• 検索結果がありません。

02特別寄稿・ジャクソン.indd

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "02特別寄稿・ジャクソン.indd"

Copied!
16
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

スティーブ ・ ジャクソン

1)



訳:熊澤拓也2)、高尾将幸3)

ラグビーワールドカップ 2019 についての考察

―グローバル化の時代におけるオールブラックスと

 グローバルラグビー―

1)オタゴ大学 2)東洋大学 3)東海大学 Email: [email protected] 抄 録 この論文の目的は、ラグビーワールドカップ 2019 日本大会の文化的モーメントと場を取り上げ ることで、スポーツ史上、最も成功しているチームであるラグビーのニュージーランド代表チーム、 オールブラックスの状況について探究することである。より具体的には、(a)ニュージーランドラ グビーとオールブラックスのプロ化と商業化の展開について、歴史的に概観し、(b)ニュージーラ ンドラグビー協会(NZR)が直面した近年の課題とそれらに対する協会の反応について確認し、最 後に、(c)ラグビーワールドカップ 2019 という歴史的分岐点における、グローバルスポーツとし てのラグビーの状況について意見を述べる。 キーワード:スポーツメガイベント、ラグビーワールドカップ 2019、       ニュージーランドのオールブラックス、企業ナショナリズム、ブランディング

■特別寄稿

(2)

Reflections on the 2019 Rugby World Cup:

The State of the All Blacks and Global Rugby in the Age of Globalisation

Jackson, Steve

KUMAZAWA Takuya, TAKAO Masayuki

School of Physical Education, Sport and Exercise Sciences, University of Otago

Abstract

This paper uses the cultural moment and site of Rugby World Cup 2019 to explore the state of the sports’ historically most successful team, the New Zealand All Blacks. More specifically, the paper: (a) provides a brief historical overview of the development of the professionalization and commercialisation of New Zealand rugby and the All Blacks; (b) identifies some of the contemporary challenges faced by New Zealand Rugby (NZR) and how they are responding; and, (c) offers comment on the state of the rugby as a global sport at the historical juncture of the 2019 Rugby World Cup.

Key Words: Sport Mega-Events, Rugby World Cup 2019, New Zealand All Blacks, Corporate Nationalism, Branding

Email: [email protected]

(3)

1.イントロダクション ラ グ ビ ー ワ ー ル ド カ ッ プ[ 以 下、RWC] 2019 大会は、スポーツ界最大のメガイベント とはいえないが、日本のスポーツ史においては 重要な機会である。9 回目となる同大会は、日 本で初めて開催されるというだけではなく、初 めて広い意味での 「 アジア 」 において開催され る。さらに、1987 年にニュージーランドで最 初に行われて以来、同じ北半球で 2 大会連続 して開催されるのも、伝統的なラグビー大国、 すなわち、オーストラリア、英国、フランス、 ニュージーランド、南アフリカ以外で行われる のも、初めてである。RWC が、これまで長く ラグビーの伝統を持った国々において行われて きたことは、このイベントが比較的まだ歴史が 浅いことを考えれば、驚くようなことではな い。だが、この点だけでも、RWC2019 大会に は重要な意味があるといえる。なぜなら同大会 が、ラグビーというスポーツの新たな世界的展 望や、ラグビーの未来にとって日本や他のアジ ア諸国がもつ戦略的重要性について、有益な洞 察をもたらすと考えられるからである。さらに、 RWC2019 大会は、オリンピック・パラリンピ ック 2020 東京大会の一年前に行われるため、 日本社会や日本のスポーツ、世界における日本 の位置づけ等の広範な変化について明らかにす るための分析可能で戦略的な場を提供する。そ して疑いもなく、日本は次のような観点から前 例のない社会的変化を経験しているところであ る。すなわち、世界経済における位置の変化や、 中国・北朝鮮両国との関係について舵取りをす るという永続的な挑戦だけではなく、国内的に は、世界で最速の高齢化、低い出生率、そして、 歴史的には同質的な国の不可避的な多様化とい う不都合な真実という観点である。確かに、現 在、人口の 1.5%にあたる 250 万人以上の外国 人が日本に暮らしているが、多くの人々は市民 権をもたず、正確には国民ではない。ここで、 スポーツは、移住の両パターンについてだけで なく、いかにスポーツがナショナルアイデンテ ィティと市民権にとって重要であるかというこ とについても、いくつかのユニークな洞察を提 供する。実際スポーツは、新たに、または追加 的にナショナルアイデンティティを得るという 特殊な目的のために、人々がある国から別の国 へと積極的に募集・勧誘されるという世界でも 数少ない職業の一つであると鋭くも指摘されて きた[Jackson, 2013; Jackson and Haigh, 2008]。 簡潔にいえば、アスリートは、彼らの新たな母 国の地位や評判を高めるためにメダルを獲得す るという明白な目的のために、ある国から別の 国へと勧誘されるのである。日本と日本のラグ ビーはこの点を非常によく描き出している。上 述したように、日本で暮らす外国人の数は増加 している一方で、国際的水準からみれば、国籍 を取得する人々の数は非常に少ない。ここで、 代表チームに選出される資格を得るために市民 権を獲得した海外出身選手の数について考えて みよう。2018 年時点で、ブレイブブロッサム ズ[日本代表チーム]の 30%が海外出身選手 である。明確化のために他の国について述べる と、例えば、イングランド、アイルランド、イ タリアチームには、それぞれ 30%近くの海外 出身選手がおり、スコットランドでは 40%を 越えると推定される。日本チームが他とすこし だけ異なるのは、既述したように、その歴史的 な同質的人口構成である。移民や市民権、文化 的多様性というこの新たな領域において、これ から日本はどのように舵取りをしていくのだろ うか。このことは、スポーツのメガイベントの 影響や含意について議論する際にしばしば生じ る、多くの問いの 1 つに過ぎない。 結局のところ、私たちが移民、市民権、ツ ーリズム、国家のブランディング、そして/ あるいはスポーツにおける成功について議論 するのは、RWC2019 大会のようなスポーツの メガイベントが、社会内部における発展や過 程、変化の、より広範な社会文化的、政治経

(4)

済的な指標を理解するための分析可能で戦略 的な場を提供するからなのである[以下を参 照、Horne, 2007; Horne and Manzenreiter, 2006; Jackson, 2014; Roche, 2000]。この論文の目的は、 RWC2019 大会の文化的モーメントと場を取り 上げることで、スポーツ史上、最も成功してい るチームであるラグビーのニュージーランド代 表チーム、オールブラックスについて探究する ことである。より具体的には、(a)ニュージー ランドラグビーとオールブラックスのプロ化と 商業化の展開について、歴史的に概観し、(b) ニュージーランドラグビー協会(NZR)が直面 した近年の課題とそれらに対する協会の反応に ついて確認し、最後に、(c)RWC2019 大会と いう歴史的分岐点における、グローバルスポー ツとしてのラグビーの状況について意見を述べ る。 2.ニュージーランドのラグビーと  オールブラックス ある特定のチームに焦点を当てることは、一 見すると、グローバルスポーツの状況や、それ らに関係するスポーツのメガイベント(本稿で は RWC2019 大会だが)に対する、より広範な 洞察を提供するには、対象として狭すぎるよう に思われるかもしれない。しかしながら、オー ルブラックスがただのスポーツチームではない ことに留意することが重要である。地理的に孤 立した、人口 500 万人以下の国であるニュー ジーランドが、過去一世紀にわたって行われた 全試合の 75% 以上に勝利したという事実は注 目に値する。さらに考慮すべき事実として、オ ールブラックス(男子の代表チーム)が 3 度 ワールドカップを制していること、ブラックフ ァーンズ(女子の代表チーム)が 5 度ワール ドカップを制し、全ての国際試合の 90% 近く で勝利しているということ、男女の 7 人制の チーム(伝統的な 15 人制から派生した変形バ ージョンで 2016 年にオリンピックの正式競技 となった)はそれぞれの国際大会で圧倒的な実 力を示し、両チームとも 2018 年の時点でワー ルドカップ王者の地位を保持していること等が 挙げられる。これらの栄誉や功績が相まって彼 らの象徴的な地位が確固たるものになってい る。どのようにして、なぜ、オールブラックス がここまでの成功を収めてきたのかということ に対しては、広く様々な説明がなされてきた けれども、完全には解明されておらず、まだ 謎は残っている。ニュージーランドは最大の競 技人口を誇っているわけでも、最大の活動資金 や資源を有しているわけでもなく、むしろ過去 30-40 年間において、ラグビーは徐々に国技と しての地位も周縁に追いやられつつあった。一 因としてとりわけ指摘できるのは、ラグビーの グローバル化とプロ化という流れの中で、北半 球の先進諸国がその経済力を使い、ニュージー ランドの選手やコーチ、スポーツ科学者に、国 内で得られる給与を遥かに超える額を提示し勧 誘するということである。小国であることには 戦略的なパフォーマンス上の優位性があるとい う事実も含め[Sam and Jackson, 2017]、オール ブラックスの成功には多くの理由があるだろう が、1 つの重要な要素は利益のあがる放映契約 と世界的な企業とのスポンサー契約を確保でき たということである。 3.ブランディング、企業ナショナリズ  ムとニュージーランドのオールブラ  ックス 過去四半世紀にわたり非常に多くの困難に直 面してきたにもかかわらず、ラグビーはニュー ジーランドの「国技」であり続け、とりわけオ ールブラックスは国の象徴の一つであり続け た。だが、すぐにある疑問が浮かぶ。それは、 ニュージーランドがとても小さな市場であるだ けでなく、ラグビーがサッカーやバスケットボ ール等、他の様々なスポーツと比べて世界に広 まっていないにも関わらず、なぜ数々の世界的

(5)

企業が代表チームのスポンサーになることに興 味を示すのかということである。 そこで本節では、オールブラックスが貴重な 文化的商品になるとともに、企業ナショナリズ ムと称される、より広範な過程の一部となるに 至った経緯の概要を説明する[Jackson 2004; John and Jackson, 2011; Scherer and Jackson, 20017; 2010; 2013; Silk, Andrews, and Cole 2005]。

本概要の出発点は 1990 年代初頭に遡る。当 時、主要なメディアは世界で売れるテレビ向け の商品として、ラグビーの価値や未開拓な将来 性を認識し、関心を持ち始めていた[Jackson, Batty, and Scherer 2001]。これによりワールド ラグビー[国際ラグビー統括機関]と、オース トラリア、ニュージーランド、南アフリカのラ グビー協会という 2 つの競合する陣営が生ま れ、両者の間でピーター・フィッツサイモン ズ[1996]が「ラグビー戦争」(訳注 1)と評した 争いが起こった。1995 年の RWC の前に、南 半球の 3 つの主要なラグビー協会は、ルパー ト・マードックのニューズ・コーポレーション と 10 年間で 8 億 US ドルのスポンサー契約を 結んだ。簡単に言えば、ラグビーが世界規模で メディアに露出するようになり、このことがス ポンサー企業を引き付けた。最初の大きな展開 の一つは、1997 年の年末近くに、ニュージー ランドラグビー協会が、最も重要なスポンサー 企業を変更したことである。地元に根ざした衣 料メーカーであるカンタベリーは、オールブラ ックスと 75 年もの間提携関係にあり、あらゆ る面でスポンサーとしての最優先権を保持して いた。しかし遂には、初めにナイキが、次いで アディダスが、同協会に提示したスポンサー契 約の内容に対抗できなくなった。当時、アディ ダスが提示したスポンサー契約の内容は、スポ ーツ界全体でみても、1 チームが結んだ契約と して世界最大の 5 年間で推定総額 1 億 US ド ル以上というものだった。ここでの重要な問い は、なぜ世界的なスポーツ企業であるアディダ スが、これまでラグビーやニュージーランドと ほとんど関わりがなかったにも関わらず、小さ な南太平洋の国に投資したのかということであ る。その答えの 1 つとして、企業の世界規模 でのブランド戦略ということが挙げられる。つ まり、新たな国内市場に参入するだけではなく、 その市場がもつ独特な特徴を認識し、同社のブ ランドを世界に広める上で有効に利用するとい う戦略である。 アディダスがニュージーランドに魅力を感じ た理由が、ラグビーとナショナルアイデンティ ティとオールブラックスの成功という三者の結 び付きであったことはほぼ間違いない。アディ ダスの CEO であるロバート・ルイス・ドレイ ファスは、サッカー狂のブラジルを除けば「ニ ュージーランドとラグビーやオールブラックス の関係ほど国とスポーツが結び付いている例は ない」と述べている[Lilley, 1999: 11]。実際、 初期のアディダスの広告制作に関与し、現在は 世界的な広告代理店であるサーチのテレビ部門 のトップであるハワード・グリーブは「オール ブラックスは他のスポーツチームやスポーツ選 手ではもたらすことができない何かをスポンサ ーのブランドにもたらすことができる」と述べ ている[“Primal Team” 1999, 22-23]。だが、ビ ジネスや広報の観点からすると、ニュージーラ ンドのラグビーとの提携関係はアディダスに少 なくとも 2 つの大きな難題を課した。第一は、 世界的企業でありながら、ローカル・アイデン ティティを確立し、同社のブランドを伝説的な オールブラックスと結び付ける等、ローカル化 する必要に迫られたことである。第二は、同社 のブランドをグローバル化するために、オール ブラックスの革新的な利用法を見つけなければ ならなかったことである。 ローカル化という点で、アディダスは 2 つ の重要なテーマに焦点を当てた。第一に、チー ムのジャージだけでなく、イベントの宣伝でも 「黒」を強調した。第二に、歴史と伝統を重視 した。アディダスは 2 つの重要なテーマを強 調し、同社のブランドとオールブラックスが長

(6)

年にわたって関係を築いてきたようなイメージ を構築するために、新たなブランド商品を発売 したり、テレビやラジオで CM を放送したりす る等、様々な戦略を用いた。キャンペーン全体 の中核を担ったのは 2 つのテレビ CM である。 「キャプテン」は主に国内市場向けに、ハカ(マ オリ文化における伝統的な戦勝祈願の踊りであ り、毎回オールブラックスの試合前に対戦相手 への挑戦として披露される)を題材とした。「ブ ラック」はより世界に向けて制作された。「キ ャプテン」はアディダスが新たに発表するオー ルブラックス用のジャージと直結した、よく練 られた宣伝戦略に基づいていた。白黒の映像で 構成された同 CM は、1945 年から 1999 年ま でにプレイした 7 人の歴代のチームの主将が 各時代のジャージを着て登場することで、アデ ィダスが提供する新たなオールブラックスの時 代への調和的な移行を表現し、オールブラック スの過去、現在、未来を結び付けようという明 確な意図を含んでいた。これは国内の文脈の中 における企業ナショナリズムの動きである。次 の段階は、世界戦略の一環としてオールブラッ クスのもつ独自の文化的な訴求力を利用すると いうことであり、この中核を担ったのが多様な 場面で展開され、「ブラック」と名づけられた、 ハカをテーマとするキャンペーンであった。 1999 年の RWC に向けて、アディダスは、 印象的な 60 秒間の白黒の CM をサーチと協同 で発表した。その CM では、オールブラック スのハカが、踊りや挑戦など様々な形で描写・ 表現されていた。制作に 1 年かけられたニュ ージーランド発の同 CM は、世界 40 ヶ国以上 の視聴者に向けて放送された。同 CM の重要 な構成要素は印象的な音であり、実際の試合の ときのハカの音声や、後から唇の動きに合わせ て録音した個々の選手たちの声を含め、80 の 音の重なりから成る曲が使用された。広告の制 作者であるグリーブによると、コンセプト「は 常にハカと現場の生の音を中心にして構成され た…我々は常に一種の現場の怖さを伝える CM を作りたかった」[“Primal Team” 1999, 22]と いう。視覚的には、同 CM は火山の熱で沸騰す る泥水の温泉という象徴的な映像とともに始ま る。その後、映像は過去の[先住民]マオリの 戦士たちとハカを披露している現在のオールブ ラックスの選手たちとの間を行き来する。伝統 的な衣装に身をまとい、伝統的なマオリの顔の タトゥーであるモコを施した戦士たちは真剣で 攻撃的な人物として描かれた。同 CM の最後は、 [マオリにゆかりのある選手で構成される]マ オリ・オールブラックスのキース・ミューズが ハカを披露した後に対戦相手を強烈に睨み返す という映像で締め括られる。グリーブによると、 アディダスは同社の商品をブランド化するため の独特な何かを求めており、ハカを通してそれ が得られると考えていた。 ここで次の問いに戻る必要がある。なぜア ディダスはオールブラックスのスポンサーに 名乗りを上げ、大金をつぎ込んだのか? な ぜならそれは、オールブラックスがスポーツ 界の他のどのチームや個人もできないほどス ポンサー企業のブランドに何かをもたらすこ とができるからである。それは彼らが、世界 で最後の戦争スポーツと呼ばれるような肉体 のぶつかり合うとても激しい競技をプレイし ていることと無関係ではなく、加えて、彼ら の競技の激しさが、 ハカを通じて非常に明瞭 に伝わりやすいということも寄与している。 [Jackson and Hokowhitu, 2002: 132 より引用]

同 CM は着実に注目を集め、アディダスは 同社のウェブサイトを含む他のメディア媒体と の相乗効果を通じて、テレビの枠を越えたさら なる露出の機会を得ることができた。さらに は、テレビ CM と連動したポスターや屋外広 告用掲示板などの関連キャンペーンが展開され た。ロンドン中心部にはある印象的な白黒画像 の巨大な掲示板が登場し、そこではモコを施し たマオリの戦士が彼を見る全ての者を怒って睨

(7)

み付けるとともに、アディダスの三つ葉ロゴと ニュージーランドラグビーのトレードマークで あるシルバーファーンが目立つように配置され た 。同キャンペーンは広く世に知られ、販売 促進産業の中の文化的媒介者が求める拡散の動 きを確実に作り出した。だが、同キャンペーン に対しては批判もあった。その 1 つがンガティ・ トア族によって提起された訴訟である。同族の 昔の首長であったテ・ラウパラハ(約 1760-1849 年)は、テレビの CM で使われたカ・マ テというハカを作った人物とされている。その 後、批判は弱まったが、2011 年にニュージー ランドラグビー協会がハカのカ・マテを踊るた めの正式な許可をンガティ・トア族に求めて認 められたり、2014 年にハカの部族的な起源が 承認されたハカ・カ・マテ帰属法が議会で可決 されたりしたことを踏まえると、間接的な影響 があったことはほぼ間違いない。だが、これら の法的な展開が前進を意味するものではあるけ れども、マオリ文化の他の側面の盗用とともに、 ハカの商業利用は続いている。とりわけハカは、 その独特な土着の異国情緒ある起源のせいか、 コカ・コーラ(日本)、フィアット(イタリア)、 ARAG 保険会社(ドイツ)、フランス場外馬券 販売機構(フランス)、ハイネケン(英国)な ど、広範囲の世界的企業の広告に利用されてき た。これらの多くは正確な意味においては企業 ナショナリズムの例ではないが、人々の日常生 活に影響を及ぼす広告の氾濫を切り抜けようと する企業が用いる、より広範な販売促進戦略の 一部である[Goldman and Papson, 1996]。

その後の 20 年間で、アディダスは、アディ ダスとオールブラックスのブランドがニュージ ーランド国内外両方においてほぼ同義と考えら れるほど、人々の頭の中に不動の地位を確立し た。だが、アディダスが最も重要なスポンサー であり続けている一方で、2012 年には、オー ルブラックスのジャージの前面にロゴを掲出す る AIG 保険が、推定年間 2,000 万 US ドルの 6 年契約でスポンサーに加わった(現在 AIG のロゴは、オールブラックス、7 人制オールブ ラックス、マオリ・オールブラックス、20 歳 以下オールブラックス、ブラックファーンズ、 7 人制ブラックファーンズという全 6 つのニュ ージーランド代表チームのジャージに掲出さ れている)。AIG が企業ナショナリズムの過程 でアディダスと同様の戦術を用いていることは 明らかである。最初の戦略の 1 つとして、AIG はオールブラックスと同社のそれぞれの歴史を 1870 年代に遡って辿るウェブサイトを立ち上 げた。その中で同社は、オールブラックスのか つてない成功とともに、チームの独自の価値や 伝統を用いながら、両者間の歴史的な関係を「創 造」しようとした。 一見、世界的な保険・投資会社である AIG が下した、ニュージーランドのラグビーに投資 するという決定はアディダスの 1999 年の提携 よりさらに奇妙に思われる。だが、そこには少 なくとも 3 つの原因がありそうである。第一 に認識すべきは、オールブラックスが 2011 年 の RWC で優勝という成功を収めたことである。 第二は、2009 年に国際オリンピック委員会が 2016 年から 7 人制ラグビーをオリンピックの 正式競技にすると表明したことである。第三に、 AIG が(1)マンチェスター・ユナイテッドと のスポンサー契約を 2010 年に終えることや、 より重要なこととして(2)2008 年の世界的 な金融危機に巻き込まれた結果、多くの顧客や 従業員の生活に影響を与えただけでなく、合衆 国政府から 1,820 億 US ドルの緊急援助を受け、 ブランドの評判が損なわれたことを踏まえる と、自社ブランドを前向きで純粋な何かと提携 させる必要があったことが挙げられる。そのた め、AIG が自社のウェブサイトを通じて同社の 企業価値をスポーツとオールブラックスの両方 とつなげようと努めても驚くことではないだろ う。「スポーツ文化は多様性や包摂性、成長を 誇るものである。AIG もスポーツ文化と同じく これらの性質を示すことから、伝説的なオール ブラックスをはじめ、世界に名だたるニュージ

(8)

ーランドラグビーの 6 つの代表チームを含む、 世界的に有名な組織・チームと提携関係を結ん だ」[AIG Insurance New Zealand, 2018]。ニュー ジーランドのオールブラックスの事例は、世界 的にも有名なスポンサー企業であるアディダス と AIG が、各社のブランドを宣伝するための 道具として、どのように独自の文化的商品を認 識しているかを明らかにしている。企業ナショ ナリズムの過程を通して、これら 2 つの企業 は自社のブランドを世界で最も成功しているス ポーツチームの 1 つと提携させた。同チーム は豊かな歴史と伝統を持つだけでなく、同じぐ らい重要な特徴として、マオリ文化に関連づけ ることにより、宣伝をする上での他との差異も 提供してくれるのである。 とりわけ AIG は、公式スポンサーになって 以来、同社の利益のためにオールブラックスの ブランドをいかに利用するかということにつ いて、とても戦略的だった。例えば 2016 年か ら 2017 年にかけて、同社は独自の 3 分間の オンライン広告を制作・発表した。タイトル は #Tackle-the-Risk であり、同広告はより広い ソーシャルメディアの販売促進活動の一環に位 置づけられた。AIG は、同社のブランドとオ ールブラックスや RWC2019 大会を結び付ける 広告の中でどのようなテーマを用いるかという ことに関して様々な選択肢をもつ。ここでは、 同社は「リスク」をテーマに選んだが、これは 同社が保険会社であることを考えれば理解でき るだろう。従って、同社の目標は、売り上げを 増やすために市場や関係する顧客に対し、リス クや不運に見舞われる恐れを強調することであ る。AIG ジャパンが提唱するアクティブケア は、顧客が事前にリスクを理解することでそれ を軽減するというコンセプトだが、そのコンセ プトを広める一環でもある同 CM には、ジェ ローム・カイノ、アントン・リナート・ブラウ ン、ダミアン・マッケンジー、リアム・スクワ イア、ブロディ・レタリック、コディ・テイラ ー、タウェラ・カーバーロウ、スコット・バレ ット、スティーブン・ルアトゥアなど多くのオ ールブラックスの選手が登場する。内容はまず、 彼らが東京の地下鉄に乗り、改札を出て、有 名な渋谷の交差点に現れる(www.youtube.com/ watch?v=nVzzhq5whWE)。いくつか手で合図を 交わし、方々に散ると、日本の人々に次々とタ ックルをしていく。一見、無差別に無実の人々 にタックルしているような奇妙な映像だが、具 体的にタックルをされるのは、歩きながらメー ルを打っている女子生徒、自転車配達員、熊の 着ぐるみを着てチラシを配る男性、お辞儀をし ながら名刺を交換する 2 人のビジネスマン等 である。次に、オールブラックスの選手が走行 中の車に窓から飛び乗ったり、別の選手が窓を 拭いている店員にタックルしたりする映像が流 れる。続いて、オールブラックスの選手たちが ボールをパスで回わした後、ビルの窓に蹴り込 むと、机で仕事中の男性に当たり、男性は気絶 する。最後に、矢継ぎ早に流される映像を通し て、視聴者はなぜオールブラックスが一般の 人々をタックルしたのかが分かる。それは、日 本国民一人ひとりが、落下物や走行中の車、コ ンピューターの爆発といったものから、怪我や 死亡のリスクに晒されているからである。同 CM の終わり近くで、オールブラックスの選手 が東京の街を歩いていると、突然若い少年が走 って来て、ジェローム・カイノにタックルをす る。その直後、街灯が落ちてきて、少年はカイ ノを助けたのだと分かる。カイノと少年は微笑 みながら拳を合わせ、残りのオールブラック スの選手たちと一緒に彼らの旅を続け、最後 に #TackleTheRisk という文字とともに東京を 一望した映像が映し出される[Tackle The Risk, 2017, https://partner.allblacks.com/engage/news/ tackle-the-risk]。同 CM の評価は賛否両論だっ た。中にはアクション映画のような動きや、公 共の安全性に関するメッセージを口には出さず に伝える話の展開の意外性を好む顧客がいた。 しかしながら一方では、同 CM を過度に暴力的 と感じたり、CM と同社の保険商品との関連性

(9)

が希薄であったことから、同社のマーケティン グ・ロジックに疑問を呈したりする顧客もいた [Towle, 2017]。だが、オールブラックスそれ自 体がますます「ブランド」として考えられるよ うになっているという事実は、彼らが他社の象 徴を含み持つという同種の挑戦に対して脆弱で あることを意味する。その挑戦とは、[ニュー ジーランド代表という]重要性を持ち続けるこ と、企業からの働きかけに対しますます懐疑的 になる顧客の心に訴えること、露出過多、「危 機」に関連した広報活動における大失敗などで ある。以下に好例を示す。 4.国民とブランドとしての代表チーム  :新しい時代――新しい挑戦 注目を集めるスポーツチームや有名なアスリ ートたちは、かつてないほどメディアや公衆の 視線に晒されている。あらゆるネガティブな行 為や振る舞いが携帯電話で記録され、説明の機 会も文脈も無いまま、あっという間に世界に拡 散する可能性がある。2016 年、ニュージーラ ンドのラグビーは、スポーツ、とりわけ各アス リートや各チームの評判を傷つけるような、人 目を引くスキャンダルに数多く見舞われた。 一つ目は、スーパーラグビー(訳注 2)のチーム である、ワイカト ・ チーフスの選手たちが関与 した「ストリッパー・ゲート」として知られて いるものだ。多数の選手たちが、オコロイレ・ ホットスプリングホテル[ワイカトにあるリゾ ートホテル]で、「マッド・マンデー」という シーズン終了を祝うパーティに出席していた。 問題となったのは、飲酒、ホモフォビア(同性 愛嫌悪)に関する発言、ストリッパー(エキゾ チックなダンサーだった)によるパフォーマン スであった。ホモフォビックな発言とは、チー フスの選手であるマイケル・アラダイスが「あ ちこちにゲイがいるぞ」と言ったのを、二人の 友人と温水プールにいたブレンダン・バラクロ ーという地元ワイカトのゲイの男性が耳にし

たとされる件である[Malone, Pearson and van Royen, 2016]。 バラクロー氏がチーフスの経営陣にこの出来 事を報告したところ、彼らは即座にアラダイス からの個人的謝罪を含む、対応をとった。実際 のところ、バラクロー氏は「彼らはとてもよく やった。よく分かっていたし、すぐに私に連絡 してきた。その対応にはかなり満足した」とい うことを認めている。しかしながら、この一件 に関するメディア報道は、一般市民や、ゲイや レズビアンのグループ、さらにはそうした振舞 いを厳しく非難する政治家らとともに、一人歩 きをすることになった。間もなく、同じイベン トにいた選手たちを巻き込む、別のスキャンダ ルに関するニュースが明らかになった。一人の ストリップ・ダンサーが選手たちのために雇わ れており、彼女に酒や小石を投げつけたりした のに加えて、不適切な身体的接触があったとさ れたのだ。この話は、数か月とは言わないが、 数週間にわたって続き、選手たち、チーム、ス ポンサー、ニュージーランドラグビー協会、市 民、広範な社会的機関、そして政治家らを取り 囲んだ。 それに対応して、中立の目撃者を含む正式な 検証プロセスが、ニュージーランドラグビー協 会によって着手された。この種の[ストリッパ ーの招待という]イベントは決して計画された り、催されたりするべきではなかったという一 般的な見解の一致がある一方、最終的に、正式 報告においては、不適切な振る舞いがあったと いう多くの申し立てには、証拠が乏しく、目撃 者の証言もなかったと結論づけた。 ほんの数か月後に状況を悪化させる出来事が 起こった。オールブラックスのスター選手でス クラムハーフ[ラグビーのポジションの一つ] のアーロン・スミスが関与した、後に「トイレ ット・ゲート」(訳注 3)と呼ばれることになる問 題である。9 月 18 日、スミスは、オールブラ ックスが南アフリカと対戦するテストマッチ [国際試合]に向けて飛行機で移動しようとし

(10)

ていた 9 月 18 日、クライストチャーチ空港で 女性とともにトイレに入っていくところを見つ けられた[「アーロン・スミスが代表ツアーか ら離脱」,2016]。 一般の市民が目撃し、通報したその出来事は、 翌日には代表チームの管理部門に届いていた。 その話が本当かどうかをスミスに確認した後、 懲罰として、同時に個人的な問題解決(長く付 き合っていたパートナーとの関係を含む)のた めに、ニュージーランドに帰国することで合意 したのだった。その他にもニュージーランドの ラグビー界ではいくつかの物議を醸す問題が生 じており、その文脈のなかで、チーフスとアー ロン・スミスの事件はその後も収まる気配はな く、スポーツの公的な側面に大きな影響をもた らした。 ニュージーランドラグビー協会は、2016 年 10 月から 2017 年 8 月にわたって活動する「尊 敬と責任の再検討」[委員会]を立ち上げるた めに行動を起こす必要があると考えた。この組 織には、ニュージーランドの著名なアスリート やスポーツ行政官など、次のような人物が参加 した。キャスリン・ベック(委員長)、ジャッ キー・バロン、リサ・カリントン、ケイト・デ リー、リズ・ダウソン、デイビッド・ハウマン、 マイケル・ジョーンズ卿、ケビン・メアラム、 医師のデブ・ロビンソン、ロビン・コックバー ン(訳注 4) 委員会では、以下のカテゴリーのもとに、6 つの提言がなされた。すなわち、包摂的なリー ダーシップ、優れた人格、ウェルビーイング、 ジェンダーの平等、職務への関与とコミュニケ ーション、説明責任と自立、である。ここでの 目的は、この提言を詳細に検討することではな く、いかにニュージーランドラグビー協会が広 報活動とブランディングという視点から、これ らの問題に対応してきたかに着目することであ る。 2018 年、ニュージーランドラグビー協会 はスポンサーである AIG と連携して、「多様 性は強さだ」という新しい広告を発表した。 RWC2019 年 大 会 と の 繋 が り を 作 る た め に、 AIG が戦略的に日本で作ったそれまでの広告と 同様、その新しいキャンペーンは大阪で撮影さ れた。手短に述べれば、その 2 分の広告はオ ールブラックス(男子)とブラックファーンズ (女子)の両代表チームが大阪のスタジアムに 登場する様子を映している。 選手たちはロッカールームで準備しているよ うに真剣で、集中しており、それからグラウン ドに入っていく。続く映像では、共に右手を胸 (とりわけそれは右胸のオールブラックスのシ ルバーファーン[ニュージーランド原産のシダ 植物]のロゴの真下)にあてる男性選手と女性 選手を交互に映しつつ、2 つのチームが並び立 つシーンが映し出される。同時に、次のような 言葉がナレーターから発せられる。  「次の対戦相手は本当に恐ろしく、一筋縄 ではいかない。その相手とは差別だ。その敵 に一人で立ち向かうことはできない。共に打 ち負かすしかない。15 人では足りない。数千、 いや数百万の人が必要だ」。これらのナレー ションの後、選手たちは胸にあてていた手で ジャージを引っ張る。すると引っ張られた部 分のジャージの生地が虹色に見える。次にス タジアムの上空を 7 機の戦闘機が通過する が、それらが発する煙も虹色である。最後に 選手が視聴者に向けてこう言う。「多様性は 強さだ。我々のチームに加わろう」。 この広告が、「尊敬と責任の再検討」[委員 会]の報告に反応した、広報活動キャンペーン の一部であったことは明らかである。主要なス テークホルダー、すなわちニュージーランドラ グビー協会、オールブラックス、スポンサーの AIG とアディダスは実に大きなリスクにさらさ れていたのだ。多様なソーシャルメディアでの キャンペーンは、ホモフォビアとジェンダーの 平等に関する主要な問題に同時に対処すること

(11)

ができた。実際には、他のスポーツの代表チー ムに比べれば間違いなく反射的ではあるが、そ の広告を前向きなものとして捉える人もいるだ ろう。これら全ての例が示しているのは、ニュ ージーランドラグビー協会、オールブラックス と彼らのスポンサーが、生き残りを賭けて、協 働と比類のないアイデンティティの維持の間で の微妙なバランスの舵取りをしなければならな い、共存する、そして共依存関係にある企業ブ ランドであるという、そのあり方である。 5.ラグビーのグローバルな状況 RWC2019 年大会というモーメントは、ラグ ビーというスポーツの置かれた立場と、本稿の 主題であるニュージーランドのオールブラック スについて再検討する機会を提供してくれる。 2016 年のリオデジャネイロ・オリンピックで 7 人制ラグビーが正式競技に採用された時から 強調されていることだが、ラグビーというスポ ーツが国際的なレベルでの人気という点で、成 長過程にあることに疑問の余地はない。このこ とによりラグビーというスポーツがこれまで以 上に世界で露出するようになり、同時に、ラグ ビーで得られる 6 つのオリンピック・メダル のうち 3 つが女性のためのものであることを 考慮すれば、女子ラグビーの注目度を上げたと いえる。 だが、北半球と南半球との異なった競技シー ズンや、それがもたらす選手の仕事量や福利厚 生に与える影響といったものを考慮すると、今 日のラグビーは他のスポーツとの前例のない競 争と、いかにして「グローバルスポーツ」にな るかという永続的な挑戦に直面しているのであ る。毎年、北半球と南半球のそれぞれのシーズ ンの終わりに、南北双方のチームが反対の地へ、 一連のゲームのために移動をしている。問題は、 優れた選手たちの中にはしばしば疲労困憊する か、もしくは怪我をして、ツアーに参加しない 者がいるため、「ワールドクラス」のエンター テインメントという前評判に沿わない試合で終 わるという点にある。 さらに消費者もこのことを理解しており、ス ポーツファンは、彼らの限られた資金の使い道 についてますます懐疑的に、そして保守的にな っている。ワールドラグビーと各国の支部組織 は、長い間、この南北問題への解決策を追い求 めてきた。提案された最新の解決策は、北半球 の 6 か国対抗戦(訳注 5)と南半球のラグビー・チ ャンピオンシップ(訳注 6)の優勝チームを呼びも のにして、11 月に新しい年間王者決定戦を実 施するというものだ。 その大会は昇格と降格を認めるように計画さ れるだろうし、この点において言えば、1 部へ の昇格で大きな注目や収益を得る地位につける かもしれない日本やフィジーにとっては、かな り魅力的だろう[Robinson, 2019]。2 部には、 パシフィックネーションズカップ(訳注 7)の参加 国であるカナダ、サモア、トンガ、アメリカ、 それにアメリカズ・チャンピオンシップ(訳注 8) の参加国であるチリ、ウルグアイ、ブラジルが 含まれるだろう。1 部では、レギュラーシーズ ンとして全チームと 1 試合ずつ、合計 11 試合 の総当たり戦を行う。ホームゲーム 6 試合に アウェイ 5 試合、あるいはその逆になる。「4 つのホームユニオン(訳注 9)にイタリアとフラン スを加えた 6 か国対抗は、これまで同様、2 月 から 3 月の時期に行われる。現在の 6 月のテ ストマッチの時期(2020 年には 7 月に動く予 定)は、伝統的な 3 つのテスト・ツアーが、3 つの国々での一つのテストマッチへと置き換わ るだろう」[Robinson, 2019]。 一見したところ、その提案は見込みのあるも のだが、問題はその詳細だ。この新たな取り組 みは「ラグビー革命」と表現されているが、[新 しい]ネーションズ・チャンピオンシップの批 判者たちは、それを「むしろ総合的に、コマー シャル、マーケティング、スポンサーシップ改 革のように見える」と主張する。もしそれが、 エリートクラブや選手だけでなくラグビー界全

(12)

体に資するのであれば、そのように見なすこと は必ずしも悪いものではない。たしかに、提案 された大会はエキサイティングなものだろうか ら、毎年多くの聴衆を引き付けるだろう。とい うのも、それぞれの試合が重要性を持つよう なトップレベルの国際試合になるだろうし、最 終的には 2 つのベストなチームが争うという 形で幕を下ろすためである。同時に、2、3 の チームが毎年優勝してしまい、人々の関心を 失ってしまうという結末もあり得る。さらに、 RWC はどうなるのか? 間違いなく新しいネ ーションズ・カップが毎年行われるワールドカ ップのようになってしまうことを考えると、ワ ールドカップ自体のポジションや地位をどのよ うに維持していくのか? そして、ニュージーランドのオールブラック スへの影響はどのようなものか? これに関し ては、今のところ完全な推測であるが、実に 様々な見方が存在する。中には、新しい大会が 世界規模の露出(それゆえのスポンサーシップ の機会の増大)とより大きな放映権料をもたら し、ひいてはそれがオールブラックスの選手た ち(多くは地元で稼ぐ額を遥かに超える報酬が 得られる海外でのプレイを選んでいる)の賃上 げを可能にするため、新しい大会はニュージー ランドのラグビー界の救世主となると主張する 者がいる。さらに考慮すべき事実として、世界 で最も巨大で、裕福で、力強い企業の一つであ るアマゾンが、すでに 2018 年のドキュメンタ リー(訳注 10)で、オールブラックスとの提携に 関心を示してきたことが挙げられる。これは別 の世界的企業によるオールブラックスへの関心 を示唆しているのだろうが、その一方で、労働 者の人権や福祉に対してさほど関心を抱かず、 利益を最大化するために企業哲学としてあらゆ るものを商品と見なす、アマゾンのような企業 を脅威として理解することもできる。 ニュージーランドの人々の中には、最大の問 題がオールブラックスの未来よりもむしろ、草 の根レベルでの同スポーツの存続であると考え る人もいる。他のスポーツの選択肢が増えてい ることや、奨学金受給選手で構成されるエリー トラグビースクールが圧倒的な力で大会に勝っ てしまうこと、増加するエリート層内部で怪我 の危険性が認識されてきたことなどから、フィ ジカルスポーツ[ラグビー]は競技人口が減少 しつつある。過去 3 年間で 10 歳から 13 歳の 3,000 人の少年たちがラグビーからドロップア ウトした[Paul, 2019]――これはとても少な い人口(訳注 11)の国にとってかなり深刻である。 オールブラックスの元コーチであるジョン・ ハートは、ラグビーをキャリアとして追及する 選手たちと、単にレクリエーションや楽しみと してプレイしたい人々を共に包摂するために、 ニュージーランドのラグビー界はプロフェッシ ョナルな進路と参加重視の進路とに分かれるべ きだと主張している。彼はオールブラックスに は関わっていない――「私が見ている、もがき 苦しんでいるクラブと、プレイすることをやめ る生徒たちというのは、この競技の最下部なの である」(「ジョン・ハートはニュージーランド のラグビー界とグローバルなチャンピオンシッ プに警鐘を鳴らしている」2019)。ラグビーに とって 1 つのポジティブな変化は、全てのレ ベルでの女子ラグビーの成長である。2012 年 以降、女性選手の数はおよそ 28,000 人にまで 倍増しているが、これはニュージーランドの全 ラグビー選手の 18% にあたる[「ラグビー:5 人に一人が女子選手」,2018]。 象徴的なこととして、恐らく最も重要な変化 の兆候を示す事実は、ケンドラ・コックセッジ が女性選手としてニュージーランド史上初めて 国内ラグビー界で最も栄誉ある称号(年間ケル ヴィン・R・トレメイン・メモリアル・選手賞) を勝ち取ったことである。ニュージーランドの ラグビーにおける広範な文化的変容の一つの 指標としてのジェンダー表象における劇的な変 化は、革命として表現されてきた。そして、グ レガー・ポールというスポーツジャーナリスト によれば、その革命の端緒は、前段で触れたス

(13)

キャンダルへと遡ることができるという。つま り、2016 年、「ストリッパー・ゲート」とし て知られるようになった、ワイカト ・ チーフス によるシーズン終了パーティのことだ。ポール は次のように述べている[Paul, 2018, December 13]。 彼らのシーズン終了パーティでのストリッ パーとの間に起こった問題は最悪だった。そ れは、組織の幹部、管理者、選手、コーチ、 彼らの両親、報道関係者、スポンサー、それ からラグビーに携わるあらゆる人に、様々な 根深い偏見や振る舞いを乗り越えること、そ してまたより包摂的で、多様性があり、開放 的な状況を目指して努力することを余儀なく させたのである。 明らかに、変化は生じている。しかしながら、 女子ラグビーの成長が長期的にグローバルなラ グビーに対して文化的かつ、恐らくは経済的影 響力を持つ一方で、ニュージーランドのラグビ ー界は、未だに短期的かつ中期的に重要な課題 に直面している。例えば Paul[2019]は、た とえニュージーランドのラグビーが新しいリー グで有利なメディアでの扱いを確保し得たとし ても、ますます積極的になる海外市場からオー ルブラックスを守るには不十分だろうと述べて いる。北半球から日本にいたる国を含む、豊か な国々が多くの金を持っているというのが現実 であり、それは伝統的に国際的なキャリアの締 めくくりに[経済的な]チャンスを求めていた 年老いたオールブラックスの選手たちのみなら ず、キャリアの最盛期にある若い選手たちをも 魅了しているのである。この原稿を書いている 時点で、すでに海外チームと契約したという現 役のオールブラックスと元オールブラックスの 選手たちの長いリストは、以下のようになって いる。スティーブン・ルアトゥア、マラカイ・ フェキトア、リマ・ソポアンガは既に国を離れ、 リアム・スクワイア、ベン・スミス、ワイサ ケ・ナホロ、キアラン・リードも契約書にサイ ンをした。また、すぐにもニュージーランドを 去る、もしくは少なくとも長期有給休暇(訳注 12) を得ようとしている他の選手たちの名前が載っ た長いリストがある。とりわけ、この問題にお いて、日本は重要な当事者である。日本は、高 い給料、短期間で身体的にそれほど激しくない シーズン、そして海外選手とその家族をとても 歓迎してくれるという評判のおかげで、未だに 魅力的な行き先であり続けている。全体的に見 て、ラグビーのアスリート傭兵たちによる世界 規模の移動は、スーパーラグビーにとって差し 迫った含意を持つ。つまり、提供されるエンタ ーテインメントの商品が、[魅力的な海外リー グや強力なスポンサーのせいで]かつてそうで あったほど良質でないことを考えると、スター 選手たちが流出した結果、現在リーグに所属す る選手たちだけでは、スタジアムに通うファン たちやメディアを引き付けることができないと いうことである。 6.結び この論文の最初に述べたように、RWC2019 大会は、社会やラグビーというスポーツにおけ る広範な諸変化を理解するための分析可能で戦 略的な場としての機能を果たすことが知られ ている。本論文では、RWC2019 大会を契機に、 ニュージーランドのオールブラックスが、プロ 化の文脈における代表チームとして、また、世 界的企業とのスポンサーシップという文脈にお ける有益な商品として、どのように展開してき たのかという軌跡を示した。 1995 年にラグビーのプロ化が始まったこと は、世界のラグビーと、とりわけニュージーラ ンドのラグビーに劇的な影響をもたらしたこと が知られている。地元のスポンサーであったカ ンタベリーは、それまで 75 年間においてオー ルブラックスのパートナーであったのだが、そ の地位を、資金的にも遥かに強大で、より巨大

(14)

でより強力な世界規模の市場ネットワークを 持つアディダスによって、すぐに取って代わ られた。ついで、2016 年に 7 人制ラグビーが オリンピックの正式競技になることが発表され ると、世界的な保険・投資会社である AIG が、 スポンサーシップ契約に名乗りを上げた。この 契約により史上初めて、オールブラックスのジ ャージの胸元と袖に企業スポンサーのロゴがつ けられることになった。このようなすべての成 功にもかかわらず、グラウンドの内外で、ニュ ージーランドのラグビーは永続的な課題に直面 していた。すなわち、オールブラックスのトッ プ選手が海外に流出することを防ぐのに十分な 資金を確保すること、草の根レベルの選手数の 減少と、女性やマイノリティ集団に対する国技 としての[未熟な]態度を浮き彫りにするよう な数々のスキャンダルなどである。 文化的、経済的、そして政治的権力が、東方 へ、広範に世界規模で転換するさなか、これ からやってくる一連のスポーツメガイベント (RWC2019 大会、オリンピック・パラリンピッ ク 2020 東京大会[夏季]、オリンピック・パ ラリンピック 2022 北京大会[冬季])は、研 究者や政策決定者に、これらのイベントが開催 国や市民にどのような影響を与えるのか、熟考 する機会をもたらす。同様に、この論文で示し たように、このようなスポーツメガイベントは また、ラグビーというスポーツや、最も著名な チームの一つであるニュージーランドのオール ブラックスが、どのようにグローバル化の影響 や、ますますビジネス志向になっていくラグビ ーというスポーツの性質に適応しているのか、 ということを考察する機会を与えてくれるので ある。 【参考文献】

Aaron Smith on way home from ABs tour (2016, 6 October). Otago Daily Times, https://www.odt. co.nz/sport/rugby/all-blacks/aaron-smith-sent-home-abs-tour

Cully, P. (2019, January 30). New Zealand should

embrace World Rugby’s Nations Championship, warts and all, Stuff, https://www.stuff.co.nz/sport/ rugby/opinion/110252983/new-zealand-should- embrace-world-rugbys-nations-championship-warts-and-all

Goldman, R., & Papson, S. 1996. Sign wars: The cluttered landscape of advertising. New York: Guilford.

Fitzsimons, P. 1996. The rugby war. Sydney: Harper Collins.

Horne, J. 2004. The Global Game of Football: The 2002 World Cup and Regional Development in Japan. Third World Quarterly, 25 (7): 1233-1244. Horne, J. 2007. The Four “Knowns” of Sport

Mega-events’. Leisure Studies, 26(1): 81-96.

Horne, J., and W. Manzenreiter. 2006. An Introduction to the Sociology of Sports Mega-Events. The Sociological Review, 54: 1-24.

Jackson, S.J. 2004. Reading New Zealand Within the New Global Order: Sport and the Visualisation of National Identity’. International Sport Studies, 26(1): 13-29.

Jackson, S. J. 2014. The Other Sport Mega-Event: Rugby World Cup 2011. Milton Park, UK: Routledge. Jackson, S.J., Batty, R. and Scherer, J. 2001.

Transnational Sport Marketing at the Global/Local Nexus: The Adidasification of the New Zealand All Blacks’. International Journal of Sports Marketing and Sponsorship, 3(2): 185-201.

Jackson, S. J. and Haigh, S. 2009. Sport and Foreign Policy in a Globalising World. London: Routledge. Jackson, S. and Hokowhitu, B. 2002. Sport, Tribes and

Technology: The New Zealand All Blacks Haka and the Politics of Identity, Journal of Sport and Social Issues, 26 (1), 125-139.

John Hart sounds warning over global championship, state of New Zealand rugby (2019, February 3) New Zealand Herald, https://www.nzherald.co.nz/sport/ news/article.cfm?c_id=4&objectid=12200374 Lilley, R.1999, July 16. “Adidas thinks big over All

Blacks.” National Business Review (July 16: 11). Malone, A., Pearson, J. and van Royen, R. (2016, August

2). Chiefs forward Michael Allardice admits anti-gay slur at post season party, http://www.stuff. co.nz/sport/rugby/super-rugby/82713817/chiefs- apologise-launch-investigation-into-alleged-antigay-slur-at-post-season-party.

(15)

2.56 million at end of 2017 (March 28, 2018). Japan Times, https://www.japantimes.co.jp/ news/2018/03/28/national/number-foreign- residents-japan-hit-record-high-2-56-million-end-2017/#.W_dOYzFoSUk

Paul, G. (2018, December 13). How Black Ferns’ Kendra Cocksedge has shattered rugby’s biggest lie, New Zealand Herald, https://www.nzherald.co.nz/sport/ news/article.cfm?c_id=4&objectid=12176563 Paul, G. (2019, February 1). World League won’t save

New Zealand rugby’s sinking ship, New Zealand Herald, https://www.nzherald.co.nz/sport/news/ article.cfm?c_id=4&objectid=12200094

Porter, D. and M. Sam, M. 2013. Playing the Shell Game: Palming the Debt of Dunedin’s Stadium. Sport in Society, 16: 86-97.

“Primal team.” 1999. Admedia, October, 14 (9): 22-23. Robinson, G. (2019, January 30). Rugby Championship

and Six Nations could get promotion-relegation shake-up, Stuff, https://www.stuff.co.nz/sport/rugby/ international/110250432/fiji-and-japan-included-in-world-rugby-nations-championship-proposal Roche, M. 2000. Mega-Events and Modernity. London:

Routledge.

Rugby: Females a fifth of all players (2018, September 19). New Zealand Herald, https:// www.nzherald.co.nz/sport/news/article.cfm?c_ id=4&objectid=12127575

Sam, M. P. and Jackson, S. J. 2017. Sport Policy in Small States. London: Routledge.

Sam, M. P. and Scherer, J. 2008. Stand Up and Be Counted: Numerical Storylines in a Stadium Debate. International Review for the Sociology of Sport, 43 (1): 53-70.

Scherer, J. and Jackson, S. J. 2013. The Contested Terrain of the New Zealand All Blacks: Rugby, Commerce, and Cultural Politics in the Age of Globalisation. Oxford: Peter Lang Publishers. Scherer, J. and Jackson, S. J. 2010. Globalization, Sport

and Corporate Nationalism: The New Cultural Economy of the New Zealand All Blacks. Oxford: Peter Lang.

Scherer, J. and Jackson, S. J. 2007. ‘Sports Advertising, Cultural Production and Corporate Nationalism at the Global-Local Nexus: Branding the New Zealand All Blacks’. Sport in Society 10 (2): 268-84. Scherer, J. and Sam, M. 2012. Public Broadcasting,

Sport and Cultural Citizenship’. Media, Culture and

Society, 34(1): 101-11.

Silk, M., Andrews, D. and Cole, C. 2005. Sport and Corporate Nationalisms. Oxford: Berg Press. Tackle The Risk (2017). https://partner.allblacks.com/

engage/news/tackle-the-risk).

Test rugby for sale? Billionaire firm ‘eyeing world takeover’ (2019, January 8), New Zealand Herald, https://www.nzherald.co.nz/sport/news/article. cfm?c_id=4&objectid=12187239

Towle, M. (2017, April 2). Not everyone is a fan of the latest All Blacks ad, https://www.radionz.co.nz/ news/the-wireless/374542/not-everyone-is-a-fan-of-the-latest-all-blacks-ad. 【訳注】 1) オーストラリア国内のテレビ局(チャンネル 9)、出版、カジノなどを所有していた富豪ケ リー・パッカーとメディア王と呼ばれるルパ ート・マードックがラグビー ・ コンテンツを 巡って熾烈な競争を行った。プロ化を促進し たとされる。 2) スーパーラグビーとは、日本のサンウルブズ も所属する、ニュージーランド、オーストラ リア、南アフリカ、アルゼンチンの 15 のクラ ブチームで構成されるトップリーグ。チーフ スはワイカト地方ハミルトンを本拠地とする。 3) 「トイレット・ゲート」とは、1972 年アメリ カで起きたウォーターゲート事件をもじって、 メディアによって名付けられたもの。「 ストリ ッパー ・ ゲート 」 も同様。 4) 各委員の肩書きは以下。キャスリン・ベック (ニュージーランド事務弁護士会会長)、ジャ ッキー・バロン(ニュージーランドスポーツ カウンシル理事、元ネットボール選手)、リサ・ カリントン(カヌー金メダリスト)、ケイト・ デリー(企業人事担当幹部)、リズ・ダウソン (ニュージーランドクリケットおよびスーパー ラグビー・ハリケーンズ理事)、デイビット・ ハウマン(元世界アンチドーピング機構事務 局長)、マイケル・ジョーンズ卿(元オールブ ラックス、サモア系)、ケビン・メアラム(元 オールブラックス、サモア系)、デブ・ロビン ソン(オールブラックスの元メディカルドク ター)。さらに、ロビン・コックバーンおよび ルーシー ・ アトキンソン(アートや教育に関 するコンサルタント会社取締および共同経営 者)。 5) イングランド、スコットランド、ウェールズ、

(16)

アイルランド、フランス、イタリア間で行わ れる対抗戦。 6) ニュージーランド、オーストラリア、南アフ リカ、アルゼンチンの 4 ヵ国対抗戦。 7) 環太平洋を中心に、世界ランキングが下のチ ームを強化する目的ではじめられた大会。フ ィジーと日本も参加する。 8) 南北アメリカの 6 チームで行われる対抗戦。 9) イングランド、スコットランド、ウェールズ、 アイルランドのラグビーユニオンの総称。 10) 『オール・オア・ナッシング』という有料会員 限定の映像コンテンツ。 11) ニュージーランドの人口は 476 万人(2017 年 3 月時点の外務省ホームページ https://www. mofa.go.jp/mofaj/area/nz/data.html より)。 12) 国内で優秀な選手に特別に認められる制度。

参照

関連したドキュメント

(As mentioned in the introduction, Sch¨ utzenberger originally defined evacuation for standard Young tableaux before extending it to linear extensions of any finite poset.) We

(4S) Package ID Vendor ID and packing list number (K) Transit ID Customer's purchase order number (P) Customer Prod ID Customer Part Number. (1P)

The RESET pulse width, Wake Up signal frequency and RESET high to Wake Up delay time are all set by one external capacitor C Delay.. Wake Up Period = (4 × 10 5 )C Delay RESET

JAPAN STUDIES PROGRAMS IN ENGLISH AT THE GRADUATE SCHOOL OF HUMANITIES THE INTERNATIONAL MASTER’S PROGRAM (IMAP) IN JAPANESE HUMANITIES AND THE INTERNATIONAL DOCTORATE (IDOC)

- 122 - Sport Policy for Japan 2016.2. -イ 施設環境

 今回、史上最多となる 20 大学 53 チームが参加した Sport Policy for Japan 2016

The change in output voltage for a change in input voltage measured for specific output current over operating ambient temperature range..

■ Hosted by: UNIJAPAN (35th Tokyo International Film Festival Executive Committee)  ■ Co-Hosted by: Ministry of Economy, Trade and Industry / The Japan Foundation (Film Culture