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地域研究における三つの「たいしょう」 (特集 本の森への道案内)

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地域研究における三つの「たいしょう」 (特集 本

の森への道案内)

著者

浅羽 祐樹

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

240

ページ

26-27

発行年

2015-09

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003118

(2)

アジ研ワールド・トレンド No.240(2015. 10)  

26

か ら『 意 識 共 有 』 へ 」( 小 此 木 政 夫編『韓国における市民意識の動 態』慶應義塾大学出版会、二〇〇 五年)という日韓関係の変容に注 目したことに鑑みると、隔世の感 がある。日韓四〇周年の頃は、確 かに、自由民主主義体制や米国と の同盟を基軸とする外交安保体制 を 共 有 し て い る だ け で な く、 「 韓 流」 /「日流」ブームのなかで、市 民意識も「対等感」がベースにな り つ つ あ っ た。 長 ら く「 日 本 優 位」だった関係が対称的になった のは画期的なことだった。   ところが、近年、互いの政治体 制に対する違和感だけでなく、外 交安保政策にも齟齬が広がってい る こ と が「 日 韓 共 同 世 論 調 査 」 ( 言 論 N P O・ 東 ア ジ ア 研 究 院 実 施)によって明らかになっている。 日韓両国民の過半数はそれぞれ相 手 に 対 し て「 民 族 主 義 」「 軍 国 主   一九六五年に日韓両国が国交を 正常化してから今年六月で五〇年 が経った。その記念すべき年に、 外務省のホームページの日韓関係 に 関 す る 記 述 か ら、 「 自 由 と 民 主 主義、市場経済等の基本的価値を 共有する」という文言が削除され た。外交青書に初めて「基本的価 値[の]共有」が盛り込まれたの は 二 〇 〇 四 年 で、 「 民 主 主 義、 市 場経済」が例示されたが、二〇〇 七年に「自由、民主主義、基本的 人権」へと例示の仕方が変わり、 二〇一四年まで踏襲された。とこ ろ が、 今 年 か ら「 最 も 重 要 な 隣 国」とだけ形容されている。特に 「 自 由 」 の 共 有 に 対 す る 拒 否 感 が 官邸で強く、その意向が政府全体 で貫徹されたという。   一〇年前には、現代韓国朝鮮研 究 の パ イ オ ニ ア が「 『 体 制 共 有 』 義 」 と 認 識 し て い る 反 面、 「 民 主 主義」や「自由主義」という回答 は最大でも二割ほどにすぎない。 また、朴槿恵政権では「韓米日」 の安保連携より「韓米中」が重視 さ れ る な か で、 日 本( 五 八・ 一 %)は北朝鮮(八三・四%)に次 いで軍事的脅威として認識されて いる。つまり、体制をめぐる意識 が離反しているというわけである。   このように、地域研究では、対 象国と日本との関係が大きく様変 わりするなかで、にわかに対称的 になったアジアの場合は特に、理 解の仕方が追いついていない場合 も少なくない。   「嫌韓」 「反中」本はそうした限 界の表れである。それ自体、日本 研究の対象として興味深い。   たとえば、旅客船セウォル号の 沈 没 事 故 に つ い て、 「 パ ル リ パ ル リ(はやくはやく)文化」や「ケ ンチャナヨ(いいかげん)精神」 のある意味当然の結果である、と 解説するベテランのウォッチャー が い る( 室 谷 克 実『 デ ィ ス・ イ ズ・コリア   韓国船沈没考』産経 新 聞 出 版、 二 〇 一 四 年 )。 何 か 事 が 起 き る た び に、 い つ も「 韓 国 ( 人 ) が ~ ~ な の は 韓 国( 人 ) だ からだ」という文化論や国民性を 持ち出すが、何にでも当てはまる 説明は、実は、何も説明していな いし、当該対象を説明できない。 これでは、なぜ海難事故だったの か、なぜセウォル号だったのか、 の 理 由 が 分 か ら な い。 「 い つ も と 同 じ 不 可 解 な 韓 国( デ ィ ス・ イ ズ・ コ リ ア )」 や「 O I N K( O n l y   I N   K o r e a )」 に みえるのは、ピントのずれた「レ ンズ」をかけているからである。   レンズを替えて、制度的な側面、 つまり業界団体や規制官庁、さら には大統領をめぐるルール、その なかでプレーヤーそれぞれにとっ てのインセンティブ構造に注目す ると、本来規制すべき官庁が業界 団体に取り込まれてしまった「規 制の罠」の典型としてみえてくる。 そうすると、日本の原発事故との

 

本の森への道案内

 

浅羽

  祐樹

[比較政治学・韓国政治]

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27

  アジ研ワールド・トレンド No.240(2015. 10) 類似点にも気づくはずだ。   手持ちの尺度では「珍プレー」 にみえる相手の行動を《他者》と して対象化し、好悪や快不快のレ ベルで反応するのではなく、尺度 そのものを自ら不断に見直してい くことが問われている。そうする ことで、その世界のそのゲームの そのルールに応じたよくあるプレ ーの「傾向」として分析できるよ うになり、さらには、適切な「対 策」を講じることができるはずで ある。   尺度を替える、スケール・シフ トするためには外国語の学習が欠 かせない。地域研究のアルファに し て オ メ ガ は、 対 象 国 の「 こ と ば」に馴染み、文脈をこえて「翻 訳・通訳」することである。   日本語話者にとって韓国語の場 合、語順が似ていて多くの漢字語 を共有しているため、とっつきや すく、ある程度までは誰でもでき る よ う に な る。 私 自 身、 「 ア ン ニ ョ ン ハ セ ヨ 」 と「 カ ム サ ハ ム ニ ダ」だけを覚えてソウル大学国際 大学院に進学したが、漢字語が七 割を占める新聞は半年後には読め るようになり、すっかり「分かっ た 」 気 に な っ て い た。 実 際 は、 「 韓 日 00 『 頂 上 』 会 談 」 を「 日 韓 00 『 首 脳 』 会 談 」 に 置 き 換 え る く ら いでは機械翻訳と差がつかない。   外交の場では、単語一つひとつ のニュアンスが死活的になる。た とえば、慰安婦問題で朴大統領が 要求する「 진정성 がある措置」の 場 合、 そ も そ も「 真 正 性 」「 真 情 性」という二つの漢字語が考えら れるし、いずれにせよそのままだ と 意 味 が 通 じ な い。 「 誠 意 あ る 措 置」と訳出されることが多いが、 これだと「金銭要求」と短絡され や す い。 「 言 動 の 一 貫 性 」 と 意 訳 できないと交渉に臨めない。   多くを共有している漢字語でさ え同音異義語が少なくない。こう した異同を「一大事」として受け とめてはじめて、どんぐりの背比 べで足踏み状態になりがちな「中 級」から一歩抜け出すことができ る。 前田真彦『前田式韓国語上級 表 現 ノ ー ト 』( 参 考 文 献 ① ) は、 日本語と韓国語が似ているようで 異なっていて、異なっているよう で似ている分、日本語話者が韓国 語を学習するうえで直面しやすい 悩みと解決策をコンパクトに整理 している。各地で孤軍奮闘してい る中級学習者をつなぐ『韓国語学 習 ジ ャ ー ナ ル h a n a 』( 隔 月 刊)もオススメだ。   一生涯をかけて韓国語の研究と 教育に取り組んでいる野間秀樹に よると、日本語話者にとって韓国 語を学ぶというのは、照らし合わ せて日本語のありようを振り返る ということでもあるという。さら に、外国語に限らず、他の誰かの ことばを学ぶということは、異な りながら < 共に在る > 、自ら < 別 様に在りうる > ということにオー プンであるということだという。 『韓国語をいかに学ぶか』 (参考文 献②)は、徹頭徹尾、日本語話者 の学習者のために書かれているが、 「韓国語を学ぶ方法」 「韓国語の方 法」だけでなく「韓国語という方 法」という研究方法、いや世界観 に基づいている。入門書の第一課 で日本語話者が相手の言っている ことが分からず「 네 ?」と訊き返 すのは、発話の場では最初から欠 かせないからであるし、その人の 名前が「 도 ク ガ ワ 쿠가와 」さんなのも、 発音の仕組みを段階ごとに自然に 習得させるためだという。   いま、切実なのは、このように 相手と対照させて自らを省みると いう姿勢である。ダメなところだ けこれみよがしにdisり合う必 要はまったくなく、失敗学の事例 として淡々と分析すればいい。そ れよりも、互いにいいところをベ ンチマーキングし、教え合い、共 に学びたい。 春木育美・薛東勲編 『 韓 国 の 少 子 高 齢 化 と 格 差 社 会 』 ( 参 考 文 献 ③ ) は、 ま さ に そ う し た「 韓 国 と い う 方 法 」「 日 本 と い う方法」で、日韓がそれぞれの仕 方で分かち合っている課題につい て共に取り組むアプローチを示し ている。   韓国研究や地域研究に限らず、 新しい「ことば」を学び続けるこ とは未来に向けた共生の条件であ り、希望である。 ( あ さ ば   ゆ う き / 新 潟 県 立 大 学 大学院国際地域学研究科教授) 《参考文献》 ① 前田真彦『前田式韓国語上級表 現 ノ ー ト( 1) ( 2) 』( 明 石 書 店、二〇一五年) 。 ② 野間秀樹『韓国語をいかに学ぶ か ―― 日 本 語 話 者 の た め に 』 (平凡社新書、二〇一四年) 。 ③ 春木育美・薛東勲編『韓国の少 子高齢化と格差社会――日韓比 較 の 視 座 か ら 』( 慶 應 義 塾 大 学 出版会、二〇一一年) 。

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