肺癌における胸膜浸潤の研究
清
水
裕
は じ め に 本邦での肺癌による年間死亡者数は平成 16年度で 6 万人と, 現在癌死のトップである. その背景には, 肺癌の 全病期における手術単独での治療成績が約 50% (5年生 存率) と, 非常に低いことが上げられる. しかし, 近年術 後補助化学療法の有効性が報告され, 徐々に治療成績向 上の糸口が見えはじめてきた. 術後補助化学療法は現在, 病理病期をもとにその適応 が決められている. したがって, 病期 類が違えば症例 選択にも問題が生じ, 不適切な治療選択が行われる可能 性がある. 現 状 の 肺 癌 に お け る 国 際 TNM 病 期 類 (UICC 類) と日本肺癌取り扱い規約による TNM 病期 類 (JLCS 類) には T 因子, 特に胸膜浸潤に関して問 題点がある. そこで今回, 1000症例以上の肺癌手術患者 を解析し, UICC 類と JLCS 類の胸膜浸潤に関する 問題点を提示し, 2つの 類間に整合性を持たせた新病 期 類の提案を試みた. 肺癌の病期 類の問題点 1958年に Brewerら らによって,胸膜浸潤が肺癌の予 後不良因子として初めて報告されて以来, 現在までに多 数の予後不良因子としての報告がある. 胸膜浸潤に関し て は 1970年 代 に 初 め て UICC の TNM 類 に A tumor of any size that invades the visceral pleura is classified as T2 と記載されて以来,現在まで全く変わっ ていない. さらには, 胸膜浸潤の言葉の定義に関しては まったく記載されていないのが現状である. 一方 JLCS 類では, 胸膜浸潤は p0; 腫瘍が胸膜弾性板を越えな い, p1; 腫瘍が胸膜弾性板を越えるが胸膜表面に露出し ていない p2; 腫瘍が胸膜表面に露出しているが隣接臓 器に浸潤していない p3; 腫瘍が隣接臓器へ浸潤してい る, の 4段階に けて検討している. また, 腫瘍径 3 cm 以下でも p2症例であれば T2へ upstaging すると定義し ている. しかし,UICC の TNM 類では,胸膜浸潤の定 義が無いため p1以上を胸膜浸潤としているのか, p2以 上を定義しているのか不明である. したがって仮に, p1 以上を胸膜浸潤と定義するならば, UICC と JLCS 類 の T1から T2への upstaging に関して差異が生じてい ることになる. 肺癌手術患者における胸膜浸潤の解析 【対象と方法】 1979 年 2月から 2001年 3月までに完全 切除した T1-T3非小細胞肺癌 1653症例を対象に, 腫瘍 径 (3cm以下, 3cm超) と胸膜浸潤について検討した. 胸 膜浸潤の診断のために全症例に弾性線維染色を行った. 胸膜浸潤の程度は JLCSの定義に従い, p0-p3の 4段階 に 類した. 胸膜浸潤症例の予後解析により, 胸膜浸潤 の定義を行い, その定義をもとに 2つの 類間に整合性 を持たせた新病期 類の構築を試みた. 【結 果】 腫瘍径 3 cm以下の p1と p2症例の 5年生存 率 (p1; 63%, p2; 42%, p=0.20) は同等で,3 cm以下の p0症例の 5年生存率 (79%) より有意に (p<0.01) 不良 であった. また, 3 cm以下の p1と p2症例の 5年生存率 は, 3 cm以上の p0症例の 5年生存率 (60%) と同等で あった (図 1). 3 cm以 上 の p1と p2症 例 の 5年 生 存 率 (p1; 39%, p2; 35%,p=0.47)は同等で,3 cm以上の p0症例の 5生 率 (60%)より有意に (p<0.01)不良で,T3症例の 5年生 87 Kitakanto Med J 2006;56:87∼89 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科臓器病態外科学 平成17年11月14日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科臓器病態外科学 清水 裕存率 (36%) と同等であった (図 2). 胸膜浸潤の定義と UICC 類と JLCS 類に整合性を持たせた新病期 類 予後から えた胸膜浸潤の定義は p1以上と言える. この結果から, UICC 類において欠如している胸膜浸 潤の定義を, 肺癌が胸膜弾性板を越えて浸潤している 状態 (p1以上) で, 胸膜表面への癌の露出の有無は問わ ない」と提言した.また,UICC 類と日本肺癌取り扱い 規約では, T1肺癌から T2肺癌への upstaging の面で差 異があったので, 新しい胸膜浸潤の定義を用いた上で, 腫瘍径が 3cm以下でも胸膜浸潤 (p1以上)があれば up-staging する」という 類を提唱した.さらには, 3 cm以 上の胸膜浸潤有する肺癌症例 (現行の 類では T2肺癌) の予後は, T3肺癌と同等である」という結果から, 3 cm 以上の胸膜浸潤有する症例を T2肺癌として扱うよりも T3肺癌として扱う方が予後の面から妥当であり,この症 例群を T3肺癌へと upstaging するという新しい TNM 類を提案した. 謝 辞 本研究の御指導をいただきました, 群馬大学大学院医 学系研究科臓器病態外科学, 森下靖雄教授, ならびに国 立がんセンター東病院呼吸器外科, 永井完治, 吉田純司, 西村光世の諸先生, ならびに教室員の皆様に深く感謝い たします. 文 献
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肺癌における胸膜浸潤の研究
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