• 検索結果がありません。

義烏市から見る中国の地域経済発展 (特集 中国の都市と産業集積 -- 長江デルタで何が起きているか)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "義烏市から見る中国の地域経済発展 (特集 中国の都市と産業集積 -- 長江デルタで何が起きているか)"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

義烏市から見る中国の地域経済発展 (特集 中国の

都市と産業集積 -- 長江デルタで何が起きているか

)

著者

伊藤 亜聖

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

197

ページ

16-19

発行年

2012-02

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00004059

(2)

ら 南 に 三 〇 〇キ ロ の 距 離 江省中部 に 世 界 の 雑貨 バ 買 い 付 け に 訪 れる 商 業 都 ︵ 県 レ ベ ル 市 ︶ が あ る 。 八年 一 二 月 に 経済改革 た時 点 で 農 業 が域 内 総 生 % を 占 め る 標 準 的 な 農 村 農 民 は 糊 口 を し の ぐ ため や 農 閑 期 に は 行 商 に出 か が 多 か っ た 。 大 都 市 に は お ら ず 、 工 業 基 盤 は 脆 弱 国 営 企 業 は 存 在 せ ず 、 そ 企 業 の 進 出 も 無 か っ た。 の 後 、 義 烏 市 は 県 レベ 全 国 ト ップ クラ ス の 成 長 、 二 〇 一 一 年 三 月 に は 全 カ 所 しか 選 定 され て い な 区 ︵﹁ 総合配套改革試 海 浦東 や 深 圳市等 と 並 さ れ た 。 これ は 県 レ ベ ル 位 と し て 全国で 唯 一 の 快 挙である 。本 稿では 有 利 な 条 件 を 持た な い 浙 江 省 義 烏 市 が 、 何 故 に 改革開放後 に 急激 か つ 持続的 な 成 長を実現 し た の か を整 理 す る 。

二.産業集積の独自性

  高成長を 達成 し て き た 義烏市 で ある が 、 そ の 発 展 パ タ ー ン は 全 国 的に見ても 、 浙 江 省 の 中でも 個 性 的 で あ っ た 。 義烏市 の 域内総生 産 の 産 業別構成比率を 見 る と 、 一 九 九〇年代初頭ま で の 爆 発的 な 経 済 発展を け ん 引 し て い た の は 第 三 次 産業 で あ っ た 。   では 、 こ の 特 徴 的 な 成 長 パ タ ー ンの 原 動 力 は 何 か ?  その 答 え は 多く の 先 行研 究 で 言及さ れ て い る 、 巨大雑貨卸売市場 ﹁義烏小商品城﹂ ︵以 下 、 義 烏 市 場 ︶ で あ る 。 二 〇〇 九 年 に は ブ ー ス 数 は 四 万 三 〇〇〇 にま で 拡 張 さ れ 、 取 引 額 は 四 一 一 億元 に 達 し て い る 。   市場 で 取 引 さ れ て い る 商品 は 大 き く 一 六 分野 に わ か れ 、 最 も細か く 分 類 す ると 一 七 〇万 種にも及 ぶ。 こ れ ら の 雑貨 は 中 国全 土 と 国外を 含む 一 〇 万 余 り の メー カ ー か ら 供 給さ れ て い る と 言 わ れ て お り 、 商 品の 約 四 割 を 国 外 へ と 輸 出 し て い る 。 二 〇 一 〇年時点 で 一 万 三 〇 〇 〇人 の 外 国人バ イ ヤ ー が半 年以 上 滞在 し て 買付 け を 行う 、 グ ロ ー バ ルな 雑 貨 流 通 ハ ブ とな っ て い る 。   なぜ 義烏市場 は こ れ ほ ど の 集客 力 を 持 つ の か ?   結 論 か ら 言 え ば、 そ こ で は 誰 も が ア ク セ ス 可 能 な開かれた構 造 で 、 超 多 品 種 の 雑 貨を安価か つ 柔軟 に 供 給可 能な た めで あ る 。 一 九 九 〇 年 代 ま で は 広 大な中国国 内 市 場 の 旺盛な雑 貨需 要に対 応 し 、 中 小 メーカー ・ 商 人 が販 売 す るため の 一 大 プ ラ ッ ト フォ ー ム とし て 発 展 し た 。 二〇 〇 〇年 以降 は そ の 対 象市場が 全 世 界 に拡 張し た 。 現 在 で は 全 世 界 の 巨 大で 多 様 な ボ リ ュ ーム ゾー ン雑 貨 需要 に 対 応す る 仕 組 み と な っ て お り、 他 の 地 域 に は ない 独 自 な 優 位 性を誇 る 。   義烏 シ ス テ ム を 支 え る 構成 要素 は 、 供 給 側 か ら見る と大 規 模 メー カー 、 中 小 規 模 メ ーカー 、 問 屋 的 取りま と め役 、 商 人 が 複 合 し 、 激 しい 競 争 を 展 開 し てい る 。 大 ま か に 言えば 、 大 企 業 が 量産 の 効 く 、 或 いは ブ ラ ン ド 力 の あ る 製 品 を 担 い 、 中小企 業 が 流 行 に 対応 し た 製品 を 供給 し 、 問 屋 シ ス テ ム が 一 部 品 目 で 安価 な 加 工 を 担 っ て い る 。 同時 に 市 場内 に は 商 品 流通 を 担 う 商 人 も 多 く 、 各 地 の雑 貨 を 揃 え たり 情 報 を 集め た り す る 役 割 を担 っ て い る 。   類型 の 異 な る 生 産 組織 、 多 様 な 中間財 の 集積 、 卸 売 市 場と し て の 性質が 、 超多品種 の 雑 貨製品を 、 全体と し て は 大量 に 、 そ し て 個 別 の取 引 と し て は 柔 軟 に 供 給 する こ とを可 能 と し て い る 。 言 い 換 え れ ばQ C D + V F I ︵ ク オ リ テ ィ 、 コス ト 、 デ リ バ リ ー 、 バ ラ エ テ ィ 、 フレキシ ビ リ ティ 、 イ ノベ ー シ ョ ン︶ の各 面で 、 雑 貨 供 給 の 仕 組 み とし て 競 争 優 位 を 構 築 し て お り 、 義烏市場全 体 と し て は 中低級品雑 貨の マ ス ・ フ レキシ ブ ルな 供 給 が

中国

(3)

可能 と な っ て い る 。   この 特 徴 を 検 証 す る た め に 筆 者 は義 烏 市 場 を 訪れ る外国人バ イ ヤー に ア ン ケ ートを 実 施した ︵ 二 〇 一 〇年 三 月 ・ 八 月︶ 。 出 身 国 が 判 明 し た五 四 名 で 、 途 上 国 を 中 心 に 合 計 三 三 カ国 からバ イ ヤー が訪 れ てい た 。 短 期 買 い 付 け 型 バ イ ヤ ー の場 合 、 義 烏 市で の平 均 滞 在日 数 は 一 二 ・ 七 日 ︵ N = 三 三 ︶ で あ っ た 。 年に何回 義 烏 を 訪 れるかを聞 く と、 平均 で 二 ・ 八 五 回 ︵ N = 二 四 ︶ で あ っ た。 現 地 の 買 付 け サ ポ ー ト 事 務 所 によれ ば 平 均 的 な バ イ ヤ ー は 一 度 の訪 問で 五〇万 人 民 元 程 度 の雑 貨 を買 付 け 、 コ ン テ ナ で 発 送 する。   アン ケ ー ト で は Q CD + V FI のそ れ ぞ れ が 義 烏 の 優 位 性 か ど う かを 、 強 く 劣 位 を 一 、 劣 位 を 二 、 普通を 三 、 優 位を 四 、 強く優位ま を五とし て 評 点 を つ け ても ら い 、 算術平均 を 算 出 し た︵ 図 1︶ 結 果 、 外国人バ イ ヤ ー は 義 烏 市 場 の 品 揃 え ︵ variet y と 安 価 な 価 格 ︵ pr ice ︶ を最 も高 く 評 価し 、 次 に新 製 品 の 登 場 ︵ new pro d uct ︶ を 、 そ の 次 に注 文 の 際に大 小 さま ざまな ロ ッ トで 購 入 可 能 なフレ キ シ ビ リ テ ィ ︵ fl ex ib ili ty︶を 評 価 して いる こと がわか っ た 。 こ れ ら の 結 果 から 、 QC D + V F I の う ち 品 揃 え と 安 さが際 立 っ た 義 烏 の 優 位 性 であり、 同時 に 新 製品 と 取 引 の 柔軟 さ も 強 みとな っ て い る こ とが 確 認 でき る。

三.経済空間の重層性

  前節 で は 義烏市 の 発 展 が 卸 売市 場を 中 心 と し た 総 合的 な 雑 貨供給 力に よ る も の だと述べ た 。 それ で はど の よ うな背 景 が義 烏 市 場 の 発 展を 可 能 と し た の で あ ろ う か ?   筆者 は 、 世界的 に 見 て も 群 を 抜 く 雑貨供給体制が 形 成 さ れ た 背景 に は、 以 下 に 述 べ る 中 国 、 浙 江 省 、 義烏市 の 三 層 の 経 済地 理 的 な 要 因 があると考 え て い る。   第一 に、 中 国 全 体 の マ ク ロ レ ベ ルでの 要 因 が あ る 。 一 九 七 八 年 か ら開 始 さ れた経 済 改 革 に よ り 中 国 は 従 来 の 計 画 経済 か ら 市場経済 へ と漸 進 的 に移 行し て き た 。 こ の 過 程 で 、 需 要面 で は 農業改革 に よ る 国内需要 の 拡 大 、 供給面 で は 非 国 営企 業 の 勃興 と 流 通 の 再編が 起 き た。 義 烏 市 場 の 発 展 の ス ト ー リ ー もこ う し た 中 国 経 済 の マク ロな 変 化と密 接 な つ なが りを持 っ て い る 。   経済改革開始後 、 文革期 に は 閉 鎖さ れ て い た 自 由 市 場 が全 国 で 復 活し 、 軽 工 業 品 の 産 地 で は 製 品 を 国内 に 販 売す る た め の 卸売市場が 形成さ れ た 。 生 産 を 担う中小零細 規模 の 民 営 ︵ ま た は 集 団所有制︶ 企業 は 、 個別 企業と し て 中 国 の 広 大な市場 に 製 品を流通さ せ る能力 を持た な い 。 中 小 零 細 企業 が生産 し た 膨 大 な数 の 労 働 集 約 的 な消 費 財を 巨 大 な 国 内 市 場 に 浸 透 さ せ る うえ で 、 既 存 の計 画 流 通 経 路は機 能せず 、 卸 売 市 場 に 商 人と商品 が 集散す る ﹁場﹂ と い う 形態 で そ の ニー ズ が 解 消 さ れ た の で あ る 。   第二 に 、 義 烏 の発 展の背 景 には 浙江省 と い う セ ミ マ ク ロ レ ベ ル の 要因 が あ る 。 多 様 で安 価な製品 の 一 次卸売市場 は 、 民営経済が 盛 ん な浙 江 省 を ﹁ 土壌 ﹂ と し て 形 成 ・ 発展可能 で あ っ た 。   改革開放期中 国 で の 軽 工 業 の 発 展は 、 一 般に労 働 力 が 豊 富 に賦 存 し 、 国内需要も 後 発途上 国 の 水 準 であ っ た 当 時 の中 国 の 条 件 から 説 明さ れ る 現 象 だが 、 そ れだ け で は 現 実 に 起 き た 中国国 内 で の 生 産 力 の地理 的 集 中 を 説 明できな い 。 雑 貨製品 の 場合 、 生 産 は 珠江 デ ル タ と長 江 デ ル タ に集 中し てきた。   中国 の 経 験か ら す る と 、 軽 工 業 の立 地は要 素 価 格 で は なく 、 む し ろ企業 家 が 層 と し て存 在す る か 否 かが鍵と な っ て き た 。 浙 江 省は中 国 で も 民 営経済が 最 も 活 発 な 地域 であり 、 多 く の産 業 集 積 、 専 門 卸 売市場 、 民営中小企 業 が 存 立 し 、 全国と海 外に広 が っ た 販 売 ネ ッ ト ワークを 利 用 し つ つ 軽 工業 と 機 械 金属 工 業 を中心 に 発 展 し て き た 。   これ まで 、 義 烏 市 場 の 強 み は 産 地 に 近接 し た 一 次卸売市場 と し て の 地 位 に あ り 、 そ れ は 軽 工 業 集積が 多数形成 さ れ て い る 浙 江省 で こ そ 可 能 であ っ た 。 省 内に は 大 唐 の 靴 下産地 、 台 州 の プ ラ ス チ ッ ク 用 品 産地 、 温 州 の 文 具 ・ 眼 鏡産地 な ど が形 成 さ れ て お り 、 こ れら産 地 の 販売拠点 の 一 つ と し て 義烏市場が 位 置付 け ら れ て い る 。 浙 江 の 産地 群 はそ れ ぞ れ 特 定 品 目 へ の 特 化 型 工 業化 の 傾 向が 強 か っ た の に 対 し て 、 義烏 は 雑 貨 と い う 範 囲 で の 総合的 な流 通 基 地化を追 求し た 。 こ の 意 味で 義 烏 市 は 浙 江 省の 強 み を 生 か した 独 自 な 方 向で 発 展 を 模 索 し た 。   第三 に 、 義 烏 現 地 が持 つ ミ ク ロ (出所)伊藤(2011)。   (注)算術平均、n=35。 new product 3.77 5 4 3 2 1 0 variety 4.11 quality 3.06 delivery 3.29 price 4.09 flexibility 3.71 図1 外国人バイヤーの義烏市場評価

義烏市から見る中国の地域経済発展

(4)

の要 因 が あ り 、 ま ず 義 烏 商 の 伝統が 指 摘 で き る 。 統的 に 行 商が 盛 ん な 地 域 換糖﹂ と 呼 ば れ る 行 商 あ っ た 。﹁鶏毛 換糖﹂ は 現 砂糖を持 っ て 各地 の 農 村 各 家 庭で 余 っ た 鶏の羽 や 換 し て も ら い 、 収 集 し た っ て 現金 化 し た り 肥料 と し た り す る 生 業 で 、清 代 れ て い た 。 義 烏で は計 画 一 九 七 〇 年頃 か ら 既 に 闇 、 こ の 行 商 の 伝統が 義 烏 成 と 発展 に 大 き く 作 用 し 文 献 ② 、 ③ 参 照 ︶。 済 期 に は 重 要な財や重点 厳 格 な統制が敷か れ て い の管理 は 農 民 や 集 団 所 有 い っ た 周 辺的 で 草 の 根 的 的 な 活 動 を 完 全 に 封 殺 す っ て いな か っ た 。 計 画 経 そ の 後形成 さ れ る 全 国 的 の種はまかれ 始 め て い た に 行 商 の 伝統が 存 在 が そ の 後 の 独 自 な 発 展 の たが 、 視 点を拡 げ て み る 伝 統 は 中 国の 各 地 に 存 在 言 す れ ば 、 現 地 の 伝 統 の みで は 発 展の 十 分 条 件 と は 言 え ず、 ま ず は 前 節 で 言 及 し た 浙 江 省 とい う ﹁ 土 壌 ﹂ を 背 景 と し て そ の 独自性 を 強化可能だ っ た と 見 る べ きで あ る 。 こ れ に 加 え て 義 烏 現 地 で は 、 卸 売市場形成 の 段 階 で 現地 政府 の キ ー パ ー ソ ン が 農 民 の 雑 貨 経営を 調 査 し 、 制 度的グ レ ーゾ ー ンでの 政 策 が 模 索 さ れ てい た 。   キーパ ー ソ ン とな っ た の は 一 九 八二年 四 月 に 義 烏 県 書 記 に 着 任 し た謝 高 華 氏 で あ っ た 。 同 氏 は義 烏 出身 で は な く 、 着任直後 か ら 県 の 各所を 回 り実地 調 査 を 行 っ た 。 そ こで 彼 は 当 時 い ま だ に 公 式 な 認 可 が下 り て い な か っ た現 地 商 業 の 可 能 性 を ﹁ 義 烏 の 小 商 品 経 営 は悩み の種で は な い 、 義 烏 の 一 大 優 位 性 だ⋮ ﹂と 見い だ す ︵ 参 考 文 献 ④ 、 三頁 ︶。   地元 が地元 の強みを認 識 し た 、 つ ま り地域 資源が 現 場 で ﹁発見﹂ され 、 こ こ か ら ボトム ア ッ プ の 地 域政策が 胎動 し て ゆ く 。   義烏市場 の 独 自性 を 強 化 す る う えで 県 政 府 は 重 要 な 作 用 を 果 た し た。 ま ず 一 九 七 〇 年 代 か ら 現 地 に 存在 し た 闇市 で の 取引 を 、 前記 の 県書記謝高華氏が 一 九 八 二 年 に 事 実上 許可 し 、 こ れ が 義 烏市場形成 の大 きな 節 目 とな っ た ︵ 参 考 文 献 ②、 三 一 ∼三 八ペ ー ジ 参 照 ︶。 また 同氏 は 二 年後 の 一 九 八 四年 の 政 治 報告 に て 市場化 と 流通改革 に つ い て﹁ 小 商 品 専 業 市 場 と 多 数 の 農 民 買付販売専業 戸 は 、 我 が 県 経済活 動の 一 大 優 位 性で あ り 、 引 き 続 き サポ ー ト す る ﹂ と 述 べ て い る ︵ 参 考文献⑤、 三 五 六 ∼ 三 八 〇 ペ ー ジ ︶。   現地 政府 は 一 九 八 四年 の 時 点 で 雑貨市場が 地 元 の 優位性 で あ る こ とを認 識 し て おり 、 同 年 一 〇 月 に は﹁ 興 商 建 県 ︵ 商 業 を 興 し て 県 を 建設す る ︶﹂ 発展戦略が 提 起 さ れ た。 こ れ 以 降 現 地 政 府 は 一 貫 し て 商業 ・ 貿 易 を 義烏経済発展戦略 の 中核 に 据 え て き た 。   ここ で 注 目 さ れ る の は 、 政 策 が 全国に先 駆 け て実 施 さ れ て き た 先 行性 で あ る 。 一 九 八 二 年 の 市場 の 許 可に始 ま り 、 県 政 府 が 上 級 政 府 に 掛け合 っ て 投 資認可を 取 得 し 市場 イン フ ラ を 建 設 す る な ど 、 義 烏 で の取 り 組 みは 先 進 性 を 帯 び て い た 。   例えば 一 九 九 〇 年 の 時 点 で 市 場 拡張 に 必 要な 投資必 要 額 は 県 レ ベ ルの 認 可 上 限 五 〇 万 元 、市 レ ベ ル の認 可 上 限 三 〇 〇 万 元 を 既 に 超 え ており 、 また 土 地 の調 達に つ い て も問 題に直 面 し た が 、 県工商 局 が 当時 の 浙 江省長 に 直接掛け 合 っ て 認可を 得 た ︵ 参考文献④ 、 五 七 ∼ 六八ペ ー ジ︶ 。 現 地 で も こ の ﹁ 先 行 性 ﹂ は 一 貫し て重視さ れ て き て お り、 一 九 九 三 年 義 烏 市 党 大 会 の 主 要報告 で も そ の 重 要性が 指 摘 さ れ てい る 。   こう した 先 進 的 な 取 り 組 み が 可 能であ っ た の は 、義 烏 市 自 体 が ﹁ 省 管県 ︵省が 地 級市を経由せず に 直 接県を 管 理 す る ︶﹂ と い う 行政 シ ス テムを 体 現 し てきたため で ある 。 浙江省 で は 比 較的面積が 少 な く 県 級行政単位 の 数が 少 な い こ と も あ り、 一 九 八 〇 年 代 の 地 級 市 レ ベ ル が県 を管 理する改 革 の 下 で も 、 な がらく 県 と省 の 関 係 が 深 か っ た 。 更 に 浙江省 で は 末 端行政 の 効率化 のた めに 一 九 九二年 か ら 二 〇 〇 六 年ま で に 四度 に 渡 り県 レ ベ ル 政 府 の権 限 強 化 が 図 ら れ て きた 。 こ れ に よ り 、 上級 部 門 の審 査を経る こ となく 義 烏 市 が 決 定でき る 事 項 が 増加 し た 。 経 済政策 に つ い て 県 の リー ダー シ ッ プ が 発 揮 され うる環 境が 構築 さ れ て き た の で あ る 。   義 烏 を新 たな ス テ ー ジ に押し上 げ る 可 能 性 が 高いと 注 目 さ れ て い るの が 、 二〇 一 一 年 三 月 に 公 表 さ れ た 国務院 の ﹁総合配套改革試点﹂ への 指 定 で あ る 。   同試験 区 域 は 俗 に ﹁経済新特 区﹂ と呼 ば れ 、 義 烏は貿 易 の 国 際 化 を

(5)

そ の 主要な任 務と し て い る が 、 既 に述べ た ﹁ 省 管 県 ﹂ と い う 行 政 改 革の 先 頭 に 立 つ実 験 地 域 と し て の 意味合 い も あ る と 考 え ら れ る 。 こ れにより 、 現 地で の 行 政 権 限 が 拡 張さ れ 、 特 に 企業 管理 ・ 貿 易 ・ 商 品検査 ・ 為替決済 に 関 し て は 全 国 に先 駆 け た制 度 が テ ス トされ る 見 込み で 、 義 烏 市 の 独 自 性と先 進 性 を強 化す る 可 能 性 が あ る。   ここ で 興 味 深 い 点 は、 ﹁ 新 特 区 ﹂ へ の 指 定 を 国 務 院や中 央 政 府 へ と かけ あ っ た人 物である 。 彼 女 は 全 国人民 代 表 の 周 暁 光 氏 で 、 義 烏 出 身 の アクセ サリー 業 界 最 大 手 ・ 新 光飾品 の 創業者 で あ る 。 現 地有力 企 業 の 創 業者或 い は 経営者が 地方 政 治 に参 加す る こ と は珍し い こ と ではな い が、 ﹁ 新 特 区 ﹂ の ロビ ー 活 動に お い ても こ う した企 業 家 兼 政 治家が 重 要 な 役割 を 果 た し て い る 点は 、 中 国 の ミク ロ な 地 域 経 済 の 発展を 考 え る 上 で もポ イ ン ト と な るで あ ろ う 。

五.

義烏市から見る地域経済

発展

  以上 の ケ ー ス ス タ デ ィ の 結 果を まとめると、 工業 基 盤 、 国 営 企 業 、 外資企 業 と い う条件を 持 た な い 義 烏市 は 、 民営企 業 中 心 の 産 業集積 形成 と そ の 独 自性 に よ っ て 群を 抜 く地域 経 済成長を実現 し た が 、 そ れは 重 層 的 な 背 景 と 経 路 依 存 、 そ して 末 端 でのミ ク ロな ア ク タ ー の 作用 に よ っ て 結 実 し た 、 と な る 。 一見 何 も な い か に 見 え た ﹁ 落 後 農 村﹂ に も 、 商 業 の 伝統 と 開 拓者精 神、周 辺 地 域 の 工 業、地 元 政 府 の 人材 と い っ た 広義 の ﹁ 地域資源﹂ とチ ャ ン スがあ っ た。   義烏 の 場 合 、 産業集積 の 独 自性 は超 多品 種 の 雑 貨 を安 価か つ 柔 軟 に供 給 で き る 仕 組 み に あ っ た 。 そ の独 自 性 の種は伝 統 的 な 行 商 か ら の延 長 線 上 に あり 、 改 革 開 放 初 期 に現 地 の キ ー パ ー ソ ン がそ の可 能 性を ﹁発見﹂ し 、 そ の 後大 き く 成 長し て ゆ く こ と と な っ た。   本ケ ー ス ス タ デ ィ か ら の 示 唆と して 、中 国 に お け る 地 域 経 済 発 展 を考え る 際 、 経 済 空間 の 重 層 性 と 行政権限 の 垂 直性を ポ イ ン ト と し て指 摘 で き る 。 義 烏 市 場 の 強み は 義 烏 現 地 のみで は 説 明 不 能 で あ り 、 特 に 民営製造業 と 商 人が 多 い 浙江省を 経済地 理 的な ﹁土 壌﹂ と して は じ めて 理 解 可 能 で あ る 。 特 定産業 へ の 特 化 の 傾向が 強 い 浙 江 省 に あ っ て 、 現在 で は 総合雑貨市 場と し て の 義 烏 の 存 在 は相互補 完 関係 に あ る と 言 え 、 重 層的 な 産 業 基盤 を有す る 点は 他 の 地域 が容易 に模 倣 で きな い 。 また 、 義 烏 が 県 レベ ルとし て 前 例のな い 積 極 的 な 地域 政 策 を打 て た の は 、 改 革を先 取りす る こ と で 権限を獲 得 ・ 保 持 し、 上 級 の 政 府 部 門 と の 交 渉 を 成 功裏 に 進 め て き た か ら で あ っ た 。   二〇 一 〇 年 代 の 中 国 の 地 域 経 済 を 展 望し てみると 、 沿 海 部 の要 素 価格 の 上 昇 に 伴 っ て 産 業立 地 の 再 編・ 調 整 が 不 可 避 で あ る 。 し か し 今後 の 地 域経済 の 展 開 も 既 に 形 成 され て い る 重 層 的 な 産 業 の 分 布 を 前提 と し て 展 開 し て ゆ く 。﹁重 層的 な経 済 地 理空間と垂直 的な行 政 権 限の 中 に 、 各 々 の 地 域 経 済 の 経 路 依 存 性、 独 自 性、キ ー パー ソン と 地方政 府 の 作 用を位置 づ け る ﹂、 こ の作 業 を 行 う 事で中 国 の地 域 経 済 の展 開 と 展 望 に 接 近できる の で は ない か 、 と 筆 者 は 考 え ている 。 ︵いと う  あ せ い / 慶應義塾 大 学大 学院 ・ 日 本学術振興会特 別 研 究 員 ︶ ︽参考文献︾ ① 伊藤亜 聖 [ 二 〇 一 一 ]﹁中 国雑貨 産業 ハ ブ ﹁義烏﹂ の 競 争優位 と イン パク ト ﹂﹃ 日 本 中 小 企 業 学 会論集 30﹄同 友 館 。 ② 陸 立 軍・ 白 小 虎・ 王 祖 強 [ 二 〇 〇三] ﹃ 市 場 義 烏   从鶏毛 換 糖 到 国 際商貿﹄ 浙 江 人 民出版社。 ③ 張文学主 編 [ 一 九 九 三 ]﹃ 義烏小 商品市場研 究  社会主 義 市場経 済在義烏的実践﹄ 群言出版社。 ④ 浙江省政協文史資料委員会編 [一 九 九 七 ]﹃ 小 商 品  大市場 ︱ 義烏中 国 小商 品城創業者 回 憶﹄ 浙江人民出版社。 ⑤ 中共義烏市委党史研究室 [ 二 〇 〇五] ﹃ 中 国 共 産 党 義 烏 市 歴 次 代 表 大 会 文 件 選 編 ︵ 上 ・ 下 ︶﹄ 中央文献出版社。 (出所)筆者作成。 行政権限の 垂直性 経済空間の重層性 地域経済の 独自性 図2 空間と行政のもとの地域経済

義烏市から見る中国の地域経済発展

参照

関連したドキュメント

中国の食糧生産における環境保全型農業の役割 (特 集 中国農業の持続可能性).

出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所/Institute of Developing Economies (IDE‑JETRO) .

 1 9 9 0年以降,中国経済はかつてないほどの勢いで拡大を続けている。これ は,中国の国内生産額 (1)

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing.

国際図書館連盟の障害者の情報アクセスに関する取

第?部 国際化する中国経済 第3章 地域発展戦略と 外資・外国援助の役割.

第?部 国際化する中国経済 第1章 中国経済の市場 化国際化.

太平洋島嶼地域における産業開発 ‑‑ 経済自立への 挑戦 (特集 太平洋島嶼国の持続的開発と国際関係).