小学校体育科保健領域におけるOPPシートの作成 ― 小学校での実践を手がかりとして ―
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第68巻 第₁号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 68, No.1. 平 成 29 年 ₈ 月 August, 2017. 小学校体育科保健領域におけるOPPシートの作成 ― 小学校での実践を手がかりとして ―. 菅野 標・坂本 紀子 北海道教育大学函館校教育学教室. The Making of a OPP Sheet of the Health and Physical Education in Elementary Schools ― The Practice in to Elementary Schools as a clue ―. KANNO Kozue and SAKAMOTO Noriko Department of Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本稿は,小学校体育科保健領域第3学年を対象に,より適切で効果的なOPPシートの作成を 目的とするものである。学校規模及び地域環境が異なる,北海道教育大学附属函館小学校と神 奈川県藤沢市立鵠沼小学校において保健の授業を行い,OPPシートを活用する利点と問題点 を確認した。そして,シートの構成・質問項目が適切であったか検証・改良を行い,第3学年 の保健学習に効果的なOPPシートを作成した。. Ⅰ.研究の目的 今日,子どもを取り巻く社会環境や生活環境は,都市化,少子高齢化,情報化,国際化などにより急激に 変化してきている。こうした変化は,子どもたちの心身の健康状態や健康に関わる行動に大きく影響してお り,生活習慣の乱れや過度なストレス・いじめ・不登校といったメンタルヘルスの問題,アレルギー疾患, 薬物乱用,感染症など様々な健康問題を生じさせている1。このような現代的な健康問題の解決を図るため には,生涯を通じて健康な生活を送る基礎を培うことを目指した,学校における保健学習が重要な役割を持 つと考える。 現在,我が国における保健学習の課題は,子どもの実践力を育成することと学習内容を充実させることに ある。健康問題に対応し解決していくには,子どもたちが保健学習で学んだことを日常生活で使える力(実 践力)にしていくことが重要であり,学習内容を思考力・判断力の育成を目指す充実したものに改善してい. 63.
(3) 菅野 標・坂本 紀子. くことが必要となる。そのためには,ポートフォリオ評価の活用が有効であり,それを活用することで教師 は子どもの学習の実態を具体的・継続的に把握し,学習の流れをより的確につかむことが可能になると考え る。OPPA(一枚ポートフォリオ評価)は,教師が子どもの学習の流れをOPPシートから見とり,それにコ メントを加えることによって学習の質を高めるとともに,授業の評価と改善を行うことが期待できる。つま り,OPPシートを授業で活用することで,教師の指導と子どもの学習そして評価を一体として捉えることが できるのである。 近年, 「真正の評価」という考え方が登場し,子どもたちに知識や技能を表現・応用させる課題を用いる といった「パフォーマンスに基づく評価」が開発されている。その中で「ポートフォリオ評価」について高 3 「指導と学習と評価が一体となったものである」 と述べ,田中耕治4は,「日常の学習過程で生み 浦勝義2は,. 出される様々な作品や評価記録を収集・蓄積するという「真正の評価」論や構成主義5の立場にたつ評価で 7 「子どもの自己評価能力形成を意図的に促す評価法である」 と指摘している。 ある」6と述べている。さらに,. OPPAは,この「真正の評価」の一つとして堀哲夫8が開発したもので,「One Page Portfolio Assessment」 の頭文字を取り,「一枚ポートフォリオ評価」と呼ばれている。OPPAとは,教師のねらいとする授業の成 果を,学習者が一枚の用紙(OPPシート)の中に授業前・中・後の学習を記録し,その全体を学習者自身に 自己評価させる方法を言う。教師がOPPシートを作成し,このシートを用いて学習者が書いた学習履歴に対 しコメントを書き,学習の質を高めるとともに授業の評価と改善を行うことができるのである9。 小学校体育科保健領域における評価に関する主な先行研究には,坂口早苗による「小学校における保健科 教育法」10と,高田しずか他11名による「ポートフォリオを用いた健康教育における評価規準・基準の検 11 がある。坂口は,保健科教育法の時代的変遷,教育課程の編成・内容,指導計画,保健科教育で活用 討」. したい学習方法,そして保健科教育の評価方法をまとめている。保健科教育の評価の現状については一般的 に極めて低調であるとし,その理由としては,「健康」という価値観に関する教育であるため定量化がしに くいこと,教育成果が現れるのに長い年月を要すること等をあげている。高田らは,ポートフォリオを用い た小学校3年生の健康教育実践において「ふり返る力」の評価を行い,その評価結果をもとに作成した「評 価規準・基準」の検討を行った。子どもが自己の生活をふり返り(自己評価)・自己改善に向かうことので きる力(=「ふり返る力」 )の育成が重要であるとし,この「ふり返る力」の評価方法には自己評価力を育 成できるポートフォリオ評価が有効であると述べている。そして,児童がポートフォリオにまとめたワーク シート等の記述分析により「評価規準・基準」の提案を行った。 これらの論文は,保健学習が知識や技能を身に付けるだけでなく,それを実際に日常生活で使える力(実 践力)にしていくことの重要性を指摘している。特に高田らは,その力を「ふり返る力」と定義し,それを 身に付けさせるには自己評価力を育成できるポートフォリオ評価が有効であることを強調している。さらに, 「ふり返る力」を評価するための「評価規準・基準」の提案を行っている。学校で学んだ保健に関する知識 や技能を日常生活で使える力にしていくためには,子どもたちに「ふり返る力」を身に付けさせると同時に, 保護者にもその学習内容を理解してもらうことが必要であろう。 堀が提示したOPPAには,運動領域の先行研究はあったが保健領域はなかった。また, 「保護者からの評価」 欄は,小学校4年の「朝読」,「道徳」には設けられていたが,それ以外にはなく「保護者からの評価」の内 容に対する分析も行われていなかった。さらに「他の児童からの評価」については,小学校5・6年の「総 合的な学習の時間」と小学校4年の「朝読」には記入欄が設けられていたが,授業展開のどの段階で行うか については不明瞭であった。そこで本研究では,保護者と学習内容を共有できるスペースを取り入れ,さら に,クラスの「他の児童からの評価」欄を設けたシートの作成を目指す。そして,用紙の質や枠の大きさ・ 質問の表現のしかたなど保健学習を行う上でよりよいOPPシートを作成することを目的とする。対象学年は. 64.
(4) 小学校体育科保健領域におけるOPPシートの作成. 第3学年とする。第3学年を対象とするのは,保健領域で学んだことを日常生活で使える力(実践力)につ なげる重要な時期だからである。. Ⅱ.研究方法 -OPPシートの手順- 授業実践は,北海道教育大学附属函館小学校と神奈川県藤沢市立鵠沼小学校で行う。前者は第3学年の1 組と2組,後者は3組と4組で行う。授業では全4時間を担当し,まず北海道教育大学附属函館小学校で使 用したOPPシートの構成・質問項目が適切であったか検証し,改良を行う。シート改良後,神奈川県藤沢市 立鵠沼小学校において,再度OPPシートの検証と改良を行う。 授業では,OPPA開発者の堀が「朝読」での実践12で使用したOPPシートをベースとして,筆者が作成し た保健学習用OPPシートを使用する。その形態は,B4サイズのダイソーの色画用紙(スノウホワイト)を 三つ折りにしたものである。OPPシートの構成は堀の実践同様に,表紙をめくると学習前後に記入する「本 質的な問い」があり,それらを隣り合うように配置する。なお,学習前の本質的な問いをA,学習後をCと 示す。この時「本質的な問い」は,京都大学大学院教育学研究科E. FORUMが開示している「E. FORUM 13 の小学校第3・4学年保健領域の本質的な問いを参考に,「けん スタンダード(第1次案) :小学校体育」. こうな生活をおくるにはどうすればいいと思いますか。」とする。そして,その下に「自己評価」Eがくる ように配置し, 「ほけんの学習をふり返ってみて,学習前と後をくらべてどのようにかわりましたか。」と質 問する(写真1参照)。「学習履歴」Bは用紙の内側に位置し,全時間の学習内容が一目で確認できるように する。第3学年の保健学習は全4時間なので記入欄は4か所あり,(B-1)から(B-4)と示している。こ こには毎時間その授業で一番大切だと思ったことを記入させるため「今日の授業でどんなことがわかりまし たか。大切だと思ったことを書きましょう。」と質問する(写真2参照)。三つ折りにした時の裏面には,他 の児童や保護者からのコメントが書き込めるようにする。「他の児童からの評価」Dは,全学習終了後OPP シートを見せ合い,他の児童のシートのよいところや内容に共感できるところなどを記入させる。これは, 自分と他の児童の感じ方の違いや多様な書き方について交流することで,学習のふり返りと学びの深まりを 期待したからである(写真3参照)。「保護者からの評価」Fは,児童が学習したことをOPPシートや学習で. 写真1 学習前後の「本質的な問い」ACと「自己評価」E (筆者作成). 写真2 「学習履歴」(B-1~ B-4) (筆者作成). 65.
(5) 菅野 標・坂本 紀子. 写真3 「他の児童からの評価」Dと「保護者からの評価」F (筆者作成). 使用したワークシートを見ながら家の人に話をしてコメントをもらう欄である。なお,保護者には依頼の文 書を事前に配布している。これは,子どもたちが学習内容を保護者に伝え,保護者から子どもたちへコメン トを書いてもらうことで教師と保護者が学習内容を共有し,家庭においても子どもたちが学習内容を実践で きるように保護者の協力を期待したからである(写真3参照)。 評価の手順は次のとおりである。子どもたちは,学習前に「本質的な問い」Aに取り組む(なお,A~G はOPPシートの表記と同じ部分を指す)。ここで子どもたちのレディネスを確認し, 「診断的評価」を行う。 次に, 「診断的評価」をもとに授業を構想し保健授業を行う。毎時間授業終了後,子どもたちは「学習のふ り返り(学習履歴)」Bを記入する。学習のふり返りには,その時間の一番大切だと感じたことを書かせる。 子どもたちの「学習のふり返り」の内容と教師がねらいとした内容の相違を確認し,コメントを書くことで 「形成的評価」を行う。さらに,この「形成的評価」をいかし,次時の学習へのフィードバックと授業改善 を行う。全単元学習終了後,子どもたちは「本質的な問い」Cに再度取り組む。さらに「他の児童からの評 価」Dをもらい,単元全体をふり返り「自己評価」Eを行う。学習前後の子どもたちの認識変容と自己評価 を筆者が見とり「総括的評価」を行う。 「自己評価」Eの記述は,高田ら14が作成した「ポートフォリオを 用いた健康教育における評価基準」を参考にする。その基準は,表1のとおりである。最後にOPPシートと 学習で使用したワークシートを家に持ち帰り,子どもが学習内容を保護者に話しコメントを書いてもらうF ことで教師以外の視点からも評価を行う。全単元学習終了後,児童と保護者には保健学習とOPPシートに関 するアンケート調査を行う。. Ⅲ.北海道教育大学附属函館小学校での授業実践 Ⅲ-1 診断的評価と授業構想 北海道教育大学附属函館小学校の実践では,授業を行う前に事前オリエンテーションを行った。オリエン テーションでは,3年生から始まる保健学習についてどのような内容か説明を行い,今回の学習テーマ「健 康」について知っていることをOPPシートAへ記入させた。記入には約10分間時間を取り,わからない場合 は未記入でもよいことを伝えた。子どもたちが記入したシートAの「本質的な問い」に対する答えを診断的. 66.
(6) 小学校体育科保健領域におけるOPPシートの作成. 表1 「ふり返る力」の評価基準 評価基準. 記述例. 1. 学習活動の感想及び自己評価をしている. 「楽しかった」 「面白かった」 「~できた」 「~できな かった」「~がわからなかった」等. 2. 学習のねらいと自分の生活と照らし合わせて,自己 評価をしている(自己評価の内容として,自己の成 長への気づき,疑問,実感を含む). 「自分は~だった」 「~をしていなかった」 「~でき るようになった」等. 3. 2に加えて, 「健康に関する情報や知識」 ,「身近な人 のアドバイス」などをこれからの生活にいかそうと している また,自分なりの健康の価値を伝えようとしている. 「これから~しよう」 「~しなくちゃ」 「 (健康に関す る情報や知識)から~しよう」 「~に~と言われたか ら~しよう」等 「健康って~だ」 「みんなにも健康になってほしい」 「~を~にも教えた」等. 4. 3に加えて,自分の課題を焦点化し,具体的な行動 目標の設定に役立てている. 「~だから~しよう」等. 5. 4に加えて,その課題の具体的な解決方法を考えて いる. 「~だから~しよう そのためには~しよう」等. (高田しずか他11名「ポートフォリオを用いた健康教育における評価規準・基準の検討」から引用). 評価として用い,これらをもとに授業を構想した。 学習前の「本質的な問い」に対する答えAでは,「残さず食べる」「早寝早起き」など,食事や運動・睡眠 など生活習慣に関する記述が8割(80%)を占めており,自分の体や身のまわりの清潔に関する記述は1割 以下(8%) ,生活環境に関しては記述が見られなかった。また,生活習慣の中でも食事に関する記述が約 5割(47%)と1番多く,その中で運動・睡眠と関連させて記述していたのは69名中24名と半数以下だった。 子どもたちの記述からは,食事・睡眠・運動などの生活習慣や自分の体に関する記述が多く見られ, 「健康」 に対する関心の高さが感じられた。しかし,環境に対する意識はうすく,授業前の記述にはその表現が見ら れなかった。そこで,今回の学習では「健康と環境とのかかわり」について丁寧に扱うことにした。単元計 15 をもとに表2のように作成した。 画については,光文書院の『3・4年教師用指導書』. Ⅲ-2 形成的評価をいかした授業改善 形成的評価は,子どもたちに毎時間授業終了後に授業の一番大切だと感じたことを書かせ,その内容と学 習のねらいとする内容との相違を確認し,教師がコメントを書くことで実施した。この形成的評価をいかし, 次時の学習へのフィードバックと授業改善を進めた。 子どもたちが毎時間記入したOPPシートBの「学習履歴」の記述を全体的に見ると,第1時では,初めて 使うシートということもあり記入に時間がかかった。また,授業のねらいとした内容を書いていた児童は1 割以下だった。第2時になるとシートに少し慣れ,7割の児童がねらいにそった内容やキーワードを書くこ とができるようになった。第3時では,8割がねらいにそった内容を書けるようになり,文章も長くなって いる。第4時になると,生活でどのようにいかしていくかまで考えられるようになった。このように4回の 授業でも,OPPシートに記入し「学習履歴」を残していくことで子どもたちは授業のキーワードを捉えられ るようになったり,繰り返し書くことで学習のポイントが見つけられるようになったりした。また,大切だ と思ったことを文章化することで,学習のまとめをする作業になり知識の定着が図られたと考える。教師は 「学習履歴」の記述内容を確認することで,その時間の子どもたちの様子を知り,授業全体をふり返ること ができた。そして,授業のねらいとした内容が「学習履歴」に書かれていなければ,もう一度授業で理解さ せたり,OPPシートへのコメントを通して直接働きかけたりと学習のフィードバックをその都度,行うこと. 67.
(7) 菅野 標・坂本 紀子. 表2 第3学年「毎日の生活と健康」 題材. 主な学習内容 ⑴保健の学習について ⑵健康のイメージを深める ⑶健康の大切さ. ねらい. 1. けんこうっていいね. 2. けんこうな1日の生活 ⑴毎日の生活習慣について ●毎 日を健康に過ごすには,食事・運動・休養,睡 ⑵健康によい生活習慣の確立 眠の調和のとれた生活を送ることが大切であるこ ⑶生活リズムの大切さ とを理解できるようにする。 ●調 和のとれた生活を毎日続けることによって,生 活のリズムが生み出されることを理解できるよう にする。. 3. 体のせいけつ. ⑴清潔に関する習慣チェック ●毎 日を健康に気持ちよく過ごすには,自分の手や ⑵体の清潔 体,身の回りの物を清潔に保つ必要があることを 手洗い・うがいの必要性 理解する。そのために,どのようなことに気をつ →手洗い・うがいの実験 ければよいのか考え,生活の中で実践する意欲を ⑶身の回りの清潔 高める。. 4. 部屋の明るさと空気. ⑴部屋の明るさと空気の影響 ●健 康の保持増進には生活環境が関わっており,部 ⑵身の回りの環境改善 屋の明るさや喚気などの生活環境を整える必要が →空気の入れ替え実験 あることを理解する。 ●生 活の中で自分ができることを実践しようという 意欲をもてるようにする。. ●健 康とはどのような状態か理解し,主体の要因と 環境の要因が関わっていることを理解できるよう にする。 ●健 康はかけがえのないものであることにふれ,健 康に過ごそうという意識を高める。. (光文書院の『3・4年教師用指導書』から作成). ができた。また,OPPシートを通して教師が児童全員とコミュニケーションを取ることができるため,授業 中,発言のなかった児童がどんなことを考えていたのかを知ることもできた。このように,「学習履歴」を 形成的評価として活用することは,児童の学習の実態をその都度,確実につかむことができ,教師が授業の 評価と改善を行う上でも有効であると考える。 Ⅲ-3 自己評価の記述分析と総括的評価 総括的評価については,学習前後の「本質的な問い」に対する答えと「学習履歴」から学習全体をふり返 る「自己評価」Eの記述をもとに行った。 「自己評価」は,1組には「ほけんの学習をふり返ってみて,学 習前と後をくらべてどのようにかわりましたか。」と質問し,2組はそれに「気づいたこと・感じたこと・ 考えたこと・これからの生活へのいかし方について書きましょう。」を付け加えて実施した。また,「自己評 価」という表現を「ふり返り」と第3学年の児童にわかりやすい表現に変更した(写真4参照)。変更した のは,1組では今後の生活へのいかし方についての記述があまり見られなかったからである。 まず,総括的評価を子どもの自己評価から分析すると,学習後の「本質的な問い」に対する答えCでは, 食事や運動・睡眠など生活習慣に関する記述が約4割(38%),自分の体や身のまわりの清潔に関する記述 は約3割(29%),生活環境に関しても3割弱(26%)の記述が見られた。学習前には食事・運動・睡眠を 関連させていない児童が多く見られたが, 「生活のリズムをくずさないようにする」など,学習後は69名中 48名がこの3つを「生活リズム」という言葉に置き換えられるようになった。また,学習前には記述が見ら れなかった「部屋の明るさ」や「空気の入れかえ」といった生活環境に関する記述が3割弱見られるように なったのは,学習した内容が子どもたちの中に定着したことの表れだろう。 学習全体からの「自己評価」については,1組では「自己評価」の質問を「学習前後を比べてどのように. 68.
(8) 小学校体育科保健領域におけるOPPシートの作成. 写真4 2組で使用したOPPシート (筆者作成). 変わりましたか。 」とした結果,約3分の1の児童に認識の変容が見られた。自分の変容に気づくことで, 保健学習による自身の成長が感じられたのではないだろうか。また,学習が意味あるものとして肯定的に捉 えられたことが学習後のアンケートからも感じられた。これからの生活へのいかし方については,13名が書 いていた。2組の実践では, 「自己評価」の質問を「学習前後を比べてどのように変わりましたか。気づい たこと・感じたこと・考えたこと・これからの生活へのいかし方について書きましょう。」と少し複雑にし たため,学習前後の比較をして,その変容を記述していたのは5名と少なかった。これからの生活へのいか し方については,約半数の15名からその記述が見られた。 次に「他者評価」についてであるが,OPPシートを通して学習を他の児童と交流することで,他者を認め る活動ができたと思われる。ただし,今回の実践ではOPPシート(B-4)の記入が終わった児童から交流 の時間を取ったため,多くのコメントをもらっている児童もいたが,交流の時間が取れずD欄が未記入の児 童も28名中3名いた。また,授業実践最終時のみ実施したため, 「他の児童からの評価」が交流後のOPPシー ト記述に反映されたのかどうか変化を見ることはできなかった。そこで,藤沢市立鵠沼小学校での実践では, 「他の児童からの評価」を複数回実施し,子どもたちの記述変容を見ることにする。 「保護者からの評価」Fは,学習内容が保護者に伝わったかどうかを確認するためのアンケートから,学 習内容について「よくわかった」と回答したのが65名中46名, 「だいたいわかった」と回答したのが17名おり, 9割以上の保護者から学習への理解が得られたことがわかった。また,学習後,「家庭で子どもたちに変化 が見られた」との回答が65名中51名と多くあり,手洗いうがいを意識的に行う姿や生活習慣の見直しを行う 姿があったようである。「変化が見られなかった」と回答した保護者からは,「この先に期待したい」との言 葉も寄せられた。学校での学習がこれで終わりではなく,生活の中でその都度ふり返り確認していくことが 実践力につながっていくと考える。 教師からの評価については, 「自己評価」Eの記述を高田ら16が作成した評価基準をもとに行った(表1 参照) 。1組では「学習活動の感想及び自己評価をしている」『1』が1名,「学習のねらいと自分の生活と 照らし合わせて,自己評価をしている(自己評価の内容として,自己の成長への気づき,疑問,実感を含む)」 『2』が18名であった。 「 『2』に加えて, 『健康に関する情報や知識』,『身近な人のアドバイス』などをこ れからの生活にいかそうとしている。また,自分なりの健康の価値を伝えようとしている」 『3』が11名, 「『3』. 69.
(9) 菅野 標・坂本 紀子. に加えて,自分の課題を焦点化し,具体的な行動目標の設定に役立てている」『4』が2名だった(未記入 は3名) 。なお, 「『4』に加えて,その課題の具体的な解決方法を考えている」『5』は該当者がいなかった。 『3』と『4』は,これからの生活にいかそうとしている記述があるかどうかが判断基準であるため,「自 己評価」の質問(「これからの生活へのいかし方について書きましょう。」)がなかった1組は人数が少ない。 『2』が18名と非常に多かったのは,学習前後を比較し,学習したことで健康に対する視野が広がり,重要 な部分に気づくことができたからだと思われる。1組の実践では,第4時の授業後半15分で「学習履歴」(B -4)と学習後の「本質的な問い」C,さらに「自己評価」Eを実施したために,十分にまとめられない児 童もいたようである。「自己評価」を行う時間については,改めて考える必要がある。 2組では, 『1』が6名, 『2』が7名となり, 『3』は9名, 『4』は6名だった(未回収6名)。なお, 『5』 は2組でも該当者はいなかった。2組の実践では,「自己評価」欄に「これからの生活へのいかし方につい て書きましょう。」と質問を加えたので,『3』と『4』の人数が1組より増えたと考える。しかし,2組の 場合は『1』が6名と多い。これは,気づいたこと・感じたこと・考えたことなどの感想のみで「自己評価」 を行っていた児童が増えたということである。2組の実践では,1組での時間配分の反省を踏まえて,翌日, 学習後の「本質的な問い」Cと「自己評価」Eの時間を設けた。時間的余裕があったため未記入の児童はお らず,学習後の「本質的な問い」Cは1組より多く学習したことを書くことができた。しかし,時間があっ ても学習前後の自己認識の変容が十分に表現できなかったり,感想のみの「自己評価」が多くなってしまっ たりしたのは,質問内容がわかりづらかったからだと思われる。 授業実践から,保健学習用OPPシートを活用する際の利点が6点明らかになった。1点目は,学習前後に 同じ問い(「けんこうな生活をおくるにはどうすればいいと思いますか。」)を行うことで,学習したことに よる自己認識の変容を子ども自身が感じられるということである。2点目は,授業の重要なところを学習履 歴として繰り返しまとめていくことで,授業のキーワードや要点をおさえられるようになるということであ る。3点目は,OPPシートを介して友だちと交流することで,新しい視点を得ることが期待できるというこ とである。4点目は,OPPシートを家に持ち帰り学習した内容を子どもたちが保護者に話すことで,学習内 容が家庭に伝わり,学校と家庭との共通理解が図られるということである。子どもが学習内容を保護者に話 すことは,知識の定着にも有効である。5点目は,学習履歴の内容から授業をふり返り,教師が授業改善に つなげることができるということである。6点目は,教師がOPPシートを通して児童全員とコミュニケー ションを取ることができるということである。発言しなかった児童がどんなことを考えていたのか,OPP シートを通して知ることができ,コメントを返すことで一人ひとりの児童に関わることができるのである。 課題としては,保健学習において,高田ら17の作成した評価基準を用いて児童の記述を評価することが適切 なのかどうかということがあげられる。 OPPシートについては,次の5点の改良が必要となった。1点目は,「自己評価」の枠を2段にし,1段 目で「学習前後の自己認識の変容」について質問し,2段目では「これからの生活へのいかし方」について 質問することにした。そして, 「自己評価」と表記していた言葉を「ふり返り」に変更することにした。2 点目は, 「学習履歴」に記した質問内容を短くわかりやすい言葉に改良することにした。3点目は,「学習履 歴」 , 「他の児童からの評価」, 「保護者からの評価」の枠をひとまわり小さくすることにした。4点目は, 「他 の児童からの評価」を複数回実施することを想定して,その枠に区切りの線を入れることにした。5点目は, OPPシートの表紙に「単元名タイトル」を記入して使用することにした。. 70.
(10) 小学校体育科保健領域におけるOPPシートの作成. Ⅳ.藤沢市立鵠沼小学校での授業実践 鵠沼小学校の実践では,附属函館小学校の実践で改良を行ったOPPシートを使用した。改良後のOPPシー トは,以下のとおりである(写真5~写真8参照)。. 写真5 表紙「単元名タイトル」. 写真6 学習前後の「本質的な問い」ACと「自己評価」E. (筆者作成). (筆者作成). 写真7 「学習履歴」 (B-1~ B-4). 写真8 「他の児童からの評価」Dと「保護者からの評価」F. (筆者作成). (筆者作成). Ⅳ-1 診断的評価と授業構想 藤沢市立鵠沼小学校の実践でも,まず初めに事前オリエンテーションを行った。オリエンテーションの内 容は附属函館小学校同様である。学習前の「本質的な問い」に対する答えAでは, 「ごはんをしっかり食べる」 「体を動かす」など,食事や運動・睡眠など生活習慣に関する記述が8割以上(87%)を占めており,自分 の体や身の回りの清潔に関する記述は1割以下(8%),生活環境に関しては1%だった。また,生活習慣. 71.
(11) 菅野 標・坂本 紀子. の中でも食事に関する記述が約5割(54%)と1番多く,その中で運動・睡眠と関連させて記述していたの は70名中11名と2割弱(16%)だった。子どもたちの記述からは,食事・睡眠・運動などの生活習慣に関す る記述が多く見られた。また,清潔や生活環境について触れる内容もあり「健康」に対して関心の高さが感 じられた。単元計画については,附属函館小学校と使用する教科書会社が異なったため,学研『新・みんな 18 をもとに表3のように作成した。 のほけん3・4年教師用指導書/研究編』. Ⅳ-2 形成的評価をいかした授業改善 形成的評価も,附属函館小学校での実践同様に進めた。子どもたちが毎時間記入したOPPシートBの「学 習履歴」の記述を全体的に見ると,第1時ではシート記入に少し時間がかかった。その際,学習のねらいと した内容をシートに記述していた児童は2割弱(16%)と少なかった。第2時になるとシートに少し慣れ, 6割を超える(66%)児童がねらいにそった内容や,キーワードを書くことができるようになった。しかし, キーワードだけという児童も多く,まだ文章でまとめるまでには至っていなかった。第3時では,8割以上 (86%)が学習のねらいにそった内容をシートに記述できるようになり,文章でまとめられるようになって きた。第4時になると,学習したことをこれからの生活でどのようにいかしていけばよいか考え,シートに 記述できるようになった。このようにOPPシートに記述し「学習履歴」を残していくことで,子どもたちは 授業のキーワードを捉えられるようになったり,繰り返し書くことで学習のポイントが見つけられるように なったりした。また,大切だと思ったことを文章化することで,学習のまとめをする作業になり知識の定着 が図られたと考える。鵠沼小学校の実践では,第3時の「学習履歴」 (B-3)の記述に大きな変化が見られた。 これは第2時の後,他の児童とOPPシートを見合う交流会を持ったことが影響したと考える。他の児童がま とめているOPPシートの内容を見ることで,お互いによい部分を取り入れ,第3時の「学習履歴」(B-3) 表3 第3学年「毎日の生活と健康」 題材. 主な学習内容. ねらい. 1. かけがえのない健康. ⑴心と体の調子をチェック ●自 分の心と体の調子と食生活や運動,睡眠と身の ⑵身の回りの環境と健康との 回りの環境との関係を意識させることによって, 関わりについて考える 健康の意味や健康のためにはどのような生活が大 ⑶食事や運動,休養・睡眠と 切なのかを理解させる。 健康との関わりをまとめる. 2. 1日の生活のしかた. ⑴自分の生活をふり返る ●元 気な日と元気が出ない日の比較によって,規則 ⑵はるかさんとたかしさんの 正しい生活の大切さに気づかせる。 生活を比べて考える ●自分の生活をふり返らせ, 実践への意欲を持たせる。 ⑶リズムのある生活の工夫を 考える. 3. 身の回りの清けつ. ⑴毎日の健康チェックをする ●ブ ラックライトによって汚れを視覚化して提示し ⑵手洗いチェッカーで汚れの たりすることによって,清潔にすることの意義を 残り具合を見る(実習) 理解させる。 ⑶清潔の大切さを知る. 4. 身の回りの環境. ⑴部屋の空気について考える ●空 気や明るさと健康との関係を話し合いや実験な ⑵換気の様子について知る どを通して気づかせ,換気や明るさの調節の必要 ⑶教室の明るさについて考え 性を理解させる。 る ●養 護教諭や保健委員会などの具体的な人の活動を ⑷身の回りの環境を整えるた 想起させ, 学校での保健活動の大切さに気づかせる。 めにはどうすればよいか考 える (学研『新・みんなのほけん3・4年教師用指導書/研究編』から作成). 72.
(12) 小学校体育科保健領域におけるOPPシートの作成. の記述が充実したものになったと考える。 Ⅳ-3 自己評価の記述分析と総括的評価 附属函館小学校では1組と2組の「自己評価」の質問内容を変えて行ったが,鵠沼小学校では2クラスと も「ほけんの学習をふり返ってみて,学習前と後をくらべてどのようにかわりましたか。」と「これからの 生活へのいかし方について書きましょう。 」と質問した。なお,分析方法については附属函館小学校での実 践同様である。 まず,子どもの自己評価については学習後の「本質的な問い」に対する答えCでは,食事や運動・睡眠な ど生活習慣に関して記述していた児童が約4割(42%),自分の体や身の回りの清潔に関しての記述が約2 割(23%) ,生活環境に関しての記述は約3割(31%)だった。学習前には食事・運動・睡眠の3つを関連 させて記述できない児童が多く見られたが, 「生活リズムをととのえる」など,学習後は70名中45名がこの 3つを「生活リズム」という言葉に置き換えられるようになった。また,学習前には1割以下だった清潔に 関する記述が2割を超えるまでになったのは,授業で手洗い実験を行い,体験的に学習を進めたことが影響 したと考える。さらに,1%しか記述が見られなかった生活環境については,3割の児童がそれに関連させ て書くことができるようになった。これも空気の流れを映像で示したり,実際に明るさ実験を行ったりした ことが子どもたちの印象に強く残ったものと考える。 鵠沼小学校の実践では,学習全体からの「自己評価」の質問を2つに分けて実施した。学習前後の自己認 識の変容については,70名中66名が記入することができた。OPPシートを活用することで,57名は自己認 識の変化に気づくことができ,保健学習が意味あるものとして肯定的に捉えることができたと考える。また, これからの生活へのいかし方に関しては,70名中68名のほぼ全員が記入できた。これからの生活でいかした いことが具体的に書ければ,家庭で取り組む際にも声かけがしやすくなるため,今後,学校と家庭で協力し て学習を進める上でも有効であると考える。多くの児童が,「自己評価」の「学習前後の自己認識の変容」 と「今後へのいかし方」の両方に記入することができたのは,質問を2つに分けて提示したことで書く内容 および場所が明確になり,記入しやすくなったことが影響したと考える。 次に「他の児童からの評価」であるが,鵠沼小学校の実践では,それを3組で2回(第2時と第3時の間で 1回,学習終了後に1回)実施し,4組では1回(第2時と第3時の間で)実施した。3組4組共に1回目(第 2時と第3時の間)は,朝自習10分間を「他の児童からの評価」の時間とした。3組の2回目は,事後オリエ ンテーションの中で10分間程度の時間を取った。OPPシートを通して他の児童と交流することで,鵠沼小学校 でも他者を認め合う活動ができたと思われる。特に,学習途中(第2時と第3時の間)で交流の時間を取った ことで, 「学習履歴」に書く内容がキーワードだけだった児童が,それらを使った文章を書くようになった。 「他 の児童からの評価」を2回実施した3組では,1回目にはOPPシートの記述に対してではなくその児童のよい 所を書いていた児童も,2回目には他の児童の記述に対する意見を述べていた。複数回実施することで,他の 児童のOPPシートを評価することができたと考える。ただし,単元学習の最終段階で実施しても「自己評価」 に影響は見られなかったため, 「他の児童からの評価」は学習途中に入れることが有効であると考える。 OPPシートの保護者欄からは, 「学習したような健康な生活ができるよう子どもとがんばりたい」など, 学習内容が伝わった様子や今後,家庭でも健康な生活を心がけていこうという思いが保護者から子どもへ示 されたことがわかる内容が多く見られた。この学習を通じて,家族みんなで健康を意識する機会がもてたこ とも大きく,子どもの実践力へとつながっていくと考える。また,アンケートからは学習内容について「よ くわかった」と回答した保護者が66名中51名, 「だいたいわかった」と回答したのが12名(未記入3名)おり, 9割以上の保護者から学習内容への理解が得られた。学習後,「家庭で子どもたちに変化が見られた」との. 73.
(13) 菅野 標・坂本 紀子. 回答が,66名中44名と半数以上あった。具体的には,手洗いを以前より丁寧に行う姿や生活リズムを意識す る姿が見られたとのことである。 教師からの評価も,附属函館小学校の実践同様に行った(表1参照)。ただし,鵠沼小学校の実践では「自 己評価」を2クラスとも同じ質問のしかたで行ったので,まとめて分析する。「学習活動の感想及び自己評 価をしている」 『1』が1名,「学習のねらいと自分の生活と照らし合わせて,自己評価をしている(自己評 価の内容として,自己の成長への気づき,疑問,実感を含む)」『2』が4名だった。「『2』に加えて,『健 康に関する情報や知識』,『身近な人のアドバイス』などをこれからの生活にいかそうとしている様子がうか がえる。また,自分なりの健康の価値を伝えようとしている」『3』が25名,「『3』に加えて,自分の課題 を焦点化し, 具体的な行動目標の設定に役立てている」『4』が39名であった(未記入は1名)。なお, 「『4』 に加えて,その課題の具体的な解決方法を考えている」『5』は該当者がいなかった。鵠沼小学校では,附 属函館小学校と比べて『3』と『4』に該当する児童が増えた。これは,「自己評価」の質問項目を2つに 分けて配置したことが大きく影響していると考える。その中でも,「これからの生活へのいかし方について 書きましょう。 」の質問に対して具体的な行動目標が立てられた児童が多かったことが,『4』に該当する児 童が増えた要因としてあげられる。また「自己評価」の記入は,附属小学校での反省を踏まえ,全単元学習 終了後の事後オリエンテーションの時間で行った。時間的余裕があったため,未記入者はほとんどいなかっ た。ただし, 「生活へのいかし方」 という言葉がわかりづらかったようなので, この質問については改良したい。 鵠沼小学校での実践を通して,新たに明らかになった保健学習用OPPシートの利点は次の3点であった。 1点目は,教師がOPPシートで学習前の児童の既知事項を把握することで,授業をより児童の実態に合わせ た内容にできるということである。2点目は,OPPシートを活用することで単元全体をふり返ることが容易 にできるということである。単元を一枚の用紙で見通せるOPPシートは,学習前・途中・学習後を容易にふ り返ることができ,保護者との共通理解を容易に図ることができる。3点目は,他の児童のOPPシートを見 る活動を学習途中に行うことで,学習履歴の内容を充実させることができるということである。他の児童の シートを学習途中で見ることで,まとめ方や内容について互いに影響を与え合うことができる。しかし,や はり高田ら19の評価基準では適切な評価ができなかった。 実践の結果から,OPPシートは次のように改良することにした。「自己評価」の2段目の質問内容を,児 童によりわかりやすい表現に改良する。そして,「他の児童からの評価」の枠をもとの大きさに戻し,枠の 上段に「1回目」 ,下段に「2回目」と記入することで書く場所をわかりやすくすることにした。さらに, 枠の中に1人分の書くスペースを示す細かい線を入れ,「保護者からの評価」の枠についても,もとの枠の 大きさに戻すことにした。. Ⅴ.研究の成果 -第3学年用保健学習OPPシートの作成- 北海道教育大学附属函館小学校と神奈川県藤沢市立鵠沼小学校での実践から,第3学年の保健学習で使用 するOPPシートを最終的に次のように作成した。まず表紙は,「単元名タイトル」をあらかじめ記入し,児 童が名前やクラスを記入できるようにする(写真9参照)。表紙を開くと学習前後の「本質的な問い」AC が並べてあり,その下には,学習後に児童が自己認識の変容と今後の生活でのいかし方について書く「自己 評価」Eがある(写真10参照)。学習後の「本質的な問い」Cのページをめくると,その内側に「学習履歴」 (B-1)~(B-4)が記入できる欄がある(写真11参照)。裏面には,「他の児童からの評価」Dと「保護 者からの評価」Fがある(写真12参照)。「他の児童からの評価」Dの枠には,上段に1回目,下段に2回目 という言葉と書くスペースを示す線を書き入れる。. 74.
(14) 小学校体育科保健領域におけるOPPシートの作成. 写真9 表紙「単元名タイトル」 (筆者作成). 写真11 「学習履歴」 (B-1~ B-4) (筆者作成). 写真10 学習前後の「本質的な問い」ACと「自己評価」E (筆者作成). 写真12 「他の児童からの評価」Dと「保護者からの評価」F (筆者作成). 実践の結果,OPPシート活用の利点が9点明らかになった。1点目は,学習前後に同じ問いを行うことで, 学習したことによる自己認識の変容を子ども自身が感じられるということである。2点目は,授業の重要な ところを学習履歴として繰り返しまとめていくことで,子どもたちが授業のキーワードや要点をおさえられ るようになるということである。3点目は,OPPシートを介して友だちと交流することで,新しい視点を得 ることが期待できるということである。4点目は,OPPシートを家に持ち帰り学習した内容を子どもたちが 保護者に話すことで,学習内容が家庭に伝わり,学校と家庭との共通理解が図られるということである。5 点目は,学習履歴の内容から授業をふり返り,教師が授業改善につなげることができるということである。 6点目は,教師がOPPシートを通して児童全員とコミュニケーションを取ることができるということであ る。7点目は,教師がOPPシートで学習前の児童の既知事項を把握することで,授業をより児童の実態に合 わせた内容にできるということである。8点目は,OPPシートを活用することで単元全体をふり返ることが. 75.
(15) 菅野 標・坂本 紀子. 容易にできるということである。9点目は,他の児童のOPPシートを見る活動を学習途中に行うことで,学 習履歴の内容を充実させることができるということである。 しかし,保健学習において高田ら20の作成した評価基準を用いて児童の記述を評価することが適切なのかど うかということが課題としてあげられる。本研究では,評価を行うには基準が必要であると考え,この基準を 用いて総括的評価を行った。しかしながら,この方法では質問内容によって評価が変わってしまうため適切と はいえない。堀は, 「OPPシートは観点別評価に用いるために作られているわけではないので,観点別評価を 21 と述べている。確かに, 「知識・理解」を評価するので 重視するなら他の方法と併用を考える必要がある。 」. あれば, シートの記述だけでは判断が難しいため, 他の評価テストが必要である。しかし, 「思考・判断」や「関 心・意欲・態度」をみる方法として活用するには,OPPシートの記述は非常に有効である。実践力を高めるた めには,学習した内容を生活でいかす方法を考えることが重要であり,そこに評価基準は必要ないと考える。 つまり,OPPシートを活用した保健学習では, 「自己評価」の記述に評価基準を設けるべきではないといえる。 本稿では,研究対象を第3学年に限定した。今後の課題は,他の学年を対象にしたOPPシートを作成する ことである。これについては,稿をあらためて検討したい。. 註 1 文部科学省『「生きる力」を育む小学校保健教育の手引き』2013年,p3。 2 高浦勝義『ポートフォリオ評価入門』明治図書,2000年。 3 同上,pp42-43。 4 田中耕治『教育評価』岩波書店,2008年。 5 構成主義(的学習観)とは,知識は受動的に伝達されるものではなく,主体によって構成されると考える立場で, 「知」 とは自分のまわりにある人やモノと「対話」「共同」しつつ,構築していくものという見解(田中『教育評価』 ,pp74-75)。 6 前掲『教育評価』pp164-165。 7 同上,pp160-164。 8 堀哲夫『教育評価の本質を問う一枚ポートフォリオ評価OPPA一枚の可能性』東洋館出版社,2013年。 9 同上,pp20-21。 10 坂口早苗「小学校における保健科教育法」『川村学園女子大学研究紀要』第18巻第2号,川村学園女子大学,2007年, pp31-51。 11 高田しずか他11名「ポートフォリオを用いた健康教育における評価規準・基準の検討」 『千葉大学教育学部研究紀要』第 53巻,千葉大学,2005年,pp155-163。 12 前掲『教育評価の本質を問う一枚ポートフォリオ評価OPPA一枚の用紙の可能性』p161。 13 北原琢也編「E. FORUMスタンダード(第1次案) :小学校体育」 (表7-小) 『京都大学大学院教育学研究科E. FORUM』 http://www.educ.kyoto-u.ac.jp/e-forum/ 2016.1.26確認。 14 前掲「ポートフォリオを用いた健康教育における評価規準・基準の検討」pp155-163。 15 吉田瑩一郎『小学保健3・4年教師用指導書』株式会社光文書院,2011年。 16 前掲「ポートフォリオを用いた健康教育における評価規準・基準の検討」pp155-163。 17 同上,pp155-163。 18 森昭三『新・みんなのほけん3・4年教師用指導書/研究編』株式会社学研教育みらい,2015年。 19 前掲「ポートフォリオを用いた健康教育における評価規準・基準の検討」pp155-163。 20 同上,pp155-163。 21 堀哲夫『子どもの成長が教師に見える一枚ポートフォリオ評価 小学校編』日本標準,2006年,p30。. (菅野 標 函館校大学院生) (坂本 紀子 函館校教授) . 76.
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