災害事例
と
リスクアセスメント
建設機械・クレーン等災害(その8)
労働安全コンサルタント
浮田 義明
今月は、土木工事における挟まれ・巻き込まれ災害を取り上げてみました。 いずれも作業中に機械を稼働(回転)させたまま、あるいは回転体に接近しす ぎたために災害が発生してしまいました。 建設現場にはさまざまな回転体が存在します。例えば、攪かく拌はん用の羽根、スク リュー、ベルトコンベヤー、電動ドリル、丸のこ、ベルト及びプーリー、送風 機の羽根などです。これらの機械等による挟まれ・巻き込まれ災害が繰り返し 発生しています。 建設業における平成24年度の死傷者数のうち、墜落・転落災害に続いて、挟 まれ・巻き込まれ災害の割合が高く(死傷者数全体の11%:「安全の指標平成 25年度版・中災防発行」)、災害防止に向けた重点的な取り組みが望まれます。 今回取り上げた事例は、くい打機と削孔機のオーガロッドが災害の起因物とな っています。製造業で使用している機械・装置と異なり、建設用機械の回転体へ の安全装置等の装備は十分とは言えないため、労働災害を防止するためには管 理面の対策を綿密に検討し、作業中は厳格にルールを守らせることが大切です。 回転体には「接近するな」、「手を出すな」を原則としなければなりませんが、 管理面で重点的に取り組まなければならない対策について改めて考えてみたい 本コーナーでは、不幸にして最悪の事態となってしまった事例を 取り上げ、同様の作業を行った場合に、①まだほかにも考えられる 危険性(ハザード)があるか、②どのような危害を受ける可能性が あるか――などについて検討してみる。 Ⅰ.同種災害の防止策、Ⅱ.その他の危険性に基づくリスクアセ スメント(例)に分けて、多様なリスクアセスメントの情報が収集 できるように構成した。災害発生の防止を目的に実施しているリス クアセスメントの見直し、改善、あるいは安全衛生教育の資料とし て役立てていただきたい。 (編集部)第23回
被災者の状況 災害発生状況 同種の作業で予測されるその他の危険性 職種:くい打工 年齢:50歳 経験年数:10年 請負次数:2次 ソイルセメント柱列壁削孔作業中、養生用風管の取 付けワイヤロープが1ヵ所外れたため直そうとしたと ころ、安全帯フックを掛けていた安全ブロックのロー プが3軸のロッドに巻きつき、巻き込まれた。 ① くい打機への昇降中、墜落する ② くい打機が移動する際、作業員に激突する ③ くい打機のホース、ワイヤー等がロッドに絡み、落下する
機械・クレーン
事例①
くい打機の養生作業中、オーガロッドに巻き込まれた
被災者の状況 災害発生状況 同種の作業で予測されるその他の危険性 職種:土工 年齢:39歳 経験年数:0.5年 請負次数:2次 斜面にアンカーを打設するための削孔作業を行って いたところ、ロッドの引抜き作業の際、本体のフレー ムに右手を掛けていたため、上昇してきたシリンダー に右手中指が挟まれた。 ① 足場と法面のすき間から転落する ② 回転しているロッドに作業服が巻き込まれる ③ 作業中、段差につまずき転倒する
機械・クレーン
事例②
削孔機を操作中、シリンダーとフレームの間に指が挟まれた
被災者の状況 災害発生状況 同種の作業で予測されるその他の危険性 職種:トンネル工 年齢:49歳 経験年数:27年 請負次数:2次 油圧ジャンボのロッドを接続する作業を行うため、 ロッドを回転させたまま運転席を離れ、作業員にロッド 継手部を押さえさせて接続しようとしたところ、ロッ ドに衣服が絡み、体が巻き込まれて腹部を圧迫した。 ① 機械の油圧が抜け、ブームが落下する ② 掘削切羽から土砂が落下し、激突する ③ バスケット上で作業中、身を乗り出して墜落する
機械・クレーン
事例③
削孔用ロッドを接続する作業中、ロッドに体が巻き込まれた
■ 機械・クレーン等災害防止の要点 挟まれ・巻き込まれ災害は、次の行動が原因となっているケースが多いようです。 1)機械を動かしたまま、不具合(材料の詰まりや引っ掛かり)を直そうとした。 2)機械の可動範囲に不用意に体や手足を接近させた。 3)機械を動かしながら清掃、修理、整備、注油を行った。 4)人がいないと思って機械を起動した。 【事例①】作業中に、養生用の風管をつっているワイヤーを直す作業を簡単に考え、 削孔作業を続けたまま作業を行おうとしたことが原因となっています。墜落防止のた め使用していた安全ブロックのワイヤーがロッドに絡みつくことまでは想像できなか ったのでしょうが、くい打機を停止させ、作業指揮者の指示のもとに慎重に修復作業 を行うべきでした。 このほか、くい打機は、組立て・解体作業中の墜落、部材・土砂の落下、ワイヤー・ キャプタイヤ—の切断等、さまざまな危険性が予測されますので、作業の計画段階で リスクアセスメントを確実に実施することが肝要です。 【事例②】地山に設置するアンカー等や薬液注入孔の削孔にはさまざまな形式のボー リングマシンが使用されますが、一般的には削孔のためにロッドを回転させる装置と 油圧シリンダーが組み合わされた機械が用いられるため、ロッドへの巻き込まれ、油 圧シリンダーとの挟まれによる災害の発生が考えられます。回転部等にカバーが装着 されている機械を使用することが望ましいですが、安全設備が不十分な削孔機を使用 せざるを得ない場合は、巻き込まれを防止するために、服装のだぶつきをなくす、頭 や首にタオル等を巻かないなど端正な服装で作業すること、挟まれを防止するために は、機械の動作範囲に手足を接近させないなどの基本動作を作業員に徹底させること が大切です。 【事例③】回転するロッドの危険性を考えず、過去にも同様の作業を繰り返してきた ものと思われますが、オペレーターが機械を停止せずにロッドを接続することはとん でもない行為です。ロッドに接近しすぎたために衣服が巻き込まれて圧迫死したり、 骨折して重傷を負う事例が数多く報告されているので、回転しているロッドには近づ かないよう、作業員へ周知徹底させる必要があります。 ■ リスクアセスメントの実施例 今回の災害事例で紹介した現場には、その他の災害をもたらす可能性のある危険源は数 多く潜んでいます。考えられる主な危険性がもたらす災害の発生の可能性、災害の重篤度 の見積りを例示してみましたので、参考にしてください。
Ⅰ.同種災害の防止策
Ⅱ.その他の危険性に基づくリスクアセスメント
*可能性、重篤度の点数は、リスクアセスメントを担当する人によって異なりますので、あくまでも参危険性又は有害性 可能性 重篤度 評価 優先度 リスクの低減措置 事例① くい打機の養生作業中、オーガロッドに巻き込まれた くい打機への昇降中、墜落 する 4 10 14 ⑤ 乗り移りの際は、作業台を用い、 タラップの昇降は、安全ブロッ クを使用する。 くい打機が移動する際、作 業員に激突する 4 10 14 ⑤ 移動の際は、誘導者を配置し、 誘導者の指示に従って機械を操 作する。 くい打機のホース、ワイ ヤー等がロッドに絡み、落 下する 4 6 10 ④ ホース、ワイヤー等はロッドか ら遠ざけて固定する。 くい打機が転倒する 2 10 12 ④ 敷鉄板を敷設し、十分に地耐力を高める。 事例② 削孔機を操作中、シリンダーとフレームの間に指が挟まれた 足場と法面のすき間から転 落する 4 10 14 ⑤ 地山に合わせた形状に足場板を 加工し、すき間をなくす。 回転しているロッドに作業 服が巻き込まれる 4 10 14 ⑤ 作 業 服 の だ ぶ つ き を な く し、 ロッドの回転中は接近しない。 作業中、段差につまずき転 倒する 4 3 7 ② 作業開始前、作業中は常に作業 床上の整理整頓を行う。 事例③ 削孔用ロッドを接続する作業中、ロッドに体が巻き込まれた 機械の油圧が抜け、ブーム が落下する 2 10 12 ④ 機械の稼働中は、運転席を離れ ない。 掘削切羽から土砂が落下 し、激突する 8 10 18 ⑤ 作業開始前に切羽の浮石等を十 分除去する。 *可能性の判断基準の例 災害発生の可能性の度合 評価基準 可能性が極めて高い 8 可能性が高い 4 可能性がある 2 ほとんどない 1 *重篤度の判断基準の例 災害の重篤度 評価基準 死亡 10 重症(休業 1 ヵ月以上) 6 休業災害(4日以上) 3 軽傷(休業3〜0日) 1 *優先度の決定の例 判定基準 見積り 18 〜 14 13 〜 10 9 〜 8 7 〜 5 4 〜 2 優先度 ⑤ ④ ③ ② ①