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香川用水の淡水魚類-香川大学学術情報リポジトリ

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香川用水の淡水魚類

安 芸 昌 彦

〒760−0068 香川県高松市松島町1−18−54 香川県立高松商業高等学校

FreshwaterfishesofKagawaCanalinKagawaPrefecture

MasaIlilゆA貼,7bたα椚d毎〟Co肌用e/C∼αJ仇gカ∫cゐ00ん乃たα椚β上川,ぷわgα〝α乃∂−006&ノ呼α〃 息していなかった魚類が県内の主要河川で確 認されるようになった。須永(1982)は吉野 川水系の魚類が香川用水を通って県内河川に 移入していると推測したが,香川用水の性質 上 導水を停止して水路内の魚類を調査する ことばできなかった。 今風 筆者は吉野川水系からの移入魚の実 態を明らかにすることを目的として,香川用 水の各水路内における淡水魚類相の調査を実 施した。 この報告の作成にあたり,香川用水の魚類 調査の機会を与えてくださった水資源開発公 団香川用水総合事業所と香川用水土地改良区 の皆様,現地調査等に協力してくださった千

乗哲男氏 福島宏幸氏,福家英樹氏 清渕隆

弘氏,森一・生民,真田紘行氏および貴重な採 集記録を提供してくださった矢野重文氏,薬 玉智氏ならびに原稿作成の過程で丁寧なご指 導をいただいた香川大学教育学部の末広喜代 一一教授に深く感謝の意を表する。 調査方法および調査地の概要 1986年の調査は,農専区間(農業用水だけ が流れる区間)の清掃・点検作業のため,上 流部のチェック(水位調節堰)等で水を堰止 めて水路内の水位が低下したときに行った。 10月21日から12月10日までの期間に,東部幹

線のT8(高松市と香川町),T9(高松

は じ め に 香川用水は,香川県の慢性的な水不足を解 消するために吉野川総合開発の一・貴として計

画され1968∼1981年に施工された多目的水

利事業である。吉野川上流の早明浦ダムで確 保した水を池田ダムを経由して取水し,阿讃 導水トンネルおよび東西両幹線水路を通じて

讃岐平野に導いている。その水量は年間約2

億4700トン。早明浦ダムで生み出される水量 の約29%,香川県で使用する水量の約30%に あたる。香川用水の導水は1974年6月に開始 され,香川県の山間部および島峡部を除くほ ぼ全域に農業用水,水道用水,工業用水を供 給している。幹線水路の総延長は約98kmで, このうちトンネル,サイホンなどクローズ型 水路は約82k皿,開水路などオープン型水路は 約16kmである。また,幹線水路からの分水施 設は約180カ所あり,そこから県内の主要な河 川やため池等に水を分配している(水資源開 発公団香川用水総合事業所,2002)。 香川用水の完成は,県内水面の環境に大き な変化をもたらした。夏の渇水で伏流が生じ 表流が分断されていた河川は,導水後は流量

が増加し,年間を通して水が流れるように

なった。淡水魚類相では,導水後にカマツカ

P5e‘‘dogo占わ e50C血′5 e50C血5やニゴイ 伽加血J5ムα′血5など,それまで香川県に生

(2)

1)東部幹線 東部幹線は香川用水の主水路で東西分水工 から白鳥町宮奥地までの約74km。東西分水工 から古川チェック(高松市)までの共用区間 (農業,水道,工業の用水が流れる区間)の 通水量は14‖3∼6い6Ⅱf/s,流速1∼1り5m/s, 開水路幅4。.2(ノ3.1m,水深2..7∼1…8m。それ 以降の農専区間の通水量は6..6∼0.2Ⅰげ/s,開 水路幅3‖0∼2..35m,水深1一.8m以下である。 幹線に.は道路や谷,河川などを横切るときに 用いられるサイホンが多数ある(図2)。本調 査では共用区間7カ所と農専区間3カ所で採 集を行った。

Tl 北原第2サイホン 谷をくぐる円形

サイホンで,トンネルの直径は3.2m,長さは 約40mで内部は暗い。通水時にはサイホン内 は満水となる。改修工事のためにポンプで水

を排水したため,調査時は水深が30cm,8m

市),TlO(三木町)と高瀬支線のTkl(高

瀬町)および西部幹線のSl(財田町)の計5 カ所で実施した。採集には1節10mmの投網と 1節4mmの玉網2個を使用した。 2000年と2002年の調査は,水路改修工事に 伴い水路内の−・定区間の水位が低下したとき に行った。2000年の調査は,10月20日に東部

幹線のT4(満濃町)で実施した。また,

2002年の調査は,4月3日と10月17から12月

17日までの期間に東部幹線のTlとT2(財

田町),T3(満濃町),T5とT6(綾南

町),T7(高松市)の計6カ所で実施した。

2000年と2002年の採集には1節8nmと1節

15m皿の投網および1節4皿mと1節8m皿の玉網

4個を使用した。なお,調査地点の状態によ り玉網だけを使用した場合があった。 採集した資料は直ちにホルマリン(10%) 溶液で固定し,持ち帰って全個体を同定し, 湿重量および体長,体高を計測した。なお, 採集標本の同定,標準和名および学名は「日

本産魚類の検索一全種の同定」(中坊鼠

1993)によった。 各調査地点の位置を図1に,調査地点の概 要は以下に示した。 サイホン 図2.道路や河川をくぐるサイホン 一14 −

(3)

は水が残、つている下流部の約50mで行なっ た。水深は平均10c皿,長径5∼10cⅢのコンク リ・一卜片や石が散在していた。 T7 川部第1サイホン(図13)川部第1 開水路と川部第2開水路の間にある道路をく ぐる角形サイホンで,高さは約3い5m,長さは 約15m。通水時にはサイホン内は満水とな る。調査時は水深1m,6mX3mの水溜ま りになっていた。サイホン内は比較的明る く,砂泥などが10数cm堆積し,投棄されたビ ンなどのゴミが多い。 T8 実相寺(図14)実相寺開水路とその 上流にある1号暗渠内約100mを調査した。調 査時の水深は10∼40c皿で,堆積物はなかっ た。 T9 尾越(図15)尾越開水路から尾越ト ンネル内の区間約300mおよび鎗越トンネルの 下流部約50mを調査した。水深は10∼40cm で,藻類を多く含んだ泥が0..5∼1cm程堆積し ていた。 TlO 田中(図16) 田中開水路と公渕ト ンネルの下流部約50mを調査した。水深は10 ∼30cmで,堆積物はなかった。 ×1mの水溜まりになって−いた。堆積物はな く,コンクリートがむき出しになっていた。 T2 八月谷第1サイホン(図8)北原第 2サイホンと同じ状態であった。 T3 高篠サイホン(図9) 高篠開水路の 途中にある道路をくぐる角形サイホンで,高 さは約3一5m,長さは約15m。通水時にはサイ ホン内は満水となる。調査時は水深1m,6 mX3mの水溜まりで堆積物はなか、つた。サ イホン内は比較的明るい。すぐ近くに土器川 チェックがある。 T4 羽間開水路(図10)土器川サイホン 出口から約400mの区間。3面コンクリート製 のフル・一ム型水路で,調査は水が残っている 下流部の約100mで行った。水深は平均20c皿, 堆積物はなかった。 T5 牛川第2開水路(図11) 3面コンク リート製のフルーム型水路約350mの区間で, 調査は水が残って−いる下流部の約200mで行 なった。水深は平均10cm,堆積物をまなかっ た。 T6 遠田開水路(図12) 3面コンクリー ト製のフル・−ム型水路約450mの区間で,調査 表1..調査年別の採集魚類 標準和名 学 名

1986 2000 2002

00〇・〇〇〇〇〇・〇・・〇

0000〇・〇〇〇〇・〇〇〇

1い コイ 2.ギンブナ 3”オイカワ 4り カワムツB型 5..ウグイ 6 タモロコ 7.カマツカ 8.ニゴイ 9.コウライモロコ 川.シマドジョウ 11‖ ナマズ ほアカザ 13..アユ 14‖ カワヨシノポリ C汐′∼〝〟∫Cd岬わ C(l′α5∫f〟5(㍑〃αん措Jα〝騨(わ1βよ ZβCC0クね妙〟5 Z〃CCOお∽∽‘〝d∫‘ 乃め¢わ(わ〝ゐdわ〝eノー∫よ5 G〝α助(pOgO〝eわ〃gd血5eわ〝g(血5 P5g〟(わgo占わe5OCj〝〟5e5〃C‘乃〟5 〃e∽払α′・み比5占α′占〟5 ∫ヴ〟α〟血5C血〃烏αe〃5‘∫Subsp C¢ム∼ぬ占‘wαe ∫∼血′祝5α50助5 ⊥わぁαg/〟5′トe∼〝i Pねc(〉gわ5∫〟5αJJルe揖α〟ルeJ‘5 朗血郡助可加血蝕

・〇〇〇・〇・〇・

・〇 −15 −

(4)

表2.1986年の調査における地点別採集個体数

SITkl T8 T9 T10 合計 体長範囲(m皿)

調査 日 11い2212.、1010.2210い2110..22 160−370 137−221 110 61−257 95,112 68−172 192−255 5(ト59 237 47 3 9 1 1 2 2 3 3 1 1 3 0 1 1 1 l 1 1 ハn︶ コイ ギンブナ オイカワ ウグイ タモロコ カマツカ ニ」ゴイ コウライモロコ ナマズ カワヨシノポリ 3 1 l ■︺ り︼ 合 計

9 2 24 41100

表3.2000年・2002年の調査における地点別採集個体数

TI T2 T3 T4 T5 T6 T7 合計 体長範囲(皿皿)

′02 ′02 ′02 ′00 ′02 ′02 ′02 4..3 4.3 10..1710.2012い6 12..6 10..17 調査 日 2 420,480 1 192 2 43−137 16 44−150 2 63−328 0 57−207 ハ】U 68−298 17 32− 72 1 72 1 82 1 148 コイ ギンブナ オイカワ カワムツB型 ウグイ カマツカ ニゴイ コウライモロコ シマドジョウ アカザ 2 5 7 9 3 0 3 1 5 ハnV 2 9 9 、ソ︼ l 1 2 3 7 5 1 4 2 5 2 5 1 9 7 3 一1 7 1 1 2 AU 4 9 7 5 ハhU り一 l 1 4 8 7 5 り︼ 9 企U 1 3 00 1 ハU 3 1 1 7 1 1 1 0 1 アユ カワヨシノポリ 29 21 2 1 1 64 22−62 合 計

187 113 171127 330 133 157 1218

堆積物はなかった。 3)西部幹線 西部幹線は東西分水工から豊浜町姥ヶ懐弛 までの農専区間約13k恥 通水量は1..5∼ 0小35Iげ/s,開水路幅1…6∼1‖4m,水深1..3m以 下である。本調査では1カ所で採集を行っ た。 Sl 菖蒲(図18)東西分水工の近くにあ る約450mの菖蒲2号トンネルの出口側約200 mの区間を調査した。調査時の水深は10∼ 2)高瀬支線 高瀬支線は東部幹線の神田分水工から満水 弛までの約11km。神田分水工から二宮チェッ クまでの共用区間の通水量は2い5∬f/s。それ以 降の農専区間の通水量は1“33∼0い78汀f/s,開 水路幅1い6∼1い4m,水深1廿3m以下である。本 調査では農専区間1カ所で採集を行った。

Tkl 末長谷(図17)山中を通る約100m

のトンネルの途中にある東長谷分水工前後の 50mを調査した。調査時の水深は1cm以下, −16 −

(5)

この流域で共通して出現する魚種は,ギン ブナC〃′α5血d〟′α加Jα〝伊do飾 ウグイ,カ マツカの3種で,いずれの地点においてもウ

グイの個体数が最も多かった。また,共用区

間(Tl∼T7)に比べてギンブナの個体数

が多かった。TlO(田中)では,タモロコ

G乃α助甲OgO〝eわ〝紳〟5eわ〟gα血5が採集され

た。また,同地点で採集されたコイはイロゴ

イであった。 4)Tkl高瀬支線(農専区間) この地点では,カマツカとナマズ∫助川5 α50J〟5が採集された。また,全調査地点のう ち,Tkl(東長谷)だけでウグイが採集され なかった。 5)Sl西部幹線(農専区間) この地点では,ウグイとニゴイの2種が採 集された。 考 察 今回,香川用水で採集された14種のうち, タモロコ以外の13種は香川用水の取水工があ

る池田ダムで確認されている。池田ダムで

は,上記13種のほか,ウナギA〝g〟〃ねノ叩0乃− gc・α,ハスqp5α′よよc/‡殉′5〟〝Cよ′05‡rf5〟〝C加∫J′g5, タカハヤ翔躍血5叫′C呼んαJ〟5 ノ叩yよ,モツゴ 脅e〟do′α血′αクα′Vα,コウライニゴイ 月初血− bα/ム〟5Jαムeo,イトモロコ ∫q〟αJよ血5gJαC肋 g′βC〟れギギ舘如0ムαg′〟5〃〟dよc甲5,アマゴ 0〝CO′ゐγ〃Cん〟5椚α50〟‘5ゐ肋ルⅥe,ブノレーギルエe一 夕0朋∼5椚αC′りC以′姉 ブラックバス〟gc′甲fe用5 5β肋of(ね5,ドンコ 0(わ〝わぁ〟ぬ ob5C〟用 0ムー 5C〟′混,ウキゴリ Cゐαe〝OgOみ血5〟/0加〃jαおよ びオオヨシノポリ尺肋0卵ム血5Sp.LDの合計26 種が確認されている(水資源開発公団池田総 合管理所,2002)。ゆえに,今回の調査で確認 されなかった上記の魚種についても,香川用 水を経て県内河川に移入している,あるいは 今後移入する可能性がある。 図3は,これまでの河川におけるギギの採 集地点と採集年を示して−いる。ギギは1986年 に財田川下流域で初めて採集され 同年著者 15c皿,藻類を多く含んだ泥が0い5∼1cm堆積し ていた。 結 果 今回の調査で確認された魚類を表1に示し

た。1986年の調査で10種,2000年の調査で6

種,2002年の調査で12種,全体で14種の魚類 が香川用水で採集された。各水路における地 点別採集結果を表2・表3に示した。調査方 法の貢で述べたように,各地点で採集方法が 異なるので厳密には比較できないが,東部幹

線に多くの魚類が生息していることが分か

る。以下に地点別の魚類相の特徴を記述し

た。 1)Tl,T2 東部幹線上流域(共用区間) この地点に共通して出現する魚種は,オイ

カワ ZαCCO〆叫p〟5,カワムツB型 ZαCCO

Je周明∫〝C妹 ウグイ 乃加わゐ〝ゐα庵0〝e〝5j5,カ

マツカ,ニゴイおよびカワヨシノポリ

尺ぁゎogo古山5.伽肌血肌であり,これらの魚種を

含めて8種が採集された。このうちウグイの

個体数が最も多かった。また,他の地点に比

べてカマツカ,カワヨシノポリの個体数が多

かった。T2(八月谷第1サイホン)では,

1999年に環境庁がレッドリストで絶滅危倶I B類に指定しているアカザが1個体ではある が確認された。 2)T3∼T7 東部幹線中流域(共用区間)

T3(高篠サイホン)では,コイCお′血5

c叩わとアユPJecogわ55〟SαJかeJ∼5αJ如J∫5を含

む今回の調査で最多の8種が採集された。こ

の流域で共通して出現す−る魚種は,オイカ ワ,ウグイ,カマツカの3種で,いずれの地

点においてもウグイの個体数が最も多かっ

た。また,他の地点に比べてオイカワの個体

数が多かった。T4(羽間開水路)では,コ

ウライモロコ∫q〟αJ励5Cんα〝たαe〃5j5Subsp.・が多

数採集された。また,T5(牛川第2開水

路)では,シマドジョウCo助f5みルαeが1個 体確認された。 3)T8∼TlO東部幹線下流域(農専区間) −17 一

(6)

産アユ苗の放流を行ったことがある河川であ

る。これらのことから,少なくとも新たに生

息が確認された2地点についてはアユ苗に混 入して県内に移入したと考える方が妥当であ

ろう。また,県内では府中ダム湖のみに琵琶

湖淀川水系の固有種であるワタカ鬼頭戌以南 5毎e/2dC丘e′ょが移入していることから,綾川のハ スについても同様の可能性が考えられる。 TlOで採集されたタモロコは池田ダムでは 確認されて−いない。また,同地点ではイロゴ イも2個体採集されていることから,タモロ コは県内で放流された個体であると考える。 農専区間の水路付近には多くの住宅があり, 水路沿いの道路は生活道路として利用されて

いる。香川用水土地改良区職員の話では,現

在でも水路内に放流されたイロゴイが生息し ているそうである。 次に,香川用水における魚類の移動と水路 内での分布について考察する。 池田ダムの魚類は,取水工に設置されてい るトラベリングスクリー・ン(1節15mm)を通 過して\香川用水に侵入する。取水工からの魚 類の侵入は,多くの稚魚が出現し,取水量が により財田川中流域の香川用水本篠分水工直

下の財田中橋付近で生息が確認されている

(安芸,1989)。その後の調査で,1997年に土 器川下流域,1999年に高瀬川上流域の香川用 水麻分水工直下で生息が確認されている。ま た,1999年頃から2001年にかけて一番東川でも

採集されている。以上の事実から,ギギは今

回の調査では採集されなかったが,明らかに 香川用水から移入し,県内河川に定着してい

る。そして,香川用水に沿ってその分布を拡

大していることが分かる。今回の調査で,ギ

ギと同様な生活様式をもつアカザがT2で確 認されたこともギギ移入の裏付けとなろう。 須永(1982)は,綾川水系の府中ダム湖と その下流域および本津川水系の/ト田地(香川 用水を揚水)でハス qp5α/gよc叫y5〟〃Cg′¢5g/f5 〟〝C∼′0ぶ什∫5が確認されたことから,ハスは香川 用水からの移入魚である可能性が高いとして

いる。須永以降の調査では,綾川水系に加え

て金倉川水系の満濃池上流,香東川水系の内 場ダム上流でハスが確認されている。新たに 確認された2地点では香川用水の影響を考え にくい。また,綾川を含む3地点とも琵琶湖  ̄一 ̄ ̄ ト ̄ ̄了元高 ̄」 図3い 河川におけるギギの採集地点.()内の数字は採集年を示すい Ktは香東川,Dは土器川,Tkは高瀬川,Sは財田川をそれぞれ示す. −18 一

(7)

増加する春から夏期にピークがあると考えら れる。魚類は侵入後,約8】くmの阿讃トンネル を流下して東西分水工にでる。そこには香川 用水の中で水路幅が最も広く,流速も遅い沈 砂地(図19)があり,稚魚等はここである程 度留まると考えられる。その後,東西分水工 で東部幹線と西部幹線に分けられるが,ここ では通水量の多い東部幹線に多くの稚魚が流 入する。その後,約180カ所ある分水工から県 内河川等に侵入すると考えられる。また,水 路内において年魚であるアユが採集されてい ることから,春に取水工から侵入した個体 は,10月までに少なくともT3(満濃町)ま で移動することが分かった。 香川用水には,チェックと呼ばれる水位調 節堰があり,そこには分水工が併設されてい る。このチェック上流の数十mは他の地点よ りも流速が遅く水深もある。T3のサイホン では15mはど下流に土器川チェックがあるた め,他の場所に比べさらに流速が遅くなって いる。そのためオイカワやカワムツB型,カ マツカなどの小型魚類が多く採集されたと考 える。また,Tl・T2のような谷をくぐる 深いサイホンも水深があり,場所による流速 の差が大きいのでカマツカ,カワヨシノポリ などの底生魚が多く採集されたと考える。こ れらのことから,速い流れに適したウグイな どは水路全域に広く分布し,それ以外の魚類 はチェック付近やサイホンなど流速の比較的 遅い場所に多く分布すると考えられる。 今回の調査で確認した魚種の香川用水内で の繁殖については,産卵場所に利用したり, 稚魚が身を隠すための石や堆積物などが極め て少ないことから繁殖の可能性は低いと思わ れる。また,今回の調査では,ウグイやオイ カワなど数種の魚種に奇形個体がみらゎた。 これは水路内に餌が少ないことによる栄養障 害が原因と考えられるが,これについては今 後の詳細な調査で解明していきたい。 今回の調査によって香川用水で確認された 魚類数種の移入の実態について考察する。 1.ウグイ(rrめ〃わ(わ柁ゐα鹿¢〝β〝ざね,図4) 本種は,北海道,本州,四国,九州各地の 湖沼,池や河川の上流域の下部から下流域に かけて広く分布する。四国では香川県のみ生 息が確認されていない。湖では,開けた水域 の上層・中層を遊泳する。行動範囲が広く, 泳ぐ速度もかなりはやい。雑食で,付着藻類 から水面上の陸生昆虫まで摂食する(宮地ほ か,1976)。 本種が県内で初めて確認されたのは香川用 水の導水開始後の1977年で,場所は春日川で ある。採集は1個体(体長約25cm)のみで あった(植松ほか,1979)。その後,筆者ほか が1983年から1985年にかけて,春日川の定期 調査を行ったがウグイは採集されなかった (安芸鼠1985)。次に県内で本種が確認され たのは20年後の1997年で,綾川中流域の長田 橋付近である。採集は2個体で,体長約20cm の成魚であった。同地点では3年後の2000年 にも成魚2個体を確認している。 今回の調査では,高瀬支線以外の全地点で 本種が確認され いずれの地点も本種の個体 数が最も多かった。また,高瀬支線は東部幹 線から分水工を経て水が流入する。以上のこ とから,本種は分水工から出ることなく香川 用水内に留まるため,水路内の個体数が多い と考えられる。本種は,分水工のスクリーン (共用区間:1節44mm,農専区間:1節60m皿 以上)を通過する事は容易であるにも関わら ずそこから出ないのは,遊泳力に優れ 水路 内の環境に適応しているためであろう。近 年,綾川で本種が採集され始めたのは渇水と 図4.高篠サイホンで採集されたり (体長17紬皿) 一 川・一

(8)

1978年の財田川においてである(植松ほか, 1979)。1980年代にはアユ苗の放流が行われた ことのない水系を含む8河川(吉野川水系日 開谷川は除く)で生息が確認されている。

1990年以降では,津田川を東限とする11河川

の中・下流域へと分布を拡大して−いる(図 5)。今回の調査では,西部幹線以外の全地点 で本種が採集された。また,2003年には西部 幹線−・の谷チェック付近で著者が本種を確認 したので,香川用水のすべての幹線水路で本 種の生息が確認されたことになる。本種は, 底生性が強く,速い流れに対する適応性も低 い。そ・のため,各分水工から多くの個体が河 川等に侵入していると考えられる。 3..ニゴイ(肋椚蕗α沌〟ぷふα蕗〟ぶ) 本種は,大きな河川の中・下流域から汽水

域,湖に生息する。流れのゆるやかな水域の

低層部,特に砂底に.多く,雑食性で水生昆虫 類の幼生を主体に,付着藻類や小魚も食べる

関係がある。渇水で水需要塞が急増し,大量

の水を河川に分配する際には,分水工だけで なく放水路(本線とほぼ平行に設置されてい るスクリーンのない緊急用水路)も利用され

る。放水路の開閉は綾川のみで行われるこ

と,長田橋が放水路の直下にあることから, 本種は放水路の開放時に綾川に侵入している と思われる。そして本種は今後も綾川に侵入 すると考えられ,下流にある府中ダム湖を利 用して定着する可能性がある。 2…カマツカ(脅g〟ゐg〃鋸○βざ〃d〝〟ぶ郎〃C血〟ざ) 本種は,コイ科の底生魚で,河川の中・下 流域に分布し,砂底ないし砂礫底に住んでい

る。主に底生動物をとる雑食性で,幼魚は藻

類も食べる。アユ苗とともに本州,四国,九 州の多くの河川に移入している(宮地ほか, 1976;細谷,1989)。 香川県では,香川用水の導水以前での採集

記録はなく,初めて本種が採集されたのは

図5り 河川におけるカマツカの分布

Tsは津田川,Kbは鴨部川,Snは新川,Ksは春日川,Ktは香東川,Hは本津川

0は青海川,Aは綾川,Diは大束川,Dは土器川,Kは金倉川,Tkは高瀬川

Sは財田川,Knは椎田川,Ysは吉田川,Yは吉野川をそ・れぞれ示す.. 図6り 河川におけるニゴイの分布 − 20 −

(9)

図7.河川におけるコウライモロコの分布 (細谷,1989)。 香川県では,カマツカと同様に香川用水の 導水以前での採集記録はない。本種が初めて 採集されたのは1980年,綾川の府中ダム湖付 近である(1982,須永)。その後,1981年に財

田川でも本種の生息が確認されている。ま

た,1990年以降では,中讃から東讃の11河川 の下流域を中心に分布を拡大しおり,西讃で も西部幹線末端に接する吉田川で本種が確認 されている(図6)。今回,1986年の調査です でに束部幹線と西部幹線内の生息が確認され ており,本種の侵入も香川用水の導水による と考えられる。 池田ダムでは,本種と同じ=いゴイ属のコウ ライニゴイの生息も確認されているが,今回

の調査では採集されていない。また,過去の

河川調査では,両種の区別がなされていな

い。そのため,現時点での県内におけるコウ

ライニゴイの侵入状況は不明であるが,ニゴ イと同様の生活様式をもつコウライニゴイが 香川用水を経由して県内河川に侵入する可能 性は高いと考えられる。 4..コウライモロコ(句掴肋5d朋血即5由subsp..) 本種は,濃尾平野,和歌山県紀ノ川から広 島県芦田川までの本州瀬戸内側と徳島県吉野

川に分布する。雑食性で,河川の中・下流域

の流れのゆるやかな砂底や砂礫底の底近くを

群泳する。近年,琵琶湖の個体群をスゴモロ

コ∫q〟αJ∼血5Cゐα〝如e乃5∫sムル略 西南日本の河 川に生息する個体群をコウライモロコとして 取り扱うようになった(細谷,1989)。その後 の研究で,県内に生息するスゴモロコとされ ていた個体群は本種であることが判明し,過 去のスゴモロコの記載も本種である可能性が 高くなった(大高,2002)。ゆえに,今回の報 告では,過去のスゴモロコの記載をコウライ

モロコとして扱っている。香川県では,香川

用水の導水後の1981年に綾川で初めて本種が 採集されている(須永,1982)。その後,1986 年に著者が財田川の3地点で本種を採集して いる。1990年以降には,津田川を東限とする 10河川の中・下流域にその分布を拡大してい る(図7)。今回,束部幹線で採集された個体 についても,その外部形態が本種の特徴を表 しており,池田ダムにも本種が生息して−いる ことから,本種は香川用水から県内に侵入し たと考えられる。 香川用水で確認されたコイ科魚類4種に、つ

いて述べてきた。県内河川へは,底生性の強

いカマツカ,ニゴイ,コウライモロコ,ウグ

イの順に移入しやすい傾向にあることが分

かった。また,香川用水からの移入圧力は, 財田川など西讃河川で高く,中漬から東黄河

川にいくにつれて低下する。それは,東部幹

線が上流部ほど通水量が多く,流速が速いこ

とに関係しているようである。なお,東部幹

線の水は,さぬき市大川町にある田辺池分水 工からすべて田辺池(津田川水系)に入れら

れ,再び田辺ポンプ場で東部幹線に戻され

る。このことが津田川より東部の河川で移入 魚が確認されない理由の一つと考えられる。 今回の調査は,吉野川水系に生息する魚類 ー 21−

(10)

の県内への侵入および分布域の拡大が,香川 用水の流入によることを実証するものとなっ

た。移入魚は河川だけでなく,香川用水が流

入する多くのため池にも侵入している。県内 の移入魚の実態を把握するためには,今後こ れらのため池を調査することが不可欠であろ う。 文 献 安芸昌彦編い1985小 春日川の淡水魚.日本の 淡水生物ゼミナール香川大学祭資粗.香川 大学教育学部生物学教室.. 安芸昌彦.198軋 財田川(香川県)で採集され たハゲギギ.香川生物(15・16):7−臥 安芸昌彦・矢野重文“1998..土器川(香川県) で採集されたカワァナゴい 香川生物(25): 43−45い 細谷和海..1989∴コイ朴.川那部活哉・水野 信彦鼠 日本の淡水魚.山と渓谷社,束京 :314−324り 宮地伝三郎・川那部浩哉・水野信彦1976… 原色日本淡水魚類図鑑(全改訂新版)一.保育 社,大阪. 中坊徹次鼠.1993.日本産魚類の検索:全種 の同定… 東海大学出版会,束京” 水資源開発公団池田総合管理所.20陀.平成 13年度池田ダム河川水辺の国勢調査(魚介 類)報告温 水資源開発公団池田総合管理 所. 水資源開発公団香川用水総合事業所.2002い 香川用水管理事業概監 水資源開発公団香 川用水総合事業所‖ 大高裕諷1985… 国営讃岐丘陵公園の淡水魚 類.国営讃岐丘陵公園動植物現状調査報告 書(香川動植物の会):2ト26u 大高裕幸・須永哲雄・河内直人・倉沢 均・ 吉田時子・森 一塩.1994い 香川県香東川 と財田川における淡水魚の分布香川生物 (21):5−14. 大高裕貴.2002小 香川県に生息する「スゴモロ コ」(∫q〟dJ励5Sp..)の外部形態い 香川県自然 科学館研修報告(21)一長期研修生の部:9−16り 須永哲雄・植松辰夫.1981… 土器川における 淡水魚の分布.香川県自然環境保全指標策 定調査研究報告書(土器川水系):93−97い 須永哲雄・植松辰美.1982.香川県中讃西部 地域における淡水魚の分布… 同上(香川県中 讃西部地域):243−262“ 須永哲雄.1982..淡水魚類数種の香川県への

近年における移入とその分布.香川生物

(10):111−114‖ 須永哲雄・植松辰美.1984い 香川県西讃地域 における淡水魚の分布.香川県自然環境保 全指標策定調査研究報告書(香川県西讃地 域):157−166.、 須永哲雄・植松辰夫・大高裕幸・河内直人 1985..香川県中爵東部地域における淡水魚 の分布.同上(香川県中讃東部地域):194− 205 須永哲雄・植松辰美・大高裕幸・河内直人 1986ル 香川県東讃地域における淡水魚の分 布小 同上(香川県東讃地域):175−184… 谷 広敷 2002一.香川県10河川における魚類 の報告一スゴモロコ属の分布を中心として −… 自然科学館研修報告(21ト長期研修生の 部:17−26一. 植松辰夫・須永哲雄・川田英則.1979.香川 県の淡水魚“動物と自然9(1):1トけ. − 22 −

(11)

図8.T2(八月谷第1サイホン) 図9.T3(高篠サイホン)

図10.T4(羽間開水路) 図11.T5(牛川第2開水路)

図12.T6(遠田開水路) 図13.T7(川部第1サイホン)

(12)

図14.T8(実相寺) 図15.T9(尾越)

図16.TlO(田中) 図17.Tkl(東長谷)

図1臥 Sl(菖蒲) 図19.沈砂地

参照

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