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研究年報62集1号

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Academic year: 2021

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 本論文は,今日,スマートフォンやタブレット型端末などの ICT を用いた断片的な情報の断続的な発 信や受信が増大している現状を踏まえて,今日的な言語情報の特徴やその理解過程の理論について 考察している。電子書籍と紙媒体での書籍とにおける読解過程や機能の比較に加え,ここ数十年の ICT の進展および高速モバイルインターネット環境の整備,スマートフォンやタブレット型端末などの携帯 性に優れた端末の普及が読み書き環境にもたらした影響と,そこで必要とされている ICT に対応し調 整していく能力や,迅速性・即時性,コミュニケーションの重視が特徴とされている “New Literacies” についても検討した。さらに,大量に発信・受信されている言語情報が断片的であり省略が用いられ やすいという観点から,詩歌との通底性を論じ,詩歌の理解時の情報を復元・拡充する過程の解明が, 今日的な言語情報の理解に対して示唆をもたらす可能性について論じた。 キーワード: ICT,読解,推論,省略表現,詩歌

1. 今日的な言語情報の特徴

 現代では,文字・視覚・音声情報が大量に発信・受信されている。このような状態は,読解ないし理 解すべき対象(量)の増大と,領域・目的等の種類(質)の細分化・高度化を意味することが指摘され ている(深谷,2009a)。文章の理解,すなわち読解の心理学的研究においては,従来「単一かつ一 連の文章」が想定されることが多かったが,この枠組みでは現代の言語情報の理解を把捉しきれない。 複数の言語情報をそれぞれ内容を断片的な理解するだけでなく,自分の知識や他の情報とを関連づ けて一貫した理解が形成できた場合には,記憶はより安定的になる。とくに,現在多く存在している,複 数の文章(情報)が同時に呈示されている「包括的なテキスト(Comprehensive text)」の読解では, 読み手がそれぞれの情報を精緻化し,関連付けることが必要とされる (深谷 , 2005,2009ab)。  また,近年の ICT(Information and Communication Technology,情報通信技術)の進展と普及 として,最近30年ほどのパソコンの進展と普及,20年ほどの電子メールの普及,10年ほどのデジタ ルカメラや携帯電話の普及,そしてここ5年ほどのスマートフォンや電子書籍リーダー,タブレッ ト型端末の増加が,日本においても世界的にもあてはまることであろう。とくに,ここ数年来の 教育学研究科 准教授

ICT 環境における言語情報の理解

深 谷 優 子

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ICT の進展および高速モバイルインターネット環境の整備,そしてスマートフォンやタブレット型 端末などの携帯性に優れた端末の普及は急激な社会的変化として指摘できよう。  情報通信白書平成24年版によると,2009年から2011年にかけては,スマートフォンの急速な普 及に牽引されるような市場の拡大と普及率の向上が指摘されており,いわゆる「ユビキタスネット ワーク環境」が整備されたとも言われている。また,サービスの利用状況に関しては,パソコンとス マートフォン,タブレットなどの各端末からの利用率を比較してみると,その性格の違いが顕著で あるようである。例えば,パソコンからの利用を1とした場合,電子新聞の利用はスマートフォン・ タブレットともに約1.4 ~ 1.5倍,電子書籍の利用はスマートフォンが約1.3倍であるのに対し,タ ブレットは約2.4倍であるなど,携帯性に優れた端末はとくにテキスト系コンテンツへのアクセス に利用されていること,うちタブレットが電子書籍リーダーとしてより利用されていること,等が 示されている(総務省,2012)。  こうした高速モバイルインターネット環境と携帯性に優れた端末利用が広がることにより,日常 生活における文字の読み書き,あるいは音声といった言語環境の変化が進行中であると考えられる。 例えば,情報通信白書平成25年版では,モバイル(スマートフォン,Machine to machine (M2M)) やクラウド,ビッグデータ,ソーシャルメディア,スーパーハイビジョン(4K / 8K)・マルチスクリー ンなどを ICT の最新トレンドとして,「スマート ICT」と括っており,その利活用を進めるべきと している(総務省,2013)。こうした日進月歩の情報通信技術の進展とそれによる環境の変化は,私 たちの言語情報の理解や思考をどのように変化させうるのだろうか。

2. 電子書籍の読解

 前項でみたような ICT の進展と普及という社会的変化を通して,情報(コンテンツ)のデジタル 化が進んできた。なかでも,電子書籍の場合,伝統的な紙媒体での書籍と対比させることが比較的 容易であろう。  電子書籍の読解は,従来の紙媒体での書籍の読解とは,何がどのように異なるのであろうか。そ れらの差異は単に形態(媒体)の違いとされるのか,あるいは相互に代替不能な独自の機能が存在す るのであろうか。この点に関して,現在までの ICT による読みや読み支援に関する心理学的研究 においては,従来は難しかった操作や対応が電子化によって容易になる/拡張される機能の活用が 実証されてきている(Cf., 高橋・巌淵・河野・中邑,2011;廣瀬・伊藤・伊藤・小松・稲垣,2012)。  高橋ほか(2011)は,電子教科書を用いて,テキストの拡大やハイライト,テキストの音声化など を行うことで,読解のディコーディング処理や視知覚的な処理に困難を感じている子どもの足場と なっていたことが推察された。この報告に基づくと,読解処理に困難を抱えている段階では紙媒体 の教科書にはない電子媒体の拡張的な機能が有効とされるものの,それにより容易に読解が行える ようになると,電子媒体・紙媒体のいずれでも円滑に読解が行えるようである。この段階では,電 子媒体と紙媒体は互換ないし代替可能だと考えられる。  廣瀬ほか(2012)は,読みながらアンダーラインを引いたり,コメントを書き込むことができる特徴

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をもつ電子書籍を利用して協調読みの効果を検討している。 対象となる絵本を読んで,意見や感想を 各自が書き込み(一人読み),その後共有する(協調読み)というサイクルを繰り返す。セッションは6 日間であり,最終目標は,その絵本を他の児童に読み聞かせすることであった。結果は,協調読みによっ て,他の児童の意見を取り入れる動きがみられて内容理解が促進され,また自己効力感も向上してい たという。ここでは,本への書き込みなど紙媒体での書籍で行いにくい活動を通して,協調読みを成 立させている。協調読み自体は,従来の紙媒体での書籍でも実践可能であるが,そこに発言や検討内 容を文字化して,対応する箇所に埋め込みながら作業を進められるという機能が活用されている。  以上の知見を踏まえると,読解処理が困難であったり,読解や思考の軌跡を用いた活動をしたり, あるいは読みの導入期であった場合には,紙媒体の書籍にはない,電子書籍の拡張的で独自の機能 が有効であるものの,読解の熟達に伴い,紙か電子かといった媒体がもたらす際は顕著でなくなる ように思われる。現在,教育の場面においてタブレット型端末や電子教科書の導入は既に始まって おり新しい ICT に対応した研究によるさらなるエビデンスの蓄積が求められている。  また,書籍の形態は電子書籍に収束して一本化するという方向ではなく,書籍への多様なアクセ スとして,伝統的な紙媒体の書籍・オーディオブック・電子書籍等が今後も併存していくことと思 われる。これは,本物の本(real book)がもつ触知性(tactile)や永続性(durability)は,電子書籍で は代替が難しく,人は容易に手放すことはないという声にも沿うものである。

3. リテラシー,デジタル読解力,New Literacies

 伝統的なリテラシーは,いわゆる読解力や読み(reading)であり,書籍(とくに紙媒体に活版印刷 された「本物の本(real book)」)の理解が想定されてきた。そこでは,著者から読者へという一方向 性や,書かれた内容には一定の順序や論理に基づき配列された連続性があり,読者は基本的にその 制約のもとで読解する。  それに対して情報がデジタル化されたテキストの場合の読解はどのように行われるのであろう か。前項では一例として電子書籍を取り上げた。ただし,情報のデジタル化と言う際には,ハイパー テキストのような,ナビゲーションが必要とされる場合が想定されていることが多い。例えば, OECD-PISA は,デジタル読解力調査(Digital Reading Assessment;電子版読解力調査(Electronic Reading Assessment: ERA)と呼ばれることもある)について,読解力/リテラシーの一部として 扱っているものの,必要な技能が多少異なるとしている。  PISA 調査では,読解力を「自らの目標を達成し,自らの知識と可能性を発達させ,効果的に社 会に参加するために,書かれたテキストを理解し,利用し,熟考し,これに取り組む能力」と定義 付けている。このうち「書かれたテキスト」とは,プリントされたテキストだけでなく,インター ネットやコンピュータ上でアクセスできるようなデジタルなテキストも含まれる。したがって, デジタルテキストに基づく「デジタル読解力」は,上述の読解力の一部とみなされる。 (中略)

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 プリントされたテキストの読解(プリント読解)とデジタルテキストの読解(デジタル読解)に必 要な技能は基本的に同じであるが,媒体としての性質の違いからもたらされるものとして,例え ば,「情報へのアクセス・取り出し」では両者とも情報を選択,収集し,取り出す技能が求められ るが,デジタルテキストでは,それに加え複数のナビゲーション・ツールを利用し,多くのページ を横断しながら,特定のウェブページにたどり着き,特定の情報を見つけ出す技能が求められる。 あるいは「統合・解釈」では,プリントテキストの場合,すでに構築されている連続的なテキスト の内部において情報をまとめるのに対し,デジタルテキストの場合,リンクを選択し,テキストを 収集,理解するプロセスにおいて,それぞれのテキストの重要な側面を読み手自身が構築してい くという違いがある。さらに「熟考・評価」では,プリントテキスト以上に,デジタルテキストで は情報の出所や信頼性,正確さを吟味,判断しなければならない,などである。すなわち,デジタ ルテキストの読解にはプリントテキストの読解に加えて,新たな力点や戦略が必要とされる。 (PISA2009年デジタル読解力調査~国際結果の概要~ p.3より)  なお,ここで想定されているデジタルテキストとはハイパーテキストのみである。しかし,現在 私たちが読み書きする環境はもっと幅広く,メールやチャット,ブログ,ウェブサイトの作成・維持 や,SNS への参加,動画の製作や投稿,写真の投稿,インターネット検索,情報の読み・書き・評価 などが対象とされている。  Leu ほか(2004)によると,このような多様な実践において,伝統的なリテラシーでは対応が難し く,”New Literacies” が必要だとしている(表参照)。

表 Leu et al.,(2004)による ”New Literacies” の原則

1. The Internet and other ICTs are central technologies for literacy within a global community in an information age.

2. The Internet and other ICTs require new literacies to fully access their potential. 3. New literacies are deictic.

4. The relationship between literacy and technology is transactional. 5. New literacies are multiple in nature.

6. Critical literacies are central to the new literacies.

7. New forms of strategic knowledge are central to the new literacies. 8. Speed counts in important ways within the new literacies.

9. Learning often is socially constructed within new literacies.

10 Teachers become more important, though their role changes, within new literacy classrooms.

 ”New Literacies” の内容としては,批判的思考力に類似した批判的リテラシーや情報発信,他者 とのコミュニケーションなど複数の能力により構成されるものであり,また変化しうるものであるとされてい る。これらは,従来のインターネットリテラシーや情報リテラシー,あるいは ICT リテラシーやコンピュータ リテラシーなどと呼ばれているものを包含するものであるが,表において Leu ほか(2004)が挙げている ように,1)ICT との密接な関連,2)即時性・迅速性の重視,3)コミュニケーションが特徴とも言えよう。

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4. 省略を含む言語表現の理解

 「ユビキタス社会」が到来したとされ,現在の私たちの生活には,パソコンだけでなくスマートフォ ンやタブレット端末が当たり前のように存在するようになった。テクノロジーの進展は,確かに私 たちの言語環境に変化をもたらしたのであろう。例えば,多くの人が SNS やブログ等で「いつでも」 「どこでも」情報にアクセスしたり,また発信したりしている。そうした情報は,ひとつひとつは断 片的であったり比較的小さいものが多いかもしれないが,断続的に発信・受信されるために処理す べき情報量は増えてしまう。しかも即時的ないし迅速な対応が期待されがちである。  ただし,前項までにみてきた研究では,こうしたやりとりの理解過程や産出過程について十分把 捉できてはいない。一方,伝統的な紙媒体での文章を材料としてきた文章理解および文章産出の理 論やモデルだけで十分に説明あるいは予測できると考えることも難しい。  このとき,詩歌の理解と産出の研究知見が援用できる可能性がある。詩歌は,そのフォーマット やルールによる制約により,文法的には不完全であったり断片的であったりすることが多い。これ は,大量に発信・受信されている,今日的な言語情報が,字数やフォーマットによる制約のため,断 片的であったり,省略された表現になっていることとパラレルと捉えられるのではないか。  あたかも詩歌を理解するように,私たちは今日的な言語情報を処理しているという見方は,新た な研究アプローチをもたらす。省略を含む言語表現としての詩歌は,どのように認識されているの か。たとえば,俳句は,21字(より正確には21音,空白も含むリズムとしては24拍分;cf. 皆川, 2005)の制約があるなか,直接表現を避け,省略を極めた形での言語表現であり,読者はその表層的 な表現を手掛かりとして,情報を復元・拡充する(reinstate/enrich)ことで俳句を理解/鑑賞してい く(深谷,2008)。このように省略されたりや限定されたりする情報からの復元・拡充という点にお いて,詩歌の理解に関する研究知見を踏まえた研究は,今日的な省略表現を用いた言語情報の理解 過程における知識や推論の役割に関する新たな知見を提供できるものと考えられる。  常時インターネットに接続し,いつでもどこでも情報の発信及び受信が生じるという環境におい ては,ICT など技術の進展などの社会の変化に対しても,絶えず調整して柔軟に対応していく能力 が必要とされている(深谷,2013)。言語表現(フレーズや文あるいは文章)がどのように理解され 産出されるのかといった過程についても,例外ではない。したがって,その心理的過程を解明する ことは,現代的意義をもち,また心理学の理論への貢献の観点からも意義深いことであると言えよ う。そのなかで,現代社会において必要とされている「リテラシー」「読解力」を明らかにし,その実 践や育成への示唆を得ることが今後期待される。 【文献】 深谷 優子 2005. 読解研究における課題:包括的なテキストの一貫性と読解処理 『東北大学大学院教育学研究科研究年 報』, 53(2), pp.163-173. 深谷 優子 2006 読解力の測定と育成: 読解(力)概念の変遷を踏まえて 東京大学大学院教育学研究科教育測定・カリ キュラム開発(ベネッセコーポレーション)講座 2006年度研究活動報告書,pp.36-49.

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深谷優子 2008 俳句理解における心情把握と読書経験との関連 東北大学大学院教育学研究科研究年報,57,167-172. 深谷優子 2009a 読解における図表を用いた概要作成の効果 読書科学,52(1),15-24. 深谷優子 2009b 読解および作文スキルを向上させるピアレビューを用いた共同推敲 東北大学大学院教育学研究科 研究年報,57,121-132. 深谷 優子 2013 国語教育 . 『児童心理学の進歩2013年版』. 金子書房 . 廣瀬英子・伊藤慎吾・伊藤尚也・小松周平・稲垣達朗 2012 『平成23年度千代田学:千代田 Web 図書館を活用した協 調学習に関する基礎的研究』.

Leu, D. J., Kinzer, C. K., Coiro, J. L., & Cammack, D. W. 2004 Toward a theory of new literacies emerging from the Internet and other information and communication technologies. In R. B. Ruddell & N. J. Unrau (Eds.), Theoretical Models and Processes of Reading (5th ed.), Newark, DE: International Reading Association. 皆川直凡 2005 『俳句理解の心理学』. 北大路書房 . 文部科学省・国立教育政策研究所 2011 PISA2009年デジタル読解力調査~国際結果の概要~(http://www.nier.go.jp/ kokusai/pisa/pdf/pisa2009_Result_Outline.pdf) 総務省 2012 情報通信白書平成24年版 (http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/pdf/index.html) 総務省 2013 情報通信白書平成25年版 (http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h25/pdf/index.html)

高橋麻衣子・厳淵守・河野俊寛・中邑賢龍 2011 児童の読み困難を支援する電子書籍端末ソフト Touch & Read の 開発と導入方法の検討 認知研究,18,521-533

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This paper has examined the feature of current digital information and its comprehension process. In addition to the comparison of function and reading processes between traditional books with digital format book, how reading and writing have been affected by ICT in the past decades. Today, it seems that “New Literacies” are significant point to be emphasized. Furthermore understanding process of fragmental and short verbal information could be similar to those processes of poetry that include reinstate and/or enrich meaning.

Key Words:ICT,Reading, Inference, Poetry/Verse

Yuko FUKAYA

(Associate Professor, Graduate School of Education, Tohoku University)

Feature of Current Digital Information and

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