Ⅰ.はじめに 多くの精神科ソーシャルワーカー(以下,PSW)は,精神障害者にとってよりよい支 援者となるべく日々試行錯誤している.日本の PSW の歴史は古く,1948(昭和 23)年, 千葉県の国立国府台病院において,精神科医療の現場で初めて採用された.1960 年代に は「つかみどころのない」「何でも屋」注 1といわれ,業務は多岐に渡っており,医療費事 務に始まって,運転業務,ボイラーなどなんでもこなさなければならなかった.医局の秘 書的業務もかなりの病院が配置のための役割としていた(谷中 2000).1997 年には長期 入院者の退院支援の担い手として国家資格化され,支援業務を行うようになった.一方で, 精神障害者の場合,支援を家族に強く依存してきた歴史的経緯がある.日本の精神障害者 の家族は,精神障害者のケア役割と監督役割という過剰な責任を負わされてきた.精神障 害者の家族はさまざまな生活の困難感を持ちながら患者の世話をし(石原 2000)将来へ の不安,自責感や無力感,戸惑い,孤独感などの情緒的体験をしている(宮崎ら 2001) ことが指摘されている.家族には余裕がなくなってきており,本人の療養に協力するどこ ろか,家族自身に対しても外部からの支援が必要とされる(白石 2004)状況にある.つ まり家族は,精神障害者の支援者として存在しているだけでなく,困難を抱えた生活者で もあり,支援の対象となりえるという視点も忘れてはならない.しかしながら PSW は医 療機関のなかでさまざまな役割を担っており,本人や家族と向き合う十分な時間も取れな いといった要因が重なり合い,家族を支援の対象とすることができていない状況にある. PSW の支援業務は,現在,公益社団法人日本精神保健福祉士協会(以下,協会)が業 務指針を策定している.協会は精神保健福祉士の業務を「精神保健福祉にかかわる諸問題 に対して(場面・状況),ソーシャルワークの目的を達成するために(価値・理念),適切 かつ有効な方法を用いて働きかける(機能・技術)精神保健福祉士の具体的行為・表現内容」 と定義している.また,業務指針の中で「精神保健福祉士は社会福祉学に依拠した専門職
精神科ソーシャルワーカーの支援業務に関する研究
―精神障害者とその家族に対する支援の充実に関連する要因―
A Study of Social Work Practices for Patients with Mental Illness:
Factors Related to Improvement of Services for Inpatients
and Their Families
佐々木 絢子
※ 1キーワード: 精神障害者,精神科ソーシャルワーカー,精神科病院,家族
であり,ソーシャルワークの価値と理念そして理論に基づき,『すべての人が人間として の尊厳を有し,価値ある存在であり,平等であることを深く認識』し,『社会福祉の推進 とサービス利用者の自己実現を目指す専門職』」とした.精神保健福祉士の価値と理念を 6 つ(個人としての尊厳,自己決定・自己実現,社会的復権・権利擁護と福祉,精神保健 福祉の向上,ノーマライゼーションの実現,共生社会の実現)上げた.この理念の実現を 目指す一連の行為が精神保健福祉士の業務とした.そして,価値と理念を基盤とし,ソー シャルワークの視点(①人と状況の全体関連性〈人と環境の相互作用〉,②利用者を「生 活者」として捉える,③地域生活支援,④個人・集団・地域それぞれにおける個別化)に 立って業務に携わるとしている. PSW の業務は,利用者を中心とした環境や社会によっ て規定され,時代の流れや文化的背景によって影響を受けるため,固定した考えになじま ないという側面がある.しかし,いつの時代も「利用者の立場に立って」,「生活上の課題」 といった極めて個別的なニーズを対象に,個人や家族,地域,社会といった環境の間で両 者の最善の方法を見つけ,創り出す仕事をしている専門職であるといえる. 以上を踏まえ,本研究で扱う支援業務は,PSW がソーシャルワークの視点に基づいて, 精神障害者とその家族に対する具体的行為(狭義の業務)であり,そして,日常生活適応 のための訓練を行うリハビリテーションまでを含むものとする. 2012 年 4 月に精神保健福祉士法の一部が改正され,「第 41 条の 2 資質向上の責務」が 規定された.PSW が精神保健福祉士として国家資格となり制度化された当時は,その業 務の主たる対象者は,精神科病院等に入院中の精神障害者及びそこからの社会復帰の途上 にある精神障害者であった.しかし,現在 PSW の支援の対象は増え,広がり続けている. PSW もクライエントにとっては一つの社会資源と考えられる.こういった現状を鑑みる と,個々の PSW が精神障害者とその家族の社会資源として機能すべく,支援の幅を広げ, 資質を向上していくことは急務となっているといえる. Ⅱ.研究目的 これまで PSW の支援の充実に関する研究は,主として公益財団法人日本精神保健福祉 士協会が「精神保健福祉士の業務実態等に関する調査」により業務実態の把握を中心に行 われてきた.また,精神保健福祉士の実習教育や卒後の継続教育との関連で研究が進めら れていることが多く(栄 2004,小沼 2016,松本 2017),退院支援場面に関しては PSW の不安感(大瀧 1995)や医療ソーシャルワーカーのジレンマ(取手 1997),バーンアウ ト(高橋 2006)といった困難感との関連や,自己効力感(朝野ら 2013)について取り 上げられ報告されている.しかしながら,PSW 自身の支援の充実に関連する要因を実証 的に検証したものは極めて少ない.また,精神障害者の支援においては,その家族を含め て支援の対象とすることが必要である.そこで本研究では,PSW の意見を基に,精神障 害者本人とその家族の支援の幅を広げるために関連する要因を明らかにし,PSW に必要
なサポートを検討することで,今後の PSW の支援業務の資質の向上に何が必要とされて いるのか考察することを目的とした. Ⅲ.研究方法 1.対象および調査 「全国社会資源名簿」に掲載された精神科病院 1463 か所から 360 か所を無作為抽出し, 調査対象とした.1 か所につき 1 人、入院者を担当している PSW に回答を依頼した.調 査方法は,質問紙を用いた無記名の自記式郵送調査とし,直接郵送にて回収した.調査内 容は日本精神保健福祉士協会業務検討委員会(2001,2002)による業務統計調査を参考 にした精神障害者本人の支援の業務遂行の状況,筆者が作成した家族支援の業務遂行の 状況,連携と支援検討の機会,自身の方向性等である.調査期間は 2007 年 9 月 1 日~ 9 月 20 日までであり,有効回収数 105 人,有効回収率 29.2%であった.尚,本調査の実 施にあたっては東洋大学福祉社会デザイン研究科研究等倫理委員会の承認を得た. 2.分析方法 基礎的なデータは単純集計し,医師との連携についてはクロス集計した.また,精神障 害者(以下,利用者)と家族に対する支援は因子分析(バリマックス回転)を行い,抽出 された各因子は Cronbach’αにより信頼性を確認した.各因子の平均値と標準偏差を算 出した.下位尺度として構成された因子は合計素得点を算出して項目数で割ったものを平 均値で分け,得点の高い方を「高得点群」とし低い方を「低得点群」としてその後の分析 に用いた.そして,利用者支援を充実させる要因を明らかにするため,PSW の属性およ び家族支援因子(高得点群 / 低得点群)と利用者支援因子(高得点群 / 低得点群)とのク ロス集計を行った.統計検定にはχ2検定を用いた.さらに,利用者支援の充実に有効な 支援検討の機会を明らかにするため,ステップワイズ法による重回帰分析を行った.従属 変数は,利用者支援の因子分析によって得られた【治療的グループ支援】【地域生活へ向 けた支援】の得点を合計し,項目数で割ったものを尺度得点として投入した.独立変数に は医師との支援検討の機会,院外・院内での支援検討の機会を投入した.また家族支援の 因子分析によって得られた,【本人の療養に関する個別的家族支援】,【集団の場を利用し た家族支援】,【家族のための直接的支援】,【必要に応じた相談支援】のそれぞれの合計点 のほか統制変数として,経験年数,勤務年数を投入した.医師との支援検討に関する項目 である,「医師からの一方的連絡」「医師と共通した方向性を検討する」「ソーシャルワーカー からの働きかけ」「他職種と医師を交えた会議で支援を検討する」では「非常によくある」 ~「まったくない」の 5 件法を「ある= 1」「ない= 0」で 2 区分したダミー変数を用いた. また,院内・院外で支援方法の検討を行う機会の重要性に関する,「院内の研修会」「院外 の研修会」「院内の同職種との勉強会」「院内の他職種との勉強会」「支援内容についての
相談(院内の職員)」「支援内容についての相談(院外の専門家等)」「院内での情報交換」「院 外での情報交換」「学会参加」「他機関の見学」「大学院等への進学」(重要である= 1,重 要でない= 0)はダミー変数を用いた. Ⅳ.結果 1.回答者の基本属性 回答者の基本属性は,表 1 に示したとおりである.性別は,女性が 57.1%とやや多く, 平均年齢は 34.4 歳であった.精神保健福祉士資格を所持している人が 94.3%と多数を占 めていた.また,「精神障害のある方の支援に関わる仕事」をした平均経験年数は 9.0 年で あり,現在の職場での平均勤務年数は,7.1 年であった.回答者の所属する病院の設置主 体は民間が 81.9%であり,病院内のソーシャルワーカー配置人数平均は 5.75 人であった. 表 1 回答者の基本属性 (n= 105) 項目 カテゴリー 度数※ % 項目 カテゴリー 度数※ % 性別 男性女性 4560 42.9 57.1 所属機関 民間国立・公立 8619 81.918.1 年齢 (平均年齢:34.43 ± 9.8 歳) 20 歳代 39 37.1 病床数 (平均:276.5 ± 177.4 床) 100 床未満 3 2.9 30 歳代 38 36.2 100 床以上~ 200 床未満 35 33.7 40 歳以上 28 26.7 200 床以上~ 300 床未満 38 36.5 勤務地 北海道・東北地域 17 16.2 300 床以上 28 26.9 関東地域 27 25.7 担当病棟の種類 (複数回答) 救急病棟 はい 6 6.0 中部地域 14 13.3 救急病棟 いいえ 94 94.0 近畿・中国・四国地域 23 21.9 急性期病棟 はい 28 28.0 九州地域 24 22.9 急性期病棟 いいえ 72 72.0 精神一般病棟 はい 63 63.0 資格の有無 (複数回答) 精神保健福祉士あり 99 94.3 精神一般病棟 いいえ 37 37.0 精神保健福祉士なし 6 5.7 精神療養病棟 はい 42 42.0 社会福祉士あり 43 41.0 精神療養病棟 いいえ 58 58.0 社会福祉士なし 62 59.0 病棟以外の担当 (複数回答) 外来 はい 80 76.2 介護支援専門員あり 18 17.1 外来 いいえ 25 23.8 介護支援専門員なし 87 82.9 訪問看護 はい 45 42.9 社会福祉主事あり 39 37.1 訪問看護 いいえ 60 57.1 社会福祉主事なし 66 62.9 デイケア はい 18 17.1 経験年数 (平均年数:9.0 ± 7.5) 5 年未満 30 28.6 デイケア いいえ 87 82.9 5 ~ 10 年未満 36 34.3 ソーシャルワーカー 配置人数(平均:5.75±3.9人) 5 人未満 47 46.1 10 年以上 39 37.1 5 人以上~ 10 人未満 42 41.2 10 人以上 13 12.7 勤務年数 (平均年数:7.1 ± 7.1) 5 年未満 49 46.7 デイケア・ナイトケア専任の ソーシャルワーカー 配置人数(平均 1.0 ± 1.2 人) 0 人 37 36.3 5 ~ 10 年未満 30 28.6 1 人 42 41.2 10 年以上 26 24.8 2 人 16 15.7 3 人以上 7 6.9 ※各項目で欠損値がある者は除外しているため合計人数が異なる場合がある。 2.利用者支援に関する業務 PSW が日々行っている支援の程度について尋ねたところ,「経済問題調整」,「退院支援」, 「入院支援」,「日常生活支援」,「受診支援」,「心理情緒的支援」,「療養上の問題調整」,「住 宅問題への支援」はいずれも『よく行っている』ないし『時々行っている』と回答した割 合が 75%を超えた.「入院生活技能訓練」,「デイケアでのグループワーク」,「入院集団精 神療法」などの診療報酬に関わる部分では『まったく行っていない』ないし『あまり行っ ていない』と回答している割合が 75%を超え,また,「教育問題への支援」,「セルフヘル プグループ」においても『まったく行っていない』ないし『あまり行っていない』と回答
している割合が 75%を超えた.PSW は,利用者の入院から退院に向けた過程で,本人と 心理・情緒的に関わり,その中で経済問題調整や日常生活支援,住宅問題への支援を日常 業務として多く行っていることがわかる.「精神科退院指導」,「精神科退院前訪問指導」 は「入院生活技能訓練」と「入院集団精神療法」と比べて行っている割合が高い.PSW は診療報酬に関わる部分においても『退院』に向けた支援を行っていることがわかる. また,今回の調査では入院生活技能訓練やデイケアでのグループワーク,入院集団精神 療法などの診療報酬に関わる部分での業務を行っている PSW は少なかった.デイケアで の業務は専任のワーカーを置く必要があるため,回答者の業務ではない場合が多いと思わ れる. 3.家族支援に関する業務 家族への支援では「制度・サービスに関する情報の提供」「医師からの連絡事項を伝える」 や「家族からの電話相談に応じる」「外来新患者との面接」などの本人の退院に向けての 連絡調整,家族からの相談の窓口になる業務を『よく行っている』ないし『時々行ってい る』と回答した割合は 75% を超えた. それに対し,「家族懇談会の開催」「家族会運営のサポート」「家族のための支援プラン を作成する」「家族心理教育」といった支援を行っていると回答する割合は 30%以下であ り,家族を個別に支援の対象と捉えた支援を行っている割合は少ないことがわかる.家族 支援は診療報酬の裏打がないことがその背景にあると考えられる . 4.医師との連携 医師との連携は,「医師からの一方的な連絡」は「非常によくある」ないし「よくある」 と回答した割合が 51% であり,「会議で支援を検討する」も 60%をこえ,医師との連携 により支援の方向性を検討している傾向がわかる.しかし,医師に対してより能動的に PSW からの働きかけが行われていることがわかる. 医師との会議における支援の検討と PSW との連携の行い方の関連を調べるためにクロ ス集計およびχ2検定を行った結果が表 2 である.「非常によくある」と「よくある」を「ある」 とし,「あまりない」「ほどんどない」「まったくない」を「ない」に 2 区分し関連を調べた. 医師からの一方的な連絡の有無と,医師と共通した支援の検討は有意な関連は認められ なかったが,PSW からの働きかけが行われているほど医師と共通した支援の検討が行わ れている(χ2=4.658,df=1,p< 0.05.)ことがわかった. このことから,PSW が自ら動いて医師に働きかける場合,医師との意思疎通が有効で あることがうかがわれる.また,共通した支援の検討を行っている PSW は医師と会議で 支援について検討する機会があると回答している割合が有意に高く(χ²=21.391,df=1, p< 0.001),共通した支援の方向性を決めるには,医師と会議で支援内容の検討を行い, 連携していくことが重要であると考えられる.
表 2 医師と共通した支援の検討と PSW の医師との連携の仕方 (n=105) 行っていない 行っている 36.4%(8) 15.7%(13) *(4.658)df=1 63.6%(14) 84.3%(70) (両側) 45.4%(10) 49.4%(41) 54.5%(12) 50.6%(42) 81.8%(18) 18.2%(4) ***(21.391)df=1 27.7%(23) 72.3%(60) (両側) 注1:* p<.05 *** p<.001 注2:各項目で欠損値がある者は除外しているため合計人数が異なる場合がある。 χ2検定(χ2値) ない ある ない ある 医 師 と の 連 携 医師と共通した支援の検討 ない ある PSWからの働きかけ 医師からの一方的な連絡 会議で支援を検討 5.他職種との連携 医師以外の他職種との連携について尋ねたところ,まず院外については,「役所の職員」 「他の機関の相談員」「保健所の職員」など,院外の他職種と連携していると回答した人が 80 人を超えた.ついで院内の職種では,「事務職員」や「作業療法士」,「心理士」と連携 していると回答した人が 50 人以上いた.全体で見ると「看護師」を除き,院外の職種と 連携しネットワークを広げていることがわかる. 6.ソーシャルワーク業務の向上に必要な機会 ソーシャルワーク業務の向上にはどのような機会が必要と考えるか尋ねたところ,「院 外の研修会」「院外の情報交換」を上げる人が 85 人であり,続いて「院内の他職種との 勉強会」74 人,「院内での情報交換」72 人であった. 7.支援内容について相談する相手 支援の内容を相談する相手について尋ねたところ,一番多かったのは「現在の職場の同 僚」で,72 人であった.次に「職場の他職種」が 53 人,「現在の職場の先輩」48 人,「現 在の職場の上司」47 人と職場内での相談相手が多かった.職場外での相談相手は「友人 のソーシャルワーカー」32 人,「職場外の先輩ソーシャルワーカー」30 人であった. 職場での相談は,業務の過程やワーカーの置かれている状況,本人や家族の情報などを 共有しやすく,助言・指導などを受けやすいと考えられる.これに対し,職場外で支援内 容の相談が少なかったのは,個人情報の扱いに注意を払うことや,まだ数少ないスーパー ビジョンなどの機会を自ら探さなければならないなどの困難さが関係していることが考え られる. 8.支援内容について相談する相手(最も信頼する相手) 前記のうち,その中で最も信頼し相談する相手について尋ねたところ,「現在の職場の 先輩」が 21%(22 人)であり,「現在の職場の同僚」20%(21 人),「現在の職場の上司」 19%(20 人)と続いていた.次に「職場の他職種」14%(15 人)であり,支援内容を
相談する相手(複数回答)と同様に,職場内における相談相手を回答する割合が高かった. 9.今後の方向性 今後の方向性について 3 年後の自身の状態について複数回答で尋ねたところ,「現在の 医療機関で PSW」を行っていると回答した人が一番多く,64 人(61.0%)であった. PSW を続けているという回答が上位であり,「退職」や「進学」「他職種となる」と回 答した人数は 10 人に満たなかった.「別の医療機関で PSW」を行っていると回答した人 数は 25 人であり,「他の福祉領域」18 人,「地域の社会復帰施設で PSW」16 人,「別の 医療機関で他職種」は 12 人であった.このことから,現在の職場を離れ,別の機関で福 祉の仕事をしようと考える人も少なくはないといえる. 一方,「わからない」と回答する人も 31 人(29.5%)と 3 割近くいた.3 年後の状態に ついて現在の医療機関で仕事を続けるという PSW がいる一方で今後はわからないという 不安定な心情が窺える. 10.利用者支援の尺度構成 利用者支援のあり方の特徴を明らかにするため因子分析を行った.利用者の支援につい て質問した 17 項目を用いて因子分析(バリマックス回転)を行った.最適解を得るため, 項目を調整し 6 項目を除外した.その結果 11 項目による 3 因子が最適であると判断した. 寄与率は 53.2%であった.しかしα係数において第 3 因子の値が信頼性に値するものと はいえないことから,第 1 因子と第 2 因子について因子分析によって得られた各尺度の 得点を合計し,項目数で割ったものを尺度得点とした.第 1 因子は,「入院集団精神療法」, 「セルフヘルプグループ」などで負荷量が高く,【治療的グループ支援】と命名した.第 2 因子は「日常生活支援」や「住宅問題支援」で負荷量が高く,【地域生活へ向けた支援】 と命名した.下位尺度としては構成されなかったが,第 3 因子に大きな負荷を有したのは, 「受診支援」「入院支援」であり,【個別の入院生活に向けた支援】と命名した. 因子分析の結果,PSW の利用者支援は 3 つの過程で把握することができるとわかった. 【治療的グループ支援】は入院中の利用者に入院集団精神療法やセルフヘルプグループ, 入院生活技能訓練といった集団の場を活用した支援である.精神科退院指導は個別に行う 支援だが,入院中の利用者に対し診療報酬の枠組みのなかで行うものであるため,同じ過 程に入っていると推測される.【地域生活へ向けた支援】では,日常生活上の調整や住宅 の維持・確保,医療費・生活費等の経済問題の調整を行い,退院した後の地域生活を見据 えた支援であるといえる.【個別の入院生活へ向けた支援】は利用者に個別に関わり,受 診する方法から入院時のオリエンテーションといった病院の窓口となり,入院生活の環境 を調整し心理的な支えとなる支援を行う過程である.
表 3 利用者支援の因子分析結果 因子1 因子2 因子3 共通性 因子1:治療的グループ支援<α=0.619> 17.入院集団精神療法 0.814 0.052 0.051 0.667 13.セルフヘルプグループ 0.693 0.060 -0.228 0.536 16.入院生活技能訓練 0.589 0.203 0.174 0.419 14.精神科退院指導 0.585 0.075 0.378 0.491 因子2:地域生活へ向けた支援<α=0.624> 8.日常生活支援 0.138 0.771 0.024 0.615 6.住宅問題への支援 0.206 0.735 -0.083 0.590 4.経済問題支援 -0.012 0.729 0.131 0.549 因子3:個別の入院生活へ向けた支援<α=0.529> 1.受診支援 0.209 -0.147 0.719 0.583 2.入院支援 -0.256 -0.100 0.657 0.508 3.療養上の環境調整 0.011 0.336 0.590 0.461 10.心理情緒的支援 0.301 0.183 0.561 0.438 (累積寄与率) 固有値 2.752 1.673 1.431 53.20% 11.家族支援の尺度構成 家族支援のあり方の特徴を明らかにするため因子分析を行った.家族の支援について質 問した 24 項目を用いて因子分析(バリマックス回転)を行った結果が表 4 である.最適 解を得るため,項目を調整し 6 項目を除外した.その結果,18 項目による 4 因子解が適 当であると判断した.寄与率は 58.8%であった.第 1 因子は,「退院後の本人の生活状況 に関する情報の共有」,「本人の療養状況に関する情報の共有」などで負荷量が高く,【本 人の療養に関する個別的家族支援】と命名した.第 2 因子は,「家族会運営のサポート」 や「家族懇談会の開催」で負荷量が高く,【集団の場を利用した家族支援】と命名した. 第 3 因子は,「家族のための社会資源を紹介する」や「家族のための支援プランを作成する」 で負荷量が高く,【家族のための直接的支援】と命名した.第 4 因子では「受診前の相談 を受ける」や「家族からの電話相談に応じる」で負荷量が高く,【必要に応じた相談支援】 と命名した.これら 4 つの因子のα係数を求めた結果,第 1 因子 0.769,第 2 因子 0.797, 第 3 因子 0.772,第 4 因子 0.674 であった.これらの 4 つの因子について因子分析によっ て得られた各尺度の得点を合計し,項目数で割ったものを尺度得点とした. 因子分析の結果から,【本人の療養に関する個別的家族支援】は家族と個別に関わり, 本人を中心に,PSW と家族の協働を行う支援である.【集団の場を利用した家族支援】は 家族会や家族懇談会,行事,家族心理教育など集団の場を利用した,家族自身への支援と, 家族を巻き込んで利用者の支援を行う支援である.【家族のための直接的支援】は家族自 身への支援であり,家族と社会資源との仲介や,支援のプランを作成するといった家族を 利用者として捉えた支援である.【必要に応じた相談支援】では受診前や本人の病状悪化 時の相談支援であり,家族が支援を必要とする時に応じる支援である.これらから家族支 援の形態は,家族自身への直接的支援と本人を通しての間接的支援に大別できることがわ かった.
表 4 家族支援の因子分析結果 因子1 因子2 因子3 因子4 共通性 因子1:本人の療養に関する個別的家族支援<α=0.769> 9.退院後の本人の生活状況に関する情報の共有 0.796 0.141 0.050 0.089 0.665 7.本人の療養状況に関する情報の共有 0.733 0.105 0.134 0.186 0.600 11.本人の居住場所に関する情報提供 0.710 0.148 0.048 -0.024 0.528 5.家族の心理的なサポート 0.551 -0.020 0.346 0.357 0.552 14.本人の退院について家族と調整する 0.528 -0.020 0.310 0.198 0.414 因子2:集団の場を利用した家族支援<α=0.797> 22.家族会運営のサポート 0.158 0.806 0.049 0.071 0.681 23.家族懇談会の開催 0.165 0.794 -0.016 0.076 0.663 25.行事への招待 -0.105 0.746 0.011 0.111 0.581 24.家族療法による治療アプローチ 0.087 0.661 0.264 0.026 0.515 21.家族心理教育の実施 0.299 0.558 0.387 0.007 0.550 因子3:家族のための直接的支援<α=0.772> 18.家族のための社会資源を紹介する -0.047 0.034 0.789 0.087 0.634 17.家族のための支援プランを作成する 0.222 0.267 0.739 0.152 0.689 16.家族の協力体制の内容について調整する 0.455 0.154 0.585 0.139 0.593 15.家族の健康状態の把握 0.411 0.085 0.570 0.093 0.509 因子4:必要に応じた相談支援<α=0.674> 1.受診前の相談を受ける -0.020 0.118 0.172 0.860 0.783 3.家族からの電話相談に応じる 0.062 -0.106 0.258 0.714 0.591 13.本人の病状が悪化した際に相談を受ける 0.346 0.244 0.150 0.607 0.570 2.外来新患者の家族との面接 0.259 0.151 -0.168 0.598 0.476 (累積寄与率) 固有値 5.512 2.148 1.550 1.384 58.86% 12.回答者の属性と利用者支援との関連 利用者支援の充実と関連する事柄として考えられるのは,PSW としての経験の長さで ある.充実した利用者支援を行うにあたっては,PSW としての視点や業務をこなすのに 必要な手順が経験によって身についていることが必要である.また,PSW が組織に定着 することにより,組織の中の業務の確立につながり,業務の行いやすさにつながることも 推測される. このようなことから「充実した利用者支援には PSW としての経験や職場での勤務年数 が関係しているのではないか」という作業仮説を立てた.また,その他,所属機関や病院 規模などの回答者の属性との関連も明らかにし,支援との関連を把握することとした. 因子分析の結果,利用者支援因子として得られた【治療的グループ支援】および【地域 生活へ向けた支援】の各尺度の得点を合計し,項目数で割ったものを尺度得点とした.尺 度得点の数値により,【治療的グループ支援】では 3.75 点までを「高得点群」とし,1.5 点までを「低得点群」に分けた.【地域生活へ向けた支援】では 4 点までを「高得点群」とし, 3.33 点までを「低得点群」に分けた.上記の仮説に基づき,利用者支援因子の「高得点群」 及び「低得点群」を従属変数とし,回答者の属性(年齢,社会福祉士国家資格所持の有無, 経験年数,勤務年数,所属機関,ソーシャルワーカー数,病棟専任のソーシャルワーカー 数,病床数)を説明変数としてクロス集計し,χ2検定を行った結果が表 5 である. 「年齢」「経験年数」「勤務年数」の項目では有意な関連はみられなかった.「ソーシャル ワーカー数」「病棟専任のソーシャルワーカー数」ではどちらも人数の多い(5 人から 10 人以上,4 人以上)ほうが高得点群に占める割合が高い.χ2検定の結果,「病棟専任のソー
シャルワーカー数」と「治療グループ支援因子」の高得点群/低得点群には,有意差が認 められた(χ2=5.382,df=1,p< .05.).しかし,他の回答者の属性との支援因子の高 得点群/低得点群との有意な差は認められなかった. 以上により,有意な関連が認められたのは【治療的グループ支援】と「病棟専任のソー シャルワーカー数」であり,ソーシャルワーカー数が多いほど支援内容の充実が図られる 傾向にあることがわかった. 表 5 回答者の属性と利用者支援因子との関連 (n=105) 低得点群 高得点群 低得点群 高得点群 20歳代 38.3%(18) 27%(10) 56%(14) 33.3%(11) 30歳代 38.3%(18) 37.8%(14) 20%(15) 39.4%(13) 40歳代 23.4%(11) 35.1%(13) 24%(6) 27.3%(9) あり 46.8%(22) 40.5%(15) 32%(8) 51.5%(17) なし 53.2%(25) 59.5%(22) 68%(17) 48.5%(16) 5年未満 34%(16) 27%(10) 36%(9) 27.3%(9) 5~10年未満 27.7%(13) 27%(10) 36%(9) 33.3%(11) 10年以上 38.3%(18) 45.9%(17) 28%(7) 39.4%(13) 5年未満 57.4%(27) 45.9%(17) 60%(15) 45.5%(15) 5~10年未満 21.3%(10) 21.6%(8) 20%(5) 33.3%(11) 10年以上 21.3%(10) 32.4%(12) 20%(5) 21.2%(7) 民間 80.9%(38) 78.4%(29) 84%(21) 72.7%(24) 国立・公立 19.1%(9) 21.6%(8) 16%(4) 27.3%(9) 5人未満 54.3%(25) 34.3%(12) 48%(12) 25.8%(8) 5人~10人未満 37%(17) 42.9%(15) 44%(11) 58.1%(18) 10人以上 8.7%(4) 22.9%(8) 8%(2) 16.1%(5) 1~3人 54.3%(25) 28.6%(10) *(5.382)df=1 44%(11) 29%(9) 4人以上 45.7%(21) 71.4%(25) (両側) 56%(14) 71%(22) ~200床未満 31.9%(15) 45.9%(17) 32%(8) 27.3%(9) 200床以上~300床未満 40.4%(19) 24.3%(9) 24%(6) 51.5%(17) 300床以上 27.7%(13) 29.7%(11) 44%(11) 21.2%(7) 注1:*p<.05.**p<.01.***p<.001. 注2:各項目で欠損値がある者は除外しているため合計人数が異なる場合がある。 治療的グループ支援 χ2検定(χ2値) 地域生活へ向けた支援χ2検定(χ2値) 年齢 社会福祉士 経験年数 勤務年数 所属機関 ソーシャルワーカー数 病棟専任ソーシャルワーカー数 病床数 13.家族支援と利用者支援との関連 PSW が利用者支援の充実を図るには家族との関わりが重要なことが先行研究からも示 唆されており,利用者支援の充実には家族へのかかわりも視野に入れて実践が行われてい ることが推測される.そこで「充実した利用者支援を行うにあたっては,PSW と家族と の協働が関連しているのではないか」という作業仮説を立ててして分析を行った. 上記の仮説に基づき,家族支援因子【本人の療養に関する個別的家族支援】では 4 点 までを「高得点群」とし,3.2 点までを「低得点群」に分けた.【集団の場を利用した家 族支援】では 4 点までを「高得点群」とし,1.6 点までを「低得点群」に分けた.【家族 のための直接的支援】では 4 点までを「高得点群」とし,2.5 点までを「低得点群」に分 けた.【必要に応じた相談支援】では 4 点までを「高得点群」とし,3.5 点までを「低得 点群」に分けた.利用者支援因子とのクロス集計表および χ² 検定を行った結果が表 6 で ある. 分析の結果,【治療的グループ支援の高得点群/低得点群】と【本人の療養に関する家
族支援の高得点群/低得点群】のクロス集計では,本人の療養に関する家族支援の高得点 群が低得点群よりも治療グループ支援の得点が有意に高いことが明らかとなった.また, 【集団の場を利用した家族支援】の高得点群の PSW は【治療的グループ支援】の得点が 有意に高いことが明らかとなった. 【治療的グループ支援の高得点群/低得点群】と【家族のための直接的支援の高得点群 /低得点群】のクロス集計では,家族のための直接支援の高得点群が低得点群よりも治療 的グループ支援の得点が有意に高いことが明らかとなった.また,【必要に応じた家族支 援の高得点群/低得点群】と【治療的グループ支援の高得点群/低得点群】の有意な関連 はみられなかった. 【地域生活へ向けた支援の高得点群/低得点群】と【本人の療養に関する個別的家族支 援の高得点群/低得点群】のクロス集計では,本人の療養に関する個別的家族支援の高得 点群が低得点群よりも地域生活へ向けた支援の得点が有意に高いことが明らかとなった. また,【集団の場を利用した家族支援】が高得点群の PSW は【治療的グループ支援】の 得点が有意に高いことが明らかとなっている. この結果を受けて,利用者支援と家族支援は片方が充実しているところでは両方が充実 している結果となった.そのうち【家族のための直接的支援】と利用者の【地域生活へ向 けた支援】以外の項目で有意な関連があった. 家族への【必要に応じた支援】との関連がみられなかった理由としては,利用者支援に 関しては「入院中の利用者」を対象とした支援内容についての回答を得ているため,受診 前や本人の病状悪化時の相談といった因子との関連はみられないことが推測される. 表 6 利用者支援と家族支援との関連 (n=105) 低得点群 高得点群 低得点群 高得点群 低得点群 59.6%(28) 25%(9) **(9.863)df=1 76%(19) 27.3%(9) ***(13.525)df=1 高得点群 40.4%(19) 75%(27) (両側) 24%(6) 72.7%(24) (両側) 低得点群 70.2%(33) 16.2%(6) ***(24.268)df=1 68%(17) 39.4%(13) *(4.661)df=1 高得点群 29.8%(14) 83.8%(31) (両側) 32%(8) 60.6%(20) (両側) 低得点群 53.2%(25) 24.3%(9) *(7.160)df=1 52%(13) 27.3%(9) 高得点群 46.8%(22) 75.7%(28) (両側) 48%(12) 72.7%(24) 低得点群 59.6%(28) 43.2%(16) 52%(13) 63.6%(21) 高得点群 40.4%(19) 56.8%(21) 48%(12) 36.4%(12) 注1:*p<.05.**p<.01.***p<.001. 注2: 各項目で欠損値がある者は除外しているため合計人数が異なる場合がある。 治療的グループ支援 χ2検定(χ2値) 地域生活へ向けた支援χ2検定(χ2値) 家 族 支 援 因 子 本人の療養に関する個別的家族支援 集団の場を利用した家族支援 家族のための直接的支援 必要に応じた支援 14.利用者支援を充実させる要因 利用者支援に関して,「支援方法を検討する機会」は,行っている支援の方法を検討す ることや,行った支援を振り返り支援方法の枠組みを広げることが影響していることが推 測される.また,13.の結果から家族支援の充実が利用者支援に関連していることがわ かっている.家族との協働は,支援を検討する機会であり,利用者支援の充実に影響して いると推測される.そこで,利用者支援の充実に関連する支援の検討の機会を明らかにす
るために,ステップワイズ法による重回帰分析を行った.分析の結果,利用者支援および 家族支援の合計素得点の平均値を,表 7 に示した.家族支援のなかでは,必要に応じた 支援が 3.45 で最も高く,集団の場を利用した家族支援が 1.80 で最も低い平均値を示した. また,利用者支援では,地域生活へ向けた支援が 3.52 で高く,治療的グループ支援は 1.83 で低い平均値を示した. 表 7 家族支援および利用者支援の合計素得点の平均値 (n=105) カテゴリー 項目 平均値±SD注1 本人の療養に関する個別的家族支援(5項目) 3.25±0.50 家族支援 集団の場を利用した家族支援(5項目) 1.80±0.74 (独立変数) 家族のための直接的支援(4項目) 2.75±0.61 必要に応じた相談支援(4項目) 3.45±0.51 利用者支援 治療的グループ支援(4項目) 1.83±0.68 (従属変数) 地域生活へ向けた支援(3項目) 3.52±0.47 注1:各変数の合計得点の平均値と標準偏差を項目数で割ったものである。 利用支援の重回帰分析の結果を表 8 に示した.重回帰式に関する分散分析の結果はす べて予測式として採択された. 治療的グループ支援で有意となった変数は,「集団の場を利用した家族支援」「本人の療 養に関する個別的家族支援」「医師と会議で検討する」「支援内容についての相談(院内の 職員)」であった.「院内の同職種との勉強会」は有意な傾向が認められた(p=0.56). 地域生活へ向けた支援で有意となった変数は,「本人の療養に関する個別的家族支援」「院 内の他職種との勉強会」「院外での情報交換」「大学院等への進学」である.「他機関の見 学」「集団の場を利用した家族支援」は有意な値ではなかったが(p = 0.083,p=0.091) 有効な変数として採択された. どちらの利用者支援も,集団の場を利用した家族支援および本人の療養に関する個別的 家族支援が充実すると利用者支援の充実が図られる傾向がある. 治療的グループ支援においては,医師と会議で支援について検討すること,また院内の 同職種との勉強会の重要性を上げるほうが,支援が充実する傾向がある.他職種と支援内 容について会議で検討することによって支援の充実が図られ,同職種と支援方法や技術に ついて勉強することが重要であると感じている場合には支援内容が充実することが理解で きる.しかし,院内の職員に支援内容を相談することが重要であると感じている場合には 支援の充実が図られづらい傾向にあることがわかった. 地域生活へ向けた支援においては,院外での情報交換や,他機関の見学が重要であると 感じているほうが支援の充実が図られる傾向があり,院外での情報交換が利用者の幅の広 い支援を行うことにつながると理解できる.しかしながら院内の他職種との勉強会や大学 院等への進学が重要であると感じている場合には支援の充実が図られにくいことがわかっ た.治療的グループ支援と地域生活へ向けた支援ではその規定要因が家族との関わり以外
は異なっていることがわかった. 以上 2 つの重回帰モデルの決定係数は 0.439,0.299 であり,モデルの有効性を示す F 値はどちらも 0.1%水準で有意であったため,これらの重回帰モデルは有効であること が示された.尚,VIF 値は,いずれも 1.5 未満であり,独立変数に多重共線性が存在しな いことを確認した. 表 8 重回帰分析において有意となった独立変数 (n=105) 変数 治療的グループ支援(β) 変数 地域生活へ向けた支援(β) 集団の場を利用した家族支援 0.309*** 集団の場を利用した家族支援 0.157 本人の療養に関する個別的家族支援 0.351*** 本人の療養に関する個別的家族支援 0.416*** 医師と会議で検討する 0.204* 院内の他職種との勉強会 ‐0.192* 支援内容についての相談(院内の職員) ‐0.270** 院外での情報交換 0.189* 院内の同職種との勉強会 0.163 他機関の見学 0.159 大学院等への進学 ‐0.235** F値 16.643*** F値 8.028*** R² 0.467 R² 0.341 調整済みR² 0.439 調整済みR² 0.299 注1:利用者支援を従属変数とするステップワイズ 注2:* p<.05. **p<.01.***p<.001. Ⅴ.考察 1.PSW の現状 現在の PSW の支援の遂行に関わる状況を調査した結果,PSW がどのような環境で支 援を行っているのか明らかにしてきた.そこで,その結果についてまとめる. (ⅰ)PSW は,利用者の入院から退院に向けた過程で,本人と心理・情緒的に関わり,そ の中で経済問題調整や日常生活支援,住宅問題への支援を日常業務として多く行っている ことがわかった.また,入院生活技能訓練やデイケアでのグループワーク,入院集団精神 療法などの診療報酬に関わる部分での業務を行っている PSW は少ないが,PSW は診療 報酬に関わる部分においても『退院』に向けた支援を行っていることがわかった. (ⅱ)家族への支援では,本人の退院に向けての連絡調整,家族からの相談の窓口になる 業務を行っていると回答した割合が高かった.しかしながら,「家族懇談会の開催」「家族 会運営のサポート」「家族のための支援プランを作成する」などといった支援を行ってい ると回答する割合は 30%以下と少なく,家族を支援の対象と捉えた支援を行っている割 合は少ないことがわかった. (ⅲ)PSW は医師との連携については,医師と共通した方向性を検討し,支援を行うため に PSW は自らが働きかけることで連携をとっている実態が明らかとなった.また,PSW が積極的に働きかけない場合,共通した方向性が検討されない傾向が認められた.他職種 との連携では,院外で連携する相手を回答する人が多く,医療機関と他資源とのネットワー クを構築する仕事をこなしているといえる. (ⅳ)ソーシャルワーク業務の向上にはどのような機会が必要と考えるか尋ねたところ,
院外での研修会や情報交換が重要であると認識している PSW が多かった.院外でのネッ トワークを構築するためにも地域資源の情報収集が重要であることや,研修会などに参加 し自らのケースを振り返り,より支援を充実させる勉強が重要であると認識しているため と考えられた. (ⅴ)支援内容の相談はケースの検討であったり,職場での悩みに関する相談であったり, スーパービジョンであったりと様々であった.したがって,他職種を含めて職場の人にす る PSW が多かった.日常業務の中で相談・情報の共有を行い,共に本人や家族に対して 支援するためと考えられる.それらに対し,職場外で支援内容の相談を行う際には,個人 情報の扱いに注意を払うことや,まだ数少ないスーパービジョンなどの機会を自ら探さな ければならないなどの困難さがあると考えられる.支援内容を相談する相手を伺い,その 中で最も信頼し相談する相手を伺ったところ,同様に,職場内における相手であることが わかった. (ⅵ)今後の方向性について,現在の医療機関で仕事を続けるという PSW と今後はわか らないという PSW が二極化していることがわかった.従って,職場の状況や条件がよい 方へ移ろうとする動きが現れていることを示唆している.精神保健福祉の分野で福祉の専 門職として PSW が認められる一方で,条件のよい他の福祉領域へ移ることや他の医療機 関へ転職する可能性を広げることとなった.このことは,職場の定着に関して,今後,検 討の必要性があると考えられる. 2.利用者支援の特徴 因子分析の結果,PSW は利用者の支援は,【治療的グループ支援】【地域生活へ向けた 支援】【個別の入院生活へ向けた支援】といった 3 つの過程で把握することができること がわかった.このことは,PSW は利用者の支援を利用者の置かれている状況と利用者の 病状とを相互的に関係づけながら支援を行っているためであると考えられる.入院中の利 用者は病気との付き合い方を自ら身につけなければならないが,その過程は様々であって, PSW は利用者の環境調整と直接の関わりを行う支援とを,どの段階からどのように行う のか決めながら支援していると考えられる. 分析の過程では,PSW が利用者の支援をする過程をカテゴリー化するためには潜在的 に行われている内容を加え,質問項目を発展させる必要があることが分かった.従って「『そ の他の業務』的性格のものが多くなることは,統計的には質問表つまり業務一覧表の不備 を表している(高橋 1997)」という先行研究を支持する結果となった. 3.家族支援の特徴 PSW の家族支援のあり方の特徴は【本人の療養に関する個別的家族支援】【集団の場を 利用した家族支援】【家族のための直接的支援】【必要に応じた支援】の 4 つに大別され ることが明らかとなった.因子分析の結果から,家族支援の形態は,家族自身を支援する
のか,家族を通して利用者を支援するのかといった,支援の対象によって大別することが できることがわかった.また,今回の結果を受けて「何を家族支援」とするのかといった 課題が見えてきた.家族自身への支援なのか,家族を通して本人を支援するのか,どこか らが家族支援と呼べるのかといった概念の検討が今後の課題であろう. 4.PSW(回答者)の属性と利用者支援との関連 経験や勤務年数を重ねる事によって支援内容の充実が図られる傾向にはあるが,有意な 関連が見られるわけではなく,回答者の経験や勤務年数が利用者支援の充実に必要な変数 の本筋ではないことが明らかとなった.しかし,PSW の数という部分でいうと,利用者 の入院中に行う支援との関連が見られた.それには,PSW としての部署の存在や,院内 における地位が確立していること,また,PSW を数多く雇い入れる医療機関の理解度の 高さなどが要因として考えられる.いずれにしても,PSW が医療機関の中で仕事を行う 際には医療機関の中での PSW としてのポジションが関係するものと考えられる. 5.家族支援と利用者支援との関連 PSW は家族への【必要に応じた支援】を除き,家族への支援業務の充実を図る PSW のほうが利用者支援において充実した支援を行っていることがわかった.そのうち【家族 のための直接的支援 】と利用者の【地域生活へ向けた支援】以外の項目で有意な関連が あった.PSW にとって家族を支援することと利用者を支援することは密接に関わってお り,家族からの情報を得て支援を行うことや,家族自身が支援の対象となる場合にはそち らも行うといった,利用者だけでなく家族も対象に支援業務を行っているといえる.しか し結果の度合いを考慮すると,家族を通して利用者の支援を行っているといった関係が見 えてくる.医療機関という場の PSW は,支援の対象として利用者に重きを置いていると いう実態を反映しているものと考えられる. 6.利用者支援を充実させる要因 重回帰分析の結果から利用者支援の充実には家族との協働が重要であることが明らか となった.PSW は利用者の支援において家族を含めてソーシャルワークを展開していた. また家族への支援を充実させることが利用者支援の充実に関連し,PSW が賢明に家族と 関わり,家族を巻き込みながら利用者の支援を行おうとする構造であった. また,利用者支援のうち入院中に行われる治療的意味合いのグループ支援の充実に関す る規定要因と,地域生活へ向けて利用者の環境調整を行うなどの支援の充実に関する規定 要因は異なることがわかった.治療的グループ支援においては,院内で PSW としての視 点や支援の方向性を述べる機会である会議や PSW 同士で支援方法等を検討する機会が重 要であり,院内において他職種から意見が述べられる中,助言や指導を受ける立場である 相談という形ではなく,どのように PSW としての意見を確立し,述べていくのかが影響
していると考えられる.地域生活へ向けた支援では,院内ではなく,院外での情報交換や 他機関とのつながりといったネットワークが,退院後の生活を見据えて利用者と関わり, 支援の試行錯誤の幅を広げていると考えられる.しかし,院内で他職種と勉強会をするこ とが重要と感じている場合は PSW として支援の視点を養うというよりも他の職種の意見 や視点を学ぶといった意味合いであると推測される.また,大学院等への進学を重要と考 える理由としては,現場を離れる,または,現場の直接支援より広い枠組みでの勉強であ ると考えると,直接支援の幅を広げることには結びつかないことが考えられる.また,今 回の調査では明らかとならなかったが,現場を離れるということは,実践へのモチベー ションが下がっている,バーンアウトしているといった理由も考えられるため,モチベー ションとの関連に関する検討が必要であろう. Ⅵ.おわりに 本研究により,PSW と家族との関わりは,利用者に対して行う支援に家族を巻き込む という構造であることが明らかとなった.また,精神障害者とその家族の支援は表裏一体 であり,どちらかを充実させることはどちらの充実も図られると考えられた.現状では家 族を支援の対象とすることができていない.しかし家族を支援することが,遠回りのよう に思えるが,利用者支援の充実に繋がっていることが示唆された.したがって,家族支援 が診療報酬で裏打されることや,PSW の適正な配置基準を設けることは,支援の充実に 非常に重要な意味をもち得ていることが実証された. しかし,医療機関のなかで PSW は,現在個々人により業務の遂行に差があり,専門職 として不安定な立場に置かれている状況が浮かび上がった.PSW の支援の充実には,経 験年数や勤務年数を積み重ねることが関連しているのではなく,PSW 独自の視点を養う 重要性を認識する必要があることがわかった.PSW は医療機関のなかでの確固とした地 位を築けないでいる現状がある.したがって,今後は PSW の実践を深めるための実践の 科学化および理論化を積み重ねる必要があり,大学 ・ 大学院での教育においては PSW と しての視点を養う姿勢を教える使命がある.また実践においては自身の実践を振り返る場 を積極的に活用し,広げる必要があるだろう. この研究の成果を踏まえ,PSW としての視点を養う教育の場や,研修の機会を保障す るといった対策が望まれ,「PSW 自身の支援」という観点からの施策が必要とされている といえる. PSW の業務を充実させるには業務を行う環境を整える必要がある.そのことによって本 人や家族のニーズに応えることができ,精神保健福祉活動の充実が図られると考えられる. 残された課題としては,家族との関わりや家族との協働をどのように捉えるのかという ことである.家族の困難な状況に近くで接する機会の多い PSW は対立する理念の間に立っ て業務をこなさなければならない.現状では利用者本人支援を中心に業務をこなし,家族
は利用者支援の協力者として巻き込むといった構造になっている.「何を家族支援と呼ぶ のか」家族支援の概念の検討とともに,家族自身への直接的な介入方法も検討する必要が ある.医療機関の中だけでなく,地域を巻き込んで,家族に対する支援を行う機関との連 携も今後の検討課題であるといえる. そして,本研究における支援業務の質問項目は,PSW が行う支援業務のすべてを含ん だ内容とはいえないことがわかった.調査では,利用者支援の項目や家族支援の項目は実 態としての質問項目に設定しているが,自記式質問紙によるため,あくまでも対象者の「認 識」となっている . 今回の調査の裏づけとして参与観察法などの質的研究や利用者支援・ 家族支援の尺度の完成度を高める量的研究を重ねていく必要がある. この研究の大きな課題としてあげられるのは PSW の個々人の努力は何によって支えら れているのかといった部分にまで明らかにならなかった点である.調査項目の再検討も含 め,今後は PSW の業務遂行の支えとなるような要因に焦点化した研究が求められる.また, 今後は医療機関だけでなく,地域におけるPSW の調査研究を積み重ねることが必要である. 付記 尚,本論文は 2008(平成 19)年度東洋大学大学院修士学位論文の一部を加筆,修正し たものである. 謝辞 本研究にご協力いただきました多くの関係者の皆様,特に全国の精神科ソーシャルワー カーの方々にお礼申し上げます.ならびに多大なるご指導を賜りました東洋大学の白石弘 巳先生に心よりお礼申し上げます. 注 注 1)PSW は自らの存在価値を求め「医療費事務に始まって,運転業務,ボイラー…医局の秘書業務(谷 中 2000)」など「何でも屋」「便利屋」という言葉に表されるように,自らを機関や組織のなかに位 置づける業務をこなしながら,「自らの機能をコミット(岡本 1991)」させる必要があった.1970 年代には PSW 自身の社会的地位の低さ,身分の不安定さ,劣悪な労働条件となどの問題が顕在化し (吉川 2011),専門性の確立と待遇の改善が望まれた.PSW が「何でも屋」として職員の一員と認め られる一方で,PSW の役割とは何か,よって立つ理論や学問,科学を何に求めるのかといった PSW のアイデンティティが問われていたといえる.岡本民夫(1991)『戦後日本における精神医学ソーシャ ル・ワークの展開』評論・社会科学.43.73-97. 谷中輝雄(2000)「精神保健福祉とソーシャルワー
ク」『ソーシャルワーク研究』25(4).301-307. 吉川公章(2011)「精神保健福祉士とソーシャルワー カー」『ソーシャルワーク研究』37(2).119-126. 文献 浅野英子,栄セツコ,清水由香,他 1 名(2013)「精神科ソーシャルワーカーの長期入院者への退院 支援活動における自己効力感の構造」『社会福祉学』57(3)3-15. 石原邦雄(2000)『家族生活とストレス』放送大学教育振興会.東京. 小沼聖治(2016)「精神保健福祉援助実習における実習指導者と養成校教員の連携に関する実証分析 -実習指導者の連携困難感に着目して-」『精神保健福祉学』4(1)19-32. 公益社団法人日本精神保健福祉士協会(2014)「精神保健福祉士の業務実態等に関する調査報告書」 <http://www.japsw.or.jp/kaiin/hokokusyo/201406-gyomu.html>(2017 年 9 月 21 日 ア クセス) 公益財団法人日本精神保健福祉士協会(2014)『精神保健福祉士業務指針及び業務分類 第 2 版』. 厚生省大臣官房障害保健福祉部精神保健福祉課 監修(1998)『精神保健福祉士法 詳解』株式会社ぎょ うせい.24. 松本すみ子(2017)「精神保健福祉士の資質の向上に向けた継続教育」『精神保健福祉』48(1)28-33. 宮崎澄子,岩崎弥生,石川かおり,他 2 名(2001)「精神障害を家族にもつ男性家族員のケアの内容 及びケア提供に伴う情緒的体験と対処」『千葉大学看護学部紀要』.23.7-14. 日本精神保健福祉士協会(2004)「日本精神保健福祉士協会員に関する業務統計調査報告(平成 13 年 10 月全国調査)」『精神保健福祉』57 別冊.日本精神保健福祉士協会医療福祉経済部業 務検討委員会編集.
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