無 表 色 に 関 す る 一 考 察 ( 佐 古 ) 一 三 六
無
表
色
に
関
す
る
一
考
察
佐
古
年
穂
無 表 (avijnapti) は 説 一 切 有 部 に お い て 色 (rupa) と 考 え ら れ て お り、 そ の 理 由 と し て、 ﹃ 倶 舎 論 ﹄ は、 色 の 意 義を rupana= (1) hadhana=pratighata と 説 明 す る 申 で、 次 の 二 つ を 挙 げ て い る。 (1) 表 (vijnapti) が 変 壊 す る (rupana) が 故 に、 無 表 も 変 壊 す る。 ︹A︺樹 が 動 く (pracalana) 時、 影 も 動 く よ う に 。 (2) ( apare の 説 と し て ) 所 依 た る 大 種 (asrayabhuta) が 変 壊 す る が 故 に ︹無 表 も 変 壊 す る ︺。 ⋮⋮︹B︺影 が 木 に ︹依 っ て (asritya) 生 ず る (vartate)︺ よ う に、 又、 ︹C︺光 が 宝 石 に ︹ 依 っ て 生 ず る ︺ よ う に 無 表 は 大 種 に 依 っ て 生 ず る。 (2)(3) こ の 中、(1)Aは、 ﹃ 韓 婆 沙 論 ﹄、 ﹃ 雑 阿 毘 曇 心 論 ( 以 下、 雑 心 論 ) ﹄ が 採 用 し て い る。 但 し、 ﹃ 雑 心 論 ﹄ は、 ﹁色 者、 一 切 身 業 口 業 性、 因 二 (4)(5) 四 大 一故。 ﹂ 或 は ﹁ 無 作 仮 色 ﹂ と も 述 べ て い る。 (6)又、(2)は、(1)の
響
え
を
伴
っ
た(2)Aの
形
で、
﹃
五
事
毘
婆
沙
論
﹄、
﹃
大
(7)(8)毘
婆
沙
論
﹄、
﹃
阿
毘
曇
毘
婆
沙
論
﹄
が
採
用
し
て
い
る。
但
し、
﹃
阿
毘
曇
毘
(9)(10) 婆 沙 論 ﹄ は、 ﹁ 無 作 仮 色 ﹂ と 説 い て も い る。 ま た、 ﹃ 阿 毘 曇 心 論 経 ﹄ は、 響 喩 を ﹁ 如 光 依 珠 ﹂ 即 ち(2)Cと し て(2)を 採 っ て い る。 ( 11) な お、 ﹃ 阿 毘 曇 心 論 ﹄ も ﹁ 無 教 仮 色 ﹂ と 述 べ て お り、 前 の 二 例 と 合 わ せ て、 無 表 の 色 と し て の 不 安 定 さ を 示 し て い る わ で は、 説 一 切 有 部 の 正 説 は い か な る 形 で あ ろ う か。 ﹃ 集 異 門 足 論 ﹄ 以 来、 色 を ﹁ 四 大 種 及 所 造 色 ﹂ と 言 明 す る 事、 ﹃ 倶 舎 論 ﹄ 界 品 に お け る 無 表 の 定 義 (偶 十 一 ) で も ﹁ ︹四 ︺ 大 種 所 造 (Mahabhutany ( 12) u badaya) ﹂ と 説 か れ て い る 事、 更 に、 ﹃ 順 正 理 論 ﹄ が、(1)を ﹁ 此 不 レ ( 13) 応 レ理、 随 心 転 色 不 二従 レ表 生 画 応 レ 非 レ 色 故。 云 々 ﹂ と 批 判 し 退 け て い る 事 か ら、(2)を 正 説 と す る の が 自 然 で あ り、 馨 え に 関 し て は 大 多 数 の と る A、 即 ち(2)Aが 有 部 の 正 説 で あ る と 考 え ら れ る の で あ り、 ﹃ 倶 舎 論 ﹄ に は 混 乱 が あ る も の と 思 わ れ る。 な お、 こ の 事 は、 ﹃ 倶 舎 論 ﹄ に、 ﹁色 (rupa) と 作 用 ( 町 貯 似 ) と を 自 性 と し て い て も、 表 (vijnapti) ( 14) の よ う に、 他 に 知 ら し め な い か ら 無 表 で あ る。 ﹂ と あ り、yasomitra ( 以下、yas.) が ﹁ ⋮⋮し か し、 両 者 を 自 性 と す る も の、 そ れ は、 他 に 表 示 す る、 例 え ば、 表 の よ う に。 表 は、 自 己 を 等 起 す る 心 が 善 ・ 不 善 ・ 無 記 ( 15) 或 は 寛 容 ・ 残 忍 ・ 両 方 で は な い、 と 他 に 知 ら し め る。 ﹂ と、 註 釈 す る よ う に、 又、 先 の(1)の 様 な 理 解 が 生 ず る よ う に、 表 が 色 で あ る 事 に 基 い て、 そ の 同 類 と 考 え ら れ る 無 表 を も 色 ( 四 大 所 造 ) と 理 解 し た こ と に よ る も の な の で あ ろ う。 し か し、 無 表 自 体 は、 無 見 無 対 で あ り、 特 に 無 対 と し て は、 十 四 不 相 応 行 ・ 三 無 為 と 同 じ く、 境 界 有 対 で も、 障 碍 有 対 で も な い も の ( 16) な の で あ り、 無 表 の 定 義 ( 偶 十 一 ) に お い て ﹁ ︹ 四 ︺ 大 種 所 造 ﹂ と ( 17) 説 く の も ﹁ 得 (prapti) の 流 れ (pravaha)﹂ と 区 別 す る 為 で あ る、 と 説 か れ て い る よ う に、 む し ろ、 心 不 相 行 法、 特 に、 得 と 近 い 性 質 の も の と し て 把 握 す べ き で は な い か と 考 え ら れ る。 な お、 先 述 の ﹁ 他 に 知 ら し め な い ﹂ も の を yas. は ﹁ 自 己 を 等 起 す る 心 ﹂ と し て い る が、 ﹃倶 舎 論 ﹄ そ の も の は、 桜 部 博 士 が 訳 し て-551-( 18) お ら れ る よ う に、 ﹁無 表 自 身 ﹂ と 考 え た 方 が よ い と 思 わ れ る。 ﹃ 入 阿 ( 19)(20) 毘 達 磨 論 ﹄tih. 訳、 ﹃ 順 正 理 論 ﹄ は、 そ の よ う に 解 し て 不 都 合 は な い し、 又、 無 見 無 対 と い う 点、 並 び に、karmaprajnati (tib.) に ﹁ ⋮⋮身 に よ っ て も、 決 し て 知 ら し め な い も の、 そ れ が、 無 表 な の ( 21) で あ る。 ﹂ と 説 か れ て い る 点 よ り そ う 理 解 で き る と 考 え ら れ る。 ( 22)(23)(24)(25)
但
し、
﹃
入
阿
毘
達
磨
論
﹄
漢
訳、
﹃倶
舎
論
﹄
安
慧
疏、
満
増
疏、
﹃
成
業
論
﹄
( 26) は、yas. と 同 じ 理 解 を 示 し て い る。 以 上 よ り、 無 表 は、 無 見 無 対、 法 処 所 摂、 聖 俗 等 の 区 分 に 関 係 深 い 点 な ど か ら、 極 め て 得 と 似 か よ っ て い る が、 こ れ を、 業 即 ち 表 の 同 類 と 考 え る こ と に よ り、 身 体 上 に 把 え ざ る を 得 な く な り、 四 大 所 造 と し て 表 に 準 じ て 色 と し た の で あ り、 そ の 結 果、 無 漏 を 除 く 無 表 は、 命 終 を そ の 相 続 の 限 界 と な す に 至 っ た の で あ ろ う と 考 え ら れ る の で あ る。 1 pradhap ed. p. 9, l. 19-p. 10, l. 6, ll. 23-24 2 大 正 二 八、 四 六 二 a。 3 大 正 二 八、 八 七 一 c。 4 大 正 二 八、 八 八 八 c。 こ れ な ら ば(1)を も 採 っ て い る と も 考 え ら れ る。 5 大 正 二 八、 八 七 一 c。 6 大 正 二 八、 九 八 九 c-九 九 〇 a。 こ こ で は 四 つ の 説 が 述 べ ら れ ﹁ 諸 無 表 色 錐 レ 無 二 変 擬 納 随 二 所 依 一 故 得 二 変 擬 名。 所 依 者 何。 謂 四 大 種、 由 二 彼 変 擬 一 無 表 名 レ 色。 如 二 樹 動 時 影 亦 随 動。 或 随 二 多 分 一如 レ 名 二 段 食 噛 或 表 二 内 心 一故 名 為 レ 色。 或 表 二 先 業 一 故 立 二 色 名。 ﹂ と な っ て お り、 第 三 説、 第 四 説 は、 無 表 と 切 り 離 し た 形 で ﹃ 順 正 理 論 ﹄、 ﹃ 成 実 論 ﹄ に も 採 用 さ れ て い る が、 こ こ で は 省 略 す る。 7 大 正 二 七、 三 九 〇 a。 8 大 正 二 八、 二 九 二 a。 9 大 正 二 八、 五 三 a。 10 大 正 二 八、 八 三 五 a。 11 大 正 二 八、 八 〇 九 c。 12 pradhan ed. p. 8, N. 2。 13 大 正 二 九、 三 三 八 a。 18﹃倶 舎 論 の 研 究 ﹄ ( 法 蔵 館、 昭 和44) p. 155, N. 9。 19 p. ed. vol. 119, 44-2-6-8 (394h)。 20 大 正 二 九、 三 三 五 b。 21 p. ed. vol. 115, 93-4-2-4 (228h)。 無 表 を 色 と 明 言 し た 最 初 の 論 書 と し て 注 目 さ れ る が、(1)(2)の よ う な 理 由 は 述 べ て い な い。 22 大 正 二 八、 九 八 一 a。 23p. ed. vol. 146, 219-1-2-3 (62a)。
24 p. ed. vol. 117, 101-3-6-7 ( 3 8 a )。 25﹁無 表 ﹂ に 対 す る 直 接 の 説 明 は な い が、 表 に 対 す る 説 明 よ り こ う 理 解 し 得 る 。 26 註 6の 第 三 説 は こ の 点 で も 注 目 す べ き で あ る。 ( 三 友 健 容 氏、 ﹁ ア ビ ダ ル マ 仏 教 に お け る 無 表 業 論 の 展 開 曰-四 ﹂ 参 照 ) ( 東 京 大 学 大 学 院 ) 無 表 色 に 関 す る 一 考 察 ( 佐 古 ) 一 三 七