欧州における余剰となる土地・設備(製油所・SS 等)の活用策調査
一般財団法人 石油エネルギー技術センター 調査情報部 宮田 順次 株式会社 ローランド・ベルガー 橋本 英之1.研究開発(調査)の目的
現在、欧州の石油会社は石油需要の大幅な減少や代替エネルギー台頭という急激な 環境変化による厳しい経営環境にさらされた状況の中、生き残りをかけた統廃合を進 めている。同様に、我が国でも石油需要は大幅に減少しており、その対応として石油 会社同士の統合や製油所の統廃合及び油槽所/SS の閉鎖やそれらの再開発をいかに効 率よく、利用価値高く進めていくかが喫緊の課題となっている。 本調査は、欧州の石油会社の製油所/油槽所/SS の閉鎖後の土地/設備の処理や再 開発における成功事例を中心に調査する事により、今後我が国の石油企業が対応すべ き課題と対応指針を浮き彫りすることを目的とした。また、各事例において土壌浄化 を始めとする各種規制や政府の援助体制についても着目することにより、それらによ る処理や再開発への影響あるいは効果を調査した。2.研究開発(調査)の内容
(1)我が国石油産業への示唆に富む経営資源縮小の事例を複数抽出 -深掘り対象は製油所、油槽所又はSSの各2~3事例を想定する- • 石油下流資産(製油所、油槽所、SS)の閉鎖事例 • 下流資産を他社へ売却した事例 • 近隣製油所との統合事例 等 (2)経営資源縮小の判断基準、他の選択肢との比較評価方法 (3)残存するSSネットワークへの供給機能の維持方法 • 自社内供給システムの組み換え • 他社からの供給契約 (4)余剰となる経営資源の活用方法 • 石油事業内の他用途への転用 • 石油事業以外への活用と決定時の判断基準 • 上記判断に至った背景と判断基準 (5)余剰資源の活用に対する障害の克服方法 • 地元対策(地方政府、関連当局、各種団体) • 従業員対策 • 取引先対策 • 土壌浄化 • 用途変更 (6)関連する制度・法規 • 労働法規 • 土壌汚染防止法 • 地域振興制度 等 (7)余剰となった経営資源活用の成果 • 余剰資産活用による事業収益、資産売却益 • 従業員支援、地元雇用への貢献 • 地域経済への貢献 (8)経営資源縮小に向けた検討・実施体制 • 本社の体制 • 現場の体制 • 地元政府・関係機関の体制 (9)我が国石油産業との比較と示唆の抽出 • 我が国の石油業界における再編シナリオとその得失 • 上記に影響を与える規制・制度に対する考察3.研究開発(調査)の結果
(1) 欧州の石油業界を取り巻く環境 欧州ではエネルギー需要、石油需要ともに 2006 年をピークに減少傾向にあり、特に リーマンショック以後大幅に市場は縮小している。中でも主要国と言われるドイツや フランス、イギリスなど、欧州経済を牽引してきた国の減退が大きく起因している。 図表3-1 欧州における石油製品需要推移 [千バレル/日] それに伴い、製油所の稼働率も低下しており、2006 年の 96.2%から 2009 年には 90.6%となっている。これらを背景として、欧州では 2000 年代後半から徐々に閉鎖さ れる製油所が増加してきており、今後も一層の精製能力の削減が必要とされている。 このような状況はさらに下流の油槽所や SS の運営にも大きく影響しており、同じく多 くの施設が閉鎖を余儀なくされている。 これらの施設の閉鎖及び再開発で各企業が特に留意すべき規制は 2 つであるといわ れている。一つ目は労働協議会あるいは労働組合である。欧州では EU として労働者保 護に対する統一した規制を敷いており、各国がそれを国内法制化している。詳細は国 によって異なる場合があるが、基本的には突然の事業方針の転換や解雇が従業員に通 達されることがないようになっている。具体的には事業方針の転換や解雇が発生する 場合には、従業員との協議が義務となっている。二つ目は、土壌浄化に関する規制で ある。欧州では基本的に汚染による「リスク評価」によって義務を定めるアプローチ を採用している。ここでのリスクとは、土壌汚染が最終的に住民や農業や工場等の周 辺に障害をもたらす可能性のことである。また、それらを場所ごとに評価していると ころも欧州の土壌関連規制の特徴であるため、閉鎖時の浄化にかかる費用は事例ごと に異なる。 1,956 (13%) 1,785 (12%) 1,813 (12%) 1,602 (10%) 1,093 (7%) 4,388 (29%) 2005 15,204 2,605 (17%) 1,960 (13%) 1,802 (12%) 1,819 (12%) 1,619 (11%) 1,070 (7%) 4,329 (28%) 2004 15,032 2,634 (18%) 1,978 (13%) 1,764 (12%) 1,873 (12%) 1,593 (11%) 1,003 (7%) 4,187 (28%) 2003 14,868 2,664 (18%) 1,965 (13%) 1,717 (12%) 1,927 (13%) 1,559 (10%) 962 (6%) 4,075 (27%) 2002 14,797 2,714 (18%) 1,967 (13%) 1,693 (11%) 1,943 (13%) 1,526 (10%) 952 (6%) 4,002 (27%) 2001 14,861 2,804 (19%) 2,023 (14%) 1,697 (11%) 1,946 (13%) 1,508 (10%) 942 (6%) 3,941 (27%) 2000 14,692 2,763 (19%) 2,007 (14%) 1,697 (12%) 1,956 (13%) 1,452 (10%) 897 (6%) 3,921 (27%) 1990 13,925 2,708 (19%) 1,910 (14%) 1,762 (13%) 1,932 (14%) 1,040 (7%) 763 (5%) 3,810 (27%) 1980 14,806 3,056 (21%) 2,262 (15%) 1,672 (11%) 1,972 (13%) 1,070 (7%) 798 (5%) 3,976 (27%) 1,714 (11%) 1,759 (12%) 1,617 (11%) 1,144 (8%) 4,374 (29%) 2006 15,260 2,624 (17%) 1,923 (13%) 111万BPD減 (-7%) ドイツ フランス イギリス イタリア スペイン オランダ 2009 2,422 (17%) 1,902 (13%) 1,681 (11%) 1,580 (11%) 1,492 (11%) 1,680 (11%) 2008 14,775 1,574 (11%) 1,089 (7%) 4,332 (29%) 2007 1,833 (13%) 1,611 (11%) 2,517 (17%) 14,143 1,054 (7%) 4,151 (29%) 14,926 2,393 (16%) 12カ国 15カ国 27カ国 その他の EU加盟国2 25カ国 9カ国 88万BPD 減(-8%) (06-09)(2) 施設閉鎖後のプロセス 施設が閉鎖された後のプロセスは、製油所/油槽所/SS で大きく異なる。利害関係 者や土地浄化に係るコスト、設備・土地売却に係るコスト、開発実施者、開発期間で 3 者を比較すると、製油所の再開発事業は大規模且つ難易度の高い再開発となり、油槽 所は規模/難易度ともに中程度、SS は小規模で難易度の低い再開発となっている。 図表3-2 施設閉鎖における条件比較 図表3-3 製油所閉鎖に係る費用概要 製油所閉鎖後の土地/設備活用プロセスは大きく計画策定と計画遂行の 2 つのフェ ーズに分けられる。計画策定フェーズにおいては、土地/設備の利用方法決定及び基 本計画を策定し、計画遂行のフェーズでは、各チーム結成を始めとし、実際に操業を 停止し、土地・設備を再活用するまでの業務を遂行する。 製油所 油槽所 SS 製油所閉鎖のプロセス (大規模で難易度の高い再開発) 油槽所閉鎖のプロセス (規模/難易度が中程度の再開発) 土地浄化に 係るコスト 利害関係者 設備・土地売却 に係るコスト • 多くの従業員 • 政府、地方自治体 • 地域住民 多 •• 従業員(地方自治体) • (地域住民) • 少数の従業員 • アルバイト 少 • 敷地が広く、扱う物質も比較的多岐 に亘る 多 少 多 少 • 敷地が狭く、扱う物質も比較的限られている • 売却設備が限られている • 土地面積が小さく、土地の売却相手は比較的見つかり易い • 売却設備が大きく、用途も複数存在 • 設備・土地ともに売却相手が少ない 開発期間 長 • 5~6年以上 • 2~3年以上 • 数ヶ月 短 開発実施者 大 • 大手のディベロッパー • 中堅企業 • 個人~中小規模の企業 小 SS閉鎖のプロセス (小規模で難易度の低い再開発) その他コスト • 従業員の解雇 (割増退職金/補償給付) • 外部エキスパートからのアドバイス – 環境、エンジニアリング、コンサルティング、法律関連など • 契約打切り損金(供給側、供給先からの潜在的なクレームなど) • 設備・機器などの輸送費 • 関係当局における手続き 1,500万~ 3,000万EUR 施設/ 設備に係る コスト • 設備や装置の分解・取り壊し作業 • 熱交換器やポンプなど、利用可能なものを保存した状態での設備売却 • 地面より上の汚染物質の廃棄処理コスト • 鉄などの資材の売却(市場環境に合わせて可能な限り実施) • 古くなったポンプやタンクの取り壊し処理 1,000万 ~ 4,000万EUR 施設/ 設備に係る コスト • 設備や装置の分解・取り壊し作業 • 熱交換器やポンプなど、利用可能なものを保存した状態での設備売却 • 地面より上の汚染物質の廃棄処理コスト • 鉄などの資材の売却(市場環境に合わせて可能な限り実施) • 古くなったポンプやタンクの取り壊し処理 1,000万 ~ 4,000万EUR 土壌浄化に 係るコスト • 環境への影響分析/エキスパート分析 • 地中の潜在的な汚染に関する調査 (水流解析を含む) • 汚染された土壌の入れ替え・浄化(土壌の汚染度により大きく異なる) 2,500万~ 2億EUR 土壌浄化に 係るコスト • 環境への影響分析/エキスパート分析 • 地中の潜在的な汚染に関する調査 (水流解析を含む) • 汚染された土壌の入れ替え・浄化(土壌の汚染度により大きく異なる) 2,500万~ 2億EUR 推定コスト
油槽所の土地/設備利用プロセスも同じく計画策定と計画遂行の 2 フェーズに分け られる。ただし、製油所に比べてプロセスが簡素であり、短期間にコストをかけず効 率的に進めることが望まれる。特に計画策定時の課題と成功の基準の設定では、選択 した土地/設備の利用を進める上で想定される障害と、その対策を検討するが、オプ ション比較のためであった製油所の場合と異なり、具体的な計画に落とすための意味 合いが強い。 SS の再開発においては、土地を借りている場合が多いため、基本的には再開発に石 油会社が積極的に関わっていくことは少ない。土地を借りた時の汚染レベルまで戻す ことが義務付けられているが、それ以外の負担が発生する場合はほとんどないといえ る。なお、再開発用途としては、一定以上の交通量や道路付けのよさといった立地特 性を活かした業態が中心であり、住宅地への転用は自動車交通の盛んな道路に面して いることが多いことから騒音を懸念してあまり実施されないのが一般的である。これ らの作業を迅速に進める手立てとしては、土地の返却や売却の際に、土壌の浄化レベ ルや再開発用途などを地方自治体にいち早く承認してもらうほかない。各石油会社は、 計画的に、かつ自治体との友好的な関係を築くことで、キャッシュの回収期間の短縮 に努めている。 (3) ケーススタディー ケーススタディー先として、製油所を 2 事例、油槽所を 2 事例を選択し、更なる追 加情報として製油所で 3 事例、油槽所で 2 事例を選択している。 図表3-4 製油所閉鎖ケーススタディ事例の一覧 価値大 価値小 価値大 施設全般の 輸送/売却 一部の装置・ 設備の売却 鉄材のスク ラップ/ リサイクル 油槽所/ターミナル 産業用地/コンテナ 住宅地/オフィス用地 設備 跡地 1 5 2 4 3 Shell Heaven 4 1 Ingolstadt 2 Llandarcy 価値小 3 5
Norske Shell Sola Teesside
製油所ではドイツの Ingolstadt 製油所と、イギリスの Llandarcy 製油所を取り上げた。 前者は設備と跡地の高度利用において好例である。施設全体の解体/売却を実施し、 公共施設(スポーツセンター/展示センター)への転用を目指しており、レベルの高 い事例だといえる。また、後者は施設については解体してスクラップしたため利用価 値は高くないものの、跡地については住宅地に転用して新しいコミュニティーを開発 しており、非常に成功しているといえる。 図表3-5 Ingolstadt 製油所跡地の開発用途[m2]
油槽所ではルーマニアの Buzau Sarat 油槽所と Curtea de Arges 油槽所を取り上げた。 両事例では閉鎖後跡地に不動産を建設してから売却するのではなく、土壌浄化が完了 した段階で土地を売却している。そのため、解体作業の短縮やコストの削減などに焦 点が当てられている。 追加情報の事例としては、イギリスの Teesside 製油所とノルウェーの Norske 製油 所、過去調査事例のまとめとしてイギリスの Shell Heaven 製油所を取り上げた。 Teesside 製油所は、油槽所/ターミナルへ転用しており、比較的迅速に閉鎖プロセス を進めた事例として採用している。また、Norske 製油所は、設備利用として 施設全体 をスクラップし、 98.3%をリサイクルした後、産業用地へ転用した例である。油槽所 では産業用地に転用された Jockgrim 油槽所と展示センターへ転用された Mercuria’s 油 槽所を追加情報としてあげている。 (3)我が国への示唆 施設の閉鎖とその後の再開発は高度に経営的な判断が求められる。特に製油所の閉 鎖ではその敷地を住宅地やオフィス用地へ転用する高度利用と油槽所やターミナルへ の転用する低度利用など、懸念点に関する効果と負担を比較検討し、明確な判断を下 住宅地/産業用地 126,000 (16%) 住宅地 284,700 (35%) 産業用地 70,000 (9%) 特別用地 31,200 (4%) 緑地292,000 (36%) 291,000 (31%) 緑地 100,000 (11%) スポーツセンター 105,000(11%) 展示センター 194,000 (21%) 駐車場/インフラ 247,000 (26%) 産業用地 2007 2009
すことが望まれる。利用方法によって予想される効果や負担はそれぞれ大きく異なり、 一概にどちらか一方が優れた開発であると言うことはできない。 図表3-6 製油所跡地の高度利用と低度利用の対比 寧ろ重要なのは、一旦方針を決定したらその障害を克服するために十分な経営資源 を投入して完遂することである。製油所跡地を高度利用するケースでは、成功要因は 大きく自社での対応と、地方自治体による承認の獲得や支援を受けることに大きく分 類される。 図表3-7 再開発成功のために必要な要素 自社での対応においては、ほぼ土壌浄化に関する規制のみが論点となる場合が多い。 欧州の土壌浄化はリスクベースという、有害物質がどれだけ存在しているかという土 オフィス/住宅地へ転用(高度利用) 油槽所/産業用地へ転用(低度利用) • 従業員への対応 • 地域雇用の維持 • 取引先への対応 • 土地浄化の負担 • 開発許可の獲得 • 開発までの負担 (利用方法に関わらず同等) 成功した場合寧ろ拡大 雇用数は大きく減少 懸念点 予想される結果 製品の経由地として 供給能力もなくなる 製品の経由地として供給機 能は残る 高度利用化するほど、浄化 水準を高める必要有り 市民への汚染の影響の可能 性が障害となりうる 開発期間必要。経済負担も 大きい 所有も移転せず、負担は あっても小さい 開発期間、経済負担ともに 大幅に軽減 雇用や地域経済への影響が 障害となりうる 自社での対応 地方自治体の協力 再開発の 成功度 低 高 法規に準じた土地の浄化 1 用途変更などに対する迅速な承 認 5 再開発事業への積極的な参加 • 産業の誘致(給付金、減税) • 跡地の共同開発(給付金、土地 購入、インフラ整備) • 従業員の雇用確保 4 雇用の確保 • 対従業員 • 対地域住民 2 製品の供給確保 3 法律関連 法律関連以外
壌の含有量と、住民や従業員といった再開発後に土地を利用する人々がどれくらい有 害物質を摂取する可能性があるかの双方を考慮した浄化が必要である。地方自治体の 支援では用途変更などに対する迅速な承認と、再開発事業への積極的な参加が挙げら れる。 図表3-8 ドイツにおける汚染物質の浄化基準 尚、油槽所や SS は土地を使用開始時の状態へ浄化した後は売却してしまうケースが 大半であることが本調査で分かった。そこでは、売却までの期間をできるだけ短縮す ることが最も重要な課題といえるが、基本的には環境に関する承認をより早く地方自 治体から受ける他は無いと言われている。 砒素 鉛 カドミウム シアン化物 クロム ニッケル 水銀 アルドリン ベンゾピレン DDT ヘキサクロロベンゼン ヘキサクロロシクロヘキサン ペンタクロロフェノール ポリ塩化ビフェニル 遊び場 住宅用地 公園/娯楽施設 産業用地 25 200 10 50 200 70 10 2 2 40 4 5 50 0.4 50 400 20 50 400 140 20 4 4 80 8 10 100 0.8 125 1,000 50 50 1,000 350 50 10 10 200 20 25 250 2 140 2,000 60 100 1,000 900 80 --12 --200 400 250 40 Trigger value[mg/kg]