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色字共感覚:色と文字と学習の結びつき

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Academic year: 2021

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DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.39.19

色字共感覚:

色と文字と学習の結びつき

浅 野 倫 子

立教大学

Grapheme-color synesthesia:

Colors, graphemes, and learning

Michiko Asano

Rikkyo University

Grapheme-color synesthesia is a condition in which a visual letter or character (grapheme) induces the experi-ence of a specific color. Whereas synesthetic experiexperi-ences have a percept-like nature in some respects, they are also strongly related to higher-order cognitive processing, such as that of language. Recent advances in synesthesia re-search have further revealed that grapheme-color synesthesia and grapheme learning are profoundly interconnected. This article introduces two recent studies in this area. One of the studies shows that acquiring new information on graphemes slightly but significantly affects the synesthetic colors of the graphemes, suggesting that synesthetic col-ors can be modulated to reflect the synesthete’s latest knowledge about graphemes. The other study, which exam-ined the transfer of synesthetic colors associated with familiar graphemes to novel graphemes, suggests that synes-thetic colors for graphemes may function as a grapheme acquisition aid. This article further discusses possible mechanisms underlying grapheme-color synesthesia.

Keywords: grapheme-color synesthesia, synesthesia, grapheme learning, language processing, perceptual processing

は じ め に 「新」という字に明るいオレンジ色の印象を覚えるな どのように,文字に対して,その物理的な色とは独立 に,特定の色の印象を感じることを色字共感覚という。 これは少数の人(色字共感覚者と呼ばれる)のみが持つ 認知処理特性である。後述の通り,文字の色(共感覚 色)は自動的かつ意識に上る形で経験されるなど,知覚 処理と類似した側面を持つことが知られている。しかし その一方で,近年の研究により,色字共感覚は脳内の感 覚・知覚処理の単なる「混線」ではなく,言語などの高 次認知処理が密接に関わる複雑な現象であることも明ら かにされてきた。また,色字共感覚が文字の学習の補助 として働きうる可能性も指摘されている。本稿では,色 字共感覚と言語処理や文字学習との関連についての知見 を中心に紹介しつつ,共感覚色とはいったいどのような 性質のものであるのかについて考える。そしてさらに, 色字共感覚の「高次」処理に思える側面と,知覚処理に 似た「低次」処理に思える側面の関係について議論する。 共感覚および色字共感覚とは 色字共感覚は,共感覚,すなわち,ある感覚や認知的 処理を引き起こすような情報(刺激)の入力により,一 般的に喚起される感覚や認知処理に加えて他の感覚や認 知処理も喚起されるという現象の一種である(浅野・横 澤,2020)。たとえば無彩色で書かれた文字を目にした とき,一般的には文字の視覚情報が知覚的に処理され, さらに,文字の形態,音韻,意味などの認知処理が引き 起こされるが,色字共感覚の場合は,そのような一般的 に引き起こされる認知処理に加えて,物理的には入力さ れていない色の認知処理も引き起こされる。共感覚に は,音に色を感じるタイプや(色聴共感覚),数字に特 Copyright 2020. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Corresponding address: Department of Psychology, College

of Contemporary Psychology, Rikkyo University, 1–2–26 Kitano, Niiza, Saitama 352–8558, Japan. E-mail: asano@ rikkyo.ac.jp

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定の空間配置があるように感じるタイプ(数型共感覚) など,実にさまざまなタイプがあり(Ward, 2013),文字 に色の印象を覚える色字共感覚は,その一種である。 なお,共感覚を引き起こす刺激のことを「誘因刺激 (inducer)」(色字共感覚の場合は文字に相当),共感覚と して引き起こされる感覚や認知処理のことを「励起感覚 (concurrent)」(色字共感覚の場合は色に相当)という。 実のところ,共感覚はいまだに全体像が明らかではな い現象であり,類似あるいは関連していると考えられる 現象や認知処理も多々存在するため,研究者たちもどこ までが共感覚で,どこからが共感覚ではないのかと悩み ながら研究をしている(Simner, 2012; Marks, 2017; 浅野・ 横澤,2020)。それゆえに共感覚を定義しようとすると, 上述のようなかなり大まかなものになってしまうが,近 年の共感覚の科学的研究の文脈では,この定義に加え て,(1) 保有率の低さ,(2) 日常的な認知活動が誘因刺 激となる,(3) 個人特異性, (4) 時間的安定性,(5) 自動 性,(6) 意識的経験の生起,といった基本的特徴を満た しているものを共感覚として扱うことが一般的である (浅野・横澤,2020)。(1) の保有率の低さについては, Simnerらがイギリスで行った大規模調査の結果からは, 一般人口中の色字共感覚者の割合は1.4%, 種類を問わず 何らかの共感覚を持つ人の割合は4.4%と推定されてい る(Simner et al., 2006)。なお,共感覚は物心ついたころ から存在すると考えられ,また,遺伝の影響があると考 えられている(Ward, 2013)。(2) は,共感覚の誘因刺激 は,文字を読む,音楽を聴く,物を触るといった,ごく 日常的な認知活動であるということである。共感覚は薬 物の使用や病気など特殊な状況下で生じるものではな く,また,幻覚とは異なる。(3) の個人特異性とは,人 によって誘因刺激と励起感覚の組み合わせが異なること を指す。たとえば,「新」という漢字の共感覚色は,色 字共感覚者Aにとっては明るいオレンジ色だったとして も,色字共感覚者Bにとってはやや濃い緑色だったりす るなど,異なる色字共感覚者間では,基本的には文字の 共感覚色は一致しない。(4) の時間的安定性は,その共 感覚者の中では誘因刺激と励起感覚の組み合わせは基本 的に不変であり,時間が経過しても高い安定性を持つこ とを指す。たとえば色字共感覚者Aに「新」の文字の共 感覚色を尋ねると,基本的には,いつ尋ねても一貫して 「明るいオレンジ色」と答えるということである。共感 覚色は多くの場合,「オレンジ系の色」のような大まか なものよりは,「朱色に近い,明るい輝きを放つような オレンジ色」といったような限局的な色であることが多 いが,そのような細かい色味のレベルまで時間的に安定 していることが多い。(5) の自動性については次項で詳 しく取り上げるが,共感覚の内容が,意図的に処理しよ うとしなくても(例えば文字にあえて色を結びつけよう としなくても)自動的に処理されるということである。 (6) は,共感覚は意識的な経験を伴う(例えば,色字共 感覚者が文字を見たときは,その文字の共感覚色の印象 が意識に上る形で経験される)ということである。 なお,一見無関係な情報間に恣意的ではない結びつき が見いだされるなどの点で共感覚と類似した現象であっ ても,大多数の人において見られたり,個人差が少な かったりするなど,共感覚の基本的特徴をあまりよく満 たしていないもの(例:「ブーバ・キキ効果」などの音 象徴を含む,感覚間協応)については,本稿では共感覚 に含めていない(浅野,2018; Deroy & Spence, 2013, ただ し異なる立場として,Martino & Marks, 2001)。

色字共感覚の知覚処理に似た側面 色字共感覚者(以下,「共感覚者」)には文字の共感覚 色はどのように「見え」て,もしくは「感じられ」ている のだろうか。実は共感覚者によってさまざまである。ご く大まかな分類として,共感覚色が紙に書かれた文字の 位置やその近傍など外界に定位される投射型(projector) と,頭の中だけに色の印象が生起するように感じる連想 型(associator)の2タイプの共感覚者がいることが明ら かになっている(Dixon, Smilek, & Merikle, 2004; Skelton, Ludwig, & Mohr, 2009; ただし,このようなタイプ分類の 妥 当 性 や 意 味 に 関 す る 議 論 と し て Anderson & Ward, 2015)。投射型の場合は一般的に,「共感覚色を見ている ときは,紙の上にカラーインクで印刷された文字を見て いるのに近い印象を受ける」,「紙に書かれた文字の上に 色のフィルターが浮かんでいる」というような内観報告 がなされるが,共感覚者は文字の物理色自体は非共感覚 者と同様に知覚し,共感覚色が物理的には存在しないこ とも理解しており,また,文字の共感覚色と物理色が混 色することもない。連想型の場合は,文字を見る際に, 「紙の上の文字の付近には色を感じないが,頭の中に色 付きで文字が浮かぶ」,「頭の中に色のモヤや塊が広がる ように感じる」,「心の目(mind’s eye)で文字を見ると 色がついている」など,共感覚色が外界ではなく自分の 内面に定位されるという内省報告がなされることが一般 的である。 投射型と連想型のどちらのタイプの共感覚者であって も,共感覚色は自動的(非意図的)かつ意識に上る形で 経験されることが明らかにされており(Dixon et al., 2004; Ward, 2013),そのような意味で,共感覚色の処理

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は物理色の知覚処理に似ている。共感覚色の処理の自動 性を確かめる課題の一つに共感覚ストループ課題(Mat-tingley, Rich, Yelland, & Bradshaw, 2001; Dixon et al., 2004) がある。これは,文字や数字が色付きで画面に提示さ れ,参加者(共感覚者)はその物理色をできるだけ早く 答えるよう求められるという課題である。このとき,そ の共感覚者の共感覚色とは不一致の物理色で文字が提示 される条件(例:「A」という文字の共感覚色が赤い共感 覚者に対し,物理的に青い「A」が提示される)では, 一致した物理色で提示される条件(例: 物理的に赤い 「A」が提示される)においてよりも,反応時間が長く なる。共感覚色はこの課題において課題非関連情報であ るにもかかわらず,物理色の回答に干渉することから, 共感覚色の処理は自動的,非意図的であると考えられ る。同様の結論は,共感覚プライミング課題(Matting-ley et al., 2001)からも導き出されている。この課題では, 無彩色の文字が先行刺激,色パッチが後続刺激として提 示され,参加者(共感覚者)は色パッチの色が何である かをできるだけ早く答えるよう求められる。このとき, 先行刺激である文字は物理的には無彩色であるにもかか わらず,その文字の共感覚色と後続の色パッチの色が一 致していると不一致の場合よりも反応時間が短くなると いうプライミング効果がみられる。 ただし,共感覚色の情報が脳内で活性化されるために は,それに先立ち文字が意識に上る形で認識される必要 があることも明らかにされている。たとえば上述のMat-tingley et al. (2001) の共感覚プライミングの研究では, 先行刺激の文字の提示時間が500 msと長くて文字の認 識が可能な場合はプライミング効果が生じるが,28 ms や56 msと短く文字の認識が困難な場合は効果が消失す ることを報告している。すなわち,「文字が何であるか が認識できないのに共感覚色の印象だけ感じる」という ことはない。同様に,「多数の黒色の『5』という数字(妨 害刺激)が散らばった画面の中から黒色の『2』(標的刺 激)を探す」というような文字を刺激とした視覚探索課 題においても,標的刺激が妨害刺激とは異なる物理色で 提示された場合とは異なり,標的刺激はポップアウトし ない。個々の刺激に注意が向けられ,文字認識がなされ てからでないと共感覚色の印象が生じないためである (Ward, Jonas, Dienes, & Seth, 2010)。

色字共感覚と高次認知処理の関連 前項で述べた通り,色字共感覚は知覚処理に似た側面 を持つが,その一方で,文字の意味概念など高次の認知 処理が深く関わる現象であることが様々な研究から明ら かにされている。 まず,共感覚色は文字の知覚的な形態情報などのボト ムアップ情報ではなく,意味概念といったトップダウン 情報に基づいて活性化されることが明らかにされている (Ramachandran & Hubbard, 2001; Palmeri, Blake, Marois,

Flanery, & Whetsell, 2002; Dixon, Smilek, Duffy, Zanna, & Merikle, 2006)。たとえばFigure 1の左側にある文字列は “THE CAT”と読めるが,この“H”と“A”に相当する 部分は実は物理的には同じ図形である。したがって,ボ トムアップ情報に基づけばこの“H”と“A”には同じ 共感覚色が生じるはずであるが,実際にこのような刺激 を共感覚者に見せると,トップダウン情報に基づき,そ れぞれ“H”と“A”の共感覚色が感じられると報告さ れ る(Ramachandran & Hubbard, 2001)。 ま た,Figure 1 の右側のような文字のNavon図形(局所情報と大域情報 で表される情報が互いに異なる図形)を見せると,大域 情報に注意を向けるよう指示した場合は大域情報で示さ れる文字(この例では「5」)の,局所情報に注意を向け るよう指示した場合は局所情報で示される文字(この例 で は「3」) の 共 感 覚 色 が 感 じ ら れ る と 報 告 さ れ る (Ramachandran & Hubbard, 2001)。いずれも,視覚的形 態のボトムアップ情報ではなく「何の文字として認識す るか」というトップダウン情報によって共感覚色が活性 化されることを示唆している。

さらには,共感覚色の活性化には文字の意味概念情 報の処理だけで十分であり,知覚情報入力すら不要で あることを示した研究もある。Dixon, Smilek, Cudahy, & Merikle (2000) は,“Five plus two equals yellow” と題した 論文の中でこのことを報告した。この論文の実験課題は 「5+2」のような簡単な数式を先行刺激,色パッチを後 続刺激とし,色パッチの物理色をできるだけ早く答えさ せるというプライミング課題であった。実験の結果,先 行刺激の数式の答えとなる数字(この例では「7」)の共 感覚色と後続の色パッチの物理色が一致していると回答 が促進され,不一致だと遅延することが示された。数式 の答えとなる数字は物理的には提示されていなかったに Figure 1. Figures demonstrating top-down influences

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もかかわらず,脳内で数式が解かれ,その数字の意味概 念情報が活性化されたことにより,プライミング効果が 生起したということである。 文字と共感覚色の対応関係,すなわちどの文字にどの 共感覚色が結びつけられるかにおいても,高次認知処 理,特に言語処理が深く関与していることが明らかに なっている(Simner, 2007; 浅野,2018; 浅野・横澤,2020)。 通常の(共感覚とは無関係な)文字認知では,文字に付 随する音韻情報(読み),形態情報(綴り),意味概念情 報,使用頻度などの情報が活性化されるが,色字共感覚 において,これらの言語に関連した情報が文字の共感覚 色の規定因として働くことが明らかにされているという ことである。具体的には,同じ音韻情報を持つ文字 (例:「あ」と「ア」,「視」と「詩」)や形態が似た文字, 同じ概念を表す文字(例:「7」と「七」)には類似した 共感覚色が結びつけられやすく(Asano & Yokosawa, 2011, 2012, 2013; Watson, Akins, & Enns, 2012),文字の意味内容 が共感覚色に影響することがあり(例:「赤」という文 字には赤色,「雪」には白色の共感覚色が結びつけられ やすい),また,使用頻度が高い文字ほど彩度の高い共 感覚色が結びつけられやすい(Beeli, Esslen, & Jäncke, 2007)。仮名の五十音順や英字アルファベットの ABC 順など,文字系列内での順序も共感覚色に影響する (Watson et al., 2012; Asano & Yokosawa, 2013)。これらのよ うな言語処理に関する要因のほかに,幼少期に遊んだ色 つきの文字のおもちゃの色が共感覚色に影響するなど, 記憶の影響があることも指摘されている(Witthoft & Winawer, 2006, 2013)。

脳内において文字処理に深く関わる領域(側頭葉のvi-sual word form area, VWFA)と色処理に深く関わる領域 (側頭葉のV4野)が隣接していることもあり,色字共感 覚は脳内での文字認知と色知覚の処理の混線によって生 じると考える説もある(Ramachandran & Hubbard, 2001)。 しかし,以上の知見を踏まえると,色字共感覚は単なる 「異なる処理の混線」ではなく,意味概念や言語などの 高次認知処理が深く関わった複雑な現象であることがわ かる。 色字共感覚と文字学習 色字共感覚に限らず,共感覚全般を見渡すと,誘因刺 激は,文字や数字,単語,音階,曜日や月日など,系列 的な情報を持った複雑な人工的概念であることが多い (Watson, Akins, Spiker, Crawford, & Enns, 2014)。このよう な人工的概念は当然ながら人々が生まれながらにして有 するものではなく,多くの場合は幼少期に苦労して学習 するものである。これらのことから,共感覚には人工的 概念の学習の補助として働く側面があるのではないかと いう指摘がなされている。このような考えは,古くは 19世紀末の共感覚の研究論文にも見られるが(Calkins, 1893),近年特に実証的研究や理論的拡充が進んでいる (Asano & Yokosawa, 2013; Watson et al., 2014)。たとえば色 字共感覚の共感覚色は,幼少期の文字学習時に「/a/と いう発音を持つ」,「系列の1番目である」などといった その文字が特徴的に持つ属性に結びつき,その属性を色 で目立たせるハイライトマーカーのような働きをするの ではないか,それにより,一見するとどれも似たような 線分の塊に見える文字間の弁別,ひいては文字の学習を 補助しているのではないかという仮説が提唱されている (文字習得過程仮説,Asano & Yokosawa, 2013)。以下では 文字学習と色字共感覚の関係に関する最近の研究を2つ 紹介する。 研究紹介1 学習による文字知識の更新の影響 1つめは,学習によって既知の文字についての知識が 更新された場合に,その文字の共感覚色にどのような影 響が及ぶのかを調べた研究である(Asano, Takahashi, Tsushiro, & Yokosawa, 2019のStudy 2)。先述の,共感覚色 が文字の音韻や意味概念の情報に結びつけられうるとい う知見(Asano & Yokosawa, 2011, 2012, 2013)を踏まえる と,文字の新しい読みや意味を学習した際には共感覚色 も更新されると予測される。 この研究では,日本語を母語とし,中国語を知らない 色字共感覚者11名に対し,その共感覚者が既知の漢字 について,新しい音韻または意味の情報,具体的には, その文字の中国語での音韻または意味を教え,その学習 前後での文字の共感覚色を比較するという実験を行っ た。実験の流れは次の通りであった。実験は音韻学習ブ ロックと意味学習ブロックの2ブロックで構成されたが (実施順はカウンターバランスをとった),いずれのブ ロックにおいても最初に,既知の漢字12文字を1文字ず つ提示し,その文字の共感覚色に相当する色をコン ピュータ画面上に表示された16,777,216色のパレットか ら選ばせた。それに続けて,そのうちの6文字について 中国語での音韻(音韻学習ブロック)または意味(意味 学習ブロック)についての学習を行った(学習セッショ ン)。例を挙げると,「『祖』という字は,中国語では /zǔ/と発音します」や「『坊』という字には,中国語で は『街』という意味があります」のように教えた。そし て手書きやコンピュータを用いた課題(各文字につい て,選択肢の中からその文字の中国語での音韻や意味を

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選ばせる)を合計約 30分間行い,さらに仕上げに,紙 媒体のテストで共感覚者がそれら6文字の中国語での音 韻や意味を覚えたことを確認したうえで,再度,学習前 と同じ12文字について,学習前と同様に共感覚色を回 答させた。この12文字のうち,半数の6文字については 学習セッションで新しい音韻または意味の知識が獲得さ れ,残る6文字については新しい知識は獲得されなかっ た(統制条件)ということになる。 各文字の学習セッション前後の共感覚色を比較したと ころ,全般的には共感覚色に大きな変化は見られず,す なわち,共感覚の特徴である高い時間的安定性が確認さ れた。しかしそれでも,音韻ブロック,意味ブロックと もに,新しい知識が獲得された文字は,そうでない統制 条件の文字よりも,学習前後での共感覚色の変化が有意 に大きいという結果が得られた。この結果は,共感覚色 には共感覚者がその文字に対して持つ知識の状態が敏感 に反映され,学習によって文字の知識が更新されると, 共感覚色もそれに伴い変化しうることを示している。 研究紹介2 新奇文字への共感覚色の結びつけ ここで紹介する文字学習と色字共感覚の関係について の2つ目の研究は,未知の文字を既知の文字に結びつけ て学習する際の共感覚色の役割に迫ったものである (Uno, Asano, Kadowaki, & Yokosawa, 2020)。色字共感覚者 は通常,未知の(新奇な)文字には共感覚色を感じない。 しかし外国語学習時によくあるように,既知文字に対応 づける形で新奇文字を学習すると(例:「ロシア語のキ リル文字の『Ф』は英語のアルファベットの『F』に相 当する」という形で新たにキリル文字を学習する),既 知文字の共感覚色が転移する形で新奇文字にも共感覚色 を感じるようになることが知られている(Rich, Brad-shaw, & Mattingley, 2005; Witthoft & Winawer, 2006)。驚く べきことに,新奇文字と既知文字の対応関係をたった 10 分間程度の書き取り訓練によって学習するだけで, このような共感覚色の転移が生じることが明らかにされ ている(Mroczko, Metzinger, Singer, & Nikolić, 2009)。こ の研究結果について,Mroczkoらは,共感覚色は文字の 意味概念情報に結びつけられており,学習によって新奇 文字に既知の意味概念情報が結びつけられたことで,も ともと既知文字においてその意味概念情報に対応づけら れていた共感覚色が新奇文字に転移したと解釈した。

Uno et al. (2020)はこのMroczkoらの解釈を支持しつ つも,さらに,共感覚色が新奇文字の弁別を促進するか どうかが,既知文字から新奇文字への共感覚色の転移を 左右するかもしれない,と考えた。これは,先述の文字 習得過程仮説(Asano & Yokosawa, 2013)の,共感覚色は 文字学習時に文字の弁別を助ける役割を持つという考え を踏まえてのことである。例として,6文字の新奇文字 を6つの既知文字に結びつけて学習する状況を考える。 その6つの既知文字が互いに異なる共感覚色を喚起する ものであった場合は(例: Figure 2の図中AおよびBの 左半分,多様(heterogeneous)条件と呼ぶ),もし既知 文字の共感覚色がそのまま新奇文字に転移すれば,新奇 文字6文字も互いに異なる共感覚色を喚起するようにな る。この場合,新奇文字の共感覚色は互いに異なる色に なるため,新奇文字同士を弁別するのに役立つであろ Figure 2. Representative stimuli and results from Uno, Asano, Kadowaki, & Yokosawa (2020). (A) Familiar graphemes

(Hi-ragana characters) and (B) the synesthetic colors elicited by them. Color names in the parentheses below (B) indicate the color categories to which the synesthetic colors in (B) belong. In the heterogeneous condition, the familiar graphemes elic-ited highly discriminable synesthetic colors (B, left), and in the homogeneous condition, the familiar graphemes elicelic-ited synesthetic colors that were less discriminable (B. right). (C) Novel graphemes (Thai characters), each of which was arbi-trary associated with a different familiar grapheme. (D) Synesthetic colors elicited by the novel graphemes after the novel grapheme learning session.

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う。しかし,もし6つの既知文字がいずれも似通った共 感覚色を喚起するものであった場合は(例: Figure 2の 図中 AおよびBの右半分,一様(homogeneous)条件と 呼ぶ),新奇文字に共感覚色が転移すると,新奇文字も6 文字すべてが似通った共感覚色を持つことになり,共感 覚色は新奇文字の弁別の助けになりにくいと考えられ る。Unoらは,前者(多様条件)のように,結果的に共 感覚色が新奇文字の弁別に役立つと考えられる前者のよ うな場合は既知文字から新奇文字への共感覚色の転移が 起こりやすいが,後者(一様条件)のように役立たない と考えられる場合は転移が起こりにくいという予測のも とに実験を行った。 具体的には,日本語を母語とする色字共感覚者22名 を半数ずつ多様条件と一様条件に振り分け,「この文字 (新奇文字)の読みは『る』です」のような教示のもとに, 既知文字(ひらがな)と新奇文字のペアを6つ覚えても らった。既知文字となるひらがな6文字は,ひらがなの 共感覚色を聞く事前テストの結果に基づき,多様条件で はすべて異なる色カテゴリの共感覚色を喚起する文字, 一様条件ではすべて同じ色カテゴリの共感覚色を喚起す る文字が選ばれた(Figure 2A, B)。それぞれの既知文字 に対応づける新奇文字は,その共感覚者が学習したこと がなく,かつ,色を感じないと事前テストで答えたタイ 文字の中から恣意的に選ばれた(Figure 2C)。合計30分 程度の書き取り学習と確認テストからなる学習セッショ ンを行い,共感覚者が6ペア全部を何も見ずに書けるよ うになった後,新奇文字の共感覚色の有無とある場合は その色(16,777,216色のパレットから選択)を尋ね,ペ アとなる既知文字の共感覚色と比較した。 実験の結果,いずれの条件においても大多数の新奇文 字が共感覚色を喚起するようになったことがわかった (共感覚色が生じるようになった文字数に条件間差な し)。そしてさらに,多様条件では一様条件よりも,新 奇文字に対し,ペアとなる既知文字の共感覚色に類似し た共感覚色が結びつけられる(色空間上での距離が近 い)という結果が得られた(Figure 2D)。別の言い方を すれば,仮に既知文字から新奇文字への共感覚色の転移 が生じた場合は共感覚色が新奇文字の弁別に役立ちにく くなると考えられる一様条件では,そのような転移以外 の形で新奇文字に共感覚色が生じるようになる傾向が見 られたと言える。これらの結果は,共感覚色が文字の弁 別を促進し,新奇文字の学習を助けることを示唆し,共 感覚色に学習の補助という側面があるという仮説(Asa-no & Yokosawa, 2013; Watson et al., 2014)を実証する初の 研究成果である。 以上で紹介した一連の研究は,色字共感覚が言語処理 や文字学習といった高次の認知活動と深く結びついた現 象であることを示唆する。色字共感覚には,文字の情報 を色を用いて冗長に符号化し,それらの認知活動に役立 てるという側面があると言えるのかもしれない。 色字共感覚のメカニズムの全体像を求めて 以上で見てきたように,色字共感覚には自動的かつ意 識に上る形で共感覚色が経験されるという知覚処理に似 た「低次」の側面と,言語や学習などと深く関わる「高 次」の側面の両面を併せ持つ。このような複雑な現象 は,どのようにしたらメカニズムを説明できるのだろう か。ここでは一つの仮説として,共感覚が複数の要素か ら成り立つ可能性を述べたい。文字がもつ何らかの属性 を色にマッピングするという要素と,そのような脳内で の情報の結びつけを知覚に似た形で意識に上らせる要素 の組み合わせによって色字共感覚が成り立つという考え である。前者に関連すると考えられる研究として,非共 感覚者に対し,文字に直感的に合うと思う色を結びつけ るよう求めた研究が挙げられる。このような実験を行う と,非共感覚者は文字に色を感じない人々であるにもか かわらず,文字と色の組み合わせかたには一定の傾向が 見いだされ,しかも,文字の使用頻度や意味概念情報な ど,色字共感覚者の共感覚色の場合と重なる,言語処理 に関連した要因がその傾向に関わっていることが知られ ている(Simner et al., 2005; Nagai, Yokosawa, & Asano, 2016; 永井・横澤・浅野,2019)。さらに,このような非共感 覚者における文字と色の対応づけの時間的安定性を調べ ると,とても安定性の低い人(尋ねるたびに異なる色を 文字に結びつける人)から安定性が高い人までが連続的 に分布し,特に安定性が高い人は,色字共感覚者と変わ らないくらい高い時間的安定性を見せる(例: Simner et al., 2006; Nagai et al., 2016)。これらの知見は,共感覚者 だけでなく非共感覚者も,その時間的安定性の個人差こ そあれ,共感覚者と同じような高次認知処理に関連した ルールの下に文字と色を対応づける傾向があることを推 測させるものである。このような点では,共感覚者と非 共感覚者の境界は明瞭ではない。 それでは,色字共感覚者と非共感覚者の違いは何か。 それは,励起感覚(共感覚色)が自動的,非意図的に意 識に上るか否かだと考えられる。本稿の最初のほうで述 べた共感覚の基本的特徴に照らして考えると,いくら高 い時間的安定性を持って文字と色を結びつけられたとし ても,文字に対して自動的に,かつ,意識に上る形で色 の印象を感じないのであれば,共感覚の基本的特徴は満

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たしているとは言いがたい。時間的安定性が高くても共 感覚を持っているという自覚がない非共感覚者は,この 状態にあると考えられる。これに関連する可能性がある 知見として,共感覚者(共感覚のタイプを問わない)は 心的イメージ能力が高い可能性が複数の研究で指摘され ている(Barnett & Newell, 2008; O’Dowd, Cooney, McGov-ern, & Newell, 2019)。また,経頭蓋磁気刺激(Transcrani-al Magnetic Stimulation, TMS)を用いた研究により,色字 共感覚者は非共感覚者よりも初期視覚野の興奮性が高い ことも示されている(Terhune, Tai, Cowey, Popescu, & Co-hen Kadosh, 2011; Terhune et al., 2015)。これらの要因が, 共感覚色の心的表象が自動的かつ意識に上る形で経験さ れるという,色字共感覚の知覚に似た側面を作り出して いるのかもしれない。 以上をまとめると,色字共感覚は,文字と色を言語や 意味概念処理と関連する形で対応づけるという,高次認 知処理と深く関わるメカニズムと,そのような対応関係 を鮮明なイメージとして意識に上らせるという,知覚処 理と深く関わるメカニズムが組み合わさって生じる現象 である可能性がある。さらに,前者の一見無関係な情報 を結びつけるという性質は,共感覚の有無によらず人間 全般に,その程度に連続的な個人差がある形で存在し, 後者の意識に上らせるという性質は,「意識に上る/上 らない」という離散的な形で観察されると推測される。 このような共感覚における高次認知処理と低次知覚処理 の関係という議論とは別の文脈での話ではあるが,最近 Ward (2019) は,共感覚の「素質(disposition)」という 概念を提案している。ここで言う素質とは,遺伝的要素 に起因した共感覚の神経科学的・認知的な特性の強さで あり,Wardの言葉を借りれば共感覚の材料のようなも のである。一般人口の中にはこの素質が低い人から高い 人までが連続的に存在しており,素質が高い人ほど共感 覚者になりやすく,また,複数のタイプの共感覚を持ち やすい。ただし,材料を持っているからといって必ずし も製品が作られるとは限らないように,素質が高くても 共感覚を持つに至らない場合もあるだろう。このことか らWard (2019) は,素質の高低は連続的に分布するもの の,共感覚を持つか否かは「0か1か」の二値的に決ま るものであり,その意味では共感覚者と非共感覚者は非 連続的な関係にあると考えている。著者が上で述べた仮 説と Ward (2019) の仮説は,具体的内容は異なるもの の,共感覚者と非共感覚者の関係に連続的な側面と非連 続的な側面の両方があると考える点では似ている。両仮 説の妥当性を確認するためには今後さらなる研究が行わ れる必要があるが,これらのように共感覚のメカニズム を複合的なものとして捉えることで,共感覚という複雑 な現象の解明に近づくことができると期待される。 引用文献

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