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Nihonbashi Gakkan University 日本橋学館大学紀要 第 11 号 2012 資料 報告 月齢と殺人 新聞報道の統計学的検討 村上 千鶴子 1 古橋 幸男 2 これまで神秘と考えられていた現象も 精緻な測定機器の開発や基礎理論の整備により 科 学的な視点から解明されていく可能

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日本橋学館大学紀要 第 11 号(2012) 資料・報告

はじめに

月の引力によって潮の干満が生じることは知ら れている。月の人に対する影響力についても、古 来様々なことが観察され、また伝承されている。 大ウミガメは自分が生まれた海岸で満月の夜に産 卵する、満月のときに出産や交通事故が多い、月 には癒しの力がある…などである。 近年、米国の精神科医 Lieber, L.A. は、満月の 犯罪に及ぼす影響を調査し、著書(1984、1996) に著している。そのバイオタイド理論(biological tides theory)によれば、月と人間の行動・感情 には関連があり、月の作用により満干潮が生じる ように、体内水分 80%の人間の生体にも潮汐作 用が起きていると仮定した。この「生物学的な潮 汐」が、人間の行動と感情を制御しており、この リズムを通じて生命体は宇宙と結びついていると いう。ハムスターを使った動物実験からも、満月 のときに代謝が最高になり、新月のときに代謝は 最低になったという。 Lieber によれば、月齢によって地球上の生命活 動は影響を受け、人の場合には、満月や新月で攻 撃的、病的になるという。また、月経、妊娠、恋愛、 セックスなど多くの生殖活動も影響を受けるとい う。しかし、人の場合には、精神が安定している 人ほど影響を受けにくい傾向があるという。 そして、それを実証するべく殺人事件生起件数 を調査した結果、新月の直後と満月の直前には殺 人事件が多いことを実証している。 満月と狂気については、1970 年代から 80 年 代に民間伝承との関連から研究がなされている が、近年、てんかん発作と満月の関係などが科学 的に詳細に研究され、結果はまだ一定しないが、 2011 年 9 月 27 日受理

The lunar cycle and homicide‒Statistical analysis of news paper reports 1 Chizuko MURAKAMI 日本橋学館大学リベラルアーツ学部 2 Yukio FURUHASHI 日本橋学館大学 2009 年度卒業生

月齢と殺人−新聞報道の統計学的検討

村上 千鶴子

*1

 古橋 幸男

*2 これまで神秘と考えられていた現象も、精緻な測定機器の開発や基礎理論の整備により、科 学的な視点から解明されていく可能性が高い。その際、それを導くのは、現象学的記述であり、 客観的かつ正確な調査であろう。民間伝承に関する実証的研究として、月の人の心理に対する 影響は古くから語り継がれてきている。最近では、てんかん発作と月齢についての研究や、海 洋生物を用いた月齢と内分泌系の動態調査などが行われてきている。ここでは月齢と殺人につ いて、新聞報道をデータベースとして先行研究と比較検討した。満月や新月の際の殺人件数の 増加については、幅を大きく取れば、先行研究と類似の傾向がみられたが、結果として報道件 数の比率が予想より少なく、更なるデータの集積が望まれた。それよりも、満月から下弦にか けての月の欠けて行く時期には、上弦から満月への月の満ちてくる時期に比べて、殺人件数が 波状の増減を示しており、殺人生起に何らかの影響があることが示唆された。これまで迷信と 片付けられていた現象も、その因果や関連を詳細に真摯に検討することで、科学的説明が可能 になることが示唆された。 キーワード 月齢 殺人 民間伝承 生体リズム 態様変化

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月というよりは夜の明るさが影響している可能 性(Baxendale 他、2008)を指摘する研究も現れ ている。他にも人間や動物の行動、生理に及ぼす 月の影響についての研究が現れてきている。魚を 始めとした海洋生物を使った生理学的研究が、明 暗と月齢を変数としてメラトニンを指標に実施 されてもいる(Rahman 他、2004、Takemura 他、 2010)。つまり、高度に精密化した科学的測度を 用いて、月の影響を海洋生物の生理、人の行動に 関して新たな視点から研究しようという流れが出 てきている。 これまでに知られている医学的知見についてま とめれば、以下の様になろう。 生体リズム(baio-rhythm):生体リズムという のは、地球の公転や自転に合わせた人体の生理的 なリズムのこと。人間だけでなく地球上の生物す べてが持つリズムで、地球の公転に関係した「季 節リズム」と、自転に関係した「概日リズム」が ある。前者の例としては、鳥の渡りやクマの冬眠 などが有名である。ヒトの病気にも秋から冬にか けて気分が落ち込んで「うつ」状態となり、過食 や過睡眠の症状がみられる「うつ病」が知られて いる。 概日リズム(circadian rhythm):地球の自転に 伴う昼夜(明暗)リズムによるのが約 24 時間周 期の概日リズムで、医学的にも重視されている。 このリズムの例では、体温がある。体温リズムは、 昼夜の明暗サイクルに一致して変化することがわ かっている。 また、ホルモンの分泌にもリズムがあり、副腎 皮質ホルモンは睡眠中の後半に分泌され、また、 成長ホルモンは深い睡眠中に分泌される。さらに、 自律神経のうち交感神経は昼間に、副交感神経は 夜間に働きが活発になるというリズムもある。ヒ トを含む昼光性生物の概日リズムは正確に 24 時 間周期ではなく、それよりもやや長めとなってい る。ヒトの周期は実際には約 25 時間だが、朝に 浴びる光や食事のタイミング、職場や学校の就業 時間などの社会的要因によって、24 時間周期で 生活している。 夜の時間帯に人工的に強い光を浴びせると、概 日リズムの周期は延長し、入眠のタイミングも遅 くなる。その意味では、PC の夜間使用の際には 照度に留意する必要がある。 体内時計:季節リズムや概日リズムなどの生体 リズムをつくっているのが、生物の「体内時計」 である。哺乳類の場合、体内時計は脳の視床下部 の「視交叉上核」にある。その「体内時計」の時 刻合わせをしているのが朝に目から入る光であ る。 体内時計は、外界のさまざまな事象の時間的変 化(同調因子)を手がかりとして、内因性リズム の周期を 24 時間に微調整するとともに、内因性 リズムの位相と外界の時間の関係を調節する。同 調因子には、①光による明暗、②家庭・学校・会 社・仕事・遊びなどの社会的因子、③食事、④身 体的運動、⑤温度・湿度・騒音・振動などの環境 因子である。 人間には、朝の光は同調因子として作用し、位 相前進反応を起こすことにより、24 時間の環境 変化に生体リズムを同調させていると考えられて いる。これらの外界の変化に生体リズムが同調で きない場合に、睡眠障害、日中の過度の眠気や慢 性疲労感、集中困難などの症状が出現する。 そのうちでも、体内時計に最も影響を受けるの が睡眠である。朝起きて目から太陽光が入ると、 体内時計はその 14 ∼ 16 時間後に眠りに入るよ うに、睡眠を促すメラトニンを、脳の松果体から 分泌し始める。2001 年に米紙サイエンスに、「体 内時計」は、脳内だけではなく、皮膚などの細胞 にもあることを、神戸大学の岡村均教授らのグ ループが動物実験で突き止めた。 このように、光刺激が生体に与える影響には看 過できないものがある。光照射は、現在では、う つ病治療の光照射療法などにも応用されている。 電磁波影響の中でも、光刺激は PC の夜間使用な どで、不眠や自律神経失調症状を誘導するものと して、影響力の強いものである。 自然界では、夜間に光るものは、夜光作用をも

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つ動植物と月明かりに限られている。月の照度は、 太陽とは比べものにならないが、暗闇の中では、 ひときわ目立つ。現代都市生活においては、夜間 でも明るい街並みや、家庭の明るい照明、PC 画 面の光が我々に四六時中降り注いでいる。 本研究の目的:本研究では、殺人事件に関する 新聞報道をデータベースとして、月齢と殺人の間 に統計学的に関連があるのかどうかを検証するこ ととした。その際、殺人事件の態様も検討資料と するため、同時に調査する。

方法

1.1987 年 1 月 1 日から 1988 年 12 月 31 日まで の 2 年 間(1987−1988 群 ) お よ び 2007 年 1 月 1 日から 2008 年 12 月 31 日までの 2 年間(2007 −2008 群)の、計 4 年間の殺人事件報道記事に ついて、朝日新聞関東版縮刷版を用いて、月齢ご との殺人事件の件数について調査した。始めに、 データ収集のカテゴリーを定め、それに合わせて 新聞報道を整理した。事件当時の月齢については、 事件生起年月日から「月齢カレンダー」を参照し て算出した。その際、Lieber の調査結果と比較 するために、Lieber と同様に月齢を 15 区分した。 2.また、本研究の 2 群の比較として、20 年間を 隔てて殺人の態様にどのような変化があったのか を知るため、容疑者の年齢階層、殺害場所、殺人 の動機、殺害方法、凶器、容疑者−被害者関係に ついても調査した。 使用統計:2 の両群の比較では、χ2検定を用 いた。計算には、SPSS19.0J を使用した。

結果

1.月齢と殺人件数 各 2 年間の殺人報道を調査し、殺人の生起した 時間を調査し、月齢に直した上で、上記 Lieber の区分に従って 15 区分ごとに報道件数を集計し たところ表 1 のようになった。なお、記事から 犯行日が推定できる事件のみを扱った。1987 年 から 1988 年の 2 年間で計 239 件の殺人事件が、 2007 年から 2008 年の 2 年間で計 183 件の合計 422 件の事件が対象となった。日本における年 間殺人事件認知件数は、年々僅かながら減少し ており、1200 ∼ 1600 件前後(1987 年 1645 件、 1988 年 1476 件、2007 年 1199 件、2008 年 1297 件)で推移している。今回の調査の報道件数自体 は、 各 2 年 間 で 1987−1988 年 は 425 件、2007 −2008 年 に は 364 件 と、 年 間 殺 人 認 知 件 数 の 14%∼ 15%程度であったが、犯行日が明確に特 定できる事件数は、今回の月齢に関する調査では、 2 年間で 239 件、183 件と実際の認知件数と比較 すると 7%余りの事件報道数であった。 表 1 グループ別の月齢と殺人報道件数 グループ 1987−1988 2007−2008 1新月 13 12 25 2 13 10 23 3 22 14 36 4上弦 22 11 33 5 20 6 26 6 13 14 27 7 17 13 30 8満月 10 15 25 9 16 12 28 10 18 11 29 11 20 14 34 12下弦 12 8 20 13 17 15 32 14 11 11 22 15 15 17 32 合計 239 183 422

Lieber の Florida 州 Miami-Dade 郡の調査(15 年間 1887 件)では、新月の直後と満月の直前に は殺人事件が多いが、Ohio 州 Cuyahoga 郡の調 査(13 年間 2008 件)では、新月の後、満月の 後、下弦の直後に殺人事件の件数が多くなってい る。本調査では、新月の後、満月と下弦の間、下 弦の直後、新月の直前でピークを形成している。 Lieber の Florida の調査では、新月から満月の ピークの間隙では、なだらかな変化を示しており、

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満月から新月までのピークの間隙では急峻な波状 の変化を示している。それはおおまかには、今回 の調査の 4 年間の合計数でも見られる傾向であっ た。Ohio 州の調査結果の図からは、満月と下弦 の間でピークがないが、おおむね同様の傾向がみ られた。全調査の傾向として、上弦前から満月前 までの間に、大きなピークはみられていない。 また、より詳細にみると、1987−1988 年の月 齢ごとの推移でも、上記と同様の傾向がみられた が、2007−2008 年の集計では、かなり異なった プロフィールを示している。上弦の後に落ち込み があるほかは、月齢に関係なくほぼ一定の件数に なっている。 2.1987−1988 年群及び 2007−2008 年群両群 間の殺人の態様変化 以下に、殺人の態様について、両群での割合を 図示する。実数値については付録データ参照。な お、新聞記事報道からの網羅的な情報ではないた め、カテゴリー別で合計数に相違が生じている。 ここで使用された事件数は、最大で 1987−1988 年群 425 件、2007−2008 年群 364 件であり、そ れぞれ実際の認知件数の 13.7%、14.6%であった。 文中に各カテゴリーごとのχ2検定結果を示す。 検定にあたっては、不明を除外した。 容疑者の年齢階層 容疑者の年齢階層では、1987−1988 年群では 20 代から 40 代の割合が多かったが、現代は 50 代から 70 代の割合が増えている。これは、全国 調査による犯罪の動向と合致している。 図 1 月齢と殺人生起に関する今回の調査と Lieber の調査結果の比較 (Leaver:殺人認知件数、本研究:殺人報道件数) 80 70 60 50 30 20 10 ↑満月 ↑下弦 ↑上弦 ↑新月 1987-1988 年群 Miami-Dade 郡 Cuyahoga 郡 2007-2008 年群 図 2 年齢階層別容疑者年齢の割合の比較 0 7.8 19.8 25.3 18.3 1 0.8 0 0 7.3 7.6 2.9 16.4 16.8 18.5 14.2 11.6 7.6 3 0 0 21.1 1987-1988 2007-2008 7.6 2.9 16.4 16.8 18.5 14.2

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殺害場所 両群間の殺害場所の比較では、殆ど相違はみら れなかった。 殺人の動機 両群間で、比較したところ、「かっとなって」、 「トラブルから」、「容疑者に障害があった」など が 1987−1988 年群で多かった。反対に、「金銭 問題」、「厭世」が 2007−2008 年群で相対的に多 くみられたが、不明が多かったので全体の傾向は 明言できない。(χ2(9)=41.67, p<.001) 図 3 殺人の動機の両群間の割合の比較 (χ2 (9)=41.67, p<.001) 15 4 11 5 5 2 2 10 10 11 26 8 7 9 4 3 3 10 5 4 8 38 1987-1988 2007-2008 殺害方法 殺害方法では、両群間に有意な相違はなかった (χ2(5)=10.65, n.s.)。 凶器 凶器の比較では、1987−1988 年群では、「ひ も類」、「銃」が多かったが、2007−2008 年群の 現代では、「棒類」が増えている(χ2(5)=14.49, p<.01)。 図 4 凶器の両群間の割合の比較 (χ2 (5)=14.49, p<.01) 31 19 10 6 5 15 14 33 12 6 5 10 14 21 ಺‛ ߽߭㘃 ㌂ ⚛ᚻ ᫔㘃 ߘߩઁ ਇ᣿ 1987-1988 2007-2008 容疑者−被害者関係 容疑者と被害者の関係では、1987−1988 年群 が「友人関係」が多く、「夫婦関係」の割合もや や多くなっている。2007−2008 年群では、「親子」 の割合が増加し、「兄弟」、「親戚」も増えている (χ2(6)=132.30, p<.001)。 図 5 容疑者−被害者関係の両群間の割合の比較 (χ2(6)=132.30, p<.001) 7 19 1 2 12 21 15 23 5 27 3 5 4 20 14 23 ᄦᇚ ⷫሶ ఱᒉᆌᆂ ⷫᚘ ෹ੱ ⍮ੱ ή㑐ଥ ਇ᣿ 1987-1988 2007́2008

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以上をまとめると、現代の殺人は、20 年前に 比べて、容疑者の年齢階層では、50 代から 70 代 の割合が増えて上昇している。動機については、 「かっとなって」、「トラブルから」、「容疑者に障害 があった」などが下がり、「金銭問題」、「厭世」が 相対的に多くみられた。凶器の比較では、「ひも 類」、「銃」が減少し、現代では、「棒類」が増え ている。容疑者と被害者の関係では、20 年前には 「友人関係」が多く、「夫婦関係」の割合もやや多 かったが、現代では、「親子」の割合が増加し、「兄 弟」、「親戚」の割合も少数ながら増えている。

考察

1.月齢ごとの事件生起件数の特徴 今 回 の 調 査 で も、Lieber の 2 つ の 調 査 で も、 新月前後、満月前後に殺人事件が生起し易いこと が指摘された。新月から満月まではなだらかな増 減を示し、満月から新月までは概ね急峻な波状の 変化を示していた。新月から満月への変化は、月 の引力が徐々に高まる時期であり、それは漸増の 形で人間への影響力を増す可能性を示している。 一方、満月から新月への変化は、狂気の絶頂から の減衰を意味しており、狂気を引きずりながらそ の狂気が漸減していく時期であるが、狂気の名残 はいまだ存在し、残り火に小さく火がつくように、 行動化が生起しピークを何度か形成する可能性が 示唆される。 狂気とは必ずしも整合しないが、大うつ病エピ ソードでは、患者の気分の波が大きく落ち込む時、 落ちはじめの前半は、徐々に気分が沈み、最低部 に達したときには、動くこともできなくなる。そ こから徐々に回復していくときには、最低部での 気持ちを引きずりながら、徐々に動けるようにな るので、自殺の危険はむしろ後半に大きいといわ れている。行動化の可能性は、ピークを除けば、 後半期にあると考えられる。殺人行動と抑うつで は行動化に関しては正反対の側面があるが、攻撃 性の亢進と捉えれば、うつによる自殺行動は自己 に対する攻撃性が亢進した状態であり、殺人は他 者に対する攻撃性が亢進した状態である。その意 味で、前半部と後半部の心理機制については両者 の間で共通するものがあるのではないだろうか。 健全な状態から徐々に損なわれる時には、健全 さを基盤にしているため、大きな変動は起きにく い。しかし、破綻した状態から健全に向けて回復 していく時には、破綻がベースになるため、不安 定な気分を引きづっており、それが、事件生起に 波を生じさせていると考えられる。潮の干満は、 物理的な現象であるが、満月に引っ張られて干潮 になるときとその引力が弱まって満潮になるとき とでは、干満のリズムにも差があるのではないだ ろうか。人間行動の場合には、それにホルモン分 泌や心理的要素が関わってくるため、より複雑な リズムを刻むことになるとしても理解できる。 2.2007−2008 年の報道殺人件数の他の統計 との相違について ここでまず指摘しなければならないのは、報道 件数の予想外の少なさであろう。ある程度の件数 が収集されなければ、特徴としては析出しない可 能性が今回の調査で分かった。生物学的な要因以 外の要素が増えるほど、多変数の統制のためにも 件数をある程度確保する必要があるテーマである ことが分かった。また、生体リズムに影響を与え る要因のひとつに社会文化的な要因が挙げられて いることを考えれば、現代生活は、生体リズムを 障害し易く、生体リズムの関与の低い犯罪行動が 増加していることも考えられる。 これを実証するためには、より詳細な調査が必 要になろう。 そこで、実施した調査結果が結果 2 であるが、 それによると、現代の殺人は、20 年前に比べて、 容疑者の年齢階層が上がり、動機も激情に駆られ てというよりも金銭問題、厭世が増えている。容 疑者の障害に関しては、治療がいきわたりつつあ ることも減少の要因であるだろう。凶器の比較で は、現代では、バットなどの棒類が増えている。 容疑者と被害者の関係では、親子の割合が増加し、 兄弟、親戚も少数ながら増えており、家庭がもは や避難所であるよりも殺害の生起する危険な場所

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になっていることを示唆している。 現代の家族生活は、それ自身がストレス要因に なっており、その中で長時間を過ごす家族成員は、 現代社会のストレス増加とともに、安らぎの場所 もなく体調を壊すことになるようである。そのよ うな状況の中では、生体リズムも概日リズムも正 しく刻まれなくなっているとしても不思議はない。 3.認知件数と報道件数の解離について 今回の調査結果は、殺人事件認知件数と比較す ると 7%余りの事件数であった。実際の事件数と はかけ離れているため、朝日新聞報道局に問い合 わせたところ、全国の事件を網羅しているわけで はなく、関東版では関東で生起した事件が中心に なること、その時の重要事件に合わせて紙面が振 り分けられるため、必ずしも毎日均等に殺人報道 がなされるわけではないこと、縮刷版に編集しな おすときに、再編集がなされてそこで割愛される 記事もあることなどが分かった。また、新聞報道 を用いているため、正確な犯行時刻を同定するこ とができる事件数は必然的に減少する。恣意的 な割愛、削除ではない。本研究の目的を考える と、必ずしもランダムサンプリングである必要も なく、また目的に合わせた意図的な操作もなされ ておらず、かつ、その情報源が明示されているの で、時と発行場所を特定した全数調査であるとみ なせば意義は損なわれないと考える。Liever の 先行研究のように、地方の一検視官の全数記録 データや検察、警察などの公的記録などを用いて 殺人事件の詳細を入手できない場合には、新聞報 道をデータベースにすることは、あり得べきひと つの選択肢であると考える。また、図 1 をみても 明らかなように、2 年間よりも 4 年間の合計の方 が、事件発生件数のプロフィールの特徴が明らか になっている。これは、事例数が増えるほど月齢 ごとの事件生起件数の特徴が明らかになる可能性 を示唆している。年間の詳細な報道件数の希少さ を補う一手段として、Lieber のように、10 年間、 20 年間の事例を集計すれば、特徴がより明確に なる可能性がある。 今後は、調査年数を増やした研究が期待される が、それとは別に、一般人を対象に、生化学・生 理学的指標と攻撃性尺度得点の月齢ごとの比較研 究も基礎研究として興味深い。人間行動の場合に は複雑で多様な要因が関わっており、より原初的 単純な行動に注目する必要があるだろう。 以上みてきたように、これまで神秘と考えられ ていた現象も、精緻な測定機器の開発や基礎理論 の整備により、科学的な視点から解明されていく 可能性が高い。その際、それを導くのは、現象学 的記述であり、客観的かつ正確な調査であろう。 その意味では本研究のような民間伝承に関する実 証的研究も科学の進歩に貢献できるのではないだ ろうか。迷信と片付けてしまう前に、現象の因果 や関連を真摯に検討する姿勢が科学の進歩には不 可欠なのである。 なお、この研究は、学生の卒業論文の調査結果 データを用いて、筆頭著者が先行研究の追加とま とめ直し、結果の整理、および医学的、精神病理 学的な考察を加えたものである。よって、本学紀 要資料として、当該卒業論文作成学生を共著者と して提出する。 参考文献 1 )朝 日 新 聞 縮 刷 版,1987 年 1 月 ∼ 12 月,1988, 朝日新聞出版局 2 )朝 日 新 聞 縮 刷 版,1988 年 1 月 ∼ 12 月,1989, 朝日新聞出版局 3 )朝 日 新 聞 縮 刷 版,2007 年 1 月 ∼ 12 月,2008, 朝日新聞出版局 4 )朝 日 新 聞 縮 刷 版,2008 年 1 月 ∼ 12 月,2009, 朝日新聞出版局 5 )こよみのページ 月齢カレンダー http://koyomi.vis.ne.jp/moonage.htm 6 )志賀勝「人は月に生かされている」2000,中央 公論社,東京 7 )法務省法務総合研究所 平成 3 年版犯罪白書 . 1992,佐伯出版 8 )法務省法務総合研究所 平成 19 年版犯罪白書 . 2008,佐伯出版 9 )法務省法務総合研究所 平成 20 年版犯罪白書 . 2009,佐伯出版 10)法務省法務総合研究所 平成 21 年版犯罪白書 .

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2010,佐伯出版

11)Lieber, L.A. 「月の魔力」(藤原正彦,藤原美子 共訳)1984,東京書籍,東京

12)Lieber, L.A. 「増補版 月の魔力」(藤原正彦, 藤原美子共訳)1996,東京書籍,東京

13)Baxendale S, Fisher J. Moonstruck. The effect of the lunar cycle on seizures. Epilepsy Behav. 2008 Oct;13(3):549-50. Epub 2008 Jul 22.

14)Rahman MS, Kim BH, Takemura A, Park CB, Lee YD. Influence of light-dark and lunar cycles on the ocular melatonin rhythms in theseagrass rabbitfish, a lunar-synchronized spawner. J Pineal Res. 2004 ;37(2):122-8.

15)Takemura A, Rahman MS, Park YJ. External and internal controls of lunar-related reproductive rhythms in fishes. J Fish Biol. 2010 ;76(1):7-26.

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資料データ(件数) 容疑者年齢 1987−1988 2007−2008 10歳未満 0 0 10 30 22 20 76 51 30 97 56 40 70 43 50 29 35 60 11 23 70 4 9 80 3 0 90 0 0 不明 63 64 383 303 犯行場所 1987−1988 2007−2008 被害者宅 179 157 容疑者宅 22 15 店内 9 3 路上 55 55 その他 44 26 不明 28 21 337 277 殺人の動機 1987−1988 2007−2008 激昂 55 28 金銭 16 22 強盗 40 32 被害者の病苦 19 15 怨恨 17 10 ストレス 6 9 厭世 9 35 トラブル 38 18 容疑者に障害 37 13 その他 41 26 不明 99 130 合計 377 338 殺害方法 1987−1988 2007−2008 刺殺 133 139 絞殺 92 69 撲殺 31 38 放火殺人 23 15 射殺 38 18 その他 47 44 不明 21 15 合計 385 338 凶器 1987−1988 2007−2008 刃物 118 100 ひも類 72 36 39 17 素手 24 16 棒類 20 30 その他 56 42 不明 55 63 合計 384 304 容疑者被害者関係 1987−1988 2007−2008 夫婦 30 18 親子 82 97 兄弟姉妹 3 11 親戚 9 18 友人 50 14 知人 91 71 無関係 63 50 不明 97 85 合計 425 364

参照

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