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首都高速中央環状新宿線 電気集じん設備

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Academic year: 2021

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1 まえがき

都市部に建設される高速道路は,交通渋滞,環境などの 問題から地下トンネル化が進められている。トンネル内

空気には自動車が排出した浮遊粒子状物質(SPM:Sus-pended Particulate Matter)が含まれ,トンネル外部への 排気が環境基準を満足するための環境対策設備が必要であ る。 富士電機は,2010 年 3 月に開通する首都高速中央環 状新宿線の環境対策設備として電気集じん装置(ESP: Electrostatic Precipitator)を納入した。ESP は静電気力 によってSPM を空気中から除去する装置である。当該工 事では,装置をコンパクト化するために除去性能を維持し たまま処理風速を高速化し,除去した SPM の再飛散を抑 制するために集じん部に矩形(くけい)波交流電圧を印加 する新型の交流式 ESP を採用している。 本稿では,首都高速中央環状新宿線に納めた空気浄化設 備の概要,ESP 技術の変遷と新型の交流式 ESP 技術につ いて説明する。また,最近の研究開発動向についても紹介 する。 2 首都高速中央環状新宿線の特徴 ₂.₁ 路線の概要 中央環状新宿線は,3 号渋谷線との接続部である大橋 ジャンクション(JCT)から山手通りの地下を通り,4 号 新宿線との接続部である西新宿 JCT を経由して,熊野町 JCT に至る延長約 11 km の路線である。対象路線を図₁示す。 全線地下構造であり,路線内に全 9 か所の換気所がある。 このうち,5 か所の換気所(大橋,神山町,代々木,西新 西松・富士 JV 工区 大橋換気所 神山町換気所 々 木換気所 西新宿換気所 本町換気所 大橋 JCT 山手通り     西新宿 JCT 富 ヶ 谷出入口 新宿南出入口 中野本町出入口 図₁ 対象路線 換気ファン(排気) 電気集じん機 SPM を除去 脱硝装置 NO2を除去 消音装置 換気塔 換気所 本線トンネル 図₂ 低濃度脱硝設備の概要

特集

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首都高速中央環状新宿線 電気集じん設備

青木 幸男 Yukio Aoki 瑞慶覧 章朝 Akinori Zukeran 中山  勉 Tsutomu Nakayama

Electrostatic Precipitation Equipment for the Metropolitan Expressway’s Central Circular Shinjuku

Route

都市部の高速道路は,交通渋滞や環境の問題から地下トンネル化が進められている。トンネル内の空気には自動車が排 出した浮遊粒子状物質(SPM)が含まれ,トンネル外部への排気が環境基準を満たすための環境対策設備が必要である。 富士電機は,首都高速中央環状新宿線の環境対策設備として電気集じん装置(ESP)を納入した。ESP 内部構造および 電源の見直しを図り,SPM の除去性能を維持したまま処理風速の高速化を実現した。SPM の再飛散を抑制するため,集じ ん部には矩形(くけい)波交流電圧を印加する方式を採用した。

In consideration of traffic congestion and environmental issues, urban highways are progressing toward the use of underground tunnels. The air inside a tunnel includes suspended particulate matter (SPM) from automobile emissions. The discharge of air outside the tunnel re-quires the use of environmental protection equipment in order to meet environmental standards.

Fuji Electric has delivered electrostatic precipitators (ESPs) as environmental protection equipment for the Metropolitan Expressway’s Central Circular Shinjuku Route. Based on a review of the ESP internal structure and power supply, the gas flow velocity was increased while maintaining the same level of SPM removal performance. ESP applied the rectangular AC high voltage, which is unique to Fuji, was installed to prevent the particle re-entrainment.

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宿,本町)に,西松建設株式会社との共同企業体で低濃度 脱硝設備(ESP と低濃度脱硝装置)を納入した。設備の 概要を図₂示す。 ₂.₂ 電気集じん設備のエンジニアリング 大都市の地下高速道路の施設には,設置スペースの極小 化が求められる。地下の限られた空間に装置を設置できる ようにしなければならないという制約条件に対して,単位 処理風量を向上しかつ圧損を抑制して装置のコンパクト化 を図るという課題があった。そこで内部構造および電源の 設計を見直した。さらに,その ESP に流入する気流の解 析シミュレーションを行い,流速分布を均一化する整流装 置の配置検討を行った。その結果,表₁に示すとおり,従 来の処理風速を高め,高除去性能を維持しつつ低圧損を達 成した。 ₂.₃ 電気集じん装置(ESP) 電気集じん装置の外観を図₃示す。ESP は,除去した SPM の再飛散を抑制するため,独自に開発した交流集じ ん方式を採用した。刻々と変化するトンネル内の環境に応 じて,換気ファンは風量可変運転を行っている。この運転 風量に連動して ESP の印加電圧を制御することで,除去 性能を維持しながら約 20% の省電力を実現している。さ らに,除去性能を長期的に維持するため,2 回/週程度の 頻度で定期的に電極板を自動洗浄する再生システムを備え ている。今回適用した装置の性能を,表₁に示す。これは 業界トップクラスである。 ₂.₄ 低濃度脱硝装置 低濃度脱硝装置はトンネル内空気に含まれる二酸化窒素 (NO2)を吸着剤により吸着除去する。 使用した吸着剤は再生液を用いて装置内で再生するシス テム構成である。低濃度脱硝装置のシステム構成を図₄に 示す。今回適用した装置の性能を次に示す。 ⒜ NO2除去率:90% 以上(一日平均) ⒝ 圧力損失:600 Pa(最大) 3 電気集じん設備の変遷 ₃.₁ 歴 史 トンネル用 ESP の技術は,1970 年代に急速に高まっ環境保全を背景に 1973 年に建設省建設技術研究補助金 研究課題の一つとして基礎研究がはじまった⑴。トンネル 用 ESP は当初,山岳トンネル内を走行する自動車運転者 の視環境を確保することを目的とし,1977 年北陸自動車 道日野山トンネルの実用試験を経て実用化に至っている⑵。 1985 年,日本で最も長い関越トンネルの開通は,トンネ ル用 ESP の開発によるところが大きい。視環境改善用電 気集じん設備の概要を図₅に示す。車道内の汚染空気をバ イパストンネルに吸引し清浄化した空気を送風機により再 図₃ 電気集じん装置の外観 SPM 除去装置 加湿スプレー 低濃度脱硝装置 ト ン ネ ル 空気 処理後空気 集じんユニット 吸着剤 再生液 P 図₄ 低濃度脱硝装置のシステム構成 バイパス用 ESP 図₅ 視環境改善用電気集じん設備の概要 表₁ 装置の性能比較 項 目 従 来 今 回 集じん方式 直 流 交 流 処理風速 9.0 m/s 12.5 m/s SPM 除去率 80 % 以上 80 % 以上 圧力損失 200 Pa 300 Pa

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び車道空間に吹き出し,トンネル内の視環境を改善する。 都市部に建設される高速道路は,1章で説明したように 地下トンネルが多くなっている。自動車排ガスには SPM やNO2などの有害物資が含まれている。近年ではトンネ近隣の空気環境改善を目的とした ESP が海外において強く求められるようになった。 ₃.₂ 電気集じん装置の性能と構造 ESP の方式には一段式と二段式がある⑶。 ト ン ネ ル ESP には設置空間の制約から,一般に小型で大風量処理 が可能な帯電部と集じん部から構成された二段式を採用し ている。 トンネル用 ESP の開発変遷を表₂示す。実用化当初性能は,処理風速 7 m/s,除去率 80% であった。1996 年に処理風速 9 m/s,除去率 80%,1999 年には 90% 以上 の高除去化に成功した。 実用化当初,粒子の帯電には保守作業員の衛生環境の 確保からオゾン生成の低い正コロナ放電を利用していた。 1996 年ごろには放電極の劣化が少ない負コロナ放電へ見 直した。さらに,放電極構造もタングステン製の線電極を 採用していたが,2002 年に断線しない放電板電極に改良 した。 ₃.₃ 高電圧発生電源の構造 ESP の機能は高電圧発生電源の性能に大きく依存する。 表₂示すとおり,開発当初の回路方式は,構成がシンプ ルで産業用 ESP として採用実績の多い商用周波倍電圧整 流方式を採用していた。半導体素子の性能が向上し,2002 年には回路の一部を高周波インバータによる PWM(パル ス幅変調)制御とした交流 ESP 用の対称矩形波交流高電 圧発生電源を開発した。2007 年には非対称矩形波交流高 電圧が発生できるように改良した。同時に,すべての回路 を高周波インバータによる PWM 制御とし,従来の装置比べて体積比で約 1/2,質量比で約 2/5 の小型化に成功 した。 ₃.₄ 再生方式とダスト処理方式 捕集した粒子を ESP から払い落とす再生方式や,払い 落とした粒子であるダストを処理する装置の改良も推進し てきた。実用化当初は加圧空気によって再生する乾式洗浄 方式を採用していた。乾式洗浄方式ではバグフィルタに よってダストと空気に分離していた。1989 年以降は加圧 水によって再生する湿式洗浄方式を開発し採用した。洗浄 時に発生する汚水は,独自に開発した加圧浮上方式の汚水 処理装置によって清水とダストに分離した。さらに 1996 年ごろを境に加圧浮上方式から加圧ろ過方式に変更した。 4 交流式電気集じん技術の採用 従来型の直流式 ESP における SPM の挙動を図₆⒜に模 式的に示す。直流式 EPS では,帯電部と集じん部に直流 高電圧を印加していた。この方式では,帯電部でマイナス に帯電した SPM が集じん部の集じん電極上で数珠状に凝 集肥大化し,気流とともに再び ESP から飛散する現象が 発生する。再飛散現象の防止を目的とした対称矩形波交 流式 ESP を独自に開発した。矩形波交流式 ESP における SPM の挙動を図₆⒝模式的に示す。帯電部に直流高電 圧,集じん部には矩形波交流高電圧を印加する。帯電部で マイナスに帯電した SPM は,集じん部のプラス電極上に 捕集され数珠状の凝集粒子を形成する。集じん部の電界は 表₂ トンネル用 ESP の開発変遷 開発年 1977 1989 1996 1999 2001 2002 2003 2005 2007 2008 2009 集じん装置の仕様 処理風速 (m/s) 7 9 9 〜 13 集じん率(%) 80 90 80 〜 90 放電極構造 線 板 帯電方式 直流正コロナ 直流負コロナ 集じん方式 (+電圧)直流電界 (−電圧)直流電界 対称矩形波交流電界 非対称矩形波交流電界 再生方式 乾式 湿式 高圧発生装置の仕様 帯電部 出力波形 直流正極性 直流負極性 集じん部 出力波形 直流正極性 直流負極性 対称矩形波 非対称矩形波 帯電部 回路方式 商用周波倍電圧整流 高周波インバータ PWM 制御 集じん部 回路方式 商用周波倍電圧整流 高周波インバータ PWM 制御 外形寸法 H×W×D (mm) 810×520×750 910×600×1,000 600×600×800 概算質量(kg) 190 345 150

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周期的に反転するため,数珠状凝集粒子は球状に変化する。 球状凝集粒子は,集じん電極との接触面積が大きく,流体 抗力も小さくなるため再飛散が抑制される。2007 年には, さらに安定した除去性能を得るため非対称矩形波交流式 ESP を開発し,首都高速中央環状新宿線へ納入した。 5 最近の研究事例 SPM の除去性能やエネルギー効率の向上,コンパクト 化,有害ガスの分解や除去などの要求に応えるため取り組 んでいる開発の一つに,粒径 1 µm 以下の微粒子の除去率 向上がある。この微粒子は,ディーゼル排ガス中などに多 く含まれており⑷,人体に有害であるといわれている⑸,⑹。以下 に,微粒子の除去率向上に関する研究例を紹介する⑺。 実験で用いた ESP は,帯電部と集じん部から構成され た二段式とし,その構成を図₇示す。実験用 ESP は小 型の模型であり実用機ではない。そのため,集じん率は実 用機の値と比べ低い。試験用のガスは,道路トンネル内の 空気を模擬するため,ディーゼル排ガスを大気で希釈し たものを用いた。ダクト内の平均ガス流速は 7 m/s とした。 帯電部の接地平板電極に対して線電極に直流-9 kV を印 加し,負コロナ放電を発生させた。集じん部は接地平板電 極と高電圧用平板電極の合計 3 枚をガス流方向に平行か つ交互に配置した。粒子濃度は粒径 20 nm 以上の微粒子

計測が可能な Scanning Mobility Particle Sizer(SMPS, TSI 社 MODEL3080)を用いて測定した。集じん部の電極 構造を図₈示す。高電圧用平板電極として,極板に穴を 開けたパンチング電極と穴のない平板電極を用いた。電極 に開けた穴の直径は 2.5 mm である。 微粒子の除去率に対するパンチング電極の効果を図₉に 示す。本実験では模型を用いているため,集じん率の値は 160 mm 70 mm 160 mm 70 mm 21mm 21mm (a)パンチング電極 (b)平板電極 図₈ 集じん部の電極構造 0 10 100 1,000 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 粒径  (nm)d 集 じ ん 率 η (%) パンチ穴直径 2.5 mm 平板 図₉ 微粒子の除去率に対するパンチング電極の効果 ガス流 ギャップ 9.37 mm H.V. H.V. タングステン線 φ0.26 mm 70 mm 70 mm 65 mm 80 mm 帯電部 集じん部 180 mm ギャップ 9.1 mm アクリルダクト 清浄 空気 図₇ 実験装置の構成 − − ++ ++ ++ + + +++ ++++ +++++ − + − − DC H.V. 粒子 帯電粒子 ガス流 帯電部 (a)従来型(直流式 ESP) 集じん部 DC H.V. ++ ++ ++ + ++ + − + + + + AC H.V. 粒子 帯電粒子 ガス流 帯電部 集じん部 DC H.V. (b)新型(交流式 ESP) 図₆ 従来型(直流式 ESP)と新型(交流式 EPS)における SPM の挙動模式

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実用機に比べ低い。平板電極における除去率の粒径特性に 対して,パンチング電極の場合,いずれの粒径においても 除去率が向上している。これはパンチング電極の開口部近 傍の電界強度が強くなるためと考えられる。この結果から, 人体に有害とされる微粒子の除去率向上につながる可能性 が示され,引き続き開発を推進する予定である。 6 あとがき 今後の建設や計画が進んでいる都市高速は,地下構造を 採用したものが多くなっており,当該工事は本格的な地下 道路の先駆けとなった。 今回の実績を生かした技術開発を推進し,環境技術で社 会に貢献していく所存である。 参考文献 ⑴  社団法人建設電気技術協会. 道路トンネル用集じん便覧. 1979. ⑵  株式会社ドーシス. トンネル用電気集じん機の開発と今後 の展望. ドーシスレビュー . 1994, no.2. ⑶  静電気学会編. 静電気ハンドブック. オーム社. 1981. ⑷  伊藤泰郎ほか. 電気集じん機によるサブミクロン粒子の集 じん特性. 電気設備学会. 1995, vol.15, no.2, p.113-120. ⑸  菅又昌雄, 武田健. ディーゼル排ガスが自閉症の一因に?. ニュートン. 2007, vol.26, no.8, p.107.

⑹  Nemmar, A. et al. Passage of inhaled paritocles into the blood circulation in humans, Circulation 105, 2002, p.411-414. ⑺  安本浩二ほか. 電気集じん装置におけるナノ粒の集じん率

向上. 電気学会論文誌A. 2008, vol.128, no.6, p.434-440.

青木 幸男 トンネル換気システムのエンジニアリング業務に 従事。現在,富士電機システムズ株式会社産業プ ラント事業本部第一統括部道路技術部課長補佐。 瑞慶覧 章朝 トンネル換気システムの研究開発,エンジニアリ ング業務に従事。現在,富士電機システムズ株式 会社産業プラント事業本部第一統括部道路技術部 課長補佐。博士(工学)。IEEE 会員,電気学会会 員,静電気学会会員,電気設備学会会員。 中山  勉 トンネル換気システムの設計,エンジニアリング 業務に従事。現在,富士電機システムズ株式会社 産業プラント事業本部第一統括部道路技術部。

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