Ⅰ.事実の概要
(1)原審判決が認定した事実
Y社(AG 30 Saint Denis)は、2004年に、不動産を取得し、当該不動産
を同社の業務執行者であるAに賃貸しするために設立された不動産民事会
社(société civile immobilière)であり、XおよびAは、同社の持分を等し
く保有する社員である。XおよびAは、2004年から内縁生活を続けてい
たが、2008年8月に別居した。Xは、その主張によれば、Y社の社員総
会に招集されたことも、財務状況に関する会計書類の提供を受けたこと
も、利益の配当を受けたこともなかった。Xは、2012年10月8日に総会
の開催を求めたが、義務づけられているはずの年次総会は開催されなかっ
た。そのため、Xは、自らの退社を宣言し、その権利の価額の決定を鑑定
人に委ねることを求めて、Y社を呼び出した
(2)。その訴訟中、Xはその請
(1) Cass. 3e civ. 21 juin 2018, no 17-13212, Bull. Joly Sociétés 2018, pp. 504 et suiv., note
Jean-François Barbièri ; Dr. sociétés 2018, comm. no 163, note Henri Hovasse ; D 2018, p. 1381
; Lexbase hebdo éd. affaires 2018, 560, note Bernard Saintourens ; D 2018, p. 2062, note Anne Rabreau ; Petites affiches 2018, no 228, pp. 11 et suiv., note Deen Gibirila ; JCP N
2018, 1303, note Jean-Patrice Storck ; Rev. trim. droit commercial 2018, pp. 932 et suiv., note Arnaud Lecourt ; Rev. sociétés 2018, pp. 188 et suiv., note Benoît Lecourt.
(2) 民事会社の社員は、定款に定める要件に従い、または、その定めがない場合には 他の社員の全員一致の決定によってなされる承認の後に退社をすることができるほ か、正当な理由にもとづく裁判所の決定によって退社をすることもできる(民法典 1869条1項)。また、退社する社員は、社員権の価額の償還を請求することができる が(同条2項)、その価額は、当事者の協議が調わない場合、鑑定人(expert)によっ て決定される(民法典1843-4条Ⅰ)。
フランス企業法判例研究6
特別受任者の選任の要件
−破毀院第3民事部2018年6月21日判決
(1)−
白 石 智 則
求を取り下げ、①「2004年から2015年までに終結した事業年度について
の会社の帳簿および書類を提供すること」、②「これらの各事業年度につ
き実現した利益および負担した損失を記載する報告書を作成すること」、
ならびに、③「2004年から2015年までの期間についての終結した事業年
度につき判断し、これらの事業年度を承認し、損益の割当てにつき決定す
るための総会を招集すること」を任務とする特別受任者(mandataire ad
hoc
)の選任を求めたところ、ボビニー大審裁判所(2015年9月24日判決)
がこれを認めたため、Y社が控訴した。
(2)原審判決
パリ控訴院(2016年11月10日判決)は、次の理由により、第一審判決を
維持し、前記①、②および③を任務とする受任者として、裁判所選任の管
理者(administrateur judiciaire)であるBを6か月間について選任した
(3)。
「Y社は、受任者の選任請求に反対するため、Xが、会社の運営および
業務執行に何ら参加せず、費用または損失を負担することもなく、定款に
記載された資本の半分の出捐もしていないため、実際にはY社の社員では
なく、このような主張をする資格を有していないと主張することを望んで
いる。Y社はまた、その運営が異常ではなく、いかなる切迫した危険にも
さらされていないことを主張している。Y社の定款の文言によれば、X
は、Aと等しい持分を有する社員であり、Y社におけるXの権利および資
格につき主張されているような架空性は証明されておらず、不動産を取得
するための資金調達がAの両親からの借入れによって行われたことは、ほ
とんど重要ではない。控訴人(Y社)が援用した2007年6月21日の書簡、
すなわち、Y社を設立するためには「2人必要であり」「届出も支払いも
する必要はない」という理由でY社の社員になるようにAがXに求めてい
(3) なお、Y社はXに対し、XはY社に対し、それぞれ損害賠償を請求していたが、前 者の請求については「Xの主張が濫用的であると性質決定することができない」こ とを理由に、後者の請求については「Xの権利の内容につきY社が誤ったことにつ いて不誠実なところはない」ことを理由に、いずれも退けられている。たことをXが税務当局に対して知らせた書簡については、「Aが私(X)
の計算で支払いをしていなかった場合に」、Xが不動産所得につき課税さ
れることをその書簡において認めたということしか主張することができな
い。したがって、この書類は、主張されているようなアフェクティオ・ソ
キエタティス(affectio societatis)
(4)の欠如の証拠とすることはできない。
反対に、AおよびXは、当時、取得した不動産をともに占有することを欲
しており、社員の居住用の不動産を取得することを唯一の目的とするY社
を設立するという意図をもって行動していた。税務上の目的を有する単純
な仕組みを採用することによって強制されない会社持分の平等な配分も、
その意図を証明している。その結果、Xの社員としての資格を否定するこ
とからなるY社の主張は、適切ではないものとして退けられる。民法典
1844-1条1項の文言によれば、「すべての社員は、集団的決定に参加する
権利を有する」。同法典1855条の文言によれば、「社員は、1年に1回以
上、会社の帳簿および書類の提供を受ける権利を有する」。同法典1856条
の文言によれば、「業務執行者は、年度内に1回以上、自らの業務執行に
ついて社員に報告しなければならない」。業務執行社員であるAは、Xの
請求にもかかわらず、あらゆる総会を招集し、会社計算書類を提供するこ
とを拒絶したので、付託された判決を維持し、2014年および2015年に終
結した事業年度につき選任された受任者に与えられた任務を拡張すること
が適当である。」
「2008年8月におけるXとAの別居以来、Y社の社員間に不和が存在し
たことは明らかである。Xにより2012年10月8日になされた請求にも関
わらずいかなる総会も開催されなかったこと、および、XがY社の会計
書類を入手できなかったことについては、異議が述べられていない。共同
生活中にXがY社に対して関心を示さなかったこと、および、Xがその金
(4) アフェクティオ・ソキエタティスとは、社員が有しなければならない「協働の意思」 のことである。この概念については、来住野究「affectio societatisについて」奥島孝 康教授還暦記念第1巻『比較会社法研究』(成文堂、1999年)503頁以下を参照。銭的な債務を履行しなかったことを理由に、Aは、その社員に対する業務
執行上の義務の履行を拒むことはできない。それゆえ、Xの請求にもとづ
き、6か月の期間につき、その任務が主文において示されることになる受
任者の選任を認めることが正当である。」
(3)破毀申立理由
これに対し、Y社は、次の理由により、原審判決の破毀を申し立てた。
「仮の管理者の選任は例外的な措置であるから、会社の正常な運営を不
可能とし、会社を切迫した危険にさらしている状況が証明されることが
必要である。本件において、控訴院は、2004年から2015年までに終結し
た事業年度についての会社の帳簿および書類を提供すること、これらの各
事業年度につき利益および損失を記載する報告書を作成すること、ならび
に、2004年から2015年までの期間についての終結した事業年度につき判
断し、これらの事業年度を承認し、損益の割当てにつき決定するための総
会を招集することを任務とする受任者として特別受任者Bを6か月の期間
について選任するために、民法典1844-1条、1855条および1856条にもと
づき、業務執行社員であるAが、Xの請求にもかかわらず総会の招集およ
び会社計算書類の提供を拒絶していたことを判示するとともに、第1審裁
判所で採用された理由により、「2008年8月におけるXとAの別居以来、
Y社の社員間に不和」があったこと、ならびに、「共同生活中にXがY社
に対して関心を示さなかったこと、および、Xがその金銭的な債務を履行
しなかったことを理由に、Aは、その社員に対する業務執行上の義務の履
行を拒むことはできない」ことを判示した。このような状況が会社の正常
な運営を不可能とし、会社を切迫した危険にさらしていることを証明しな
ければ、裁判所による仮の管理者(administrateur provisoire)の選任を正
当化することができないのに、これらを検討せず、さらにその説明もして
いないので、前記の条文に照らすと、控訴院は、このように判示すること
により、その判決から法的根拠を失わせた。」
Ⅱ.判 旨
破毀院第3民事部(2018年6月21日判決)は、次のように述べて、Y
社による破毀申立てを退けている。
「控訴院は、会社の正常な運営を不可能とし、会社を切迫した危険にさ
らしている状況に関して、効果のない検討を行う必要はなく、採用された
適切な理由により、社員間に不和があり、Xの請求にもかかわらず総会が
開催されず、Xは会計書類を取得することができなかったと判示したこ
とにより、2004年から2015年までに終結した事業年度についての会社の
帳簿および書類を提供すること、これらの各事業年度につき実現した利益
と負担した損失を記載する報告書を作成すること、ならびに、2004年か
ら2015年までの期間についての終結した事業年度につき判断し、これら
の事業年度を承認し、損益の割当てにつき決定するための総会を招集する
ことを任務とする特別受任者を選任するという判決を適法に理由づけてい
る。」
Ⅲ.検 討
本判決は、不動産民事会社(SCI, société civile immobilière)
(5)において、
総会の招集等を任務とする特別受任者(mandataire ad hoc)の選任が求め
られた事件に関するものである。
被告である不動産民事会社の2名の社員は、もともと内縁関係にあり、
一方の社員のみが業務執行を行っていた。内縁解消後、他方の社員は、総
会の招集等を求めたが断られたため、会社の帳簿等の提供、損益に関する
(5) 不動産民事会社とは、不動産の賃貸、社員による利用などを目的として、不動産 を建築または取得するために設立される民事会社のことである。Mémento pratique Francis Lefebvre, Sociétés civiles, Édition 2018, 2017, no 29000, p. 703. 税務上の理由から、不動産の虚有権(nue-propriété)(所有権のうち、使用権および収益権を除いた 権利)のみが不動産民事会社に与えられることも多いという。Maurice Cozian, Alain Viandier et Florence Deboissy, Droit des sociétés, 31e éd., LexisNexis, 2018, no 1618, p.
報告書の作成、および、決算承認と損益の割当てを行う総会の招集を任務
とする特別受任者の選任を裁判所に求めた。会社側は、特別受任者の選任
は「会社の正常な運営を不可能とし、会社を切迫した危険にさらしている
状況」がある場合に限られると主張したが、破毀院は、このような状況が
あるか否かを検討する必要はないとして、社員間に不和があり、総会が開
催されず、会計書類が提供されていなかったことを確認しただけでだけで
特別受任者の選任を認めている。
特別受任者は、裁判所選任の管理者(administrateur judiciaire)(商法
典L.811-1条)
(6)の一種であるが
(7)、同じく裁判所選任の管理者である仮の管
理者(administrateur provisoire)と異なるものであるのか、そしていかな
る場合に選任されるのかについて、これまでの判例・学説は錯綜していた
ところ
(8)、本判決は、両者が異なるものであり、特別受任者の選任につい
ては仮の管理者のように厳しい要件を課す必要がないということを明らか
にしている。
以下では、特別受任者および仮の管理者の任務・権限(1.)および選
任の要件(2.)に関するフランスの判例・学説を整理した上で、本判決
の意義について検討する(3.)。
1.特別受任者および仮の管理者の任務・権限
(1)仮の管理者の任務・権限
仮の管理者(administrateur provisoire)
(9)とは、会社の正常な運営を阻
(6) 裁判所選任の管理者は、「裁判所の決定により、他人の財産を管理し、これらの財 産の運用における補佐および監視という職務を行うことを任務とする受任者」であ る(商法典L.811-1条1項)。(7) Gibirila, op. cit. (note 1), p. 13.
(8) 本件の破毀申立理由も、特別受任者と仮の管理者を混同しているようである。 (9) 株式会社においては、「仮取締役」と訳されることが多い。例えば、早稲田大学フラン
ス商法研究会『注釈フランス会社法第2巻』(成文堂、1977年)701頁、白石智則「仮取 締役により招集される総会における議事日程の決定」白鷗法学23巻1号(2016年)92頁。
害する重大な危機がある場合に、裁判所により、一時的に会社の業務執
行を行うことを任務として選任される受任者のことである
(10)。仮の管理者
は、会社、株主など、会社と法的関係を有する者の申立てにもとづいて選
任される(破毀院商事部1988年2月16日判決
(11))。その選任は、商業・会
社登記簿(registre du commerce et des sociétés)に登記されなければな
らず、これにより仮の管理者は有効に会社を代表することができる
(12)。
仮の管理者について規定する法令は存在しない。急速審理裁判官(juge
de référés)に与えられた保全処分等を命じる権限が、その選任につい
ての法的根拠とされている
(13)。すなわち、民事訴訟法典809条1項
(14)に
よれば、「(大審)裁判所所長は、重大な異議が存在する場合であって
も、常に、切迫した損害を避けるため、あるいは明らかに違法な侵害を
やめさせるため、必要とされる保全処分または原状回復処分(mesures
conservatoires ou de remise en état)を急速審理手続(référé)によって命
じることができる」とされており、仮の管理者の選任は、この保全処分の
1つであると考えられている
(15)。
仮の管理者の権限は、その任務の性質と範囲に従い、これを選任する裁
判所の命令(ordonnance)によって決定される(破毀院商事部1971年3
月23日判決
(16))。
(10) Philippe Merle, Droit commercial, Sociétés commerciales, 22e éd., Dalloz, 2018, no
658, p. 759 ; Mémento pratique Francis Lefebvre, Sociétés commerciales, Édition 2019, 2018, 50 éd., no 10200, p. 220. 仮の管理者に関する総合的な研究として、Georges
Bolard, Administration provisoire et mandat ad hoc : du fait au droit, JCP E 1995, 509 ; Benoît Lecourt, Questions autour de l'administrateur provisoire, JCP E 2016, 1384. (11) Cass. com. 16 février 1988, no 86-16241, Bull. Joly Sociétés 1988, pp. 270 et suiv.
(12) Merle, op. cit. (note 10), no 659, p. 762 ; Mémento pratique Francis Lefebvre, op. cit.
(note 10), no 10265, p. 222.
(13) Merle, op. cit. (note 10), no 658, p. 759.
(14) 商事裁判所所長については、民事訴訟法典873条1項。
(15) また、民事訴訟法典808条は、「大審裁判所所長は、あらゆる緊急の場合におい て、重大な異議がなく、紛争の存在によって正当化されるあらゆる処分を急速審理 手続によって命じることができる」と規定する。
仮の管理者が選任されると、在職中の会社指揮者(dirigeant)はその権
限を奪われる(破毀院第2民事部1976年7月17日判決
(17))
(18)。仮の管理者
は、法律により会社指揮者に与えられたすべての権限が裁判所によって授
けられ(破毀院商事部1986年5月6日判決
(19))
(20)、会社、株主または第三
者に対し、会社指揮者と同一の責任を負う
(21)。仮の管理者の在職中に会社
指揮者が選任された場合であっても、その会社指揮者は会社を代表する権
限を有しない(破毀院社会部2011年6月22日判決
(22))。
ただし、仮の管理者は、包括的な文言によってその代表権が定めら
れたとしても、民法典1155条1項
(23)の適用により、保存行為(acte
(17) Cass. 2e civ. 17 juillet 1976, no 75-10409, Bull. civ. 1976, II, no 251. 原審は、「(仮の管理
者は)会社の業務執行行為および管理行為において特別に会社を代表するために業務 執行者を補佐する任務を有するのではなく、会社の管理機関と置き換えられる」とし て、仮の管理者の選任後に業務執行者によってなされた控訴の提起を受理できないも のと判示しており、破毀院は、この原審判決に対する破毀申立てを退けている。 (18) 2016年2月10日のオルドナンス第2016-131号によって改正された民法典1159条1 項は、新たに、「法律または裁判による代理により、本人は、その期間中、代理人に 与えた権限を奪われる」と規定している。
(19) Cass. com. 6 mai 1986, no 84-14430, Bull. civ. 1986, IV, no 77.
(20) 特に限定された権限のみを有する「仮の管理者」が選任された事件に関する裁判 例として、破毀院商事部1969年10月27日判決(Cass. com. 27 octobre 1969, Bull. civ. 1969, IV, no 314)があるが、この「仮の管理者」が、現在の一般的な意味における 仮の管理者と同じであるかは明らかでない。この事件において、原審は、「積極的ま たは消極的に会社を管理し、取締役の選任を行うための総会を遅滞なく招集するこ と」だけを任務とした「仮の管理者」は、「定款により取締役会に与えられた、会社 外の者による株式の取得を承認し、または拒絶する裁量権」を有しないと判示して おり、破毀院はこの原審判決に対する破毀申立てを退けている。
(21) Merle, op. cit. (note 10), no 659, p. 763.
(22) Cass. soc. 22 juin 2011, no 09-70517, Rev. jurisprudence de droit des affaires 2011, no
918. 原審は、「控訴の時点において、会社の管理権、指揮権および代表権が仮の管理 者に与えられていた」ことを確認し、「その時点における総会による業務執行者の選 任は無効であった」と判示しており、破毀院はこの原審判決に対する破毀申立てを 退けている。 (23) 民法典1155条1項は、「代理人の権限が包括的な文言によって定められた場合、 その権限は保存行為および管理行為に限られる」と規定する。なお、2016年2月10 日のオルドナンス第2016-131号による改正前の民法典1988条も、「包括的な文言によ り示される委任は、管理行為のみを包摂する」と規定していた。
conservatoire)と管理行為(acte d'administration)しか行うことができな
いと解されている(破毀院第3民事部2007年5月3日判決
(24))
(25)。処分行
為(acte de disposition)を行う権限を付与することができるとする裁判例
も存在するが(破毀院商事部2016年11月8日判決
(26))、仮の管理者は、危
機を緩和することを本来の任務とする「仮の」指揮者であり、多くの場合
には自らが指揮する事業をよく知らないことから、会社に義務を負担させ
る処分行為を行う場合には特に慎重でなければならないことが指摘されて
いる
(27)。
(2)特別受任者の任務・権限
現在の通説的な理解によれば、特別受任者(mandataire ad hoc)とは、
裁判所により、一時的かつ限定的な行為を行うことを任務として選任さ
れる受任者のことである
(28)。商法典は、①少数株主等の請求にもとづき
(24) Cass. 3e civ. 3 mai 2007, no 05-18486, Bull. civ. 2007, III, no 70. 原審は、「積極的ま
たは消極的に不動産民事会社の管理および業務執行をすること、特に賃貸借に関 するあらゆる条件を修正すること、ならびに、不動産民事会社に有益なあらゆる 決定を行うことを任務とする仮の管理者」は、「現在のあらゆる業務執行が意味す る保存行為および管理行為を行うことができるが、その任務の保存的性格により、 更新される賃貸借の賃料を決定させることを目的とする商事賃料裁判官(juge des loyers commerciaux)に対する申立てを行う権限を有しない」と判示しており、破 毀院はこの原審判決に対する破毀申立てを退けている。なお、この判決は、民法典 旧1988条との関係については触れていない。
(25) Mémento pratique Francis Lefebvre, op. cit. (note 10), no 10280, p. 222.
(26) Cass. com. 8 novembre 2016, no 14-21481, JCP E 2017, 1195. 会社指揮者の決定は共
同して行わなければならないという定款の定めがある持株会社における仮の管理者 の選任が問題となった事件において、原審は、「指揮機関の間に存する重大な不和に より、その全員一致による合意がなされないので、会社とその子会社の利益により 必要とされる決議を行うことが妨げられており、会社の麻痺が生じた」ことを確認 するとともに、「仮の管理者に与えられた、グループの状況を改善するために会社の 資産を必要な場合に売却するという任務は、この会社の利益に従っている」と判示 して、仮の管理者を選任した命令を維持しており、破毀院は、この原審判決に対す る破毀申立てを退けている。
(27) Merle, op. cit. (note 10), no 659, p. 762.
総会を招集することを任務とする特別受任者(商法典L.223-27条、L.225-103条)
(29)、②株式の共有者の間で意見が一致しない場合に共有者を代理す
る特別受任者(商法典L.225-110条)
(30)、③取締役等の責任を追及するため
の会社訴権が個人的に行使される際に会社を代表する特別受任者(商法
典R.223-32条、R.225-170条)
(31)、④会社の行為等が公示義務違反を理由に
無効となる場合にこれを補正するための手続を行う特別受任者(商法典
L.235-7条、R.210-18条)
(32)、および、⑤企業の経営難を予防するための特
別受任者(商法典L.611-3条)
(33)の選任が可能であることを定めているが、
このような規定がない場合でも裁判所は特別受任者を選任することができ
ると解されている。特別受任者の選任は、会社指揮者が何らかの義務を履
(29) 有限会社において、「すべての社員は、総会を招集しかつその議事日程を定めるこ とを任務とする受任者の選任を裁判所に請求することができる」(商法典L.223-27条 7項)。また、株式会社において、総会は、取締役会のほか、「緊急の場合における利 害関係人、会社資本の少なくとも5パーセントに相当する株式を有する1人もしく は数人の株主、または、L.225-120条に定める条件を満たす株主団体の請求にもとづ き、裁判所が選任した受任者」によっても招集される(商法典L.225-103条2項2号)。 (30) 株式の不分割共有者は、その中の1人または単独の受任者が総会においてこれを 代理するが、「合意が成立しない場合、受任者は、もっとも熱心な共有者の請求にも とづき、裁判所がこれを選任する」(商法典L.225-110条2項)。 (31) 株式会社において、株主は、個別的または集団的に、取締役等の責任を追及する 会社訴権(action sociale)を行使することができる(商法典L.225-252条、L.225-256 条1項)。その際、裁判所は、法定代表者(représentant légal)を介して会社を訴訟 参加させなければ裁判をすることができないが(商法典R.225-170条1項)、「会社と その法定代表者との間に利益相反がある場合、裁判所は、訴訟において会社を代表 するための特別受任者を選任することができる」(同条2項)。有限会社においても 同様である(商法典L.223-32条2項)。 (32) 会社設立後の行為および決議の無効が、公示の規定の違反にもとづく場合、すべ ての利害関係人は、会社に対し、一定の期間内に補正を行う旨を催告することがで き、この期間内に補正が行われないときは、「すべての利害関係人は、裁判所の決定 をもってその手続を履行することを任務とする受任者の選任を請求することができ る」(商法典L.235-7条、R.210-18条2項)。 (33) 企業の経営難を予防するため、「裁判所は、債務者の請求にもとづき、特別受任者 を決定することができ、その任務は裁判所が決定する」(商法典L.611-3条1項)。そ の任務は、主たる債権者との間で支払期日について交渉することとされる場合が多 いという。Mémento pratique Francis Lefebvre, op. cit. (note 10), no 10200, p. 220.行しない場合にその履行を求める強制履行の一手段として認められるから
である
(34)。
特別受任者は、多くの場合、総会を招集することを任務とするが(破毀
院商事部2009年9月29日判決
(35)、破毀院商事部2009年10月13日判決
(36))、
そのほか、訴訟中の会社を代表すること(破毀院商事部2017年3月15日
判決
(37))、所有権の部分移譲(démembrement)が行われた株式を総会に
おいて代理し、その議決権を行使すること(破毀院商事部2009年11月10
日判決
(38))、計算書類等を調査し、提出すること(破毀院商事部2005年12
月6日判決
(39))、少数派の濫用(abus de minorité)が行われた場合におい
て少数派株主に代わって会社の利益に従った議決権行使をすること(破毀
(34) Hovasse, op. cit. (note 1), p. 31.(35) Cass. com. 29 septembre 2009, no 08-19937, Bull. civ. 2009, IV, no 118. 商事裁判所に
より「特に取締役を選任するための株主総会を招集することを任務とする特別受任 者」が選任され、その後この特別受任者によって実際に総会が招集されたため、株 主の1人がその総会の無効と会社を指揮することを任務とする仮の管理者の選任を 求めたが、破毀院は、「株主総会決議の無効は保全処分でも原状回復処分でもないの で、急速審理裁判官の権限に含まれず」、「あらゆる証拠が会社の正常な運営を証明 している」として総会の無効と仮の管理者の選任の請求を退けた原審判決を正当と し、破毀申立てを退けている。
(36) Cass. com. 13 octobre 2009, no 08-15722, Bull. Joly Sociétés 2010, pp. 29 et suiv. 長期
にわたって株主総会が開催されていなかった会社において「総会を招集することを 任務とする特別受任者」が選任されたが、その任務が遂行されなかったため、急速 審理命令によって、特別受任者の解任と、業務執行者が新たに総会を招集すること が認められた。これに対し、社員の1人が、業務執行者に総会を招集する権限はな いとして総会の無効を求めたが、破毀院は、その権限を認めた原審判決に対する破 毀申立てを退けている。
(37) Cass. com. 15 mars 2017, no 15-12742, D 2012, pp. 703 et suiv. 同判決の内容につい
ては、後掲注(44)を参照。
(38) Cass. com. 10 novembre 2009, no 08-19356, Rev. sociétés 2009, pp. 219 et suiv. 同判決
の内容については、後掲注(65)を参照。
(39) Cass. com. 6 décembre 2005, no 04-13873, Bull. civ. 2005, IV, no 246. 親会社の株主で
あると称する者が、「計算書類の公示手続を行うことを任務とする受任者」の選任を 求めた事件において、その者とその親会社との関係が証明されていないとして受任 者の選任請求を認めなかった原審判決に対する破毀申立てを退けている。
院商事部1993年3月9日判決
(40))、会社の成果を守るために会社機関の補
佐および監督を行うこと(パリ控訴院1990年6月7日判決
(41))を任務とす
る場合もある
(42)。
特別受任者は、会社指揮者の権限の一部のみを一時的に行使して、会社
の運営における「問題点(accroc)」を修正するだけである
(43)。特別受任者
が選任されても、会社指揮者の代表権や業務執行権は奪われず(破毀院商
事部2017年3月15日判決
(44))、会社指揮者の義務が免除されることもない
(40) Cass. com. 9 mars 1993, no 91-14685, Bull. civ. 1993, IV, no 101. 有限会社の特別総会
において少数派の社員が多数派および会社の利益を害する目的をもって必要な増資 決議の成立を沈黙や欠席により不当に妨げた事件において、原審が「判決が増資を 目的とする決議の採択に相当する」と判示したのに対し、破毀院は、「裁判官が、法 律上の権限を有する会社の機関に代わることはできないが、新たな総会において欠 席した少数派株主を代理し、その名において、会社の利益に従い、少数派の正当な 利益を害しない方向に議決権を行使することを目的とした受任者を選任することは 可能である」と述べて原審判決を破毀している。同判決については、山本真知子「フ ランスにおける株主・社員の議決権濫用による総会決議不成立と損害の回復」酒巻 俊雄先生古稀記念『21世紀の企業法制』(商事法務、2003年)855頁以下を参照。また、 「対等の濫用(abus d'égalité)」の場合に特別受任者の選任が認められた例として、 破毀院第3民事部2009年12月16日判決(Cass. 3e civ. 16 décembre 2009, no 09-10209,
Bull. civ. 2009, III, no 287)を参照。
(41) CA Paris 7 juin 1990, D 1990, I.R., pp. 194 et suiv. パリ控訴院は、「会社の包括的な業務 執行を行う権限を有し、会社の法定の機関から権限を奪う裁判所選任の管理者の選任 は、会社の運営を麻痺させ、会社の利益を大きく害する性質を有する重大な危機的状況 を改善するための例外的な措置であり」、そのような状況は見られないと判示する一方 で、商標ライセンス契約に関して多数派グループと少数派グループとの間に存する意見 の不一致が、「会社の将来についての大きなリスクとなる永続的な会社の危機的状況を 作り出しており」、それゆえ、正式な会社機関に与えられた「決定権限および業務執行 権限の行使を害することなく、会社の成果を守るための補佐および監督という特別な任 務が与えられる裁判所選任の受任者(mandataire de justice)が必要である」と判示した。 (42) B. Lecourt, op. cit. (note 1), p. 189.
(43) Storck, op. cit. (note 1).
(44) Cass. com. 15 mars 2017, op. cit. (note 37). 破毀院は、債務の弁済を求める呼出し において会社を代表することを任務とする特別受任者が選任されていた事件におい て、「特別受任者の選任は、会社機関から権限を奪う効果を有しないので、最終的 に、社員の決定により、死亡した業務執行者の代わりに選任された会社の業務執行 者だけが、会社を代表し、不服申立てを行う資格を有している」と判示して、特別 受任者だけが控訴を行う資格を有していると判断した原審判決を破毀している。
(破毀院商事部2016年5月18日判決
(45))。特別受任者は、過去の行為を補
正することを任務とする以上、会社指揮者の権限を移転することは妥当で
ないからである
(46)。
(3)特別受任者と仮の管理者の相違点
以上のように、現在の通説的な理解によれば、特別受任者は、仮の管理
者と異なる概念である
(47)。
仮の管理者は、その選任により会社指揮者と交代し、会社を代表し、会
社の業務執行を行う。その結果、会社指揮者はその権限を奪われる。これ
に対し、特別受任者は、かなり限定された権限が与えられるだけであり、
会社を代表し、会社の業務執行を行う権限は、依然として会社指揮者が有
している。それゆえ、特別受任者については、仮の管理者と異なり、その
選任を公示して第三者に知らせる必要はなく、その任務を秘密にしておく
ことも可能である
(48)。
また、仮の管理者は、会社が危機に瀕することを避けるために、将来に
向けて選任される。これに対し、特別受任者は、総会の不招集、書類の不
提供、少数派の濫用となる議決権行使、債務の不払いのように、過去の義
務違反を補正するために選任される
(49)。会社の危機的状況を改善すること
はその目的とされていない
(50)。
(45) Cass. com. 18 mai 2016, no 14-16895, Bull. Joly Sociétés 2016, pp. 619 et suiv. 原審は、
「特別受任者の選任は、債務者である会社の指揮者からその権限を奪うものではな く、その義務を免除しない」ことを確認した上で、法人の清算によって資産の不足 が明らかになった場合における、業務執行上の過失のある会社指揮者の責任を認め ており、破毀院は、この原審判決に対する破毀申立てを退けている。
(46) A. Lecourt, op. cit. (note 1), p. 933.
(47) 特別受任者という用語は特定の任務に限定される場合に用いられるが、「特別受 任者」、「仮の管理者」または「裁判所選任の管理者」という言葉の違いはほとんど 重要ではないとする見解もある。Michel Germain et Véronique Magnier, Les sociétés commerciales, Traité de droit des affaires de Georges Ripert et René Roblot, tome 2, 21e
éd., LGDJ, 2014, no 1675, p. 158, note 396.
(48) B. Lecourt, op. cit. (note 1), p. 189. (49) Barbièri, op. cit. (note 1), p. 505. (50) A. Lecourt, op. cit. (note 1), p. 933.
このほか、特別受任者の選任につき、仮の管理者の選任より緩やかな要
件が課されるという見解を前提とすれば、このことも両者の相違点として
指摘することができるが、この点については以下で改めて検討する。
2.特別受任者および仮の管理者の選任の要件
(1)仮の管理者の選任の要件
仮の管理者の選任により、会社指揮者はその権限を奪われ、第三者が会
社指揮者に代わって会社の活動に介入するという大きな影響を及ぼすこと
になるから、その選任は、会社の利益(intérêt social)のもと、厳格な要
件が満たされる場合にしか認められない
(51)。破毀院は、以前から実質的に
は同様の要件を課していたものと解されるが
(52)、近年はその要件を同じ文
言によって表している。すなわち、「仮の管理者の選任は例外的な措置で
あるから、会社の正常な運営(fonctionnement normal)を不可能とし、
会社を切迫した危険(péril imminent)にさらしている状況が証明される
ことが必要である」(破毀院商事部2007年2月6日判決
(53)、破毀院商事部
2009年9月29日判決
(54)、破毀院社会部2012年10月23日判決
(55)、破毀院商事
部2015年9月29日判決
(56)など)。
具体的には、第1に、会社の適切な運営が妨げられ、会社の利益が害さ
れるような「会社の麻痺(paralysie de la société)」がなければ、仮の管理
者の選任は認められない
(57)。会社指揮者が欠けていたり、会社指揮者の間
(51) Caroline Ruellan, Les conditions de désignation d'un administrateur provisoire, Dr. sociétés 2000, chroniques no 20 ; Merle, op. cit. (note 10), no 658, p. 759.
(52) 仮の管理者の選任要件に関するかつての破毀院判決については、Ruellan, op. cit. (note 51)を参照。
(53) Cass. com. 6 février 2007, no 05-19008, Bull. civ. 2007, IV, no 28.
(54) Cass. com. 29 septembre 2009, op. cit. (note 35).
(55) Cass. soc. 23 octobre 2012, no 11-24609, Bull. civ. 2012, V, no 271.
(56) Cass. com. 29 septembre 2015, no 14-11491, Bull. rapide de droit des affaires 2015, no
22, pp. 5 et suiv.
(57) Merle, op. cit. (note 10), no 658, p. 760 ; Mémento pratique Francis Lefebvre, op. cit.
または社員の間に不和があるというだけでは、不十分である(破毀院商事
部1982年4月26日判決
(58)、破毀院商事部2016年11月8日判決
(59)、破毀院第
3民事部2017年11月16日
(60))。
第 2 に、 会 社 の 利 益 が「 確 実 か つ 切 迫 し た 危 険(péril certain et
imminent)」にさらされていなければならず、それゆえ、損害の発生を防
ぎ、またはすでに生じた損害の拡大を防止する場合でなければ、仮の管理
者の選任は認められない(ルーアン控訴院1974年3月19日判決
(61))
(62)。仮
の管理者の選任が、「切迫した損害を避けるため」の保全処分(民事訴訟
法典809条1項)として認められる以上、この要件は当然のものといえる。
第3に、「状況の改善」が期待される場合でなければ、仮の管理者の
選任は認められない
(63)。社員間の不和によって会社の運営が麻痺してい
る場合に、その状況の改善が期待できないのであれば、裁判上の解散
(dissolution judiciaire)の問題となる(民法典1844-7条5号)
(64)。
(58) Cass. com. 26 avril 1982, no 81-10514, Bull. civ. 1982, IV, no 136. 原審は、「過度に敵
対していた取締役間の不和により、取締役会の正常な運営が妨げられ、会社の業務 執行および事業に対する重大な危機がもたらされ」、その「不和は会社の解散に至る 可能性があった」と判示して仮の管理者を選任しており、破毀院は、この原審判決 に対する破毀申立てを退けている。
(59) Cass. com. 8 novembre 2016, op. cit. (note 26).
(60) Cass. 3e civ. 16 novembre 2017, no 16-23685, Bull. rapide de droit des affaires 2018, no 1,
pp. 5 et suiv. 原審が、「業務執行の欠員はそれだけでも重大な機能不全に相当し、仮の 管理者は会社の適切な運営を麻痺させる社員間の不和および問題を確認している」と 判示して、解散手続において会社を代表することを任務とする仮の管理者の選任を認 めたのに対し、破毀院は、「法律上の業務執行者の欠員にもかかわらず、会社が問題 なく運営されているか否かを検討しておらず、また、控訴院が認めた『問題』につい て説明していない」から、原審判決には法的根拠がないとして、これを破毀している。 (61) CA Rouen 19 mars 1974, Rev. sociétés 1974, pp. 718 et suiv. ルーアン控訴院は、「社員 間の不和により、すでに会社の利益が脅かされ始めており、会社を急速に債務超過に 向かわせる可能性のある障害が発生した」として、仮の管理者の選任を認めている。 (62) Merle, op. cit. (note 10), no 658, p. 760.
(63) Merle, op. cit. (note 10), no 658, p. 761 ; Mémento pratique Francis Lefebvre, op. cit.
(note 10), no 10210, p. 220.
(64) 裁判上の解散については、白石智則「社員間の不和を理由とする裁判上の解散宣 告」白鷗法学25巻1=2号(2018年)313頁以下を参照。
(2)特別受任者の選任の要件
特別受任者の選任につき、仮の管理者と同じ要件を課す必要があるか否
かについて、破毀院の立場は一貫していなかった。
(a)特別受任者の選任につき仮の管理者と同じ要件を課す見解
破毀院商事部2009年11月10日判決
(65)は、「仮の管理者の選任は例外的な
措置であるから、会社の正常な運営を不可能とし、会社を切迫した危険に
さらしている状況が証明されることが必要である」ことを確認した上で、
「多数派株主および監査役会会長の権限の行使がいかなる点において会社
の正常な運営を妨げたかということを明らかにしていない」として、特別
受任者の選任を認めた原審判決を破毀している。この判決は、特別受任者
の選任につき厳しい要件を課したというよりは、「仮の管理者」という語
を用いたことから明らかなように、単に特別受任者と仮の管理者を混同し
たものと考えられる。
また、特別受任者と仮の管理者が別であるという理解を前提としても、
社員間の不和が会社の運営を阻害せず、会社がいかなる危険にもさらされ
ていない場合にまで特別受任者の選任を認めることに懐疑的な学説も存在
する。そのような場合にまで業務執行者の排他的権限に属する一定の行為
を行うための特別受任者を選任できるとすると、業務執行者の法定の権限
に社員が異議を唱えることを認めることになるからである
(66)。
(b)特別受任者の選任につき仮の管理者より緩やかな要件を課す見解
近年の破毀院判決は、会社の運営が比較的正常であり、会社が切迫した
危険にさらされていない場合でも、特別受任者の選任を認める傾向にあ
(65) Cass. com. 10 novembre 2009, op. cit. (note 38). 略式株式会社(SAS, société paractions simplifiée)において、母親が、一部の株式につき完全な所有権を、他の株式 につき虚有権を保有し、同社の社長である息子がその用益権を有していたところ、 母親が息子を解任したため、息子が、所有権の部分移譲が行われた株式を総会にお いて代理し、議決権を行使することを任務とする特別受任者の選任を求めて商事裁 判所に訴えを提起したという事件に関するものである。
る
(67)。
例えば、破毀院第1民事部2012年10月17日判決
(68)は、税務当局の会計
検査において会社を代表するための特別受任者の選任が求められた事件に
おいて、その選任のためには「会社の正常な運営を不可能とし、会社を切
迫した危険にさらしている状況が証明されることが必要である」ことを主
張する破毀申立てを退け、「当事者が対立している状況においては特別受
任者の選任が必要」であり、「会社の現在の業務執行についての包括的な
委任や特定の業務執行行為を行うことについての委任」がなされていない
ことを理由に特別受任者の選任を認めた原審判決を正当としている。
また、破毀院第3民事部2017年5月18日判決
(69)は、特別総会を招集す
ることを任務とする特別受任者の選任が求められた事件において、「切迫
した危険」がなく、「会社の麻痺を生じさせる機能不全」が証明されてい
ないことなどを理由に「仮の管理者」の選任請求を退けた原審判決を、「特
別受任者の選任が求められていたのであり、仮の管理者の選任が求められ
ていたわけではない」ことを理由に破毀している。
学説の多数も、特別受任者の選任につき仮の管理者と同じ厳しい要件を
課す見解に反対する。前述したように、特別受任者は過去の問題を補正す
るために選任されるのであり、将来のため、すなわち将来の会社の危機を
解決するために選任されるわけではない
(70)。また、仮の管理者のように、
会社指揮者に代わってその権限の全部または一部を行使するわけではな
(67) B. Lecourt, op. cit. (note 1), p. 190.(68) Cass. 1e civ. 17 octobre 2012, no 11-23153, Rev. jurisprudence de droit des affaires
2013, no 123.
(69) Cass. 3e civ. 18 mai 2017, no 16-13838, L'Actualité juridique, Droit immobilier 2017,
pp. 789 et suiv. 不動産民事会社の持分の虚有権を与えられた娘が、親である業務執行 者の解任を目的とした特別総会の招集を任務とする特別受任者の選任を請求した事 件に関し、原審は、「仮の管理者の選任請求は、緊急性と、不動産民事会社の運営へ の裁判官の介入を正当化する切迫した危険が存在せず、会社の麻痺を生じさせる機 能不全が証明されず、全部の借入金を返済するための方法が考えられる以上、正当 化されない」と判示していた。
く
(71)、特別受任者の権限はかなり制限されている
(72)。それゆえ、「会社の運
営の異常性」や「切迫した危険」の存在といった、厳しい要件を課す必要
はないという。
それでは、いかなる要件が満たされれば特別受任者の選任が認められる
のか。この点については、特別受任者の選任が強制履行の手段である以
上、会社指揮者がその義務を履行しなかったことを証明するだけで足りる
という見解
(73)のほか、さらに正当な理由(juste motif)の立証が必要であ
るとする見解
(74)が主張されている。
3.本判決の意義
本判決は、特別受任者と仮の管理者が別であるという理解を前提にした
上で
(75)、前者の選任については、後者と異なり、「会社の正常な運営を不
可能とし、会社を切迫した危険にさらしている状況」についての立証が
不要であることを明らかにした
(76)。2009年の商事部判決の見解を否定し、
2012年の第1民事部判決および2017年の第3民事部判決と同様の見解を
採用している
(77)。
さらに、本判決は、①社員間に不和があり、②総会が開催されず、③会
計書類が提供されていなかったことを理由に、特別受任者の選任を認めて
(71) Hovasse, op. cit. (note 1), p. 31 ; Storck, op. cit. (note 1).(72) A. Lecourt, op. cit. (note 1), p. 933. (73) Hovasse, op. cit. (note 1), p. 31.
(74) B. Lecourt, op. cit. (note 1), p. 190. 裁判官が正当な利益を評価する際には、会社の 利益に一致するかを確認しなければならず、会社の利益は、常にあらゆる場合にお いて存在するから、特に請求の動機が個人的な利益のためではないということを確 認しなければならないという。
(75) ただし、本判決は、両者を区別する基準については明確に述べていない。A. Lecourt, op. cit. (note 1), p. 934.
(76) 本判決は不動産民事会社に関するものであるが、その判示事項は他の形態の会社 についても妥当するという。A. Lecourt, op. cit. (note 1), p. 932.
(77) ただし、本判決により破毀院の立場が確定したわけではなく、今後、破毀院商事 部の立場を注視しなければならないことが指摘されている。Storck, op. cit. (note 1).