東北大学遺伝生態研究センター通信 No. 33
著者
東北大学遺伝生態研究センター
発行年
1996-07
遺伝生態研究センター通信 No.33
泉丸丸苧
腰ijBi聖誓_,,iB+
旧〔
/ー ′ 、 1996. 7. No.33一一紫外線UV-Bによるダイズカルコンシンターゼ遺伝子の
発現調節と転写因子の探索
弘前大学・遺伝子実験施設 赤 田 辰 治 植物の二次代謝産物フラボノイド類は,葉の表皮 組織に蓄積し強力なUV-B吸収を示すことから,紫 外線防御物質としての重要な働きを持っと考えられ ている1).フラボノイド代謝経路の第一反応を触媒 するカルコンシンターゼ(CHS)の遺伝一二円ま,ペ チュニア2)やチャ3)並びに多くのマメ科植物4)では 多数の遺伝子によるファミリーを構成している.一 方,フラボノイド類には紫外線防御以外にも様々な 生理的役割分担が知られており, CHS遺伝子ファ ミリーを構成するそれぞれの遺伝子間には何らかの 生理的役割分担が行われているものと想定される. 我々はこれまでダイズにおけるCHS遺伝子ファミ リーについて7つの遺伝子をクローン化し,その構 造解析を行ってきた5).これらのCHS遺伝子のう ち,紫外線防御に特異的に関わるファミリーメンバー があるのではないかと予想されたのでその同定を試 みた. 1.紫外線特異的ファミリーメンバーの同定 暗所発芽して2日目から5日目のもやしに, UV- Bを付加した光(UV-B+)と,その対照としてUV-Bをカットした光(UV-B-)を6時間照射し,下 陸軸におけるCHSmRNAの蓄積をノーザン法で解 析した.その結果,いづれの成長時期のもやしにお いても光照射によってCHSのmRNAが蓄積されて きた.また, UV-B+の照射による蓄積はUV-B-の照射に比べてはるかに多量で, 2 -4倍の量に達 吹 紫外線UV-Bによるダイズカルコンシンク-ゼ遺伝子の発現調節と転写因子の探索 弘前大学・遺伝子実験施設 赤田 辰治 1 酵母ミトコンドリアゲノムの多様性 植物の環境紫外線UVBによるDNA損傷とその修復機能 東北大学・遺伝生態研究センター 岡本 浩二 4 ′ 東北入学・遺伝生態研究センター R山間 純 7 平成8年度ワークショップの紹介「遺伝生態情報の可能性」 東北大学・遺伝生態研究センター 南洋 究 11遺伝生態研究センター通信 No.33 2 3 4 5 + 一 十 一 十 _ + _ 図1.ノーザンプロット法によるCHS転写物の 検出 2-5日間暗所発芽したダイズの芽生え(2, 3, 4, 5)にUV-Bを含む白色光(+)およびUV-Bをフィル ター除去した白色光(-)を6時間照射し,下腿軸よ り調整したRNAにおけるCHS遺伝子転写物をGmch83 のエクソン2の領域(chs)及びActin遺伝子のPCR断 片(act)をプローブとして検出した. した.このようなCHS遺伝子の光誘導及びUV-Bに よる発現上昇は,発芽2日目のもやしにおいてはあ まり強く検出されず, 3日冒以降のもやしにおいて 特に顕著に現われることが判明した(図1).発芽 後2-3日目のもやしは,丁度下座軸の急激な伸長 の始まる時期にあたることから,芽生えが地上に頭 を出すタイミングにあわせてCHS遺伝子の発現誘 導能が発達してくるような,遺伝的プログラムが組 まれていると想像される. 一方,遺伝子特異的な領域のPCR増幅により, 7つのCHS遺伝子を区別する実験系を設定した. この系を用いて,遺伝子特異的なRT-PCRにより, CHSmRNAからそれぞれのファミリーメンバーを 個別に増幅した.その結果, UV-B特異的に発現量 の上昇する遺伝子は一つではなくむしろ光誘導され る遺伝子(第1, 3, 5, 6, 7遺伝子)は全てが UV-Bによる影響を少なからず受けることが明らか となった(図2). CHS遺伝子ファミリーの上流の プロモーター領域にはいくつかの共通配列がみられ るが,その中にUV-B特異的なプロモーター因子の ある可能性が示唆された.特に, H-boxはUV-Bに ¢◎¢㊤㊦㊤㊦㊤¢㊤㊦㊤ 0 ュ R 9 出 7 8 R 7 加 6 6 R 5 2: Ln 4 R 3 拭 34 2 2 R ュ Z: ュ 図2. RT-PCR法によるCHS転写物の遺伝子特異 的な増幅 遺伝子特異的なプライマーFPl (レーン1, 2), FP2/3 /4 (3, 4), FP5 (5, 6), FP6(7, 8), FP7 (9, 10) を用いたPCR増幅。暗所発芽3日目の芽生えにUV-B+ 及びUV-B-を6時間照射し,下腹軸より調整したRNA をテンプレートとしたRT-PCR産物(R)とマーカーと してのコントロール遺伝子からのPCR産物(Ml, M234, M5, M6, M7)を5%アクリルアミドゲル電気泳動で分 離した. よる影響を受けた5つの遺伝子に共通して存在する プロモーター因子として注目された. 2. CHS遺伝子の転写因子の探索 CHS遺伝子のUV-Bによる転写調節に関わる因子 として, MYB相同性因子が一つの有力候補と考え られた.トウモロコシにおけるMYB相同性因子P はフラボノイド合成遺伝子群を活性化する因子であ るが,そのプロモーターDNA上の認識配列cc(T/ A)ACCは上述のH-boxのT塩基配列に相当する6). そこで,ダイズのMYB相同性遺伝子の分子的探索 を行った. 植物のMYB相同性遺伝子において特に良く保存 されているDNA結合領域のアミノ酸配列をもとに プライマーを作製し,ダイズの全DNA及び全RNA を鋳型と一して遺伝子の一部をPCR増幅した.得ら れた増幅断片のクローン化及び塩基配列の決定を行っ た結果,合計16種の塩基配列の分子種が同定され, その全てがMYB相同性遺伝子に高い類似性を示し た(図3),このうちの2種のクローンに対応する 醇畷 \\_・・/
遺伝生態研究センター通信 No.33 ◎㊤¢¢◎9⑳88◎⑳9 10 20 30 40 50 60 2 8 0 4 3 5 ュ 6 5 3 2 3 4 5 ュ 9 ら a ら a a a a a a a a ち a a 7138 ュ 2 2 2 ュ ュ ュ Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y 卵卵卵Z:D卯卵Z:D押印卵川畑川畑川畑 ′ 、\、 r ・・∼ 1 6KSCRIJSWMN YLRPDェKRGN 1 GKSCRLR仙N YLRPD工KRGN 1 GKSCRLRWVN YLRPGLKKGQ 1 GKSCRLSWVN YLRPDLKRGQ 1 GIくSCRLRWl-N YLRPDVRRGN 1 GKSCRLRWZN YLRPDVKRGN 1 GKSCRLSWZN YLRPDVKRGN 1 GKSCRLRW工N YLRPDLKRGm 1 GKSCRLRWN YLRPNLKHGH 1 GKSCRLRWMN YLRPNLKRGN 1 GKSCRLRWTN YLRPD工KRGK 1 GKSCRLRWLN YLRPNVRRGN 1 GKSCRZ.SWLN YLKPD工KRGN 1 GKSCRLRWZN YLRPDVKRGN 1 GKSCRLRWA.N YLRPD工KRGR 1 GKSCRLRW工】Ⅳ YLRPD工KRGN 工ApEEDDLェェ ZTPEEDDLZ t LTPLEEEZ工工 王TSOEES工工L ZTLQEQ工℡工L FTPEEEE℡工工 FTLEEEENェェ FSQQEGDL工工 FSVEEEQL工V FTQEEEEC工工 FSLQEEQT I I 王TLQEQLL工L 王SSDEEDl.工工 F℡pEEEEで工工 FSFEEEEA工ェ FTZEEEETZ I RMHSLLGNRW SL工AGRLPGR TDNE工KNYW RMHSLLGNRR SLZAGRl.PGR TDNEZKNYW
ELHATLGNKW ST工AXYLSGR TDNEZKNYW
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Arabidopsis 1 GKSCRLRWN YLSPNVNKGN FTEQEEDLtェ RLHKLLGNRW SL工AXRVPGR TDNQVKNYW petunia 1 GKSCRLRWTN YLRPD工KRGN FTREEEDTZ工 QLHE比LGNRW SA工AARLPGR TDNEZKm Barley 1 GKSCRLRW工N YLRPDLRRGN FSHEEDEL工Z KIJHSLLGNKW SL工AGRLPGR TDNEZKNYW
図3.ダイズゲノムDNAからのPCRおよび全RNAからのRT-PCRにより得られたクローン(gMYBおよ びrMYB)の塩基配列より演挿したアミノ酸配列と既知の植物MYB相同性遺伝子のアミノ酸配列の比 較 下線部はPCRに用いたプライマーの領域を示す. 遺伝子は, UV-Bによる発現量の増大を示し,これ らの遺伝子産物としてのMYB相同性因子がCHS遺 伝子の転写調節に関わっている可能性を示唆した. cHS遺伝子の転写因子としてはG-boxを認識す るG-box factor (GBF)がよく研究されており, パセリ7)やインゲンマメ8)のCHS遺伝子プロモー ター上ではG-boxとH-boxが一定の間隔をおいて配 置することがプロモーター機能に必須であると報告 されている.一方,ダイズのCHS遺伝子ファミリー においてはG-boxとH-boxが同様の間隔で配置する プロモーターは第7遺伝子に限られることから, H-boxを認識する転写因子が中心的役割を果たしてい る可能性がある. MYB相同性遺伝子は個々の植物 種においてかなり多数存在し,それぞれ多様な遺伝 子の発現調節に関わっていると報告されている.ダ イズにおいて今回解析された16分子種もそれぞれが 多様な生命現象に関わっているものと考えられる. その中でUV-BによるCHS発現の転写因子が同定さ れれば,それが転写調節因子として他にどのような 遺伝子の発現調節に関わっているか,またダイズ品 種間にみられるような紫外線耐性の差異にどのよう な関わりを持っかといった点に興味が持たれる. 引用文献
1. Worrest R.C. and Caldwell M.M. eds (1986) Stratospheric Ozone Reduciton, Solar Ultraviolet
Radiation and plant Life. Springer-Verlag, Berlin
2. KoesR.E. e£ αZ. (1987) PlantMoIBiollO :
375-385.
3. Takeuchi A. et al. (1994) Plant Cell Physio1 35 : 1011-1018.
4. RyderT.B. et al. (1987) MoIGenGenet210 : 2191
233.
5. Akada S. and Dube S.K. (1995) Plant MoI Bi01
29 : 189-199.
6. GrotewoldE. et al. (1994) Cel176 : 5431553
7. Schulze-Lefert P. et al. (1989) PlantCell 1 :
707-714.
8. Loake GJ. et al. (1992) Proc Natl Acad Sci USA 89 : 9230-9234.
ゝ汀ILXlヽズヽぜヽヽ米■l〆I 遺伝生態研究センター通信 No.33
酵母ミトコンドリアゲノムの多様性
一遺伝子の分子進化と遺伝子系の変化-東北大学・遺伝生態研究センター 岡 本 浩 二 はじめに ミトコンドリアは固有のゲノムを有し,独自の発 現と調節の機構を備えている.その機能は,ごく一 部の例外を除いたあらゆる真核細胞の生存に必須で ある.これまでに,様々な生物のmtDNAの構造が 解析され,その普遍性が解明されてきた.さらに菌 類においては,ゲノムサイズ・遺伝子構成・遺伝コー ドなどの,遺伝子系のしくみがきわめて多様である ことが明らかになり,ミトコンドリア遺伝子の分子 進化とは相関していない変化のプロセスが示唆され ている1).F
ATFqS /勺 抽nsenula tdn90L mtDNA 27694bp1.酵母Hansenula wingei mtDNAの全塩基配列
決定 H. wingeiは北米西部の松樹やそこに住む甲虫か ら分離された出芽酵母で,性的細胞認識の研究に古 くから用いられてきた.最近, mtDNA制限酵素多 型による系統関係の推定をきっかけにして2),その 全塩基配列27,694塩基対が決定された3).この環状 ゲノムは,大・小サブユニットrRNA(SSU・LSU) ・ 25個のtRNA ・ 3個のシトクロム酸化酵素サブユニッ ト(COX)・ 3個のATP合成酵素サブユニット (ATP)・アポシトクロムbタンパク(COB)・ 7個の NADH脱水素酵素サブユニット(ND) ・ 1個の リボソームサブユニット(VARl)をコードして いる(図1). VARIは出芽酵母に特徴的な遺 伝子である.また, DNAおよびアミノ酸配列 の比較からは, H. wingeiミトコンドリアはパ ン酵母に近縁であることが示唆された.これ に対し,酵母mtDNAは入り遺伝子をコードし 夢笥 -∇ ないと従来考えられていたにも関わらず, H・ wingeiセその存在が初めて確認された4).こ れは,糸状菌などのカビと類似する点である. また,遺伝コードもカビタイプであった. \ノ 2.ゲノムサイズ
J A A
図1酵母H. wingei mtDNAの遺伝子地図 遺伝子領域を黒いボックス,その中のイントロンを白いボック スで示す. tRNAは細いバーで表し,対応するアミノ酸の1文字表記で示 す.白旗は,転写のプロモーター配列([A/T]TATAAG[T/ A] [A/T])の位置を指す.全ての遺伝子は,時計方向に転写 される. H. wingei mtDNAはパン酵母(約80kb) よりコンパクトである.前者の場合,イント ロンはLSUとCOXIにしか存在せず,比較的大 きな遺伝子間領域にはtRNA遺伝子がコードさ れている.すなわち,ゲノムサイズはイント ロンの数と遺伝子間領域の大き.さによる.動 物でノは約15-16kbではぼ普遍的であるのに対し, 植物や菌類のゲノムサイズは非常に多様であ る.このことは,遺伝子核移行に基づく mtDNAの進化機構を考える上で興味深い.遺伝生態研究センター通信 No.33 ⑳缶◎¢¢㊤¢㊤0QeKD 3.遺伝子構成 Ⅳロを除く他の遺伝子は,パン酵母と共通してみ られる(表1).それらのDNAやアミノ酸配列の相 同性からは, H. wingeiはカビよりもパン酵母に近 縁であると考えられる.とりわけ, VAIuはカビに は存在しない遺伝子であり,酵母特異的といえる. ただ,アミノ酸配列の相同性は約35%であり,他の 遺伝子に比べて低い.また前述のように, Ⅳβ遺伝 /I Eiiia みた場合, H. wingeiが他の酵母やカビとどのよう な位置関係にあるかを知るために, SSU遺伝子の進 化速度を用いて分子系統学的解析を行った5'.まず, ssU遺伝子の全長をSlマッピングにより決定した. 得られた塩基配列情報から推定したSSUの2次構造 (図2)は,特に普遍的保存領域(U領域)におい て,大腸菌の16S-rRNAと非常に類似していた. SSUのU領域は8ヶ所知られており, rRNAのコア 表1 mtDNAにコードされたタンパク質のアミノ酸配列の相同性 Gene s_cerevisiae ㌘蒜amiToin:cidiidenit‰占. .Jdd.Llぴ
霊霊諾冨監邑
8397138 7 _,, + ,_ ] I I I I L 1 9736436 4 7777688 3 654545′○0096165● . ● , ● ● ●- 】 一 1 l I l 】q′829938 655655 4333443394236 9048528● 。 ● ● ● ● l ● ● ・ ● ・・ ● l22AV2一b3 7235751 702832580 59● ● ● ● ● ● ● _ ● 7 7 ● ・7 140ノ870⊥373 7′○ 上U′05555643 43 50382017 49 50 ● ● ● ● ● 。 ● ●7 ● ・7 ● ●-14421419 98 94 ′055655′04 33 33S. ce,evL・sjae:パン酵母、 S. pombe:分裂酵母、 P・ ansen'na:タマカビ、 N・ C,assa=アカバンカビ、
A nL・duJans:コウジカビ.バーは遺伝子かないこと、?は未解析であることを表すo 子はパン酵母にはコードされておらず,パン酵母と は遺伝子構成が異なっている. 4.遺伝コード tRNAの構造変化にともなって,菌類ミトコンド リアの遺伝コードは,一部が普遍コードから変化し ている.パン酵母では,普遍コードの終止(UGA)・ イソロイシン(AUA)・ロイシン(CUN)が,それぞ れトリプトファン・メチオニン・スレオニンに変わっ ている.これに対しH. u)ingeiでは,終止コドンが トリプトファンに変化しているだけである.これは カビミトコンドリアに共通する特徴である. 5. rRNAからみた分子系統学的位置 これまでに得られた知見から, H. u)ingeiミトコ ンドリアゲノムはパン酵母とカどの両方に共通する 特徴を備えているといえる.遺伝子の分子進化から と呼ばれる中心部分を形成すると考えられている. これに対し,保存度の低い多様な2次構造をもつ領 域(V領域)も7ヶ所みられた.酵母3種・カビ2 種・大腸菌のU領域の配列をアラインメントし, C LUSTALプログラムにより進化速度を推定,系統 樹を作成した(図3).その結果, H. wingeiミト コンドリアはパン酵母に近縁であることが示唆され た. 6.多様化の原因 菌類ミトコンドリアゲノムのゲノムサイズ・遺伝 子構成・遺伝コードは多様性に富んでいる.この多 様性は,分子進化学的に近縁な酵母種間においても 同様にみられることがわかった. ①ゲノムサイズの 大きさは遺伝子間領域とイントロンの大きさに比例 している.パン酵母の遺伝子間領域はAT配列に富 んでいるが,その中にGCクラスターと呼ばれる配
遺伝生態研究センター通信 No.33 Vl lJPUP一Jn仙P B \ 5' 3' 図2 SSU rRNAの2次構造モデル
A: H. wingei, B:大腸嵐 A:U, G:CおよびG:∪塩基対合をパーで, G:Aをドットで表す. U1-日8は保存
領域, V1-V7は変化領域を示す. 列が200個も存在する.イントロンの多くは可動性 をもち,同種間はおろか,異種生物問における水平 伝達をも起こしうると考えられている. ②かつて mtDNAにコードされていた遺伝子のほとんどは, 進化の過程で核ゲノムへ移行したといわれている. 普遍遺伝子と呼べるものは, LSU・SSU・ COXl ・ CO月のわずか4種である(tRNAを除く).他の遺 伝子の核移行には,生物種によって何らかのバイア スがかかっているように思われる. ③遺伝コードと tRNAの構造に変異を起こす原因としては,小さな ゲノムサイズ・ATに富む配列・ゲノムにコードさ れるタンパク質の少なさなどが考えられている.今 のところ,遺伝子系の変化を引き起こすメカニズム や系統進化との関係はまだ良くわかっていない. おわりに 接合菌類は,菌類ミトコンドリアゲノムの研究に おいて最後に残されたフロンティアのひとつである. 単細胞・多核という細胞体制の特殊性や,劇的な性 現象をもっカビ.そのミトコンドリアの知見により, 菌類のみならず貞核細胞一般に関する普遍性と多様 性の理解がさらに深まることが期待される. ■■lら
遺伝生態研究センター通信 No.33
◎㊤◎㊤◎㊤¢㊤◎㊤◎㊤
図3 SSU rRNAの∪領域から推定した進化距
離にもとづく系統関係
ANl:コウジカビ, ECO:大腸菌, HWl: H. wingeL
PAN:クマカビ, SCE:パン辞母, SPO:分裂酵母. 大腸菌はアウトグループとして用いた。系統樹の枝 の長さは,推定した進化距離に比例する(スケール 参照).数字は, 1000回のブートストラップサンプ リング中,系統樹の分枝パターンが得られた回数の 割合(%). 引用文献 1.岡本浩二はか(1994)蛋白質・核酸・酵素39: 1638-1650.
2. Okamoto, K. et al.(1991) Jpn. J. Genet. 66 :
709-718.
3. Sekito, T. et al. (1995) Curr. Genet. 28:39153.
4. Okamoto, K. et al.(1994) Mol. Gen. Genet. 243:
473-476.
5. Okamoto, K. e£ α7. (1996) Genes Genet. Syst.
71 : 69-74.
植物の環境紫外線UvBによるDNA損傷とその修復機能
東北大学・遺伝生態研究センター 日出間 純 環境紫外線UVB 今日,成層圏オゾン濃度の低Fに伴う紫外線竜の 増加が,植物の生育を阻害し,農作物の減収をもた らす可能性が懸念されている.紫外線は,タンパク 質や核酸を破壊し,細胞に変異や癌化を引き起こし, ひどい場合には死に至らしめるといった極めて脅威 的な生物効果を有している. しかしながら,これ ら紫外線の効果は,人工的に作り出された紫外線 UVC (280nmより短波長の紫外線;いわゆる殺菌 燈の光)によるものであり,実際の環境において問 題となるのは, UVB (280-320nm)領域の紫外線, いわゆる環境紫外線である. このUVBにより引き 起こされる生育阻害については,生理学的,生化学 的,形態学的といった様々な側面からの解析が行わ れ,様々な要因が指摘されている1). その要因の 1つにDNAの損傷(ピリミジンダイマ-の生成)遺伝生態研究センター通信 No.33 とその修復能(光修復,暗修復)が考えられてい る2). しかし,植物の紫外線UVBによるDNA損 傷とその修復機能に関する研究は極めて遅れており, DNA損傷量と生理傷害の程度の関係,傷害の生理 的機能など不明である.この様な研究の遅れの理 由の1つに, DNA損傷量を定量的に測定する技術 /が困難であったことがあげられる.近年,遺伝子 実験技術等の進歩により, DNA損傷量の測定方法 が幾っか開発された.我々は,その1ハつである
Alkaline Unidirectional Pulse-Field Electropho
resis法(UPFE法)3)を開発したB. M. Sutherland
(Brook-haven National Lab. USA)らとの共同 研究により,国内で初めてこのUPFE法による測定 システムを作製した.ここでは,本システムの紹介, 並びにこのシステムを利用してこれまでに得られた 結果について紹介する.
UPFE法によるcyclobutyl pyrimidine dimer
(CPD)の測定について
紫外線による主なDNA損傷産物は, cyclobutyl
pyrimidine diner
(CPD),及びpyrimidine-(6-4)-photoproduct ((6-4) (CPD),及びpyrimidine-(6-4)-photoproduct)の2種頬 で,全DNA損傷産物のうち,およそ75%がCPD型, 残りが(6-4) photoproductであると言われる4). 本システムは, CPD型を測定するものであり,特 徴としては, ①ラジオアイソトープを使用すること なく,生成したCPDの絶対量(base pair当たりの cpDの量)を測定することができる, ②他の方法 と比較し,組織(植物体)から一度DNAを抽出せ ずに測定できるため,少量のサンプルで,かつin vivoをより反映したDNA損傷量を評価できる,と いう利点を有している.しかしながら,この方法で は, (6-4) photoproductの測定を行うことはでき ない. 次にこの方法によるCPDの定量方法につ いて,簡単に説明する(図1参照). ①照射処理さ れた葉を瞬時に細かい切片に切り刻む. ②葉切片を アガロースで包埋し,アガロース電気泳動用ゲルの コ-ム内に入る大きさのプラグを作成する. ③proteinase K処理した後,各プラグにUV
endonuclease (Micrococcus Luteus由来の部分
精製標品) 5)処理を行いCPDの生成部位を切断する. ④アルカリ処理した後,アルカリ条件下でのパルス
¢¢⑳㊤QQ◎㊤㊦◎㊦㊤
DNA Preparation of Plant for Alkaline UPFE Met!lpd
Chopped the leaf for less than lmin・
L
Made the 1.0% AgarOSe plugs
I
proteinase 冗 treatment
l
PMSF treatment
l
MicrococcllS ttLtetLS tJV endonuclease treatment
l
Alkaline Unidirectional Pulse・Field Electrophoresis
、 I: -二二i_-: --I:- :;- ニ--:-: 1 +endo r +oH- Tr
-一∴二二二__
Yt! TIT,El ALmLTIIE AG^ROOE GZ:i 〆有声ll::=二二 一 +OH IrT-tl. -I--. 11 -____-l r LETJGTIt Drlh- t)NA+ t.t:NGTflST^ND^TWミI ENDO ENt)0 EIT^Nt)LRDB
ム11= i雪諾 Eq.1
S p(i)・dx d'-Ln-I(+e) -Ln-1(-e) Eq. 2 L,n ;平均分子量 L(I) ;移動度Xにおける分子量 p ( X ) ;移動度Xにおけるethldlum bromlde染色の蛍光強度 4';DNA損傷の頻度 くどリミジンタイマーの数/kb) Ln (+/e) ; UV endonuclease処理されたDNAの平均分子量 LJ. (-e) ; UV endonuclease処理されていないDNAの平均分子呈 図1アルカリパルスフィールド電気泳動法 (upFE法)による,シク′ロブタン型ピリミジン ダイマー(CPD)の測定法について(本文参照) ・J、J
遺伝生態研究センター通信 No.33 紳㊦◎◎㊤◎㊤㊦㊤⑳9
♂長銀野ダ
ー+一十一+-+-+-+ (UVendo) Giiiia I ′ー■\、 (qwQd)13uanb31)ZJau叫白2r
Illumination time (min)
図2 イネ薫のUVB照射エネルギー量変化に対する, CPDの生成量の変化
イネ葉の上方20cmより, UVB (UVB蛍光管, Toshiba
FL20SE)を照射時間を変えて測定した.
図の上段:パルスフィールド電気泳動後, SYBR GREEN
H (Takara)を用いて染色されたDNAバンドの泳動写真.
UV endo : UV endonuclease,十はUV endo処理したサ
ンプル, -はUV endo処理しないサンプルを示す.図の
下段:電気泳動後,分離されたDNAの平均分子量から算
出したCPD量の, UVB dose response curve. (未発表
データ,善意淑ら) フィールド電気泳動(GENOFIELD, AE8900, AT TO)により切断された1本鎖高分子DNAを分離す る. ⑤分離されたDNAの移動度,及び発色強度か ら,分離された全DNAの平均分子量を,同一ゲル 上の分子量マーカーから算出する.そして,求めた 平均分子量から,図1に示した計算式を用いてCP D量を求める.図2には,イネ(Oryza satiua L.
Sasanishiki)葉の, UVB (Toshiba FE20SE)輿 射エネルギー変化に対するCPD生成量変化(UVB
dose response curve)を測定した際の電気泳動
写真と,その結果を示した.照射エネルギー量の増 加に伴い, UV enaonucleaseによって(+endo) 切断される部位が増加し, DNAの分子量が低分子 側に移行していることがわかる.すなわち, UVB 照射エネルギー量の増加に伴い, CPD量が増加し たことを意味している. 紫外線抵抗性とDNA修復機能との関係 紫外線により誘起されたダイマ-は,可視光(U VA及び青色光をェネルギ-として,ダイマーをモ ノマーに修復する酵素photolylaseの関与:光修復 [photorepair]),及び光に関係なく除去修復酵素 (暗修復[excision repair])によって修復される ことが知られている6).それゆえ, UVBによるDN A損傷の頻度とその光,暗修復速度の関係は,植物 生育阻害に直接的に関わる問題として重要である. ここでは,紫外線抵抗性の異なるイネ品種,ササニ シキ(抵抗性)と農林1号(感受性)7,8)の幼植物 (第3完全展開葉)を実験材料に,紫外線によるダ イマ-の生成とその修復機能に関する研究を紹介す る. UVB光源として302nmの単色光(302±15nm ; 2.OW/m2)を用いた. UVB照射エネルギー変化に 対するCPD生成量の変化を測定したところ,両品 種間において差異は認められず, CPDの生成する 頻度は両品種で同じであることがわかった.次に, / 生成したCPDの修復速度について解析を行った. 方法としては,まず先に得られたUVB Dose Response Curveから, CPDの生成量がおよそ30 sites/Mbとなるように,各イネ幼植物に単色光 (302nm)を照射した.照射後直ちに,青色光下 (光修復)または暗所(暗修復)に移し, CPD消滅
遺伝生態研究センター通信 No.33 Photorepalr (qw白d)S3uanbaJdJ3u!G 0 0 0 3 rム一 l \‡\
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PR Sasanishiki 0 2.5 5 7.5 10 12.51llumination time (min)
図3 イネ,ササニシキ及び農林1号におけるシク ロブタン型ピリミジンダイマー(CPD)の修復 速度(本文参照). (E)はササニシキ, (○)は農林1号 のtime courseを測定した(図3). CPDの初期生 成量が30sites/Mbにおける光修復速度を両品種間 で比較すると,大変興味深いことにUVB抵抗性の 強いササニシキは,弱い農林1号よりも5分以内で の初速度がおよそ3倍も速いことがわかった.尚, この条件において暗修復(2時間以内)は両品種と もに認められなかったものの, CPDの初期生成量 が50sites/Mbにおける暗修復速度を両品種間で比 t〆IlズIJTlly、lyTヽヽ〆ヽ 較すると,その速度はこれも又興味深いことに,サ サニシキの方が農林1号よりも速いことがわかった. 以上の結果から,これら生成したCPDの修復速度 の差異が,両品種間のUVBに対する抵抗性差異の 主な要因の1つとなっている可能性が示唆された
(Hidema et al. submitted).
今後はこのシステムを利用することにより,より 詳細なDNA損傷とタンパク合成阻害,生育阻害と の関係,さらには,修復能力と紫外線抵抗性との関 係について解析を行って行きたいと考えている. 参考文献 1.熊谷 忠(1994) 「イネと紫外線-UVBの影響を中 心に」化学と生物 32 :506-513.
2. Stapleton A.E. (1992) Plant Cell 4 : 1353-1358・
3. Quaite F.E. et al. (1994) Plant Moll Biol・ 24 :
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4. Mitchell D.L et al. (1990) ∫. Biol. Chem. 265:
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5. Carrier W.L et al. (1970) J. Bacteriology. 102 :
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6. Britt A.B. (1996) Annu. Rev. Plant Physiol.
Plant Mol. Biol. 47 : 75-100.
7. Kumagai T. et al. (1992) Japan. J. Breedリ42 :
545 -552.
8. Hidema et al. (1996) Plant Cell Physiol. 37 :
(in press) 当研究センターの湛水生態系野外実験 施設では,イネを用いて耐塩性(写真手 前の実験区) ,紫外線(UV-B)増加の 効果(写真左の装置),二酸化炭素濃度増 加の効果(写真左奥の装置)に関して研 究を行っている. なお,この写真は本文とは関係ありま せん. ・J
遺伝生態研究センター通信 No.33 ◎809御節eXB㊦¢ 平成8年度ワークショップの紹介
「遺伝生態情報の可能性」
東」ヒ大学・遺伝生態研究センター 南 漂 究 /( ′ー\ ワークショ ップのねらい 近年,隼命科学と情報科学の学際化およびインターネット・データベースの進歩は目覚ましいものがあり ます.また,生命の本質は遺伝(・という情報の広がりであり,生物学に情報概念は必娘であります.本セン ターの目指している遺伝生態という研究分野は従来の生態学領域と遺伝学鶴城の双方にまたがるものであり, 遺伝生態の研究においても情報科学と生命科学の進歩を積極的に取り入れ,また,遺伝性態情報という独自 の領域の開拓が必要であります.本ワークショップでは, (1)隼物多様性のカタログ化, (2)遺伝情報伝達のダ イナミズム, (3げノムサイエンスという3つの分野について遺伝生態情報の可能性を探っていきます. 日 時:平成8年9月20日(金) 午後1時∼午後5時 9月21日(土) 午前9時∼午後3時30分 場 所:東北入学・遺伝生態研究センター会議室 以恒こ,本ワークショップの内容をご紹介致します. 1 )生物多様性のカタログ化と遺伝生態情報 生物は種分化や種内変異などにより生物多様性を生み出すことによって,環境に適応してきました.近 年,情報ネットワークは生物の分類・系統保存体制の整備などに活用されるとともに,地圏などにおける 生物多様性の研究においてもカタログ化またはデータベース化する動向もあります.また,最近のインター ネットとWWW (World Wide Web)の便利な情報提供・利用の普及によって,分散している生物デー タベースをインターネット等を利用して統合化する方向が指向されています.ここでは,遺伝資源の保全 と生物多様性研究への寄与という側面から遺伝生態情報という新領域を考えます。 MAFFジーンバンクにおける微生物遺伝資源の収集,保存及びデータベース化: 加来 久敏(農水省・農業生物資源研究所) 実験モデル植物シロイヌナズナのストックセンターとデータベース化: 後藤 伸治(宮城教育大学) 酵母の生物情報資源の統合化: 宮崎 智(国立遺伝学研究所・生命情報研究センター) 土壌細菌群集の多様性の解析による遺伝生態カタログ化への寄与: 三井 久幸(東北大学・遺伝生態研究センター) バイオマットの微生物群集のカタログ化: 平石 明(豊橋技術科学大学・エコロジー工学系) 2)遺伝情報伝達のダイナミズム 生物多様性を生みだす原動力である適応進化には選択的変異,遺伝的組換え,転移因子などが深く関与遺伝生態研究センター通信 No.33 内∩ヽirl… します.ここでは,組換えおよび転移因子による遺伝子再編成と遺伝子伝播などの遺伝情報伝達のダイ ナミズムという側面から遺伝生態情報を考えます. 転移因子による分解系遺伝子群と耐性遺伝子群の拡散と環境適応: 津田 雅孝(岡山入学・理学部) 水俣と世界の接点:水銀耐性遺伝子にみられる遺伝情報の拡散: 遠藤 銀朗(東北学院入学) 共生微/I--_物のDNA再編成と遺伝子伝播: 南揮 究(東北大学・遺伝生態研究センター) 3)ゲノムサイエンスと遺伝生態情報
最近,中小のゲノムサイズを持つ実験モデル生物(Mycoplasma genitalium, HaeTnOPhilus
influenzae, Synechocystis, Saccharomyces)を対象としたゲノム全シークエンス解析がバクテリアや
ラン藻などの原核生物から真核生物(酵母)まで次々に発表され,今後も各種の生物のゲノムシークエ ンスが次々に明らかにされて行くことは間違いありません ゲノムシークエンス解析の目的は,大量の 未知遺伝子の機能解析,遺伝子相亘のコミュニケーション,ゲノム設計原理の解明などですが,いずれ も生物の環境適応・進化の分子諭的理解に重要であると同時に,今後,生物学のアプローチを一変させ てしまう可能性があります.ここでは, (1)実験モデル生物の全シークエンスから何が分かるのか, (2)坐 物多様性を視野に入れた環境微生物や植物の分子生物学の研究にどのように関わってくるのか, (3)遺伝 生態の研究との接点は何か,などについて考えます. 微生物のゲノムプロジェクトとその意義: 小笠原虐毅(奈良先端科学技術大学院大学) ラン藻のゲノム解析: 田畑 哲之(かずさDNA研究所) 土壌微生物としての放線菌から見たゲノム解析と遺伝生態研究の接良: 宮下 清畠(農水省・農業環境技術研究所)