アジ研ワールド・トレンド No.247(2016. 5)
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特 集
アジアの古本屋
中国の古本屋は、一九五〇年代、
公私合営という形を経て他業種の
私
企
業
と
と
も
に
国
営
化
が
進
ん
だ。
その結果、北京では一一〇あった
民間の古本屋が、国営企業である
中国書店へとまとめられた(参考
文
献
①
)。
そ
の
後、
一
九
八
〇
年
代
になり、私企業による経済活動が
認められるようになると、民間の
古本屋が再び出現し始めた。
現在、古本屋は主に二種類に分
けられる。ひとつは実店舗のある
古本屋であり、もうひとつはイン
ターネット上の古本屋である。本
稿では、主に筆者が訪問したこと
のある北京の古本屋およびインタ
ーネット上の古本屋サイト、特に
最大手である「孔夫子旧書網」を
紹介する。中国の古本屋事情の一
端をお伝えできればと思う。
●
北
京
の
古
本
屋
「
︙︙
八
〇
年
代
以
前、
北
京
の
書
店は二つしかなかった。一つは新
華書店、もう一つは中国書店。新
華書店は新しい本を売り、中国書
店
は
古
本
を
売
っ
て
い
た
」(
参
考
文
献
②
)。
北
京
の
書
店
に
つ
い
て
書
か
れているこの資料のとおり、北京
の古本屋といえば長らく中国書店
を指していた。中国の書店に関す
る資料を読むと、八○年代以前に
学生であった知識人たちが中国書
店に入り浸り、ここで知的好奇心
を満たしていたことが綴られてい
る。
現
在
は
歴
史
的
に
価
値
の
高
い、
い
わ
ゆ
る
古
書
と
呼
ば
れ
る
資
料
や、
書画、
文学、
歴史関連の新刊本(古
本でない本)を中心に扱っている
が、近年刊行された本の古本も販
売されている。しかし、書架上の
配列は無規則で、分野別にもなら
べられていない。必要な本を探す
のには丹念に棚をみていくほかな
く苦労する。
典型的な古本屋といった風情が
あるのは、清華大学の西側にある
前流書店である。大通り脇の、気
をつけないと見落としてしまいそ
うな路地のなかにあり、一見ひど
く寂れた店構えである。実際店内
も古びてはいるが、思ったより奥
行きがあり、人文社会科学分野を
中心とした学術書が分野ごとに並
べられている。この古本屋は、イ
ンターネットでも図書を検索・注
文することができるのだが、新し
く仕入れた古本はまず店頭に一〇
日から一五日程度並べたのち、イ
ンターネットでも販売するといっ
た店頭優遇策をとっている。筆者
の来店時、客は一人もいなかった
が、店内中央には、発送用に梱包
された図書が積み上げられていた
ことから、インターネットでの利
狩
野
修
二
多様化
す
る
中国
の
古本屋
︱国有企業
か
ら
ネ
ッ
ト
販売
ま
で
︱
用が相当数あることがうかがわれ
る。
日本ではおそらくあまりみかけ
ないタイプの古本屋に豆瓣書店が
ある。店は古本屋というよりむし
ろ小規模な書店といった印象を受
ける。実はここで売られている本
は出版社の在庫処分品を仕入れた
ものなのである。これにより新品
と同様の本が低価格で販売されて
いる。もちろん在庫処分品を何で
も仕入れている訳ではなく、店主
が人文系の本を中心に選定をして
いる。店員によると、誰かが一度
使った本をほしがる人はあまりい
ないため、いわゆる古本は扱って
いないとのことであった。またこ
の店では、一部であるが新刊書も
取り扱っている。
北京ではいくつかの場所で古本
市が開催されている。市内東部に
あ
る
潘
家
圓
旧
貨
市
場
の
古
本
市
は、
一九九〇年代前半に始まり、現在
でも行われている数少ない古本市
のひとつである。開催は土日のみ
で、駐車場を思わせるスペースに
三畳程度の広さを一区画としてそ
れ
ぞ
れ
の
売
り
主
が
出
店
し
て
い
る。
潘家圓旧貨市場は、常設市として
は、骨董や装飾品などが取り扱わ
れる場所ということもあり、古本
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市でもそれらに関する資料が多く
売られている。また、毛沢東関連
の資料や地図、連環書と呼ばれる
小型の本、民国期の資料などが多
く取り扱われていた。本の扱いは
売り主によって随分異なり、一冊
一冊ビニールに包みきれいに陳列
する店から、うずたかく積まれた
本を前に「一冊二元!」とたたき
売りをする店、店主が狭い売り場
スペースを本を踏みつけながら歩
く店などさまざまである。
●
イ
ン
タ
ー
ネ
ッ
ト
の
古
本
屋
中国でインターネット上の古本
屋が現れ始めたのは二〇〇〇年頃
といわれている。一時は斜陽産業
といわれた古本市場はインターネ
ットの登場により再び活性化する
ことになる。従来の実店舗の形態
は、店側・客側双方の売買が基本
的に居住する地域内に限定されて
しまい需要と供給のマッチングが
難しかった。しかしインターネッ
トの登場によりこれらの制約がな
くなった。これに加え、実店舗を
持つことによる賃貸料などのコス
ト削減や同一図書の価格がインタ
ーネット上で比較できるため、そ
の値段が平均化するなど、双方に
とって利点が生じた
(参考文献③)
。
孔夫子旧書網は、インターネット
古
本
屋
の
な
か
で
は
比
較
的
早
い
二〇〇二年に創業され、現在では
最大手の古本屋サイトである。こ
のサイトは単独の古本屋ではなく、
複数の古本屋がインターネット上
で取引できるようなプラットフォ
ームを提供している、いわゆるオ
ンラインモールである。二〇一六
年二月現在、約六万の店舗が出店
し、合わせて六九〇〇万冊もの本
が出品されている。前述の前流書
店もここに出店し実店舗とインタ
ーネット店舗両方で営業している。
筆者は、中国滞在時にこのサイト
を利用し、統計局でもすでに販売
していないような一九八〇~九〇
年代の統計資料を収集し、アジア
経済研究所図書館が所蔵する統計
資料の欠号年を補充した。このよ
うに図書館や地方都市にいる研究
者にとって、これまでなかなか収
集できなかった資料へのアクセス
は格段に向上したといえるであろ
う(
参
考
文
献
③
)。
た
だ
し、
各
店
舗によって対応がまちまちである
点は注意が必要である。例えば注
文をしてもその後連絡がない、あ
るいは領収書の発行をしてくれな
いなどである。このため利用しな
がら優良店舗を見極めていくこと
も必要である。
また、孔夫子旧書網では、すで
に新刊書を取り扱う書店も存在し
ており、古本屋サイトという枠を
超えた総合書店サイトへの変化も
みられる。
●
お
わ
り
に
以上、北京の古本屋とインター
ネット上の古本屋を簡単に紹介し
たが、このなかだけでも昔ながら
の店舗からネット販売との兼業店、
処分される在庫を販売する店など
多様な形態の古本屋があることが
わかる。また、中国書店や豆瓣書
店、孔夫子旧書網の一部店舗のよ
うに新刊書を取り扱うなど、古本
屋と新刊書店の垣根も低くなり始
め
て
い
る。
特
に
孔
夫
子
旧
書
網
は、
インターネット上での古本取引の
約九割を占めているとの話もあり、
これに新刊書が加わった場合、孔
夫
子
旧
書
網
で
み
つ
か
ら
な
い
本
を、
別の書店で探すのは難しいといっ
た情況が発生するのではないかと
の
予
想
も
さ
れ
て
い
る(
参
考
文
献
④
)。
こ
う
し
た
情
況
も
含
め、
今
後
中国の古本屋がどのように変化し
ていくのか非常に興味深いところ
である。
(
か
の
う
し
ゅ
う
じ
/
ア
ジ
ア
経
済
研究所
図書館)
《参考文献》
①
吴熹、李雪懿著「北京旧
书
市
场
的
经营
与开
发
」(
『北京
联
合大学
学
报
』十六巻四期、二〇〇二年
一二月)
。
②
严
彬
主
编
『
北
京
书
店
印
象
』(
中
央
编译
出版社、二〇一六年)
。
③
沈志富・汪健著「
论
网
络
旧
书业
的
发
展特点及
现实
意
义
」(
『国家
图
书
馆
学
刊
』
第
八
二
期、
二〇一二年四月)
。
④
赵
玉琦「中国互
联
网旧
书经营
模
式
初
谈
――
以
孔
夫
子
旧
书
网
为
例
」(
『中国出版』二〇一二年五
月上)
。
潘家圓古本市の様子(筆者撮影)
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