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中国人日本語学習者に対する「テイル」の指導法の提案

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(1)Title. 中国人日本語学習者に対する「テイル」の指導法の提案. Author(s). 阿部, 二郎(札幌); 李, 洪旭. Citation. 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編, 66(1): 31-46. Issue Date. 2015-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7837. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第66巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Humanities and Social Sciences)Vol. 66, No.1. 平 成 27 年 8 月 August, 2015. 中国人日本語学習者に対する「テイル」の指導法の提案 阿部 二郎†・李 洪旭†† †. 北海道教育大学札幌校日本語教育研究室 ††. 哈爾濱師範大学東語学院日本語学部. Proposal on Teaching“-teiru”Form to Chinese Learners of Japanese ABE Jiro* and LI Hong-xu** *. Department of Teaching Japanese as a Foreign Language, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education **. Department of Japanese Linguistics, Harbin Normal University. 概 要 日本語教育において,アスペクトを表す「テイル」は重要な学習項目の一つであるが,「テ イル」は中国語母語話者にとって習得しにくいと言われている。そこで,本稿では中国人日本 語学習者による「テイル」の習得を阻害すると考えられる原因を踏まえ,中国語話者を対象と した「テイル」の効果的な指導法を考案する。具体的には,「テイル」の使用における中国語 の母語干渉と中国における「テイル」の指導上の問題を取り上げ,それらを踏まえて, 「テイル」 の指導を,アスペクトに基づく日本語の動詞分類の導入と,中国語の「了」「着」「过」との対 応関係の提示という2段階に分けて行うことを提案する。. 1.はじめに 日本語と中国語のアスペクト体系の異同は重要な研究課題であり,日中アスペクト対照研究も数多く見ら れるが,日本語教育においても両言語のアスペクトの異なりが重要な課題となっている。実際に,中国語母 語話者が「テイル」を使うときには,ある程度共通した誤用が見られる。これは,両言語のアスペクト体系 が異なることに加え,中国における日本語教育の現場において,その異なりに配慮した指導が十分行われて いないことにも起因すると考えられる。そこで本稿では,まず,先行研究から中国人日本語学習者の「テイ ル」に関する誤用を確認し,次に, 「テイル」と中国語のアスペクト表現との対応関係を概観する。さらに, 現在中国で主に使用されている教科書・教材の「テイル」に関する内容や指導内容を検討し,それらを踏ま えて,中国人学習者に対する「テイル」の効果的な指導法を提言する。 本稿の構成は以下のとおりである。第2節では先行研究を参照し,中国語話者に頻出する「テイル」の誤 用を確認する。次に,日本語の「テイル」と中国語のアスペクト形式「了」「着」「过」の対照分析を扱った. 31.

(3) 阿部 二郎・李 洪旭. 先行研究を参照する。第3節では,中国語話者による「テイル」の母語干渉について,アスペクト形式ごと に整理する。第4節では中国語話者を対象とした日本語教材を概観し,その問題点を論じるとともに,それ らの教材に則った「テイル」指導上の問題点を検討する。第5節では,「テイル」の指導法を提言する。第 6節で結論を述べる。. 2.先行研究 2.1. 「テイル」の誤用 張麟声(2001)は中国語を母語とする学習者に見られる「テイル」の誤用,あるいは不必要な回避のパター ンを以下のようにまとめて指摘している。 ① 動作の進行1を表す「ている」の不使用 例: 彼は毎日ジョギングします。(「彼は毎日ジョギングしています。」型を回避。) 私は昨日午前9時から午後5時まで本を読みました。 (必要な場合も「私は昨日午前9時から午後5時まで本を読んでいました。」型を回避。) ② 状態の持続を表す「ている」の不使用 例: 桜の花が落ちた。(「桜の花が落ちている」型を回避。) 靴下が破れた。(「靴下が破れている」型を回避。) ③ 効力の持続を表す「ている」の不使用 例: あなたが結婚する時には妹ももう大学を卒業したよ。 (正:あなたが結婚する時には妹ももう大学を卒業しているよ。) ④ 経験を表す「ている」の不使用 例: 先週から図書館に行ったことがない。 (正:先週から図書館に行っていない。) また,庵(2010)は中国語話者の「テイル」の誤用について以下のようにまとめている。 ① 中国語話者にとって,結果の状態のテイル形は習得しにくい。 ② 一般の変化動詞の場合,中国語話者は結果の状態のテイル形の代わりにタ形を使う傾向がある(その結 果,誤用になることが多い)。 例: あっ,茶碗が割れた。(正:あっ,茶碗が割れている。) あそこのペンキ,はげたよ。(正:あそこのペンキ,はげているよ。) ③ 移動を表す動詞で「存在型」の場合,中国語話者は結果の状態のテイル形の代わりに「ある/いる」を 使う傾向がある(その結果,誤用になることが多い)。 例2:  あなたが友達と道を歩いていたら,前に……(財布が落ちている絵) あ,財布があるよ。(正:あ,財布が落ちているよ。). 1  「彼は毎日ジョギングしています。」は典型的な動作の進行ではないが,張麟声(2001)は点的動作の集合が疑似的な線 的動作とみなされるという観点から,この例も「動作の進行」に分類している。 2  この誤用例は陳昭心(2009)による調査に基づいている。. 32.

(4) 中国人日本語学習者に対する「テイル」の指導法の提案. 以上の「テイル」の誤用分析に関する先行研究から,中国語話者は「テイル」の特定の用法に関して,使 用頻度が低いことが分かる。中国語話者の「テイル」の誤用は大きく以下の三つのパターンに分けられる。 ① 結果の状態の「テイル」の誤用(主に結果の状態の中の「結果の残存」と「非可逆的変化の結果」が誤 用される。この二つの「テイル」は中国語で「了」に訳される。) ② 反復・習慣の「テイル」の不使用 ③ 経歴の「テイル」の不使用 中国人学習者によるこれらの誤用は,学習者の母語である中国語による干渉が原因の一つであると考えら れる。そこで,次に日本語と中国語のアスペクトの対応関係に関する先行研究を参照する。 2.2.日本語の「テイル」と中国語の「了」「着」「过」の対照分析 日本語と中国語のアスペクト形式の対応関係については,これまで多くの論考が発表されているが,それ らは特に「タ」と「了」の対照に着目する傾向がある3。これは両者に類似点が多いことに起因すると思われ るが,実際には「タ」のほかに「テイル」が「了」と対応する場合も少なくない。また, 「テイル」は「着」 「过(過) 」ともよく対応する。そこで,本論文は「テイル」と「了」「着」「过」の対応関係に言及してい るものに焦点を当てる。 彭飛(2007)は「テイル」と中国語の対応関係について以下のように述べている。 日本語の「V+テイル」構文の中国語への訳し方には,少なくとも次の表1のようなパターンが見られ る4。 表1. 日本語の「~テイル」 中国語での対応表現(日本語例の訳) A類. 死んでいる. →了(死了). B類. 本を読んでいる. →在,着,正在,在~着(在看书/看着书/正 在看书/正在看着书). C類. 前に一度結婚している →过(结过一次婚). D類. 持っている. E類. 不注意から起きている →的(不注意而引起的). →“着” “在” “了”を用いない(有). 以下に彭飛(2007)によるA類~E類の説明の要約を示すが,これらは日本語から中国語へ訳す時の観点 から書かれているため,中国語から日本語へ訳す際の留意点も補足する。 A類の「テイル」は「始まっている」 「終わっている」「乾いている」「壊れている」のように,瞬間動詞 に「テイル」が後接し,結果の状態を表すものである。これらは中国語では“开始了”“结束了”“干了”“坏 了”のように基本的に【V+了】構文で表現される5。ただし,逆に【V+了】構文を日本語に訳す場合は, 上述したように常にこの構文が「テイル」に訳されるわけではなく,むしろ「タ」と対応する場合が数多く. 3  張麟声(1985),張継英(2000),張金艶・谷守正寛(2006) ,侯仁鋒・冶文玲(2010)など。 4  彭飛(2007:288) 5  「結果の残存」の中には一部【V+着】構文で表されるもの(状態の持続)もある(彭飛2007:293) 。. 33.

(5) 阿部 二郎・李 洪旭. ある点に注意が必要である。 B類は主に「読んでいる」「食べている」 「見ている」のように継続動詞に「テイル」が後接し,動作の継 続(進行中)を表すものである。これらは中国語では【在+V】構文と【V+着】構文の両方が対応し得る。 たとえば, 「雨が降っている」は“在下雨” “下着雨”のいずれでも表すことができる(【在+V+着】構文 も用いられる) 。また, 「座っている」 (坐着)のような結果状態の維持や,「そびえている」(耸立着)のよ うな第4種の動詞の場合もB類の対応関係となる。 C類は「彼は悪事を働いて,一度捕まっているよ」「この機械は一度壊れている」「何回も受賞している」 など,様々な動詞に「テイル」が後接して「経験」「経歴」を表すものである。これらは中国語ではそれぞ れ“他做了坏事,被捉到过一次” “这机器坏过一次”“得过几次奖”のように【V+过】構文で表される。た だし, 【V+过】構文を日本語に訳す時は「テイル」のほかに「タコトガアル」を用いることができる点に 注意が必要である。 D類は【在+V】 【V+着】 【V+了】 【正在/正+V】などの構文を用いないパターンである。これらは「筋 が通っている」 (合情合理/通情达理/合条理)「毎年,交通事故で1万人以上死んでいる」(每年,有一万多 人死于交通事故。) 「今朝きちんと食べている」 (今天早上吃得很饱/吃的很好)などが例として挙げられるが, 動きの時間的局面を表すというアスペクトの基本的な用法というより,派生的な用法というべきものが多く 見られる。 E類は何らかの原因で事件が起こったこと,またどんな状況で起こったかを相手に伝える場合,説明する 場合に多く用いられる。. 3.「テイル」の誤用につながる母語干渉 2.1節で見られた誤用の要因の一つとして,学習者による母語干渉が考えられる。ここでは,2.2節 で見た対応関係に基づき, 「テイル」の使用を阻害する母語干渉にはどのようなものがあるのかを確認する。 ここでの母語干渉の多くは先行研究によって指摘されているものであるが,以下では「テイル」と中国語と の対応関係という視点から整理していく。 3.1. 「了」=「タ」 彭飛(2007)のA類は「テイル」と「了」の対応関係であったが,「了」には多くの用法が存在し,日本 語との対応関係も複雑である。 「了」は事態の完成や実現に焦点が置かれることが多く,日本語の「タ」と 対応しやすい。 (1) 我刚写好了一封信。(私はちょうど手紙を一通書き終えたところだ。) (2) 十月的一天中午,我们参观了一个幼儿园。(十月のある日の午前中に,私たちは幼稚園を見学した。) (1)は「手紙を書く」という事態が発話時に完成したこと,(2)は「見学」という事態が過去におい て実現したことが,それぞれ「了」によって表されており,いずれも日本語の「タ」と対応している。こう したことから,中国語話者は「了」=「タ」であると認識する傾向がある6。 ここから,A類において特に中国人学習者が混乱する傾向があり,誤用となる場合もある。たとえば, “你 6  庵(2010)の指摘する誤用傾向がその証左である。. 34.

(6) 中国人日本語学習者に対する「テイル」の指導法の提案. 结婚了吗”を日本語で「結婚したのか」と訳す学習者が多いのがその代表的な例である7。日本語では,変化 の時点と変化の結果状態を「タ」と「テイル」で区別する。一方,中国語にはそうした区別が無く,いずれ も「了」で表される。中国語の“你结婚了吗”は変化の時点(結婚)と変化の結果状態(既婚)の両方を表 し得るが,日本語においては,変化の結果状態に焦点が当たる場合は「テイル」を用いなければ不自然とな る。また,次節に見るように「テイル」は主に「在」「着」と対応し,「了」とは対応しないと考える学習者 が存在することも考えられる。 3.2. 「在」 「着」=「テイル」 「在」は基本的には「みんなはサッカーをしている」 (大家在踢足球)のように動作の進行(継続)を表し, 「着」は「机の上にラジオがおいてある」 (桌子上放着收音机)のように主に動作または状態の持続を表す。 ただし,両者の境界が明確でない場合もあり,B類ではそれを反映して日中両言語の対応関係が曖昧となっ ている。いずれにしても, 「在」と「着」が用いられる場合は,日本語では形の上では「テイル」となるこ とが多いため,誤用は少ない。その一方で, 「在」「着」が「テイル」とよく対応するがゆえに,「テイル」 =「在」 「着」と認識する(つまり,中国語で「在」「着」を用いない場合は日本語でも「テイル」を用いな いと認識する)中国人学習者が見られる。たとえば,中国語で日本語の瞬間動詞に相当するものには「在」 「テイル」=「在」 「着」という認識から日本語の瞬間動詞にも「テイル」が付かな 「着」が付かないため8, いと判断することになる。その結果,A類における「テイル」の不使用につながる。 また,動作の進行の「テイル」は,動作が時間的な幅を持っている場合や,動きが繰り返される場合も用 いることができるが,中国語では動作の不連続な繰り返しは動作の継続とみなさないため「在」は用いられ ない9。 (3) 彼はご飯を食べています。 (4) 他在吃饭。 (3′ ) 彼は毎日7時にご飯を食べています。 (4′ ) 他每天七点(*在)吃饭。 日本語において, 「テイル」の反復の用法は,多くの場合,動詞基本形「スル」の習慣用法と交替が可能 である。 (5) 彼は毎朝7時にご飯を食べている。 (6) 彼は毎朝7時にご飯を食べる。 両者に解釈の差が全く無いわけではない10が,ほとんどの場面ではそのような微細な解釈の差は問題とな. 7  彭飛(2007) 8  ここでは彭飛(2007:288)の記述を援用しているが,より厳密には,結果が残像するタイプの瞬間動詞に「着」が付か ない。瞬間動詞であっても「座る」「立つ」のように結果が維持されるタイプには「着」が付く。 9  張麟声(2001:138) 10 寺村(1984)は両者の差について次のように論じている。 ~テイルが表わしている現在の習慣というのは,発話時以前のある時に始まって,それが発話時に終わらずにつづいて いる(が,いずれ終わる)という風に理解される習慣である。 (中略)これに対し,基本形による習慣の表現には「あ. 35.

(7) 阿部 二郎・李 洪旭. らず,誤用が生じにくい11。ここから一見, (初級の段階では)反復の「テイル」の学習の必要性は高くない ようにも思われる。しかし,次のように,人の身分や職業,店や会社の業務内容等を紹介するような特定の 場面では,反復の「テイル」の使用がほぼ義務的となる。 (7) (自己紹介の場面で)私は北海道教育大学で日本語を 教えています/?教えます。 (8) トヨタはどんな会社ですか。 ――トヨタは日本の会社です。車を 作っています/?作ります。 中国語では以上のような場面であっても「在」「着」などのアスペクト表現を用いないため,「テイル」の 不使用につながる。 3.3. 「过」=「タコトガアル」 C類に見たように経験を表す「过」は,日本語の経験・経歴用法の「テイル」と対応するものであるが, 実際には張麟声(2001)の指摘する通り,学習者には「テイル」の不使用が見られる。その原因の一つとし ては,先に見た「テイル」=「在」 「着」という認識が考えられるが,母語干渉のほかに学習上の転移も指 摘されている。すなわち,学習項目として先に「タコトガアル」が導入され,経験の「テイル」と「タコト ガアル」との違いが説明されないことに経験の「テイル」不使用の原因がある12。確かに「过」は「タコト ガアル」にも対応し得るが, 「タコトガアル」は近い過去の経験を表すことができないため,経験の「テイル」 不使用の学習者は次の(9b)のような誤用を生じやすい。 (9)a. あの店は昨日も行っています。 b.?あの店は昨日も行ったことがあります。 なお,これとは逆に「タコトガアル」だけが用いられ, 「テイル」が用いられない場合もあるが13,中国人 学習者の場合,まずは「テイル」の不使用が問題となるため,ここでは取り上げない。 以上をまとめると,以下のようになる。 ① 中国人学習者は「テイル」の不使用による誤用が多い(過剰使用は少ない)。 ② 「了」=「タ」という認識から,「了」が「テイル」に対応する場合にも「テイル」を使用しない。 ③ 「在」 「着」=「テイル」という認識から,中国語で「在」「着」が用いられない場合は「テイル」を使 る以前に始まった」という意識もないし,また「いずれそのうち終わる」という感じもしない,ただあることが規則的 にくり返し行われることを述べているにすぎない。 (寺村1984:129) 11 張麟声(2001)は「彼は毎日七時にご飯を食べているから,その時間帯には絶対電話しないで。 」という例を挙げ,この 場合は「スル」よりも反復の「テイル」が用いられるとしている。しかし,この場合の「電話する」は「ご飯を食べる」反 復動作の特定の1回の動作の継続中という解釈となるため,進行中の「テイル」に解釈が近づいた結果, 「スル」が用いに くくなっているものと考えられる。 12 張麟声(2001:145) 13 日本語記述文法研究会(2003)に以下の記述がある。 「ことがある」が単に経験を表すのに対し,シテイル形はその出来事が経歴として意味がある場合に用いられる点が異 なる。次の例のような経歴として有意味とは考えにくい出来事の場合,シテイル形は不自然になる。 ・私は以前ドリアンを{食べたことがある/?食べている} 。. 36. (ibid:60).

(8) 中国人日本語学習者に対する「テイル」の指導法の提案. 用しない。 ④ 「过」=「タコトガアル」という認識から,「タコトガアル」が不自然となる場合でも「テイル」を使 用しない。 ここまでは, 「テイル」の誤用につながる母語干渉について整理した。次節では中国語話者を対象とした 日本語教材を概観し,それらの教材に則った「テイル」指導上の問題点を検討する。. 4.中国語話者を対象とした日本語教材と指導法の検討 4.1.中国語話者を対象とした日本語教材に見られる「テイル」の説明と問題点 中国語話者を対象とした日本語教材は『新编日语』 (以下『新編日本語』と表記) 『标准日本语』 (以下『標 準日本語』と表記)などがよく使われている。以下では,事例として二つの教科書の中での「テイル」につ いての説明を概観する。 『新編日本語』は上海外国語教育出版社によって出版されたもので,4冊あり,初級と中級段階で使われ ている。 『新編日本語 改訂版 第一冊』では,「テイル」について以下のように説明されている。(日本語 訳は筆者によるもの) 动词持续体(動詞持続体) ある人は歌を歌っています。 二週間ほど国へ帰っていました。 今は働いていませんが,前はスーパーで働いていました。 动词持续体的意义(動詞持続体の意義) 一般接在表示具体动作的动词后面时,动词持续体表示正在进行的动作(如「歌っています」),或经常, 反复进行的动作。除此之外则表示某种状态或动作结果的存续(如「帰っていました」)。 (通常, 具体的な動作の動詞の後ろに接続し,動詞持続体は進行中の動作(たとえば「歌っています」), あるいはいつも,反復の動作を表す。これ以外はある状態あるいは動作結果の存続(たとえば「帰って いました」 )を表す。) 次に, 『標準日本語』は人民教育出版社によって出版されたもので,6冊ある。『標準日本語 初級上冊』 では, 「テイル」について以下のように説明されている。(日本語訳は筆者によるもの) …ています “…ています”大致分为两种,一是表示动作的进行,二是表示状态的持续。一般地讲,接在表示具体动 作的动词后面,表示动作的进行,除此之外则表示状态的持续。 ( 「~ています」は大体二種類に分けられる。動作の進行中と状態の持続を表す。通常,具体的な動詞 の後ろにつき,動作の進行中を表し,それ以外は状態の持続を表す。) ・王さんは 新聞を 読んでいます。 上句表示动作的进行。 (上の文は動作の進行中を表している。) ・王さんは 東京に 住んでいます。 上句表示状态的持续。但有些动词二者兼顾,所以仍须根据其他句子成分或上下文的关系来判断。 (上の文は状態の持続を表している。しかし,ある動詞は両方とも兼用するので,文の成分あるいは文 脈によって判断しなければならない。) 以上の二つの教科書を概観したが,両者の「テイル」についての説明は十分であるとは言えない。問題点. 37.

(9) 阿部 二郎・李 洪旭. をまとめると以下のとおりである。 ① 例文が用法によって分けられていない。 ② 「テイル」の結果の用法に関して詳しく説明されていない。 ③ 「テイル」の用法が完全には説明されていない。たとえば,『標準日本語』は「テイル」の反復の用法 を提示していない。また,両者とも経歴の用法に言及していない。 一方,日本語教師と日本語学習者を対象とした参考資料の一つとして『日本語文型辞典』がある。本辞典 はくろしお出版で,中国語にも翻訳され,中国語話者の日本語教師と日本語学習者に広く用いられている。 そこで,中国語版の『日本語文型辞典』を概観する14。 【ている】 1V-ている<动作的持续> 正…着,正在…。15(<動作の持続>) (1) 雨がざあざあ降っている。/雨正哗哗地下着。 (2) わたしは,手紙の来るのを待っている。/我正等着来信呢。 (3) 子供たちが走っている。/孩子们正在跑步。 2V-ている<动作的结果> 已…了。(<動作の結果>) (1) 授業はもう始まっている。/课已经开始了。 (2) せんたくものはもう乾いている。/晾晒的衣服已经干了。 (6) 今5時だから,銀行は,もうしまっている。/现在已经5点了,所以银行已经关门了。 3V-ている<动作的反复>(表示频繁,反复出现或发生)。(<動作の反復>(頻繁さ,出現や発生の 繰り返しを表す) (1) 毎年,交通事故で多くの人が死んでいる。/每年都有很多人死于交通事故。 (2) いま週に一回,エアロビクスのクラスに通っている。/现在,我每周去一次健美操训练班。 (3) この病院では毎日二十人の赤ちゃんが生まれている。/每天有二十个婴儿在这家医院里出生。 16 (<経歴>) 4V-ている<经历>以前…,曾经…。. (1) 調べてみると,彼はその会社を三カ月前に辞めていることがわかった。/一调查,才知道他三 个月以前就辞去了这家公司。 (2) わたしは,十年前に一度ブラジルのこの町を訪れている。だから,この町を知らないわけでは ない。/我十年前曾到过巴西的这个城市。所以我并不是不了解这个城市。 (3) 記録をみると,彼は過去の大会で優勝している。/从过去的记录来看,他曾在过去的运动会上 取得过冠军。 (4) 北海道にはもう3度行っている。/北海道我已经去过3次了。 5V-ている<动作的完成>已经…了。(<動作の完成>) (1) 子供が大学に入るころには,父親はもう定年退職しているだろう。/等孩子上大学的时候,父 亲都已经退休了吧。. 14 例文は原典から一部抽出した。例文番号は原文の通り。また,下線は筆者によるもの。 15 「正」 , 「正在」は副詞で,動作の進行や状態の持続を表す。 「着」は動作の進行状況を状態的に表す。一方, 「在」のはた らきは動作の進行を動きとして叙述することにあり,状態として表すわけではない。 16  「以前」と「曾经」と最後の例の「已经」は時間を表す副詞で,過去に起こった動作行為や状態を表す。. 38.

(10) 中国人日本語学習者に対する「テイル」の指導法の提案. 6V-ている<单纯的状态>(表示状态)。(<純粋な状態>(状態を表す)) (1) ここから道はくねくね曲がっている。/从这里开始道路弯弯曲曲的。 (2) 北のほうに高い山がそびえている。/北面耸立着高山。 (3) 日本と大陸はかつてつながっていた。/日本曾经与亚洲大陆相连。 (4) 先がとがっている。/头上尖尖的。 (5) 母と娘はよく似ている。/母女俩长得很像。 以上が,中国語版の『日本語文型辞典』における「テイル」についての記述である。用法によって明確に 分けられている点は良いが,<動作の結果>の説明が十分でなく,中国語で「了」を用いる場合,「タ」を 用いるべきか「テイル」を用いるべきかが分からない。 4.2.教材内容に則った「テイル」の指導上の課題 先に見た中国人学習者を対象とした教材の内容を踏まえると,これに則る従来の「テイル」についての指 導には,以下のように四つの課題が考えられる。 ① 「テイル」の進行中の用法が動きとして扱われる 「テイル」は教科書では「動詞持続体」と呼ばれることがある。こうした名称が用いられるのは,アスペ クトが動きの時間的局面の取り上げ方を表す文法カテゴリーであることによると考えられる。しかし,この ような呼称は, 中国人学習者に「テイル」が動きを表すかのような誤解をもたらす可能性がある。実際には, 「テイル」の基本的な意味は動きを状態として表すものである。「進行中」「結果」「経歴」の用法はどちら も「テイル」が表す状態に含まれる。したがって,「テイル」の指導においては動きを表わす動詞が状態を 表すようになるという点を強調しつつ,各用法の説明をすべきである。 ② 「テイル」の結果の用法の説明が不十分 「テイル」の結果の用法は「結果の維持」「結果の残存」「非可逆的変化の結果」に分けられる。教科書に 見られる「状態あるいは動作結果の残存」という説明だけでは,十分ではない。特に中国語話者が「テイル」 の結果の用法において誤用を生じる傾向があるので,この用法に関して,より詳しく説明する必要があると 考えられる。 ③ 「テイル」の反復の用法 「テイル」の反復用法と動詞基本形の習慣用法の区別が十分になされていない。その結果,学習者が「テ イル」の代わりに動詞基本形を使う傾向がある。3節でも述べたように,「テイル」の反復用法の多くは不 使用でも誤用となりにくいものの, 「私は北海道教育大学で日本語を教えています」のように「テイル」を 用いるべき一部の場面では問題が生じる。 ④ 「テイル」の経歴の用法 教科書で「テイル」の経歴の用法にほとんど触れていない。. 5.「テイル」の指導法の提言 本稿では中国語話者に対する「テイル」の指導法を二つの段階に分けて提言する。第一段階は学習者に初. 39.

(11) 阿部 二郎・李 洪旭. めて「テイル」について教えるときであり,第二段階は学習者がある程度の日本語知識を身につけた後であ る。 5.1.第一段階 第一段階ではアスペクトに基づいた動詞の分類の導入と「反復」の用法の導入を行う。「テイル」を指導 するにあたり,アスペクトに基づいた動詞分類を提示する手法自体は,砂川(1986)に見られるように,新 規性のあるものではない。しかし,先に中国で用いられている教科書と指導内容で概観した通り,現実問題 として,その成果が中国における一般的な日本語教育の現場に活用されているとは言い難い。また,この指 導法は「テイル」の理解を助けることにとどまらず,特に中国人学習者に対しては母語干渉を回避するとい う側面でも有効であると考えられるため,改めてその有用性を示す。 この段階ではできるだけ簡単にわかりやすく学習者に「テイル」の主な用法を理解させる。 5.1.1.アスペクトに基づく動詞の分類の導入 日本語教育における動詞の分類は,主に形態上の分類(活用の種別17)と構文上の分類(動詞の自他)という 側面から行われるのが一般的である。しかし,中国語話者の学習者にとって,特にアスペクトを把握すると いう観点からは,これら二側面からの分類だけでは十分であるとは言えない。すなわち,本稿ではアスペク トに基づく動詞の分類の導入が必要であると考える。 アスペクトの観点では,動詞は「テイル」の形をとるかとらないか,「テイル」の形に意味がどう対応す るかによって4グループに分類される18。  ① 状態動詞 「テイル」の形にならない。 ︱. ︱ ある,いる,できる,小さすぎる,要る ︱ 静的動詞  ② 形容詞的動詞 常に「テイル」の形で使われる(文末以外では「スル」,「シタ」に ︱ なることもある)。 ︱ ︱.  そびえている,とがっている,すぐれている  ︱ ︱ 動的動詞  ︱ ︱ . ③ 継続動詞 「テイル」の形で動作の継続を表す。 飲む,食べる,歩く,走る,読む,書く,聞く,起きる ④ 瞬間動詞 「テイル」の形である行為の結果の状態を表す。 死ぬ,終わる,消える,閉まる,行く,結婚する. 「テイル」を扱う単元では,まず,以上の動詞分類を導入する。先に見た教科書では,「テイル」に動作 の継続と結果の状態の用法が存在することは軽く触れられているものの,具体的にどの動詞の「テイル」形 が両用法に対応するかは詳説されていない。しかし,後述する「了」と「テイル」の対応や干渉を考慮する と,この時点でアスペクトに基づいた上記の動詞分類を導入する必要がある。また,動作の継続(「動詞持 続体」 )を基本とした導入を行うと,「テイル」が動きの描写を基本としているという印象を学習者に与える 恐れがある。本稿では「テイル」が動作の継続用法および結果の状態用法のいずれも状態の記述を基本とし. 17 「Ⅰ~Ⅲグループ」「五段/一段/変格活用」「u-verb/ru-verb」など,教材ごとに様々な呼称がある。 18 砂川(1986),石田(1995). 40.

(12) 中国人日本語学習者に対する「テイル」の指導法の提案. ているということを学習者に印象付けることを重要視する。 授業では,上記の動詞分類を導入した上で,次のように,実際に各動詞の「テイル」がどの用法になるか について,練習を通して理解・定着を図る。 継続動詞+テイル .  進行中. 飲む+テイル 飲んでいる 瞬間動詞+テイル .  結果の状態. 死ぬ+テイル 死んでいる ここでは, 「テイル」が状態を示すということを印象付ける程度にとどめ,「テイル」自体が具体的にどの ような意味を表しているかよりも,アスペクト分類された各動詞との組み合わせによってそれぞれ異なる用 法が生じることに注視させる。したがって,それぞれの用法の「テイル」が具体的に中国語のどのアスペク ト表現に対応しているかという点には意識を向けさせないことが望ましい。この点については第二段階で指 導する。 5.1.2.反復の用法(仕事内容の「テイル」)の練習 3節でも述べたように, 「テイル」の反復用法は「スル」の習慣用法と交替可能な場面が多く,不使用で も誤用となりにくい。したがって,少なくとも初級段階では「テイル」の反復用法全般を取り立てて学習す る必要性は低い。しかし,人の身分や職業,店や会社の業務内容等を紹介するような特定の場面では,反復 の「テイル」の使用がほぼ義務的となる。また,限定的な場面とはいえ,そのような場面は頻度の高いもの であり,初級学習者にとっても学習の必要性が高いと言える。 そこで,ここではそうした限定的な場面で用いられる反復用法の「テイル」に焦点を当てて指導する。具 体的には, 「現在の仕事内容を表すテイル」として,3節の(7)(8)のように,身分や業務を紹介する場 面を設定し,その場合は「テイル」の使用が義務的であることを示した上で,対話等を示し,練習する。 5.2.第二段階 第二段階は学習者がある程度の日本語知識を習得してから指導に入る。すなわち,「スル」「シタ」「シテ イル」がすべて導入された時点で,これらの使い分けについて整理する。 先に見たように日中両言語のアスペクトは対応関係が複雑であり,学習者にとって「テイル」を把握する のは難しい。そこで,この段階では母語干渉を避けるため,中国語側から導入し,学習者の母語の特性をあ る程度認識させた上で,日本語が中国語との直訳的な関係にならないことを理解させる。主に中国語のアス ペクトの「了」 「着」 「过」が「テイル」だけでなく,ほかの日本語表現とも対応することに注意させる。 5.2.1. 「了」について 先にも見たように中国語アスペクト表現「了」が「テイル」と「タ」の両方に対応することは中国語話者 にとって理解の難しい点である。中国語の「了」は日本語の「タ」に対応することが多いので,中国語を母 語とする学習者の理解は「了」=「タ」となる傾向がある。そこで,授業では中国語の「了」と日本語の「テ イル」 「タ」の対応関係を提示する。これを通して,「テイル」と「タ」が中国語訳では同じ「了」となる場 合でも,日本語の意味は全く異なるということを学習者に意識させる。. 41.

(13) 阿部 二郎・李 洪旭. まず,中国語の「了」と日本語の「テイル」「タ」の対応に関して次のような例を示す。 ガラスが割れている。  ︱ 玻璃破了。  ︱ ガラスが割れた。  上例のように, 「テイル」と「タ」が使われている文は中国語訳ではいずれも「了」となる。ここから, 学習者に「了」には日本語の「テイル」と「タ」に対応するような2つの用法が存在するということに気付 かせる。これらの関係に関しては以下のような図1~図3を用い,より具体的に説明する。なお,図中に太 く描かれている箇所は,その形式自体が表す意味あるいは含意を示し19,点線で細く描かれている箇所は, その形式が前提とするものの,その形式の意味に含まれないことを表している。また, 「 図1. テイル. 時間. 変化時. 発話時. 「テイル」は変化を前提とし,変化後の状態に視点が置かれる。 図2. 了. 時間 時間. 変化時. 発話時. 「了」は変化時に視点を置き,変化後の状態を含意する。 19 ここでの「含意」とは,「その形式から必然的に推論されること」を表している。. 42. 」は視点を表す。.

(14) 中国人日本語学習者に対する「テイル」の指導法の提案. 図3. タ. 時間. 変化時. 発話時. 「タ」は変化時に視点を置き,変化後の状態を含意しない。 「了」は多様な用法を持ち, 「テイル」および「タ」との対応関係は複雑である。ここでは学習者に対して, 少なくとも中国語で「了」を用いて話したい時,日本語では「タ」以外に「テイル」も使われる可能性があ ることに気付かせることがねらいとなっている。具体的には,「了」が変化時点と変化の結果の両方を示し 得るのに対し,日本語では変化時点を「タ」で,変化の結果を「テイル」で言い分けなければならないとい うことである。「了」は本質的には変化時点に視点が置かれているのであるが,変化の結果に視点を置く特 定の表現が中国語に存在しないため,含意としての変化の結果が「了」によって間接的に表現されるという ことを図2で表している。 なお,これらの図は,ここで述べた対応関係を示すために焦点を絞り,単純化したものになっている。教 師自身はこれらがそれぞれ「テイル」「了」「タ」のすべての意味・用法を表しているわけではないという点 に,留意する必要がある。 5.2.2. 「着」について アスペクト助詞「着」は主に動作または状態の持続を表す20。ここでは「着」と「テイル」の用法との対 応関係を説明する。「テイル」の動作の継続用法と対応する「着」の例は次のようである。 (9) 田中さんは歩いている。 (田中走着。) しかし, 「着」が対応する「テイル」の用法は動作の継続用法だけではない。たとえば,次のようなもの がある。 (10) 鈴木はさっきからずっと立っている。 (铃木从刚才开始一直站着。) ここの「テイル」は結果の状態を表す。しかし,同じ結果の状態を表す次の例は「着」と対応しない。 (11) この時計は壊れている。 (这个表坏了。) この二つの例を通して結果の状態は結果の維持と結果の残存に分けられることを導入する。結果の維持と. 20 表1のB類に見たように,「テイル」の進行中の中国語訳は「着」だけではなく, 「在」「正在」「在~着」にも訳せる。し かし,このような複雑な訳し方はこの段階で重視すべき点ではないため,ここでは詳述しない。. 43.

(15) 阿部 二郎・李 洪旭. 結果の残存を区分する基準の一つは「意思性」であるが,これを示すには主語名詞が有情物(人物など意思 性を持ったもの)であるか非情物(意思性を持たないモノ)であるかで判別するように指導すると分かりや すい。 ここでの狙いは, 「着」 ( 「在」)だけが「テイル」と対応しているわけではないことを示すこと,また, 「着」 と「了」には結果の状態を示すという点で意味的な接近が見られる(したがって,どちらも「テイル」にな る)ということに気付かせることにある。 5.2.3. 「过」について 3節に見たように,中語人学習者には中国語の「过」は日本語の「タコトガアル」と対応するという理解 が定着している傾向が見られる。しかし, 「过」の日本語訳は「タコトガアル」だけではなく, 「スル/シタ」, 「シテイル/シテイタ」,省略の四種類が存在する21。この段階では「过」を用いて「テイル」の経験・経歴 の用法を導入する。 次のような場合,中国語では「过」が用いられるが,日本語では「タコトガアル」を用いると不自然にな ることを示す。 (12)那个店我昨天刚去过。 (13)a. あの店は昨日も行っています。 b.?あの店は昨日も行ったことがあります。 ここで, 「タコトガアル」と「テイル」の使い分けの指標となるのは時間副詞である。「昨日」「先週」「こ のあいだ」など発話時にごく近い時点を示す場合や,「2年前の10月27日に」など厳密な過去の時点を示す 場合は, 「タコトガアル」を用いることができない22。「过」にはそのような区別が存在しないので,学習者 に注意を促す。. 6.まとめと今後の課題 本稿は,母語で日本語教育を受ける中国語母語話者を想定し,「テイル」の指導法の提案を行った。 まず,中国人日本語学習者に多く見られる「テイル」の誤用のパターンとして,結果状態・反復・経験の 各用法について確認した。次に, 「テイル」と中国語のアスペクト形式「了」「着」「过」との対応関係を踏 まえて,それらによる母語干渉について整理した。母語干渉の多くは学習者が「了」=「タ」, 「着」(「在」) =「テイル」 , 「过」=「タコトガアル」と認識していることに起因する「テイル」の不使用が考えられる。 次に,中国語母語話者を対象とした日本語教材,およびそれに則った指導法を検討した結果,教科書におい ては「テイル」の用法別の説明が十分でなく,また,「テイル」が状態ではなく動きを表すような印象を学 習者に与える可能性があることを見た。 以上を踏まえ, 「テイル」の指導を二段階に分けて行うことを提案した。第一段階は初めて「テイル」を 学習する際,アスペクトに基づく日本語の動詞分類を導入する。この段階では「テイル」の用法が単一でな いこと,各用法と動詞のタイプとの関連に気付かせることを主な目的とする。第二段階は日本語のアスペク. 21 劉琛琛(2014) 22 日本語記述文法研究会(2003). 44.

(16) 中国人日本語学習者に対する「テイル」の指導法の提案. ト形式が既習の段階で,中国語のアスペクト表現「了」「着」「过」との対応関係について整理する。ここで は,目標言語だけでなく母語の性質にも気付かせることも目的とする23。 本稿は「テイル」は基本的に状態を示すものであること,「テイル」に複数の用法が存在すること,中国 語と日本語のアスペクトが「直訳」的関係に無いことを初級の段階から学習者に印象付けることを提案した ものである。 課題点としては,本指導法だけでは「テイル」の各用法や,「了」「着」「过」と「テイル」の対応関係が 学習者の中で十分体系化されないということが挙げられる。ここに挙げられているものは, 「テイル」の様々 な用法や,中国語アスペクト表現との対応関係の一部に過ぎない。本稿はあくまでも初級段階で学習者のア スペクトに関する母語干渉を定着させないことに主眼を置いた指導となっており,これ以降で問題となるア スペクトの問題には完全には対応できない可能性がある。たとえば,本稿の扱う「テイル」は言い切りで文 末に現れる場合を基本としており, 「テイタ」や複文中に現れる「テイル」等には配慮していない。それら に対して,本稿での指導法を発展させる形で対応すべきか,あるいは別の指導法を考案すべきか,現時点で は定まっていない。この点は今後の課題として残される。. 参考文献 阿部二郎・徐嬌玲(2014)「日本語学習者に母語の知識を意識化させる指導法の提案:中国人日本語学習者に対する感情形容 詞述語文の指導を事例として」『北海道教育大学紀要.人文科学・社会科学編』65巻1号,19-33 庵功雄(2010)「アスペクトをめぐって」『中国語話者のための日本語教育研究⑴』日中言語文化出版社,41-48 石田敏子(1995)『改訂新版 日本語教授法』大修館書店 侯仁鋒・冶文玲(2010)「文末における日本語の助動詞『タ』と中国語の助詞“了”の対訳実態の考察」 『日本言語文化研究』 14,龍谷大学,48-63 時衛国(2014)「「Ⅴ着」 と〈Ⅴテイル〉の対照研究(四) 」 『愛知教育大学教育創造開発機構紀要』第4号,87-95 砂川有里子(1986)『する・した・している(日本語文法セルフマスターシリーズ2) 』くろしお出版 張金艶・谷守正寛(2006)「形容詞に付く「了」と「た」について」『鳥取大学地域学部紀要 地域学論集』3巻1号,135141 張継英(2000)「日本語の「た」と中国語の「了」との相違」 『日本と中国ことばの梯子』くろしお出版,359-370 張麟声(1985)「日中両語のアスペクト―「了」と「た」を中心に」 『日本語学』3月号,74-91 張麟声(2001)『日本語教育のための誤用分析―中国語話者の母語干渉20例―』スリーエーネットワーク,136-147 陳昭心(2009)「『ある/いる』の『類義表現』としての『結果の状態のテイル』――日本語母語話者と中国語を母語とする学 習者の使用傾向を見て――」『世界の日本語教育』19,国際交流基金,1-15 寺村秀夫(1984)『日本語のシンタクスと意味Ⅱ』くろしお出版 日本語記述文法研究会(2003)『現代日本語文法』3,くろしお出版 彭飛(2007)「『V+テイル』構文と【在+V】【V+着】構文との比較研究――『在+V』構文の“在1”~“在6”をめぐっ て――」彭飛編『日中対照言語学研究論文集』和泉書院,287-326 劉琛琛(2014)「定语从句中“过2”与タコトガアル的对应情况考察――基于对中日对译语料库数据的统计」『现代语言学』2 月刊,88-97 教材・辞典類 『現代中国語文法総覧(上)』劉月華・他著,相原茂監訳,くろしお出版1988 『新编日语 修订版 第一册』(『新編日本語 改訂版 第1冊』 )上海外語教育出版社 2009 『中文版 日本语句型词典』(『中国語版 日本語文型辞典』 )グループジャマシイ著,徐一平訳,くろしお出版2001. 23 学習者の母語を用いる場合に,学習者に母語の性質に気付かせる教授法については阿部・徐(2014)でも扱っている。. 45.

(17) 阿部 二郎・李 洪旭. 『标准日本语 初级上』(『標準日本語 初級上』)人民教育出版社2006. (阿部 二郎 札幌校准教授) (李 洪旭 哈爾浜師範大学東語学院日本語学部講師). 46.

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参照

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