日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 26, No. 1, 4-15, 2012
*聖路加看護大学(St.Luke's College of Nursing)
2011年6月18日受付 2012年1月11日採用
原 著
ミャンマーの地域母子保健プログラムによる
女性保健ボランティアの変化
A community-based maternal child health program produces
changes in the women health volunteers in Myanmar
小 黒 道 子(Michiko OGURO)
*抄 録 目 的
ミャンマー農村部において,参加型アプローチで育成された,地域母子保健向上を目指す女性保健ボ ランティアグループ(Women's Health Voluntary Group=WVG)メンバーに生じた変化を明らかにする。 対象と方法 WVGが育成されたミャンマーの2つの農村において,WVG21名,関係者8名,WVGの家族20名,村 民25名の計74名に半構成的面接を行った。得られたデータを日本語に翻訳し,質的帰納的に分析した。 結 果 WVGの変化を分析した結果,10のカテゴリと28のサブカテゴリが抽出された。WVGの変化は,【日常 に活用可能な知識の獲得による行動の変化】を核とする,【知識の獲得から派生した意識の広がり】へと 発展していた。変化の過程においては,【村落社会の機能活用】により変化をより合理的に推し進めてい た。この変化の過程に直接影響を与えたのは,【家族の支援】と【カネの運用】,そして【モノの存在】で あった。これら3点が変化の核となる 行動の変化 の脇を固めることで,はじめてその後の 意識の広 がり へと変化が発展していた。変化自体を支える基盤は,WVGの【参加への動機付け】と【宗教と文化 に基づく思想】であった。変化の副次的効果として,【地域が醸し出す感謝の念】という地域の変化と【基 礎保健職員との連携】という保健専門職の変化が現れていた。 結 論 ミャンマー農村部において女性が保健ボランティアとなり体験した変化は,何もわからない状態から 健康に関する日常に活用可能な知識を経て,その伝達者としての役割を果たすことから生じる,行動の 変化と意識の広がりであった。 キーワード:母子保健,発展途上国,参加型,レイエキスパート(lay expert)
Abstract Purpose
This study describes the changes in the Women's Health Voluntary Group (WVG) members developed by par-ticipatory approach as a direct result of their participation in the WVG program in rural areas of Myanmar.
Method
A total of 74 people, including: 22 WVG members, eight people directly involved in the program, 20 WVG's fam-ily members, and 25 villagers, were interviewed in using a semi-structured interview format at intervention villages of the WVG program. Data was translated in Japanese and analyzed qualitatively and inductively.
Result
The analysis of WVG changes yielded 10 categories and 28 subcategories. WVG members developed from a stage of 'ignorance' to a stage of 'extension of consciousness derived from acquiring knowledge'. There was a core of 'behavior changes triggered by acquiring knowledge that could be used in their daily life' participation in the WVG program. The process of change was instigated by functions that could be applied within the village commu-nity: 'family support', 'handling of money', and 'the presence of things'. These functions had direct effects on the process of change. The changes were attained due to: 'the women's motivation to participate' and 'thought based on their religion and culture'. Furthermore, 'the sense of gratitude projected by the local community' and 'the collabo-ration with the basic health staff', in the form of greater coopecollabo-ration, appeared as secondary benefits of the program. Conclusion
The program resulted in changes in the WVG members themselves. This occurred in terms of an extension of consciousness derived from acquiring knowledge together with behavioral changes caused by the acquiring of knowledge applicable to daily life. These results occurred, as a direct result of participation in the WVG program. Key Words: Maternal-Child Health, developing country, participatory approach, lay expert
Ⅰ.序 論
1.研究の背景
今日,世界における妊産婦死亡は年間38万人を 超え,その犠牲者の多くは発展途上国(以下,途上 国)に生きる女性である(World Health Organization, 2010)。途上国における母子保健向上の方略は,様々 な取り組みが行われている。中でも,その地域に居住 する保健ボランティア(lay expert)を活用したヘルス ケアは,過去30年多く採用されてきた。その成果と しては,特定の地域全体で保健ボランティアを育成し, 当該地域の保健指標の改善を検討したもの(Ahluwalia, Schmid, Kouleitio et al., 2003; Li, Shaoxian, & Kunyi, 2001)や,ボランティアを育成したがその方法論が不 明確なもの(Iyun, 1989; Mogotiane & Uys, 2000)がある。 研究者は,ミャンマー連邦(以下,ミャンマー)マ ンダレー管区メティーラ市の2つの農村において,女 性保健ボランティア育成プログラム(以下,プログラ ム)の開発に携わった(小黒・堀内,2006;土屋・小黒 ・江藤他,2007)。プログラムとは,要件を満たした 女性を参加型アプローチで保健ボランティアとして育 成・組織化することで,地域母子保健の向上を目指す ものである。プログラムは2003年9月から2008年3月 をⅠ期(創設期),Ⅱ期(維持・継続期),Ⅲ期(自立期) に分類し,4年半でWVGが自立した活動を行うことを 目標とした(表1)。プログラム運営者と女性保健ボラ ンティアグループ(Women's Health Voluntary Group, 以下WVG)が対話をすることで明らかになったWVG の学習意欲・準備状態に基づきプログラムが進行した。 その結果,WVGの活動は,当初目的とした母子保健 に限らない,地域保健全般の内容へと拡大していった。 主な活動項目は,1)経済的に受胎調節が行なえない女 表1 女性保健ボランティア育成プログラムの全体像 第Ⅰ期 第Ⅱ期 第Ⅲ期 2003 2004 2005 2006 2007 2008 9 10 ∼ 3 4 5 ∼11 12∼ 8 2 8 12 2∼ 8 ∼ ∼3 気づきの ミーティ ング オリエンテー ション・ミー ティング アドボカ シー・ミ ーティン グ ワーク ショッ プ 地域の健康向 上に関するト レーニング 活動 開始 活動の継続 活動資金創出に向けた活動 活動の継続・発展 第一次 基礎調査 メンバーの選定 プロセス評価 プロセス評価 プロセス評価 成果評価
3.概念枠組み
本研究の概念枠組みは,Rush & Ogborne(1991)の プログラムの論理モデルを参考に作成された(図1)。 プログラムの開発(Input)によりWVGが組織化(Out-put)され,外部者支援を受けたWVGがサービスを住民 に提供した(Process)結果,WVGはプログラムがもた らした経験により変化する(Outcome),と考えた。本 研究は,プログラムのOutcomeのうち特にWVGメン バーの変化に焦点を当てた。
Ⅱ.研 究 方 法
1.研究デザイン 質的記述的研究デザインを用いた。 2.データ収集方法 1 ) 研究対象 対象は,WVG,プログラム関係者(保健職員,村長) 及びWVGの家族が全員,そして雪玉式に抽出された WVGのサービスを受けた住民10名程度で,条件(ミ ャンマー語での会話が不自由でない,重篤な精神疾患 を持たない)を満たすものとした。なお,WVG自身 が気付き得ない変化の具体的内容も補足するために, 性を対象に無利子で資金を貸与する「家族計画基金」 の運営,2)妊婦や乳幼児の母親に対する健診や予防接 種の必要性の説明および受診への付き添い,3)周産期 の異常症状の早期発見・対処,4)負傷者の応急手当て, 5)住民への保健衛生教育,であった。 ミャンマーの妊産婦死亡率は,過去20年で43%減 少しているが,都市部と農村部における母子保健サー ビスの甚大な提供格差が大きな課題である(Depart-ment of Health, 2004)。解決策の一つとして,女性 保健ボランティアの育成が報告されているが(JICA, MOH & JOICFP, 2010),育成の結果,ボランティアに 現れた変容に焦点を当てた研究は見当たらない。 これまで本プログラムの評価は,WVGの主観によ る活動内容の分析にとどまり,育成過程におけるメン バー個人の変化に関する評価は行われてこなかった。 そこで本稿は,ミャンマー農村部における女性保健 ボランティア育成プログラム参加後のボランティアの 変化に焦点を当てて評価することとした。 2.研究目的 ミャンマー農村部で展開された女性保健ボランティ ア育成プログラムのⅢ期におけるグループメンバーの 変化を明らかにする。Input Output Process Outcome Impact 女性保健ボランティア(WV)の育成 訓練されたWVグループ (WVG)の組織化 −ミーティング −トレーニング −ワークショップ (コスト) ニャウンザ村 WVG(13 人) ⇒8 人 チャオプー村 WVG(15 人) ⇒13 人 トレーニング内容 - 人間の体を理解する - 妊娠・出産・産後の状態とケア - 家族計画 - 子どものケア (栄養,乳児が罹りやすい病気: 下痢,呼吸器感染症,髄膜炎) - マラリア - 乳がん - ファースト・エイド - 基本的な薬剤 - バイタルサイン - 個人衛生 - 記録の記載・管理法 外部者による適切な支援 - プログラム第Ⅰ期 立ち上げ 訓練 活動開始 WVGの活動による地域の 母子保健指標の改善 - 妊産婦死亡率の改善 - 妊産婦罹患率の改善 - 乳児罹患率の改善 下痢性疾患 呼吸器感染症 髄膜炎 女性保健ボランティア育成 プログラムの長期的効果 1.家族計画 - 近代避妊法の知識向上及び利用者増加 - 望まない妊娠の減少 2.妊婦健診及び予防接種 - 妊婦健診及び予防接種の受診行動促進 3.周産期の異常症状 - 周産期の異常症状の知識向上 4.負傷時の応急手当 - 負傷時の適切な手当て 5.保健衛生 - 乳幼児の疾病への適切な対処 - 蚊帳の利用者の増加 - マラリア予防法の知識向上 - 水と衛生に関する意識向上 - 自身の変化および周囲との関係の変化 - 変化への影響要因 - 変化による副次的効果 - WVG によるサービスの感想・問題点・要望 WVGの活動による保健環境の向上 女性保健ボランティア育成 プログラムの成果 適切なプログラム運営 女性保健ボランティア育成 プログラムの展開 女性保健ボランティア育成 プログラムの実施 女性保健ボランティア育成 プログラムの開発 WVGの活動 - 家族計画基金の運営 - 妊婦健診や予防接種 受診の促進 - 周産期の異常症状の 早期発見・対処 - 負傷者の応急手当 - 保健衛生教育 子どもの疾病対処法 マラリア予防 水と衛生 住民女性の保健に関する知識・意識 WVGメンバーの変化 住民の満足 図1 研究の概念枠組み
村長や保健職員などのプログラム関係者,WVG家族, そしてWVGを取り巻く住民も対象とした。 2 ) データ収集方法及び内容 データ収集方法はインタビューガイドを用いた半 構成的面接で,WVGの変化には,プログラムによる WVG自身の変化,周囲との関係の変化,副次的な効 果,を問う内容とした。面接はテープ録音され,逐語 録が作成された。データ収集期間は2007年2月から7 月で,全データは,訓練を受けたミャンマー人の研究 協力者がミャンマー語で収集した。訓練は,面接調査 の心得,質問方法等に関する内容で,1週間行われた。 最終的に,模擬面接に合格した6名が実際の調査に関 与した。面接記録は,すべて日本語能力検定2級以上 のミャンマー人翻訳者が日本語に翻訳した。 3 ) データ収集場所 データ収集は,プログラム実施村のニャウンザ村と チャオプー村で行われた。 4 ) データ分析 データは,以下の手順で帰納的に分析を行った;① 逐語録を反復して読み,「プログラムによるWVGの変 化」に関する各語りの内容を記録単位として抽出,② 単位における意味的特性を推論し,文脈的に同義と判 断できるものを文脈的表象として集積,③類似した文 脈的表象を整理後,説明概念を作成,④説明概念をカ テゴリにまとめ,「WVGの変化」を説明できるものと した(Miles & Hurberman, 1994)。データ分析は,研 究者が行い,ミャンマー人の保健NGO関係者および ミャンマー農村部の訪問経験がある母性看護・助産学 研究者にスーパーバイズを受け,分析内容の妥当性と 信頼性を確保するよう努めた。 3.倫理的配慮 倫理的配慮は,無害の原則,自由意志での参加,匿 名性の保持,途中辞退の自由,プライバシーの保護, 個人情報守秘の厳守,成果発表時の個人情報の保護な ど倫理原則に則って行なわれた。また,本研究は,研 究計画書の段階で聖路加看護大学研究科倫理審査委員 会の承認(承認番号:06-072)及びミャンマー保健省の 承認を得て実施した。
Ⅲ.結 果
1.対象の基本的特性 WVG21名,関係者8名,WVGの家族20名,村民25 名の計74名に面接を行った(表2参照)。各対象の総面 接時間は30∼45分であった。対象者1名あたりの面接 回数は1回が50名(67.6%),2回が23名(31.1%),3回 が1名(1.4%)であった。 2.面接結果 WVGの変化を分析した結果,10のカテゴリと28の サブカテゴリが抽出された(表3参照)。以下,カテゴ リ毎に結果を示す。カテゴリは【 】,サブカテゴリは 『 』,生データは「 」で,補足箇所は( )で,対象は 〈 〉で表記した。 カテゴリ1:【日常に活用可能な知識の獲得による行 動の変化】 このカテゴリは,WVGの変化の根源を表わす。 WVGは,まず『健康に関する知識の獲得』という変化 を経験していた。 「健康(について)が変わってきました。前は何も知 らなかったんです。保健センターでサヤマ(注:ミ ャンマー語で女の先生の意,ここではNGO関係者 をさす)達と知り合ってからナイフで切れたときや 鎌で切ったときにどうするかが分かってきました。 前は何も知りませんでした。サヤマ達に教えてもら ってからきれいに生活すること,爪を切ること,ち ゃんと水浴びをして頭も洗うこと(が分かったん) です。きれいにすると健康も良くなります」〈WVG〉 また,WVGは『獲得した知識の伝達者としての役割 変容』を経験し,家族及び周辺住民にその知識を公式 表2 対象者の概要 対 象 者 ニャウンザ村n=34 チャオプー村n=40 n=74計 サービス 提供者 WVG 9 12 21 関係者 村長 旧 1 1 2 新 1 1 2 准医師 ̶ 1 1 助産師 1 1 2 補 助 助産師 1 ̶ 1 WVG家族 夫 2 6 8 実母 5 5 10 実姉 1 ̶ 1 叔母 ̶ 1 1 サービスを 受けた住民 女性 11 10 21 男性 2 2 4あるいは非公式に伝達する役割を担っていた。 「お母さんたちに下痢のことを話しました,他の村 の人たちにも水を汲みながら,牛の面倒を見なが ら話したんです。それでだんだん(村民の)習慣が 変わってきて下痢になる人が少なくなったんです」 〈WVG〉 WVGは,知識の伝達者になったことで『友人・知人 の増加』を経験していた。周辺村の住民や外部者との 接触機会が増した結果であった。 「(WVGになって)今は薬もあって自分が責任を持つ 10軒だけでなく,隣の人でも誰でも(けがをしたら) 薬をつけてあげました。自分の村の人だけじゃなく て隣村の人にもです」〈WVG〉 カテゴリ2:【知識の獲得から派生した意識の広がり】 このカテゴリは,WVGが知識を獲得した結果,内 発的に意識を拡大した変化を表す。すべてのWVGが 『個人特性の変化』を経験していた。 「(妻は)以前は自分が正しいと思ったら絶対に自分 を譲らない,短気で怒りっぽい性格でした。堪え性 がなかったんです。でも今は変わりました。誰が何 を言っても気長になったんです。家の子たちを怒っ たら(前は)すぐ叩こうとしました。小坊主の息子 さえ気にくわないときには殴ったんです。今はそう じゃない,わかるように説明してしつけをするよう になりました」〈WVGの夫〉 WVGは『地域における人間関係の改善』も経験して いた。 「(WVGは)本当に成長したって。この村の若い女性 たちはコミュニケーションがとれるようになったみ たいだし。前は全く(人と)喋れなくて村の学校教 員や保健職員とも話せなかったんだから」〈助産師〉 また,『役割変容がもたらす新たな欲求』を芽生え させていた。WVGは活動から垣間見えた現実に対し, 今後の活動への欲求を萌芽させていた。 「(今後は)子どもを産む間隔を調節する活動(を)や りたいです。本当に子どもが欲しくない人,経済的 に厳しい人,子ども(が)多い人……そんなお母さ ん達にやってあげたい。(中略)なぜなら,自分の周 表3 「WVGの変化」カテゴリ 番号 カテゴリ サブカテゴリ 1 日常に活用可能な知識の獲得による行動の変化 健康に関する知識の獲得獲得した知識の伝達者としての役割変容 友人・知人の増加 2 知識の獲得から派生した意識の広がり 個人特性の変化 地域における人間関係の改善 役割変容がもたらす新たな欲求 個から地域社会への視野の拡大 3 家族の支援 参加の承認 参加はチャンスだ 家庭内労働の肩代わり 活動の代行 4 カネの運用 タダも大事だがタダだけじゃない活動資金創出の重要性 5 モノの存在 何より薬 6 村落社会の機能活用 村のことは村人同士で支えあう村落情報ネットワークを生かす 7 参加への動機付け 知的好奇心の発露病の経験 不退の決意 8 宗教と文化に基づく思想 功徳を積むセーダナー(思いやり)の気持ち 9 地域が醸し出す感謝の念 ご近所ゆえにありがたい周囲からの尊敬の醸成 自分への信頼感 10 基礎保健職員との連携 公的サービスの手伝い 患者を紹介・搬送 相互に発展的な関係性 専門家の透き間を支える
りには子どもの多い親が多いんです。お母さんたち は家族のため仕事をしたいけど子どもがいるからで きない,(仕事をしていても)妊娠したら仕事できな いでしょ。お母さん達にいろいろな(避妊)方法を 教えてますが,本当に(生活に)困っているから仕 事で貰ったお金は避妊に使えないんです。それを見 て(自分の考えが)変わってきました。自分の目の 前で見えてるから,自然に自分も変わってきたんで す。お母さん達もそんな(状況)に疲れているから」 〈WVG〉 さらに,WVGは『個から地域への視野の拡大』を経 験していた。 「(WVGに参加してから)子ども達に学校へ行くよう, そして(親には)学校を続けさせるように勧めました。 学校を続けられなくても教養のある子になるよう, 例えば薬なんかたくさんあるのでそういうものもわ かるように,です。教育をたくさん受けた人達のこ とを見て,いろんな知識が増えるように学校に行く よう話しました。勉強は全部(必要)です」〈WVG〉 カテゴリ3:【家族の支援】 このカテゴリは,WVGへの参加や活動の継続に, 家族の関わりが重要であることを示す。全WVGが, 家族より『参加の承認と理解』を受けていた。 「(WVGの)活動に参加する時に色々な家事で忙しく ても私は ぜひ行ってください と(WVGの妻に)言 いました。少しくらい困ったことがあっても,未来 に役立つことだから頑張りました。昼でも夜でも行 ってください と言ったんです。妻とはそのことで けんかしたこともあります。WVGを辞めるといっ たから,ここまでやったのに今辞めたらこれまでや ったことがもったいない と思って応援したんです。 自分も健康のことで色々苦労したので,他の人のた め一生懸命やりたいです。だからいつも妻も他のメ ンバーも応援しています」〈WVGの夫〉 WVGへの参加を承認するだけではなく『参加はチャ ンスだ』と捉え,積極的に活動に参加できるよう調整 した家族も複数存在した。 「(娘がWVGになって困ったことがあっても)娘な しで自分が誰か(手伝い)を呼んでやります。いな くても(雇えば)できるからです。(賃金がかかると か)そうは思わないです。彼女たちにはそのチャン スがあるからですね。誰でもそのチャンスはもらえ ないから」〈WVGの実母〉 ただし参加の継続には,家族による『家庭内労働の 肩代わり』が関係していた。WVGが既婚者の場合は夫, 独身者の場合は実母の支援が重要であった。 「(活動で)妻がいないときは,自分でご飯を炊いた り育児をしたりします。(逆に自分が)けがをしたら 妻が薬をつけてくれます。夫婦だから互いに助け合 うよ」〈WVGの夫〉 また,実際のサービスの提供において,WVGと家 族の間での『活動の代行』も持続的なサービスの提供 に関係していることが表出された。 「(WVGの娘が)いないときは(代わりにけが人に薬 を)つけます。3∼4人くらいです」〈WVGの実母〉 カテゴリ4:【カネの運用】 このカテゴリは,WVGの活動にWVG及び住民の経 済状況が関係することを表す。住民にとってサービス は『タダも大事だがタダだけじゃない』という思いが 示された。 「(WVGは)妊娠した人を手伝っています。無料でケ アしていて,お金もかからないです。(妊娠中の)予 防注射は以前から知ってますが,(WVGが)詳しく 説明してくれたからもっとわかるようになりました。 クリニックはお金があれば治療してくれるけど,お 金がない場合は治療してくれません。(でも)無料じ ゃなくてもWVGに診てもらおうと思います」〈住民 女性〉 また,WVGが活動を継続するために『活動資金創出 の重要性』が認識されていることが示された。 「WVGの資金を増やしたくて,どうやってお金を稼 げばいいかと考えています。どうしてかというと, お金があれば薬を買って村民を助けることもできて, 健康に関して不安なことが少なくなるから。資金を 増やせばもっともっと村が発展することに関われる から……それだけです」〈WVG〉 カテゴリ5:【モノの存在】 このカテゴリは,WVGの変化に不可欠であった物 品の存在を示す。WVGが負傷者の手当てに必要と認 識し,サービスの裨益者である住民が欲する『何より 薬』というモノを保持することが活動の継続を左右し ていた。 「前に 薬がなければ,私たちのグループ(WVG)は 何もできないだろうに と言われました。薬がない ときは(住民は)あまり来ない,来ても薬がもらえ ないから…」〈WVG〉 カテゴリ6:【村落社会の機能活用】 このカテゴリは,村社会に特徴的なネットワーク機
能がWVGの変化に影響を与えたことを表す。村落で は,外部者や専門家の指導や助言より『村のことは村 人同士で支えあう』方が,円滑に伝わり合理的である 一面が示された。 「私が言うよりも村民同士で言う方がもっと信じる と思います。例えば,避妊について注射やピル(等 の方法を)をどんなに説明しても,怖がってやりた がらなかった。村民同士が言うと信じられると思っ たかもしれません。以前より(避妊するように)な ってきた」〈准医師〉 また,WVGが,村落社会における既存の情報伝達 経路である『村落情報ネットワークを生かす』ことで, 活動を推進していることが示された。 「(WVGからの情報を)村だから家1軒に知らせると 10軒位に広がります。私も近所といつも行き来し ているから情報を流しました。流せないことはない です。(健康のことを皆に知らせるのは)当然のこと だから」〈村民女性〉 カテゴリ7:【参加への動機付け】 このカテゴリは,WVGが活動の継続にあたり自身 の動機付けが影響を与えたことを表す。WVGへの参 加には健康に関する知識を得たいと思う『知的好奇心 の発露』が影響していた。 「(WVGに参加する時)家族に活動の目的を話しまし た。しばらく収入が少なくなっても健康に関する知 識をもらえるので行かせてください,講習は無料で お金はかからない。家の経費をちょっと節約してく れませんか と言いました」〈WVG〉 家族の病気や死の経験が,参加の誘因となったメン バーも複数存在した。 「お医者さんに診てもらう意識や子どもに予防注射 をする事や子どもにどう食べさせるのか知識が無 かったから…女の子は5歳に,男の子は9ヶ月で死 んだんです。女の子は4歳ごろまで元気でした。始 めの頃は痩せてきて遊ばなくなって,足やお腹や顔 がむくんで,結局死んでしまったんです。(男の子 は)9ヶ月なのに体が大きくならない。そのうち痙 攣をおこすようになりました。それを病院に行って 診てもらった方がよいとは思わなかった。村の人 がキンマの葉っぱと黒砂糖を沸かして飲ますと(痙 攣に)良いと言ったのでそれだけを飲ませてたんで す。子どもたちが死んだのは栄養が足りないからだ と思います。私はその2人に予防注射もさせなかっ たんです。自分に知識が無いためその2人の子を死 なせてしまった。今なら(助ける方法が)分かります」 〈WVG〉 また,参加に際してWVGは様々な困難に直面した。 しかし,解決策を模索,あるいは現状に耐えながら活 動を継続する『不退の決意』が示されていた。 「(WVGに参加すると)村の人には私が何も知らな いくせに先生になりたがっている,と思われまし た。家ではお義母さんから家事を怠けて避けたい から(参加している)と思われました。だから講習 のある日は早めに起きて朝食も昼食も作った,家 族の分だけでなく(自宅で雇う)労働者の分も作っ ておいたし,夕食は講習が終わってから作りました。 (それに)日本の先生をお義母さんに紹介して,村 長さん,補助助産師さんにも(WVGの説明を)お願 いしてからだんだん理解してくれるようになりまし た。自分も(WVGの活動が)面白くてやる気もある し,健康についての知識を得られて,家族も私のこ とをだんだんわかってくれるようになったのです」 (WVG) カテゴリ8:【宗教と文化に基づく思想】 このカテゴリは,WVGの変化に宗教および文化 的な思想が影響を及ぼしていることを表す。『功徳を 積む』ことでよい来世が送れるといった仏教思想や, 『セーダナー』といったミャンマー人の共感性を示す 文化的な思想が基盤となり,WVGの変化に影響を与 えていた。 「他人を守ると言うことは自分のためにも功徳にな るので真剣な気持ちで(WVGの活動を)やってくだ さい,と言いました」〈WVGの実母,60代〉 「セーダナー(注:ミャンマー語で思いやり,他者 に対して自分からしてあげたい気持ちの意)の気持 ちは一番大事ですね。本当の気持ちでやれば現世に も良いし来世にも良いと信じています」〈WVGの実 母〉 カテゴリ9:【地域が醸し出す尊敬の念】 このカテゴリは,地域によるWVGの活動への好意 的な評価がWVGに更なる肯定的な変化をもたらすこ とを表す。対象者は,多くの住民の傍らでサービスが 提供されることに,『ご近所ゆえにありがたい』という 思いを表出していた。 「前は何か起こったとき,どこへ行って治療するか ほんとに悩みました。今簡単な治療ならばWVGに 任せているから安心です」〈住民女性〉 また,周辺村を含む周囲からのWVGに対する『尊
敬の醸成』により,WVGが活動を通して『自分への信 頼感』を得たことが表出されていた。 「自分の村は(WVGができる前に比べ)当然よくな りました,WVGの評判は隣村まで広がったんです。 トレーニングを受けられることとWVGがいること が羨ましいって,(村名は)チャオプー(訳注:石の 蕾)じゃなくて チャオピン(訳注:石の花)村だと 尊敬したように言われたんです」〈WVG〉 「聞かれたとき皆に答えたり健康のことを教えたり しました。(今では)子どもから大人まで頼られたり 愛されています。それでたまにちょっと威張っても よいかなと自分で思います」〈WVG〉 カテゴリ10:【基礎保健職員との連携】 このカテゴリは,WVGが行動の変化に際し,基礎 保健職員の准医師,助産師と協調性を持って活動を 遂行していることを表す。『公的サービスの手伝い』が WVGの活動として示された。 「必要なときに(WVGに)手伝いをお願いしました。 ポリオとかはしかの予防接種のときには(WVG)全 員に来てもらいました。犬の咬傷やけがを縫う時な ど,自分ひとりではできないときに呼ぶと来てくれ ます」〈助産師〉 また,地域で健康問題が発生した場合,WVGが准 医師や助産師の指示の下に『患者の紹介・搬送』が行 っていることも示された。 「私が出産した時もWVGが世話してくれたよ。隣の 家の牛車で…車を借りることもできなかったし,夜 11時ぐらいですから。(WVGの1人が)来て診てくれ た。彼女がわかることで(助けてくれる)…保健セ ンターに行こうということになって行くと助産師さ んは病院に行くように言うので向かったら,途中で 産まれちゃったの。牛車がガタガタしたからかもし れない。(WVGと牛車の運転手)2人が懐中電灯をつ けてくれた。WVGが 恥ずかしいと思わないで,大 丈夫だから って。産んで産んで と言って,彼女 が出してくれた。もともと(赤ちゃんは)出産前に 死んでいたもの。入院もしなくて,病院にも行かな くて済んだ,幸運にも。(自分も)元気だった」〈住民 女性〉 WVGが役割変容を遂げたことで,保健職員もWVG への教授法を工夫するようになり,WVGと保健職員 は『相互に発展的な関係性』へと変化していた。 「(WVGは)以前は私達が教えることを聞いて帰った だけです。今は,彼らから色々聞かれたり相談され たりするようになりましたから,私達もより積極的 に(関わるように)なりました。WVGは(聞いたこ とを)また(住民に)伝えて説明するからしっかり聞 いたり聞かれたりでもっと(お互いの関係も)親し くなりました。自分達も説明するときわかりやすい, 覚えやすい方法を考えて教えています。彼らはまた (住民に)説明するから…(よくわかるよう)配慮し なければなりません」〈准医師〉 中には『専門家の透き間を支える』というWVGの存 在意義も示されていた。 「私は色々(な村を)回っているから…(1つの村に月 に)1回か2回しか行けなくて,健康状態についてい つも不安になってたけれど,今はWVGがいるから 安心しています」〈准医師〉 以上のカテゴリの関係性を図2に示す。各カテゴリ の位置付けは,【日常に活用可能な知識の獲得による 行動の変化】を核とする,【知識の獲得から派生した意 識の広がり】へと発展していた。変化の過程において は,【村落社会の機能活用】により変化をより合理的に 推し進めていた。この変化の過程に直接影響を与えた のは,【家族の支援】と【カネの運用】,そして【モノの 存在】であった。これら3点が変化の核となる 行動の 変化 の脇を固めることで,はじめてその後の 意識 の広がり へと変化が発展していた。変化自体を支え る基盤は,WVGの【参加への動機付け】と【宗教と文 化に基づく思想】であった。変化の副次的効果として, 【地域が醸し出す感謝の念】という地域の変化と【基礎 参加への動機付け 宗教と文化に基づく思想 家族の支援 モノの 存在 カネの 運用 地域が 醸し出す 感謝の念 基礎保健 職員との 連携 村落社会 の 機能活用 図2 WVGの変化(カテゴリー関連図)
保健職員との連携】という保健専門職の変化が現れて いた。
Ⅳ.考 察
1.WVGの変化の核心—知識の獲得から意識の広が りへ— ミャンマー農村部において女性が保健ボランティア となり体験した変化は,何もわからない状態から健康 に関する知識を経て,その伝達者としての役割を果 たすことから生じる,行動の変化と意識の広がりで あった。まず,すべてのWVGが自身の変化として真 っ先に「知識を得た」と語り,それまで知らなかった ことを知ることができたことが変化の根源であった。 World Bank(1999)は,知識と情報が開発において果 たす役割に焦点を当てた際,知識は 改革の力 を有し, 人々が自らの人生をコントロールする力を与えるもの, と述べる。途上国農村部のような資源が極端に限られ た場においては,先進国では当たり前に享受できる基 本的な知識を得ること自体が改革の力になり得る。ま た,久保田(2002)は,自分たちの置かれている状況 や問題を理解するには,自分とは違う他者とのコミュ ニケーション,つまり,話し合うことで互いに世界観, 価値観,態度,信念などを共有することをねらいとし た共同行為が不可欠である,と指摘する。WVGメン バーらは,プログラム参加以前の他者との交流が,家 族を含め乏しく,苦情や怒りを呈すといった機会に限 定されていた。しかし「村人の健康を支援する」とい う目標をメンバー間,プログラム関係者,そして外部 者らと分かち合う機会を得たことが「知識の獲得」に 至り,その知識を活用し住民と共有するという経験 が「意識の広がり」に繋がったと考えられる。これら の変化は,参加型アプローチにより当事者の気づきを 重視した育成過程を経た結果,醸成されたと言えよう。 小國(2004)は,戦後日本農村における生活改良普及 員のアプローチ例を検討するなかで,住民組織の機能 は参加者にとって学習と実践が結びついた時に発揮さ れ,グループ活動が,まずは参加メンバー各個人の変 革を目指していることを意味する,と述べる。この点 に依拠すれば,WVGの獲得した知識が,日常に活用 可能な内容であればこそ,その伝達により住民と相互 学習的な交流が生まれ,人間関係も改善したと考えら れる。 2.WVGの変化への影響要因 1 ) WVGの変化の直接要因 WVGの変化への直接要因は,【家族の支援】,【カ ネの運用】,そして【モノの存在】であった。多くの WVGは,プログラムへの参加の決定から活動を開始 ・継続する過程において家族から好意的な影響を受け ていた。多くの家族は参加を肯定的に捉え,代わりの 労働者を雇ったり,家族自身が家畜の世話を肩代わり したり,家事を担当したりしていた。だが,WVGへ の参加はボランティアであり,プログラム参加への機 会費用を家族が補填することを求められた結果とも考 えられる。本研究で,家族の反対により活動を中止し たWVGはおらず,むしろ反対にあっても活動を継続 する道を自ら模索し,家族への説得を試みていた。 2 ) WVGの変化の機能要因 WVGの変化の機能要因は,【村落社会の機能活用】 であった。村人がWVGを「村民同士」,「田舎者同士」 と語るように,WVGもその関係性を生かし土着の情 報伝達経路を活用して合理的に活動を行なっているこ とが見出された。野田(2000)は,住民は同じような 立場の人の話を最も良く理解するので,いったん住 民の誰かが普及を始めると伝わるのが速い,と述べる。 噂社会と評されるミャンマーをはじめ,通信手段が整 備されていない多くの途上国でも,コミュニティで展 開されるプログラムに当該地域を熟知するlay expert の活用は,大きな利点があることが示唆される。 3 ) WVGの変化の基盤要因 WVGの変化を支える基盤要因は,【参加への動機付 け】と【宗教と文化に基づく思想】であった。 まず,【参加への動機付け】は,WVG自身の知りたい, 知識を得たいという湧き上がる欲求や,家族の健康に 関する経験から導かれた動機付けに基づき,プログラ ムへの参加や継続が維持されていることが見出された。 滝澤(1998)は,知ること自体が楽しいとか,技能が 上達することがうれしいというような行動を内発的 動機付けと言い,外的報酬に依存しない行動と述べる。 WVGは,プログラムへの参加が内発的な動機の場合 と外発的な動機付けの場合の両方が認められた。いず れにせよ,成長への欲求にもとづく動機付けが未知な る世界への参加を後押しし,活動継続に際して直面す る外的圧力へ対抗する基盤となっていた。 次に【宗教と文化に基づく思想】については,仏教 思想とミャンマーの道徳思想が,WVGの変化の基盤 となっていることが見出された。本研究の対象者は全員,南方上座部仏教を信仰していたが,これが対象者 の日常生活や行動様式に大きな影響を与えていた。仏 教における功徳思想には,自分の善行に加え,他人の 善行為を見て我がことのようにそれを喜ぶこと,そし て自分の善行を他人に見せて相手が見て喜ぶこと,す ると善行を行った自分も相手が喜んだ分再び功徳を得 ること,これらすべてが含まれる(藤本, 2006)。つまり, WVGが地域の役に立ちたいと願うこと,その思いを 家族が支えること,地域のためにWVGが活動するこ と,その活動を住民が喜ぶこと,これらのすべてが功 徳を積むことになる。地域全体がプログラムを受け入 れやすい思想基盤を持っていたと考えられよう。 また,ミャンマー語の「セーダナー」とは,パーリ 語の「cetanaa(チェータナー)」の原義「心によって」, 「心とともに」あるいは「心を以って」から派生するさ まざまな意味を有するが,「善意」,「善根」,「奉仕精神」 など人間の精神性とそれに基づく善き行動を表する言 葉である(大野,2000)。政治経済の問題により生活苦 や不自由があっても,信仰などの精神的価値を重視す ることで現状に満足する傾向の強いミャンマー人の国 民性を象徴する言葉ともいえる。だが,ボランティア ・ベースの活動が社会全体で奨励され,人々も積極的 に参加するミャンマーの素地を表しており,ミャン マーでのlay expert活用の意義を示していると考えら れる。 3.WVGの変化による副次的効果 WVGの変化による副次的効果として,【地域が醸し 出す感謝の念】および【基礎保健職員との連携】が見出 された。 【地域が醸し出す感謝の念】は,コミュニティの WVGによる活動への感謝の念がさらにWVGの変化 を促し,コミュニティとWVGが相互作用を通して 共にエンパワメントする関係性を窺わせた。WHO Regional Office for Europe(2006)は,健康向上へのエ ンパワメントの有効性の根拠を検討する中で,コミ ュニティ感覚,あるいは一体感や連帯感が近隣やコ ミュニティ活動への関与に特に強固な予測因子であ ると述べる。一方,World Health Organization(2007) は,Community Health Worker(以下CHW)の実行可 能性と有効性への疑問に立ち返る中で,死亡率や罹患 率をCHWによる一連のインパクトとする適切性が通 例議論されず,特定の定義を必要とすることに気づく 重要性を指摘する。プログラム策定者や管理者にとっ てインパクトの有効性は重大な基準であるが故に,そ の重要性のみで依拠するのではなく,受け手の満足や コミュニティの動員などよりも比較的短期間,例え ば1∼5年の期間で定量化しやすいという理由でイン パクトが位置付いている,とも述べる(World Health Organization, 2007)。以上の点からも,長期的なコミ ュニティの保健環境向上にlay expert活用の利点があ り,その有効性を今後も追跡することが求められるだ ろう。 次に【基礎保健職員との連携】については,WVGが 准医師や助産師と良好な関係を構築し,活動を行って いることが見出された。Gilson, Walt, Heggenhougen, et al.(1989)は,3つの国家規模のCHWプログラムを 評価する中で,CHWがコミュニティでの変化の仲介 者として配置されていたにも関わらず,実際は補助職 員のような公的保健サービスの拡張として機能して いたことを明らかにした。この結果はWVGも同様で, 当初は妊婦健診や予防接種の声かけ係の役割を期待し て組織化されたが,薬剤の配布や出産の手伝いなど 意図していなかった活動により,『専門家の透き間を 支える』存在となることが求められていた。公的な基 礎保健サービスが十分に供給されるようになるまでは, 保健職員,コミュニティ,WVGが各自の役割と機能 をいかに分担するか検討していくことが現実的に必要 であろう。 4.研究デザインについて 本研究は,当事者の気付きの過程を重視する参加型 アプローチによるメンバーの変化を明らかにするにあ たり,デザインを質的記述的研究とした。結果から は,矛盾のない図2のカテゴリ関連図を示すことがで き,研究デザインおよび結果の信頼性は確保できたと 考える。
Ⅴ.研究の限界と今後の課題
本研究は,ミャンマーの2つの農村で展開された女 性保健ボランティア育成プログラムの評価であり,結 果を途上国一般の農村部に適応するには限界がある。 またミャンマーにおいて,参加型アプローチで育成さ れた保健ボランティアが地域にもたらす長期的な効果 はこれまで明らかにされておらず,今後も事後評価 を重ねプログラムの有効性を検討していく必要がある。 さらに,女性保健ボランティアの変化を関係者による面接から明らかにしたが,実際に変化が生じていたか どうかは,参加観察などの異なる評価方法を併用し, 結果の信頼性を確保する必要がある。
Ⅵ.結 論
ミャンマー農村部における母子保健向上をめざす女 性保健ボランティア育成プログラムによる,ボランテ ィアの変化を明らかにした。その結果,プログラムは WVGに,何もわからない状態からWVGプログラムへ の参加を契機とした,【日常に活用可能な知識の獲得 による行動の変化】を核とする,【知識の獲得から派生 した意識の広がり】という変化をもたらしていた。 謝 辞 本研究にご協力くださいました対象村の皆さまに心 より御礼申し上げます。また,本研究をご指導下さっ た聖路加看護大学の堀内成子教授に感謝致します。 なお,本研究は聖路加看護大学大学院看護学研究科 に提出した博士論文の一部を加筆,修正したものであ る。また,本研究は,独立行政法人日本学術振興会特 別研究員研究費,および国際医療協力研究委託費(17 公6)の一部助成を受けて実施した研究である。 文 献Ahluwalia, I. B., Schmidb, T., Kouletioc, M., & Kanendac, O. (2003). An evaluation of a community-based approach to safe motherhood in northwestern Tanzania.
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