円周率
π
の研究
著者
112005
はじめに
わが国で円周率の存在を最初に学ぶのは小学校の時である。そこでは、円の半径と円周 ないしは円の半径と面積との関係を表すために用いられる。円周率は π という文字で表さ れ、現在それは π = 3.14159265358979323846264338327950288 · · · という数で表される。しかし、この円周率 π は円周や円の面積の測定に限らずさまざまな 場面で登場する不思議な数である。 この論文では、まず第 1 章で円周率 π を定義し、Archimedes の方法から始まって、円の 半径と円周や面積との関係を述べ、さまざまな図形の面積や体積などを導出し、さまざま な場面で登場する π について述べる。第 2 章では、解析的な計算を行う上で出てくる π を 含んだ式を紹介し、π からの視点でそれらを考察する。第 3 章では、Euler によるさまざま な式を考察し、そこからさまざまな形で出現する π に関する式について考察する。第 4 章 では、π の無理数性や超越性といった π の数論的な性質を述べる。第 5 章では、楕円関数 の理論から導かれる π について述べる。最後のまとめとして、第 6 章では、第 5 章までで 扱った π に関する公式からそれぞれの式がどれだけの速さをもって π に収束するかを考察 する。 この論文は著者が 2005 年 4 月から 2007 年 3 月まで大学院修士課程在籍中に行った研究 により提出した修士論文を基にして加筆・修正を加えたものである。内容としては、終わ りにあげてある参考文献の特に [1] を下敷きにしている。この本には π についての豊富な 内容がさまざまな視点から記述されており、読みながらそのおもしろさを我々に感じさせ てくれる内容になっている。 修士学生の時の研究や修士論文の作成にあたって指導教員であった水田義弘先生には厚 くお礼を申し上げます。また、そのときのゼミでは、教育学研究科の下村哲先生や理学研 究科博士課程の方々がほとんど毎回参加していただき、水田先生とともに多くの助言を与 えてくださりました。また、この [1] の本は理学研究科の須川敏幸先生に薦めていただきま した。合わせて感謝の意を表します。目 次
第 1 章 π の定義と図形の測定 1 1.1 Archimedes の方法 . . . . 1 1.2 さまざまな図形の面積と体積 . . . . 14 1.2.1 弧度法 . . . . 14 1.2.2 楕円の周の長さと面積 . . . . 16 1.3 Gauss の円問題 . . . . 16 1.4 Buffon の針 . . . . 16 第 2 章 π に関するさまざまな公式 17 2.1 Vi`ete の無限乗積の公式 . . . . 17 2.2 無限乗積の一般理論 . . . . 20 2.3 Wallis の無限乗積の公式 . . . . 25 2.4 √π とコイン投げの問題 . . . . 27 2.5 Stirling の公式 . . . . 30 2.6 Gregory と Leibniz の公式 . . . . 33 2.7 Euler による arctan の級数展開 . . . . 35 2.8 さまざまな π の級数や積分による式 . . . . 38 2.9 Machin の公式 . . . . 47 2.10 π 4 = arctann11+ arctan 1 n2 + · · · + arctan 1 np について . . . . 50 2.11 π の連分数展開 . . . . 51 2.11.1 連分数について . . . . 51 2.11.2 連分数の収束 . . . . 52 2.11.3 連分数の性質 . . . . 53 2.11.4 無限級数の連分数展開と Brouncker の公式の証明 . . . . 58 2.11.5 無限乗積の連分数展開 . . . . 632.11.6 正則な連分数 (Regular continued fraction) . . . . 66
2.12 Bailey,Borwein,Plouffe の公式 . . . . 68 第 3 章 Euler の公式と π 73 3.1 π と e の解析的な定義 . . . . 73 3.1.1 古典的な方法による定義 . . . . 73 3.1.2 指数関数による定義 . . . . 75 3.2 π と Fourier 級数 . . . . 75
3.3 P∞ n=1 1 n2 = π 2 6 に関するさまざまな証明 . . . . 81 3.3.1 Euler の発見 . . . . 82 3.3.2 Papadimitriou の証明 . . . . 83 3.3.3 Fej`er 核 . . . . 88 3.3.4 Matsuoka の証明 . . . . 91
3.4 二重対数関数 (The dilogarithm function) . . . . 93
3.5 いくつかの数論的関数の漸近性 . . . . 94
3.5.1 約数の総和 . . . . 94
3.5.2 メビウス関数 (The M¨obius function) . . . . 94
3.5.3 ある整数が平方以上の因子を持たない確率 . . . . 94 3.5.4 Euler 関数 . . . . 94 3.6 Bernoulli 数 . . . . 94 3.6.1 Bernoulli 数の定義と導出 . . . . 94 3.6.2 tan と cot の級数展開 . . . . 95 3.6.3 cot に関する Euler の公式 . . . . 99 3.6.4 Euler の無限乗積の公式 . . . . 101 3.6.5 Euler のゼータ関数の公式 . . . . 101 3.6.6 Euler と Maclaurin の和の公式 . . . . 101
3.7 ガンマ関数 (The Gamma function) . . . . 101
3.8 ベータ関数 (The Beta function) . . . . 107
第 4 章 π の数論的性質 112 4.1 ギリシアの三大作図問題 . . . . 112 4.2 無理数 . . . . 112 4.2.1 √2 と e の無理数性 . . . . 112 4.3 Lambert の π の無理数性の証明 . . . . 113 4.4 Beukers による ζ(2) と ζ(3) の無理数性の証明 . . . . 113 4.5 超越数 . . . . 113 4.6 作図できる数 . . . . 113 4.7 e と π の超越性 . . . . 113 4.8 π の無理数度 . . . . 113 4.9 正多角形 . . . . 113 第 5 章 π と楕円積分 114 5.1 楕円積分とレムニスケート . . . . 114 5.2 算術的と幾何的 . . . . 114 5.3 楕円積分の計算 . . . . 114 5.4 Borwein による計算 . . . . 114 5.5 Abel とレムニスケート . . . . 114 5.6 Jacobi と Ramanujan . . . . 114
5.7 π と Ramanujan . . . . 114 5.8 Borwein による証明 . . . . 114 第 6 章 π に関する式の収束の速さ 115 6.1 第 1 章より . . . . 115 6.2 第 2 章より . . . . 116 6.3 第 3 章より . . . . 118 6.4 まとめ . . . . 119
第
1
章
π
の定義と図形の測定
最初に知られている円の面積を測定する方法は、40 世紀も前にさかのぼると言われてい る。1855 年に、そのことが記載されたエジプトのパピルスが発見された。それは、俗に1 9 ルールといい、円の面積を正方形で近似するというもので、「円の面積は、その円の直径か らその1 9 を引いたものの 2 乗に等しい。」というものである。 直径 9 の円に外接する正方形を考える。この 1 辺が 9 の正方形を 1 辺が 3 の 9 つの正方 形に分割したとき、円の面積はこの 1 辺が 3 の正方形の 7 個分の面積にほぼ等しいとみな した。すると、円周率を π とすると、(直径 9 の円の面積)=(1 辺 3 の正方形の 7 個分の 面積)より、 π µ 9 2 ¶2 = 63 となる。ここで、63 は 64(= 82) にほぼ等しいから、 π = µ 2 9 ¶2 · 82= µ 16 9 ¶2 を得た。そこで π として µ 16 9 ¶2 を用いたのである。これより、一般の直径が d の円の面 積は、 π µ d 2 ¶2 = µ 16 9 ¶2µ d 2 ¶2 = µ 8 9d ¶2 となり、円の面積はその円の直径からその1 9 を引いたものの 2 乗に等しいと言ったようで ある。なお、このころ、半径が r の円の面積が、πr2で表されることは知られていたよう である。この1 9 ルールは、数学的に厳密な根拠があるとはいえないのであるが、 π = µ 16 9 ¶2 ∼ = 3.1605 となり、誤差が 2 · 10−2以内というよい近似であったことが分かる。 この後に Archimedes によって、数学的な言及がなされた。 図を挿入した方がよい1.1
Archimedes
の方法
ここでは、Archimedes の方法を念頭に置きながら、まず円周率 π についての定義を行 い、Archimedes をはじめ、歴史的に π の値がどのように導出されてきたのかを考察しな がらそれを数学的に厳密に述べることにする。Archimedes は、円周率を求めるために、半径が 1 の円の半周について考え、それを正多 角形で外接、内接させることで円周の長さを求めることを考えた。 いま、半径 1 の円を C とし、それに正 N 角形を外接ないし内接させる。ここで、外接 させる正 N 角形と内接させる正 N 角形は同じ N であることに注意する(もちろん外接し たものと内接したものの大きさは異なる)。外接させた正 N 角形の全周の長さの半分を a、 内接させた正 N 角形の全周の長さの半分を b とおく。ここで、実数 π を次のように定義す る。(後にこの π が円周率になる) 定義 π を半径 1 の円の半周の長さとする。 このとき、以下の命題が成り立つ。 命題 任意の N について、a と b と π の大小関係は、 b < π ≤ a である。 図を挿入する この命題を証明するためには、凸な曲線の性質を利用するので、まず凸な曲線について 述べる。なお、これも Archimedes による。 A から B まで結んだ曲線を Γ とし、曲線 Γ と線分 AB によって囲まれる領域を D と する。ここで、曲線 Γ が凸であるとは、Γ 上の任意の 2 点 M1, M2を取ったときに、線分 M1M2が D に含まれていることをいう。 ここで、図のように、A から B を結ぶ Γ とは別の凸な曲線 Γ0を Γ の内側を通るように、 すなわち D に含まれるように取る。このとき、曲線 Γ の長さを Length(Γ) で表すことに すると、次の補題が成り立つ。 補題 Length(Γ) ≤ Length(Γ0) 図 1.2 と図 6.2 の挿入 補題の証明 曲線 Γ0は、この曲線上の A から B までの任意の分割の点を結んだ多角直 線の上限であり、Γ0は D 上で凸なのでこの多角直線も全て D に含まれる。ここで、この 多角直線の辺の本数を n とし、この多角直線の長さが曲線 Γ の長さ以下であることを帰納 法によって示す。n = 1 のとき、つまりこの多角直線は線分 AB のことであるので、明ら かに、 Length(AB) < Length(Γ) であり、n = 1 のときに成り立つ。n = k(k ≥ 1) のとき、任意の凸な曲線 Γ とその内部の 任意の凸な曲線 Γ0について Γ0における k 本の多角直線が必ず Γ の長さ以下であると仮定 する。 ここで、Γ0上の任意の k + 1 本の多角直線 AM1M2· · · MkB について考える。下の図で、 直線 AM1と Γ との交点を N とする。ここで、M1M2· · · MkB は始点が M1で終点が B の新たな凸な曲線で、その内部に k 本の多角直線 M1M2· · · MkB があると言うことができ る。よって、任意の凸な曲線の内部の k 本の多角直線は曲線の長さ以下であると仮定して いるので、 Length(M1M2· · · MkB) ≤ M1N + Length(arc(N B))
である。よって、 Length(AM1M2· · · MkB) = AM1+ Length(M1M2· · · MkB) ≤ AM1+ M1N + Length(arc(N B)) = AN + Length(arc(N B)) ≤ Length(arc(AN )) + Length(arc(N B)) = Length(Γ) ゆえに、n = k + 1 のときにも仮定は成り立つ。 したがって、帰納法より、曲線 Γ0について、Γ の内部にある任意の多角直線の長さは曲 線 Γ の長さ以下である このことから、曲線 Γ0の長さはこの曲線上でできる多角直線の長さの上限であるので、 任意の多角直線の長さが Γ の長さ以下なので、 Length(Γ) ≤ Length(Γ0) となることが分かる。ここで、図 1.1 のように、半径 1 の円の中心を O、円に外接させた 正 N 角形の 1 辺を AB、もう 1 辺を BE、内接させた正 N 角形の 1 辺を CD とおく。O から AB と BE に垂線を下ろし、その足をそれぞれ H と I とし、CD と OH の交点を K とする。 図 1.1 を用いて、前述した命題を証明する。 図 1.1 に E を加えたものを挿入する 命題の証明 2 点間を結ぶ曲線の中でその距離が最短なものは、その 2 点間を結ぶ線分 であるので、 CD < 弧 CD よって、b は内接させた正 N 角形の全周の長さの半分なので、 b = 1 2N · CD また、弧 CD は円周を N 等分したものなので、π は半円周の長さから、 π = 1 2N × 弧 CD ゆえに、 b < π となる。また、H から I を結ぶ曲線について、折れ線 HBI と弧 HI は凸であり、折れ線 HBI と線分 HI で作る領域の中に弧 HI があるので、補題から、 弧 HI ≤ 折れ線 HBI ここで、AH = HB = BI = IE なので、折れ線 HBI = HB + BI = HB + AH = AB であるので、よってこれは外接させた正 N 角形の 1 辺の長さである。したがって、a は外 接させた正 N 角形の全周の長さの半分なので、 a = 1 2N · AB = 1 2N × 折れ線 HBI
である。また、弧 CH = 弧 HD = 弧 DI = 弧 IE なので、弧 HI = 弧 HD + 弧 DI = 弧 HD + 弧 CH = 弧 CD であるから、 π = 1 2N × 弧 CD = 1 2N × 弧 HI ゆえに、 π ≤ a となる。以上のことから、 b < π ≤ a が成り立つ。 次に、N = 6 · 2n(n = 0, 1, 2 · · ·) として考える。外接させた正 6 · 2n角形の全周の長さの 半分を an、内接させた正 6 · 2n角形の全周の長さの半分を bnとおく。すると、命題から、 任意の n について、 bn< π ≤ an である。また、6 AOB = 2θnとおく。ここで、θnの値は、1 回転を 360◦とする値で測る (度数法)。よって、2θn= 360 ◦ 6 · 2n 、つまり、θn= 360◦ 6 · 2n+1 である。このとき、次の定理が 成り立つことを Archimedes は示した。これが Archimedesの方法である。 定理 1 0 以上の任意の整数 n について、以下の公式が成り立つ。 an+1= 2anbn an+ bn bn+1= p an+1bn (1.1) ただし、初期値は、 a0= 2 √ 3 b0= 3 (1.2) である。また、 an+1− bn+1= an+1bn (an+1+ bn+1)(an+ bn) (an− bn) (1.3) bn< bn+1< an+1< an (1.4) lim n→∞(an− bn) = 0 (1.5) である。 証明 先に用いた図 1.1 で N = 6 · 2nとして考える。ここで、OC = OH = 1 であるの
で、AH = OH tan θn = tan θn, CK = OC sin θn= sin θnとなる。anは、円に外接させた
正 6 · 2n角形の全周の長さの半分なので、 an= 1 2 · 6 · 2 nAB = 1 2 · 6 · 2 n· 2AH = 6 · 2ntan θ n また、bnは、円に内接させた正 6 · 2n角形の全周の長さの半分なので、 bn = 1 2 · 6 · 2 nCD = 1 2 · 6 · 2 n· 2CK = 6 · 2nsin θ n ここで、次にこの円に正 6 · 2n+1角形を外接・内接させることを考える。上の式から、 an+1= 6 · 2n+1tan θn+1 bn+1= 6 · 2n+1sin θn+1
である。ここで、θn+1= 360 ◦ 6 · 2n+2 = 1 2θnより、θ = θnとしてまとめると、 ( an= 6 · 2ntan θ, bn= 6 · 2nsin θ an+1= 6 · 2n+1tanθ2, bn+1= 6 · 2n+1sinθ2 (1.6) よって、 2anbn an+ bn = 6 · 2n+1 tan θ sin θ tan θ + sin θ = 6 · 2 n+1 sin2θ
sin θ + cos θ sin θ = 6 · 2n+1 sin θ 1 + cos θ = 6 · 2 n+12 sinθ2cosθ2 2 cos2 θ 2 = 6 · 2n+1tanθ 2 = an+1 また、 an+1bn= 62· 22n+1tanθ 2sin θ = 6 2· 22n+2tanθ 2sin θ 2cos θ 2 = 62· 22n+2sin2θ 2 = (bn+1) 2 したがって、 bn+1= p an+1bn よって、(1.1) が証明された。ここで、n = 0 のとき(つまり正六角形のとき)、θ = θ0= 30◦ より、 a0= 6 tan 30◦= 2 √ 3 b0= 6 sin 30◦= 3 ゆえに、(1.2) が成り立つ。 次に、 an− bn an+1− bn+1 = tan θ − sin θ 2(tanθ2− sinθ2) = tan θ(1 − cos θ) 2 tanθ2(1 − cosθ2) = 2 tan θ 2(1 − cos θ)(1 + cosθ2) 2 tanθ 2(1 − tan2 θ2)(1 − cos2 θ2) = 2 sin 2 θ 2(1 + cosθ2) (1 − tan2 θ 2)(1 − cos2 θ2) = 2 1 + cos θ 2 1 − tan2 θ 2 = 2(1 + cosθ 2) cos2 θ 2 cos2 θ 2− sin2 θ2 = (1 + cosθ 2) 1 + cos θ cos θ = (1 + cosθ 2)(1 + 1 cos θ) 一方、 (an+1+ bn+1)(an+ bn) an+1bn = (1 + bn+1 an+1)(1 + an bn) = (1 + cos θ 2)(1 + 1 cos θ) よって、 an− bn an+1− bn+1 = (an+1+ bn+1)(an+ bn) an+1bn となり、(1.3) が成り立つ。
また、0 < θ ≤ 30◦であるので、 sin θ < 2 sinθ
2, sin θ < tan θ, 2 tan
θ 2 < tan θ が成り立つ。なぜなら、 2 sinθ 2− sin θ = 2 sin θ 2 − 2 sin θ 2cos θ 2 = 2 sin θ 2(1 − cos θ 2) > 0 tan θ − sin θ = sin θ( 1
cos θ− 1) > 0 tan θ − 2 tanθ 2 = 2 tanθ 2 1 − tan2 θ 2 − 2 tanθ 2 = 2 tan θ 2( 1 1 − tan2 θ 2 − 1) > 0 だからである。この不等式を用いると、 bn+1− bn= 6 · 2n(2 sinθ2− sin θ) > 0 an− an+1= 6 · 2n(tan θ − 2 tanθ2) > 0 an− bn= 6 · 2n(tan θ − sin θ) > 0 が任意の n について成り立つ。ゆえに、 bn< bn+1< an+1< an が成り立つので (1.4) が証明された。したがって、 b0< · · · < bn < bn+1< an+1< an< · · · < a0 なので、 ( an+1bn< a20 (an+1+ bn+1)(an+ bn) > 2b0· 2b0= 4b20 ゆえに、これと (1.2) と (1.3) より、 an+1− bn+1= an+1bn (an+1+ bn+1)(an+ bn)(an− bn) < a2 0 4b2 0 (an− bn) = 1 3(an− bn) よって、 0 < an− bn= µ 1 3 ¶n (a0− b0) ここで、n → ∞ とすると、はさみうちの定理より、 lim n→∞(an− bn) = 0 ゆえに (1.5) は証明され、定理 1 はすべて証明された。 定理 1 の (1.4) より、anは単調減少で b0を下界として持つので収束する。同様に、bnは 単調増加で a0を上界として持つので収束する。よって、極限の公式と (1.5) から、 lim n→∞an− limn→∞bn= limn→∞(an− bn) = 0
よって、 lim n→∞an= limn→∞bn となり、anと bnは同じ極限を持つことが分かる。ここで最初の bn< π ≤ an の式から、はさみうちの定理により、 π = lim n→∞an = limn→∞bn となることが分かる。 注意 1 任意の n について、命題から bn< π ≤ an が成り立つが、厳密には、ある k について π = akとなることはなくて、 bn< π < an である。なぜなら、ある k について π = akとなったとすると、(1.4) から、ak+1< ak = π となり、bn< π ≤ anという式に反するからである。 注意 2 この証明では、いわゆる弧度法を用いることはせず、度数法を用いた。この証 明では円周率 π について述べているので円周率 π を用いる弧度法を用いると、循環論法に 陥ったり、説明が複雑になったりかなり回りくどくなるなるためである。そのため、 bn< π < an という式は、最初に述べた補題を用いなくても弧度法による不等式 sin θ < θ < tan θ を微積分による方法を示すことによって、一見簡単に証明されるように思われるが、この 微積分も弧度法を用いた上で定義されるので、π の定義との間に循環論法に陥らずに弧度 法を厳密に定義し、三角関数の微積分を定義しなければならないのでかえって煩雑になる。 したがって、そうしないで幾何学的に凸な曲線による補題を踏まえて成り立つことを示し たのはこのためである。 いま、定理 1 の証明を行ったが、Archimedes の時代には三角関数や無理数どころか小数 の概念もなかった。実は、Archimedes は Euclid 幾何の知識でこの定理を示したようであ る。しかし、厳密にはそれだけはまだ不十分で上の証明で示したように実数の連続性とい う概念が必要だったのである。 さて、この定理 1 の漸化式から計算機を用いて anと bnを求めると、次のようになる。 n 0 1 2 3 4 N = 6 · 2n 6 12 24 48 96 an 3.464102 3.215390 3.159660 3.146086 3.142715 bn 3.000000 3.105828 3.132628 3.139350 3.141031
この表から、この Archimedes の方法は円周率のかなりよい近似を表している。実際、n = 4 のときの値から円周率の小数第二位までの値は 3.14 ということが分かる。 では、実際にその誤差がどのくらいかを考察する。誤差の幅を δn= an− bnとして考え る。(1.3) の証明で導かれた式より、 an− bn an+1− bn+1 = 2 1 + cosθ 2 1 − tan2 θ 2 よって、 δn+1 δn = an+1− bn+1 an− bn = 1 − tan2 θ 2 2(1 + cosθ 2) = 1 − ( 1 cos2 θ 2 − 1) 2(1 + cosθ 2) = 2 cos 2 θ 2− 1 2 cos2 θ 2(1 + cosθ2) ここで、x = cosθ 2 とおくと、 δn+1 δn = 2x2− 1 2x2(1 + x) = y(x) となる。ここで、n を 0 からはじまって限りなく大きくしていくと、θ は π 6 からはじまっ て減少しながら限りなく 0 に近づく。よって、x は、cos π 12 からはじまって増加しながら 1 に近づき、y(x) はこの範囲で単調増加であるので、すべての n について 0 < y(cos π 12) < y(x) = δn+1 δn < y(1) = 1 4 となる。したがって、δnは n を 1 大きくするにつれて、1 4 ずつ縮まっていくことが分かる。 y(x) が単調増加であることの理由 また、Archimedes の時代には無理数の概念がなかったので、Archimedes は無理数の代 わりに分数によって近似を行っていた。例えば、n = 4 のとき、 3 + 10 71 < b4< π < a4< 3 + 1 7 であること、すなわち、3.140845 < π < 3.142857 であることを示していた。実際の b4と a4 の値からは、3.141031 < π < 3.142715 であるので、b4と a4とのそれぞれの誤差が 0.0002 以下というかなりよい近似を与えていたことになる。これには、 265 153 < √ 3 < 1351 780 3013 +3 4 > √ 9082321 という評価を Archimedes は用いている。√3 の評価については、2 章で述べる連分数を用 いたに違いないとされている。 もう少し詳しい評価について 次に、定理 1 の漸化式 (1.1) 式において、an+1を anのみの式で、bn+1を bnのみの式で 表すことを試みる。
半径 1 の円に正 N (N ≥ 3) 角形を外接させ、その正 N 角形の一辺の長さを sN とし、一 方で正 N 角形を内接させ、その正 N 角形の一辺の長さを tN とする。下の図で、外接させ た正 N 角形の一辺を AB、内接させた正 N 角形の一辺を CD、それらの辺が作る中心角 の半分を6 AOH = θ とすると、 sN = AB = 2AH = 2 tan θ tN = CD = 2CK = 2 sin θ となる。このことから、正 2N 角形では、中心角が半分になるので、 s2N = 2 tanθ 2 t2N = 2 sinθ 2 よって、0 < θ < π 3 であるので、sin θ > 0, cos θ > 0 であることに注意すると、 sN s2N = tan θ tanθ 2 = 2 tan θ 2 tanθ 2(1 − tan2 θ2) = 2 1 − tan2 θ 2 = 2 cos 2 θ 2 cos2 θ 2− sin 2 θ 2 = cos θ + 1 cos θ = 1 + 1 cos θ = 1 + p 1 + tan2θ = 1 + r 1 + (sN 2 )2 ゆえに、 s2N = sN 1 +p1 + (sN 2 )2 また、 (t2N)2= 4 sin2θ 2 = 2(− cos θ + 1) = 2(1 − p 1 − sin2θ) = 2(1 − r 1 −t 2 N 4 ) = 2 − q 4 − t2 N ゆえに、2 −p4 − t2N は正なので、 t2N = r 2 − q 4 − t2 N 以上のことから、 s2N = sN 1 +p1 + (sN 2 )2 t2N = r 2 − q 4 − t2 N (1.7) となる。ここで、N として、N = 6 · 2n(n = 0, 1, 2 · · ·) とし、外接させた正 N 角形の全周 の長さの半分を an、内接させた正 N 角形の全周の長さの半分を bnとおくと、 an= N sN 2 bn = N tN 2
よって、 sN = 2 Nan tN = 2 Nbn また、正 2N 角形について考える。すなわち、2N = 6 · 2n+1なので、正 6 · 2n+1角形を考 えていることになる。よって、 an+1= 2N s2N 2 = N s2N bn+1= 2N t2N 2 = N t2N したがって、(1.7) より、 an+1= N s2N = N ( sN 1+√1+(sN2 )2) = 2an 1+√1+(an N)2 = 2an 1+√1+( an 6·2n)2 bn+1= N t2N = N q 2 −p4 − t2 N = N r 2 − q 4 − (2 Nbn)2= √ 2N r 1 − q 1 − (bn N)2 = 6 · 2n√2 r 1 − q 1 − ( bn 6·2n)2 図 1.1 と同じものを挿入する となる。ゆえに、 an+1=1+√1+(2anan 6·2n)2 bn+1= 6 · 2n √ 2 r 1 − q 1 − ( bn 6·2n)2 (1.8) よって、(1.1) はこのように書き換えられる。 定理 1 では円に正多角形を外接・内接させることによって円周率に迫った。次にもう少 し一般的な立場から述べる。 Euclid 平面上でパラメータ t が区間 I = [a, b] を動くとする。また、パラメータ t が作る 点 M = M (t) = (x(t), y(t)) がなす曲線を Γ とする。ここで、Γ はこの区間で C1級、すな わち x(t), y(t) が連続な導関数 x0(t), y0(t) をもつとする。I の分割を、 σ = {a = t0< t1< · · · < tk = b} とし、M (t0), M (t1), · · · , M (tk) を線分で順に結んでいったときにできる多角直線を Lσと し、Lσの長さを lσとする(結ばれた線分は常に曲線の内部であることに注意する)。点 M (ti) から点 M (ti+1) を結ぶ線分の距離を k M (ti)M (ti+1) k と書くと、 lσ= k−1 X i=0 k M (ti)M (ti+1) k= k−1 X i=0
({(x(ti+1) − x(ti)}2+ (y(ti+1) − y(ti)}2)
1 2 ここで、分割 σ においてその最大幅 eσを、 eσ = max 0≤i<k| ti+1− ti | と書くことにすると、微積分の初歩的な理論から順に以下のことが成り立つ。 (1) 区間 I = [a, b] 上で可能な任意の分割 σ について、lσは上限 l を持つ。この l を曲線 Γ の長さという。 (2)n → ∞ のとき、eσn→ 0 となるような、I の任意の分割の列 σnを選ぶことができる。 言い換えると、一番長い辺が 0 に収束するように、Γ 上の任意の多角直線 Lσnを選ぶこと ができる。そうすると、l = lim n→∞lσnとなる。
(3) 以上のことと、曲線の長さの公式から、 l = Z b a ({x0(t)}2+ {y0(t)}2)1 2dt (1.9) である。
(4) 曲線 Γ がもっと簡単に x が x1≤ x ≤ x2をみたし、y = y(x) と表せ、y(x) はこの区
間で連続な導関数 y0(x) を持つとすると、 l = Z x2 x1 (1 + {y0(x)}2)1 2dx (1.10) である。 ここで、上の事項を半径 1 の円 C の半周部分について適用すると以下のようになる。 (1) 半円を任意に分割した点を内部で結んだものの線分の和は明らかに半円周より短いの であるから π を上界として持つ。定理 1 との違いは定理 1 では正多角形を内接させたので あるが、この場合はどのような分割でもいいので分割の点は等間隔である必要はない。 (2)Archimedes は正 6 · 2n角形について考え、n = 0、つまり正六角形から考えたが、一 般的に正 N02n角形を円に内接させ、その分割を σnとすると、N0としてどの正多角形を とっても n → ∞ のとき、eσn→ 0 となるので、 π = lim n→∞lσn 実際、正方形から始めても (1.2) 式の初期値が a0 = 4, b0 = 2 √ 2 に変わるだけで最終的に π に収束する。 (3) 上の (2) では、正多角形を内接させたが、正多角形でない多角形を内接させても n を 大きくすると、一番長い辺が 0 に収束するならば、この多角形の周の長さの半分は π に収 束する。 (4) 半径 1 の半円は、x と y を用いて、 y = y(x) =p1 − x2 (−1 ≤ x ≤ 1) と表すことができる。 (1 + {y0(x)}2)12 = ( 1 + µ −x √ 1 − x2 ¶2 )12 = µ 1 1 − x2 ¶1 2 より、その半円周の長さは、(1.10) より、 Z 1 −1 dx √ 1 − x2 となる。したがって、半径 1 の半円周の長さは π なので、 π = Z 1 −1 dx √ 1 − x2 (1.11)
となり、π を定積分を用いて表すことができた。なお、これは見た目の通り、右辺の積分 の値が左辺の π になるという意味である。今の段階で弧度法を定義していないので、一般 的に知られている右辺の x を x = sin θ と置いて計算したりすることはできない。 今まで半径が 1 の円について考えてきた。では、半径が R の円について考えてみる。半 径が R の半円は、 y = y(x) =pR2− x2 (−R ≤ x ≤ R) と表すことができる。 (1 + {y0(x)}2)12 = {1 + (√ −x R2− x2) 2}1 2 = ( R 2 R2− x2) 1 2 = p 1 1 − (x R)2 より、その半円周の長さは、(1.10) より、 Z R −R dx p 1 − (x R)2 となる。ここで、x R = X と変換すると、π = Z 1 −1 dx √ 1 − x2 より、 Z R −R dx p 1 − (x R)2 = R Z 1 −1 dX √ 1 − X2 = πR となる。よって、このことから半径 R の円の円周の長さは 2πR であることが分かる。 次に面積について述べる。半径 R の円に正 N 角形を外接ないし内接させる。 図 1.1 の半径を R に変えたものを挿入 外接した正 N 角形の面積は、 N × 4OAB = N 2 × AB × OH = N 2 × AB × R である。ここで外接した正 N 角形の全周の長さを a とすると a = N × AB である。よっ て、外接した正 N 角形の面積は、 N 2 × AB × R = 1 2× a × R である。ゆえに、N → ∞ とすると、a は半径 R の円の円周、つまり 2πR に近づくので、 外接した正 N 角形の面積は、 1 2× a × R → 1 2 × 2πR × R = πR 2 となる。一方で、内接した正 N 角形について、その全周の長さを b とすると、b = N × CD より、その面積は、 N × 4OCD = N 2 × CD × OK = b 2 × R cos θ である。ゆえに、N → ∞ とすると、b は円周 2πR に近づき、θ は 0 に近づくので、内接 した正 N 角形の面積は、 b 2 × R cos θ → 2πR 2 × R cos 0 = πR 2
となる。したがって、半径 R の円の面積は、 πR2 である。 ここで、Euclid 平面上での x1 ≤ x ≤ x2における関数 y = y(x) について、x = x1, x = x2, x 軸, y = y(x) に囲まれる領域の面積は、定積分を用いて、 Z x2 x1 y(x)dx で表される。ここで、半径 1 の半円は、−1 ≤ x ≤ 1 上で y(x) = √1 − x2 で表され るので、その半円の面積は、 Z 1 −1 p 1 − x2dx と表される。よって、半径 1 の円の面積は、 2 Z 1 −1 p 1 − x2dx である。これと、上の結果から半径 1 の円の面積は π で表されるので、 π = 2 Z 1 −1 p 1 − x2dx (1.12) が成り立つことが分かる。やはり、この式は (1.11) のところで述べたのと同じで文字どお りに成り立っている式である。 次に、Archimedes の方法のように正 N = 6 · 2n角形の外接・内接について考え、外接 させた正 N = 6 · 2n角形の面積を un、内接させた正 N = 6 · 2n角形の面積を vnとする。 図 1.1 において、 un = 6 · 2n× 4OAB = 6 · 2n×1 2× AB × OH = 6 · 2 n×1 2 × 2AH = 6 · 2 ntan θ ここで、(1.6) より、6 · 2ntan θ は anのことなので、 un = an 一方、三角形の面積の公式より、 vn = 6 · 2n× 4OCD = 6 · 2n×1 2 × OC × OD sin 2θ = 6 · 2 n−1sin 2θ よって、正 6 · 2n+1角形については、 vn+1= 6 · 2nsin θ よって、(1.6) より、6 · 2nsin θ は bnのことなので、 vn+1= bn 以上のことから、 un= an vn+1= bn (1.13) が成り立つ。 最後に等周問題について考える。
1.2
さまざまな図形の面積と体積
すでに述べたとおり、円周率は π は円周や円の面積を求めるために導入されたのがその始 まりである。そこから、楕円や螺旋といった平面上の図形の面積を求める公式や錐体や球の 表面積や体積を求める公式が計算された。そして、これらの公式のほとんどは Archimedes 自身によるものである。この節では、まずそれらの公式をなるべく Archimedes の方法に 近い形で導出することを試みる。つまり、近代的な微積分を使う方法ではなく、初等幾何 によるものである。その導出の後に、現代的な考え方についても言及することにする。1.2.1
弧度法
いま、平面を始点が同じ O である 2 本の半直線によって 2 つの領域に分ける。その 2 つ の領域 D1と D2について考える。図の挿入 ここで、O を中心に半径 1 の円を描き、2 本の半直線との交点をそれぞれ A, B とする。 このとき、領域 D1にある6 AOB を D1内の弧 AB の長さで定義する。このような角度の 測り方を弧度法といい、その単位をラジアン (radians) という。以下、弧度法で角度を測る ことにする。 この測り方によると、いわゆる直角は π 2 で、平角は π である。度数法でよく使われる 30◦, 45◦, 60◦は弧度法でそれぞれπ 6, π 4, π 3 となる。また、正 n 角形の中心角は 2π n である。 Thales の定理によると、半径 R、角度が θ(ラジアン) の扇形の弧の長さは Rθ である。こ れについての証明 また、その面積は1 2R 2θ である。これは、実際にこの扇形を長さの等しい 2n本の多角直 線で結び、その辺の長さを x とする。また、それぞれの頂点から扇形の中心に線分を結ぶ と、合同な 2n個の三角形ができる。その 1 つの三角形の高さを OH とすると、それらの 三角形の面積の合計は、 1 2 × OH × x × 2 n となる。ここで、n → ∞ としたものが扇形の面積となる。すると、OH は半径 R に近づ き、1 辺の長さ x と 2nの積、つまり多角直線の長さは扇形の周 Rθ に近づくので、その面 積は、 1 2R 2θ と求められる。図の挿入 さて、ここで Hippocrates の発見について見てみる。下の図は、A を直角とする直角三角形 4ABC について AB, BC, CA を直径とする半円
を同じ側にそれぞれ描いたものである。そのときに、図のように、領域を L1, L2, L3, L4を
定める。図の挿入このとき、
Area(L1) + Area(L2) = Area(4ABC)
面積 S1, S2, S3を
S1= Area(L1) + Area(L3) (AB を直径とする半円の面積)
S2= Area(L2) + Area(L4) (CA を直径とする半円の面積)
S3= Area(L3) + Area(L4) + Area(4ABC) (BC を直径とする半円の面積)
で定める。よって、 S1= 1 2× µ 1 2AB ¶2 π = π 8AB 2 S2= 1 2 × µ 1 2CA ¶2 π = π 8CA 2 S3=1 2 × µ 1 2BC ¶2 π = π 8BC 2 また、
Area(L1) + Area(L2) = S1+ S2+ Area(4ABC) − S3
なので、
Area(L1) + Area(L2) = S1+ S2+ Area(4ABC) − S3
= π 8(AB 2+ CA2− BC2) + Area(4ABC) ここで、Phythagoras の定理より、AB2+ CA2= BC2なので、 π 8(AB 2+ CA2− BC2) + Area(4ABC) = Area(4ABC) ゆえに、
Area(L1) + Area(L2) = Area(4ABC)
が成り立つ。特に 4ABC が直角二等辺三角形である場合、つまり上の条件に加えて、AB =
CA である場合、領域 L1と L2の面積は等しくなるので、上のことから、
Area(L1) + Area(L2) = 2Area(L1) = Area(4ABC) =1
2AB 2 ゆえに、 Area(L1) = Area(L2) =1 4AB 2 つまり、L1(L2) の面積は、AB を 1 辺とする正方形の面積の 1 4 となることが分かる。 これらの 2 つの結果を改めて見ると、幾何的に一見成り立たないように思えるが、不思 議なことに実際は成り立っているのである。4 章で再びこれらのことについて述べる。
1.2.2
楕円の周の長さと面積
楕円(ellipse) x2 a2 + y2 b2 = 1 の面積は πab であることを Archimedes は示した。このことによって、半径 R の円は a = b = R の特別な場合であり、その面積は、πR2となる。 Wallis の公式 I2n= 1 · 3 · 5 · · · (2n − 1) 2 · 4 · 6 · · · (2n) · π 2 I2n+1 = 2 · 4 · 6 · · · (2n) 1 · 3 · 5 · · · (2n + 1) が導かれる。ここで、I2nは、 I2n= 1 · 3 · 5 · · · (2n − 1) 2 · 4 · 6 · · · (2n) · π 2 = 1 · 3 · 5 · · · (2n − 1) 2 · 4 · 6 · · · (2n) · π 2 · 2 · 4 · 6 · · · (2n) 2 · 4 · 6 · · · (2n) = 1 · 2 · 3 · · · (2n) 22· 42· 62· · · (2n)2 · π 2 = (2n)! (2 · 1)2· (2 · 2)2· (2 · 3)2· · · (2 · n)2 · π 2 = (2n)! {(2 · 1) · (2 · 2) · (2 · 3) · · · (2 · n)}2· π 2 = (2n)! {2n(n!)}2 · π 2 = (2n)! 22n(n!)2 · π 2 と書き換えられ、また、同様に I2n+1は I2n+1= 2 · 4 · 6 · · · (2n) 1 · 3 · 5 · · · (2n + 1) = 2 · 4 · 6 · · · (2n) 1 · 3 · 5 · · · (2n + 1) · 2 · 4 · 6 · · · (2n) 2 · 4 · 6 · · · (2n) = {2 · 4 · 6 · · · (2n)}2 1 · 2 · 3 · · · (2n + 1) = {(2 · 1)(2 · 2)(2 · 3) · · · (2 · n)}2 (2n + 1)! = 22n(n!)2 (2n + 1)! したがって、 I2n= (2n)! 22n(n!)2 · π 2 I2n+1= 22n(n!)2 (2n + 1)! が成り立つ。1.3
Gauss
の円問題
1.4
Buffon
の針
序文第
2
章
π
に関するさまざまな公式
序文
2.1
Vi`
ete
の無限乗積の公式
Vi`ete は、法律家でアマチュアの数学家であった。Vi`ete は、1593 年に π を無限乗積で
表した。それが、次の (2.1) 式である。 2 π = r 1 2 s 1 2+ 1 2 r 1 2 v u u t 1 2 + 1 2 s 1 2 + 1 2 r 1 2· · · (2.1) (2.1) は、 u1= r 1 2, n > 1 のとき、un= r 1 2(1 + un−1) (2.2) としたとき、 2 π = u1u2u3· · · = limn→∞(u1u2· · · un) であると言い換えることができる。 それから 200 年後、この (2.1) 式は Euler によって次のように一般化された。 sin θ θ = cos θ 2cos θ 4cos θ 8· · · cos θ 2n · · · (2.3) つまり、 v1= cosθ 2, n > 1 のとき、vn = cos θ 2n (2.4) としたとき、 sin θ θ = limn→∞(v1v2· · · vn) である。cos の 2 倍角の公式から、cos φ = r 1 2(1 + cos 2φ) と表せるので、(2.4) の vnは、 vn = cos θ 2n = s 1 2 µ 1 + cos θ 2n−1 ¶ = r 1 2(1 + vn−1) と書き直すことができ、θ = π 2 を代入すると、(2.2) と全く同じ形の漸化式であることがい
える。したがって、Vi`ete の (2.1) 式は、Euler の (2.3) 式の特別な場合であるということが
ここで、Euler の (2.3) 式を証明する。左辺を 2 倍角の公式で変形して、 sin θ θ = 2 θsin θ 2cos θ 2 = cos θ 2 sin µ θ 2 ¶ θ 2 よって、これを繰り返して、 sin θ θ = cos θ 2 sin µ θ 2 ¶ θ 2 = cosθ 2cos θ 4 sin µ θ 4 ¶ θ 4 = · · · = cosθ 2cos θ 4cos θ 8· · · cos θ 2n sin µ θ 2n ¶ θ 2n ここで、n → ∞ とすると、 lim n→∞ sin µ θ 2n ¶ θ 2n = 1 より、 sin θ θ = cos θ 2cos θ 4cos θ 8· · · cos θ 2n · · · となり、(2.3) は証明された。よって、θ = π 2 を代入することによって、(2.1) も証明された。
ここで、Vi`ete 自身による証明を述べる。Vi`ete は、幾何学の方法を用いて、Archimedes
の円周率を求める方法にならい、半径 1 の円に正 N 角形を内接させ、その正 N 角形の面 積の極限が π であるということを用いた。 いま、N = 2n(n ≥ 2) とし、半径 1 の円に正 N 角形を内接させる。正 N 角形の面積を、 AN とする。正 N 角形の一辺の両端からそれぞれ円の中心に向かって直線を引きその 2 本 の直線が中心で作る角を 2θ µ =2π N ≤ π 2 ¶ とすると、以下の図のようになる。 図の挿入
ここで、三角形 OCD の面積は、三角形 OCK の面積の 2 倍、すなわち sin θ cos θ なの で、正 N 角形の面積は、三角形 OCD の面積を N 個かけたものであるから、 AN = N sin θ cos θ また、正 2N 角形の面積は、中心にできる角が正 N 角形の場合の半分であることに注意 して、 A2N = 2N sinθ 2cos θ 2 = N sin θ となる。よって、 AN = A2Ncos θ ³ θ = π N ´ (2.5)
という漸化式ができる。これを N = 4 のときからはじめてみる。N = 4 のとき、θ =π 4 よ り、A4= 2 となるので、(2.5) から、 2 = A4= A8cosπ 4 = A16cos π 4 cos π 8 = · · · = A2n+1cos π 4cos π 8 · · · cos π 2n ここで、n → ∞ とすると、A2n+1は、π に収束するので、 2 π = cos π 4 cos π 8· · · cos π 2n· · · を得る。これは、(2.3) 式に θ = π 2 を代入したものと同じ式である。 この式に cos φ = r 1 2(1 + cos 2φ) を用いて、 2 π = r 1 2 s 1 2+ 1 2 r 1 2 v u u t 1 2 + 1 2 s 1 2 + 1 2 r 1 2· · · を得る。よって、(2.1) は証明された。 さて、Euler の式を証明する際に出てきた sin θ θ = cos θ 2cos θ 4cos θ 8· · · cos θ 2n sin(θ/2n) θ/2n を 0 < θ ≤π 4 で考えてみる。この式は正であるので、両辺の対数をとると、 log(sin θ) − log θ = n X k=1 log µ cos θ 2k ¶ + log sin µ θ 2n ¶ θ 2n ここで、n → ∞ とすると、 lim n→∞ sin µ θ 2n ¶ θ 2n = 1 より、 lim n→∞log sin µ θ 2n ¶ θ 2n = 0 なので、 log(sin θ) = log θ + ∞ X k=1 log µ cos θ 2k ¶ ここで、両辺を θ について微分すると、 cos θ sin θ = 1 θ + ∞ X k=1 − sin θ 2k 2kcos θ 2k したがって、 1 θ = 1 tan θ + ∞ X k=1 1 2k tan θ 2k
よって、θ =π 4 を代入すると、 4 π = 1 + 1 2tan π 8 + · · · + 1 2ntan π 2n+2+ · · · (2.6) が得られる。 これを図形で説明すると、次のようになる。 整数 n を n ≥ 2 とし、周囲の長さが 2 である正 2n角形を考え、この正 2n角形を内接さ せる円を考える。このときの円の半径を Rnとし、円の中心を O、正 2n角形の連続する二 辺を AnCn, CnBnとし、AnBnと OCnの交点を Hnとすると、下の図のようになる。 このとき、円の中心が正 2n角形の一辺に対して作る角の大きさは、 (2) を完成する。
2.2
無限乗積の一般理論
ここでは、無限乗積の収束、発散についての一般的な定義を行い、ゼータ関数 ζ(s) を無 限乗積で表すことを考える。 unを各項が 0 でない複素数列とする。このとき、部分積 pn= n Y k=1 uk= u1u2· · · un を考える。ここで、n → ∞ としたとき、pnが 0 でない値 p に収束するならば、無限乗積 ∞ Q n=1 unは p に収束するという。収束しない場合は、無限乗積 ∞ Q n=1 unは発散するという。 1 個以上の有限個の unが 0 のとき、それら 0 の因子を除いた無限乗積が収束すれば、元 の無限乗積も収束するといい、その値は 0 とする。 無限乗積については、以下の定理が成り立つ。 定理 (1)un6= 0 である無限乗積 ∞ Q n=1 unが収束するための必要十分条件は、任意の ² > 0 に対 して、n0∈ N が存在して、m > n ≥ n0をみたすすべての m, n ∈ N に対して |un+1un+2· · · um− 1| < ² が成り立つことである。 (2) 無限乗積 Q∞ n=1 unが収束すれば、un→ 1 である(逆は一般には成り立たない)。よっ て、un= 1 + anとおくと、無限乗積 ∞ Q n=1 (1 + an) が収束すれば、an → 0 である。 (3) 無限乗積 Q∞ n=1 (1 + |an|) が収束すれば、 ∞ Q n=1 (1 + an) も収束する。 (4) 無限乗積 Q∞ n=1 (1 + |an|) が収束するための必要十分条件は、無限級数 ∞ P n=1 |an| が収束 することである。 証明(1)Q∞ n=1 unが p に収束するとし、部分積を pn= n Q k=1 uk= u1u2· · · unとおく。pn6= 0 より、 実数の連続性から |pn| > M > 0 となる正数 M が存在する。pnが p に収束するので Cauchy 列より、任意の ² > 0 に対し、n0∈ N が存在して、m > n ≥ n0ならば |pm− pn| < ²M となる。よって、この両辺を |pn| > M でわると、 ¯ ¯ ¯ ¯pmp− pn n ¯ ¯ ¯ ¯ = ¯ ¯ ¯ ¯ppmn − 1 ¯ ¯ ¯ ¯ = ¯ ¯ ¯ ¯uu11uu22· · · u· · · umn − 1 ¯ ¯ ¯ ¯ = |un+1un+2· · · um− 1| < ² となり、|un+1un+2· · · um− 1| < ² が成り立つ。 逆に、任意の ² > 0 に対して、n0 ∈ N が存在して、m > n ≥ n0をみたすすべての m, n ∈ N に対して |un+1un+2· · · um− 1| < ² が成り立つとする。よって、このとき、² = 12 に対する n0を n1とし、qn = un1+1un2+1· · · unとおけば、n > n1となる任意の n に対 し、|un1+1un2+1· · · un− 1| = |qn− 1| < 1 2 となるので、12< qn< 32であり、qnは 0 に収 束しない。 また、ここで、仮定より、任意の ² > 0 に対して、n0 ∈ N が存在して、m > n ≥ M ax(n0, n1) ならば、|un+1un+2· · · um− 1| = ¯ ¯ ¯qm qn − 1 ¯ ¯ ¯ < ² なので、|qm− qn| < ²|qn| = 32² となり、qn は Cauchy 列の条件をみたし収束し、pnも収束する。よって、 ∞ Q n=1 unも収束 する。 (2)Q∞ n=1 unが収束するならば、(1) より、任意の ² > 0 に対して、n0 ∈ N が存在して、 n > n − 1 ≥ n0をみたす n に対して、|un− 1| < ² が成り立つ。ゆえに、これは unが 1 に収 束することを意味する。また、言い換えれば、un= 1 + anとおくと、無限乗積 ∞ Q n=1 (1 + an) が収束すれば、an→ 0 である。 (3)vn = 1 + |an| とおく、 ∞ Q n=1 (1 + |an|) = ∞ Q n=1 vnが収束するならば、(1) より、任意の ² > 0 に対して、n0∈ N が存在して、m > n ≥ n0をみたすすべての m, n ∈ N に対して |vn+1vn+2· · · vm− 1| < ² が成り立つ。また、次の不等式が成り立つ。 un+1un+2· · · um= (1 + an+1)(1 + an+2) · · · (1 + am) ≤ (1 + |an+1|)(1 + |an+2|) · · · (1 + |am|) = vn+1vn+2· · · vm したがって un+1un+2· · · um− 1 ≤ vn+1vn+2· · · vm− 1 ゆえに、 |un+1un+2· · · um− 1| ≤ |vn+1vn+2· · · vm− 1| < ² が成り立つ。ゆえに、(1) から ∞ Q n=1 un= ∞ Q n=1 (1 + an) も収束する。 (4)pn= n Q k=1 (1 + |ak|), sn= n P k=1 |ak| とおく。|an| ≥ 0 より、snは単調増加列である。ま た、1 + |an| ≥ 1 であるので、pnも単調増加列である。また、pn≥ 1 だから、0 になるこ ともなく、極限も 0 にならない。
また、任意の i, j について、 (1 + |ai|)(1 + |aj|) = 1 + |ai| + |aj| + |ai||aj| > |ai| + |aj| よって、 sn= n X k=1 |ak| < n Y k=1 (1 + |ak|) = pn したがって、pnが収束するならば、pnは単調増加なので上に有界であり、この不等式か ら sn も上に有界である。ゆえに、sn は単調増加なので収束する。一方、x ≥ 0 のとき、 1 + x ≤ exより、任意の i について、1 + |a i| ≤ e|ai|が成り立つので pn= n Y k=1 (1 + |ak|) ≤ n Y k=1 e|ak|= e Pn k=1|ak|= esn よって、snが収束するならば、snは単調増加なので上に有界であり、esnも上に有界であ るので、pnも上に有界である。ゆえに、pnは単調増加なので収束する。したがって、無限 乗積 ∞ Q n=1(1 + |an|) が収束するための必要十分条件は、無限級数 ∞ P n=1|an| が収束することで ある。 以上のことから、定理はすべて示せた。証明について確認する 例えば、前節の Vi`ete の式は、 2 π = cos π 4 cos π 8 · · · cos π 2n · · · = ∞ Y n=1 cos π 2n+1 と無限乗積で書き表すことができる。un= cos2n+1π とおくと、 ∞ Q n=1 un= ∞ Q n=1 cos π 2n+1 は収 束し、un = cos2n+1π → 1 になっているので、定理の (2) の通りになっている。 また、定理の (3) のことから ∞ Q n=1 (1 + |an|) が収束すれば、 ∞ Q n=1 (1 + an) も収束する。こ こで、無限乗積 ∞ Q n=1 (1 + an) が絶対収束するとは、 ∞ Q n=1 (1 + |an|) が収束することと定義す る。したがって、 ∞ Q n=1 (1 + an) が絶対収束するならば、 ∞ Q n=1 (1 + an) も収束する。また、定 理の (4) より、無限乗積 ∞ Q n=1(1 + an) が収束することと、無限級数 ∞ P n=1anが絶対収束する ことは同値である。 一方、 ∞ Q n=1|1 + an| が収束しても、 ∞ Q n=1(1 + an) が収束するとは限らない。 例えば、un= 1 + ni とする(i は虚数単位)。 まず ∞ Q n=1 |un| が収束することを示す。定理の (3) と (4) より、 ∞ Q n=1 |un| が収束することを 示すには、|un| = 1 + anとおくと、 ∞ Q n=1 (1 + |an|) が収束すること、つまり ∞ P n=1 |an| が収束 することを示せばよい。ここで、|un| = q 1 + 1 n2 なので、 an= |un| − 1 = r 1 + 1 n2 − 1 = 1 n2(p1 + 1/n2+ 1) ∼ 1 2n2
EX2.2 完成させる。 さて、ここで Riemann のゼータ関数を考える。ゼータ関数は、 ζ(s) = ∞ X n=1 1 ns (2.7) で表される関数である。ただし、s は複素数である。
s の実部を Re(s)、虚部を Im(s) とすると、ζ(s) は Re(s) > 1 のときに絶対収束する。こ
れを示す前に、r が実数であるとき、ζ(r) = ∞ P n=1 1 nr は r > 1 のときに収束することを示す。 r ≤ 0 のとき、1 nr は n → ∞ のときに、0 に収束しないから、 ∞ P n=1 1 nr は発散する。 実数 r について、 ∞ P n=1 1 nr が収束することと、広義積分 R∞ 1 1 xrdx が収束することとは同 値である。これを用いると、 0 < r < 1 のとき、 Z ∞ 1 1 xrdx = · x1−r 1 − r ¸∞ 1 = +∞ なので ∞ P n=1 1 nr は発散する。 r = 1 のとき、 Z ∞ 1 1 xdx = [log] ∞ 1 = +∞ なので ∞ P n=1 1 nr は発散する。 1 < r のとき、r − 1 > 0 であるから、 Z ∞ 1 1 xrdx = · x1−r 1 − r ¸∞ 1 = · 1 (1 − r)xr−1 ¸∞ 1 = 1 r − 1 となり ∞ P n=1 1 nr は収束する。 ゆえに、r が実数であるとき ζ(r) = ∞ P n=1 1 nr は r > 1 のときに収束する。 よって、s が複素数であるとき、Euler の公式より、任意の実数 r について、
|eir| = | cos r + i sin r| =pcos2r + sin2r = 1
が成り立つので、 |ns| = ¯ ¯ ¯elog ns ¯ ¯ ¯ =¯¯es log n¯¯ = ¯ ¯
¯e{Re(s)+iIm(s)} log n ¯ ¯ ¯ = ¯ ¯
¯eRe(s) log neiIm(s) log n¯¯¯ =¯¯¯eRe(s) log n¯¯¯ = nRe(s)
したがって、Re(s) は実数なので、 ∞ P n=1 ¯ ¯1 ns ¯ ¯ = P∞ n=1 1 nRe(s) は、Re(s) > 1 のときに収束する。 ゆえに、ζ(s) = ∞ P n=1 1 ns は、Re(s) > 1 のときに絶対収束する。
ζ(s) について、次の Euler の積公式が成り立つ。 1 ζ(s) = Y p∈P µ 1 − 1 ps ¶ (Re(s) > 1) (2.8) ここで、P は素数全体の集合であり、したがって p はすべての素数をとる。 証明 ap= −p1s とすると、上の |ns| の変形と同様に、 |ap| = ¯ ¯ ¯ ¯−p1s ¯ ¯ ¯ ¯ =|p1s| = 1 pRe(s) となる。よって、P ⊂ N より、 P p∈P |ap| = P p∈P 1 pRe(s) < ∞ P n=1 1 nRe(s) となり、Re(s) > 1 だ から ∞ P n=1 1 nRe(s) は収束するので、 P p∈P |ap| も収束する。ゆえに、無限乗積の定理の (4) よ り、P p∈P |ap| が収束するので、 Q p∈P (1 + |ap|) も収束し、定理の (3) より、 Q p∈P (1 + ap) = Q p∈P ³ 1 − 1 ps ´ も収束する。 ここで、 1 2sζ(s) = 1 2s ∞ X n=1 1 ns = ∞ X n=1 1 (2n)s = 1 2s + 1 4s + 1 6s+ · · · + 1 (2n)s+ · · · となるので、21sζ(s) は、n が偶数のときのn1s をたしあわせたものになる。つまり、 µ 1 − 1 2s ¶ ζ(s) = ζ(s) − 1 2sζ(s) = 1 + 1 3s + 1 5s+ 1 7s+ 1 9s + · · · となり、¡1 − 1 2s ¢ ζ(s) は、ζ(s) から n が 2 の倍数のときの 1 ns の項をひいたものである。同 じように、 µ 1 − 1 2s ¶ µ 1 − 1 3s ¶ ζ(s) = µ 1 − 1 2s − 1 3s + 1 (2 · 3)s ¶ ζ(s) は、¡1 − 21s −31s ¢ ζ(s) が ζ(s) から n が 2 の倍数のときの 1 nsの項をひき、さらに 3 の倍数 のときのn1s の項をひいたものを表す。このままでは、n が 2 と 3 の公倍数 2 × 3 = 6 の倍 数のときのn1s の項を重複してひいてるが、(2·3)1 sζ(s) を加えることによって、重複がなく なっている。したがって、¡1 − 1 2s ¢ ¡ 1 − 1 3s ¢ ζ(s) は、ζ(s) から n が 2 の倍数のときと 3 の倍 数のときのn1s の項をひいたものとなる。このように考えていくと、素数 2, 3, 5, · · · , pk, · · · について、 µ 1 − 1 2s ¶ µ 1 − 1 3s ¶ · · · µ 1 − 1 ps k ¶ ζ(s) は、ζ(s) から n が 2 の倍数、3 の倍数、· · · pkの倍数のときのn1sの項をひいたものである。こ こで、まず 1 は必ず残る。ここで、集合 Ekを 1 より大きい自然数の中で素数 2, 3, 5, · · · , pkの どれでも割り切れないものの集合とすると、1 以外に残るのは P n∈Ek 1 nsである。したがって、 µ 1 − 1 2s ¶ µ 1 − 1 3s ¶ · · · µ 1 − 1 ps k ¶ ζ(s) = 1 + X n∈Ek 1 ns
よって、Ekは pkよりも大きい整数の集合よりも小さいことに注意すると、 ¯ ¯ ¯ ¯ µ 1 − 1 2s ¶ µ 1 − 1 3s ¶ · · · µ 1 − 1 ps k ¶ ζ(s) − 1 ¯ ¯ ¯ ¯ = ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ X n∈Ek 1 ns ¯ ¯ ¯ ¯ ¯≤ X n∈Ek 1 |ns| = X n∈Ek 1 nRe(s) ≤ ∞ X n=pk+1 1 nRe(s) ここで、k → ∞ とすると、Re(s) > 1 より ∞ P n=pk+1 1 nRe(s) は 0 に収束するので、 ¯ ¯ ¯ ¯ µ 1 − 1 2s ¶ µ 1 − 1 3s ¶ · · · µ 1 − 1 ps k ¶ ζ(s) − 1 ¯ ¯ ¯ ¯ → 0 ゆえに、 Q pk∈P ³ 1 − 1 ps k ´ ζ(s) = 1 となるので、(2.8) が成り立つ。 ζ(s) についてはさらに 3 章で述べることにする。
2.3
Wallis
の無限乗積の公式
1655 年に Wallis は次の公式を証明した。 π 2 = ∞ Y n=1 4n2 4n2− 1 = 2 · 2 1 · 3· 4 · 4 3 · 5· 6 · 6 5 · 7· · · (2.9) この無限乗積は、絶対収束する。なぜなら、un = 4n 2 4n2−1 = 1 + anとおくと、an = 4n21−1 であるから、 ∞ X n=1 |an| = ∞ X n=1 ¯ ¯ ¯ ¯4n21− 1 ¯ ¯ ¯ ¯ = ∞ X n=1 1 4n2− 1 = 1 2 ∞ X n=1 µ 1 2n − 1− 1 2n + 1 ¶ = 1 2 となり ∞ P n=1 |an| は収束するので、 ∞ Q n=1 (1+|an|) も収束する。よって、 ∞ Q n=1 unは絶対収束する。 ここで、(2.9) を示す。Wallis 積分、 Im= Z π 2 0 sinmxdx = Z π 2 0 cosmxdx は、1 章で見てきたように、 I2n= 1 · 3 · 5 · · · (2n − 1) 2 · 4 · 6 · · · (2n) · π 2 = (2n)! 22n(n!)2 · π 2 I2n+1 = 2 · 4 · 6 · · · (2n) 1 · 3 · 5 · · · (2n + 1) = 22n(n!)2 (2n + 1)! したがって、 I2n I2n+1 = 12· 32· 52· · · (2n − 1)2(2n + 1) 22· 42· 62· · · (2n)2 · π 2= (1 · 3)(3 · 5)(5 · 7) · · · {(2n − 1)(2n + 1)} 22· 42· 62· · · (2n)2 · π 2 よって、 π 2 = 22· 42· 62· · · (2n)2 (1 · 3)(3 · 5)(5 · 7) · · · {(2n − 1)(2n + 1)}· I2n I2n+1 = I2n I2n+1 n Y k=1 (2k)2 (2k − 1)(2k + 1) = I2n I2n+1 n Y k=1 4k2 4k2− 1 ゆえに、(2.9) が成り立つには、 lim n→∞ I2n I2n+1 = 1 を示せばよい。いま、0 ≤ x ≤ π 2 のとき、 0 ≤ sin x ≤ 1 であるので、sinnx は n の減少列である。よって、 I2n+1= Z π 2 0 sin2n+1xdx ≤ Z π 2 0 sin2nxdx = I 2n となり、1 ≤ I2n I2n+1, I2n≤ I2n−1となるので、 1 ≤ I2n I2n+1 ≤ I2n−1 I2n+1 = 2n + 1 2n = 1 + 1 2n よって、n → ∞ とすると、1 +2n1 → 1 より、はさみうちの定理から、 lim n→∞ I2n I2n+1 = 1 で ある。したがって、π2 = I2n I2n+1 n Q k=1 4k2 4k2−1 の両辺を n → ∞ とすると、 π 2 = ∞ Y n=1 4n2 4n2− 1 が得られて (2.9) は証明された。 さて、(2.9) で両辺の逆数をとると 2 π = ∞ Y n=1 4n2− 1 4n2 = ∞ Y n=1 µ 1 − 1 (2n)2 ¶ = µ 1 − 1 22 ¶ µ 1 − 1 42 ¶ µ 1 − 1 62 ¶ · · · (2.10) したがって、 lim n→∞ 2n+1 2n = 1 より、 n Y k=1 4k2 4k2− 1 ∼ 2n + 1 2n n Y k=1 4k2 4k2− 1 = 2n + 1 2n n Y k=1 (2k)2 (2k − 1)(2k + 1) = 2n + 1 2n · 2 · 2 1 · 3· 4 · 4 3 · 5· 6 · 6 5 · 7· · · (2n) · (2n) (2n − 1) · (2n + 1) = 2 ·2 · 4 3 · 3· 4 · 6 5 · 5· · · (2n − 2) · (2n) (2n − 1) · (2n − 1) = 2 n−1Y k=1 2k(2k + 2) (2k + 1)2 = 2 n−1Y k=1 (2k + 1)2− 1 (2k + 1)2 = 2 n−1Y k=1 µ 1 − 1 (2k + 1)2 ¶
よって、n → ∞ とすると、(2.9) より、 π 2 = 2 ∞ Y k=1 µ 1 − 1 (2k + 1)2 ¶ ゆえに、 π 4 = ∞ Y n=1 µ 1 − 1 (2n + 1)2 ¶ = µ 1 − 1 32 ¶ µ 1 − 1 52 ¶ µ 1 − 1 72 ¶ · · · (2.11) ここで、(2.10) と (2.11) を辺々かけると、 1 2 = µ 1 − 1 22 ¶ µ 1 − 1 32 ¶ µ 1 − 1 42 ¶ · · · µ 1 − 1 n2 ¶ · · · よって、次の式が成り立つ。 1 2 = ∞ Y n=2 µ 1 − 1 n2 ¶ (2.12) なお、この (2.12) の一般的な式として、次の Euler の公式がある。 sin(πx) πx = ∞ Y n=1 µ 1 − x 2 n2 ¶ (2.13) この (2.13) 式に x =12を代入すると、(2.10) になり、その逆数をとると (2.9) になる。また、 sin(πx) πx = ∞ Y n=1 µ 1 − x 2 n2 ¶ = (1 − x2) ∞ Y n=2 µ 1 − x 2 n2 ¶ ゆえに、 ∞ Y n=2 µ 1 − x 2 n2 ¶ = sin(πx) (1 − x2)πx となる。よって、x → 1 とすると、右辺は、l’Hospital の定理より、 lim x→1 sin(πx) (1 − x2)πx = limx→1 π cos(πx) π − 3πx2 = 1 2 ゆえに、(2.12) を表している。 (2.13) の Euler の公式の証明や話題については第 3 章で述べる。