●1.はじめに●
平成27年9月の国連の首脳会議において,「持 続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択 され,その中で,食料廃棄削減の目標が設定され るなど,世界各国において食料廃棄削減に向けた 取組が進んでいる。また,わが国では,今年1月 に発生した廃棄食品の不正転売事件により,食品 安全や転売した業者が起こした問題もさることな がら,国内でこれだけの食品ロスが出ていること への関心に対し,より高い注目が集まっている。 農林水産省では,環境省等と連携し平成27年7 月末に食品リサイクル法に基づく基本方針を策定 した。その中では,より一層,官民を挙げて食品 ロス削減国民運動を展開する必要があることや, フードバンクの積極的活用について言及している。 本稿では,食品リサイクル制度において最優先 に取り組むこととされている食品廃棄物等の発生 抑制に繋つながる取組の一つとして,フードバンク活 動について,現状と国の支援策等について紹介す る。●2.世界の食糧問題●
平成23年5月の国際連合食糧農業機構(FAO) の報告書「世界の食糧ロスと食料廃棄」によると, 人が食べるために生産された食料の約3分の1が 世界中で失われ,廃棄されており,その量は1年 あたり約13億トンに上ると推計されている。さ らに,FAO によると,世界の栄養不足人口*1は, 減少傾向であるものの約8億人と高い水準であり, 世界人口の実に9人に1人が栄養不足と推計され る。 このように,世界では多くの食料が廃棄される 一方で,食料不足に悩む人々がいる。世界的な問 題として,食料廃棄の削減に取り組む必要がある。●3.日本の食料廃棄と貧困問題●
わが国においては,平成13年の食品リサイク ル法の施行後,食品関連事業者の努力により,食 品廃棄物等の発生量は年々減少しているが,平成 25年度では国内の食用仕向量の約3割にあたる 2,797万トンの食品廃棄物等が排出されている。 このうち,第1図にあるように本来食べられるの に捨てられている「食品ロス」は,632万トンに 上ると推計されており,食品関連事業者(330万 トン)と家庭(302万トン)からほぼ同量が排出 されている。 一方,日本の相対的貧困率*2は年々上昇してお *1:栄養不足とは,健康と体重を維持し,軽度の活 動を行うために必要な栄養を十分に摂取できな い状態。わが国におけるフードバンク活動の現状と
支援について
まつもと・けんた 農林水産省食料 産業局バイオマ ス循環資源課食 品産業環境対策 室 食 品リサイク ル班国際環境係松 本 健 太
り,平成27年の相対的貧困率は16%となってい る。このうち,子どもの貧困率*3は16.3%である。 OECD によれば,平成27年で,日本の相対的貧 困率は,OECD34カ国中,10番目に高い国とな っている。わが国では非常に多くの食品ロスを排 出している一方で,貧困に悩み,日々の食料調達 に悩む人口割合が高い実態にある。
●4.フードバンク活動●
フードバンク活動とは,食品の生産・流通・消 費などの過程で発生する未利用食品や賞味期限間 近となった防災備蓄食料等を企業や農家などから の寄付を受けて,必要としている人や施設等に提 供する活動である。 相対的貧困率が高まっている中で,各々の活動 理念は異なるものの,貧困に悩む人への食料の流 れを作り,食品ロス削減にも繋がる活動をしてい るフードバンク活動団体が近年増えつつあり,今 後,その活躍が期待されているところである。●5.フードバンク活動に対する支援●
フードバンク活動は主に,寄付金によって運営 されるケースが多く,資金やノウハウ,インフラ 面で十分な能力を有しているとはいえず,設立当 初は活動が不安定になりがちである。このため, 農林水産省ではフードバンク活動の推進・強化に 向けた取組を支援しており,内容は以下の通りで ある。 5-1)検討会・研修会開催,普及啓発支援 食品関連事業者,フードバンク活動団体,社会 福祉法人等で構成される検討会を設置し,取組計 *2:可処分所得が全国民の中央値の半分に満たない 国民の割合 *3:17 歳以下の相対的貧困の状況に属する者の割合 第 1 図 食品廃棄物等の発生量(平成 25 年度推計) (カラー図表を HP に掲載 C077)画やルール策定に向けた検討を行い,結果・成果 を説明する研修会の開催,また,普及啓発活動や その際に用いる資料等について定額支援を行って いる。 5-2) フードバンク活動支援 食品管理の高度化を図るための食品の入出庫管 理機器の賃借,食品を運搬するためのハンドリフ ト,レンタカー,また,一時保存するための倉庫 の賃借について補助(補助率1/ 2以内)を行って いる。 その他,税制上の措置として,法人がフードバ ンクへ支出した寄付金については,一般の寄付金 として一定の損金算入ができ,認定 NPO 法人等 の特定のフードバンクに対する寄付金については, 一般の寄付金とは別枠で損金算入できる税制上の 優遇措置がある*4。
●6.海外のフードバンク事情●
海外では早くからフードバンク活動が開始され ていることや,寄付文化もあり,特に米国,フラ ンスはフードバンク活動が盛んである。米国で始 まったフードバンク活動は既に約50年の歴史が ある。 主要国のフードバンク活動の概要を第2図にま とめた。団体数が非常に多いことや活動の始まり が早かったこともさることながら,予算等行政機 関からの支援がある。また,法整備もなされてお り,米国では,食料提供によって発生した事故の 際に食品提供者の責任が免除される。フランスで は,今年2月に食料廃棄禁止法が成立し,対象の 大型スーパーに対して,売れ残りの食料の廃棄を 禁止し,フードバンク活動を行う団体等への寄付 が義務付けられている。 *4:企業が金銭以外の資産(食品等)を寄付した場 合には,その寄付をした時の価額(時価)で計 算される。 出所:農林水産省「平成 21 年度 , 25 年度フードバンク活動実態調査報告書」より 第 2 図 海外におけるフードバンク活動 (カラー図表をHPに C078)●7.日本のフードバンクの状況●
わが国のフードバンク活動団体の数は平成25 年時点で40団体であり,その後着実に増加して いる(最新のフードバンク活動の状況については, 現在,調査中であり,結果は今年度末に取りまと め予定)。全国的にフードバンクの認知度が向上し てきたことや,東日本大震災から5年が経過し, 企業が軒並み準備した防災備蓄食糧のフードバン クへの提供が増加していること等を背景に,フー ドバンクの活用を検討する企業・団体・施設等が 増えてきている。 一方で,食品関連事業者等においては,今年1 月に発生した廃棄食品の不正転売事件を受け,横 流しや不適切な廃棄に対する不安があるとともに, 食品の衛生的な取り扱いやトレーサビリティの観 点からフードバンクの運営体制を懸念する声も多 く,食品関連事業者等が安心して食品の提供を行 える環境が十分整っていない状況にある。また, 認知度が上がってはきたものの,食品関連事業者 等が提供可能な食品の情報と食品を必要とするニ ーズの共有が十分でないことから,利用者と寄付 者の効率的なマッチングが実現できない団体も多 い現状にある。●8.フードバンク活動の推進に向けて●
農林水産省においては,食品産業の持続的発展 に向け,食品ロス削減の観点から,フードバンク 第3図 フードバンク活動における食品の取り扱い等に関する手引きについて(概要) (カラー図表をHPに掲載 C079)活動を支援しているとともに,企業が安心して食 品を提供できるよう,様々な取組を進めていると ころである。具体的には,今年6月から9月にか けて,フードバンク活動推進検討会を3回に亘っ て開催し,有識者・関係省庁を招いて,フードバ ンク活動における食品の取り扱い等に関する手引 きを作成したところである(第3図)。 フードバンク活動における食品の管理・取り扱 い上の主な課題は次の通りである。 <食品の受け入れ・保管段階> ①受け入れた食品の登録,保管,在庫,提供先 等を管理するためのシステム整備 ②食品の保管時の品質保持および衛生管理(温 度管理,保管施設の清掃・洗浄,害虫等の侵入防 止等)による食品事故発生の防止 <食品の受け渡し段階> ①トレーサビリティの確立による流通履歴の管 理および寄付者(食品企業)への報告 ②上記の各項目の実施による寄付者(食品企業) の信頼確保,ブランド毀損の防止 本手引きの作成にあたっては,フードバンクの 規模や活動内容には大きな違いがあることを考慮 し,フードバンクを新たに立ち上げる場合や,既 存のフードバンクにおいても人的・物的資源で対 応が可能であって,上記の課題解決にも繋がり, 食品企業からの信頼性向上を通じてフードバンク 活動の食品の取り扱いの促進に繋がる内容として いる。
●9.手引きの概要●
9-1)手引きの対象範囲 国内のフードバンクは,一般家庭からの寄付品 を扱うものから,調理を行うものまで,その活動 は様々であるが,食品関連事業者が安心して食品 を提供できる運営体制のレベルアップを図ること を目的とし,食品関連事業者等から提供された食 品の譲渡に係る活動を対象としている。 9-2)食品の提供または譲渡における原則 食品の提供を行う食品関連事業者または防災備 蓄食糧を保有する事業者を食品提供事業者,最終 的に食品を受け取る団体および個人を受取先とし, 双方が対等な関係で食品ロス削減に取り組むよう 整理している。 食品提供事業者は,受取先の希望を踏まえ,食 品の提供または譲渡を行うこととし,消費期限ま たは賞味期限を越えた場合や,汚損または破損等 により食品衛生上の問題が生じた食品は受取先に 譲渡しないこととしている。これは,フードバン ク活動において,食品の提供が押し付けでなく, 受取先の希望を踏まえて行うべきであり,過剰な 食品提供によって食品ロスの発生場所が移転した に過ぎない事態となることに留意したものである。 また,食品衛生上の問題がある食品は言うまでも なく食用に適さないものであり,賞味期限を越え た食品も即座に食品衛生上の問題が生じる訳では ないが,フードバンク関係者の意見や実態を踏ま えるとともに,受取先の立場を考慮して,譲渡し ないこととしている。 9-3)関係者におけるルールづくり 9-3-1)食品提供事業者とフードバンク団体との 間におけるルールづくり ①フードバンク団体は,過剰な搬入を防ぎ,安 全な食品を受取先に届けるため,事前に食品提供 事業者から提供される食品の情報(名称,数量, 保存方法,保存上の注意点,消費期限・賞味期限, アレルゲン*5等)を入手し,保管・配送能力や保 有設備等を考慮し,食品の受け入れや納入方法・ 納期等を検討することとしている。 ②さらに,食品提供事業者とフードバンク団体 が合意書*6を交わすこととし,合意書の記載事項 および記載例を示している。また,フードバンク 団体の活動実態を開示できる状態にしておくこと で,企業からの信頼を維持するため,フードバン ク団体は事業報告書等*7を事務所に備え付ける こととしている。 *5:食品表示基準および消費者庁次長通知「食品表 示基準について」に基づき提供食品に表示され ている特定原材料等をいう。(表示義務7品目, 表示推奨 20 品目)9-3-2)フードバンク団体と食品の受取先との間 におけるルールづくり ①フードバンク団体は,受取先から食品の譲渡 に係る相談や要請があった場合に,取り扱い食品 の種類や量等を考慮し,譲渡する食品の種類や量, 配送方法や納期を検討することとしている。 ②フードバンク団体が食品の譲渡を行う場合, 受取先が遵守すべき事項を示すとともに,福祉施 設および生活困窮者支援団体を通じて食品の譲渡 を行う場合には,当該団体との間で合意書を作成 することとし,記載例を示している。 記載例においては,提供される食品の管理につ いて,受取先の責任を明記し,フードバンク活動 が委縮しないようにするとともに,事故発生時に は,製造者等食品提供事業者に連絡するのではな く,まず,フードバンク団体に連絡するなどのル ールも盛り込んでいる。 9-4)提供食品の品質・衛生管理 食品の取り扱いに慣れている事業者に比べ, NPO 法人やボランティアからなるフードバンク 団体においては,食品を取り扱う場として必要な 設備,食品の取り扱い方法や食品衛生に関する知 識が不足している場合がある。このため,食品の 保管,荷さばきに必要な冷蔵庫や保冷車を設置・ 保有し,適切な品質管理を行うとともに,食品衛 生に関する研修・講習等を受講し,食品衛生に関 する知見の習得に努めることとしている。また, 食品に係る事故・トラブルを防止するため,食品 提供事業者において提供食品の事前確認を行うと ともに,フードバンク団体は,食品の受取時およ び配送時に,消費期限および賞味期限,アレルゲ ン,食品の品質や安全性に悪影響を及ぼす包装の 破損等が無いことを確認することとしている。 9-5)情報の記録および伝達 フードバンク活動の関係者が日ごろから食品の 取り扱いに関する記録を残すことにより,万が一, 健康に悪影響を与える事故が発生した時の迅速な 食品の回収や原因究明のため,トレーサビリティ に取り組むことが必要である。このため,食品提 供事業者・フードバンク団体・福祉施設および生 活困窮者支援団体は,食品に関して第3図に掲げ られている事項等に関する記録を作成し,保有す ることとしている。印字のズレ等,通常の販売が 困難な食品が提供される場合には,訂正後の情報 が食品提供事業者から受取先まで,認識できるよ う適切に伝達するとともに,食品提供事業者は, 提供食品の安全性に疑義が提供後に生じた場合, 速やかにその旨をフードバンク団体に伝達するこ ととし,フードバンク団体はこれを受取先に伝達 するなど,情報伝達のフローに関して整理してい る。加えて,フードバンク団体は,食品提供事業 者からの信頼維持・向上のため,責任者が当該情 報の記録,伝達および保存の状況について,定期 的に確認を行うこととし,食品提供事業者の求め に応じて,提供食品の譲渡の結果を報告すること としている。福祉施設および生活困窮者支援団体 においても,当該情報の記録を作成し,保存する ことで,フードバンク活動の推進に協力して頂く こととしている。 9-6)関係者とのコミュニケーションの構築 フードバンク活動は,社会から適切に認知され ることによって,拡大が可能となる。そのために, フードバンク団体は,活動の状況について広く一 般に情報発信することが必要であり,これにより, わが国の食品ロスの現状やフードバンク活動の果 たす役割が国民に周知されることに期待している。 また,食品関連事業者等との定期的な情報交換の 実施により,信頼性向上に努めるとともに,食品 の安定供給確保のため,必要に応じて他のフード バンク活動団体や地方自治体等関係機関との連携 に努めるものとしている。 *6:食品の提供・譲渡に関する同意書。事故発生時 等に責任の所在を明確にすることができる。手 引きにも記載例として添付してある。 *7:定款,役員名簿,事業計画書・報告書,収支決算書, またはこれらに準ずるもの等
9-7)その他 その上で,フードバンク団体は,反復継続して, 不特定または多数の者に食品を提供する行為が, 食品衛生法,食品表示法の対象となることから, 食品衛生法,食品表示法およびこれらに基づく基 準,条例等に従い,適宜,地域の保健所に相談す ることとしている。また,食品提供事業者・フー ドバンク団体および受取先は,食品の提供または 譲渡において知りえたプライバシーの保護を適切 に行うこととしている。 手引きの主な内容は以上であり,フードバンク 団体が本手引きを参考に,食品の衛生的な取り扱 いやトレーサビリティに取り組み,食品関連事業 者等の信頼を獲得し,フードバンク団体における 食品の取り扱いを促進することを期待している。