水工学論文集,第59巻,2015年2月
柔軟植生群落流れにおける藻波現象の
スケール変化と横断方向位相差に関する研究
EXPERIMENTAL STUDY ON LENGTH SCALE AND LATERAL HETEOROGENEITY OF
MONAMI PHENOMENA IN FLEXIBLE VEGETATION PATCH FLOW
岡本隆明
1,青木成太
2,横山博行
2,戸田圭一
3Takaaki Okamoto, Seita Aoki, Hiroyuki Yokoyama, and Keiichi Toda
1正会員,工博,京都大学大学院助教,工学研究科社会基盤工学専攻(〒615-8540京都市西京区京都大学桂キャンパス) 2学生員,京都大学大学院修士課程,工学研究科社会基盤工学専攻(同上)
3正会員,Ph.D.,京都大学大学院教授,工学研究科社会基盤工学専攻(同上)
For flexible vegetation flow, the passage of the coherent vortex causes a local depression in the canopy and the waving motion is called ‘Monami’. It is well known that the Monami motion has significant heterogeneity and the Monami scale appears to be a function of the vortex size. However, no detail information on the Monami scale exists (streamwise and lateral direction). So, in the present study, simultaneous measurements of two-line flexible vegetation elements are conducted by using 2-color PTV. The results suggested that the flexible vegetation element in each sub-channel exhibits a periodic sequence of Sweeps and Ejections.
Key Words: flexible vegetation, vortex size, lateral heterogeneity of monami phenomena, PIV, 2-Color PTV
1.はじめに
河川に繁茂する植生は生物の生息場所を提供す るとともに,物理的抵抗として流れと地形形成に影 響を与える.そのため開水路植生流れの流れ構造を 詳細に解明することは,治水,河川環境の保全の観 点から重要である.特に実河川植生は柔軟性を有し, 流水に対して変形,揺動することで流れ構造がどの ように変化するのかは興味深いテーマである. 大本ら(2005)1)は水路中央に設置した植生群落を 横断する流れに着目し,水面変動や乱流構造に与える影響を明らかにした.Ghisalberti & Nepf (2009)2)
は柔軟植生流れ場では藻波現象が発生すると運動 量交換が抑制され,レイノルズ応力が小さくなるこ
とを示した. Siniscalchi & Nikora (2012)3)は分力計
と超音波流速計(ADV)を用いて柔軟植生にかかる抗 力と近傍の流速を同時計測し,抗力値は大スケール の乱流変動成分と高い相関があることを指摘した. Chenら(2012) 4)は柔軟植生を水路内に設置して移 動床実験を行い,植生群落の上流端では洗掘が発生 し,洗掘領域の大きさは植生密度によって変化する
ことを示した.Sukhodolov & Sukhodolova (2012)5)は
実河川の植生群を対象に現地計測を行い,植生群落 の内部で混合層が発達し,藻波現象が発生している
ことを示した.渡辺ら(2014) 6)はDPTV(Dye-streak
Particle Tracking Velocimetry)法を用いて柔軟植生場 では大規模な縦渦構造と植生模型の背後に形成さ れる小スケール渦構造の二つの渦構造が存在する ことを明らかにした.著者ら(2010)7)は柔軟植生変 位をPTV計測し,藻波発生時には植生抵抗が減少す ることを明らかにしたが,藻波の横断方向位相差に ついての実験データは得られていない. 以上のように,植生流れの研究は国内外を問わず, 非常に興味深いトピックスである.これまでの研究 から柔軟植生場では大規模渦によって植生が組織 的に揺動し,藻波(Monami)現象が発生することが知 られている.しかしながら,平坦河床から植生群落 に遷移する過程で流下方向に組織渦のスケールが 変化すると,組織的に揺動する柔軟植生の本数がど のように変化するかについては明らかにされてい ない.またMonami現象の横断方向位相差についても 未解明点が多い.植生揺動によって乱流拡散が大き くなり,植生による水質浄化作用が促進されるため, 植生の揺動形態を把握することは河川工学上重要 である.そこで本研究では2種類のPTV計測法を用 いて,群落内の流下方向位置による藻波現象のスケ ール変化と横断方向位相差について考察する.特に 2色の蛍光粒子を用いたPTV法では複数列の柔軟
植生変位の同時計測を行い,Monami現象の横断方向 位相差を明らかにすることを試みた.
2.実験装置と計測方法
(1) PIV-PTV法による流速と植生変位の同時計測 図-1にPIV-PTV実験装置図を示す.実験に用いた 水路は全長10m,幅40cm,高さ50cmの可変勾配型水 路である7).等流状態になるように水路勾配を変化 させている.x, および z は,それぞれ流下方向,y 鉛直方向および横断方向である.U ,V およびW は 各方向における時間平均流速,u, および w はそれv ぞれ瞬間流速u ~~,vおよびw~ の乱れ変動成分を示す. Hは全水深,hは柔軟植生の直立高さ,hdは柔軟植生 の折れ曲がり高さである. 柔軟植生モデル7)はOHPシートを長さh=70mm,幅 b=8mm,厚さt=0.1mmの短冊状に切ったもので水路 底面に計測部を含めて6mの区間にわたって植生模 型を正方格子状に配置した.流下方向,横断方向の 植生の配置間隔はそれぞれLv Bv 32mmである. 流下方向の原点(x=0)は植生群落の上流端,鉛直方向 の原点(y=0)は水路底面とした. PIVとPTV法を併用して瞬間流速(u ~~,v )と柔軟植 生の先端位置( , yx )を同時計測した.瞬間流速ベ クトルの算出にはPIV法を用いた.3WのAr-ionレー ザーを光源として水路上方から厚さ2mmのレーザ ーライトシート(LLS)を照射し,側方に設置した高 速度CCDカメラ(1024×1024 pixel)でデジタル撮影 した.LLSの照射位置は植生要素と植生要素の中間 (Nonwake region)7)で あ る . ト レ ー サ ー に は 粒 径 100 ,比重1.02のポリスチレン粒子を用いた.カm メラに30Hzの外部トリガーを与えて,500Hzのフレ ームレートで2枚の連続画像のペアを60秒間計測 した.撮影領域のサイズ
x,y は全水深領域を含む ように30cm×30cm領域である.また柔軟植生の先 端に蛍光球(直径1mm)を接着し,LLSを照射して蛍 光球をPTV追跡することで柔軟植生の先端変位を 計測した. (2) 2色PTV法による複数列の植生変位同時計測 図-2に2色PTV実験装置図を示す.本研究では複 数列の柔軟植生変位を同時計測するために,柔軟先 端部の蛍光球には列ごとに異なる波長域の色(青 色:波長450nmと黄色:波長570nm)の蛍光塗料を塗 布した.水路上方からブラックライトを照射し,側 方に設置した2台の高速度CCDカメラでデジタル 撮影した.2台のカメラはパルスジェネレータから のトリガー信号により同期をとることが可能であ る.30Hzのサンプリングレートで60秒間計測した. 一方のカメラにはバンドパス(BP)フィルターを装 着し青色の蛍光球の動きのみをPTV追跡でき,また 一方のカメラにはシャープカット(SC)フィルター を装着し黄色の蛍光球のみを撮影できる. 表-1に水理条件を示す.本研究では平坦河床から 植生領域まで(x=-50-450cm)を含むように高速カメ ラの位置xmを下流側に移動させており,計測位置の 間隔mはm=10cmである.植生密度,かぶり水深 比はH/h=3.0で全ケースで一定とした.本研究の植 生密度を次式で算出した. o V nAb (1) n は体積V における植生の数で,0 Aは流れに垂直方 向の植生要素の投影面積,b は植生要素の幅である. 表中の右端の欄は植生の揺動状態を表しており, Swaying(S) は 植 生 が 個 々 に 揺 動 す る 状 態 , Monami(M)は植生が組織的に揺動する状態を示す. 表-1 実験条件 Φ Um(cm/s) H (cm) h (cm) H/h Re Fr x (cm) x/h 揺動状態 0-100 0-14.3 Swaying 100-200 14.3-28.6 S-M transition 200-450 28.6-64.3 Monami 3.0 42000 0.14 0.061 20.0 21.0 7.0 v L Vegetation model Fluorescene marker Black light Band-passfilter Sharp Cutfilter
Control & storage computer x u U , z w W , Flow v B High-speed
CCD camera 2 CCD camera 1High-speed
v L
Flow
Flexible Vegetation elements
H
y hd x h Fluorescene marker LLS x u U , y v V , z w W , YAG laser Fluorescene marker 図-1 PIV-PTV同時計測システム 図-2 2色PTV計測システム3.実験結果と考察
(1)柔軟植生群落域での大規模渦の発達について 本節ではまずPIV計測結果から柔軟植生群落域で の平均流と組織渦構造の発達過程に着目する.図 -3(a)に植生群落上流端付近の時間平均主流速Uの x-y縦断面コンターと流速ベクトル(U,V)を示す.図 中には柔軟植生折れ曲がり平均高さhd を併示した. 流下方向と鉛直方向座標x, yは柔軟植生の直立高さ hで無次元化している.植生層内部(y/h1.0)では 植生抗力の影響で流速が流下方向に低減し,植生層 外部では流速が増加している(上昇流が発生).植生 群落上流端付近(x/h=0-8.6)では流れ場が流下方向に大きく変化しているが(Flow adjustment region)8),
h x / 8.6では流下方向変化は緩やかになり流れ場 が安定している(平均流遷移区間の長さ:LT/h=8.6). x/h=LT/h=8.6は植生先端高さ(y=h)の時間平均鉛直流 速V(h)が正値から0になる位置に対応しており8), x=LTで平均流構造の遷移(Flow adjustment)が終了し ていると考えられる. 乱流構造の遷移過程について考察するために図 -3(b)に植生群落上流端付近のレイノルズ応力uv のx-y縦断面コンターを示す.植生群落上流端付近
(Flow adjustment region) ではuvの値は小さい.こ
れに対し,x /h8.6では植生群落内を流下方向に進 むにつれてレイノルズ応力コンターの値が増加し, 植 生 高 さ(y/h=1.0) で 乱 流 構 造 が 発 達 し て い る (Developing region).これは平均流の遷移が終了した 後に,乱流構造が発達するためである.図-4にレイ ノルズ応力uv鉛直分布の流下方向変化を示す.植 生群落上流端付近(x/h=7.1))で植生高さ(y/h=1.0)に uv の明確なピークがみられるが,値は小さい.流 下方向に進むにつれてuv分布のピーク値は増加 しており,鉛直方向の運動量交換が促進されている. 植生群落内で乱流構造が発達すると組織渦の空 間スケールも流下方向に変化していくと考えられ る.図-5に渦の長さスケールの鉛直分布Lx
y の流 下方向変化を示す.Lx
y は流速成分の時空間相関 係数を積分して,次式から計算される.
dx y x x u y x u t y x x u t y x u y Lx
0 0 0 0 0 0 0 , ' , ' , , , , (2) 植生層内部ではL の値が小さく,流下方向の変化x は小さい.これは植生層内部では小スケールのカル マン渦が支配的であるためだと考えられる.これに 対して,植生層外部ではL の値が大きくなり,まx たL が流下方向に進むにつれて増加しているため,x 大規模渦の流下方向の発達が確認できる. (2) 柔軟植生揺動状態の遷移と藻波スケール変化 前節で考察したように植生群落内で組織渦が発 達することから,柔軟植生の揺動形態は流下方向に 大きく変化すると推測される.本節ではPTV計測結 果を用いて植生揺動状態の遷移とMonami現象のス ケール変化について考察する.図-6にPTV計測によ り得られた柔軟植生の揺動の流下方向変化を示す. PTV計測中の植生折れ曲がり高さh の最大値と最d 小値hd,max,hd,minも併示している.植生の折れ曲 がり高さh とx方向の植生変位 xd は植生長さhで無 0 1 2 3 0 2 4 6 8 10 12 14 h y / h x / m U U / -0.05 1.5 (a) Flow Adjustment region0 1 2 3 0 2 4 6 8 10 12 14 h y / 2 /Um uv 1.8102 3 10 0 . 2 (b) h x / Flow Adjustment region
図-3 植生群落上流端の流れの遷移課程(a)時間平均 主流速コンター(b)レイノルズ応力コンター 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 h y / 2 m U uv ○ x =50cm (x/h= 7.1) Swaying ▲ x =100cm (x/h =14.3) Swaying ■ x =200cm (x/h =28.6) Monami □ x =350cm (x/h =50) Monami ● x =450cm (x/h =64.3) Monami 図-4 レイノルズ応力鉛直分布の流下方向変化 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 Lx/h h y / ○ x =50cm (x/h= 7.1) Swaying ▲ x =100cm (x/h =14.3) Swaying ■ x =200cm (x/h =28.6) Monami □ x =350cm (x/h =50) Monami ● x =450cm (x/h =64.3) Monami 図-5 平均渦径の流下方向変化
次元化している.群落上流端(x/h=0)では植生群に上 流側の平坦河床部からの流れが衝突し植生が大き くたわんでいるが,揺幅 =hd hd,max-hd,minは小さい (Swaying).これに対し,大規模乱流構造が発達して いる領域(図-4:x/h=28.6, 64.3)では植生の揺れ幅は 大きく,組織渦によって植生が大きくたわんでいる. 図-7に柔軟植生の時間平均折れ曲がり高さhdの 流下方向変化を示す.植生折れ曲がり高さh の最大d 値と最小値hd,max,hd,minも併示している.群落上 流端(x/h=0)では植生帯に流れがぶつかるため植生 が一時的に大きくたわみ,植生高さh は小さい(倒d
伏状態).x/h=0-8.6 (Flow adjustment region)では組織
渦構造はみられないため(図-3(b))植生の揺幅hd が小さく,Swaying状態にある.これに対して,大 規 模 渦 構 造 が 発 達 し て い るDeveloping region (x /h8.6)では植生の揺幅hdが急激に増加してお り,注目される.特にx/h=28.6-64.3では大きな揺れ 幅を示し,Monamiが発生しているのが観察された. 図-8(a)に柔軟植生の揺動スペクトルShd
f を示 す.hdは図-8(b)に示すように柔軟植生の折れ曲がり 高さの瞬間値である.x/h=64.3のMonami領域では 0.2-0.3Hzの領域に明確なスペクトルピークがみら れるが,x/h=0,7.1のSwaying領域ではスペクトルピー クはみられない.この明確なピークこそMonamiの発 生周波数ではないかと考えられる.またGhisalberti & Nepf (2009)2)によるとケルビン・ヘルムホルツ (K-H)不安定性によって発生する純混合層の渦の発 生周波数は次式で与えられる. U fKH 0.032 (3) U は混合層の高速側主流速と低速側主流速の平均 値,は運動量厚である.x/h=64.3(Monami領域)で は式(3)から算出したピーク周波数はfKH=0.242(Hz) となった.この結果は図-8のピーク周波数と非常に 近く,またSweepやEjectionの発生周波数とも一致し ており,注目される.このことからMonamiはK-H不 安定性によって発生する組織渦によって発生して いると考えられる. Monamiのスケール(同時に揺動している植生本 数)について考察するために図-9に2本の柔軟植生 揺動のコヒーレンスCohhd ,hd
f を示す.L /v Lvは 植生要素間の流下方向距離を示す(図-8(b)).群落上 流部のSwaying状態のx/h=0, 7.1では全周波数帯でコ ヒーレンスが小さく,L /v Lvが大きくなるほどコ ヒーレンスが小さくなるので植生は個別に揺動し ていると考えられる.Swaying-Monami遷移領域の x/h=14.3ではL /v Lv=1.0のコヒーレンスが大きくな り,2本の植生が同時に揺動している(組織渦の流下 方向スケール:Lx=0.4h).乱流構造が十分に発達した 領域(x/h=64.3)ではL /v Lv=1.0, 2.0, 3.0で低周波側 ( f 1.0Hz)のコヒーレンスが大きく,4本の柔軟植 生 が 群 体 的 に 揺 動 し て い る(Lx=1.2h) . 高 周 波 側 ( f 1.0Hz)のコヒーレンスは小さいため,Monami 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 h hd/ h x/ h hd/ h x/ 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 ▲ x =100cm(x/h =14.3) Swaying ■ x =200cm(x/h =28.6) Monami ● x =450cm(x/h =64.3) Monami ▼ x=0cm(x/h=0) Swaying ○ x=50cm(x/h=7.1) Swaying max , d h min , d h max , d h min , d h 図-6 柔軟植生先端変位の流下方向変化 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 0 10 20 30 40 50 60 70 h hd Flow Ajustment zone △ hd max/h ● □ hd min/h h hd Developing zone d h h x / 図-7 柔軟植生の折れ曲がり平均高さと 揺動の振幅の流下方向変化 (a) (b) 3.0 0 . 1 / Lv Lv Flow Vegetation 1 2 3 4 1 d h 5 2.0 4.0 2 d h hd3hd4 hd5 0.0 5.0x10-5 1.0x10-4 1.5x10-4 2.0x10-4 10-2 10-1 1 f(Hz) 10 ━ x/h= 1.4 Swaying ━ x/h= 7.1 Swaying ━ x/h =14.3 Swaying ━ x/h =64.3 Monami hd S (m2・S) 図-8 柔軟植生の揺動スペクトル 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 10-1 1 10 102 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 10-1 1 10 102 f Cohhd ,hd (Hz) f 0 . 1 / LvLv 0 . 2 / LvLv 0 . 3 / LvLv 0 . 4 / LvLv (Hz) f 0 . 1 / LvLv 0 . 2 / LvLv 0 . 3 / LvLv 0 . 4 / LvLv 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 10-1 1 10 102 (Hz) f 0 . 1 / LvLv 0 . 2 / LvLv 0 . 3 / LvLv 0 . 4 / LvLv (Hz) f x/h=0 (Swaying) x/h=7.1 (Swaying) x/h=14.3 (S-M transition) x/h=64.3 (Monami) f Cohhd ,hd f Cohhd ,hd Cohhd ,hd f 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 10-1 1 10 102 0 . 1 / LvLv 0 . 2 / LvLv 0 . 3 / LvLv 0 . 4 / LvLv 図-9 流下方向の柔軟植生揺動のコヒーレンスは低周波の大規模渦によって発生していると考え られる. 本研究では植生先端変位と瞬間流速ベクトルを 同時計測しているため,植生の揺動と組織渦の関係 を 解 明 す る こ と が 可 能 で あ る . 図 -10 は x/h=64.3(Monami領域)における,それぞれ(a)植生折 れ曲がり高さhd (b)主流速uと鉛直流速vの時系列 変化を表した図である.t03(s)でh が増加するd と,u0,v0となり,低速流の上昇ベクトルの Ejectionが発生し,植生が起き上がっているまた 6 4~ t (s)ではh が減少すると,d u0,v0とな り,高速流の下降ベクトルであるSweepによって植 生が大きくたわんでいるのが観察された. 図-11に植生群落の流下方向代表位置における瞬 間流速ベクトル(u ~~,v)と瞬間レイノルズ応力コンタ ー を示す.柔軟植生の先端位置をPTV解析してuv 併示している.u>0, v<0, uv0となっている領域 では高速流の下降ベクトルSweepが発生していると 考 え ら れ る の で 丸 印 で 囲 ん で い る . 遷 移 領 域 (x/h=14.3)ではSweepのスケールが小さく,植生のた わみは小さい.これに対して,x/h=64.3(Monami領域) ではSweepのスケールが大きくなり,Sweep発生領域 の直下付近で植生群が組織的にたわんでいる.これ らの結果からSweepのスケールがMonamiの発生に 関わりがあることが示された. (3)藻波(Monami)現象の横断方向位相差 前節の結果から柔軟植生の揺動は大規模組織渦 と大きな相関があり,植生が大きくたわむ瞬間には Sweepが通過していることがわかった.本節では2 色の蛍光粒子を用いたPTV計測結果からMonami現 象の横断方向位相差について考察する.図-12は横 断方向2列の植生折れ曲がり高さh の時系列変化をd 表した図(x/h=64.3のMonami領域)である.B /v Bv は2 本 の 植 生 要 素 間 の 横 断 方 向 距 離 を 示 す ( 図 -12(c)).隣り合う植生(B /v Bv=1.0)では2本の植生 高さh がほぼ同時に大きく減少している瞬間がみd られ,Sweepが通過して2列の植生が同時にたわんで いる.またEjection発生時には2列の植生高さh が増d 加しており,2列の植生はほぼ同時に揺動している. これに対し,十分に離れた2列の植生(B /v Bv=4.0) ではt=0.0sで一方の植生(Veg.5)がSweepによってた わんでいる瞬間に,一方の植生(Veg.1)がEjectionに よって起き上がっている.これらの結果からMonami 現象は横断方向位相差のあるSub-channel構造9)をも つことがわかり,注目される. Monamiの横断方向位相差を定量的に評価するた めに図-13に横断方向2列の柔軟植生揺動のコヒー レンスCohhd ,hd
f を示す.B /v Bvは植生要素間の 横断方向距離を示す(図-12(c)).x/h=64.3(Monami領 域)では隣り合う植生(B /v Bv=1.0,1 )では低周.0 波域( f 1.0Hz)でコヒーレンスが大きく高周波域 ( f 1.0Hz)のコヒーレンスが小さいため,大規模渦 (渦の横断方向スケール:Lz=0.7h)によって3列の植生 がほぼ同位相で揺動している.これは目視で観察し た結果とも一致している.植生間距離が大きくなる と(B /v Bv=2.0, 3.0, 4.0)低周波域のコヒーレンスが -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 0.3 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9t (s)10 (a) d h h hd/ Sweep Sweep Sweep Sweep Ejection u v t (s) (m/s) (b) u v Ejection 図-10 PIV-PTV同時計測結果(x/h=64.3) (a)柔軟植生変位 の時系列(b)瞬間主流速と鉛直流速の時系列 0 1 2 3 63 63.5 64 64.5 65 65.5 0 1 2 3 12.5 13 13.5 14 14.5 15 15.5 x/h=14.3 x/h=64.3 h x / 2 10 1 2 10 1 uv(m/s)2 h y / h y / h x / Sweep Sweep 図-11 大規模組織乱流と柔軟植生変位 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 Sweep Sweep Sweep Sweep Sweep Sweep Ejection Ejection h hd/ s t 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9Sweep Sweep Sweep Sweep Sweep Ejection Ejection h hd/ s t (a) ΔBv/Bv=1.0 (b) Δ Bv/Bv=4.0 Veg.1 Veg.2 Veg.1 Veg.5 (c) x u U , z w W , Flow v B 0 . 1 / Bv Bv 0 . 2 / Bv Bv 0 . 3 / BvBv 0 . 4 / Bv Bv 0 . 1 / Bv Bv
Veg.0 Veg.1 Veg.2 Veg.3 Veg.4 Veg.5
図-12 藻波現象の横断方向位相差(x/h=64.3) f Cohhd ,hd (Hz) f 0 0.2 0.4 0.6 0.8 0.1 1 10 100 x/h=7.1 ΔBv/Bv= -1.0 ΔBv/Bv= 1.0 ΔBv/Bv= 2.0 ΔBv/Bv= 4.0 ΔBv/Bv= 3.0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 0.1 1 10 100 f Cohhd ,hd (Hz) f x/h=64.3 ΔBv/Bv= -1.0 ΔBv/Bv= 1.0 ΔBv/Bv= 2.0 ΔBv/Bv= 4.0 ΔBv/Bv= 3.0 (a) (b) 図-13 横断方向の植生揺動コヒーレンス
小さくなり,揺動の横断方向位相差がみられる.こ れに対し,x/h=7.1のSwaying領域ではコヒーレンス の値が小さく,植生は横断方向にも個々に揺動して いる. 最 後 に こ れ ま で の 解 析 結 果 を も と に 作 成 し た Monami現象が遷移・発達する現象モデルを図-14に 示す.植生群落上流端付近(x=0)のFlow adjustment region で は 植 生 抗 力 の 影 響 に よ り 植 生 内 部 (y/h1.0)で流速が低減し,植生外部への流れ込み 現象がみられる(上昇流が発生している).この領域 では大規模渦はみられず,カルマン渦が支配的であ る.平均流の遷移(Flow adjustment region)が終了する
と,植生高さ(y/h=1.0)でレイノルズ応力が増加し, 組織乱流が発達する(Developing region).この領域で はまだ渦のスケールが小さく,柔軟植生は個々に揺 動 す る(Swaying) . 乱 流 構 造 が 十 分 に 発達すると (Fully-developed region),大規模渦によって植生が組 織的に揺動する(Monami現象).Monami現象は横断方 向位相差をもち,横断方向に複数のSub-channel構造 がみられた.コヒーレンス解析結果(図-13)から大規 模渦通過時(渦の横断方向スケール:Lz=0.7h)に3列の 植生が横断方向にほぼ同位相で揺動することがわ かった.Monami現象の横断方向スケール(Lz)につい ては,今後さらに詳細に検討したい.
4.結論
本研究では2種類のPTV計測法を用いて,藻波現 象のスケール変化と横断方向位相差について考察 した.以下に得られた知見をまとめて示す. 1) 柔軟植生群落の上流端では植生帯に流れがぶつ かって植生が倒伏するのがみられた.平均流の 遷移過程が終了し乱流構造が発達すると植生が 起き上がり,揺動の振幅が急激に増加すること がわかった.このことから植生の揺動は大規模 乱流運動によって発生することが示された. 2) 植生の揺動変位をスペクトル解析することで, 流れ場が流下方向に発達するにつれて,明確な スペクトルピークがみられ,植生揺動のピーク 周波数はK-H不安定波の周波数と一致した. 3) コヒーレンス解析から,Monamiの流下方向スケ ール(同時に揺動する植生の本数)は流下方向に 変化することがわかった.すなわち,上流端付 近では植生は個々に揺動し,組織渦が未発達な 領域では長さスケールLx=0.4hの渦が通過し,2 本の植生が同時に揺動する.さらに十分に流れ 発達した領域では長さスケールLx=1.2hの渦が 通過し,4本の植生が組織的に揺動している. 4) 2色PTV計測法を用いて2列の植生変位を同時 計測し,Monami現象は横断方向位相差のある Sub-channel構造をもつことを示した.コヒーレ ンス解析結果から大規模渦通過時(渦の横断方 向スケール:Lz=0.7h)には3列の植生が横断方向 にほぼ同位相で揺動することがわかった. 参考文献 1) 大本照憲・田中貴幸・矢北孝一(2005):植生群 落を伴う開水路流れにおける水面変動と流速変 動の相互作用,水工学論文集,第49巻, pp.499-504.2) Ghisalberti, M. and Nepf, H. (2009): Shallow flows over a permeable medium: the hydrodynamics of submerged aquatic canopies, Transport in Porous Media., Vol.78, pp.385-402.
3) Siniscalchi, F. and Nikora, V. (2012):Flow-plant interactions in open-channel flows: A comparative analysis of five freshwater plant species, Water Resources Research, Vol. 48, W05503
4) Chen, S.C. Chan, H.C and Li, Y.H. (2012) : Observations on flow and local scour around submerged flexible vegetation, Advances in Water Resources, Vol.43, pp.28–37
5) Sukhodolov, A.N and Sukhodolova, T.A. (2012): Vegetated mixing layer around a finite-size patch of submerged plants : Part 2. Turbulence statistics and structures, Water Resources Research, Vol. 48, W12506 6) 渡辺勝利・安部一輝・蒲生諒(2014):柔軟植生 模型を有する開水路流れの乱流構造,土木学会 論文集B1(水工学),Vol.58, I_709-714. 7) 岡本隆明,禰津家久,片山愛来(2010):柔軟植 生の揺動が流れ抵抗および乱流構造に与える影 響に関する研究,水工学論文集,土木学会, Vol.54, pp.949-954.
8) Chen, Z., C. Jiang, and H. Nepf (2013): Flow adjustment at the leading edge of a submerged
aquatic canopy. Water Res. Res.,
doi:10.1002/wrcr.20403.
9) Ghisalberti, M. and H. Nepf. (2005): Mass transfer in vegetated shear flows. Environ. Fluid Mech., Vol.5(6), pp.527-551 (2014.9.30受付) 0 /h x Flow Vegetation elements x y z u U , v V , w W , Flow adjustment region Developing region 4 . 7 /h x Fully-developed region z L Upward flow Karman Vortex Coherent Vortex Ejection Sweep Ejection Sweep 6 . 28 /h x 図-14 Monami現象発達過程の模式図