情報源であり,われわれが容易に入手することのできる資料のうち最大 の情報をもつものである。それにもかかわらず,このコミュニケーション・メ ディアの作成,配布,費用および反応については,十分に知られていない。諸 外国のものについてはもちろんのこと,日本企業の年次事業報告書についても ほとんどわかっていないというのが実情であろう。諸外国の年次事業報告書 ぽ,いくつかの研究・調査機関(たとえば,神戸大学経済経営研究所経営分析 センター,野村総合研究所,日本興業銀行等)および研究グループ(たとえば 日本会計研究学会営業報告書研究特別委員会)によって収集,公開されている けれども,その内容の研究については,ようやく端緒についたところである。 このような研究状況のもとで,コミュニケーション・メディアとしての年次事 業報告書の作成,配布,費用および反応については,とりあげられることが少 なく,これまでほとんど論じられることもなかった。  (2)アンケート調査  年次事業報告書とはどのようなものなのか。さらに,それはどのような法制 のもとで作成されており,どのような要件にもとづいて形式が定められている のか。これらの疑問を解くかぎは,現在のところ,われわれにはそれほど十分 に与えられていない。年次事業報告書は,各国企業の清報公開について,どの ような位置と役割を果たしているのかさえ明らかではない。われわれは情報公

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 22 彦根論叢 第217号 開をめぐる周辺的基盤を明らかにするため,1979年1月,フォーチュン誌1978 年度ランキング・アメリカ500鉱工業会社より上位200社およびアメリカを除く 世界の産業会社にランクされている23力国の企業489社,合計689社に対して 質澗書を郵送した。ほとんど自費ともいえる調査費用の点から航空便最低重量 制限を守る必要があり,また,できるだけ多くの回答をえるためには複雑な印 象を与えないことが肝要でもあるので,1枚の質問用紙にとどめて質問内容を 非常に単純にした。したがって,それぞれの質問事項に定義を与えて厳密な回 答を求めることは,最初から不可能なことであり,この種の調査ではやむを得 ないところであると考えている。なお,この調査は,年次事業報告書の内容に 触れる質問とその結果の分析を行なおうとするものではないが,このような簡 単な質問書に対する回答においても,各国の法制,慣行が反映していることを 示していて,一つの国際比較の試みとして興味深いものがある。各国企業の行 動の一端をうかがうことができるであろう。なお回答会社は324社,回収率 47.0%である。  (3) アンケートの内容  このアンケート調査では,諸外国の企業には英文の質問書を,日本企業には 日本語の質問書を送付して回答を求めた。その質問書の内容は,つぎの通りで ある。 1.1977年度年次事業報告書を何遍印刷したか。 2.株主宛年次事業報告書とは別に,従業員,PRまたはその他の目的のた  めに特別な(簡略な,または詳細な)事業報告書を作成しているか。 3.自国語以外に,または,自国語と併用して,どのような言語の1977年度  年次事業報告書を作成したか。 4.1977年度年次事業報告書を概算何部海外へ配布したか。 5.つぎの利害関係者に1977年度年次事業報告書を概算何部配布したか。  株 主  従業員  潜在的従業員(リクルートのため)

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 証券業者,銀行,保険会社等(株主以外に)  大学,図書館,研究所等  公共利害関係者集団  政府,地方公共団体等  マスコミ  その他 6.1977年度年次事業報告書の直接印刷費(紙代,デザイン料を含む)およ  び郵送費はどれ程か。 7.直接印刷費および郵送費の大巾な増加が見込まれる場合には,どのよう  な修正または対策を講じるか。 8.年次事業報告書に対して,年間概略どの程度の電話または手紙による反  応を受けているか。 豆 対象企業の行動分析一背景説明  アンケート調査結果の分析に入る前に,われわれは背景説明として,対象と する国と企業について,フォーチュン誌の資料を用いて若干その行動を分析し てみた。ただ,ここで注意しなければならないのは,その資料が連結計算書類 にもとつく場合と親会社だけの個別計算書類にもとつく場合とがあることであ る。そのために,単純に比較することはできないが,一つの参考資料として考 察しておきたい。なお,親会社だけの個別計算書類にもとつく会社は,ルクセ ソブルグ1社,スエーデン1社,日本33社,ブラジル1社の計36社である。日 本企業と諸外国の企業を比較しようとする際には,この点も十分に考慮に入れ なければならないであろう。  〔資料二部2表〕より〔資料編第5表〕までが,実数値を用いての企業の分 布を示している。この4表より,いくつかの興味深い結果をうかがうことがで きるであろう。売上高と従業員の割合,従業員と資産規模,自己資本の分布に ついて,各国の特徴をうかがうことができる。この点をさらに明らかにするた めに,〔資料編第6表〕より〔資料編第8表〕においては,比率分析を試みた。

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 24   彦根論叢  第217号  (1) 資本装備率,自己資本利益率,従業員1人当り売上高  まず〔資料編第6表〕の資本装備率の平均値をみれば,韓国(石油業),ス ペイン(自動車業の1社が異常に高いため)を除けばデンマーク,日本,フラ ンス(石油業2社の影響が大きいため),カナダ企業が10万米ドル(以下比較 のため米ドルに換算している)以上であり,ついで,9万ドル台に西ドイツ, スイス,オランダ企業がある(イタリア企業は2社のため除く)。ベルギー企 業はほぼそれに近い。アメリカ企業は6万ドル台である。しかし,イギリス企 業ははるかに低い数字となっている。この数値は,工業の近代化の程度をある 範囲内で示しているといえないであろうか。最近における日本企業の優位を証 明しているようである。  ところが, 〔資料編第7表〕の自己資本利益率をみれば,その関係は逆転す る。アメリカ,イギリス,カナダ,南ア企業が10%以上の平均値であり,スエ ーデン企業がそれに次ぎ,デンマーク企業と日本企業は9%弱,オランダ企業 8%弱となっている。西ドイツ企業は6%である。〔資料編第8表〕の従業員 1人当りの売上高をみると,デンマーク,フランス(石油業2社の影響が大き いため),オランダ,日本,西ドイツ企業が平均値で高い水準にあり,ついで, カナダ,アメリカ,ベルギー企業となっているが,イギリス,南ア企業は極端 に低く,スエーデン企業もそれほど高くはない。この3表より,われわれは, 各国の企業行動の一端をうかがうことができる。そして,わが国企業の高度な 生産装置と,薄利で,かつ,少ない人間で収益をあげている姿が浮かびあがっ てくる。わが国の企業に近い姿をみせているのが,デンマーク,オランダの企 業であり,カナダの企業は,イギリス企業とは異なり,日本企業とも少し性質 の異なる行動をとっているように思われる。むしろアメリカ企業に近いであ ろう。もし,この側面から日本がみていかなければならない国の企業があると すれば,カナダの企業であろうけれども,カナダ企業は,アメリカ企業の影響 を大きく受けているものと考えられるので,アメリカ企業との関係であらため て分析しなけれぽならないであろう。  非常に簡単な,入手可能な資料を用いての分析であり,ラフなものではある

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が,それぞれの国の企業行動の一側面をのぞかせてくれたことと思う。そこで は,日本企業の強さがやはり浮き彫りにされている。  以上分析してきた対象企業について,以下にアンケート調査の結果の大略を みていこう。 皿 年次事業報告書を規制する各国の法制  (1) 会社法の規定  年次事業報告書については,各国の企業は,それぞれの国の会社法にもとづ き作成しているといえるが,きわめて慣行的なものである。というのは,各国 の会社法は年次株主総会招集手続との関連において株主に提供すべき財務諸表 その他の文書を規定すると同時にそれらの文書の記載内容を規定しているが, 年次事業報告書そのものに関する規定を設けていないからである。たとえば, イギリス会社法には年次株主総会の日の少なくとも21日前に株主に招集通知を 行ない,かつ,株主および社債権者には,計算書類,取締役および会計監査役 の各報告書を送付しなければならないと規定されている。そこで,イギリス企 業は会社法の要求する株主総会通知,計算書類,各報告書およびその他任意の 文書を慣行上ひとまとめにして「年次報告書および計算書類」 (annual report and accounts)と称し,株主その他の利害関係者に配布している。  また,西ドイツの企業に例をとれば,株式法の規定では株主総会招集通知以 後株主の縦覧に供するため年度決算書および営業報告書を会社に備置くことを 求め,年度決算書および営業報告書の記載内容を詳細に規定しているが,年次 事業報告書そのものの規定はない。そこで企業は年度決算書および営業報告 書,その他任意の文書をひとまとめにして「事業報告書」(Gesc擁ftsbericht) と称する1冊の文書を慣行上作成している。したがって,年次事業報告書の作 成および配布については,それぞれの国の制度にもとづいているため,制度そ のものの検討を必要とするが,本節においては,いわゆる会社法そのものを全 体的に解釈するものではなく,慣行的な年次事業報告書の配布に関係のある会 社法ないしは証券取引所規程の条文について,少し触れておきたい。

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 26 彦根論叢第217号

 (2)アメリカ

 デラウェア州一般会社法等のアメリカの代表的な州会社法は,株主への財務 報告を要求していない。証券取引所上場協定,1934年証券取引所法にもとつく 規制があるにすぎない。そこで,アメリカ企業は,ニューヨーク証券取引所上 場協定にしたがい,財務諸表を年次株主総会より少なくとも15日前までに株主 に送付しなければならない。慣行上,これらの財務諸表は他の文書とともに年 次事業報告書(annual report)としてひとまとめにされ,株主に送付される。 また,証券取引所法規則14a−3(b)は,委任状勧誘規則として年次株主総会の 前に各株主に郵送することを要求している。株主総会前に株主に送付される点 ではイギリス企業の年次事業報告書と類似しているが,アメリカ企業の年次事 業報告書には株主総会招集通知が含まれていない。 「株主総会招集通知および 委任勧誘状」は別に作成される。 r株主総会招集通知および委任勧誘状」と年 次事業報告書は同封されることもあるが,別送されることが多い。この場合に は「株主総会招集通知および委任勧誘状」に年次事業報告書を別送している旨 記載しなければならない。もちろん,1934年の証券取引所法適用会社は,年次 事業報告書とは洌に10−K報告書等を証券取引委員会等に提出しなければなら ないが,10−K報告書の要件を満足する年次事業報告書を作成する傾向がみら れる。なかには,若干ながら「年次事業報告書および10−K報告書」という名       つ 称の報告書を作成する企業もみられる。  (3) イギリス,カナダ,オーストラリア,南ア共和国  くり返すことになるが,イギリス企業においては,株主,社債権者その他の 利害関係者に配布するため,会社法,証券取引所上場認可規程等の要求する株 主総会招集通知,取締役および会計監査役の各報告書,計算書類,その他任意 の文書を慣行上ひとまとめにした文書が年次事業報告書であり,年次株主総会 の日の少なくとも21日前に株主および社債権者に送付されている。総会の承認 後に株主に対して任意に送付される日本企業の年次事業報告書とは異なり,ほ 1)深津比佐夫・平松一夫稿,「アメリカ営業報告書の検討」,『営業報告書の研究一日  本会計研究学会特別委員会報告』,昭和56年,3頁。

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とんどのイギリス企業の年次事:業報告書には株主総会招集通知が掲載されてい る。また,計算書類は年次登記申告書(annual return)に添付して事業年度終 了後7ヵ月以内に会社登記官に届出しなければならない。  カナダ事業会社法においては,株主総会の日の少なくとも21日前までに財務 諸表および監査報告書を株主名簿上の株主の住所宛に郵送しなければならない と規定している。また,同法によれば,イギリス会社法にみられる年次登記申 告書の提出が義務づけられている。と同時に,アメリカの制度に類似した州証 券法も制定されているところである。  オーストラリア会社法は,株主総会の少なくとも14日前までに計算書類,取 締役および監査役の各報告書士を株主に送付することを求めている。また,株 主総会終了後1ヵ月以内に年次登記申告書を会社登記官に届出しなければなら ない。な:お,オーストラリア企業の年次事業報告書は,「事業報告書および株 主総会招集通知」(annual report and notice of annual genera1 meeting)と称        お  されることが多い。  イギリス,オーストラリアと同様に,南ア企業の年次事業報告書を規制する 法律は会社法であり,上場会社については証券取引所上場認可規程が会社法を 補完している。計算書類の株主への送付,年次登記申告書の会社登記官への届 出等は,イギリス会社法に類似している。ヨハネスブルグ証券取引所と同時に ロンドン証券取引所にも上場している企業が多いため,その年次事:業報告書は まさにイギリス的である。  (4)西ドイツ,オーストリア  西ドイツ株式法では,年次株主総会の招集通知は少なくとも1ヵ月前に官報 および企業の定める新聞紙上に公告し,さらに,この公告の日から12日以内に 記名株主および通知を要求する株主,寄託株の保管銀行等に招集通知状を送付 しなければならないが,年度決算書および営業報告書は株主からの要求がなけ れば送付する必要はなく,株主総会招集通知のときより会社に備置くだけでよ 2)増谷裕久・後藤文彦稿,「オーストラリア営業報告書の検討」,上掲書,16,23頁。

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28 彦根論叢 第217号 いことになっている。また,年度決算書,営業報告書等をひとまとめにした年 次事業報告書そのものの規定もない。そこで,西ドイツの主要公開企業には詳 細な年次事業報告書とは別に,「株主総会招集通知および事業年度簡略報告 書」と称するような文書を作成して,企業自身が直接に,あるいは寄託株の保 管銀行を通して株主に配布する慣行がある。株式法の要件をみたす詳細な年次 事業報告書については請求により株主に配布される。年度決算書は株主総会終 了後に公告され,また,商業登記所に提出される。  オーストリアにおいても,この点では,それほど事情は異な:らない。年度決 算書および営業報告書は会社の本店で株主の閲覧に供し,要求する株主にはそ の謄本を送付しなけれぽならないと規定している。なお,株主総会の終了後に        きう は官報および企業の定める新聞に公表しなければならない。  (5) ス イ ス  スイスにおいては,年次株主総会は少なくとも会日より10日前に企業の定め る:方法において招集通知しなければならない。貸借対照表,損益計算書および 営業報告書は登記された事務所において株主の縦覧に供されなければならな い。株主はその謄本を請求できることになっている。しかし,無記名株式を発 行している場合には上記書類を縦覧に供している旨を官報に公告し,かつ,記 名株主には直接通知しなけれぽならない。株式を証券取引所に上場していると きは,証券取引所上場規程にしたがって計算書類を公刊しなけれぽならない が,非上場会社は,本店における縦覧と株主の要求に答えるだけでよい。後者 の場合には,総会による承認後も会社登記官に届出る必要もなく,公表する必    の 要もない。 3) 18 Annual Accounts of an AG (Austria), in; Meinhardt, P., Company Law in  EuroPe, 2nd ed., Gower Pr., England, 1978, pp. A−18 (iD. 4) 18Annual Accounts of an AG(Switzerland), in;ibid, pp. CH−!8(i)一(ii),なお,  債権者も,B/SとP/Lを見ることを会社登記官に申請することができるが,その  場合には登記官が会社に謄本を要求し,債権者の閲覧に供することになる。しかし,  閲覧が終れば,謄本は会社に返却される。

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 (6) フランス  フランス会社法によれば,無記名株式を発行している会社の場合には,年次 株主総会はその会日より少なくとも15日前に新聞紙上に公告して招集しなけれ ばならない(商事会社法第159条,大統領三三67−236号第124条,第126条)。計 算書類,取締役および監査役の各報告書は総会の15日前より会社の登録された 事務所にて株主の縦覧に供されなければならず,記名株主および請求のある無 記名株主に送付しなけれぽならないことになっている。株主総会の承認後には 商業登記官に提出しなければならない。なお,資産総額1,000万フランをこえ る上場会社は,計算書類を官報に公告しなければな:らないが,1,000万フラン 以下の上場会社の場合には,株主の請求がある場合にのみ株主総会の承認を受        ら けた計算書類の謄本および各報告書を株主に送付しなければならないとある。 本書でいう年次事業報告書は,フランスでは,株主総会招集通知に際して発行 されるものではなく,株主総会の終了後に慣行的に発行される任意の文書であ る。したがって, 「株主総会決議事項」が年次事業報告書の重要な構成要素と なっている。この点は,イタリア企業の年次事業報告書と同じである。  (7)オランダ,ベルギー,ルクセンブルグ  ォラソダにおいては,貸借対照表,損益計算書および取締役の報告書面は, 総会の前に株主の縦覧に供しなけれぽならず,また,株主はその謄本を請求す ることができることになっている。なお,オランダでは,株主総会の承認をう けた計算書類は商業登記所に届出され,公衆の縦覧に供されるが,西ドイツの       の ように新聞紙上に公告する必要はない。  ベルギー会社法にあっては,第78条第1項に,株主は,株主総会の2週間前 より本店において,貸借対照表,損益計算書,公債・株式・社債および会社の 証券資産に含まれるその他の証券の一覧表,未払込額のある株式を有する株 主の名簿,監査役の報告書等を閲覧できるとし,第2項において,「貸借対照 s) 18 Annual Accounts of an S. A. (France), in; ibid., pp. F−18 (i}一(ii). 6) 18 Annual Accounts of an NV (Netherlands), in; ibid., pp. NL−18 (i).

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 30 彦根論叢第217号

表および損益計算書ならびに前項第4号に定める報告書(監査役の報告書等) は,記名株主に対して,招集通知とともにこれを送付しなければな:らない」と 規定している。なお,第3項は,「すべての株主は,総会の2週間前より,株 券を呈示して前項に定める書面の謄本一通の無料交付を求めることができる」 としている。これは無記名株主に対応した規定であり,記名株主に対しては, 招集通知状とともに,株主総会の寧日の1週間前に送付しなければならないこ       7) とになっている。なお,招集通知は,官報,ブリュッセルの日刊新聞紙および 会社の本店のある地方で発行される日刊新聞紙上に,少なくとも8日間の間隔 をおいて,かつ,総会の1週間前までに2回掲載することになっている。これ によって,無記名株主も総会に参加できる。また,これらの書類は株主総会の 承認後,30日以内に公告しなければならないが,必ずしも印刷して公表する必    きう 要はない。したがって,報告書を会社の費用で送付するのは,株主総会前とい うことにな:る。  ルクセンブルグ会社法は,記名式と無記名株式の規定および計算書類,株主 総会の招集通知,報告書の配布について,ベルギー会社法とほぼ同一の規定を         行なっている。このように,年次事業報告書に関する規定は,ベネルックス3 四国において,それほど大きな差異はない。  (8) スエーデン,デンマーク  スエーデン企業は,年次株主総会の少なくとも2週間前に,貸借対照表およ び損益計算書を会社に備置き株主の縦覧に供するとともに,会社に住所を知ら せている株主には要求に応じて送付しなければならない。株主総会の承認後1 ヵ月以内に年次計算:書類および監査報告書を登記所に提出し,そこで公衆の縦 覧に供することになる。 7)早稲田大学フランス商法研究会訳,「ベルギー会社法」,『比較法学』,第11巻第2号  (昭和52年1月),40−43頁。 8)上掲書,44頁。 9)早稲田大学フランス商法研究会訳,「ルクセンブルク会社法」,『比較法学』,第12巻  第2号(昭和53年2月)参照。

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 デンマークにおいては,計算書類および報告書,連結計算書類,株主総会の 議案を年次株主総会以前に利用できるようにし,かつ,記名株主には要求に応 じて送付しなければならない。株主総会の承認後は,会社登記官に提出すると ともに,完全な計算書類,報告書および監査役の報告書を官報および会社の定        ユの めた新聞紙上に公告しなければならないことになっている。  以上西ドイツからデンマークまでの各国においては,大陸法の伝統のもと に,非常によく似た規定をしている。報告書は,株主の要求にもとづいて総会 前に配布されるが,承認後は会社登記官に提出され,縦覧に供されるにすぎな い○  (9) イタリア,スペイン  イタリア,スペインも,他の大陸諸国とそれほど異なるところはない。企業 は年次計算書類,取締役および監査役の報告書を年次株主総会の日の前15日間 会社の本店に備置き株主の縦覧に供する。しかし,株主に送付する必要はない。 会社が証券取引所に上場している場合には,会社委員会に送付しなければなら       ユユ  ない。また,株主総会の承認後は会社登記官に提出しなければならない。これ       ヱのらの点は,スペインの場合も同様である。  年次事業報告書の内容は,西欧諸国では,イギリス企業の年次事業報告書の 内容とほぼ等しいと考えてよいであろう。いずれも総会前に作成することを義 務づけられている年次計算書類,取締役の報告書ないしは営業報告書,監査役 の報告書を含んでいる。  (10) 日   本  これに対して,日本の商法では,定時株主総会の二日より2週間前に各株主 に招集通知し(無記名株式を発行している場合は3週間前に公告),その通知 10) i8 Annual Accounts of an AB (Denmark), in; Meinhardt, P., op. ctt., pp. DK−  18 (i). 11) 18 Annual Accounts of an S. P. A. (ltaly), in; Meinhardt, P., oP. czt., pp. 1−18 (i). 12) !2 Spain. in; Fromrnel, S. N. & Thompson, J. H., ComPany Law in Europe,  Kluwer−Harrap Handbooks, London, 1975, pp. 429−471,

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 32 彦根論叢第217号 には貸借対照表,損益計算書,営業報告書,利益処分案,監査役の監査報告書 および会計監査人の監査報告書を添付しなければならない。また,定時株主総 会の2週間前より5年間前記貸借対照表以下の書類は本店で備置かれる。定時 株主総会または取締役会の承認をうけた貸借対照表および損益計算書は公告さ れることを要する。定時株主総会通知およびその添付書類はr定時株主総会通 知』と題する1冊の小冊子にまとめられている。しかしながら,わが国で年次 事業報告書と称されるものは,株主総:会後に株主に慣行的に送付されるもので あって,法的に規制されたものではない。内容的にはr定時株主総会通知』文 書に若干のPR的要素を加味したものである。  この点で,アニュアル・リポートという言葉のもつ意味内容は,日本と諸外 国でそれぞれ異なるものとなっている(フランス,イタリアの場合にも株主総 会招集通知と株主総会終了後の事業報告書がある)。十分に注意する必要があ る。法制の相違,株主数の大小,無記名株主が伝統的であるかどうか,特別な報 告書の有無等の要素を考慮していかなければならないであろう。年次事業報告 書の国際比較をする場合,日本企業の場合には株主総会終了後の慣行的な「事 業報告書」ではなく,「株主総会招集通知」文書を比較の対象とすべきである のかもしれないが,ここでは慣行的な事業報告書をとりあげた。わが国の「株 主総会招集通知」文書は,はじめから株主以外には配布されない三目的な文書 であるので,企業のPR的要素が含まれていないとはいえ多目的に利用できる 事業報告書を比較の対象とせざるをえないのである。  では,このような法制のもとで,実態はどのようなものであろうか。つぎに みていこう。なお,アニュアル・リポートは,アメリカの場合には年次報告書 ではあるが,ヨーPッパの場合には取締役の報告書(directors’report)を意味 することがあるので留意されたい。 W 年次事業報告書の作成および配布 (1) 印刷総数および株主への配布 まず印刷総数からみていこう〔資料編第9表〕。年次事業報告書の印刷総数

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がどのように配布されているかをみることによって,各国の特徴は自ら明らか になるであろう。まず,株主への配布数〔資料編第10表〕とその割合〔資料編 第1!表〕および株主への配布数と株主数の比率〔資料編第12表〕である。印刷 総数のうち,どの程度が株主に配布され,その配布数で,どの程度の株主に渡 っているかをみることにする。それは,年次事業報告書をどのような意図のも とに作成しているかをうかがうためのものである。  〔資料編第10表〕の部数によってはそれほど明確ではないが,〔資料編第11 表〕の割合をみれば,日本企業の株主への配布割合の異常な高さが眼を引くで あろう。オーストラリアも高い,イギリス,カナダ,南ア企業といった英米法 の流れをくむ諸国の企業は, 〔資料編第12表〕に明らかなように,株主全部に 対して配布している割合が高い。したがって,その配布割合がかなり低いこと は,他の目的もあって年次事業報告書を作成していることをうかがわせる。  これに対して,伝統的に無記名株式を採用するヨー一 Pッパ大陸,西ドイツ, フランス,オランダ,ベルギー,スペインでは株主数を記入していない企業が 多い。株主数を知らないという。法制上の問題だけであろうか。スエーデン, スイス等は中間的な位置にあるといえる。  それでは,各国の企業はどの程度株主以外に配布しているのであろうか。そ れを示したのが,〔資料編第13表〕,〔資料編第14表〕である。この2表から, われわれは,日本の各企業が,株主以外にはいかに少数の部数しか配布してい ないかがわかる。配布割合の平均は,7。 7%(配布差額を除けば3,5%)にすぎ ない。これに対して,西ドイツ,フランス,オランダ,ベルギー,スペイン, スイス,スエーデン,アメリカ,カナダ,南ア共和国,イギリスといった主要 国の企業では,相当に高い割合で株主以外に年次事業報告書を配布している。 日本企業に最も近いのはオーストラリア企業(10. 2%)であるのも何かの皮肉 であろうか。  (2) 従業員への配布  これに対して,従業員への配布割合をみると,10%以上配布している企業 は,アメリカ,カナダ,オーストリア,スイス,フランス,ベルギー,フィソ

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 34 彦根論叢 第217号 ランド,デンマーク企業等であり,6%から10%の間にイギリス,オーストラ リア,オランダ,スエーデン,スペイン企業がある。南ア企業は低く,日本企 業はそれよりもさらに低い。1.8%である。日本企業の場合には,持株会への 配布も含めているところもあるので,従業員個人への配布はほとんど考えられ ないように思われる。この点は,特別な報告書の作成とも関連するので,〔資 料三三35表〕も参照されたい。ヨーロッパ諸国およびアメリカ,カナダ,オー ストラリアの企業では,従業員への年次事業報告書の配布が重要な政策となっ ていると考えられるQ  リクルートのためには,アメリカ企業を除いて,ほとんどどこの国の企業も 年次事業報告書を用いていていない。

 (3)広報活動

 大学等,公共利害関係者集団等に配布した割合をみれば,社会に対する関係 の一端をうかがうことができるであろう。日本企業では,それぞれ,わずかに 0.05%(32社),0.03%(2社)にすぎない。とくに,公共利害関係者集団に 対しては何もしていないのと同じであろう。これに対して,両方にほぼ1%以 上配布している企業は,アメリカ,カナダ,西ドイツ,スイス,フランス,オ ランダ,ベルギ…一,スエーデン,ブインランド等の企業である。イギリス,南 ア,デンマーク企業でもかなりの割合となっている。これらの企業では郵送リ ストを作成し,要求があれぽ,継続的に配布するという慣行が定着しているも のといえる。これは,企業のPRのために,また,社会との関係を密接にする ために重要なことと思われる。このことが,その他への配布割合の高さにも現 われている。アメリカ,カナダ,スイス,フランス,オランダ,スエーデン, ブインランドの企業は,その他への配布割合が他に比べて著しく高い。  (4) その他への配布  以上の点をさらに明確にするために,つぎに,各配布遠別の配布部数と配布 ,割合の分布を示しておく(〔資料編第15表〕より〔資料編第30表〕まで参照)。 これらの諸表からもいくつかの事実を読みとることができるであろうが,ここ では,その他への配布の内容についてだけ触れておきたい。アメリカの企業の

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場合には,事業部門,従属会社幹部,社債権者,仕入先,得意先,年金受給者, アナリスト,証券外務員,広告業者,会社訪問者等をあげ,イギリス企業では その他の送付先として,顧客,グループ企業等,要求による一般大衆,内部 利用等があげられている。カナダの場合には,事業指導者,オピニオン・リー ダー,農業社会,営業活動,郵送リスト,一般からの要求,上級従業員,他の 会栓,その他等である。南ア企業においては,証券取引所,仕入先,パートナ ー,会計・事務局のセミナー,その他となっている。西ドイツ企業では,仕入 先,得意先,他企業,労働組合,年金受給者,セミナー,会社訪問者等をあげ ている。スイスでは,販売部門,他の会社,請求者に対して配付するという。  フランス企業では,仕入先,得意先,他企業,労働組合,会議・展示会用,登 記所等をあげている。オランダ企業は,関連会社,顧客,FMF,事業,商業 関係をあげ,ベルギー企業では,新しい要求に対してとしている。スエーデン 企業では,要求に応じて,従属会社・他の会社,学生・個入,顧客その他に, といい,フィンランド企業では,代理店,顧客,訪問者に渡すとする。デンマ ーク企業においては,国内・国外の訪問者,顧客,退職者に渡している。スペ イン企業では,ディーラー,銀行に,ブラジル企業では,ファイル用に,イン ド企業では顧客,他の公共部門にという。最後に日本企業においては,営業関 係,関係会社,同業他社,持株会,加盟団体,資料交換,入札先等とかなり多 様な宛先があげられている。従業員への配布としてあげられているものも,持 株会へ配布していて,従業員個人に対しては配布していない会社がほとんどで あり,一つの衰微となっているといえる。アメリカ,イギリス,カナダなどの 各国にも従業員持株制度があるが,その場合には年次事業報告書が従業員個人 宛一こ配布されている。日本企業の場合には,このようにその他として多様な:宛 先があげられているのであるが,その内実は,平均部数652部,平均割合0.68 %と:本当に僅かなものでしかない。  さらに,年次事業報告書の印刷総数から明記された各配布先への配布数およ びその他への配布数を差引いた配布差額の部数と割合を示しておこう。これに よって,印刷総数のうち,分類集計されていない配布先への配布部数と未使用

(16)

 36 彦根論叢 第217号 残がより明らかになるであろう(〔資料編第31表〕,〔資料編第32表〕参照)。  つぎに,このように配布されている年次事業報告書の配布割合を各国企業の 平均値で要約して示しておきたい(〔資料編第33表〕, 〔資料編第34表〕)。各配 布先について集計するにたる記入のある企業について各々の配布先の印刷総数 に占める割合を計算し,その割合を単純平均したものである。なお,〔資料二二 33表〕においては,回答会社で配布内訳の明記されている企業のみについて集 計したものであり,〔資料編第34表〕は内訳不明であるが,総計で株主と株主以 外への配布数を区分計算することのできる企業も加えて集計したものである。  この2表には,それほど大きな差異はみられない。株主への配布割合が50% 以下,すなわち印刷総数の半分以上を株主以外に配布する用意のある主要な国 の企業は,アメリカ,カナダ,西ドイツ,スイス,フランス,イタリア,オラ ンダ,ベルギー,スエーデン,ブインランド,デンマーク,スペイン等の企業 である。逆に,大部分を株主へ配布している企業は,日本,イギリス,オース トラリア,南ア企業であり,その中でも,日本企業が著しく株主への配布割合 が高い。カナダ企業はアメリカ企業の影響のもとにあって,アメリカ型の政策 をとっていると考えられるので,大陸法による諸国の企業は株主への配布割合 が低く,英米法による国々の企業が高いといえる。ただし西ドイツの公開会社 の場合には,株主宛に年次事業報告書の簡略版を作成することが多いので,こ の関連をみなければならない。 V 特別な報告書の配布  つぎに,このような配布二二に配布するにあたって,各利害関係者に対し て,それぞれに特別な情報を提供するために特別な報告書を作成しているかど うかを聞いたが,その結果はつぎの〔資料編第35表)の通りである。  従業員向けの特別な報告書の作成は,イギリス企業でとくに顕著である。オ ランダ,スエーデン,ベルギー,西ドイツ,アメリカ企業でも作成の割合は高 い。日本企業でも作成されているが,それよりも,PR用,その他の目的のた めの報告書を作成する企業が多くなっている。諸外国の企業では,PR用およ

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びその他の目的のための特別な報告書は,ほとんど作成されていない。日本企 業の場合,その他の目的のための年次事業報告書の作成企業についてつけた 〔資料編第35表〕の注(1)にも明らかなように,海外向けのアニュアル・リポー トおよびそれに近いものが作成されている。PR用も恐らくそのようなもので あろうと考えられる。海外向けは,カラー写真の入った,カラフルな,豪華な ものである。ただ公認会計士の監査報告書のない財務諸表が掲載されている例 もあり,海外ではPRとは逆に誤解をまねくものもみられる。 VI年次事業報告書の使用言語と海外配布

 (1)使用言語

 それでは,このような年次事業報告書を,どのような言語で作成しているの かをみてみよう(〔資料編第36表〕,〔資料編第37表〕参照)。これらの表は,自 国語のみで作成しているのか,それともいくつかの言語で作成しているのかを 示すことによって,その国の置かれている位置と,各企業の政策と考え方の一 端を示すことができるであろう。  アメリカおよびイギリスの企業においては,自国語のみが圧倒的に多く,英 語の国際性を示している。オーストラリア企業もそうである。これに対して, カナダ企業は少し事情が異なる。2力国語で作成している企業の用いている言 語は,すべてケベック州で公用語とされたフランス語である。しかし,2力国 語で書かれた1冊の年次事業報告書を作成している企業は1社にすぎなかっ た。アメリカ企業の場合には,フランス語(12社),ドイツ語(10社),日本語 (5社),オランダ語(3社),スペイン語(3社)であり,他国語で部分的に併 記している企業が3社である。イギリス企業の場合には,フランス語(4社), ドイツ語(2社),オランダ語(2社)であった。南ア企業は,第2公用語の アフリカーソズと英語の利用が一般的である。大陸諸国の企業は,スペイン企 業を除いて大変に苦労している。西ドイツ企業では,英語(20社),フランス 語(4社),スペイン語(2社),オランダ語(1社)の年次事業報告書を作成 している。スイス企業では,英語,ドイツ語,フランス語ですべての企業が報

(18)

 38 彦根論叢 第217号 告書を作成し,1社はさらにイタリア語とスペイン語も用いている。フランス 企業でも,自国語のみの企業は8社のうち3社にすぎず,英語(5社),ドイ ツ語(3社)が用いられている。オーストリア企業ではドイツ語を自国語とし て,1社は英語版も作成している。オランダ企業では,英語(10社),ドイツ 語(5社),フランス語(2社),ベルギー企業では,オランダ語とフランス語 (6社),英語(4社),ドイツ語(1社),ルクセンブルグの1社では,フラ ンス語,ドイツ語,英語,オランダ語を用いている。スエーデンの企業は,英 語(16社),ドイツ語(4社),フランス語(3社)の年次事業報告書を作成し ている。他に従業員向けにブイソラソド語(1社)が用いられている。英語版 の作成は必須と考えられているようである。ブイソランド企業でも,英語とス エーデン語,ノルウェー,デンマークも英語を用いている。北欧4国の企業で は,英語が共通語となっているようである。イタリア,トルコ,ブラジル,イ ンド,韓国の企業もともに英語版の報告書を作成している。  日本企業は,約30%の企業が日本語の報告書しか作成していない。2力国語 と回答:した企業も,すべて英語版の作成を意味している。ただし,英文アニュ アル・リポートについては日本語版と区分して質問していないため,詳細は不 明である。あらためて問い直す必要があるといえる。3力国語を用いるとする 企業の使用言語はドイツ語である。これは,西ドイツの証券取引所に上場して いるために,日本語版をドイツ語に翻訳したものである。日本の場合,英文の ものは,日本語版をそのまま翻訳する場合と,英文アニュアル・リポートを別 に作成する場合とがある。その実務はこの質問書では明確にできなかった。な お全体では,自国語以外に用いられている言語としては,英語117社,フラン ス語53社,ドイツ語33社,オ’ランダ語,スペイン語,アフリカーンズ各6社, 日本語5社である。

 (2)海外配布

 このような多様な言語で作成されている年次事業報告書が,国外にどの程度 配布されているのであろうか。配布部数と印刷総数に占める割合を調べてみ た。これによって,各国企業が国外の人々に知ってもらうために,どれほど努

(19)

聾しているかをうかがうことができるであろう。 〔資料編第38表)と〔資料編 戸39表〕がその集計である。  平均配布部数の多さからみれば,フランス,オーストラリア,南ア企業が1 万部以上であり,アメリカ,イギリス,ブインランド企業が5千部台となって いる。スエーデン企業も5千部近いものを国外に配布している。日本企業の場 合は,質問表への回答には,日本語版と外国語版の区分のない企業がほとんど であり,それを全体としてみると,21社が配布ゼロであり500部未満の企業が 23社となる。平均すれば1,600部となるが,44社(74,6%)が500部未満であ ることに注意する必要があろう。これに対して,外国語版について別に記入し ている企業だけをみれば,かなりの部数を国外に配布していることがわかる。 日本語の特異性により,国外へ日本語版を配布することはほとんど不可能に近 いと考えられるので,配布している会社は,英語版を配布していると考えられ る。このことは,〔資料編戸36表〕および〔資料編第37表〕の使用言語につい ての集計とあわせてみれば,明らかになるであろう。日本語版だけ作成の企業 21社,国外へ配布していない企業21社と,まさに対応している。この配布ゼP の企業を除くと,英語版の作成企業の平均配布部数は2,484部となり,オラン ダ,カナダ企業と並ぶことになる。この英語版には,監査報告書が欠けている ものもあり,むしろ誤解をまねくものとなっているようである。  つぎに配布割合であるが,平均が10%以上の主要な国は,オーストラリア, 南ア,オーストリア,フランス,イタリア,オランダ,ベルギー,スエーデン, ブインランド,スペイン等の企業である。日本企業の場合,部数の際と同じ処 理をした59社の平均は2.6%(不明とゼロの会社を除いた38社平均では4.04 %),ただし,外国語版についてだけみれば,当然のことながら42.2%と高い 割合となっている。この水準では,やはり,カナダ企業と並ぶものであろう。  いずれの国においても,それなりの努力がされているのがうかがえる。しか しながら,わが国の企業においては,21社が国外への配布ゼロであり,同じ21 社が日本語版のみしか作成していないことは,やはり問題なのではないだろう か。スペインの企業も自国語のものしか作成していないにもかかわらず,かな

(20)

40 彦根論叢i第217回 りの割合を国外へ配布しているのであるから,言葉の壁という問題があるにし ても,もう少し多様な努力をしなければならないのではないだろうか。 W 年次事業報告書の費用と反応  つぎに,このように印刷・配布されている年次事業報告書の費用と,受手か らの反応についてみてみよう。費用については,紙代,デザイン料を含む直接 印刷費,および印刷した冊子の配布のための郵送費についてだけ質問した。年 次事業報告書のための費用には,当然企業の会計組織を維持する費用を含めな ければならないが,ここでは把握困難であると考え,除外した。この結果は, 〔資料編第40表〕から〔資料編垂47表〕である。 〔資料編第40表〕の1部当り 直接印刷費の平均は,各企業の直接印刷費を印刷総数で除した各企業の年次事 業報告書1部当りの直接印刷費を集計して単純平均した数値であり,また,そ れぞれを米ドルに換算し,比較するために〔資料編第41表〕を作成した。この 換算が正確であるとはいいがたいが,一応の目安として利用できるものと思わ れる。〔資料三三42表〕については,(注)に記した算式による郵送費の集計であ る。平均値は,それぞれの国の企業の年次事業報告書1部当りの郵送費を合計 し,単純平均したものであり,〔資料編第43表〕はそのドル換算値である。  (1) 直接印刷費および郵送費  これらの表から明らかなように,直接印刷費の平均(1部当り費用)は,日 本,韓国を除き,かなり高価になっている。いずれの国も,カラフルな,豪華 な報告書を作成している様子がうかがえる。これに対して,郵送費は豪華な割 には安価である。直接印刷費と郵送費の比をとってみれば,日本と韓国以外 は,すべて印刷費の方が高いことがわかる。しかしながら,印刷費が高いこと 必らずしも年次事業報告書の豪華さを示すものではない。アメリカ企業では印 刷総数が彪大なため,大量生産によるコスト・ダウンの恩恵を十分に受けてお り,これに対して西ドイツ企業の年次事業報告書は同じようなデラックスさで ありながら,株主には簡略な報告書を作成するため詳細な年次事業報告書の印 刷総数が少なく,アメリカ企業のようなコスト・ダウンの恩恵を受けていな

(21)

い。この点は,ある程度考慮しなければならないであろう。そこで,〔資料編 第44表〕から〔資料編綴47表〕に直接印刷費総額および郵送費総額を現地通貨 とドル換算値で示しておいた。しかしながら,各国の物価水準や為替相場によ る換算にも問題があるので,正確な比較はかなり困難なものとなるであろう。  (2) 反   応  このように費用をかけた年次事業報告書に対する反応はどのようなものであ ろうか。年次事業報告書の効果については種々の側面から分析することが可能 であるけれども,この調査では,単純にして比較可能な形にする点も考慮し て,年間概略どの程度の電話または手紙による反応を受けているかを聞いてい る。 〔資料編第48表〕がその結果の集計である。  この表から,日本,オーストリア企業を除き,いずれもかなりの反応を受け ている。イギリス企業にみられるように,年次事:業報告書の送付依頼が大部分 であるとしても,また,大陸諸国の法制が株主の要求に応じて送付するという ものであることを考慮に入れても,わが国に比較すれば,相当多いことになる。 残念ながら反応の詳しい内容については質問をしていないので不明である。日 本企業の場合には,不明を含め,30回未満とする企業が49社(79%)にのぼ り,ある企業の記しているところでは,「すべて送付依頼のみ」というのであ るが,他の企業も同じような状態であろうかと思われる。  (3) 直接印刷費および郵送費の増加対策  このような費用と反応という効果だけをみると,とにかく何らかの形でつり 合っているように見受けられる。けれども,もし費用の増加が見込まれる場合 には,どのような修正あるいは対策が講じられるかが問題となる。それは,年 次事業報告書をどのように考えているか,また,どのような形で変更を試みて いこうとするのか,あるいは,変更を実施しているのか問うことになる。これ に対する回答を集計したのが,〔資料編第49表〕である。回答会社の合計は, 各項目の回答会社の合計に必ずしも一致しない。それは,いくつかの対策を多 重的にあげているのを分離して計上したことによる。  この表の多様な回答内容をさらに集約することも可能であろうけれども,こ

(22)

 42  彦根論叢 第217号 こでは,その広がりを示すために細分したままにしてある。ことの性質上,修 正,変更を加えることがむずかしいとする企業が多い。南アのある企業は, 「年次事業報告書は冷徹な文書ではなく, (配布先との)関係を確実にするた めの手段である」として,コミュニケーション・プログラムの重要な一側面で あるとし,「最も重要な出版物と信じている」という。また,オーストリアの ある企業は,「年次事業報告書は会社と一般大衆との間の橋渡しとして重要な ものであるので,現時点では修正を考えていない」と質問表に記入している。 西欧各国の企業では,その配布先別の配布数・配布割合からみても,上のよう な意図をもって年次事業報告書を作成しているとみなさなければならないであ ろう。日本企業の場合のように,「回答なし」と「対策なし」というのは,ま さに消極的であるといえるのではないだろうか。これ以上に修正・削減は不可 能であるというのが実情ではないだろうか。ただし,一部には,必要経費と認 め,予算の修正をも行なうという企業のあることにも触れておかなければなら ないであろう。 皿 調査の担当職位および担当部門  以上,アンケート調査の内容にそって,質問表項目の順を追って結果を示し てきた。ここでは,各国の組織をうかがう意図もあって,どの職位・部門がこ の調査のアンケートに回答しているかを,各社から送付された手紙および質問 表に記入されたものからひろってみた。恐らく,名称は異なるにしても,その 職能・扱かう仕事の内容は,ほぼ同じものと理解することができ,比較のため の指針を得られるのではないかと考えたためである。その結果は,324社中94 社について明らかになったにすぎないけれども,〔第50表〕に示した通りであ る。これらの職能と部門において,この調査のアンケートが処理されている。 アメリカ企業においては,年次事業報告書作成責任者が財務・会計担当者から        おラパブリック・リレーションズ担当者に代っており,また,西ドイツ企業におい 13) Meyer, Herbert E,, ‘Annual Reports Get an Editor in Washington’, Fortzane, Vol.  99, No. 9 (May 7, 1979), p‘ 212.

(23)

ても,経理部門は資料を提供するのみで,年次事業報告書の編集は取締役事務        14) 局またはパブリック・リレーションズ部門が担当しているということに符合す るものでもあり,比較のための一つの試みとして参考になれば幸いである。 1X フィナンシャル・タイムズ社による国際比較  ヨーロッパ企業の1978年度年次事業報告書を格付評価するというフaナンシ ャル・タイムズ社の試みは,世界20力国主要企業200社の1979年度年次事業報 告書の格付評価に発展している。ラファティおよびケアソズは,つぎのような 評価基準にもとづき,各国企業の年次事業報告書を格付しているが,この調査 は,われわれの調査年度とも対応しており,また,われわれの調査が触れてい ない内容の一端をうかがうに適切であるので,以下に簡単に紹介しておきた 15) い。 評 価 基 準 個別 基 準 計算書類情報 65%

非財務情報 

25% 連結貝二丁諸表      15% 国際会計基準の示す会計方針の開示  15% セグメント情報      15% インフレーション会計        15% 会 計 監 査       5%

雇用報告書

付加価値計算書 将来の展望の記載 その他の情報

%%%%

0555

! 適  時  性  10% looo/o 14) 黒田全紀・武田隆二稿,「西ドイツ営業報告書の検討」,『営業報告書の研究一日本  会計研究学会特罰委員会報告』,昭和56年5月,24頁。および,増谷裕久編著,『営業  報告書の総合研究』,中央経済社,昭和57年,189頁。 15) Lafferty, Michael & Cairns, David, Financiag Times World Survey of Annual  Reports 1980, London, Financial Times Business lnformation Ltd., 1980, Part 1.  参照。

(24)

 44 彦根論叢第217号  これらの評価基準にもとづき,年次事業報告書の内容を評価し,A(70∼100 %),B(60∼69%), C(50∼59%), D(40∼49%), E(30∼39%)および F(0∼29%)に格付している。フィナンシャル・タイムズ社の国別200社の格       16) 付はつぎのように要約されている。       各国別企業の年次事業報告書の格付 国  別

胤透Ll・1・

cED

計数  二 合会 F E

本カス業ダ

 リリ企

    ナ

 メギ際

日アイ国力

オーストラリア

南西スフイオ

 ド    イ

 イ ンリン

アツススアダ

ラタラ ベルギー・ルクセンブルグ

スエーデン

デンマーク

ス ペ イ ソ 香    港 シンガポール・マレーシア フ  フ  ソ  ノレ

7322一一一一3﹁3一1

22

V一633一一3︻3一4

14一56一712一3一2一一11

61一255444一12一3一221

2﹁一1242122

2 7

一328﹁6一﹁5一﹁4

5052550505000735355

131 11!111111

合計会社数

1 2i 1 si 1 33 [ 42 [ is 1 30r 200  以上の結果から一般的にみて,欧米先進国の各企業においては,年次事業報 告書による情報の公開が相当進んでいることが理解できるが,そのなかにあっ て,イタリア,スペイン両国の企業の情報公開水準はかなり低い。しかし,そ のような両国企業にあっても,スペイン企業では非財務諸表情報や雇用情報の 16)Jbid., p.22.アンケート調査との対応をみるため,記載国順を変更している。な  お,国際企業2社とは,ユニリーバ社およびロイヤル・ダッチ・シェル社である。

(25)

公開については,相対的にかなり高い水準にある。これに対して,わが国企業 (日立,ソニー,トヨタ等の代表的企業15社)の状況ぽ,かなり劣悪なものと みなされている。ヨーロッパ社会のニー“一ズを反映するイギリス会計基準制定委 員会r会社報告書』,r国際会計基準』等のいう評価基準にて評価されている とはいえ,日本企業の情報公開が国際社会において著しく低く評価されている 現状を明らかにしている。このような情報公開水準の低さが何に起因している にせよ,一般にPR用とされ,国内向けよりも多くの情報を掲載しているとさ れる英文アニュアル・リポートすら,このような評価であるため,国内での年 次事業報告書(格段の情報量を示す有価証券報告書は別として)については, どのような評価が下されることになるであろうか。ただ,情報の重要性に対す る考え方が異なり,法制上要求される公開の水準が異なるためであることは確 かであろう。たとえば,わが国企業の原価情報の公開水準は,他国の企業の追 従を許さないものがあるように,異なる評価基準を用いれば高い格付がえられ る。しかしながら,このようなフィナンシャル・タイムズ社の試みは,年次事 業報告書が単なる数字の羅列ではなく,企業内容を正確に,かつ,豊富に示し ているかどうか,また,1つのコミュニケーション・メディアとして,PRを も含めて有効なメディアとなっているかどうかを,まさにイギリス流の監査思 考, 「真実かつ公正」を基準として国際比較を行ない,望ましい方向に情報公 開をすすめていこうとするものである。  われわれの調査においては,以上に触れた聞題について具体的に提案した り,解決のための方策を示竣することはしていない。情報公開のための前提を 解明し,わが国企業の実態のあり場所を指摘するとともに,今後の方向を示唆 することにある。 X む  す  び  以上,非常に簡単にではあるが,世界の主要企業の年次事業報告書の作成, 配布,費用,反応に関するアンケート調査の結果について概観してきた。そこ には,本章で触れた以上のものが明らかになっている。それぞれに読み取って

(26)

 46 彦根論叢 第217号 いただければ幸甚である。このようなアンケート調査は,筆者のみた範囲内で は,これまでに行なわれたことがなく,その結果の評価にはむずかしい点が多 い。欧米の企業は年次事業報告書を「社会一般に対する積極的なコミェニケー ション手段」と考え,これを広く社会に配布しているのに対して,日本企業は 「とおり一遍の株主宛報告書」と考え,これをもっぱら株主にのみに配布して いるのであるが,なぜに欧米の企業が高価な年次事業報告書を作成し,惜げも なく配布しなけれぽならないのであろうか。また反対に,なぜに日本企業が安 価な年次事業報告書を作成し,もつぼら株主にのみ配布することですますこと ができるのであろうか。ある1つの実務を介して企業の行動をみていこうとす る場合,法制からスタートしなければならないが,同時に社会的背景さらには それぞれの国の文化に照らして判断していかなければならないであろう。日本 企業が,どういう点において日本的であり,なぜに特異なものとみられるのか は,共通項と異質項との対比のもとで少しつつ明らかになっていくと考える が,それにも長い時間が必要なことであろう。ここでのまことに簡単なアンケ ート調査の結果によっても,まだ多くの解明すべきことがらのあることを知ら される。 (注) この調査研究は,広島修道大学教授興津裕康氏,愛知大学助教授道明義弘氏との  共同研究として実施したものである。近き将来,『年次事業報告書の国際比較研究』   として,つぎの体系でまとめたいと考えている。

1234︹リハ0

牛次事業報告書アンケート調査結果の概要………一’P一時論叢本 号 アメリカ・カナダ・日本企業の年次事業報告書………同   第213号 イギリス・オーストラリア・南ア企業の年次事業報告書…同   第214号 西ドイツ・オランダ・スイス企業の年次事業報告書………同   第215号 スエーデン・イタリア・スペイン企業の年次事業報告書…同   第216号 年次事業報告書アンケート調査資料一・・………一・……一同 第209・211号

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