• 検索結果がありません。

変形性膝関節症 理学療法診療ガイドライン

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "変形性膝関節症 理学療法診療ガイドライン"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)理学療法学 第 204 43 巻第 2 号 204 ∼ 209 頁(2016 年) 理学療法学 第 43 巻第 2 号. 講  座 シリーズ 「エビデンスに基づく理学療法 ―理学療法診療ガイドラインを読み解く―」. *. 連載第 15 回 変形性膝関節症 理学療法診療ガイドライン. 木 藤 伸 宏 1) 小 澤 淳 也 1) 金 村 尚 彦 2). 国営医療保険制度 NHS(National Health Service)の. はじめに. 中 の NICE(National Institute for Health and Clinical 7).  本稿では,変形性膝関節症理学療法診療ガイドライ. Excellence) が 治 療 ガ イ ド ラ イ ン を 公 表 し た. ン 第 1 版( 以 下, 診 療 ガ イ ド ラ イ ン 第 1 版 ) に つ い. ら に 2008 年 12 月 に AAOS(American Academy of. て,編者が特に重要と考える項目を中心に概説する。ま. Osrthopaedic Surgeons)も治療ガイドラインを公表し. ず,変形性膝関節症(以下,膝 OA)は,加齢,肥満,. た. 遺伝的因子,力学的負荷など多くの原因が関与して発. べてのシステマティックレビュー(エビデンスレベル. 症する多因子疾患である。厚生労働省の平成 19 年度. Ⅰa)において,有効とされており,推奨度は 96%とさ. 国民生活基礎調査. 1). の結果と,ROAD(Research on. Osteoarthritis Against Disability) プ ロ ジ ェ ク ト. 2)3). より以下のことが明らかとなった。ROAD プロジェク ト. 2)3). とは,2005 年より大規模臨床統合データベー. スの設立を開始し,この一連の研究活動である。高齢. 8). 。OARSI ガイドライン. 4‒6). ビデンスレベルはⅣと高くはないが,推奨度は 89%で あった。AAOS ガイドライン. 8). ,NICE ガイドライン 7). においても運動療法は推奨グレード A であった。一方, 物理療法においては OARSI ガイドライン  今回,OARSI ガイドライン. 。日本の膝 OA 患者数(40 歳以上)を推定すると,. ン. ,AAOS. ともに推奨度は高くはなかった。. 位が関節疾患であり,運動器の障害が高齢者の生活の 1) 2). 4‒6). 8). ガイドライン. る. では,運動療法は,す. れている。そして,理学療法士による介入についてエ. 者が要支援になる原因の 1 位,要介護になる原因の 4 質(quality of life:以下,QOL)を著しく障害してい. 。さ. 7). ,AAOS ガイドライン. 8). 4‒6). ,NICE ガイドライ. との整合性を踏まえたう. えで,膝 OA 特に内側型膝 OA を対象とした理学療法. X 線像により診断される患者数は 2,530 万人(男性 860. 診療ガイドラインを作成した。本稿では,膝 OA の症状. 万人,女性 1,670 万人)となり,膝 OA の有症状患者数. 改善を目的とした基本的な理学療法評価・介入方法の科. 2)3). 。膝 OA は身体的 QOL. 学的根拠について以下に述べる。なお,診療ガイドライ. の指標である physical component summary 値を有意. ン第 1 版が出版された後に,2014 年に OARSI から非外. は約 800 万人と推定される に低下させる. 3). 。以上のことより,日本において膝 OA. 科的治療のガイドライン. 9). がでた。そのガイドライン. の予防と進行防止を目的とした治療方法の確立は急務で. では,膝 OA を 4 つの亜型に分類し,それぞれに亜型. ある。. に応じた治療を推奨している(図 1) 。まず,膝だけに.  2007 ∼ 2008 年 に か け て,OA に 関 す る 代 表 的 な 国. 症状を有するのか(膝 OA 単独),もしくは膝以外の他. 際学会と機構から治療ガイドラインが続けて公表され. 関節(たとえば,股関節,手,脊椎など)にも症状を有. た。そして 2010 年 4 月に新たなエビデンスを更新した. するのか(多関節 OA)に分類される。次の分類は,併. OARSI(Osteoarthritis Research Society International). 存疾患が存在しているか否かである。中等度の併存疾患. のガイドラインが公表された. 4‒6). 。2008 年 2 月に英国の. リスク(moderate co-morbidity risk)は,糖尿病,高 血圧,中枢神経疾患,腎不全,消化管出血,鬱,肥満を. *. Clinical Guidelines for Physical Therapy of Knee Osteoarthritis 1)広島国際大学総合リハビリテーション学部 (〒 739‒2695 広島県東広島市黒瀬学園台 555‒36) Nobuhiro Kito, PT, PhD, Jyunya Ozawa, PT, PhD: Hiroshima International University, Faculty of the Integrated Rehabilitation 2)埼玉県立大学大学院 Naohiko Kanemura, PT, PhD: Saitama Prefectural University, Graduate School キーワード:変形性膝関節症,理学療法,診療ガイドライン. 含む活動を制限する身体機能障害などの健康状態に影響 を与える疾患である。高度の併存疾患リスク(high comorbidity risk)は,消化管出血,心筋梗塞,慢性腎不 全の既往が存在する場合をいう。OARSI の非外科的治 療のガイドラインは,4 つの亜型すべてに共通するコア 治療を推奨している。コア治療は,陸上での運動,水中.

(2) 変形性膝関節症 理学療法診療ガイドライン. 205. 図 1 膝 OA の非外科的治療の OARSI ガイドライン 9) McAlindon TE, et al.: OARSI guidelines for the non-surgical management of knee osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage. 22(3): 363‒388. 2014. の p. 366 の Fig. 1 より引用.. 運動,体重管理,自己管理と患者教育,筋力増強運動で. た。女性と男性間に性差は存在せず,リスク要因は同じ. あった。. であったと報告した。膝 OA の発症と進行に関するリ スク要因については多くの報告がなされており,医療面. 理学療法評価(指標)について. 接においてそれらの存在の有無を確認することで膝 OA. 1.膝関節構成体の器質的変化と病態の把握. が起こった背景を探るうえで重要な情報となる。.  単純 X 線検査は,一般的に行われる検査である。画.  膝 OA の主訴は膝関節の疼痛が主である。膝関節の. 像所見をもとに行われる Kellgren-Lawrence grading 分. 疼痛は膝 OA 重症化に関係する要因であり,予後を予. 類は,膝関節構成体の器質的変化と病期判断として有. 測するうえで重要な評価項目となる. 10). 15). 。疼痛の評価に. 。磁気共鳴画像検査(magnetic resonance. 関しては,疼痛強度や疼痛性質の評価に加え,活動や参. imaging:以下,MRI)は,膝関節内の病態を捉えるうえ. 加(スポーツも含む)への影響などに関して多角的な健. で信頼性,妥当性ともに優れている。特に,関節軟骨の. 康プロファイル型尺度が報告されている。代表的なも. 損傷の程度や厚さ,そして滑膜炎の存在や関節浸出液の. のとして,WOMAC(Western Ontario and McMaster. 用である. 。しかし,単純 X 線検査. 16) Universities osteoarthritis index) ,JKOM(Japanese. と MRI 検査で捉えた異常所見と主観的疼痛や臨床症状と. 17) knee osteoarthritis measure) ,SF-36(MOS short-. 定量化においても有用である. 11). の関連性については必ずしも一致するものではない. 12). 。. 18). form 36) 度. 19)20). が あ る。WOMAC は, 疾 患 特 異 的 尺. として優れ,使用頻度が高い。JKOM は日本. 2.理学所見(主観的評価). 人を対象としており,WOMAC,SF-36 との比較におい.  膝 OA の評価において医療面接は重要であるとの明. て信頼性が確認されている. 確なエビデンスは存在しない。しかし,一般診療におい. として優れていることが報告されている. 17). 。SF-36 は,包括的尺度 21). 。. て医療面接は行わなければならない。また,前十字靱 帯損傷(anterior cruciate ligament:以下,ACL)や半. 3.理学所見(客観的評価). 月板損傷といった膝外傷や手術後(ACL 再建術,半月.  膝関節構成体と周囲の軟部組織の圧痛検査は,臨床で. 板部分切除と全切除)において二次的膝 OA 発症が増. 一般的に行われる検査であるが,主観的疼痛の性質と異. 加すると報告されており,医療面接を通して既往歴の. なることを留意する必要がある。膝関節周囲の触診に. 把握は重要である。Yoshimura ら. 13)14). は,本人の膝. OA のリスク要因は,肥満,膝の外傷,肉体労働であっ. よって熱感と腫脹が認められる場合は,膝 OA というよ りも膝関節炎または他の炎症性疾患を疑う必要がある。.

(3) 206. 理学療法学 第 43 巻第 2 号. また,膝蓋跳動テストは膝関節内の関節水症の存在を検. ら 32)は,timed up and go test,昇段テスト,6 分間歩. 査するために有用である。しかしながら,触診や膝蓋跳. 行テストは,WOMAC と SF-36 と中等度の相関(0.46. 動テストに関するエビデンスは確認できなかった。膝. ∼ 0.64)が認められたと報告した。これらの課題遂行テ. 関節可動域は,膝 OA 患者では伸展・屈曲ともに健常. ストは,理学療法介入の効果判定として使用頻度が高い。. 者と比較して制限されているとの報告が多い。van Dijk ら. 22). は,WOMAC の身体機能得点は膝関節可動域に. 保存的治療としての理学療法介入について. 大きく影響することを報告した。膝関節伸展と屈曲筋力. 1.患者教育,減量,運動療法. は,膝 OA 患者では健常者と比較して減少していると.  NICE における膝 OA 治療目標では患者教育,減量,. の報告が多い。膝関節伸展と屈曲筋力は,最終的に出力. 運動療法の 3 つをコア治療とした. される関節トルクの低下を捉えるためには有用である. 指導は,推奨グレード A エビデンスレベル 2 とした。. が,疼痛や日常生活活動減少の原因としてこれらの所見. 日本の理学療法の臨床において,患者教育と生活指導は. を捉えることに関しては慎重であるべきである。近年,. 軽視されることが多いが,これらは運動機能と活動の改. 股関節周囲筋が下肢の前額面と水平面アライメントに重. 善が得られるとの報告が多い。さらに,社会経済学的に. 要な役割をなしていることが報告されている。Hinman. も他の治療と比べ治療期間が短くなる傾向があり,患者. ら. 23). は,膝 OA 群は年齢および性が一致する無症候で. 7). 。患者教育と生活. 一人にかかる医療費をも安くすることができる介入法で 33)34). 。また,運動を含んだ自己管理プログラムの. あるコントロール群と比較して,有意に股関節周囲筋の. あり. 筋力が低下しており,特に股関節伸展筋力は 16%,股. 指導は,痛み・疲労の軽減,軽運動時間の増加,膝屈曲. 関節外旋筋力は 27%の低下が認められたと報告した。. 角度の改善,日常生活活動量の改善,不定期受診回数の. そして Chang ら. 24). は,歩行時に内部股関節外転モー. 軽減,自己効力感の改善に効果が見られるとの報告が 35)36). 。体重の減量療法は,推奨グレード A エ. メントを十分に発揮できることは,18 ヵ月後の膝 OA. あった. の発症を減少できると報告した。今後,股関節筋力と膝. ビデンスレベル 1 とした。膝 OA 患者の減量療法と身. OA の関係についてさらに検討されると考えられる。. 体機能改善が直接的影響を及ぼすというよりも,自己効.  膝 OA 患者に認められる下肢アライメントの変化,. 力感やうつ傾向などの心理的要因の改善を介するとの見. 歩行速度減少,ストライド減少,ケイデンス増加,下肢. 解が強い. 関節の運動学・運動力学的変化に関しては,多く報告さ. 炎症に関するバイオマーカーである C-reactive protein,. れている。これらの所見は,膝 OA 患者の姿勢や歩行. interleukin 6 と可溶性腫瘍壊死因子受容器の血中濃度を. の問題を把握するうえでは有用であるが,膝 OA の原. 低下させると報告があった. 因であるか,結果であるかについては未だ結論はでてい.  運動療法に関して OARSI のガイドライン. ない。特に歩行時の膝関節内転モーメントに関する報告. 症候性の膝 OA 患者において,疼痛緩和および身体機. は多くなされている。膝関節内転モーメントとは,外力. 能を改善するための適切な運動療法について理学療法士. として膝関節を内転させる力のモーメントである Zhao ら. 28). 25‒27). 。. は,歩行時の膝関節内側コンパートメント. 37). 。また,減量療法は,膝 OA に関係がある. 38). 。 4‒6). では,. による評価と指示・助言を受けることは有益である,そ して膝 OA 患者は定期的な有酸素運動,筋力強化運動,. に生じる圧力と膝関節内転モーメントの値との関係はほ. 関節可動域運動を実施継続することを奨励すると述べて. ぼ同様の波形形状であることが報告し,膝関節内転モー. いる。AAOS のガイドライン. メントは膝関節内側コンパートメントの荷重を反映す. 節可動域運動,大. る指標として有用であるとされている。しかし,Mills. いる。診療ガイドライン第 1 版では,筋力増強運動は推. ら. 29). のシステマティックレビューとメタ解析の結果は,. 8). では,有酸素運動,関. 四頭筋強化運動を推奨すると述べて. 奨グレード A エビデンスレベル 1,有酸素運動は推奨. 歩行時の膝関節内転モーメントについて,膝 OA は健. グレード A エビデンスレベル 1,協調性運動は推奨グ. 常者より大きいとの結果は得られないと結論づけた。さ. レード A エビデンスレベル 2,徒手療法は推奨グレー. 30). は,レビューにて運動療法による. ド B エビデンスレベル 2 とした。一方で,ストレッチ. 臨床的有用性について検討すると膝関節内転モーメント. ングおよび関節可動域運動は推奨グレード C エビデン. の減少と臨床症状改善との関係は認められなかったと報. スレベル 2 とし,臨床症状の改善に明らかに有用である. 告した。. とのエビデンスは得られなかった。. らに Ferreirara ら.  課題遂行テストは活動状態を簡易的に把握するために 有用なテストである。OARSI は課題遂行テストとして. 2.足底挿板療法,装具療法,膝サポータ. 30 秒椅子からの立ち上がりテストと 40 m の努力性歩行.  診療ガイドライン第 1 版では,足底挿板療法は推奨グ. をコアセットとし,さらに必要に応じて timed up and. レード B エビデンスレベル 1 とした。足底挿板療法が. go test,6 分 間 歩 行 テ ス ト を 推 奨 し て い る. 31). 。Mary. 膝関節内転モーメントを減少させるというエビデンスは.

(4) 変形性膝関節症 理学療法診療ガイドライン. 207. 存在しないが,短期間であれば臨床症状特に疼痛減少に. 2.術前の理学療法と患者教育. 有用である可能性は否定できない。また,変形の著しい.  術前の理学療法と患者教育は,術前の不安を減少させ. 進行期や末期の症例に対して限界はあるが,患者の病状. るためには有効であり. と病期を適切に評価して処方すれば,有用な治療法であ り,患者に対する負担や苦痛も少ない. 39). 。装具療法に. ても有効であった. 45). ,かつ術後の機能改善にとっ. 46). 。さらに多職種による術前および. 術後のリハビリテーション介入は,活動と参加レベルの 47). 。以上のことから,. ついては膝関節内転モーメントを減少させるが,診療ガ. 帰結を向上させるとの報告がある. イドライン第 1 版完成後に出されたシステマティックレ. 術前の理学療法と患者教育は推奨グレード A エビデ. ビューでは臨床症状の改善に懐疑的であった. 40). 。さら. に装具装着のコンプライアンスの問題や姿勢制御に及 ぼす負の影響なども報告されている. 41). 。膝サポータは,. ンスレベル 1 とした。. 現状と展望. 膝関節痛を減少する可能性があり,保温効果と姿勢バラ.  膝 OA は,我が国のみならず,世界的にも罹患率は. ンスの改善効果が得られるとの報告はあるが,より質の. 高く,理学療法においても頻繁に対応を迫られる疾患の. 高い臨床研究が必要である. 42). 。. ひとつである。膝 OA 患者の約 9 割は保存療法が適応 されている。しかしながら,多くの患者はパンフレット. 3.物理療法. を渡されての運動療法の指導のみにとどまり,理学療法.  診療ガイドライン第 1 版では,超音波療法に関しては. 士による十分な治療介入がなされていないと推測され. 研究報告も多くなされており,疼痛に関する短期効果は. る。また,人工膝関節置換術後は,理学療法士による介. 得られるとの報告が多く,推奨グレード A エビデン. 入が多くの施設でなされていると推測できるが,その効. スレベル 1 とした。その他の物理療法に関しては,研究. 果を明確に示す必要性がある。日本における理学療法の. 報告は少ないが疼痛軽減が得られるとの報告がある温. 厳しい診療報酬の現状を考えると,保存療法においても. 泉療法(spa therapy)は推奨グレード A エビデンス. 観血治療後においても,理学療法士による治療的介入の. レベル 2,TENS 療法(transcutaneous electrical nerve. 効果を明確に示すことが急務である。そのためには日本. stimulation)は推奨グレード A エビデンスレベル 2 と. での多施設間共同研究で,理学療法士による治療介入の. した。他の物理療法については臨床症状改善に関する十. 効果に焦点をあてた無作為比較研究を実施することが必. 分なエビデンスは存在しなかった。. 要である。今回,膝 OA に対する診療ガイドライン作. 人工膝関節置換術(total knee arthroplasty: 以下,TKA)後の理学療法介入. 成にあたり,理学療法における評価と治療介入について 探ってみたが,そのいずれにおいても課題は多いようで ある。.  TKA について OARSI のガイドラインでは,非薬物.  以下に課題を記す。. 療法と薬物療法の併用によって十分な疼痛緩和と機能改. 1.筋力増強運動に代表される運動療法は,疼痛軽減や. 善が得られない膝 OA 患者の場合は,TKA を考慮すべ. 生活機能改善に有効であるとの報告はあるものの,日本. きであると述べている. 4‒6). 。保存療法を行っているにも. における介入研究はほとんどないに等しい。. かかわらず,健康関連 QOL の低下を伴う重篤な症状や. 2.疼痛や生活機能を帰結とする場合,短期的には運動. 日常生活活動制限を有する患者に対しては,TKA が有. 療法の効果は期待できるが,長期的に検討した研究はほ. 効であり費用対効果も高い。. とんどない。 3.疼痛や生活機能障害などの主観的な効果に関する研. 1.関節可動域運動,筋力増強運動,機能的運動療法. 究は欧米でなされているものの,膝関節軟骨破壊に対し.  多くの施設で TKA 手術後,関節可動域運動として. 運動療法や物理療法は効果があるのか否かについては検. CPM(continue passive movement)は行われる。しか. 討されていない。. し,その効果については短期的に関節可動域改善に関し. 4.膝関節軟骨破壊に対する運動療法や物理療法の効果. ては有効であるが,長期的使用に関しては否定的な報告. について,軟骨破壊機序の解明がいまだ十分ではないた. が多かった. 43)44). 。早期の自動運動による関節可動域運. め,基礎研究と共同してその効果について検討する必要. 動は,推奨グレード A エビデンスレベル 2 であるが,. がある。. 他動的運動に関しては否定的であり推奨グレード D エ. 5.人口膝関節置換術後の理学療法の有効性については,. ビデンスレベル 2 とした。漸増的筋力増強運動と機能的. 欧米の研究がほとんどであり,日本においても欧米の研. 運動療法は,動作能力と活動改善に有効であり,それぞ. 究デザインに習い有効性を示す臨床研究を行う必要が. れ推奨グレード A エビデンスレベル 2,推奨グレード. ある。. A エビデンスレベル 1 とした。.

(5) 208. 理学療法学 第 43 巻第 2 号. 診療ガイドライン第 1 版を臨床にどのように 役立てるか. 療計画を受け入れ実行するために,どのように治療を理.  この 1 世紀ほどで医学は進歩したが,ほとんどの疾患. うにコミュニケーションをとり,科学的事実をどのよう. に対する特効薬はいまだ存在せず,生命の自然治癒力に. な形で調理して患者に提供するか,そこには唯一の正し. 依存した治療が多く,現時点で医療はすべての疾病を治. い方法ではなく,数え切れないほどの方法が存在する。. すことが可能なほど万能ではない。また,現在のような. 診療ガイドライン第 1 版は how to 本ではない。診療ガ. ストレス社会では,疾病による病理学的変化が必ずしも. イドライン第 1 版に示した「エビデンス」をいかにアー. 症状に直結しているわけではなく,症状を引き起こす一. トに調理し,個々の患者に提供するか,これこそが臨床. 要因にすぎない。つまり,医療は疾患を治すことも重要. における醍醐味である。. であるが,それが必ずしも達成されていない状況では, 患者のもつ問題を解決することが重要となる。その問題 は一要因によって引き起こされていないとなれば,問題 の解決策として多くの方法が存在することになる。  理学療法士は医療チームの一員として患者の問題解決 にあたる。医療チームは患者が有している問題を解決す るために機能する。では,理学療法士は医療チームの中 で患者のなんの問題(理学療法士の専門性)に向き合う べきかを定義しなければならない。その「なんの?」が 理学療法士の存在意義,つまりフィロソフィーである。 理学療法士は感覚運動システムの異常を判断・治療・予 防する。そして,運動と活動コントロールを主とした治 療を提供することによって健康状態(システムの恒常 性)を脅かしている感覚運動システムそれ自体の機能の 問題,感覚運動システムの下位システムの問題(筋機能, 関節機能,神経系機能,軟部組織,呼吸機能,循環機能, 消化系機能,排泄機能,免疫機能,代謝機能など)の改 善を専門とする。  感覚運動システムおよびその下位システムの損傷 (impairment)と機能不全(dysfunction)をどのように 見つけ,治療計画を立てていくのか? そのベースにな るのがサイエンスである。たとえば,なにを目的として, いつ,どのように,どの程度の治療を行っていくか,そ うした治療計画は科学的な裏づけに基づいていなければ ならない。ただし,治療計画を四角定規に患者に提供し ようとすると臨床においては問題に直面する。つまり, 期待通りの反応を示す患者もいれば,そうでない患者も 存在するであろう。また,むしろ症状が悪化する患者に も遭遇するであろう。ここでこの現象を単純に考えてし まうと,研究をベースとした科学的側面と臨床の乖離に 見えてしまう。  科学は治療計画のベースであり,正しい結果であるな らば,生物学的には正しいことをしている。しかし,生 命体,特に人間は心理・社会・生物学側面を有するた め,生物学的には正しくても心理的・社会的に受けいれ られない場合は負の影響を与え,ネガティブ行動として 現れる。臨床では基礎医学,臨床医学とともに行動科学, 認知科学,そして心理学の知識も重要であり,患者が治. 解させ提供していくかを考える必要がある。患者の個々 の治癒能力,問題解決能力を引きだすためには,どのよ. 文  献 1)厚生労働省ホームページ 平成 19 年度国民生活基礎調査 の概況.http://www. mhlw.go.jp/toukei/list/20-19-1.htm1 (2015 年 12 月 20 日引用) 2)吉村典子:一般住民における運動器障害の疫学―大規模疫 学調査 ROAD より.THE BONE.2010; 24: 39‒42. 3)村木重之,阿久根徹,他:腰椎圧迫骨折は他の慢性疾患よ りも QOL を低下させる─ ROAD study ─.オステオポ ローシス・ジャパン.2010; 18: 33‒37. 4)Zhang W, Moskowitz RW, et al.: OARSI recommendations for the management of hip and knee osteoarthritis, part I: critical appraisal of existing treatment guidelines and systematic review of current research evidence. Osteoarthritis Cartilage. 2007; 5: 81‒100. 5)Zhang W, Moskowitz RW, et al.: OARSI recommendations for the management of hip and knee osteoarthritis, Part II: OARSI evidence-based, expert consensus guidelines. Osteoarthritis Cartilage. 2008; 16: 137‒162. 6)Zhang W, Nuki G, et al.: OARSI recommendations for the management of hip and knee osteoarthritis: part III: Changes in evidence following systematic cumulative update of research published through January 2009. Osteoarthritis Cartilage. 2010; 18: 476‒499. 7)Osteoarthritis: care and management NICE guidelines [CG177][Internet]. London: The National Institute for Health and Care Excellence (NICE) provides national guidance and advice to improve health and social care. [updated 2014 Feburuary; cited 2015 December 25]. Available from: http://www.nice.org.uk/guidance/cg177. 8)Treatment of Osteoarthritis of the Knee - 2nd Edition (PDF) [Internet]. Illinois: The American Academy of Orthopaedic Surgeons [updated 2013 May 18; cited 2015 December 25]. Available from: http://www.aaos.org/cc_ files/aaosorg/research/guidelines/treatmentofosteoarthri tisofthekneeguideline.pdf 9)McAlindon TE, Bannuru RR, et al.: OARSI guidelines for the non-surgical management of knee osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage. 2014; 22: 363‒388. 10)Kessler S, Guenther KP, et al.: Scoring prevalence and severity in gonarthritis: the suitability of the Kellgren & Lawrence scale. Clin Rheumatol. 1998; 17: 205‒209. 11)Li W, Abram F, et al.: Fully automated system for the quantification of human osteoarthritic knee joint effusion volume using magnetic resonance imaging. Arthritis Res Ther. 2010; 12: R173. 12)Øiestad BE, Quinn E, et al.: No Association between Daily Walking and Knee Structural Changes in People at Risk of or with Mild Knee Osteoarthritis. Prospective Data from the Multicenter Osteoarthritis Study. J Rheumatol. 2015; 42: 1685‒1693..

(6) 変形性膝関節症 理学療法診療ガイドライン 13)Yoshimura N, Kinoshita H, et al.: Risk factors for knee osteoarthritis in Japanese men: a case-control study. Mod Rheumatol. 2006; 16: 24‒29. 14)Yoshimura N, Nishioka S, et al.: Risk factors for knee osteoarthritis in Japanese women: heavy weight, previous joint injuries, and occupational activities. J Rheumatol. 2004; 31: 157‒162. 15)Blagojevic M, Jinks C, et al.: Risk factors for onset of osteoarthritis of the knee in older adults: a systematic review and meta-analysis. Osteoarthritis Cartilage. 2010; 18: 24‒33. 16)Bellamy N, Buchanan WW, et al.: Validation study of WOMAC: a health status instrument for measuring clinically important patient relevant outcomes to antirheumatic drug therapy in patients with osteoarthritis of the hip or knee. J Rheumatol. 1988; 15: 1833‒1840. 17)Akai M, Doi T, et al.: An outcome measure for Japanese people with knee osteoarthritis. J Rheumatol. 2005; 32: 1524‒1532. 18)Brazier JE, Harper R, et al.: Validating the SF-36 health survey questionnaire: new outcome measure for primary care. BMJ. 1992; 305: 160‒164. 19)Angst F, Ewert T, et al.: The factor subdimensions of the Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index (WOMAC) help to specify hip and knee osteoarthritis. a prospective evaluation and validation study. J Rheumatol. 2005; 32: 1324‒1330. 20)Beaton DE, Schemitsch E: Measures of health-related quality of life and physical function. Clin Orthop Relat Res. 2003; 413: 90‒105. 21)Salaffi F, Carotti M, et al.: Health-related quality of life in older adults with symptomatic hip and knee osteoarthritis: a comparison with matched healthy controls. Aging Clin Exp Res. 2005; 17: 255‒263. 22)van Dijk GM, Veenhof C, et al.: Limitations in activities in patients with osteoarthritis of the hip or knee: the relationship with body functions, comorbidity and cognitive functioning. Disabil Rehabil. 2009; 31: 1685‒1691. 23)Hinman RS, Hunt MA, et al.: Hip muscle weakness in individuals with medial knee osteoarthritis. Arthritis Care Res. 2010; 62: 1190‒1193. 24)Chang A, Hayes K, et al.: Hip abduction moment and protection against medial tibiofemoral osteoarthritis progression. Arthritis Rheum. 2005; 52: 3515‒3519. 25)J a c k s o n B D , W l u k a A E , e t a l . : R e v i e w i n g k n e e osteoarthritis ̶ a biomechanical perspective. J Sci Med Sport. 2004; 7: 347‒357. 26)Teichtahl A, Wluka A, et al.: Abnormal biomechanics: a precursor or result of knee osteoarthritis? Br J Sports Med. 2003; 37: 289‒290. 27)Maly MR: Abnormal and cumulative loading in knee osteoarthritis. Curr Opin Rheumatol. 2008; 20: 547‒552. 28)Zhao D, Banks SA, et al.: Correlation between the knee adduction torque and medial contact force for a variety of gait patterns. J Orthop Res. 2007; 25: 789‒797. 29)Mills K, Hunt MA, et al.: Biomechanical deviations during level walking associated with knee osteoarthritis: a systematic review and meta-analysis. Arthritis Care Res. 2013; 65: 1643‒1665. 30)Ferreira AH, Godoy PB, et al.: Investigation of depression, anxiety and quality of life in patients with knee osteoarthritis: a comparative study. Rev Bras Reumatol. 2015; 55: 434‒438. 31)Dobson F, Hinman RS, et al.: OARSI recommended. 209. performance-based tests to assess physical function in people diagnosed with hip or knee osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage. 2013; 21: 1042‒1052. 32)Maly MR, Costigan PA, et al.: Contribution of psychosocial and mechanical variables to physical performance measures in knee osteoarthritis. Phys Ther. 2005; 85: 1318‒1328. 33)Jessep SA, Walsh NE, et al.: Long-term clinical benefits and costs of an integrated rehabilitation programme compared with outpatient physiotherapy for chronic knee pain. Physiotherapy. 2009; 95: 94‒102. 34)木下厳太郎:変形性膝関節症に対する生活指導.別冊整形 外科.2002; 42: 142‒144. 35)Yip YB, Sit JW, et al.: Impact of an Arthritis SelfManagement Programme with an added exercise component for osteoarthritic knee sufferers on improving pain, functional outcomes, and use of health care services: An experimental study. Patient Educ Couns. 2007; 65: 113‒121. 36)Yip YB, Sit JW, et al.: Effects of a self-management arthritis programme with an added exercise component for osteoarthritic knee: randomized controlled trial. J Adv Nurs. 2007; 59: 20‒28. 37)Jenkinson CM, Doherty M, et al.: Effects of dietary intervention and quadriceps strengthening exercises on pain and function in overweight people with knee pain: randomised controlled trial. BMJ. 339: b3170 doi: 10.1136/ bmj.b3170. 2009. 38)Nicklas BJ, Ambrosius W, et al.: Diet-induced weight loss, exercise, and chronic inflammation in older, obese adults: a randomized controlled clinical trial. Am J Clin Nutr. 2004; 79: 544‒551. 39)中嶋耕平,福井尚志:変形性膝関節症に対する足底挿板療 法.リウマチ科.2003; 30: 114‒119. 40)Duivenvoorden T, Brouwer RW, et al.: Braces and orthoses for treating osteoarthritis of the knee. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Mar 16;3:CD004020. doi: 10.1002/14651858.CD004020.pub3. 41)Yates AJ Jr, McGrory BJ, et al.: AAOS appropriate use criteria: optimizing the non-arthroplasty management of osteoarthritis of the knee. J Am Acad Orthop Surg. 2014; 22: 261‒267. 42)Chuang SH, Huang MH, et al.: Effect of knee sleeve on static and dynamic balance in patients with knee osteoarthritis. Kaohsiung J Med Sci. 2007; 23: 405‒411. 43)Alkire MR, Swank ML: Use of inpatient continuous passive motion versus no CPM in computer-assisted total knee arthroplasty. Orthop Nurs. 2010; 29: 36‒40. 44)Bruun-Olsen V, Heiberg KE, et al.: Continuous passive motion as an adjunct to active exercises in early rehabilitation following total knee arthroplasty ‒ a randomized controlled trial. Disabil Rehabil. 2009; 31: 277‒283. 45)McDonald S, Hetrick S, et al.: Pre-operative education for hip or knee replacement. Cochrane Database Syst Rev. CD003526. 2004. 46)Topp R, Swank AM, et al.: The effect of prehabilitation exercise on strength and functioning after total knee arthroplasty. PM R. 2009; 1: 729‒735. 47)Khan F, Ng L, et al.: Multidisciplinary rehabilitation programmes following joint replacement at the hip and knee in chronic arthropathy. The Cochrane Reviews. CD004957, 2008..

(7)

参照

関連したドキュメント

We have investigated rock magnetic properties and remanent mag- netization directions of samples collected from a lava dome of Tomuro Volcano, an andesitic mid-Pleistocene

CT 所見からは Colon  cut  off  sign は膵炎による下行結腸での閉塞性イレウ スの像であることが分かる。Sentinel  loop 

ABSTRACT: [Purpose] In this study, we examined if a relationship exists between clinical assessments of symptoms pain and function and external knee and hip adduction moment

ABSTRACT: To reveal the changes of joint formation due to contracture we studied the histopathological changes using an exterior fixation model of the rat knee joint. Twenty

13) Romanoski, A.J., Folstein, M.F., Nestadt, D., et al.: The epidemiology of psychiatrist- ascertained depression and DSM-III depressive disorders: results from the Eastern

10 Ma tsud a S, e t a l: Comparison of transthoracic esophag ecto my with de fin itiv e chemoradio the rapy as initia l trea tmen t for pa tien ts with e sophagea l squamous cell ca

Part V proves that the functor cat : glCW −→ Flow from the category of glob- ular CW-complexes to that of flows induces an equivalence of categories from the localization glCW[ SH −1

*課題関連的訓練(task-related training)は,目的志向的訓練(task-oriented