氏 名 井上 みゆき 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 医科学 ) 学 位 記 番 号 医工博甲 第 269 号 学 位 授 与 年 月 日 平成25年9月26日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 人間環境医工学専攻(生体環境学コース) 学 位 論 文 題 名 母親の主観的虐待観と個人的要因および市区町村の対策との関 連 -健やか親子21の調査から-
(The association of individual factors and policies of local government with mother's attitude toward a child abuse : from a survey of Healthy Parent and Children 21)
論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 本橋 伸高 委 員 准教授 板倉 淳 委 員 講 師 中根 貴弥
学位論文内容の要旨
(研究の目的) 本研究は、「健やか親子 21 を促進するための母子保健情報の利活用」に関する親子のデータと市区 町村のデータを用い、母親の主観的虐待観に関連する個人的要因と市区町村の児童虐待対策との関連 を明らかにすることを目的とした。 (方法) 1.研究デザイン:横断研究 2.研究対象 1)乳幼児健診を受診した親子を対象とした調査 人工規模別に無作為に抽出された 138 市区町村の乳幼児健康診査(3-4 ヶ月、1 歳 6 ヶ月、3 歳) を受診した親子を対象とした自記式調査である。回答は、3-4 ヶ月児健診 5,500 人(回収率 85.7%) 1 歳 6 ヶ月児健診 8,311 人(回収率 80.7%)、3 歳児健診 7,597 人(回収率 78.6%)から得られた。 2)市区町村の「健やか親子 21」の取り組みに関する実態調査 親子を対象に質問紙調査を実施した 138 市区町村の「健やか親子 21」の取り組みに関する実態調 査のデータを使用した。回収は、138 市区町村(回収率 100%)であった。 3)健やか親子公式ホームページに登録されている市区町村の児童虐待予防対策と連携の事例 市区町村がインターネット上で、実践している対策を主体的に入力や修正をし、それをデータベー ス化したものである。 3.解析方法本調査は、「お母さんは子どもを虐待しているのではないかと思うことがありますか」の質問に対 して「はい」と「何ともいえない」の回答を母親の主観的虐待観「あり」とした。母親の主観的虐待 観を目的変数にして、「出生順」「性別」「出生時の母親の年齢」「母親の就労」「妊娠・出産の満足」 「現在の育児の満足」「育児に自信が持てない」「子とゆったりと過ごす時間」「妊娠中の飲酒」「母親 の現在の喫煙」「相談相手誰もいない」「父親の育児参加」「父親は子どもと遊ぶ」「虐待予防対策」「他 部所との連携」を説明変数とし、単ロジスティク回帰分析を実施した。次に「出生順」「性別」「出生 時の母親の年齢」「母親の就労」を調整変数として多重ロジスティク回帰分析を実施した。解析は、 児の年齢別に行った。 児童虐待予防対策と連携している市区町村の事例は、親子公式ホームページ「取り組みデータベー ス」から虐待対策・連携している市区町村名を入力し、「子どもの心の安らかな発達の促進と育児不 安の軽減」に関する対策を検索した。 (結果) 母親の主観的虐待観「あり」は、3-4 ヶ月児 654 名(11.9%)、1 歳 6 ヶ月児 1815 名(21.8.%) 、3 歳児 2484 名(32.7.%)であった。母親の主観的虐待観「あり」と回答した者の虐待内容は、各年齢と もに感情的な言葉が最も多かった。 母親の主観的虐待観のリスク要因は、3-4 ヶ月では、「現在の育児の満足ない」、「育児に自信が持 てない」「子とゆったりと過ごす時間ない」「父親の育児参加ない」「父親は子どもと遊ばない」が統 計的有意に関連していた。1 歳 6 ヵ月では、上記のリスク要因に加え「母親の就労なし」「相談相手 誰もいない」「妊娠・出産の満足ない」が統計的有意に関連していた。3 歳では、上記のリスク要因 に加え、「母親の現在の喫煙あり」が統計的有意に関連していた。児の「性別」は、母親の主観的虐 待観に関連を認めなかった。「出生順」「母親の出生時の年齢」「母親の就労」の基本的属性は、各年 齢により異なる結果であった。 市 区 町 村「 虐待 防 止対策 」は 1歳 6ヶ 月 児 で 、「 他 部 所 と の連 携 」は 3歳 児 で 実施 し てい な い と 母 親の 主 観的 虐 待観 「 あ り」 と 統計 的 有意 に 関 連し て いた 。 市区町村の虐待対策・他部門との連携ともに実施している市区町村は、44 であった。このうち取 り組みデータベースに、16 市区町村、33 件の取り組み事例が登録されていた。市区町村と地域住民 と連携し効果的な「親子教室」「離乳食教室」「幼児との交流事業」 の 3 事例を提示した。 (考察) 本調査で明らかになった母親の主観的虐待観のリスク要因は、虐待発生の要因となる母親の育児困 難や苦悩、抑うつ、ストレスなどと関連しており、いくつかの要因が重なり合うことで、虐待となる 可能性があると考えられる。児童虐待予防は、地域の問題に応じ、対策を連携して実践することが必 要と考えられた。 本 研 究 の 強 み は 、 全 国 調 査 で あ り 、 対 象 者 数 は 21,408名 と 大 規 模 調 査 か ら の デ ー タ 解 析 結 果 で あ る 。 そ の た め 本 調 査 の 結 果 は 、 乳 幼 児 健 診 を 受 診 す る 親 子 の 母 親 の 主 観 的 虐 待 観 を 表 し て い る と 考 え る 。 し か し 主 観 的 虐 待 観 は 、 母 親 の 認 識 に よ り 違 い が あ る 。 ま た 本 調 査 は 、 子 ども の 気質 な どや 、 家 族の 経 済状 況 など を 調 査し て いな い こと が 限 界と な る。
(結論) 母親の主観的虐待観と関連する要因が明らかになった。虐待予防対策の連携と母親の主観的虐待観 に関連がみられた。虐待予防対策は、地域の問題に応じ、住民も巻き込み、連携して実践することが 必要であることが示唆された。