中世末~近世期口語資料における
モシ疑問文
・推量文の文型と意味
1 はじめに
康
要
瑛
モシ文の意味用法について、 通時的観点から考察した研究には、 山口発二(2000)、 永田 里美 (2001) などがある。 山口2000は、仮定条件と共起するモシについて「古代語から現代 語まであまり変わりなく認められる」、疑問文になるモシは、「明治時代以後、 モシが稀にな り、 モシモ・モシャ・モシカなどが用いられるようになった」、 推是文になるモシは、「明治 時代以降は見出せず、 疑問と共起するモシよりやや早く衰退したようである」というように、 疑問・推岳と共起するモシは、 近代語以降、 次第に消えて、仮定と共起するモシが中心にな ってきたと述べる。 永田2001は、「話し手の主観性が強く認められ、 仮定条件、 疑念、 驚き、 原因推況、推定 という表現を(累積的効果によって)強調する」ものと述べており、 話し手の主観性を表し、 仮定・疑問・推丑という共起する表現の意味を強絢する語としている。 モシ条件節は、古代以来、 一貰して使用されつづけている。一方、 モシ疑問文・モシ推紐 文は先行研究によれば明治期までに消滅したと考えられている。本稿ではその意味や用法に ついて、 中世末~近世期における、 なるべく口語的な資料を利用して明らかにしたい。 それ は山口2000や永田2001が触れなかったモシ文で取り上げられた事態と、 その事態について話 し手がどのように把握しているかという点である。2 全体の概観
調査の対象はなるべく口語的なものを選択した。贅料と頁数の示し方は以下のとおり。 (ヘイケ頁数)亀井高孝・阪田雪子翻字 (1980)r
ハピヤン抄キリシタン版平家物語」吉川弘文館/ (イ ソポ頁数)井上章編 (1964)「天草版伊曽保物語1 風間密房(イソポ物語については、大塚光信校注 (1971)r
キリシタン版エソポ物栢 付古活字本伊曽保物語J(角川文庫)も利用した。/(曲名頁数)池田廣司・ 北原保雄岩(1切2) 0973) (1983)「大蔵流虎明本 狂言集の研究本文篇 上・中・下」表現社/ (作 品名刊行年)武藤貞夫・岡雅彦紺 (1975) (1976) 「噺本大系」東京堂出版/京都大学国文学会 (1971) 「三本対照捷解新話一本文編J /「仮名手本忠臣蔵j (乙葉弘櫂(1960)「日本古典文学大系 51 浄瑠璃 - 70- (1)集上」岩波店店 所収) /大野晋・大久保正編 (1969) 「本居宜長全集3 古今集遠鏡/他」筑摩也房 これらの賓料のモシ文(条件節も含む)を調査したのが表1 (後掲)で、 さらに表1を見 やすくまとめたものが表2である。〇は用例のある文臨、 *は用例のない文型、 △は用例は あるが数が少なく、 口頭語でその文型が使用されていたかどうか、 疑問のあるものである。 モシ~モ~力(△1) の例、 モシャ~モ~ナン(△2) の例はそれぞれ以下のとおり。 (△1)されバ貧地でハござれ共、魚.し.檀中の寄銀ヱ立有らふなと思ひ、 盗賊などか心掛ふ かと存じてとあいさつの内、 猫走り元へ行。(立春噺大集1776) (△2)いくつに成ても子をおもふ親ごヽろとて、 実体なるむす·了·ハ魚·Yo.翌煩らひ立出立ム と思ふにつれて、 商ひせいを出スばかりで、 世間しらずと笑ふもいかゞ。(年忘噺角カ 1776) 「檀中の寄銀」「実体なる」など、ともに文語的表現で、 日常的に使用されていた文型とは みなせないと思われる。 (表2) 条件節 疑問文 描量文 モシ~ モシャ-- モシモ~モシ~ モシ~ モシ~助 モシャ モシャー モシ~ モシャ 力? ヤ? 9月~ ? 力? ~1臨頃
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~16B0頃゜
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-1748頃゜
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~1856頃゜
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△ △1 *゜
* △2 条件節モシヤは江戸中期以降にはあまり見られない。山口2000では指摘がないが江戸中期 以降には口頭諾ではあまり用いられなかったのではないか。 疑問文において、 係助詞l刑助詞で事柄のひとつを取り立てるクイプは、1663頃(△1参 照)までに、終助詞ヤで疑問を終える文型も1680頃には消滅した模様である。 モシヤ疑問文 も助詞モで取り立てるタイプもわりと早く消滅したらしい。 モシ推祉文やモシヤ推是文は江戸の最終期では数が少なくなることがわかる。 モシ推祉文 の消滅は山口2000の指摘よりもかなり早いのではないかと思われる。 条件節はモシとモシモに収敏する。疑問文は「モシ(モシャ) ~力?」に収紋し、 推最文 は消滅というように意味と文型が連関しつつ、文型をそれぞれ分担していく過程がみてとれ (2) 69-る。 モシの使用から以下のように大きく二分できるだろう。 (表3} 前半(-1680頃) ほぼ全ての文型がある 後半(1680頃~1856頃) 条件節はモシ~、 モシモ~。疑問文はモシ(ヤ) ~力?。推丑文は消滅
3 モシ(モシャ・ モシカ)疑問文
▼モシ~力? (A)現実世界で未経験 (1)で、話し手は「たくさんの乞匂人を見てきたが、 このような者をまだ見たことがない」 と現実世界での経験がないことが示され、 その上で「餓鬼道にたづねてきたか」と自問して いる。話し手は事態が成立する可能性が低いことを知りながら、成立するとすれば「餓鬼道」 という蓋然性を示し、 自問している例とみられる。 以下、 波線は事態や状況がわかる部分、 破線はモシ部分、 下線は構文要素を示す。 (1) 都であまたの乞勾人を見たれども、 このやうな者をばまだ見たことがない。魚.し餓鬼 道にたづねて来た空と思ふほどに、 彼もこれも次第に歩み近づく。(ヘイケ86) (2)について、「年取った叔父が恋をする」ことは孫にとっては稀なことと思っており、 可 能性が低いのではないかと思いながら、 その事態が真かどうか、 聞き手に確認を求めている 例である。 (2) (孫ー)申しまらする、 聞けばまことで御ざるか、 うそで御ざるか、 おうぢごは此ほ ど恋をさせらる>と申が惹まことで御ざる企。(枕物狂424) (B)成立の可能性が著しく低い (3)で、「(島の人が)言ふことばも聞き知らず」という現実の場面・状況から、Iitjいても無 駄と可能性の低いことを感じているが、 そのうえで畢態「我主の行方を知つた者がある」と いうことが成立するかどうかを思案している。 (3) 田もなし、 畠もなし、村もなし、 畑もなし、 おのづから人はあれども、 言ふことばも 聞き知らず。若.しかやうの者のなかに我主の行方を知つた者がある空、尋ねうと思うて、 (ヘイケ84) (4)について、「来る事ではなひ、 固ふ約束した」のだから、「覗く」という事態は成立の可 能性が低いと思いつつ、 その蓋然性を思案している。 (4) (吉田の何某)いや来る事ではなひ、 固ふ約束はしたれども、魚.し.覗く事があらふ 空と思ふての事じゃ、(みめよし433) - 68 - (3)(C)現実世界で存在しない (5)~(7)は、話し手は聞き手の身分が「ぴしゃもんむ天王」「ゑぴす三郎殿」「蚊の精」 であ るか否かを聞いている例である。それぞれ波線部のように「見なれぬ御かた」「西の宮あた りとおほせらる、」「昔物語に云ふ」などのように現実に存在していない人物と認めた上で、 疑問文の内容とするところは、 一般の肯否疑問文と異なって、非常に仮定的である。 (5) (男)是へ出させられたは、見なれぬ御かたで御ざるが魚.し.びしやもんむ天王で御ざ る企。(連歌毘沙門18) (6) (拇)西の宮辺とおほせらる、は、若ゑびす三郎殿にては御座なひ立。(えびす毘沙門 547) (7) (大名)それに付て今思ひ出いた、もり山は蚊の名所にて、昔も蚊の梢が住まふをと ったなど、、幼ひモノの昔物語に云程に、.登し蚊の精では有まひ空(かずまふ312) このように、現実に存在していない人物を疑問文の内容としている疑問文に、モシが付加 されている。それは、話し手は、 聞き手が存在の可能性が極めて低いと知った上で、事態が 成立するとすれば、 どういう菟然性があるのかという確認の仕方であると思われる。 以上の例から、(1)~(7)のモシ文は「話し手は成立の可能性がきわめて低い事態であると考 えながら、少しでも成立の蓋然性があるとすれば」 という意味を表わしていると考えられる。 「成立する可能性が低いと知りつつ、蓋然性を恥ねる」という疑問のあり方だと思われる。 |a 成立する可能性が低いと知りつつ、 蓋然性を尋ねる。仮定的な意味も認められるI (D)成立してほしいと願う 以上のように成立の可能性が低いと話し手が思っているのではなく、十分成立すると思っ てはいるものの、成立の可能性が低いというモシ文疑問文の特徴を運用し、モシを使用する ことによって、相手からの返答の負担を軽減するという用法も見られるのではないか。 (8)では、 誹諧が好きな話し手は「誹諧の会だったらよい」というような期待があると思わ れる。 「是は誹諧の会」であるか否かを聞き手に質問しているが、「誹諧の会であるかどうか」 は 聞き手が知っているだけの情報である。話し手は自分自身の期待・望みを差し控えて、成 立する蓋然性がある事態にモシを用いて、aタイプの話し手は「事態が成立する可能性が低 いと思うJという意味を利用して、聞き手に 聞いているのだと思われる。「佐藤さんですか?」 と聞くより「もしかしたら佐藤さんですか?」と聞いたほうが、もし間違っていたときの失 礼さが軽減される。この湯合もモシ文で葬ねることで、開き手に間接的な緑ね方となり、聞 き手に配感した質問の仕方になるのだと考えられる。モシの運用的用法と考えられる。江戸 時代の後半に出現する例である。 (8) 去かしこうない人、誹諧をすきけれハ、都へ上、 点者の会をも聞申さんと、はる文/ (4) 67
-田舎よ ・上りける。道にてある代官所の屋敷に、・人おほくあつまりゐるを、魚.し是ハ誹 諮の会でハござらぬ立と辱けれハ、百姓聞、さだめて灰のせんぎも出ませふといヘハ、(露 休置土産1707) |b 事態成立の希望があるが差し控え、モシを利用して「成立する可能性が低いJ という聞き方をする
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.... モシーヤ? (9) これはたゞならす、いにしヘハさもありし御身なりしが、おもハずもよにおちぶれて、 かゞるわさを免.し給ふに空と、 涙をこぼし候ぬといひけれは(醒睡笑1623) 疑問の力ではなくヤを用いた例である。前半の文献に良く出現するので、 古い文型と思わ れる。時代が下ると力に侵食される。「只事ならず」というように、普通でないと思いなが ら「もしかしたらこのような風体をしているのだろうか」と話し手は事態成立の菟然性を提 示している。aタイプである。 ... モシ~ヤ~? (10) 心ならず釆らせられたを軍兵ども前後左右にうち囲うだれば、わが方の者は一人もな 上、・・・(中略) •••そばに近うそうた武士をたそとたづねらるれば、経遠と答へたに:「魚 .k.此の辺に我方襟のもの空ある。船にのらぬさきに云ひ置かうずる事がある。尋ねて参 らせよ。」と営はれたれば(ヘイケ54) 係助詞ヤで話し手が想定した人物「我方様のもの」に限定し、その人が存在しているか否 かを質問している例である。「わが方の者は一人もなし」という現実の場面・状況から、「こ の辺に我方様のものやある」という事態は成立の蓋然性がないと言える。前述のaタイプで あって、「実現が不可能であることを知っているが、少しでもその蓋然性があったら」とい う窓味となっている。 ▼ モシ~モ~力? (A)事態の成立を例外的に描き(モの働き)、 成立の可能性の低さを際立たせる (11)で、都へ帰ることが神に祈るような事態(成立の可能性が低い)であることが描かれる。 事態の成立をモで例外的なものとして描く。aタイプである。 (11) やがてそこを那智の山と名づけてごとに二人ともに熊野詣のまねをして、都へ帰るや うにと祈られた。康頼入道あまりの詮方なさに、千本の卒都婆を作って仮名質名と二首 の歌をかいて、魚.し故郷の方へゆられゆく事立あらう立と云うて流いた。(ヘイケ66) (IOXII)の例では、 話し手はある個別的な事態が成立する可能性が低いと知っているものの、 肯否疑問文にモシを付加して、その蓋然性があるか否かを聞いてみるという文型である。そ して「我方様のものある」「故郷の方へゆられゆく事」という部分は、助詞ヤ・モを使うこ とで、「例外的にこういうこともあろうか」という提示の仕方で、より耶態成立の可能性の - 66 - (5)I |
低さを際立たせようとしていることが分かる。 (B) 今後相手がとる動作について、添加の事態として(モの働き)蓋然性を提示する ⑫は、 話し手が開き手が取る動作について意向を確認している例であるc話し手は 「心ざ しの深ひ者」「おかしひ小庵を結ふ」とあり、「あなたがこの小庵にお腰をかけられ、足をも 休め」ることを勧誘している。 しかし聞き手に直接に聞くと、話し手が開き手の行動を決め つけるということになり、失礼な言い方となる可能性がある。そのため、 話し手はモシを用 いて事態成立を可能性が低いものとして問いかけているのではなかろうか。 このように、成立する可能性が低い事態として聞き手に開くようにすると、聞き手の行動 を干渉するのではなく、問き手の意向・都合を配慮して伺ってみるという意味になるのでは ないかと思われる。前述bタイプである。 02) (所の者一)それは一段の事で御ざる、かやうに言葉をかくるも別なる事では御ざらぬ、 某は心ざしの深ひ者で御ざあるに依て、此ほどおかしひ小庵を結ふて御ざるが、魚.し・左 様の所に立�、お腰をかけられ、足をも休められまひ空o (腹不立588) ▼ モシ~ヤ/パシ~力? 事態を限定し(ヤの働き)その成立の有無についての提示 (13)-05)は、話し手が手掛かりとなる語「窓の梅」「骰」「雖」から料理の名前を 「梅干」「と ころ」「とっさか海苔」と連想している例である。「梅干を食べたか」と聞くところである。ヤ・ カ・モ・パシなどの係助詞や副助詞で取り立てられている例が多いのは、直接的な問い方で はなく、 「他にも事柄•原因・理由などがあるだろうが、たとえばその一つとして」という ように、開き手に質問や確認するという行為を、なるべく直接的でなく、 選択肢の一つとし て緑ねるということであろうと思われる。これをc タイプとする。 03) (要)池の氷の束頭は、風渡つて解く、窓の差の北而は、酋封じて寒し、塞竺挫にて おもひ出し候、若梅干翌まいつた立。(おか太夫591) U4J (要)気はれては、風新柳の髪をけづり、氷消ては波旧苔の骰を洗ふ、限を洗ふで思 ひ出してさふらふ、魚.しーところを世上まいつた立。(おか太夫591) n5) (要)駿既に嗚ひて忠臣あしたを待っ、あしたは開菊時、魚.い粥のすさひに、とつさ か海苔廷上まいつた空o '(おか太夫591) | c 他にも事柄•原因・理由があると思うが、 その中の一つを選択肢として提示するI ▼ モシ~モヤ~力? (16)で、話し手は「このやうな者をば見たことがないから、わが主の御行方を知らないだろ ぅ」と判断している。そのうえで、「此のやうなものもわが主のおんゆくへを知る」という 事態は、判断とは反対の事態であり、 成立する可能性が低いと考えている。 aタイプである。
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(6) 65-(16) 都であまたの乞勾人を見たれども、このやうな者をばまだ見たことがない。もし餓鬼 道にたづねて来たかと思ふほどに、彼もこれも次第に歩み近づく。魚.し.此のやうなもの もわが主のおんゆくへを知る事立翌あらう空と、「物申さう。」と云へば、(ヘイケ86) ▼ モシャ~? (l力平家は、こヽは山も高し、谷も深し、四方は岩石ぢやほどに、指手はたやすうよふ圭 はるまいと思うて打解けた所に、思ひもかけぬ閲の整に驚いてあわて騒いで、魚·Y-.や助 かると、側な谷へ韓け落つる所で「きたなし‘/、返せ‘/。」と云ふものも多かつた れども(ヘイケ167) 「よもまわるまい」と思っていたところ、想定外の方向から攻められ、「万が一にも助かる とすればjという俊い期待を抱いている。「助かる」という喚体句表現を伴っており、話し 手の期待が非常に強い形式である。前半のみの文裂である。 ... モシャ~モ~力? 既起の事実に反する事態成立についての蓋然性の提示 (18)で、「重療も、石童丸も続いてとび入る」という楊面から、「その二人は海に沈んだ 」と いう事実が成立すると言える。そこで話し手は「浮かみもあがらせらる」という事態が生じ ないものと知っているが、万に一つも成立する期待があるのだと思われる。「まさか~あっ てはならない」「万が一~あってほしい」というような期待.危惧である。モシャ疑問文の 特徴としてこのような話し手の期待.危惧を伴うことが指摘できる。 (18)思ひきって念ム ペん唱へさせられ、つひに. に らせらるれば、 景も、 童1 も続いてとぴ入るによって、 ……、聖もあまりの悲しさに、暴染めの袖をしぼり、魚.k 翌浮かみ立あがらせらる空と見たれど、(ヘイケ319) (11f..!8)は、話し手はその事態成立を期待したり危惧したりしていることが分かる。aタイプ よりも事態の成立が極めて歎しく、事態の成立への話し手の強い期待感を伴う点が異なる。 モシャ文の特徴といえる。 \d 事態成立の可能性が低いことを知りつつ、 成立を強く望むI ▼ モシャ~力? 生じてはならない事態成立についての蓋然性の提示 (19)で話し手は「常々人手にかけ申さず」と、全てを自分一人で行っていて、それは人任せ にすると「あやまりぬる事侍らん」と考えているからである。可能性の高低には言及せず、 寡態が成立してはならないと考えている。 (19) 又ゆひぶとに御座候も薬研飾なと、掌々人手にかけ申さず、大事の薬にもーしやあやま りぬる事侍らん立と、ミづから調合のたぴかさなり、(杉陽枝1680) - 64 - (7)
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モシャ~ヤ? ⑳ しかるに最前より物音開へねバ、魚し翌酔死などいたさず空と、ひそかに桶のうちを さしのぞき見れば、片すミにて、ふんどしを絞つてゐた(軽口駒佐羅術1776) 「しかるに最前より物音聞へねバ」という場面から、話し手は可能性よりも「酔死」とい う事態を成立してほしくないものとして想定している。(19訟》は事態成立の可能性には関与し ておらず、事態不成立を期待する点が他と異なっている。 |e 事態成立の可能性には言及せず、 事態不成立を期待するI
▼ モシモ~パシ~力? (21) (所の者二)御腹立尤もじゃ、御出家に申事こそあれ、ことに申やうが悪ひ、魚.し..屯、 経伍上御存空と申事で御ざる。(腹不立592) 「所の者一」の開き方が出家に失礼であるため、「所の者二」に資められている例である。 これは「出家」が「御経を知る」ことは当然であるにも関わらず、 モシモを使用したからだ と思われる。話し手は成立する可能性が高い事態を、 モシモを伎って可能性の低い事態とし て提示した。そのために開き手にとって無礼・無作法・無遠慇な言い方になったのであろう。 これはbタイプを基本とするが、逆に「可能性が低い」という聞き方が無速慮な言い方にな った例だと思われる。 | b’ モシ文を運用してr成立する可能性が低い」という聞き方(運用)が、逆に無作法な言い方になるI
▼ モシハ~力? 四 医師の見たてに、万一懐妊にてもあるべしといへり。心に覚ありやと尋けれハ、産塾 形、しばらくし案じ、外に覚もなけれど、登�!.\懐妊空。あとの月より、おならがトン トでませぬ。(軽口東方朔1753) 話し手は「外に覚もない」と思っているのだから、「懐妊」という事態は成立の可能性が 低いと思いつつ、その蓋然性を辱ねている。aタイプである。4 モシ推量文の用法
▼ 干シ~卜存ズル 引用節をとり、「存ずる(思う)」といった思考動詞を下接する文型である。話し手が考え ている事態成立の蓋然性を提示していると思われる。 四 すこ六と申さとう、よる、てうちんをとぽし、もてあるく。さる人、そのほうハ目も 見へぬに、てうちんハなにのためぞと申す。 ざとうきいて、いや、むかうより来るもの が、魚.しゆきあたろうとぞんじての事と申た。(軽口あられ酒1705) (8) 63-|f 話し手が今後生じると考えている蓋然性の提示
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'Y モシ~マイ 凶 ひよっとこなたの気に女房売って金調ようと、 よもや思ふてゞは有まいけれど、若し ニタ親の手前を遠慮して居やしやる圭止ものでもない。(仮名手本忠臣蔵1706~1748) 相手の心情を推し証っている例である。相手の心1背は 推し是るしかないが、「ひよっと」「よ もや」とあるように、 成立の可能性が低いということを知っている。aタイプである。 'Y モシ~モ~ム(ウ) 困 (所の者二)左様に申も、 両人ながらせがれをもつて御ざる程に、 手習ひをさせたひ と事で御ざる(出家)今までも幼ひ衆には教へて御ざる程に、易ひ事で御ざる(所の者 ー)庶竺工屯.し経生御存でござ立企(出家) ・・ ・かたのことく経をならふてござる(腹不 立591) 聞き手が出家であることから、 話し手は「定めて」経も知っているだろうと思っている。 この例で、 話し手は、 僧侶なら当然お経を知っているだろうという判断を、 モシ文にするこ とによって可能性が低いものとして提示していると思われる。しかし、この場合、モシを用 いて「お経を知っている可能性の低さ」という意味が付加されると、闘き手の出家に無礼· 無作法・無遠慮な言い方と感じさせる。事実、出家は「経を習っている」と反論している。b' タイプである。 ..., モシ~ヤ~ラン 閲で、「打たれて声の出でざる」という場面から、 話し手は「むなしくなる(=死ぬ)」と いう蕗然性があると判断していると思われる。話し手は「何しにむなしくなるぺきぞ(いや 理由がない)」という反語形式を用いて、「死ぬはずがない」という期待があると思われる。 ⑳ 此鉢を御覧じて、 言匝道断のたはけめかな、 うちころしてくれんとて、 しゅろば�き を取なをし、さんヽ/に打給ふ。うたれてこゑのいでさるハ、魚.しむなしく翌なりつ立 ム、何しにむなしくなるべきぞと、引立ミれバねほれ入、 目くちをこすりあちぴする。 (杉陽枝168) 切で、「嫌がる」という表現から、話し手は「来てほしくない」という期待がある。図⑰ は成立する蓋然性があると思いながらも、心理的に不成立を希望しており、eタイプである。 四和泉国に寺門といふ在所あり。一人の百姓、 名をこのミて、 ぴんほうとつきたり。又 一人は夷とつく。其所の地頭、 元日に魚.し.ひんほう礼始に翌来立ムといやかり、出ちか ひて氏神へ参りしが、 下向する道にて夷に行あふたり。(醒睡笑1623) 'Y モシ~事モ~ 依 手ぬくひにつヽミゆつぼに入に、 まろきものなれハ、 いか、してかとりおとしけむ、 - 62 - (9)みへす。 されとも、われゆつぽにりんの玉おとしたりともいわれず。魚.し.又人の手にわ たりたる蔓立はかりかたし。(鹿の巻節1686) 多くの蓋然性の中から「人の手にわたりたる」という一つの事態の疫然性を提示している のだと思われる。 cタイプである。 ▼ モシャ~ラン (29) 年六十よりしたの人ハ、生れてよりこのかた初めて逢たる大地しんなれば、たましゐ きえ、むねつぶれておそろしければ、魚.し翌まもりの神どもなり給ふ全ムとおもへる心 ざしにや、(かなめいし1663) 「守りの神」は現実に実在していない人物であることから、命題内容が成立する可能性が 極めて低いと言える。 話し手は、事態成立の可能性が極めて低いと知った上で、 その事態の 蓋然性を提示している。aタイプである。 ▼ モシャ~モヤ~アラム 図 旦那をさきとし御知音衆もより合、 是ハきづかハしき事なりとて、時の名医を入かへ ~かけまいらせて、 御いたハりハいかにと間バ、医師申されけるハ、 御脈ハいかにも よし、ふしんなる御煩と、 どれヽ/も申けれバ、ある時旦那知音衆、よりあつまり、此 御なやミの様子ハ、如何様湿熟のなやミとハ見えず、若き御僧のことなれバ、魚·Yo.登恋 などをパなされて、 かく思ひわづらひ給ふことも空あら立と、 一人申けれパ、をのヽノ‘ 此義尤しかるべし、とやせんかくやあらんと口々に申されけるが、(一休咄1668) 話し手は「若い僧侶だから」恋をしているという蓋然性があると判断していると思われる。 それでは露骨なので、話し手はモシを使って成立する可能性が低いという表現の仕方で、 開 き手に鉗骨ではない聞き方をしているのだと思われる。bタイプである。 ... モシャ~モヤ~ン (31) さてうらにやぶのありしに、此竹をきりて、 どうにつくるほどに、竹の子なとのじぶ んハ、ずいぶんたいせつにしたり。 されば、魚.し..翌人の竹の子をぬすミてきりも翌せム とおもひて、(鹿の巻策1邸6) 話し手は竹を大切にしているが、竹の子を盗んで切ったりする者もいるかもしれないと盗 然性の一つを挙げている。前述のcタイプである。 (10) 61
-5 中世末~近世期におけるモシ疑問文・ モシ推量文の用法
ここまで述べて来たように、モシ疑問文・推批文には少なくとも以下の用法が見られる。 事柄(::::;
{ 一つの事想を想定 [石巴烹ピ、0:9
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叫話し手は今後生じると考えている蛋然性の提示.(fI 複数の事烈のうちの一つ:(Ill他にも!JI柄•以因,理由があるだろうと考えているが、たとえば、 への懲度 その一つとしての董然性を提示する。可詑性の応低には関与せず、(
いくつかの正然性を穎列するうちの一つをモシ文で提示するJIItと。IC) lJI懇成立への王然性{叩頃成立の可能性は低いが、成立してほしいと紐ゃJuitfの事態として提示する。Id) 判断と情意性 N)!lt隕成立の可詣性には関与せず、成立してほしくないと期符するl•I 聞き手へ 匹し手がIJI懲の成立を紅したり、不成立を令望したりしているが.あえてlJI態の成立を可能性の低いものと の配慮{
喝頃成立の町能性の応いものを、あえて可倍性が低いものとして提示するJ1j法。モシ文aの遅Jり的用法して提示する用法。モシ文aの運用的1ff淑b) {b') これらは(I)~(V)のように蓋然性の提示について、話し手が可能性が低いとれa)、今後生じ ると見ているとか(f)、多くの蓋然性の中の一つと見ているとか(C)、事態成立の菟然性につい て話し手がどのような気持ちでみなしているか、ということが反映している。このうち(d)や 3節のモシ~力(A)は現実とは異なる事態を想定しており、仮定表現とも重なるところがある。 佃XV)のように事態成立や不成立への期待がみられる例もあり、特にモシャは(l7)のように中世 末朋•江戸期前半には情意的な用法へ移行していったと思われる。 またこれとは別に(吼W)のように、開き手に答えやすいように、可能性が高いと知りつつも 可能性の低いものとして尋ねるというような用法 (b b') もある。(a)の運用的用法と言える。 (b) や (b')は傾向としては江戸の後半に多く、モシ文が用法を狭めていくにあたって、モシ ャ文が情意的表現へ縮小していくこと、モシ文に述用的な使用が行われていくこと、などの 要因を指摘できそうに思われる(*注l)。6 おわりに
祖では、中世末~近世期のモシ疑問文・推遥文を調査し、事柄について話し手がどのよ うな見方をしているかという点を分析してきた。 モシ疑問文・モシ推量文には、モシは事態成立の起こりにくさ、可能性の低さを表したり、 今後生じる事態の提示をするなど耶柄成立の盗然性についての用法もあるが、一方で、モシ は事態成立や不成立を期待するような情意的な用法もある。また耶態の成立を可能性の低い ものとして提示するという用法や、事態成立の可能性の高いものをあえて可能性が低いもの として提示するなど、運用的な用法も見られた。 現代語でも相手が佐藤さんだと確信していても、「佐藤さんですか?」より「もしかした - 60 - (11)ら佐藤さんですか?」と聞いたほうが、質問の仕方が間接的セ、可能性の一つとして・ 「佐藤」 という名前を挙げたという意味が強く出現するので、名前を1lll違えた場合の無作法さや無遠 慮さが軽減されるという働きがあるように思われる。モシは成立する可能性の低い事態を設 定するのに用いられ、それを利用して 可能性が高いにも関わらず、低いものとして提示する という運用的用法も多く指摘できる。傾向としては後半の例に多いので、モシ疑問文・モシ 推伍文が消滅する原因の一つとして、モシ疑問文・モシ推最文が本来の用法、菟然性の提示 から運用的な用法へ移行したことも挙げられるかもしれない。 また、モシとモシャ・モシモとの間に、用法上の直複性と共通性があることが分かる。こ の現象について、この時代においてモシ疑問文・モシ推祉文は既に消え始めており、その代 わりにモシャ・モシモが用いられるようになったことと関係していると考えられる。 本稿はモシ疑問文・モシ推祉文について考察を行った。モシと共起する条件節では仮定表 現が主であるが、モシ疑問文・モシ推最文においても、現実離れした事態を想定したり、話 し手の考えとは逆の事態を想定するなど、仮定用法と直なる用法もあった。 注l 以上に対して、モシが共起しない疑問文・推fil:文の命題内容には、事態が成立する可能性が低 いといった主観的態度がないように思われる。 (相手に関することの確認}さうあって糞士を負せられて日畠に出るとき、件の墟馬に行き逢えば、 墟馬が立ち留まって言うは、「ここを通るはいつぞや対面した乗り馬ではないか?......」と恥ぢしめ て過ぎた。(イソポ460) (相手への疑問}となりの小娘が来て、こたつにあたつてあそんで居るを、女房、コレ、おめへの 所でも、こたつをするか。アイ。しやすといふ。(独楽新話1788) 上例のように、非モシ文の場合、単に真か偽か、事態成立の並然性があるかないかを確認・質問す る文である。肯否疑問文は、たとえば 「曹くものある?」と昂ねるt場合、聞き手が箪記具を持ってい ると思って開くように、場合によっては肯定の傾き (bias) を持つが、事態成立の可能性の高低とい うような主観性とは無関係である。 参考文献 江口正弘(1994)「天草版平家物語の語彙と語法」笠IIJJ書院 永田里美(2001)「中古和文系資科における副詞「モシ」」「筑波日本語研究」 6 仁田義雄・益岡隆志粗(1991)「日本語のモダリティ」くろしお出版 山口発二(2000)「副詞「モシ」の通時的変化とその周辺」「京都語文」 6 益岡径志(1991)「モダリティの文法」くろしお出版 渡辺実(1971)『国語構文論」塙曹房 本稲は平成23年度岡山大学言語国語国文学会(2011.7.9 於岡山大学文学部会議室)で「中 (12) 59
-世末期・近世初期口!it資料におけるモシ文の命題内容の!
t
相」として口頭発表したものです。 席上、ご教示いただいた諸先生方に記してお礼申し上げます。また岡山大学より「平成23年 度岡山大学国際交流基金外国人研究者等招聘」の支援を受けました。記して感謝申し上げま す。 (こう ぶんき 台湾・開南大学助理教授) - 58 - (13)(14) (表1) 57 モ 文 モ目シ モ モヽ 目 文 シヽ シ
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悶
モシ条件節 モシャ条件節 モシモ条件紐 モ モシ疑問文 モ シf塁問文 モシ推量文 モシャ推量文 モ モ�モ�モ�モモモモモモモモ モモi
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名 シモ シモ シ モシ モモモモモ モモ モモモモモ•モ•モ モモモモ モモ モモモモモ モ シ モ ャ シ モシヤ 令 モ ャ シ シ シ ナ シ I シ タI シ タ ! シ シ ・ン シ シシ シ モシ シ シシシ シシ シシシシシシシ シシシ シモシ ’シ‘ シシシシシ 未然 9 V\ くヽ 巳然V\ く ト\ タ I ナ I ト\ ト I テ I 事ノ ヤヤI ヤ\ ヤ I モモモモ モ・モ \ I I I〗\
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? I 力 I シI ャ I °カ ヤ モ シ I カ イ1 モ ラン ナ I ァラ ヤ1 9f 9f ヽ` Jラ 'C パ リモ Iラ( ラ バ ヽ ヽ i ララ カカ 力 力 ル フン ンムン 天互版ヘイケ(1592) I I 6 3 I l I I 2 I I 1 1 I I 23 天立版イ ‘/*(1593) I l 2 戯言養気集(1596-1615) I l 寒)II入道箪記(1613) l I 匿睡笑[16231 J 2 I I 7 虎明本狂言(1642) 2 I I 1 1 I 9 I I 2 I l 22 かなめいL{16631 I I I 3 理屈杓lb(1伍7) 2 2 3 I 8 一休咄(1668) 2 l 3 私可多咄(1671) I I 狂歌咄(1672) l I 一休!〖囚物栢(1673) 6 I 2,
さのふ11ftふの物ffi(l624~1紐) I l 2 原f1/*四新籍(1676) I I 秋の夜の友(16711 2 2 字喜蔵主古今咄1il(1678) I I 当世駐口咄協(1679) I I 2 杉陽枝(16&1) 2 2 l I I I 1 l 10 鹿野武左衛門口伝咄(1683) I I 2 崖の巻蓬(l岱6) I I 1 I 4 篭耳(1687) 4 2 6 当世はなしの本(1684~!688) I I 正宣咄大覧{16871 2 I l 4 伎渭瑚珠(1690) I I 遊,Jヽ憎(1694) l I 初廿卒噺大に(l6%) l 2 3 軽口あられ洒(!705) 1 1 仮名手木忠臣蔵(I706~l7侶) I I l 2 I 6 霞休霞±章(l面) 1 I 軽口星鉄1!l(1714) I I "口櫂蔵主(1716) I I 1 3父 (15) 水IT花(1716~17あ) I I 2 軽口独良櫨(!7!8) I l 軽口這菜山(1733) I i 狂口褐億利(1753) I I 軽口東方朔(ljQ) I 2 3 絵本S宝”(1764~lm) 1 I 舷本経口福笑(17“) I I 素章棗(Im) I I 簑の子鱗(IT2) I I 再成覺(IT13) I 1 2 tt形(Im) I l 駐口大屈往(I73) I I 牡口五色后(1714) I I 新冨11なし一のしり(175) l 1 聞童子(!TIS) I l ーの冨(1776) I I 高笑ひ(1776) I I 軽口駒佐羅衛(W76) I I 2 年忘噺角力(1776) I I 1 3 立噺人集(1716) I I 2 東合(lm) I I 気のくすり(lm) I l 2 笑長者(1780)