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Ⅱ.1 ワーク ライフ バランス施策の定義と類型 (1) ワーク ライフ バランス施策とは work-life balance 1 (2) ワーク ライフ バランス施策の類型

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わが国における

ワーク・ライフ・バランス施策の全体像

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Ⅱ.1 ワーク・ライフ・バランス施策の定義と類型

(1)ワーク・ライフ・バランス施策とは 「ワーク・ライフ・バランス」(work-life balance)とは直訳すると「仕事と生活の調和」とな り、それに関する施策とは、労働者が仕事一辺倒ではなく、それ以外の生活とうまくバランス がとれるようにするための施策をいう。従来「ファミリー・フレンドリー」施策という言葉が よく聞かれていたが、これはどちらかというと、家族を支援するというところに重点が置かれ、 子育て支援が中心の概念であった。しかし近年、ファミリー・フレンドリーではなくワーク・ ライフ・バランスという言葉が用いられるようになったのは、仕事とのバランスは家庭生活に だけ限定されるものではなく、性別や年齢に関係なく、家族への支援を必要とする人もそうで ない人も対象となるような施策が必要である、という考え方が広まってきたからである。現在 のところ、ワーク・ライフ・バランスに厳密な定義はないが、英国の貿易産業省では、「働き 方を調整することによって、全ての人が仕事と仕事以外の生活について、充実感をもち、与え られた責任を果たせるようなリズムを見つけること」と定義している1 (2)ワーク・ライフ・バランス施策の類型 本報告書では、図表Ⅱ−1に示したような施策を「ワーク・ライフ・バランス施策」として 扱うこととする。これらの施策の詳細な内容は後述する。 図表Ⅱ−1 ワーク・ライフ・バランス施策の類型 育児休業 介護休業 休業制度 休職者の復帰支援 看護休暇 配偶者出産休暇 休暇制度 年次有給休暇の積立制度 勤務時間のフレキシビリティ(フレックスタイム制度/就 業時間の繰り上げ・繰り下げ) 短時間勤務制度 働く時間の見直し 長時間勤務の見直し 勤務場所のフレキシビリティ(在宅勤務制度/サテライト オフィス制度) 働く場所の見直し 転勤の限定 経済的支援 事業所内保育施設 再雇用制度 その他 情報提供・相談窓口の設置 1 藤森克彦(2004)『英国の「仕事と生活の調和策」から学ぶこと』2 頁。

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Ⅱ.2 ワーク・ライフ・バランス施策類型ごとの導入状況

企業などにおけるワーク・ライフ・バランス施策の導入状況を概観するため、新聞・雑誌記 事の検索と内容分析を行った。その結果の概要をまとめる(詳細は資料編を参照のこと)。

<この節のポイント>

次世代育成支援対策推進法の施行により、そのワーク・ライフ・バランス施策について新聞・ 雑誌で採り上げられる企業が急増した。 ワーク・ライフ・バランス施策の導入状況は、業種や業態によって差がみられ、特に流通業 や電気機械製造業、情報通信産業で施策導入している企業が多くみられた。 2003(平成 15)年 7 月に次世代育成支援対策推進法が制定され、各企業に行動計画の策定が 義務付けられたが、同法が施行された2005(平成 17)年には、そのワーク・ライフ・バランス 施策について新聞・雑誌で採り上げられる企業が急増した。新聞・雑誌に採り上げられるきっ かけとしては、厚生労働省のファミリー・フレンドリー企業表彰や各自治体が設けている子育 て支援や男女共同参画などに関する表彰を受けたことが多かった。なお新聞の場合は、導入さ れた施策の概要のみが紹介されるケースが多く、施策導入の経緯や運用上の課題、施策を実施 したことによる効果についてはほとんど触れられていなかった。 図表Ⅱ−2 新聞・雑誌上でワーク・ライフ・バランス施策が採り上げられた企業数 20 22 18 15 77 19 7 1 5 2 12 0 20 40 60 80 100 2000 2001 2002 2003 2004 2005 (年) (社) 再び採り上げられた企業数 2000年以降初めて採り上げられた企業数 (注)同一企業が同一年内に複数回採り上げられた場合は1 社と計数。 (資料)みずほ情報総研作成。 採り上げられている事例として数が多いものは、「ワーク・ライフ・バランス」というより も依然として「ファミリー・フレンドリー」的な「家族に優しい」施策が中心となっており、 性別や年齢など労働者の属性にとらわれず、施策の利用理由なども問われないものは非常に少

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数であった。具体的な施策として多かったものは、育児や介護に関する短時間勤務制度や法定 を超えた育児・介護休業、育児・介護などに関連する経済的支援策や事業所内保育施設の設置 に関するものであった。 図表Ⅱ−3 各種ワーク・ライフ・バランス施策の導入状況 35 42 12 9 13 14 21 10 2 83 5 5 25 6 17 2 10 19 38 33 27 9 31 18 18 0 20 40 60 80 100 法 定 超 の 育 児 休 業 法 定 超 の 介 護 休 業 休 暇 復 帰 プ ロ グ ラ ム 妊 娠 期 間 中 の 休 暇 配 偶 者 出 産 休 暇 年 次 有 給 休 暇 の 積 立 制 度 フ レ ッ ク ス タ イ ム 制 度 就 業 時 間 の 繰 上 ・ 繰 下 裁 量 労 働 制 度 短 時 間 勤 務 制 度 育 児 時 間 深 夜 残 業 の 免 除 時 間 外 労 働 の 免 除 長 時 間 勤 務 の 見 直 し 在 宅 勤 務 サ テ ラ イ ト オ フ ィ ス 転 勤 抑 制 休 暇 に か か る 経 済 的 支 援 そ の 他 経 済 的 支 援 事 業 所 内 保 育 施 設 再 雇 用 相 談 窓 口 等 の 設 置 制 度 利 用 者 へ の 情 報 提 供 制 度 周 知 の た め の 情 報 提 供 そ の 他 (社) (注)グラフは、各施策について記事の中で採り上げられた企業の実数。 (資料)みずほ情報総研作成。 各種施策を実施している企業の特性により、導入状況についての差異をみると、概ね以下の ような傾向がみられる。 ◆流通業、電気機械製造業や情報通信産業で、ワーク・ライフ・バランス施策の導入が多い 施策を導入している企業の業種をみると、電気機械製造業や流通業が多くみられる。これら の業種は、大都市圏だけではなく、地方都市を拠点としているところも多く、地元の人材を活 用するために、各種施策を導入していることが考えられる。また、情報通信産業は中小規模の 企業が多く、特に地方に拠点を置く企業は人材確保のためにこれらの施策を導入しているケー スが多い。 ◆働く時間への配慮が多い流通業 スーパーマーケット、百貨店などの流通業は、もともと女性が多い職場であり、またシフト 勤務が敷かれていて勤務時間を管理しやすいためか、短時間勤務や時間外労働の免除などを認 めているケースが多い。また、育児などの理由により一度退職した人を再雇用する仕組みをも

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っていることも多い。但し、顧客と対面で接しなければならない職種であるために、働く場所 に関しての融通は利きづらい。また、この業界では正規従業員だけではなく、契約社員、パー ト・アルバイト従業員も大きな戦力として位置付けられている。そのため、育児休業制度につ いては、正規従業員だけではなく、契約社員、パート・アルバイト従業員まで対象として認め られているケースがみられる。 ◆長期にわたる休業期間を認める電気機械製造業 電気機械製造業には、地方に製造現場をもっている企業も多い。一概にはいえないものの、 親と同居ないし近居している従業員が多く、介護を行う必要がある人が多いためか、介護につ いて法定を超える休業期間を設定している企業が多いと思われる。 ◆働く場所への配慮がみられる情報通信産業 情報通信産業など、パーソナル・コンピューターを用いる仕事が多い産業では、ある程度働 く場所に融通が利くようである。在宅勤務を認めているケースの多くは情報通信産業である。 但し、情報通信産業では一般に中小企業が多く、転勤などを伴うことがほとんどないためか、 転勤などへの配慮はあまりなされていない。 ◆居住地の移動を伴う転勤への配慮を行う金融・保険業 金融業では転勤が多いが、子育て期間中は居住地の移動を伴う転勤を制限したり、逆に、配 偶者の転勤に伴い勤務地を変更したりすることができる制度を設けているところもある。 また、施策内容ごとにみると、以下のような傾向がみられる。 ◆地方に多くみられる事業所内保育施設 事業所内保育施設は地方の企業が設置している場合が多い。大都市圏の場合は交通事情から 子ども連れの移動が困難であることが、その背景にはあると思われる。なお事業所内保育施設 を設けているのは、大都市圏の場合は比較的規模の大きい企業、地方では医療機関など女性労 働者が多く従事しているところが多い。 ◆経済的支援は大企業に多い 休業中の経済的支援、その他育児にかかる費用、介護にかかる費用についての支援を行って いるところは、大企業に多くみられる。支援のあり方としては、共済会からの休業中の手当支 給や育児や介護に関するサービスの利用費の補助、出産や入学の祝い金のような形が主となっ ている。

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Ⅱ.3 各ワーク・ライフ・バランス施策の詳細

インタビューを行った企業から得られた情報をもとに、一部に文献情報も加えて、ワーク・ ライフ・バランス施策それぞれの具体的な制度内容や運用実態についてまとめる。

Ⅱ.3.1 育児休業・介護休業

<この項のポイント>

育児休業・介護休業ともに法定を超える期間設定や利用要件の緩和などがなされるととも に、復職支援についても面談、資料送付、情報技術(IT)を利用したコミュニケーション・ 学習支援など様々な工夫がなされている。 男性の育児休業取得を促進するために、短期の育児休業の設定、奨励金の支給、利用要件の 緩和(配偶者要件の撤廃)などを行い、中には男性の利用が進んだ企業がある。男性の取得 者の意見を社内広報などに採り上げることで、制度利用に関する職場内の認識が進んだこと を挙げる企業もあった。 育児・介護とも休業中は「ノーワーク・ノーペイ」原則を採る企業が多いが、人事評価・処 遇において休業が不利に働かないように休業期間を評価の対象外とし、本人の能力を客観的 に評価しようとする企業が多くみられた。

Ⅱ.3.1.1 育児休業(制度内容・利用状況)

インタビューを行った企業20 社については、法定を超える制度を導入している企業が多く、 また1992(平成 4)年の育児・介護休業法の施行以前に制度導入していた企業もあった。 各企業において、育児休業制度を早期に導入した、または法定を超える制度としている理由 としては、次のようなものが挙げられた。 • 男女雇用機会均等法などを受けて 1980 年代後半から採用が増えた女性従業員が妊 娠・出産の多い時期を迎え、育児休業へのニーズが高まった。 • 高度な技能やキャリアをもつ女性従業員について、結婚や出産によってキャリアを 断つことなく人材を育成・確保しておきたいという企業側の意向があった。 • 妊娠・出産した女性従業員から要望があり、対応が必要という認識から制度の導入 に至った。

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(1)制度内容(期間・利用要件) ◆法定を超える期間設定の状況 育児休業期間について、法定(原則として子が1 歳に達するまで、保育所に入所を希望して いるが入所できない場合など一定の要件を満たせば1 歳 6 ヶ月まで利用可能)を超える期間設 定をしている企業についてその状況をみると、対象児の年齢上限が満1 歳に達した後の 3 月末 /4 月末、満 2 歳、満 3 歳などのパターンで設定されていた。 満1 歳到達後の 3 月末または 4 月末までとしている企業は、その期間が法定で取得可能とさ れる期間よりも長くなる場合に、そちらを選べる制度である(例えば6 月 1 日生まれの子ども の場合、1 歳になった後の 3 月末まで利用できるとすると、延べ 1 年 10 ヶ月の利用が可能とな る)。休業の終了期限が3 月末という設定は、4 月からが保育所に最も入りやすいということを 踏まえてのものであるが、終了期限をさらに4 月末までに変更した企業(日産自動車:満 1 歳 到達後の3 月末から満 2 歳到達後の 4 月末に変更)や今後変更を予定している企業(河村電器 産業)もあり、これは子どもの保育所入所などに伴う「慣らし保育」に対応したものである。 期間の設定については、従業員の要望や法制度の改正動向に合わせて、徐々に延長してきた 傾向が見受けられる。 また、制度利用の対象者について正規従業員以外の有期雇用者も対象とする企業がある(髙 島屋、資生堂、ミツカングループ)ほか、正規従業員と有期雇用者で期間など制度内容を異な らせている場合もあった(髙島屋)。 図表Ⅱ−4 育児休業の期間設定状況(法定超の例) 期間設定状況 企業名 3 歳まで 資生堂(2 回以上休業する場合は原則として通算 5 年まで)、カミ テ 2 歳後の 4 月末まで 日産自動車 2 歳まで 髙島屋(有期雇用者は 1 歳 6 ヶ月まで)、日本 IBM、住友商事、 新生銀行 1 歳後の 3 月末または 4 月 末まで 河村電器産業(1 歳後の 3 月末まで)、WOWOW(1 歳後の 4 月末 まで) 1 歳 6 ヶ月まで、または 1 年6 ヶ月 イノス(1 歳 6 ヶ月まで)、ニチレイ(産後 56 日+1 年 6 ヶ月) 1 歳になった月末まで 関西スーパーマーケット(1 歳 6 ヶ月まで延長可能) 男性も育児休業を取得しやすくするために、取得期間が2 週間以内の短期の場合は有給とし たことで利用が進んだ企業もある(資生堂)。県から男性の育児休業取得者に 5 万円の奨励金 が出され、それを雇用保険からの育児休業給付に併せることによって 20 日間程度の短期の育 児休業の取得が進んだとする企業もあった(カミテ)。

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●短期の育児休業を有給としサポート(資生堂) 男性の取得促進を念頭に、2005(平成 17)年 4 月より育児休業制度を、開始日 より連続 2 週間以内の短期の育児休業については有給とするよう改訂した。制度 改訂により2005 年度には男性 10 名が取得。 なお、利用可能な期間は長期であっても、実態としては満期の制度利用は少なく、平均化す ると 1 年未満の企業もある(日本 IBM)。その理由としては、変化が速い業界であるため子ど もが保育所に入ることができれば早期の復職を望む従業員が多く、周りもそれを望んでいると のことであった。 ◆利用要件の緩和 育児休業について、女性に対する制度といった従来の概念を超えて、男女に関わらずワー ク・ライフ・バランスを支援する観点から、配偶者が常時子どもを養育できる状態にある場合 であっても育児休業制度を利用できるようにするなど、利用要件を緩和している企業もある (住友商事、富士ゼロックス)。 しかし、配偶者要件を撤廃したことによる男性の利用実績がない企業もある(住友商事)。 この理由として、配偶者が就労していない場合は経済的な問題から男性の取得が進まないので はないかといった指摘もあった。 ●育児休業の取得について配偶者要件を撤廃(住友商事) 特定の属性の従業員を特別視するのではなく、全ての従業員が必要に応じてワ ーク・ライフ・バランス施策を活用できるように、育児休業制度について配偶者 が常時子を養育できる状態であっても取得可能とするよう制度を改正した。 (2)利用状況 ◆男女の利用状況 育児休業の利用はほとんどが女性であるが、男性も一部の企業で利用している(富士ゼロッ クス、ミツカングループ、日産自動車、日本IBM)。 男性の利用が進んでいる企業では、取得者の声が社内広報や外部マスコミに採り上げられた ことで、制度利用に関する職場内の認識が進んだと指摘している。また、取得した男性からは、 「充実した日々」「家族や自分自身のライフスタイルを見直す良い機会」などの肯定的な意見 が聞かれているとのことであった(富士ゼロックス)。

事例

事例

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◆部署・職務・雇用形態別の利用状況 部署や職務による制度の利用状況の違いは明確には把握できなかった(部署などによる違い はないという回答か、または傾向として把握していない、との回答が多かった)。中には営業 職は取りにくく、本部スタッフ系では取りやすいという意見も聞かれたが、一概に傾向として はいえないとのことであった。 男性の取得者がいる企業では、取得は主に技術開発職や研究職など比較的裁量性がある職務 につく従業員に集中する傾向がみられた(富士ゼロックス)。 正規従業員だけではなく、嘱託やパート従業員にも制度の利用を認めている企業があるが、 実際の取得者は少ない。理由として、パートなどで勤める従業員の場合、その多くが出産・子 育てを経た後の再就職であってニーズがあまりないことや、パート従業員では育児休業をとっ てまで仕事を続けようと考えている人が少ないことが挙げられた(ミツカングループ、河村電 器産業、関西スーパーマーケット)。 ◆取得のしやすさ、周囲の反応など 育児休業については制度の周知やその利用への理解が広まってきており、何れの企業におい ても「職場内の理解がある」「取得しやすい雰囲気である」などの回答を得た。取得者自身に も当然のように取得できる制度と意識されているという回答が多かった。 その一方で、部署によっては休職者の職場復帰に対する理解がないなどのため、休業取得者 に対する考え方などに関する管理職研修や制度周知の必要性を指摘する意見もあった。 以前は利用しにくい職場の雰囲気であったものが、企業として育児休業の取得について積極 的な考え方を示したことにより、育児休業取得者の数が飛躍的に増えたとする企業もある(住友商 事)。

Ⅱ.3.1.2 介護休業(制度内容・利用状況)

(1)制度内容(期間・利用要件) ◆法定を超える期間設定をしている企業 介護休業制度について、インタビューを行った企業 20 社の中では、法定(対象家族 1 人に つき、要介護状態に至るごとに 1 回、通算 93 日まで利用可能)を超える制度を導入している 企業が多く、期間を延長して要介護者1 人 1 回につき 1 年までというものが最も多かった。ま た、延長を可能としたり回数制限をなくしたりするなどの取組がみられた。

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図表Ⅱ−5 介護休業の期間設定状況(法定超の例) 期間設定状況 企業名 1 年まで エスアイアイ・マイクロテクノ、ミツカングループ、資生堂(1 回 1 年以内、回数制限なし、通算 3 年まで)、日本 IBM(再取得 可)、住友商事 6 ヶ月まで 河村電器産業 原則法定通りだが、延長可 能など要件緩和 イノス(延長可能)、カミテ(回数制限なし) 介護休業制度以外にも、下の事例のように企業の業務特性を踏まえた施策を実施している企 業があった(住友商事)。 ●海外駐在員の介護を支援(住友商事) 海外駐在員用に海外の介護を行う NPO「海を越えるケアの手(シーケア)」に 法人として加入。 ◆利用要件の緩和 介護休業制度の利用について、法定では「同一の事業主に引き続き雇用された期間が1 年以 上であること」という条件があるが、入社1 年に満たない従業員も申請できるようにしている 企業がある(ミツカングループ)。 対象とする要介護者の範囲について、法定では適用除外となっている同居・扶養していない 祖父母を対象に含める企業がある(資生堂、日産自動車)。 (2)利用状況 法定超の制度を導入している企業でも、利用実績は数件にとどまっている状況であるが、利 用者層は育児休業と異なり男性の比率が高い。介護を必要とする年代であることもあり、管理 職の取得者が多いことも特徴である。

Ⅱ.3.1.3 育児休業・介護休業の運用状況

(1)休業期間中の所得保障について ◆休業中は無給の場合がほとんど 育児休業中の所得保障については、いわゆる「ノーワーク・ノーペイ」原則をとっている場 合がほとんどであった。この場合、休業期間を法定期間よりも延長すると、延長期間について は給付金もないため所得保障は全くないことになる。

事例

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◆経済的補填の具体的内容 一部の企業では、雇用保険からの休業給付金に上乗せした経済的補填が行われていた(ミツ カングループ、資生堂)。次世代育成支援の観点から、家族手当などを組み替えて育児休業制 度の法定超の期間における経済的補填に充てることについて検討しているとする企業もある (河村電器産業)。 一方で、育児休業給付金制度が法定化される以前は経済的補填をしていたが、法定化に伴っ て雇用保険から給付金が支給されることになったことを受けて、企業としての支援を廃止した 企業もある(イノス)。 ●育児休業期間中に賃金の 35%を支給(ミツカングループ) 育児休業期間中について、雇用保険からの給与の4 割分の給付金に上乗せして、 会社から賃金の 35%を支給している(1992〔平成 4〕年の育休法施行以前に産前 産後休業中の援助措置に活用していた財源を転用)。制度導入の狙いは、育休中の 経済的負担の軽減。どうせ育休をとるなら復職してもらおうという考えの下、育 休中も所得を大幅に減らさないことにより、育休の取得と産後の職場復帰をしや すくする。 ●介護休業期間中に介護見舞金を支給(資生堂) 介護休業期間中は無給だが、1 ヶ月以上にわたる介護休業を取得する従業員に は、介護見舞金(休業開始から6 ヶ月を経過した時点で固定月収の 2 ヶ月分相当) を支給する。 (2)人事評価・処遇への影響 休業による人事評価・処遇への影響は、各々の企業が採用する人事評価の考え方及び体系に 拠る部分が大きい。具体的な手法は様々であったが、一般的には、年功賃金制から能力・成果 主義へと企業における評価のあり方が転換しつつある中、育児・介護休業についても取得が評 価上マイナスに働くのではなく、取得如何に関わらず本人の能力を客観的に評価して処遇に反 映させていこうとする企業が多くみられた。 ◆業績評価・給与評定への影響 育児・介護休業期間は業績評価の対象から外し、休職以前と復帰後の実働している期間で以 って業績を評価し、給与評定に反映させている企業が多かった(エスアイアイ・マイクロテク ノ、資生堂)。すなわち、休業の取得によって、業績評価とそれに連動する給与評定が下がる ことはない仕組みとされている場合が多い。

事例

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◆昇格への影響 昇格の仕組みは企業により様々であるが、今回インタビューをした企業の中には、休業によ る勤続年数の減少を昇格に対しマイナスに影響させないような工夫がみられた。完全な能力主 義であるため、休業そのものが直接的に人事評定に影響することはないとする企業もある(日 産自動車)。 一方で、昇格には一定の勤続年数を必要としているような企業の場合には、休業期間は算入 されないため、休業の取得が昇格に影響する状況であった。 ●試験制度による昇格制度を採用しており、育児休業の取得は昇格に影響しない (エスアイアイ・マイクロテクノ) 昇格は勤続期間と関係なく、ある等級以上への昇格に必要となる試験の受験資 格も勤続年数とは無関係に設定している。 ●人事制度を改定し、職能資格による昇格制度に転換(河村電器産業) 人事制度を職能資格制度に改定し、それぞれの格付に定められた要件を満たせ ば昇格できるようにしている。勤続年数や在籍・滞留年数は昇格条件に含んでい ない。 ◆復職後の人事評価を重要視し、具体的な取組をする企業も 休業から復職後の人事評価をしっかりとやらないと、利用者自身や周囲から不平不満が出る として、復職後の人事評価を重視し、評定者研修で休業からの復帰者の評価について特に採り 上げている企業もあった(エスアイアイ・マイクロテクノ)。 (3)復職の状況・復職支援 ◆原則として原職復帰の場合が多いが、個別事情を勘案 多くの企業で原職復帰が原則とされていたが、従業員側の意向や企業側の事情を考慮して利 用者と相談の上で必要に応じて異動もありうる、という形が一般的であった。本人が配置転換 を希望する場合は対応するようにしている企業が多い。 具体的には、従業員側が復職後に短時間勤務を希望する場合や残業ができない場合、企業側 の事情や職務内容から当該従業員が休業中に正規従業員の代替要員を配置せざるをえない場 合などは、休職者の能力、適性及び意向を考慮して別の部署・職務に配属という場合もある。 但し、人事異動が頻繁な企業では、復職も人事異動の一部と捉え、原職復帰ということに必 ずしも限定していない場合もあった(日本IBM)。 ◆復職支援 休業前・復職前の人事部や上司との面談や、休業期間中の職場の情報伝達など、休業前から 復帰までを通じた復職支援を行う企業が数社あった。面談以外の具体的方策としては、資料の

事例

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送付、インターネットを活用したコミュニケーション・学習支援ツールの提供、イントラネッ トのアクセス許可などがあった。復職直前に子どもの保育所の入所状況などについて本部より 問い合わせの電話を入れている企業(関西スーパーマーケット)や、人事担当者が育児休業中 の 従 業 員 を 家 庭 訪 問 し 、 保 育 所 の 入 り 方 の ア ド バ イ ス 、 復 職 支 援 な ど を 行 っ て い る 企 業 (WOWOW)もあった。休業中から復帰後の働き方に関わる要望・問題点について面談やメー ルでヒアリングをして、現場と折り合いがつく場合は制度の枠を超えて復職支援のために対応 を図っているとする企業もある(ふくや)。 休業中も職場の状況が分かり休業者が安心できるように、定期的な資料送付などにより職場 の情報を提供する取組がみられたが、日常的な連絡は従業員同士の個人的なつながりや上司に 委ねられる形となっている点について課題として捉える企業もあった(髙島屋、日産自動車)。 図表Ⅱ−6 育児・介護休業取得者に対する復職支援の具体的方策(例) 復職支援の方策 具体的内容 企業名 休業前と復職前に総務課が面談を行う。休業前は休業期間 や復職後の短時間勤務利用予定、復職前は復職時期、短時 間勤務利用予定、復職先部署の希望などをテーマとして話 し合う。 エ ス ア イ ア イ・マイクロテ クノ 産前休暇前に必ず人事部と面談を行い、育児休職などの諸 手続きを行うほか、復帰後の働き方についてのおおよその 見込みを話し合っておく。ここに部門の上司は同席しない。 さらに、復帰前に人事部と本人で簡単に面談を行う。これ は義務付けではなくメールや電話でのやりとりとする場合 もあるが、復職後の働き方について話し合う。 富 士 ゼ ロ ッ ク ス 休職1 ヶ月前、復職 1 ヶ月前、復職後に人事部が面接し、キ ャリアプラン、育児計画、復職後の勤務時間などについて 協議する。 髙島屋 人事部などによ る面談 育児休業からの復帰直前には子どもと一緒に1、2 回来社し てもらい、復帰後子どもが病気になったときにどのように 対応することが可能かを聞き、配置転換の必要性を含めて 復帰後の働き方について検討・調整する。 ふくや 上司との面談 休業者は、休業前と復職前に上司と面談を行う。 日産自動車 月 1 回行われる全従業員昼礼の資料やその他重要資料は休 業者の自宅に送付する。 エ ス ア イ ア イ・マイクロテ クノ 資料の送付 社内報を送付する。 髙島屋、関西ス ー パ ー マ ー ケ ット IT に よ る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン・学習支援 「wiwiw」プログラム(インターネットサービス)の提供に より、休業中のスキルアップ講座提供、育休者同士や職場 上司との情報交換促進や育児関連の生活情報を提供する。 これにより復職後もモティベーション高く働けるようにサ ポートしている。また、出産予定日・職場復帰予定を入力 することで、休業者の個別スケジュールにあわせてプログ ラムを選択でき、各種ビジネススキルアップ講座も受講で きる。 資生堂

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復職支援の方策 具体的内容 企業名 イントラネット のアクセス許可 申請することにより、育児休業期間中にイントラネットに アクセスすることができる。 WOWOW 従業員一般(有期雇用者を含む)を対象とする通信教育支 援策(受講料を会社が補助。成績優秀者には全額補助も) は、休職中にも利用可能。 髙島屋 育休中は人事・総務が電話連絡、個別訪問などを行い、休業中 職員へのフォローを図っている。 大福信用金庫 年度が改まって年間方針が発表されるなどの重要な会議に は休業者にも出席してもらうこともある。 福島印刷 その他 育児休業取得者に育児休業中・育児休業後に総務が定期的 にメールで連絡を取り、要望・問題点を聞く。ヒアリング により、従業員からの要望として挙がった内容に対して、 現場が対応可能かどうかのヒアリングを行い、双方が可能 だと判断した場合には、制度の枠を超えて復帰支援のため に認めるようにしている。 ふくや (4)代替要員・業務量調整 ◆判断は各部署に委ねられる場合が多い 休業取得者が出ることによる代替要員の確保や業務量の調整については、多くの企業におい て各部署に判断を委ねつつ、各現場の状況や要望を優先してケースバイケースで対応されてい た。各部署から対応策について本部に提案してもらい、それに可能な限り対応する形を採って いるとする企業もあった(河村電器産業)。 ●部署からの提案をもとに代替手法を選択して活用(河村電器産業) 育休者が出る場合の対応策は、それぞれの部署から提案してもらう。派遣社員 で代替する、仕事の一部を他部署(営業所の場合は本部など)に肩代わりしても らうなどの策があり、本部としてはそれにできるだけ対応するようにしている。 少人数の営業所では派遣社員を入れるが、本社や工場では基本的に代替要員は入 れず通常のジョブ・ローテーションの中に紛れ込ませてしまう。派遣社員を入れ る場合は、業務引き継ぎのため、育休者が休業に入る 1 ヶ月∼1 ヶ月半ほど前か ら雇用し始めている。派遣社員が育休者の業務の全てを代替できるわけではない ので、所長をはじめとした他の従業員がカバーすることになる。 各部署で通常行う要員対策の一環として、休業者の発生についても勘案して対応を図る企業 もある。管理職が制度を取得する場合は、部署の体制を維持するために休業取得前に人事異動 を行い(降格ではない)、代替要員を管理職として配置する企業がある(髙島屋)。その一方で、 管理職が休業する場合でも、休業期間中その職を解くことなく、その間の当該部署の管理は他 の課長や当該部署の部長が兼任する形で対応している企業もあった(日産自動車)。休業期間 の長短によって対応方法を異にしている企業もあった(カミテ)。

事例

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休業者が発生しても部署としての目標設定に変更はないとする企業が多かったが、「休業者 が出る部門に対するケアが必要」との認識を示し、派遣社員を雇用するための予算付けなどに ついて検討中とする企業もあった(富士ゼロックス)。 ◆代替要員の確保や業務量調整の具体的方策 先に述べたように、多くの企業が休業取得者については原職復帰を原則としていることもあ って、代替要員を置く場合も正規従業員を充てる場合は少なく、多くが派遣社員や契約社員で 一時的な対応を図っていた。 しかし、秘書や銀行事務業務など一定の定数が必要となる職務や、マネジャー職などの管理 業務については、正規従業員による代替を行う場合(但し原則とはしていない)もあった(富 士ゼロックス、大福信用金庫、髙島屋)。正規従業員で代替する場合も、休業者の職場復帰は 本人のキャリア維持を考慮して行い、原職復帰となる場合は通常の人事異動の中で定員超過と ならないように配慮した人事が行われていた(髙島屋)。 業務量調整については、部署内で業務のシェアを調整するなどの方策が主であった。また、 組織変更が頻繁に行われているため、それにより必要に応じてマンパワーが調整できていると する企業もあった(日本IBM)。

Ⅱ.3.2 勤務時間のフレキシビリティ

<この項のポイント>

勤務時間のフレキシビリティを図る制度として、「短時間勤務」、「時差勤務(就業時間の繰 り上げ・繰り下げ)」、「フレックスタイム制」、「裁量労働制」などが導入されていた。 制度の利用要件として育児・介護事由を挙げる企業が多いが、事由を限定せず多様な事由で 活用できる制度として位置付ける企業もある。 短時間勤務制度利用の場合、給与は時間短縮分を圧縮する場合が多いが、昇給・昇格につい ては能力評価のため「影響はない」とする企業が多かった。 短時間勤務制度などの利用者への対応や業務量の調整などには「管理職のマネジメントが重 要」との意見があり、管理職を対象としたマネジメント研修を実施する企業もあった。 勤務時間のフレキシビリティを図るための制度を導入している理由として企業から挙げら れたものは、次のようなものであった。 • 女性従業員のキャリアを結婚・出産で断つことなく人材育成を図る。 • 女性従業員の能力を最大限活かすために働きやすい環境を整備する。 • 女性に限らず、多様なライフイベントによって100%働くことが困難である事態が

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従業員に生じうることを踏まえ、良質な人材の確保という観点から従業員の要望に 応じて導入した。 (1)制度内容(類型・内容・利用要件) ◆制度の類型 勤務時間のフレキシビリティを図る制度の類型は、「短時間勤務」「時差勤務(就業時間の繰 り上げ・繰り下げ)」「フレックスタイム制」「裁量労働制」などであった。 二つの制度(例えば「短時間勤務」と「フレックスタイム制」)を組み合わせて利用できる ようにしている、もしくは今後そのように変更する予定の企業がある(日産自動車、新生銀行)。 制度の対象層については、育児休業・介護休業と同様に正規従業員以外の有期雇用者につい ても対象とする企業がある(髙島屋)。 短時間勤務制度などとは別に雇用関係の変更により勤務時間の弾力化に対応する例として、 正規従業員から一時的にパート従業員に雇用形態を変更して 7 時間未満の勤務とするが、3 年 以内であれば正規従業員に復帰も可能とする仕組みを採る企業がある(ふくや)。 また、制度化してはいないが、勤務時間中に子どもの行事に参加することを認め経営職階自 ら率先している事例(ふくや)や、従業員個々の相談に応じて短時間勤務などを認めている事 例(拓新産業)もある。 ●勤務時間中の子どもの行事参加を認める(ふくや) 子どもの授業参観、運動会、入学式、卒業式などには勤務時間中に参加するこ とを認めており、経営職階自ら率先して実践している。 これらの行事はある程度前から分かっていることであるため、事前に周りの同 僚に意思表明し、業務調整をしていれば実践することにはほとんど問題はない。 ◆「短時間勤務」制度の制度内容や利用者について 「短時間勤務」については、勤務時間の短縮幅を 2∼3 時間程度、30 分単位に設定する場合 が多いが、時間短縮のパターンを処遇と連動させて複数設定し、従業員が選択できる形を採る 企業がある(髙島屋、富士ゼロックス)。中には、パターンを設定せずに個人の判断に任せ、1 日あたりの勤務時間が短縮できるだけでなく、1 週間の勤務日数を短くする「短日勤務」の制 度をもつ企業(イノス)や、1 日あたり勤務時間を減らす替わりに勤務日数を増やして(休日 を減らして)総労働時間は不変とすることを選択できるようにしている企業(髙島屋)もある。 また、妊娠中に出勤時刻を 30 分または 1 時間遅くして勤務したり、時間短縮したりできる制 度もみられる(髙島屋、太陽商工)。 利用できる期間は、育児の場合は子が3 歳まで、小学校就学まで、小学校 3 年生または 4 年

事例

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生に上がるまで、中学校入学までなど多様な設定がみられる。介護の場合は、1 回 1 年以内、 通算3 年までなどの設定がみられる(資生堂)。 ◆育児・介護事由が主だが、事由を限定しない企業も 短時間勤務制度の利用事由については、育児を事由とする場合が最も多く、併せて介護も同 等の扱いをする企業が多くあった。このように育児・介護に限定したケースが多数であるが、 事由を限らずに多様な事由で活用できる制度としている企業(福島印刷)や、業務上必要とな る資格取得などの事由でも例外的に認めるなどケースバイケースで判断するという企業(日本 IBM、太陽商工)もある。 ●事由を限らない勤務時間選択職制度を導入(福島印刷) 育児休業期間を法定超の2 年間ないし 3 年間に延ばすよりも、育児に限らずに 親族の介護や病気、子どもの教育など、より多様な事由で活用できる制度をつく った方がよいと考えて「勤務時間選択職制度」を創設。 下記 3 パターンの何れかの勤務時間を、原則 1 年を限度に選択可(1 年後には 通常勤務=正規従業員に戻る)。 (A) 6 時間以上 7 時間 30 分以下 (B) 4 時間超 6 時間未満 (C) 4 時間以下 利用要件は一応、育児(子どもの年齢は問わない)、介護、病気、受験、家事都 合などとなっているが、固定的なものではなく、所属長と人事部長が承認すれば 取得は認められる。原則として 1 年が期限の勤務時間選択職制度の利用延長を希 望した例はないが、要望があればケースバイケースで対応する。 図表Ⅱ−7 勤務時間のフレキシビリティを図るための制度:短時間勤務制度の例 事由・期間 企業名 制度詳細 育児 介護ほか 給与の調整 エ ス ア イ ア イ ・ マ イ ク ロテクノ 子が満 3 歳後の 3 月末まで最大 2 時間の 勤務時間短縮可。時短パターンは、定時 8:00∼17:00(冬季は昼休みを 45 分間に短 縮して8:15∼17:00)に対して、9:00∼16:00 というパターンが最も多い。 満3 歳後の 3 月末まで 給 与 は 時 間 比で圧縮 賞 与 へ の 影 響なし 河 村 電 器 産 業 育児事由の場合、子が小学校就学前まで 6 時間勤務(9:00∼16:00。定時は 18:00) が可能。介護事由の場合、休業とあわせ て1 事例 6 ヶ月まで。 小 学 校 就 学 前 介護(1 事例 6 ヶ月まで) 給 与 は 時 間 比で圧縮

事例

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事由・期間 企業名 制度詳細 育児 介護ほか 給与の調整 イノス 育児事由の場合は子が小学校 2 年生の 3 月末まで、介護事由の場合は要介護の状 態にある家族がいる場合に、短時間(1 日の勤務時間を短くする)もしくは短日 (1 週間の勤務を少なくする)勤務が可 能。短時間と短日を組み合わせることも 可能。勤務時間・日数の設定は自由。 小学校 2 年 生修了まで 介護 給 与 は 時 間 比で圧縮 ニ チ レ イ グ ループ 育児事由の場合は、子どもが小学校 3 年 生修了まで、1 日あたり 2 時間 30 分勤務 時間の短縮が可能。 小学校 3 年 生修了まで 給 与 は 時 間 比で圧縮 資生堂 育児時間制度:本人または配偶者が出産 した日から子どもが小学校に入学する直 前の3 月 31 日までの本人が希望する期間 で、1 日 2 時間まで 30 分単位で勤務時間 短縮が可能。 介護時間制度:対象者は従業員の配偶者、 子ども、父母、従業員の配偶者の父母、 同居しかつ扶養する祖父母、兄弟姉妹、 孫。1 日 2 時間以内、30 分単位で勤務時 間短縮が可能。対象者 1 人につき回数制 限なし(1 回 1 年以内)、通算 3 年まで。 小 学 校 就 学 前 介護(1 人に つ き 回 数 制 限 な し (1 回 1 年 以 内)、通算 3 年まで) 給 与 は 時 間 比で圧縮 髙島屋 正規従業員は子が小学校 3 年生修了ま で、有期雇用者は就学前まで。①勤務時 間が所定労働時間の 7 割②同 8 割③同 9 割④1 日の勤務時間を減らす替わりに勤 務日数を増やし(休日を減らし)総勤務 時間は所定労働時間と同一⑤勤務時間不 変でシフトを早番(9:50∼18:20)に固定 ――の 5 パターンから択一。他に、妊娠 中に出勤時刻を30 分または 1 時間遅くし て勤務できる「妊婦勤務」制度あり。 小学校 3 年 生 修 了 ま で、妊娠中 給与・賞与は 時 間 比 で 圧 縮 日産自動車 育児・介護のための就業時間短縮:育児 の場合、子が小学校入学まで最長3 時間、 30 分単位で勤務時間短縮(所定労働時間 8 時間)。 小 学 校 就 学 前(2006〔平 成 18〕年 4 月 よ り 小 学 3 年 生 修 了 ま で 引 き 上 げ) 介護 給 与 は 時 間 比で圧縮 関 西 ス ー パ ー マ ー ケ ッ ト 育児事由の場合、子が小学校就学前まで 5・6・7 時間勤務の中から選択可能。就業 時間については育児短時間勤務希望者と の話し合いにより決定する。 介護事由の場合、1 事例につき、介護休 業・介護短時間勤務をあわせて通算 1 年 まで取得可能。介護短時間勤務は、5・6・ 7 時間の中から勤務時間を選択すること が可能。 小 学 校 就 学 前 介 護 休 業 期 間 と 合 わ せ て通算 1 年 まで 給与・賞与は 時 間 比 で 圧 縮

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事由・期間 企業名 制度詳細 育児 介護ほか 給与の調整 日本IBM 所定労働時間の 60%、80%を勤務時間と する。対象は時間管理型の全従業員で、 事由は育児・介護。育児を事由とする場 合は子どもが中学校入学までであるが、 資格取得などの事由でも例外的に認める 場合がある。 中 学 校 入 学 まで 介 護 、 例 外 的 に そ の 他 事 由 も 認 め る 給 与 は 基 本 ベ ネ フ ィ ッ ト を 考 慮 し て減額(詳細 は 32 頁の事 例参照) 新生銀行 子が小学校4 年生修了まで、1 日 30 分以 上 2 時間以内の短時間勤務が可能(定時 は8:50∼17:10)。勤務時間短縮分の給与は なし。時差勤務との組み合わせも可。 小学校 4 年 生修了まで 給 与 は 時 間 比で圧縮 太陽商工 1 歳未満の子をもつ女性従業員は 9:00∼ 16:00 までの短時間勤務が可能(通常の勤 務時間は8:30 から 8 時間)。妊娠中の女性 従業員から申し出があった場合も、勤務 時間の短縮が可能。 1 歳未満、妊 娠中 給 与 は 時 間 比で圧縮 富 士 ゼ ロ ッ クス 育児事由の場合、30 分単位・最長 2 時間 までで、①子が 4 歳まで+小学校入学後 半年、または②子が 3 歳半+小学校入学 後1 年の何れかを選択。 介護事由の場合、最長2 年、30 分単位・ 最長2 時間まで。 1 日ごとの精算ではなく月度精算型も選 べる。 子が 4 歳ま で + 小 学 校 入 学 後 半 年 、 ま た は 子が 3 歳半 + 小 学 校 入 学後1 年 最長2 年 給与・賞与は 時 間 比 で 圧 縮 大 福 信 用 金 庫 育児事由の場合、2 時間を超えない範囲 で30 分単位で勤務時間短縮が可能。 給 与 は 時 間 比で圧縮 ふくや 子どもが 3 歳に達するまで 1 日 7 時間の 短時間勤務が可能。時間外労働や休日労 働の免除もあり。 より短時間の勤務を希望する場合には、 パート従業員への転向も可。 3 歳未満 給 与 は 時 間 比で圧縮 福島印刷 育児休業短時間勤務:子が満 3 歳に達す るまでの間、所定労働時間(7 時間 50 分) を1 日 1 時間 50 分まで(6 時間労働まで) 短縮可能。 勤務時間選択職制度:育児、介護、病気、 受験、家事都合などの事由で、3 パター ンの何れかの勤務時間を原則 1 年を限度 に選択可(1 年後には通常勤務=正規従 業員に戻る)。詳細は26 頁の事例を参照。 3 歳未満 ( 育 児 休 業 短 時 間 勤 務) 事 由 を 問 わ ない 給与・賞与は 時 間 に 完 全 比 例 で は な いが減額 ◆対象者の状況・要望に応じたきめ細かな制度の設定 特に短時間勤務制度については、対象者の状況や要望に応じて企業として対応可能な範囲で 制度内容をきめ細かに設定している企業があった。具体的には、時間短縮幅のパターンを当初 の2 パターンから 5 パターンに増やした企業(髙島屋)や、分割取得のパターンの拡大や利用 要件の緩和、月度精算型の導入など従業員ニーズに応じて細かな制度の見直しを行った企業 (富士ゼロックス)などがある。また、勤務時間によっては、正規従業員ではなくパート従業

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員になってもらい、再度正規従業員に戻ることを選択できる仕組みを設けている企業(ふくや) もある。 制度利用者に意見を聞く中で、より制度を利用しやすくするために期間延長などについて現 在検討している企業(関西スーパーマーケット、新生銀行)もある。 ●育児時間勤務制度について徐々に拡大してパターンを増やす(髙島屋) 正規従業員は子が小学校3 年生修了まで、有期雇用者は就学前まで。①勤務時 間が所定労働時間の 7 割②同 8 割③同 9 割④1 日の勤務時間を減らす替わりに勤 務日数を増やし(休日を減らし)総勤務時間は所定労働時間と同一⑤勤務時間不 変でシフトを早番(9:50∼18:20)に固定――の 5 パターンから択一。給与・賞与 は勤務時間に比例して減少。1991(平成 3)年の制度導入時は①と④しかなかっ たところから、労使協議の下に徐々に拡充。 ●従業員ニーズに応じて制度をきめ細かに設定(富士ゼロックス) 2003(平成 15)年 10 月に育児関連諸制度を改定。従業員のニーズを踏まえ、企 業として対応できる範囲を検討の上、制度改定を行った。 ①「育児休職制度」、「勤務時間短縮制度(育児・介護)」、「育児のための深夜業及 び時間外勤務制限制度」を夫婦同時使用可能に(配偶者が常態として子の養育 をできる場合の制度使用も可能となる)。 ②勤務時間短縮制度(育児)の適用期間延長(6 ヶ月間延長)、分割取得パターン の拡大 A. 子が 3 歳 6 ヶ月+小学校入学後半年→子が 3 歳 6 ヶ月+小学校入学後 1 年 B. 子が 4 歳→子が 4 歳+小学校入学後半年 ③勤務時間短縮制度(育児・介護)の月度精算型フレックスタイム制追加導入 「毎日の短縮は必要ないが、月度で見た場合は一定時間の短縮が必要」 「家族の協力が得られるときには、できる限り仕事で能力を発揮したい」 というケースに対応 ●育児パート従業員から正規従業員への復帰(ふくや) 正規従業員のままの短時間勤務は 7 時間の就労が必要となるが、それ未満の就 労時間にしたい場合には、雇用形態をパート従業員に変えることも可能。パート になった従業員は、3 年の間に正規従業員として復帰するか、パート従業員のま ま就業し続けるかを選択することが可能。 ◆短時間勤務以外の制度~「フレックスタイム制」「裁量労働制」など 「フレックスタイム制」「裁量労働制」については、技術職、研究開発職など業務の裁量の 幅が多い部署に限定している場合(ミツカングループ、日本 IBM〔裁量労働制のみ〕)がある 一方、「フレックスタイム制」について管理職を除く全従業員を対象としている場合(資生堂) もある。「フレックスタイム制」のコアタイムとしては、10:00∼14:45(資生堂)などの設定が みられる。また、時間管理はするがコアタイムがなく、月次繰越もできるフルフレックス制を

事例

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導入することで保育所のお迎えなどに対応しやすくしている企業(WOWOW)もある。 裁量労働制については、現在既に導入しているのは一部の企業・職種にとどまったが、これ は現行の労働基準法の下では裁量労働制の適用対象が限られているためであると考えられる。 労働時間管理に適さないホワイトカラーについては、一定の要件の下に労働時間規制の適用を 除外する「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」2 の新設を待望する意見も一部企業から 聞かれた。 また、妊娠中の定期検診について休暇・遅刻・早退などを使わなくても通院できる「妊婦通 院制度」「妊婦特別有給休暇」などを導入している企業(エスアイアイ・マイクロテクノ、髙 島屋、カミテ、富士ゼロックス)や、保育所のお迎えにあわせた早退を認める制度を導入して いる企業(日本IBM)があった。 図表Ⅱ−8 勤務時間のフレキシビリティを図るための制度:短時間勤務以外の制度の例 制度種類 具体的内容 企業名 時差出勤(就業時間の 繰り上げ・繰り下げ) 子が満3 歳まで、1 時間の時差勤務が可能(定時 は8:50∼17:10)。短時間勤務との組み合わせ可。 新生銀行 職種により適用(技術職、企画部、情報システム) ミツカングループ 仕事の状況に合わせて毎日の就業時間を各自で 決められる制度。本社・研究所などの管理職を除 く 全 従 業 員 が 対 象 。 コ ア タ イ ム は 本 社 の 場 合 10:00∼14:45。 資生堂 フレキシブルタイムの任意の時刻(基準勤務の始 業時刻より30 分単位)に始業・終業することが 可。 日産自動車 コアタイムを一定に定め、勤務時間をフレックス で設定できる。 日本IBM、富士ゼロ ックス フレックスタイム制 フルフレックスタイム制:コアタイムなし。1 日 の最低労働時間は30 分。月間所定労働時間は、7 時間15 分×営業日数と規定されているが、20 時 間までは翌月に持ち越すことができる。 子どもが就学前の従業員が利用できる「チャイル ドケア制度」を2006(平成 18)年 4 月より導入 予定(詳細は31 頁の事例参照)。 WOWOW 裁量労働制 システムエンジニア、研究開発職が対象。 日本IBM 妊娠中及び出産後1 年以内の女性には、申請があ れば勤務時間内の通院や休憩を認める。給与は減 額(休憩は減額しない場合もあり)。 髙島屋 妊婦通院支援など 妊婦通院制度:妊娠中の定期検診については休 暇・遅刻・早退を使わなくても通院できる制度。 時間が半日以下であれば手当は30 分の 1 減のみ。 エスアイアイ・マイ クロテクノ 2 日本経済団体連合会「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」(http://www.keidanren.or.jp/ japanese/policy/2005/042.html)参照。裁量性が高い業務を行い、労働時間の長さと成果が一般的に比 例しない頭脳労働に従事するホワイトカラーに対し、労働基準法における労働時間等規制の適用除 外制度の適用を求める内容。

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制度種類 具体的内容 企業名 妊娠検診時間:みなし勤務(有給)として7 回ま で認める。 富士ゼロックス 妊婦通院支援など(前 頁の続き) 妊婦特別有給休暇:妊婦の通院時間について 40 時間(5 日分、1 時間単位で取得可)の有給休暇 を認める。 カミテ その他 育児早退:1 日 21 分。定時 17:36 のところが 17:15 になる。保育所の終了時間に合わせた早退を可能 とする。 日本IBM ●2006(平成 18)年 4 月より「チャイルドケア制度」を導入予定(WOWOW) 復職する従業員は、子どもが就学前の期間、通常業務もしくは以下の2 コース から、自分に合った業務形態を選択できる「チャイルドケア制度」を2006 年 4 月 より導入予定。 Aコース:残業なし(月間所定労働時間の勤務)。フルフレックス。 Bコース:週4 日勤務、または週 5 日勤務で所定労働時間が通常の 5 分の 4。 フルフレックス。給与はAコースの80%。 (2)利用状況 ◆男女の利用状況 勤務時間のフレキシビリティを高めるための制度の利用について、利用者を女性に限定して いるわけではないが、実態としては育児を事由とする場合の利用者はほとんどの企業で「全て 女性」と報告された。一方、男性の取得例がある企業もある(髙島屋、富士ゼロックス)。 育児休業利用者のほぼ全てが復職後に短時間勤務を利用するという企業(関西スーパーマー ケット)がある一方、必ずしも全員が取得するわけではなく約半数(日産自動車)や約7 割(富 士ゼロックス)が利用しているといった情報も得られた。 介護を事由とする場合は、男性の方が取得件数が多くなっている場合もあった(富士ゼロッ クス)。 ◆部署・職務・雇用形態別の利用状況 部署・職務などによって取得の多寡に違いはないとする企業(エスアイアイ・マイクロテク ノ)もあるが、管理職である場合や、残業が多かったり勤務時間が通常でなかったり安定しな かったりする部署に属している場合は、取得が難しいとの指摘が一部の企業からあった。制度 利用を希望する従業員で従来の部署では制度利用が困難な場合、本人の希望を踏まえて異動を させることによって対応している企業もあった(河村電器産業)。 雇用形態別には、有期雇用者を制度利用の対象に含めている場合であっても、これらの雇用 形態をとる従業員については雇用契約を変更して勤務時間を調整すれば足りるため、実際の利

事例

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用はないとされている(ミツカングループ)。 ◆取得のしやすさ、周囲の反応など 休業ではないため後述するように代替要員を置くことにはならないので、休業よりもむしろ 取得に制約がある傾向が見受けられた。先に述べたように、部署や職務内容によっては取得が 難しい状況がある。しかし一方で、取得の先行事例が出ることによって、取得しやすい雰囲気 となっている企業も複数あった。 周囲の反応については、特に中小企業の場合には従業員同士がお互いに家族の顔も見える関 係にあるために、現場の人間関係の中でうまく対応できているという意見があった(太陽商工)。 短時間勤務を希望することで異動が必要となった場合で、異動元の部署へ替わりに異動してく ることになる従業員への説明には細心の注意を払っているという報告もあった(ふくや)。 企業としては、子育てと仕事を両立しようとしている従業員が与えられた時間内でいい仕事 をしたいと考えて業務の効率化に寄与しているという肯定的な見方もみられた。また、他の従 業員も定時退社しやすい環境がつくり出されているという意見もあった。 (3)人事評価・処遇への影響 ◆給与は時間短縮分を圧縮するケースがほとんど 短時間勤務制度を利用する従業員の給与は、短縮した時間分の給与を圧縮するケースがほと んどであった。圧縮比は時間短縮の時間比とする場合が多かったが、福利厚生サービスなどの ベネフィットは変えられないことを勘案して給与圧縮比をより多くするケースもあった(日本 IBM)。 一方、成果主義を採っており半年ごとに基本給を見直すが、その改定幅が通常15%上下の範 囲であるところを、育児休業からの復職後に時間外勤務の免除や短時間勤務を利用する従業員 については、安定した賃金形態とするために改定幅を2∼3%程度上下の範囲に抑える方向で検 討している企業もある(WOWOW)。 ●福利厚生サービスなどのベネフィットを勘案して勤務時間より給与の圧縮比を 大きくする(日本 IBM) 勤務時間に応じて本人に求められる成果も通常の60%、80%に設定される。給 与は、勤務時間が60%だと 50%、80%だと 70%となる。勤務時間より給与の縮減 率が大きいのは、福利厚生サービスなどのベネフィットを勤務時間に応じて縮減 させることができないためで、勤務時間に関わらず一律に提供されるベネフィッ トを給与に加えると、勤務時間の長さと会社から提供されるものの大きさは正比 例している。

事例

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◆昇級・昇格への影響 短時間勤務などの制度利用による昇級・昇格への影響については、「影響はない」とする企 業が比較的多かった。職務要件に規定された能力を満たしていれば上位職階への登用を行うた め勤務時間は関係ないとする企業(日本 IBM)、処遇の圧縮は時間比で給与で調節するが、人 事評定は時間比に応じて目標設定も圧縮することにより、その目標への達否を基準として行う ため、昇級・昇格には影響しないとする企業(富士ゼロックス)などがあった。 ●勤務時間の短縮を織り込んで目標設定し、評価は公平に(富士ゼロックス) 人事評価では勤務時間を織り込んで目標設定を行う。短時間勤務者の評価では、 勤務時間に比例して設定した成果目標が評価基準とされ、その目標をどれだけ達 成したかにより評価する。 ◆利用者の納得と周囲の理解のため処遇調整が重要 勤務時間のフレキシビリティを図る制度を実施している企業からは、制度の利用者自身が納 得してモラルを維持して働き続け、また周囲からも「制度利用者だけが楽をしている」といっ た見方ではなく理解を得るために、制度利用時の処遇の調整を重視する意見が聞かれた。具体 的には、評価にあたっては、フルタイム勤務者、短時間勤務者双方にとって納得させる要素が 必要となるため、従来の年功序列的な人事制度ではなく、成果主義を重視する人事制度が必要 になるといった意見があった(イノス)。 (4)代替要員・業務量調整 ◆原則として代替補充はしないが、ケースバイケースで対応 勤務時間のフレキシビリティを図る制度の利用者が出る場合、休業とは異なり原則として代 替補充はしない場合が多数であった。その場合、基本的には利用者が発生する部署のメンバー で業務量を補っていくことになる。 しかし、工場の工員など時間管理型の職務で短縮時間分の代替要員の確保が必要となる場合 は、派遣社員やパート・アルバイト従業員などによる対応をとることがあるとのことであった (ふくや)。 ◆利用者への対応・業務量の調整などにおいては、管理職のマネジメントが重要 短時間勤務制度などの利用者への対応ならびに部署内での配慮・対応は、管理職のマネジメ ントに任されるため、管理職のマネジメント力強化が重要であるとの指摘がしばしばあった。 管理職を対象とする研修におけるワーク・ライフ・バランスの視点を入れたマネジメント研修 の実施(資生堂)、短時間勤務制度などの利用者の管理や人事考課に関する内容の管理職研修

事例

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への盛り込み(髙島屋、富士ゼロックス)などの取組がみられる。

Ⅱ.3.3 勤務場所のフレキシビリティ

<この項のポイント>

勤務場所のフレキシビリティを図る制度として、導入企業は少ないものの「在宅勤務」、「勤 務地の限定(転勤の制限)」、「サテライトオフィス」などがみられた。 勤務場所のフレキシビリティを図る制度は、顧客や取引先と対面で対応する必要性が低い情 報サービス産業などで制度の導入が図られている傾向がみられた。 在宅勤務の場合、仕事と生活の切り分け、他の従業員とのコミュニケーション不足が課題と して指摘されたが、ガイドライン作成や出社時のコミュニケーションの充実などにより対応 が図られていた。 勤務場所のフレキシビリティを図るための在宅勤務などの制度を導入する企業は限られて おり、文献調査及びインタビュー調査からは、顧客や取引先と対面で対応する必要性が低い情 報サービス産業などで制度の導入・運用が図られている傾向が見受けられた。 そういった企業が同制度を導入した理由として、次のようなことが挙げられていた。 • 配偶者の異動に伴う転居など、短時間勤務制度でも対処し切れないようなケースが 生じ、従業員の仕事を継続したいという要望に応じたことがきっかけとなって制度 を創設した。 • 時差のある海外とのやりとりや顧客の要請に対応した仕事ができるように導入し た。 (1)制度概要と運用の実態 勤務場所のフレキシビリティを図るための制度の類型は、「在宅勤務」「勤務地の限定(転勤 の制限)」「サテライトオフィス」などであった。このほか、顧客が集中している場所に情報機 器を設置し、それらを活用して仕事ができるような仕組みを整えている企業もある(日本 IBM:「オンデマンド・ワークスタイル」)。 制度の利用要件に関し、「在宅勤務」については育児・介護に事由を限定している場合が多 いが、当初は育児・介護に事由を限定していたものを事由や職種・職階を問わず全従業員(一 部を除く)に対象を拡大した企業もある(日本 IBM)。また、部分的に在宅とする場合と完全 在宅とする場合の二つの制度を選択できる形にしている企業もある(ニチレイグループ:トラ イアル実施中)。 在宅勤務の運用は、インターネットを経由して会社のイントラネットにアクセスして仕事を する。イントラネットにアクセスして上司と連絡をとったり、就業時間を会社に報告したりし ている。

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なお「勤務地の限定(転勤の制限)」について明確に制度化している企業は少なかったが、 制度化はしていないが育児などの事情に個別に配慮しているとする企業(関西スーパーマーケ ット)、一部の職種を除いて地域採用に近い形を採っているため転居を伴う異動が実態として ほとんどないとする企業(河村電器産業)もあった。 図表Ⅱ−9 勤務場所のフレキシビリティを図るための制度の例 制度種類 利用条件 運用状況 企業名 育児・介護などの事由の場合、在宅勤 務が可能。勤務地と大きく離れる場合 でも可能。性別は問わないが、1 人で 責任をもって一連の業務がこなせる 職階以上の者が対象。事由は、育児、 介護など会社が必要と認めた場合。給 与は通常の2 割減。 会社支給のパソコンを用い、 会社のイントラネットにアク セスし、仕事を行う。打ち合 わ せ な ど 必 要 が あ る 場 合 に は、会社に出社したり、顧客 を訪問したりするが、それ以 外は完全在宅。時間の管理は 原則利用者に委ねる。 イノス プロジェクトでのトライアル実施。育 児・介護を事由とした場合に限定。妊 娠・育児・介護などの特定事由がある 者。育児の場合、小学校4 年生までの 子がいる従業員が対象。部分在宅勤務 と完全在宅勤務がある。 部分在宅:1 週間あたり、1∼2 日ある いは半日のみ在宅にて勤務。 完全在宅:原則在宅にて勤務、但し週 1 日は出社。 完全在宅の場合は、自宅に会 社から貸与の形で IT 環境を 整備し、イントラネット上の メールもしくは、日報で始業 などを会社に告げるようにし ている。部分在宅の場合は、 メールのみを自宅のパソコン に転送して作業を行う。 ニ チ レ イ グ ループ e-ワーク制度(在宅勤務制度):全従 業員対象(一部除く)。直属の上司に 申請し、承認を得られた場合に在宅勤 務が可能。毎日ではなく、1 日のうち で夕方だけ在宅での勤務にしたり、週 のうち 1∼2 日だけ在宅勤務したりす ることができる。 インターネット経由で会社の イ ン ト ラ ネ ッ ト に ア ク セ ス し、上司などと常にチャット で連絡を取れるようにしてい る。 日本IBM 在 宅 勤 務 制度 結婚・出産を機に退職した場合、本人 の希望により、同社と請負契約を結ん で図面作成などの仕事を在宅で行っ てもらっている(厳密には、外部者と の請負契約)。 1 年間嘱託で、それから独立 して請負契約を結ぶ形。必要 に応じて機材を貸し出し、事 務所の使用も認めている。報 酬は出来高制で支払い。 太陽商工 勤 務 地 の 限定(転勤 の制限) 工場法人では個別に地域採用を実施 し、コースによっては地域以外には原 則転勤なし(地域の相場に根ざした賃 金コストという観点から始まったも のであり、ワーク・ライフ・バランス という観点から導入されたわけでは ない)。 ― ミ ツ カ ン グ ループ

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