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コインにみるアルジェリアの歴史と政治 (特集 途上国とコイン)

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Academic year: 2021

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コインにみるアルジェリアの歴史と政治 (特集 途

上国とコイン)

著者

渡邊 祥子

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

215

ページ

29-30

発行年

2013-08

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003652

(2)

 支配者が変われば、貨幣も

変わる

  マグリブの歴史において、貨幣 は、王たちの臣民に対する支配の 道具になっただけでなく、時に抵 抗の手段にもなった。例えば、モ ロッコ南部のスィジルマーサで発 掘されたミドラール朝(七五〇〜 九七六年)時代の貨幣。イスラー ム初期の分派であるハワーリジュ 派(スフリ派)を受け入れたベル ベル人(北アフリカの先住民)の 王朝であるミドラール朝は、サハ ラ以南のガーナ王国やイベリア半 島、東アラブ世界との交易で栄え た が、 一 〇 世 紀 に な る と フ ァ ー ティマ朝(九〇九〜一一七一年) の 領 土 拡 大 に よ っ て 圧 迫 を 受 け た。スィジルマーサは征服され、 ミドラール朝君主の支配は名目的 となった。王朝の危機のなかで九 四二年に即位したムハンマド・イ ブン・ファトフは、ファーティマ 朝の支配から王朝を救うべく、奇 策を練った。まず、イベリア半島 の後ウマイヤ朝との同盟強化のた め、スンナ派に改宗した(対する ファーティマ朝はシーア派の一分 派 イ ス マ ー イ ー ル 派 を 奉 じ て い た )。 さ ら に、 フ ァ ー テ ィ マ 朝 の カリフ位に対抗して、みずからカ リ フ を 宣 言 し、 「 シ ャ ー キ ル・ リッラー」の称号を名乗った。九 四五年に鋳造されたこの地方の貨 幣は、これまでファーティマ朝カ リフの名を記した場所に「シャー キル・リッラー」の名を刻んでい る。 抵 抗 に 業 を 煮 や し た フ ァ ー ティマ朝は、九五八年に討伐軍を 送った。イブン・ファトフは捕ら えられ、ファーティマ朝の当時の 首都マンスーリーヤ(現チュニジ ア)に連行され、檻に入れられた まま街中を引き回される辱めを受 けた。王朝はその後二代で滅亡し た ⑴ 。   貨 幣 が 抵 抗 の 道 具 と な る 事 例 を、後世のアルジェリアにもみる ことが出来る。一八三〇年のアル ジェ陥落以降、アルジェリアはフ ランス軍による侵略を受けるが、 征服戦争に対する最大の抵抗指導 者 は、 西 部 マ ス カ ラ 出 身 の ア ブ ドゥルカーディル(一八〇七〜八 三年)であろう。フランスのビュ ジ ョ ー 将 軍 と の 間 に タ フ ナ 協 定 ( 一 八 三 七 年 ) を 結 び、 ア ル ジ ェ リア西部と中部の大半の主権者と された若き指導者は、オスマン政 庁の敗走後、分裂状態にあったア ルジェリア西部の政治的統合を試 みた。アブドゥルカーディルは、 彼の権威に服従しない諸勢力と戦 い、平定した地域に彼の代理人で あ る 知 事( ハ リ ー フ ァ) を 置 い た。裁判官(カーディー)による イスラーム法廷を導入し、司法制 度の統一が図られたほか、フラン ス軍に対するジハードを支える武 器工場も建設された。こうした努 力と並行して、貨幣鋳造所が作ら れ、 「 ム ハ ン マ デ ィ ー ヤ 」「 ニ ス フィーヤ」という独自の貨幣が鋳 造 さ れ た( 写 真 1)。 ア ブ ド ゥ ル カーディルの運動が「国家」建設 の そ れ で あ っ た と 形 容 さ れ る の は、彼が敷設しようとしたインフ ラの中央集権的性格に基づく。   抵抗も空しく、一九世紀末にア ルジェリア北部はフランスの海外 県として併合され、植民地ではな く国内扱いとされた。ヨーロッパ 系 入 植 者 が 農 場 を 経 営 し、 ヨ ー ロッパ風の新市街が建設され、市 議会が設置された。この時代のア ルジェリアにおいては、フランス 国内と同じ貨幣が流通した。フラ ンス共和国の象徴である女性マリ アンヌを刻んだ、フラン通貨であ る。

 貨幣からみえるナショナ

ル・シンボル

  八年間の激しい戦争を経て、一 九 六 二 年 に 晴 れ て 独 立 し た ア ル ジェリアでは、アラビア文字やシ ンボルを用いた貨幣デザインが多

特 集

途上国とコイン

29

アジ研ワールド・トレンド No.215 (2013. 8)

(3)

く採用されている。加えて、地域 を代表する動物(馬、フェネック ギツネ、ラクダ、バッファロー、 象、鷹、ライオン、ガゼル)の図 案も多い。   貨幣に用いられているモチーフ は、しばしば国家と国民統合を象 徴するシンボルである。例えば、 アルジェリア独立を記念するコイ ンは、一〇周年(五ディーナール 硬 貨、 麦 穂 と 石 油 プ ラ ン ト )、 二 〇周年(一ディーナール硬貨、ア ラビア語で「私の祖国よ、おまえ の た め 」) 、 二 五 周 年( 一 デ ィ ー ナ ー ル 硬 貨、 一 九 八 二 年 に ア ル ジ ェ に 建 設 さ れ た 独 立 記 念 塔 )、 四〇周年(一〇〇ディーナール硬 貨、 馬 と ヤ シ の 木 )、 五 〇 周 年 ( 二 〇 〇 デ ィ ー ナ ー ル 硬 貨、 男 女 の横顔、三日月と星、独立記念塔 と列車とコンピュータ)と、構図 を変化させながら発行され続けて いる。一九五四年のアルジェリア 独 立 戦 争 開 始 を 記 念 す る コ イ ン も、二〇周年(五ディーナール硬 貨、戦う兵士と「一一月一日」 [独 立戦争開始の日] )、三〇周年(五 ディーナール硬貨、歯車と麦穂、 三 日 月 と 星 を 包 み 込 む 手 )、 五 〇 周年(五〇ディーナール硬貨、戦 う男女の兵士と三日月と星のシン ボ ル、 裏 面 に ア ラ ビ ア 語 で「 平 和、 科 学、 労 働 」) の も の が 存 在 している。この他に、アルジェリ ア・ナショナリズム運動の転換点 となった一九四五年のセティフ・ ゲ ル マ 事 件 ⑵ か ら 三 〇 年 を 記 念 す る五〇ディーナール硬貨がある。 このように、対仏抵抗運動に関す るコインが多いのも、長い植民地 支配からの解放の歴史がナショナ ル・アイデンティティの中核をな す、この国の特徴であろう。   独立アルジェリアの国づくりを 象徴するシンボルも数多い。四カ 年計画(第一次一九七〇〜七三、 第 二 次 一 九 七 四 〜 七 七 )、 五 カ 年 計画(第一次一九八〇〜八五年、 第二次一九八五〜八九年)を記念 するコインは、どれも歯車と麦穂 のなかに数字で年代を配したデザ インである。これらは、アルジェ リアが「アラブ社会主義」イデオ ロギーを忠実に実行していた時代 の遺産である。一九七二年発行の 一 デ ィ ー ナ ー ル 硬 貨 は、 ト ラ ク ターを中央に麦穂と握手を交わす 二つの手を周囲に刻んでいるが、 これはブーメディエン大統領(在 職一九六五〜七八年)が推進した 「 農 業 革 命 」 を 示 し て い る( 写 真 2)。 こ の 政 策 に よ り、 大 土 地 所 有者の農地が国有化され、協同組 合による農業生産が促進された。   社会主義政策の行き詰まりの結 果、アルジェリアは一九八〇年代 末に自由主義経済に転換する。一 九八八年の大衆蜂起をきっかけと した民主化の実験、一九九〇年代 の凄惨な内戦と、激動を経験しつ つ、対仏独立戦争の主体であった FLN(民族解放戦線)が現在も 政権の座にあるアルジェリア。今 後この国でどのような歴史が刻ま れ、なにがナショナル・シンボル として残されてゆくのだろうか。 ( わ た な べ   し ょ う こ / ア ジ ア 経 済 研究所   中東研究グループ) 《注》 ⑴ P au lM .L o ve , “T h e S u fr is o f S ijil m as a: T o w ar d a H is to ry  of the Midrarids, ”The Jour -n al o f N or th A fr ic an S tu d ie s 15, no.2 (2010): 182-83. ⑵  一九四五年五月八日にアルジェ リア東部で起こったフランス当 局によるアルジェリア人デモ隊 への大弾圧事件と、それに端を 発する武力衝突事件。 写真 1 アブドゥルカーディルの貨幣  「ムハンマディーヤ」 左「神の宗教はイスラーム」右「タグデムト〔アル ジェリア南西部〕にて 1252 年〔西暦 1836 / 7 年〕 鋳造」

(出所)MounirBouchenaki,La monnaie de l’Emir Abd-el-Kader (Algiers:SNED,1976),34,PlancheII.

写真 2 独立後の貨幣  (1972 年)

トラクターと麦穂、労働と連帯を表す握手

(出所)Numista.com, “1 dinar FAO,” http:// fr.numista.com/catalogue/pieces1753.html (2013 年 5 月 23 日閲覧).

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