防災の視点を持つ教員の養成・研修のあり方に向けた基礎的研究 -北海道教育大学附属釧路小・中学校の現地調査を基にした社会科授業実践-
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(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第51号(令和元年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.51(2019):35-45. 防災の視点を持つ教員の養成・研修のあり方に向けた基礎的研究 -北海道教育大学附属釧路小・中学校の現地調査を基にした社会科授業実践- 中 村 有 佐1・細 野 歩2・内 山 隆3・酒 井 多加志3 1. 北海道教育大学附属釧路小学校 2北海道教育大学附属釧路中学校. 3. 北海道教育大学釧路校地域学校教育実践専攻社会科教育実践分野. Study about the teaching material of a natural disaster NAKAMURA Yusuke1,HOSONO Ayumu2,UCHIYAMA Takashi3 and SAKAI Takashi3 1 2 3. Kushiro Elementary School affiliated to the Hokkaido University of Education. Kushiro Junior High School affiliated to the Hokkaido University of Education. Department of Social-Studies Education, Kushiro Campus, Hokkaido University of Education. 要旨 学校における防災教育や防災体制の充実,人材の育成が求められている。しかし,防災教育に関する教員養成および教 員研修,学校現場における防災教育の実践は未だ不十分である。北海道教育大学では,重点分野研究プロジェクト「防災 の視点を持つ教員の養成・研修の在り方検討に向けた基礎的研究」を立ち上げ,上記の課題解決のために調査・研究を行い, その結果を基に人材養成プログラムの構築ならびにプログラムの実践および発信を行ってきた。本稿はこれらの成果のう ち,附属釧路小・中学校での授業実践について報告するものである。なお,授業実践は2018年8月上旬に実施した東北で の東日本大震災に関する現地調査に基づいている。小学校では, 「自然災害に対して,自分たちにできることはなんだろう」 という問いから, 中学校では, 「震災の被害を最小限にするにはどのようにすればよいか」という問いから授業を行ったが, 小・中学校共に「人」に着目することで,これまでよりも児童生徒が自分事として考える姿が見られた。. Ⅰ はじめに 東日本大震災以降,防災研究は特に理工学部を中心に各種自然災害の防止ならびに軽減に関する調査・研究が盛んに行 われている。これら諸研究は自然災害とそれを引き起こす諸要因の解明,自然災害の予知・予測に向けた観測体制の整備, 復旧・復興および防災・減災に向けての土木・建築技術の向上,ハザードマップの整備および見直しなど多岐にわたって いる。日本は災害大国であるが故に,これらの防災研究は世界をリードするものとなっているとともに,専門の研究者・ 指導者の育成にもつながっている。教育に関しても,学校における防災教育や防災体制の充実,人材の育成が求められて いる。しかし,防災教育に関する教員養成および教員研修,学校現場における防災教育の実践は未だ不十分である。その 背景には教員養成系大学・学部には防災教育の専門家がほとんどいないこともあるが,それ以外にも教員養成系大学・学 部自体が防災教育に無関心であったことも要因としてあげることができるであろう。その結果,防災の視点を持つ教員の 養成ができず,学校現場での避難訓練を含む防災教育は旧態依然のままであることが多い。従って,教員養成系大学・学 部は自然災害に対応できない教員を学校現場に送り出すだけではなく,現職教員への研修の機会を提供できていない。こ のことが,東日本大震災時にみられた大川小学校の悲劇を生み出すことに繋がっていると言えるであろう。 2015年12月に出された中央教育審議会の答申では,教員養成段階から採用後の研修も見通した防災教育を含む学校安 全のあり方の検討の必要性が示された。この答申を受け,2017年11月に教育職員免許法と施行規則が改正され,学校安 全への対応の必修化が盛り込まれた。すなわち,この改正により,教員を養成する大学・学部においては,防災の視点を 持つ教員の養成, 防災教育の教材開発が求められるようになった。北海道教育大学では答申が出された翌年度(2016年度) より,重点分野研究プロジェクト「防災の視点を持つ教員の養成・研修の在り方検討に向けた基礎的研究」を立ち上げ, 上記の課題解決のために調査・研究を行い,その結果を基に本学での人材養成プログラムの構築ならびにプログラムの実 践および発信を行ってきた。具体的には,大学カリキュラムにおいては,本プロジェクトの成果を教養科目「子ども・地. - 35 -.
(3) 中 村 有 佐・細 野 歩・内 山 隆,酒 井 多加志 域と防災教育」に反映させ,防災の視点を持った教員の養成を行った。学校現場に対しては,教員免許状更新講習ならび に北海道教育大学附属釧路小・中学校での授業実践を通じて,防災教育の教材提供を行った。そして,地域に対しては, 調査・分析結果を論文として発表するとともに,それらを基に市町村役場・町内会等で講演会や研修会を行った(図1)。 本稿はこれらの成果のうち,附属釧路小・中学校での授業実践について報告するものである。なお,近年,初等・中等 教育の一貫した学びの充実が求められている。各教科教育に関しては小・中の連携が進展しているが,防災教育に関して は小・中において単独で行われており,連携した取り組みはほとんどみられない。本研究は,小・中が連携した防災教育 プログラムの構築をも目指すものとなっている。. 本プロジェクトでの調査・分析 現地調査(北海道・岩手・宮城・福島・山形・岡山・熊本). 防災教育人材養成プログラムの構築 災害についての知識、防災についての思考・判断・実践、 各教科における防災・減災の指導. プログラムの活用(実践・発信). 大 学. 学校現場. 地 域. 防災教育の教材と手法 の開発、教養科目「子ど も・地域と防災教育」で の講義 ⇒ 防災の視点を持った 教員の養成. 調査・分析結果をカリ キュラム化、附属学校 での実践、教員免許 状更新講習 ⇒ 小・中・高等学校へ のプログラムの提供. 調査・分析結果を論文・ 報告書として発信 ⇒ 市町村役場・町内会 等での講演会・研修会. 図 1 防災教育プロジェクトの流れ Ⅱ 附属釧路小学校での授業実践 Ⅱ−1 防災教育の指導案. 社 会 科. 日 時 平成31年2月26日(火) 授業者 中 村 有 佐. 児 童 5年1組 男子17名 女子15名 授業場 5年1組教室. 1 単元名 2.国土の自然とともに生きる (2)「災害とともに生きる」 2 単元について ・小学校学習指導要領解説(平成29年告示)社会の第5学年の内容(5)を扱った単元であり,自然災害は国土の自然 条件などと関連して発生していることや,自然災害から国土を保全し国民生活を守るために国や県などが,様々な対策 や事業を進めていることを理解できるようにすることをねらいとしている。 ・第4学年の内容(3) 「自然災害から人々を守る活動」では,県内などで発生した自然災害を取り上げ,地域の関係機 関や人々による自然災害への対処や備えを通して地域社会について理解を深めてきた。第5学年では,国土において発 生する様々な自然条件を取り上げて,自然災害と国土の自然条件との関連を通して国土の地理的条件を理解し,調べた ことや考えたことをもとに,国土の自然災害の状況を捉え,防災・減災の意識を高めることが大切であることに気付き, 表現できるようにすることを主なねらいとしている。 3 単元の目標と評価基準 (1)単元の目標 日本で起こりうる自然災害と国土の自然条件が深く関わっていることを理解するとともに,災害から命を守る様々な 取り組みについて調べ,自分たちにできる防災・減災の取り組みについて考え,表現することができる。. - 36 -.
(4) 防災の視点を持つ教員の養成・研修のあり方に向けた基礎的研究 (2)単元の評価基準 知識・技能 思考・判断・表現 主体的に学習に取り組む態度 ア 日本で様々な自然災害が発生し,ア 自然災害から暮らしを守るため ア 自然災害から暮らしを守るために それらの発生は国土の自然条件と. に,地域で協力してできることや. どのような取り組みや工夫がなさ. 関係があることを理解している。. 自分にできることについて,調べ. れているのか,国土の環境保全や. また,災害から暮らしを守るため. たことをもとに考え,表現してい. 自然災害の防止の重要性,国民一. に様々な公共事業や地域での協力. る。. 人一人の協力の大切になっている. をもとにした防災・減災への取り. ことを捉え,自己の生活に生かそ. 組みが行われていることを理解し. うとしている。. ている。 4 単元計画(全6時間) ○子供の主な学習活動 □教師の主な働きかけ 子供の思考. 評価. 1 ○日本で起こっている自然災害を調べる活動を通して,自然災害と国土の自然条件との関係について考え 知ア るとともに,自然条件から自分たちの命や暮らしを守るための取り組みについて調べていく見通しをも てるようにする。 ・自分たち一人一人ができることを考えることが大切。 ・防災に関する設備ってどんなものがあるのだろう? ・地域の人とも一緒に訓練をしておくとよいのでは? 資料:東日本大震災(岩手県宮古市)の動画,南三陸町の現在と当時の街並みの様子,釧路地方の大規模 地震の予測結果等 2 ○自然災害から暮らしを守るために「減災」の考え方が広まっていることを捉えるとともに,地域で協力 知ア ・ してできることや自分にできることを考えることができるようにする。 思ア 3 ・防災:防ぐことができないものも多いけど,命があればまたやり直せる。 ・減災:被害をできるだけ減らそうとすることも考えたい。 ・命を守ることが一番大切。 資料:南三陸町,石巻,仙台市等の復興工事の様子 4 ○自然災害から暮らしを守るために,国や都道府県などが,施設の建設や避難場所の決定,周知といった 知ア 様々な公共事業に取り組んでいることを考えることができるようにする。 ・自分でできないこともある。堤防なんて作れないし… ・どんな人が作ってくれているのだろう? ・作っている人に聞いてみたいな。 GT:災害に強く町・道路づくり(釧路開発建設部) 5 ○国土の自然条件と自然災害との関連に着目しながら,災害の発生しやすい我が国においては,日頃から 思ア 防災に関する情報に関心をもつなど,国民一人一人の防災・減災の意識を高めていくことが大切である ことに気付くことができる。 ・自然災害って他にも…雷?火事?洪水?集中豪雨?…などなど ・常にいつ,どんな被害があるかわからない。 ・公助だけでも防ぎきれない「不測の事態」も? ・自然災害に備えて,どんなことができるのだろうか? 資料:復興に向けた取り組み・今後の対策・他の地域の方への期待(南三陸町さんさん商店街会長のお話) 6 ○学んだことをもとに『防災新聞』をつくり,自分の考えを伝え合う活動を通して,日常的な防災意識を 思ア 主ア 高め,自己の生活と関連付けながら表現することができる。 ・今すぐできる,防災,減災の取り組みを呼びかけよう ・自助,共助そして,公助の組み合わせが大切. - 37 -.
(5) 中 村 有 佐・細 野 歩・内 山 隆,酒 井 多加志 5 本時について(1/ 6時間目) (1)本時の目標 我が国で起こった自然災害を調べる活動を通して,自然災害と国土の自然条件の関係について考えるとともに,自然災害 から自分たちの命や暮らしを守るための取り組みについて,調べていく見通しをもつことができるようにする。 (2)本時の展開(1時間目) ○子供の主な学習活動 □教師の主な働きかけ 子供の思考. 評価. 個に応じた指導(▲). ○子供の生活経験や既習内容と関連させながら,我が国の自然条件と自然災害の関連を捉える。 □自然災害ってどのようなものがありますか? ・地震,雷,火事,雨,洪水… □その中でも日本ってどんな災害が多いですか? ・地震。この前を厚真町で地滑りが… ・東日本では津波の被害もひどかったね… ・秋には台風で毎年多くの被害が出ているよ。 □なぜ,日本では,これらの災害が多いのでしょう? ・日本は火山帯だから。 ・海に囲まれた地形だから。 ・山地が多い平らな地形が少ないことも関係しているのでは? ・列島のそばにプレートの境目がある。 ○資料をもとに予測することが難しい自然災害は,日頃から防災の意識を高めることが大切であるこ とに気付き,その中でも「地震」を取り上げ,今の自分たちにできることについて考える。 ☆資料:今後の釧路の地震の発生率 予測不能の自然災害に対して,今わたしたちにできることはなんだろう? □わたしたちにとって何を大切にし,どうすることが 最善 なのだろう? (補発) ・この中で経験したことある人は?・その時どうしましたか? ・その前にどうしていましたか? ・こうしておけばよかったなぁって思うことは? ・それって本当にそうすることが一番正しいのかな? ○実際に震災が起こった様子を見て, 「命を守る」ことの大切さや,難しさに気付き,自分事として, 課題に対する自分の考えともつ。 【ノート】 ・資料をもと に、 「命を守る ため」に調べ ○資料を見た感想をもとに, 「命を守る」 , 「生き残る」ために大切なことについて,どのよう追究して た い こ と や、 いくか,交流をもとに視点を整理する。 防災意識を高 め る た め に、 □資料をみて,どんなことを「考えたい」 「知りたい」「調べたい」と思いましたか? どのようなこ ・自分の意識を高めた行動とはなんだろう? とが大切かに ・施設をどのように使いこなせばよいのだろう? ついて自分の ・近くの人と助け合っていかなければいけない? 考えをノート ・自分だけでなく,周りの命を助けるためどんなことが必要なのだろう? にまとめるこ ・今,自分が考えていることが本当に最善なのか? とができる。 ・避難のために本当に必要なものってなんだろう? ☆資料: 「東日本大震災の様子(2011 年) 」 (北海道教育大学釧路校酒井教授撮影) ☆資料: 「東日本大震災の8年後の今(2018 年 8 月)」(中村撮影). - 38 -.
(6) 防災の視点を持つ教員の養成・研修のあり方に向けた基礎的研究. 写真1 さんさん商店街(宮城県南三陸町) Ⅱ−2 教材化にあたって 小学校学習指導要領解説(平成29年告示)社会の第5学年の内容(5)を扱った単元であり,自然災害は国土の自然 条件などと関連して発生していることや,自然災害から国土を保全し国民生活を守るために国や県などが,様々な対策や 事業を進めていることを理解できるようにすることをねらいとしている。本単元は,自然災害の中から「地震」を取り上 げ,国土の自然条件との関連で,日本の自然災害の様子について捉え表現することをねらいとして教材化を進めた。 取材地:消防博物館(東京都) , 鈴木酒造(山形県長井市),さんさん商店街(南三陸町),大川小学校跡地(宮城県石巻市) , 仙台市,名取市他 Ⅱ−3 実践の経過 単元前半は, 「関東大震災(1923) 」 「阪神・淡路大震災(1995)」「東日本大震災(2011)」など甚大な被害のあった震災 の様子を提示し,自分たちの住む日本で大きな災害が起き,大きな被害があったことを捉えることができるようにした。 当時の様子を記録した映像,写真などの資料を提示することで,被害の様子を数値だけではなく,実感を伴いながら,そ の様子を捉え, 国土の自然条件と関連させたりしながら,見通しをもって自分たちにできることを考えていくようにした。 また,東日本大震災から約8年が経過した現在の被災地の様子を提示することで,復興の難しさ,大変さについても捉え ることができた。さらに, 「北海道南西沖地震(1993)」, 「北海道東方沖地震(1994)」,そして「北海道胆振東部地震(2018)」 といった,自分たちの住む地域でも地震による大きな被害があったことを提示することで,国土の自然条件から考えて, 「地震はいつでも,どこでも起こる」可能性があることを理解することで,災害に対する防災・減災について自分事とし て捉え,考えていく姿を引き出していくことができた。 単元後半では,「人」に着目し,実際にその場にいた方からの聞き取りを行った内容を提示することで,当時の複雑な 思いをより具体的に捉えていくことができるよう,実際に被害にあった人,救助にあたった人など,立場の違いから,様々 な思いがあったことを捉えることができるようにした。 現地調査をもとに動画,写真などで現在の様子を資料提示することで,復興には想像以上に時間がかかること,また, それだけ被害が大きかったことを捉えたり,復興に向けて活動している「人」を資料化することで,復興にかける願いや 思い,二度と同じ被害にあわないために尽力していることを理解したりした。また,釧路開発建設部からゲストティー チャーを招き,町づくりの基礎を担っている「道路づくり」を視点にしながら,災害に強く町づくりを実現しようとして いる「人」の取組や思いに触れることで,それらを「知ること」や「生かした生活を送ること」といった視点で,自分の 生活を見直し,今後に生かしていこうとする姿を引き出していくことができた。 Ⅱ−4 実践から 取り上げた震災について,被害の様子をある程度は理解している児童が多くいたが,特に津波被害の様子については, 実際の様子と児童の認識とのずれが大きく,ショックを受けている児童も多かった。数値だけではなく,「人」に着目し たことで,具体的な様子を捉えることができた成果だと言える。また,現在の被災地の様子を知ることで,被害の大きさ. - 39 -.
(7) 中 村 有 佐・細 野 歩・内 山 隆,酒 井 多加志 と現在も被害に苦しんでいる「人」,復興の大変さ,現在も復興に向けて努力し続けている「人」などを提示することが でき,相手意識をもち,今の自分にできることを考え,表現しようとする姿につなげることができた。その場にいかなく ても, 「正しく理解すること」が,大きな支えの一つになることに気付き,「知る」,「広める」など,今の自分にできるこ とを考える子供の姿も多く見られた。 Ⅲ 附属釧路中学校での授業実践 Ⅲ−1 防災教育の指導案. 社 会 科. 日 時 平成31年2月26日(火) 授業者 細 野 歩. 生 徒 2年A組 男子17名 女子16名 授業場 2年A組. 1 単元名 第3章 日本の諸地域 6 東北地方 2 単元の目標 東北地方に対する関心を高め,東北地方の産業や交通などの地域的特色について理解させた上で,有用な情報を適切に 選択・活用して,東日本大震災が私たちにもたらした教訓について,多面的・多角的に考察し適切に表現し,社会参画の 素地を養うことができるようにする。 3 単元について (1)単元観 2011年3月11日に発生した東日本大震災は,我が国の誰もが経験したことのない大惨事であった。被害や影響は,東日 本だけではなく,全国に及びまさに国難ともいえる大災害である。本校の生徒も,地震を経験し,帰宅困難の状況や学校 の臨時休校,交通網の混乱,計画停電などを経験している。まさに,他人事ではない出来事であった。現在,復興が完全 に為されたかといえばそうではなく,課題も山積している。つまり,私たち一人一人が自分事として考えなければならな い問題となっている。 本単元は, 新学習指導要領の大項目「 (3)日本の諸地域」にあたる。ここでは,①自然環境,②人口や都市・村落, ③産業, ④交通や通信,⑤その他の事象のどれかを中核として考察することが求められている。指導にあたっては,「①∼⑤まで の考察の仕方で取り上げた特色ある事象を,その地域に住む人々の対応などに着目して,他の事象やそこで生ずる課題と 有機的に関連付けて多面的・多角的に考察し, 表現すること。」と示されている。生徒はこれまで,日本の諸地域の学習で, ①∼④を中核として学習を進めてきた。それらを踏まえて今回は⑤にあたる,その地域に見られる地域的特殊性のある社 会的事象,つまり東日本大震災を中核として東北地方を学習していくことが,その地域に生活する人々の結びつきや他の 事象との関連が図られ,生徒の社会認識が深まるのではないかと考えた。 とはいえ,中学生が社会で見られる課題を解決していくことは難しく感じるであろう。しかし,生徒一人一人がその地 域に住む人々に対して思いを馳せ,社会的事象に対する「見方・考え方」を働かせて様々な意見や情報を活用し,自分な りに考え続けていくことは非常に重要なことではないかと考える。 この東日本大震災こそ,生徒一人一人が切実感を持って実感的に捉えることができるものであり,復興に向けた人々の はたらきが見えるものであると考える。現在進行形そして未来にもつながる課題であり,解決が難しい課題ではあるが, 今だからこそ扱わなければならない内容であると考える。 (2)目指す生徒像 社会科が目指す生徒像は, 「社会的事象の意味を主体的に学び,社会認識を深めることができる」姿である。本単元の 中核となる社会的事象「東日本大震災」は,主に理科の「大地の変化」や保健体育科の「傷害の防止」の中の「自然災害 に備えて」と関係が深い。理科では第1学年において,地震発生のメカニズムについて学習しており,保健体育科では第 2学年において防災プランについて学習し,防災マップを作成している。また,小学校社会科では,第5学年の「自然災 害とともに生きる」において,自然災害に強い街づくりについて考察している。これらの学習をふまえて,本単元で目指 すのは,東北地方の地域的特色を理解した上で,地域の復興に向けて,公助(国がすべきこと) ,自助(個人で意識しな ければいけないこと),共助(共に助け合っていこうとすること)だけではなく,人々が希望や生きがいを持って生活を していくことの尊さに気付き,社会参画の芽生えを育んでいくことを目指していく。その態度の育成こそが,社会科で育 んでいかなければならない資質・能力であると考える。. - 40 -.
(8) 防災の視点を持つ教員の養成・研修のあり方に向けた基礎的研究 (3)指導観 本単元における一貫した主体的な学びをつなぐ手立て 未曾有の大惨事であり,国難でもある東日本大震災を教材化することは難しい。その理由として,被害が広範囲に及ぶ こと,原子力発電の問題,見通しの立たない復興への道など,東日本大震災という社会的事象そのものが多面性,多角性 を持つものだからである。そこで,次の3点を教材化の大切な視点として教材研究を行い,社会科の見方・考え方との関 連を図った。 位置や空間的な広がり. 東日本大震災による東北地方の被害の様子「どこで,何が起きて,どのように広がっていった. 時期や時間の経過. のか」 (分布,地域,範囲など) 東日本大震災の前後で東北地方の人々の生活や産業等がどのように変化したのだろうか。(変. 事象や人々の相互関係. 化) 震災にも負けず,立ち上がる人々の姿・思い「絶望ではなく,希望,生きがい」(工夫・関わり) 今の社会に対して,自分に何ができるのか「自分自身の関わり」(協力). 社会科の学習において,生徒たちが身につけた「見方・考え方」を生かして深い学びにつなげていくことが重要である ことは言うまでもない。しかし,そのためには,社会的事象に対して,自分事として関心を持ち,関わり方を考えていく ことが大切である。社会的事象に対して他人事であっては,社会科の目標である公民的資質・能力の基礎を養ったり,社 会参画の態度を育むことはできないであろう。 生徒にとって,学習する内容をより自分事として捉え,課題を追究していくために,本単元では授業者が実際に取材し た内容を取り扱い,その地域に生活している人々の思いや願いが生徒自身に伝わるように指導していきたい。そうするこ とで,生徒が知識の表面的な理解にとどまらず,社会の仕組みの理解や人々の使命感や責任感,地域の誇りなどが対話的 な学びの中ではっきりと出てくることを期待したい。 4 評価規準 (1)知識・技能 東北地方に関する様々な資料を収集し,有用な情報を適切に選択して読み取り,東北地方に関する内容について,その 知識を身につけている。 (2)思考・判断・表現 東北地方に住む人々のこれまでと現在の様子について,様々な視点から課題を見出し,多面的・多角的に考察し,その 過程や根拠を適切に表現している。 (3)主体的に学習に取り組む態度 東北地方に住む人々に対する関心が高まり,それらを意欲的に追究しようとしている。. 5 本時について (1) 本時の目標 震災の被害を小さくする自分なりの方策について交流することを踏まえ,実際に被災した方々の思いを感じ,自分事と して社会に関わっていこうとする態度の素地を養うことができる。. - 41 -.
(9) 中 村 有 佐・細 野 歩・内 山 隆,酒 井 多加志 (2)本時の展開(○発問,△補助発問,□指示・説明) 学習活動 (下位目標). 主な働きかけ 手立て. 【評価方法】 個に応じた指導. 震災の被害を最小限にするには,どのようにすればいいだろうか? 1 本時の目標を確認し,前回,減災に関する自 □震災の被害を最小限にするにはどのようにすれ【発言・付箋紙】 己の考えを思考ツールにまとめたことを踏まえ, ばいいのだろうか,付箋紙に自分の考えを書い ・ 社 会 で 起 き て いる課題に対し 付箋紙を用いて他者と交流し,考えを広げるこ てみよう。 て, 自 己 の 考 え とができる。 を発表する場面。 〈公助に関する方策〉 □それぞれの考えは,自助,公助,協助のどれに ・自分たちには作れない強い防波堤を国が作る。 【発言・WB】 あてはまるだろうか,グルーピングしてみよう。 ・原子力発電に頼らない発電を行っていく。 〈自助に関する方策〉 ・防災グッズを用意する。 ・家具を固定し,簡単に倒れないようにする。 ・避難のシミュレーションをしておく。 〈共助に関する方策〉 ・ハザードマップを作成する。 ・避難ルートを住民全員が確認しておく。 〈阿部さんが考えたもの ・・・〉 ・防波堤じゃないかな。 ・う∼ん,見当も付かないな。. ○君たちが考えたことを行ってさえいれば,被害 ・一面的に捉え は最小限になるのだろうか? □資料を提示(実際に被災した方から取材した て い た も の か ら 発想を転換させ, 内容) 多面的に捉えよ 最小限にするために、必要なのは ・・・ うとする場面。 (A)生き甲斐= ? (山形県長井市鈴木酒造 鈴木さん). 実際に被災した方々は、震災の被害を最小限にするために,何が必要と感じたのだろうか? 2 実際に被災した方々の意見を踏まえ,震災を(B)周りとの協力= ? 最小限にするために,本当に必要なことは何か(宮城県気仙沼漁協組合 本郷さん) を自分事にとらえようとして,追究することが(C)心の支え= ? (岩手県山田町婦人会会長 阿部さん) できる。 ・それぞれ違う場所にいても,同じ事を考えていたのか な。 ・誰にとっても必要なことって何だろう。 ・水,食料など,生きていくために必要なものじゃない かな。 ・目に見えないものじゃないかな。. △(A)∼(C)の方々は、何が必要だと感じ たのだろうか? ○3人に共通していることは何だろうか?. 【発言】 社会で見られる 課 題 に つ い て, ○これまでの自分の考えと,今の気持ちは全く 自 分 事 に 捉 え, 3 これまでの学習を振り返り,自分が考えてき 同じかな?これまで学習したことを踏まえ, 追究しようと参 た過程や根拠の拠り所になった視点を振り返る 自分の考えに補強されたり,新たな発見が 画していく場面 ことができる。 あったりしたことを記入してみよう。 I 自己の考えを表 ・これまではものを揃えれば被害は小さくなると考えて 現 す る こ と で, いたが,実際に被災した方々の声を聞いて,自分が元 社会参画の素地 気にならなければ被害を小さくすることができないの を養いたい。 だと感じた。 ・自分の考えは前と変わらないが,3人のような方々の 考えも必要なのだと思った。 ・これまでの自分の考えと比較して,人の生き甲斐は大 切なのだと感じた。. - 42 -.
(10) 防災の視点を持つ教員の養成・研修のあり方に向けた基礎的研究. 写真2 鈴木酒造(山形県長井市) Ⅲ−2 研究の成果と課題 「防災の視点を持つ教員の養成・研修のあり方に向けた基礎的研究」の授業研究を行うことで,東日本大震災の「防災」 の事例について分析・比較することが可能となった。本研究では,東北地方の3つの町の事例についての聞き取りにとど まったが,現地の方々の思いを直接聞くことができたことは大きな成果と言える。東日本大震災という教材の強さを改め て感じることができた。今後さらに多くの事例の分析を進めたい。各地方・地域の事例を分析し,授業作りに生かしてい きたいと考える。 課題としては,あくまで一単元の授業実践にとどまってしまい,他教科との横断的な視点や,資質・能力の育成のため に体系的なプログラムを構築できなかった点が挙げられる。今後,防災の視点から社会科の教科目標に近接ができるよう, 研究を進めていきたい。. 写真3 附属中学校での授業の様子(2019年2月26日撮影). - 43 -.
(11) 中 村 有 佐・細 野 歩・内 山 隆,酒 井 多加志 Ⅳ おわりに Ⅳ−1 聞き取り調査から明らかになったこと 今回,附属釧路小・中学校で授業実践を行うにあたり,中村(附属小),細野(附属中),内山(釧路校)で2018年8月 上旬に東北調査を実施した。主な訪問先は,山形県長井市鈴木酒造の鈴木大介氏(福島原発の被災により福島県相馬市か ら移転) ,岩手県南三陸町さんさん商店街会長阿部忠彦氏である。 聞き取り調査を通して,東日本大震災がいかに甚大な被害をもたらしたかということを改めて認識するとともに,そこ からの復興が様々な面で困難を強いられていることも確認した。 鈴木酒造では,原発事故による放射能汚染で酒造りに必須の水が得られなくなり,山形県長井市への移転を余儀なくさ せられた。相馬市で消防団員だった鈴木氏は,津波による被災の救助活動にも関わり,親しかった方を失うなどの体験を しながら,移転して酒造を続けておられる。そこには,地元相馬市の方々の祝いの場に自ら丹精した酒を届けたいとの思 いがあり,地元の方々もそれを熱望しているという深い関係性がある。 南三陸町のさんさん商店街は2012年2月に仮設オープン,震災から5年後の2017年3月に本設オープンした。かつての 町の中心地に8.3mかさ上げした高台の造成地,志津川地区に,湾を見渡す形で南三陸杉を使用した平屋6棟が建ち,飲食 店や鮮魚店等28店舗が入っている。商店会長の阿部氏から,復興への道のりと熱い思いを伺ったが,その一方で商店街 の当事者の方々の思いと実際のギャップを生むシステム上の問題点も知ることができた。 鈴木酒造の事例は, 総合的な学習等の探究的な授業開発につなげられる可能性があり,南三陸さんさん商店街の事例は, 政治学習としての教材開発への可能性がある。 Ⅳ−2 震災の復興に立ち向かう「人」に焦点を当てた授業開発 今回,小学校・中学校共に,授業実践で柱として位置付けたのは「人」である。 小学校では, 「自然災害に対して,自分たちにできることはなんだろう」という問いから,被害にあった人,救助に当たっ た人,復興に向けた活動をしている人等の聞き取りをもとに資料化し,多角的に追究できるようにすることで,被害の大 きさや復興に時間がかかること,復興への願いや思いを捉えることができた。児童の発言やノート記述からは,北海道胆 振東部地震(2018)の経験をもとに,災害時に必要なものとして,「食料や水,電気,熱源等の確保が必要」といった, 避難後に必要な物を確保することが大切という考えが多かったが,東日本大震災の映像,救助にあたった「人」 ,復興に 向けた活動をしている「人」に着目し,その思いや願いを想像する中で,「まずは命を守ること」が大切という根本的な 考えに立ち返り,改めて今の自分たちにできることを考え,表現しようとする子供の姿が多く見られた。また,聞き取り 調査をもとに復興に向けて活動している人のお話を聞いた際,多くの方の期待が支えになっていることを知ると,遠くか らでもできる支援があることに気付き, 「知る」 「広める」「教訓にして自分の生活に生かす」などと視点を広げ,考えを 表現する姿も見られた。 中学校では,「震災の被害を最小限にするにはどのようにすればよいか」という問いから,被災した山形県長井市鈴木 酒造の鈴木さん, 宮城県気仙沼漁業組合の本郷さん,岩手県山田長婦人会長の阿部さんの意見を踏まえて授業を実践した。 生徒からは,「震災を直接経験していない私たちにとっては,水や食料など,生活のために必要な『モノ』を支援するこ とが必要だと考えていたが,授業を受けて, 『生きがい』や『助け合うこと』などが必要だと言うことに気付くことがで きた」「阿部さんの話には,耕耘機や犬など,自分にとっての生きがいが何よりの支えになるという話が印象に残った。 私たちはいつ,どこで災害が起きるかは分かりませんが,誰かの生きがいの支えとなれるよう,できることをやっていき たいと思った」のように,自らの考えを問い直す姿が見られ,深い学びにつなげることができた。 Ⅳ−3 今後に向けて 今回の授業実践では,小・中学校共に「人」に着目することで,これまでよりも児童生徒が自分事として考える姿が見 られた。新学習指導要領における小・中一貫の社会科カリキュラムとしてのつながりについて,育てたい資質・能力の視 点から検討していきたい。 また,防災教育プログラムとしての枠組みをどう構想して小・中一貫カリキュラムを構築するか,今後の課題としたい。. - 44 -.
(12) 防災の視点を持つ教員の養成・研修のあり方に向けた基礎的研究 [謝辞] 現地調査にあたり,株式会社鈴木酒造店長井蔵の鈴木大介様,南三陸さんさん商店街の阿部忠彦様にはお世話にな りました。記して感謝いたします。 [付記] 本稿は第Ⅰ章を酒井多加志が,第Ⅱ章を中村有佐が,第Ⅲ章を細野歩が,第Ⅳ章を内山隆が担当した。なお,本稿 を作成するにあたり,平成30年度学長戦略経費(重点分野プロジェクト) 「防災の視点を持つ教員の養成・研修の在り方 検討に向けた基礎的研究」を使用した。. - 45 -.
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