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色素増感太陽電池の色素吸着構造を分子レベルで解明

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Academic year: 2021

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同時発表: 筑波研究学園都市記者会(資料配布) 文部科学記者会(資料配付) 科学記者会(資料配付)

色素増感太陽電池の色素吸着構造を分子レベルで解明

- 色素吸着構造制御に成功 -

平成25 年 10 月 10 日 独立行政法人物質・材料研究機構 概要 1.独立行政法人 物質・材料研究機構(理事長:潮田 資勝)(以下「NIMS」という)ナノ材 料科学環境拠点(拠点長:魚崎 浩平)、ハイブリッド太陽電池グループの本田 充紀ポスドク 研究員(現独立行政法人日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門 任期付研究員)、 柳田 真利リーダーは、色素増感太陽電池1)の分子/電極界面近傍で生じる特異な吸着構造の 変化と光電流の関係について、高エネルギー加速器研究機構(KEK)における放射光軟 X 線 実験2)で明らかにしました。 2.色素増感太陽電池は低コストかつ高フレキシビリティーの性質を有することから次世代太 陽電池の一つとして注目されています。実用化するためには現在得られている発電効率を超 えるさらなる光電変換効率3)向上(特に光電流の向上)が必要です。色素太陽電池では色素 が光吸収と電子授与を行うことから、光電流は色素の吸着構造に依存すると考えられ、変換 効率の向上には、実デバイス下における吸着構造の解明とその制御が必要となります。 3.今回当研究グループは、色素分子の電子構造を知ることが出来るX 線光電子分光4)および X 線吸収端微細構造法5)を用いて、ルテニウム金属錯体6)色素N719 の吸着構造を分析しま した。通常、N719 色素はカルボキシル基 (COOH 基)を介して TiO2表面に吸着する性質があ ります。しかし、本研究の結果、NCS-(チオシアナート配位子7))が TiO 2と強く相互作用 していることが明らかになりました。これまでの吸着構造モデルでは、このような吸着構造 をとることは考慮されておらず、光電流を妨げる原因になっていた可能性があります。 4.さらに、このNCS-と TiO2の強い相互作用は、D131 色素(短波長領域で強い光吸収特性 を示す色素で、共吸着剤として広く用いられている)を同時に吸着させると消失することが 分かりました。本成果を設計指針とすることで最適な吸着構造を制御した結果、太陽電池の 可視光領域の外部量子収率が大きくなる(太陽光照射下の光電変換効率は約0.3 %向上する) ことが分かりました。 5.今回の研究成果は、文部科学省の委託事業「ナノテクノロジーを活用した環境技術開発プ ログラム」に基づいたナノ材料科学環境拠点による成果としてアメリカ化学会誌「Journal of Physical Chemistry C, 2013, Vol. 117, 17033-17038 (DOI: 10.1021/jp404572y)」で 8 月 22 日に掲載されました。

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研究の背景 二酸化炭素による地球温暖化に加えて、2011 年に起きた東日本大震災による東京電力株式会社 福島第一原子力発電所事故をきっかけに、環境エネルギー問題が大きくクローズアップされていま す。その中で再生可能エネルギーのひとつである太陽光発電が注目を集め、日本やドイツなどでは 太陽光発電の電力買い取り制度による普及が進められています。シリコン系太陽電池は実用化され 普及しつつあるものの、そのコストは、化石燃料(石油・石炭等)を利用した火力発電に比べて依 然として高いことが大きな問題です。今後、太陽光発電を飛躍的に普及していくためには、新しい 材料を使った低コストの次世代型太陽電池の実現が不可欠です。 色素増感太陽電池は、導電透明酸化電極(TCO 電極)、光を吸収する役割を担う増感色素が吸着 した酸化チタン(TiO2)などの多孔質半導体層、ヨウ素系電解質、対極から構成されています(図 1)。このように、資源的な制約が少ない廉価な材料を利用し、作製プロセスにおいて高温・高真空 を必要とせず、スクリーン印刷などで大量生産が可能であることから、発電コストを大幅に下げる 可能性を秘めています。またカラフル化やプラスチック基板の利用が可能なことから多種多様な場 面に適用できる太陽電池として期待されます(高フレキシビリティー化)。一方で、色素増感太陽電 池の光電変換効率(用語説明参照)は11~12%とシリコン系太陽電池の効率の半分程度にとどまっ ており、効率向上のためには材料開発のみならず、実デバイス下における発電機構を理解し、機構 を制御する手法が必要です。特に増感色素は光吸収と電子の受け渡しに寄与するため、多孔質TiO2 表面における増感色素の吸着構造を分子レベルで明らかにし、吸着構造を制御する必要があります。 図1 色素増感太陽電池の模式図 増感色素が光を吸収することで発生した電子がTiO2粒子に注入され、TCO 電極を通し た外部回路から対極に移動します。電解質中のI3-は対極の表面で電子を受け取りIにな ります。I-が増感色素表面に移動して電子を増感色素に戻します。動作原理からもわかり ますように光電流の向上には増感色素とTiO2界面が重要な役割を果たしています。

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N N HOOC Ru NCS NCS N N HOOC COOTBA COOTBA N+ CH2CH2CH2CH3 CH2CH2CH2CH3 H3CH2CH2CH2C CH2CH2CH2CH3 TBA (tetrabuthyl ammonium) = 今回の研究成果 色素増感太陽電池のTiO2は粒径が数十nm(ナノメートル8))の微粒子が積層した多孔構造から 構成され、その表面に直径約1 nm の色素が吸着しています。色素が光を吸収することで、TiO2ま たは電解液からの電子授受が起こり、光エネルギーを電気エネルギーに変換しています。 これまで に色素が TiO2表面に吸着していることは知られてきましたが、TiO2微粒子から構成される多孔質 半導体層は構造が複雑なため、吸着構造について情報が少ない状態でした。 色素増感太陽電池にもっとも良く利用されているN719 色素は中心金属である Ru に対して単座 配位子で、電子ドナー性であるチオシアネート(NCS-)、及び表面結合基であるカルボン酸基を有し、 電子アクセプター性である二座配位子の dcbpy(4,4’-ジカルボキシ-2,2’-ビピリジン)がそれぞれ 2 個 ずつ配位した分子構造です(図2)。今回、多孔構造TiO2表面上でのN719 の吸着構造を軟 X 線放 射光により 検討を行いました(図3)。 光照射下でTiO2へ電子を注入することで酸化されたN719 は I-から電子を受け取ります。I-か らの電子の受け取りはNCS-を介して行われ、NCS-が電解液側に向く構造が好ましいと考えられて います。(図4a)しかし、NEXAFS(X 線吸収微細構造)や XPS(X 線光電子分光)などの放射光 軟X線により明らかになった構造はNCS-S原子が TiO2と強く相互作用するというものであり、 I-から色素へのスムーズな電子移動を妨げていることが分かりました。(図4b) TiO2表面に混合色素(図2:N719 色素と図5:D131 色素)を同時に吸着させると、 NCS-と TiO2 の強い相互作用が消えることが分かりました。 D131 によって、NCS- TiO2の強い相互作用が消 えることにより、I-からN719 色素への電子の受け渡しが NCS-を介してスムーズに行うことができ るようになったため、太陽電池の外部量子収率については D131 による光利用波長の拡大も相俟っ て、可視光領域の波長で約5%程度大きくなることが分かりました(図6)。太陽光照射下の光電変 換効率は約0.3%向上しました。 図2 N719 色素の分子構造 N719 色素は色素増感太陽電池の増感色素として良く利用されている色素の1つです。 N719 色素はルテニウム金属錯体といわれる色素で、中心には Ru 金属があります。この Ru 金属に対して単座配位子で、電子供与性の性質をもつチオシアネート(NCS-)、及び表

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図3 従来の測定試料(右)と実デバイスの試料(左)の模式図および今回利用した放射 光測定の概略図

図4 N719の吸着状態と電子注入過程やI-から色素への電子移動過程の模式図 (a)電子移 動に適切な吸着構造(b)実験結果から推測される吸着構造。

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図5 D131色素 D131色素は色素増感太陽電池の増感色素の共吸着剤として利用されています。D131色 素は主に400nmから500nmの可視光領域の光を吸収します。これまで企業や大学では、他 の増感色素との共吸着剤として利用されてきましたが、これまで、共吸着用増感色素とし てのTiO2/電解液界面における詳しい役割は不明でした。 図6 光電流のアクションスペクトル 縦軸は外部量子収率(IPCE)9) C HC N HC CN COOH

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今後の展開と波及効果 本研究により色素増感太陽電池の光電変換効率向上へむけた、吸着構造と光電流の関係の重要性 が明らかになりました。これまで共吸着色素によって色素増感太陽電池の光電変換効率の向上が行 われてきましたが、2 種類の色素の相性によって変換効率が向上する場合としない場合がありまし たが、本研究では、吸着構造からその原因を明らかにしました。 TiO2表面に同時に吸着させる色素の種類、構造を検討することにより吸着構造が制御できること が示され、適切な色素材料選択により、光電変換効率向上が期待できます。 また、多孔構造材料について、材料表面から深さ方向を区別して細孔内の吸着色素分子の電子構 造を知ることが出来る計測手法を用いることで、次世代太陽電池(色素増感太陽電池)の実用化に 向けた研究が加速されることが期待されます。 問い合わせ先: 〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1 独立行政法人物質・材料研究機構 企画部広報室 TEL:029-859-2026 FAX:029⁻859-2017 研究内容に関すること: 独立行政法人物質・材料研究機構 ナノ材料科学環境拠点 ハイブリッド太陽電池グループ グループリーダー 柳田真利 TEL:029-859-2252 FAX:029-859-2304 YANAGIDA.Masatoshi@nims.go.jp 用語解説 1)色素増感太陽電池 シリコン半導体や化合物半導体を使う太陽電池に対して、微細で広い面積を有するTiO2多孔構造 に可視光領域に光吸収する色素を吸着させ、色素に太陽光を吸収させる太陽電池です。1991 年にグ レッツェル教授らが提案しました。 2)放射光軟X線実験 シンクロトロン放射光を用いた実験。高強度で強い指向性を持つ均一な白色光を特徴とし、この 光を放射光と呼びます。 3)太陽光照射下の光電変換効率又は光電変換効率 地上の降り注ぐ太陽光で得られるエネルギー(AM 1.5G、100mWcm-2)に対して太陽電池が変換 可能なエネルギーの割合で定義されています。 4)X線光電子分光 物質に高いエネルギーを持つX線を照射すると、物質内部の電子が外部に飛び出てきます。放出さ れる電子(光電子)の個数とエネルギーの関係を調べることにより物質内の電子状態を調べる実験手 法が光電子分光です。

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5)X線吸収端微細構造法 物質にX線を照射すると、内殻電子の励起・電離に伴い、物質構成原子に特有の吸収を生じます(光 電吸収)。その極大(低エネルギー側の端に現れるので吸収端と呼ぶ)の近傍で、吸収端から約30eV高 エネルギー側までの低いエネルギー領域の吸収曲線に現れる微細構造は、X線吸収端構造(XANES) と呼ばれています。この微細構造から、液体や非晶性物質中の吸収原子の周りの原子配列や原子価の 違いなどの情報を得ることができます。 6)ルテニウム金属錯体 ルテニウム(Ru)の 2 価の金属イオンを中心にして有機分子や無機分子またイオンが配位した錯体 分子で、配位する配位子の種類で光特性が変化します。光に安定で、可視光から近赤外光領域に強 い吸収や発光特性を有していることから光化学や光物理において古くから研究が行われています。 7)チオシアナート配位子 窒素と炭素、硫黄原子から成り立ち、1価のアニオンで、金属錯体の配位子として利用されていま す。N719が電子を受け取る際、N719のチオシアナート配位子は電子の授受に大きな役割を果たすと 言われています。 8)ナノメートル(nm) 百万分の一ミリメートル 9)外部量子収率(IPCE) 入射光子数に対する流れた電流の電子数の割合と定義されています。

参照

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