−ノー
購買力平価からの帝離要因とその作用径路(再考)
宮 田 亘 朗
仁.各種変化率に.関する検証。Ⅰ.帝離要因の作用経路。Ⅲ.むすび。 われわれは,かって購買力平価からの禾離(%乗離)は,対ドル円レートで 見た場合,日本及びアメリカの相対価格変化率,日本の取引量ウエイトの変化 率,貿易価格の二国間較差の変化率からのみ生じと言う検証結果を得,そして 通常云われている所得増加や技術変化,また趣好の変化やその他政治経済条件 の影響などは,上記4つの変化率を仲介変数として,これらの購眉力平価から の両難を生じる各種要因であるとして取り扱った。しかしながら,この場合,対外準備保有の変化率を各種飛離要因の中に加えていなかった。そこで,本稿
ではそれを加えて再度検証を試みてみる。 Ⅰ節では,これらの仲介変数の変化率(血/冗,血*/が,dα/α,dて・/で)を動か す要因を再度検証し,それらの各種要因を用いパ・−セント帝離との間で回帰分 析を行い,そしてⅠ節においてこれらの結果を踏まえて,各種要因が仲介変数 を変動させて購眉力平価からの乗離に作用するという作用径路の存在を再検討 する。 Ⅰ 本節では,日米両国の相対価格の変化率,日本の取引量ウェイトの変化率, 貿易財価格の二国間較差の変化率について,順次検討する。香川大学経済学部 研究年報 34 一2一 (1)相対価格の変化率(血/元,血*/が) まず,日本とアメリカニ国それぞれについて,各国の国内財価格で割った貿
易財の相対価格が何に依存し変化しているか,から検証する。使用するデータ
の出所は前稿と同じであるl)。 国際経済理論によれば,上記相対価格の変化は,人口の増加や資本の増加 (生産技術変化を含む)など明らかに.生産可儲曲線を変化させるものと2),趣好 変化や政治経済的な変化など社会的無差別曲線をも変化させると思われるもの (国民総支出,市場の開放性,公的支出割合,オイル・ショック等)とがある3)。容 易に入手可能な人口や資本ストック,労働生産性指数,実質及び名目G〃P,貨 幣ストック〟3イノなどのデータ(または代理変数のデー・タ)を用いて∴回帰係数を 求めた。しかし,いずれも才傾が悪いか決定係数が小さく,望ましい結果を得ることが出来なかった。そこで,被雇用者−・人当たりの名目粗国内生産高
(GβP/β〟P)とGエ〉P当たりの対外取引高((輸出+輸入)/GβP=市場の開放性OP)及び政府支出の対GaPシェア(GVg/GβP)を用いて再度回帰係数を求
めた。云うまでもなくGβP/宜〟Pは生産技術変化(技術進歩)を表す代理変数 であり,他は需給両側に影響を与えると思われる変数である。 さらにり 国際通貨の保有量を独立変数として使用した。国際金融理論によれ ば,国際通貨は,国際経済の公的及び民間の取引において,価値尺度(本位通 貨,計算通貨),交換手段(介入通貨,取引・決済通貨),価値貯蔵手段(準備通1)IMF[11],日経NEES[24],Board of Governors of FederalReserve System [2]1973−1992,Department of Commerce[4]1973−1992. 2)Heller[10]Chap8(訳書 第8章)。 3)社会的無差別曲線を変化させると考えられるものは多数考え得るであろう。勿論,そ れらほ需要のみならず供給にも影響を与える。ここでは過去の購買力平価に関する検証 に用いられた変数を選び列挙したに過ぎない。例えば,Genbery[9],Galliot[8], Officer[16][17][18],Balassa[1],Kravis,IB andRLipsey[14]等である。よ り詳細にほ,長谷川[21コ64∼70ページ及び宮田[28]6章,7章を参照されたい。 4)Frenkel[7]やMussa[15]などのマネタリー・アプローチを念頭において貨幣ス トック怖のデータを使用した。勿論,〟′,〃2についても同様の試みをした。しかし,い ずれも好ましい結果を得ることが出来なかった。なお,FrenkelやMussaの購買力平価に 対する考えについては,宮田[28]第8章 参照。
購買力平価からの禾離要因とその作用径路(再考) ー3− 貨,資産通貨)としての機能を果たしている5)。したがって,それは各国の公的
及び民間の保有対象となる筈である。しかし,民間保有のデータは入手不能で
ある。そこで,入手可能な公的対外準備(国際通貨)保有のデータ(0ダ月)$)の みを使用した。なお,以下の結果を導出するに.際しすべての変数は,変化率の 形で使用した。またオイル・ショックやプラザ合意など政治経済的事件の影響 を表すものとしてダミ1−・変数(仇,仇)を用いた。その結果は(1)式の通りである。 血 ’ こ−一一一ニーク.仇柑「 . =−0りβ06 −0.063 ▲▲▲▲ 0ノ39 方 (−∂左iテ(一古壷∂テGβ戸畑〟P ■げ由) d(0ダ尺) (1) +0023β∫−∂∂ノ6β2 一0023 (−223)0ダ尺 (6β5) ̄(−463) 尺2=077,d/=65,β=ノ.9 図1 日本の相対価格変化率と回帰曲線 (1974い1∼1992い1) 0.07 0.06 0 05 0‥04 0.03 0.02 0.01 0.00 −001 −0.02 −003 −0.04 7475 7677787980 8182 83848586878889 90 9192 (2個のダミ・一変数を使用) 一句葎理論値 [資料]日経NEEDS,IMF,IFS,USA,FederalReserve ぶ加r岬yO′C祝rr♂花王β弘Sま乃♂ざ.S以下の図についても同じ。 5)Cohen[3]p18,Tablel1,及び藤田[26]pp109∼146。 6)ここでの公的対外準備とは,政府保有の対外準備額+金保有額を意味する。香川大学経済学部 研究年報 34 一ノー
この結果から,日本においてほ生産技術進歩(d(GβP/E〟P)/(GβP/E〟P))
及び政府支出の対GβPシェア(d(GVβ/GβP)/(GVβ/GβP))並びに公的対外準備(d(OF月)/0ダ尺)は相対価格(冗=タノク〟)を下落させ,市場の開放性
(dOP/OP)はそれを騰貴させることがわかる。
このうち前者(負債をとるもの)は,生産技術進歩が日本の貿易財価格を下
落させること,公的対外準備増加が国内の貿易財国際競争力アップと係わって
いること,政府の公的支出が日本の生産基盤整備など生産価格下落に寄与して
いることなど,から理解し得る。また,後者(正値をとるもの)も市場開放が日
本の国内財価格を引き下げ相対価格を騰貴させると考えるならば,理解できる。
同様のことをアメリカの相対価格変化(血*/が)についても行った。その結
果は,(2)式の通りである。アメリカの場合,政府支出の対GaPシェア(GV丘−*/
CβP*)は,吉備が悪く回帰式から省いた。このことから,少なくとも当該考察
期間でみる限り政府支出の対GβPシェアは,アメリカでは経書削こ対し有効でな
く購買力平価からの乗離にも影響を与えないことになる。使用した3つのダ
ミ・一変数には,日本と同じく,第1次と第2次のオイル・ショックの影響,1977
年のか−クー政権への交代やイラン革命(1978年2月),フォ1−クランド紛争
(1982年4月),アメリカのパナマ侵攻(1989年12月)や湾岸戦争(1991年1
月)などの政治的事件,またアメリカのデータについて入手出来たものが季節
調整済のものであったことなどを考慮している。なお,ダ・−ビン・ワトソン比
βが悪く,繰り返し法による修正を行った7)。(β修正のため(2)式の定数項の推
定値は,00β9と改めるべきである。)
血 d(GβP*/g〟P*).〈〈(( d(OPり 〈〈.(d(0ダ尺り + 0.092∵ − 0.OJ6 −=−0.OJ3 − 0.275方「−9.55ノ (455)CJ)P*β〟P* (66β)0ノ)* (ノ79)0ダ尺*
−0.0493J)′−0∂52β∼+β.OJOβ3 (2) (9∂J)(一JO。32)(62J) 尺2=0∂3,dJ=64,β=Jββ 7)常数項の推定値は,(2)式の常数項の侶一00J3を(ト24556β36)でわった 0009Jである。Durbin,Jand GS Watson[5]pp173∼175,Kmenta[13]pp287∼ 288,伊大知[19]120∼122ページ参照。購買力平価からの乗離要因とその作用径路(再考) 図2 アメリカの相対価格および回帰線 (1974.1∼19921) −5一 004 0‖03 0.02 0.01 0.00 −0 01 −002 −0.03 −0.04 −0.05 −0.06 −0。07 74 7576 777879 80818283848586878889 90 9192 (β修正前のグデフ:3個のダミー・変数使用) −dが/が ・理論値
このことからアメリカでは,日本と異なり被雇用者一人当たり名目国内生産
高(d(GβP*′佃〟P*)/(GβP*/E〟P*)),公的対外準備(d(OF尺*)/0ダ尺*),市
場の開放性(d(Of)*)/(Of)*))などすべての変数の増大は,相対価格変化率
(血*/が)を騰貴させる。ただし,アメリカの政府支出対GβPシェア(d(G
V丘−*/GβP*)/(GV丘−*/CβP*))は,影響がなく方程式から除外された。その他,
日本と同様に趣好変化や政治経済的変化で需給に影響すると思われるものがあるが,それらはいずれもダミー変数の導入で処理した8)。他に・望ましい代理変数
が見い出せなかったことによる。アメリカにおいて,生産技術変化(d(GβP*/E〟P*)/(GβP*/β〟P*)),市場
の開放性(d(OP*)/(Of)*))への努力は,自国の相対価格を引き上げるように
作用しすること,また公的対外準備(d(0ダ月*)/0ダ尺*)も同様に相対価格を引
き上げることは,日本と比較し,非常に興味ある結果といえる。
8)日本の場合も同様であるが,公的対外準備を説明変数に導入した結果,ダミーを入れ る箇所は遥かに少なくなっている。そのためアメリカの市場公開性の影響に関する正負 の符号は,以前計測したものと異なってきている。宮田[36]参照。香川大学経済学部 研究年報 34 −6− (2)日本の取引量ウエイト(dα/α) 取引量ウェイトに.関して,アメリカのそれは既に.前稿で£値:が悪く除外され ている。そこで,われわれは,日本についてのみ検証する。 この取引量ウエイト(α)のデータは,一般物価(G〃Pデフレータ)とそれ を構成する卸売物価及び消費者物価から,前稿の(2)式及び(3)式を用いて間接的 に導出されたものである。したがってそれは,明らかにG〃Pデフレー・タ,卸売 物価,消費者物価に依存すると思われる。そこでこれら物価のうち後の2つ比 (相対価格方)を用い回帰係数を求めてみた。その結果む享,次式の通りである。
2つのダミー変数を使用したこと及び系列相関の修正9)を行ったこと等は,
上記ケ1−スと同様である。(次式の定数項の推定値は,系列相関の修正を考え ると,−02β506とすべきである。) 図3 日本の取引量ウエイト変化率と回帰曲線 (19741∼1992.1) 3 2 1 0 −1 −2747576 7778 79 80818283848586878889909192
(β修正前のグラフ:2個のダミ・一変数使用) −dα/α理論値 9)常数項の推定値は,(3)式の常数項の値ββ47を り−26539β∂4)で割った− 0β2β5∂6である。購買力平価からの乗離要因とその作用径路(再考) dα d万 一=0.047+β.575−+J.073仇−ノ37.ア63β2 α りノ0)(406)方 (5.9J)(−476Jノ) 尺2=099,d/=67,β=2.J9 −7− (3) この(3)式はある種の定義式であり自明のことである。それは,上式の決定係 数尺2の値が,正確には099972でありノに等しいことに示されている。 (3)貿易財価格の二国間較差(dで/で) 貿易財価格の二周間較差は,両国の相対価格変化や取引量ウエイト以外の関 税や貿易障害などを含む幾多の変数の変化に依存するとみることができる。例 えば,P。アイサ・−ドは二国間較差の変化率が為替レ・−トの変化率に依存すると し,またN。Sブィ・−レクは金利差と為替売買スプレッド及び市場の不確実性を 生じる各種会議や政府の発表などに依存するすると考えた10)。そこでわれわれ は,これら入手可能なデータすべてを用いて検証を試みた。勿論,日本とアメ リカの貨幣ストック〟,やGβP当たりの貿易収支など考え得るものも検証を 行った。しかし,いずれもf億:が悪く有意な結果が得られなかった。結局残され たものは,日本とアメリカの市場開放性(d(OP)/OP,d(OP*)/Oj⊃*),日本の 公的対外準備(d(OP)/Ofり及び日米の金利差(よ一室*)であった11)。まず,金利 差を省き,最小自乗法によって回帰係数を求めた。その結果は(4)式の通りであ
る。図4はそれを措いたものである。
dT 〈_‖..、‖.,〈〈〈 d(OP) ..、...,.ハd(OP*) .′、′、。、.d(0ダ尺) −49β34 ー ノ27J2 ■ .い丁(ごj二毎詣7打 Of’
(ニ之.云)Of’*
(二王ね)0ダ尺 +3.β26β∫−4.493β2 (4) (6,70)(−774) 月2=0β3,d/=66,β=J9J 10)Isard[12]及びFieleke[6]。詳細ほ,宮田[28]第7章Ⅰ及び宮田[27]7∼4ペー ジ参照。 11)卸売物価(WPJ,ⅣPJりの変化率を用いて回帰をしている例がある。例えば『昭和6 2年版 通商自書』332ページによる相対輸出価格関数である。また,深尾[25]及び翁 [20]にも類似の考え方がみられる。宮田[27]7∼4ページ参凰,しかし,われわれ はこの方法を採用しなかった。それは,左辺の丁の導出に際し卸売物価を・使用し,また 右辺にも同じ卸売物価を用いるのに躊躇したためである。香川大学経済学部 研究年報 34 図4 丁の変化率と回帰曲線 (19741∼19921) −β− 10 5 0 −5 −10 −15
747576 77787980818283848586878889 90 9192
(2個のダミ・−・変数を使用) −dT/で理論値 次に,日米金利差(去■−よ*)を導入して回帰係数を求めた。この場合も有意な f値がえられた。それは,公的対外準備を導入せずしばしばマルチコを生じた前 回のケ・−ス12)と異なり,確定的なものであった。次の(5)式は,その結果を示し ている13)。図5はそれを措いたものである。 dT ▲▲._ 《一_■▲ d(OP) d(Of)*) d(0ダ尺) =−0.947+26526 −J229J −4.936丁 (−250)(640) OP(−2ノ9)
OP*(−ノ92) 0ダ月
−0.ノ3J(去−−ま*)+3.7ノ3βノー4.57(フβ2 (20ノ) (662)(−7β03) 尺2=0β4,d/=65,β=ノ95 (5)使用した2つのダミー変数は,第1次(1973/10)及び第2次(1978/12)の
オイル・ショック以外に,ベトナム戦争終結(1975/4)北海油田本格操業開始
12)宮田[29]21ページ。13)アメリカの金利データほ,Board of Governors of FederalReserve System[2], Department of Commerce[4]の該当年のものから採った。
購買力平価からの燕離要因とその作用径路(再考) 図5 rの変化率と回帰曲線 (19741∼19921) ー9−
74757677787980818283848586878889909192
(金利差と2個のダミ1−・変数を含む) −dr/丁理論値 (1975/11)5β只の創出(1978/1)J〟ダ協定改正(1978/4)イラン革命(1978 /12)E〟ぶ発足(1979/3)ぶβ尺バスッケトの改訂(1981/1)米財政赤字拡大(1981/1)経済再建計画発表(1981/2)フォクランド紛争(1982/4∼7)大
韓航空機事件(1983/9)プラザ合意(1985/9)ル・−ブル合意(1987/2)ブ
ラック・マンデー(1987/10)銀行の自己資本比率に・関する国際統一イヒ公表 (1988/7)天安門事件(1989/6)米パナマ侵攻(1989/12)ソ連アフガン侵攻 (1989/12)イラクのクウェート侵入(1990/8)湾岸戦争(1991/1)ソ連解体(1991/12),及びか−タ(1977∼1980)レーガン(1981∼1988)ブッシュ
(1989∼1993)への政権の交代等を考慮したものである。
このようにdで/丁に関してダミ・−を用いて数多くの箇所で修正を余儀なくされたことは,貿易財価格の二国間較差が為替レ・−トにも依存するためかとも思
われる。香川大学経済学部 研究年報 34 −Jβ−
本節でほ上記Ⅰ節の結果を前稿の結論に結びつけることにより,購買力平価
からの帝離(d〟/〟)を再度検証してみよう。
前節よりして,両国の相対価格(ク丁ル〃,クァ*/み*)の変化率ほ,それぞれの生
産技術(技術進歩)と市場開放性(GβPβ〟P,GβP*/β〟P*,OfソOP,Of)*/
Of)*)の変化率,日本の政府支出対GβPシェア(CV丘ノGβP)の変化率および
両国の対外準備(0ダ凡0ダ月*)の変化率に依存する。日本の取引量ウェイト
(α)は,相対価格の変化率に依存する。また,貿易財価格の二国間較差
(で)は,日本の技術進歩(GβP作〟P)の変化率,両国の市場開放性(OfソOf),
OJ)*/OP*)と対外準備(0ダ凡0ダ月*)の変化率,日本の政府支出対G∠)Pシェ
ア(GV眉/GβP)の変化率及び金利差(去−−よ■*)に依存する。
そこで,われわれは,これらの結果を用いて,購買力平価からの帝離(斤)
が前稿Ⅳ節の㈹式のように,相対価格と取引量ウエイト及び貿易財の二国間較
差に依存するものとせず,直接に技術進歩,市場開放性,政府支出対G∂Pシェ
ア,対外準備,金利差などに.依存するものとして回帰係数を求める。その結果
は,(6)式の通りである。なお,ダミー変数については前節と同じである14)。
d斤 〈一〈_ 〈〈〈‖d(CβPβ〟P).〈__(〈 d(0ノつ) 〈〝〈′
+37599∵−
d(Cl/β/CβP) 3765 =一0.435−20.344 〟 (イ24)(−5.95)GβPβA押 ■モ∂.左テ∼ OP(−∋云左ラGVE/GβP d(0ダ尺) 人〈__〈d(Of,*)  ̄ −36.559 −J6.573 (−5β4) 0ダ月(−3β9) Of,*(−3の) (6J2)(−6.43) (6) 尺2=0β6,d/=63,p=J999 アメリカの生産技術(技術進歩 GβP*/E〟P*)と政府支出の対GnPシェア (GV丘−*/GβP*)及び公的対外準備(0ダ尺*)は,ともに有意な結果が得られず 14)勿論,対外準備を説明変数に使用しているので,二つのダミー変数に」として挿入す る箇所ほそれだけ少なくなっている。香川大学経済学部 研究年報 34 図6 購買力平価からの蔀離と回帰曲線 (19741∼1992.1) −ノノー 5 0 5 1 1 0 −−5 −10 −15 −20
747576 777879 8081828384858687888990 9192
(2個のダミ一変数を使用) −血/〟 (£傭:が悪く)独立変数から除かなければならなかった。すなわち,アメリカの 技術進歩は,購買力平価からの帝離に影響を与えなかったか,あるいはその技 術進歩自体がこの期間余りなかったか,いずれにせよ乗離(〟)を変動させな かったようである。またアメリカの政府支出対GβPシェアは,日本(f傭:が有意 を示す)と異なり,経済システムの違いか経済規模の差のためか,全く効かなかった。同様にアメリカの公的対外準備の変化も,世界の金融の中心国である
けれども,政府の特別の関心事ではないとみえ,パ・−・セント飛離に影響してい ない。 金利差については,回帰式に・公的対外準備保有の変化率を導入した結果,確定的に有意の結果が得られた。ところで,金利差について例えば深尾光洋氏の
資産市場アプローチは15),次のように主張する。完全に代替的な内外債券を仮 定し国際間の資本移動を考慮に入れるとき,ニ国利子率の間に去=よ■*+〃の関係 15)深尾[25コ,宮田[27]7∼16ページ。−J2− 購買力平価からの燕離要因とその作用径路(再考) が成立する(ただし〃=(尺」欄)/尺である)。また投機者は,両国のインフレを 予想し,為替レ・−ト(尺)が購買力平価から離れるとき,再びそれに近づく傾向 があると予想する。ゆえにこの場合〃=(クー〆⊂)+β(g−g)となる。ただ しAタ*はインフレ率,g,eは購買力平価と為替レ・−トの対数値,βは調整速度 である。そこで,購買力平価からの蔀離(g−e;われわれの定義の逆)は, g−♂={(去−ま*)・(クー抑 (7) となり,二国の金利差に依存し変化することになると云う。 このモデルは,本来リスク・プレミアムを導入しオ・−バ−シュトやバ ブル現 象を説明しようとする短期分析のものである。これに対し,われわれの分析 は,四半期別デ鵬タを使用した比較的長期の分析である。したがって,かって 検証した場合16),金利差に閲す−る回帰係数は,f値が有意とならず,方程式から 排除された。しかしながら,今回は公的対外準備保有を導入することで,吉備は 有意を示し,導入すべきことを強く示唆している。 前稿の㈹式と本稿Ⅰ節の(1)式∼(5)式を比較検討し,購買力平価からの禾離を 変化させる各種要因の作用(影響)径路を図示すると図7のようになる。この 作用径路図で,+符号は回帰係数が正値であり影響が正比例関係にあることを 示し,一符号は回帰係数が負債であり逆比例関係にあることを示す。 すなわち日本の技術進歩(Gエ)P/且〟P)と政府支出の対CβPシェア(GV’E/ G上)P)の変化は,日本の相対価格(冗=タ7/釦)の変化率を小さくし,購買力平価 からのパ1−セント帝離(〝)を縮小する。日本の市場開放(OP)への努力は, 日本の相対価格の変化を増加させ,−・方で貿易財価格の二国間較差(で)を広 げ, 本の取引量ウエイト(α)にも作用し,パ、−セント飛離に縮小的な影響を与え る。しかし,この相対価格から取引量ウエイトへの負の影響は,前稿の㈹式か ら明らかなように,回帰係数β‖∂0β3と極めて小さい。さらに,日本の公的対外 16)宮田[29]22∼5ページ。
香川大学経済学部 研究年報 34 −J3− 準備(0ダ月)をみてみると,その増大は,日本の相対価格変化と貿易財価格の 二国間較差変化を共に小さくし,パ叫セント乗離を縮小する。 他方,アメリカについて見ると,アメリカの市場開放(Of〉*)努力は,自国の 相対価格(が=ク7*/タ〃*)変化を拡大し,−・方で逆に.貿易財価格の二国間較差 (丁)を締めることで,共にパーセント帝離を縮小させる。しかしながら,ア メリカの技術進歩(GβP*/E〟P*)と対外準備保有(0ダ尺*)は,アメリカの相 対価格変化を小さくするが,パーーセント乗離には影響を与えない(破線表示)。 最後にり 日米金利差(よ一之*)の増大は,貿易財価格の二国間較差(丁)の変 化を小さくし,パ・−セント帝離を縮小させる。 図7 %売離への作用径路 本稿(6) 式による 直接効果 前稿㈹式と本稿(1)∼(5)式による間接効果 %乗離 仲介変数 各種乗離要因 +血/冗 + 一dα/α 一血ソが +dT/丁 一 日本の技術進歩(CJ)ノγE〟P) + 日本の市場開放(OP) 一 日本の政府支出対C∠)P・:ンェア(Cl′g/CβP) 一 日本の対外準備と金(0ダ尺) 十 アメリカの技術進歩(G上)P*/g〟P*) ± アメリカの市場開放性(OP*) + アメリカの対外準備と金(0ダ尺り 一 日米金利差(よ−i*) + .
一∴∴一
d〟だ +は従属変数に増加影響を与えることを,−は従属変数に減少影響を与えることを示す。 矢印は,影響の方向を表す。最左瀾の+−は,%乗離への各種蔀離要因の直接効果を示す。 矢印の実線は各種要因が%乗離に影響を与えることを示し,点線は仲介変数にのみ影響 し%蔀離に影響を与えないことを示す。 なお,上記の最右欄から矢印を辿って得られる各種蔀離要因のパーセント乗 離への効果は,(6)式で得られる最左欄に掲げた各種蔀離要因の直接効果と,増 減(+,−)でみる限り,全く矛盾しない。 以上,われわれは為替レートを購買力平価からの各種乗離要因を検討してき−J4一 購眉力平価からの飛離要因とその作用径路(再考) た。購買力平価からの諦離の原因を探るとき,通常(6)式のような各種要因を独 立変数として使用し,回帰係数を導出して,直ちにそれら各種要因が兼離の原
因であるとの結論に到達する。そしてこれらの各種要因が相対価格,取引量ウ
ェイト,貿易財の二国間較差のような仲介変数のいずれを経由したものか,あ るいは上記各種要因と仲介変数が同列にあるものか,全く判然としないまま放置されている。したがって,このような分析ではそれらの各種要因がどのよう
な経路で%轟離に影響するのか,全く分からない。そこで,われわれは,先ず 前稿においてqゆ式を用いて購眉力平価からの蔀離の生じる要因が日本とアメリ カ両国の相対価格,取引量ウェイト,貿易財価格の二国間較差のいずれかを経 由せねばならないことを見出し,次いでそれを仲介変数と呼び,それらがどの ように荊離要因と関係しているかを尋ねたのである。購買力平価からの乗離に ついて得られたわれわれの結論は,次のようなものである。 ①日本・アメリカともに市場開放性の影響が認められる。しかもアメリカで は,貿易財価格の二国間較差を経由する影響ほ相対価格を経由する影響と ほぼ同程度である(一ノ2.29JxO.α‖=−∂J2520ノと0ク092×(−ノ2Jの =−OJノノ32)。 ②日本では生産技術(技術進歩)及び政府支出の対GβPシェアの影響が認め られる。 ③アメリカでは生産技術(技術進歩)の変化は,相対価格に作用するけれど も%飛離には影響しない。また,取引量ウエイト及び政府支出対G∂Pシェ アの変化も,ともにその影響が認められない。 ④日米金利差は貿易財価格の二周間較差に作用し%禾離に㌧影響する。⑤日本の生産技術の進歩と政府支出の対GaPシェアの増大は%帝離を縮小
し,市場の開放性の変化はそれを拡大する。 ⑥日本の市場開放性の増大は轟離を拡大し,アメリカの開放性の増大は%飛 離を縮小する。⑦日本の対外準備保有は日本の相対価格変化に作用し%帝離を小さくする
が,アメリカのそれは希離に.影響を与えない。香川大学経済学部 研究年報 34 ーJ5− Ⅲ われわれは,前稿において為替レ・−トの購買力平価からの乗離〟を定義する と共に,その荊離が自国と外国における貿易財・非貿易財の相対価格(方, が),取引量ウェイト(α,α*),貿易財価格の二国間較差(丁)に依存して変 化することを見出した。そして,円レ・−トと日米両国のデータを用い,このこ とが正しいかどうかの検証を行った。その結果,購買力平価からの承離は,ア メリカの取引量ウエイトの変化に.影響されないが,日本の取引量ウェイトと両 国の相対価格の変化及び貿易財価格の二国間較差の変化に影響されるとの結論 に.達した。 そこで,本稿において,日米両国の相対価格の変化,日本の取引量ウエイト の変化,貿易財価格の二国間較差の変化につき,それらが何に依存して変動す るものかを,考え得る各種変数を用いて再度実証的に検討した。その結果,日 本の相対価格変化は日本の生産技術変化(技術進歩)と政府支出の対GβPシェ ア及び市場開放性,日本の公的対外準備保有に依存すること,他方アメリカの 相対価格ほアメリカの生産技術変化(技術進歩)と市場の開放性,アメリカの 対外準備保有に.依存するがアメリカの政府支出の対GβPシェアに依存しない こと,また日本の取引量ウェイトほ日本の相対価格変化に依存すること,さら に貿易財価格の二国間較差は日米両国の市場開放性と日本の対外準備保有に.依
存すると共に両国の金利差にも依存することが明かとなった。この場合,アメ
リカの対外準備保有は影響を与えない。 最後に,本稿Ⅱ節において,前節で見出した生産技術変化(技術進歩)や政 府支出の対GβPシェア,市場開放性,対外準備保有,金利差などの各種変数を 為替レートを購買力平価から乗離させる要因と考え,他方で相対価格,取引量 ウエイト,貿易財価格の二国間較差等を仲介変数と位置づけて,乗離要田の作用径路を描いた。このような径路図(図7)が正当であることを確かめるた
め,上記の各種乗離要因を独立変数とし購買力平価からの蔀離斤を従属変数と する回帰方程式の当てはまりの良さ及び吉備を導出した((6)式)。その結果,ア メリカの生産技術変化及び政府支出の対GβPシェアとアメリカの対外準備保ーJ6一 購買力平価からの燕離要因とその作用径路(再考) 有を除く他の全ての要因が,購買力平価からの乗離に影響すること,またわれ われの上記径路図の設定が概ね妥当であること,を見出した。 われわれは,上記分析で月別デー・タの使用を排除し,すべて四半期別データ を使用した。これは購買力平価説が長期理論であることを考慮したためである。 したがって,前稿の㈹式あるいは本稿の(6)式は,いずれも購買力平価からの蔀 離の比較的長期の傾向を示すものと解釈できる。この禾離の長期傾向をその㈹ 式と(6)式のいずれを用いて計測すべきものかについてほ,問わない。云うまで もなく単純で明快なものは,前稿の㈹式である。 最後に注意すべきは,上記分析に.おいて,購買力平価からの%飛離が日本の 公的対外準備保有に影響されるが,アメリカのそれには影響されないことであ
る。これは,世界の金融の中心であるアメリカが基軸通貨国であることにも関
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