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建設労務安全 2012.9月号

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Academic year: 2021

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(1)

法律実務シリーズ

vol.353

、最

問われる労働災害の刑事責任(その

52

一連の偽装問題を見ても分かるよう に、企業が果たす社会的責任に対する社 会の眼は厳しい。企業の生命線はここに あるといっても過言ではないだろう。と りわけ建設業の場合は、労働災害の防止 が強く求められており、災害が起きた際 に重大な法違反が認められると、事業者 には刑事責任が問われることもある。 そこで当コーナーでは、労働災害が起 きた場合に事業者に問われる刑事責任に ついて安西愈弁護士に解説していただ く。      (編集部)

(2)

図』についても、「事業者は、機械の運 転を開始する場合において、労働者に危 険を及ぼすおそれのあるときは、一定の 合図を定め、合図をする者を指名して、 関係労働者に対し合図を行わせなければ ならない」と〈労働者に危険を及ぼすお それ〉のあることを措置義務の対象とし ている。 すなわち、刑事事件の場合について は、罪刑法定主義の適用があるから、法 令の条文に定められている機械、器具、 設備、場所、足場、通路といったように 対象が限られており、その対象物につい て操作、作業や取扱いを行う〈労働者に 危険を及ぼすおそれ〉が物理的に認めら れる場合が違反の構成要件となる。「対 象物」が限定され、〈労働者に危険を及 ぼすおそれ〉ということで、「状態」が 限定されているのである(図1参照)。 したがって、およそ一般的に、職場にお ける労働者に危険を及ぼすものについて 防止措置をせよと広く定めているわけで はないのである。 ということは、例えば同じ物の飛来に

問われる労働災害の刑事責任

10 安衛法違反の罪の成立要件

と「危険を及ぼすおそれ」を

めぐって

(6)安衛法違反の構成要件としての

「危険を及ぼすおそれ」

安衛法に基づく労働安全衛生規則が、 安衛法違反について刑事的にみた場合の 犯罪構成要件の主要なものである。 例えば、同規則の第2編【安全基準】 の第1章の[機械による危険の防止]の 一般基準の第一は第101条に定める『原 動機、回転軸等による危険の防止』であ り、具体的な違反の構成要件としては、 「事業者は、機械の原動機、回転軸、歯 車、プーリー、ベルト等の労働者に危険 を及ぼすおそれのある部分には、覆い、 囲い、スリーブ、踏切橋等を設けなけれ ばならない」として、原動機等に関し、 〈労働者に危険を及ぼすおそれのある部 分〉に覆い等を設ける措置を講ずること である。 同様に、同第104条の『運転開始の合 図1 安衛法違反の成立の構成要件 【状態】 労働者に危険を 及ぼすおそれ = 【対象物】 + 措置義務 機械、器具、設備、 場所、足場、通路等 (規定上限定されたもの) (物理的状態) (犯罪構成要件)

(3)

よる危険の防止についても、およそすべ ての物件等の飛来による危険ではなく、 (A)[加工物等の飛来による危険の防 止]として、「事業者は、加工物等が切 断し、又は欠損して飛来することにより 労働者に危険を及ぼすおそれのあるとき は、当該加工物等を飛散させる機械に覆 い又は囲いを設けなければならない。た だし、覆い又は囲いを設けることが作業 の性質上困難な場合において、労働者に 保護具を使用させたときは、この限りで はない」(同法第105条)と定め、また、 (B)[切削屑の飛来等による危険の防 止]として、「事業者は、切削屑が飛来 すること等により労働者に危険を及ぼす おそれのあるときは、当該切削屑を生ず る機械に覆い又は囲いを設けなければな らない。ただし、覆い又は囲いを設ける ことが作業の性質上困難な場合におい て、労働者に保護具を使用させたとき は、この限りでない」(同法第106条)と いうように、(A)加工物等の切断、欠 損による飛来の場合、(B)切削屑の飛 来等の場合と「具体的な対象物+状態」 とに分けて想定されているのである。 ところが、それ以外の飛来物の飛来等 による労働者に危険を及ぼすおそれのあ るものについては、防止措置を講ぜよと は定められていないのである。したがっ て、物体の飛来等によって労働者に危険 を及ぼすおそれがある場合でも、法令上 規定された対象物に限られる。「およそ 職場における飛来等の危険がある場合に は、措置を講ぜよ」という立場ではない。 広く飛来による労働者の危険についての 注意義務違反という過失を処罰するので はなく、あらかじめ定められている事前 予防の措置に違反した場合の処罰である から、どのような物・状態等について対 応せよと事前に明白に法令上に規定する ことが、「故意犯」の性質上必要なので ある(図2参照)。 このことは、同じ物体の飛来・落下で あっても、保護帽を着用させるべき災害 防止措置義務についても同じであり、図 3に列挙しているとおり、保護帽を着用 させるべき「作業」が限定して定められ ている。 飛来による労働 者に危険を及ぼ すおそれ (A) 加工物等の切断、又は欠損による 飛来の防止措置 (第105条) (B) 切削屑の飛来の防止措置 (第106条) (C)粉砕物の飛来の防止措置 (規定なし) 違反となる構成要件 違反となる構成要件に該当せず

(4)

問われる労働災害の刑事責任

すなわち、およそ現場や職場におい て、「物体の飛来又は落下による労働者 の危険を防止するため保護帽を着用させ よ」とは、規定されているのではなく、 保護帽を着用させるべき対象作業が限定 して定められているのである。このこと から、安衛法における罪刑法定主義の考 え方が分かるであろう。

(7)「通常の業務過程で抵触の危険が

ない」と無罪にした一審を抽象的危

険がある限り措置義務があるとして

有罪とした控訴審、最高裁判決をめ

ぐって

安衛法違反の犯罪構成要件要素とし て、〈労働者に危険を及ぼすおそれ〉が 含まれ、それが刑事責任の構成要件とし て、事業者の措置義務要件となること、 この場合の〈危険のおそれ〉は抽象的、 物理的な危険を意味するということは、 前回述べたところである。 この点について参考になるのが、次の 判例である。 1)通常の業務過程では抵触の危険がな く通常でない行為によって危険を生じ たとしても違反に該当せず、無罪とし た第一審判決 前述した「原動機、回転軸等による危 険の防止」の現行安衛則第101条は、「事 業者は、機械の原動機、回転軸、歯車、 プーリー、ベルト等の労働者に危険を及 ぼすおそれのある部分には、覆い、囲い、 スリーブ、踏切橋等を設けなければなら 図3 保護帽着用措置の具体的要件 明かり掘削作業(第366条) 【保護帽着用対象作業】 港湾荷役作業(第464条) 造林等作業(第484条) 木馬又は雪そりによる運材(第497条) 林業架線作業(第516条) コンクリート橋梁架設等作業(第517条の24) 橋梁架設等作業(第517条の10) コンクリート造の工作物の解体等作業(第517条の19) 船台の附近、高層建築場等の場所(第539条) (この作業以外の未着用は罰せられない) + 【履行目的】 【措置】 物体の飛来又は落下による労働者の 危険を防止するため 労働者に保護帽を着用させること

(5)

て、「床面から1.8メートル以内にある動 力伝導装置の車軸で接触の危険があるも のには、囲い、覆い又はスリーブを設け なければならない」とされていた。 この規定に違反したとして、床面から 1.8メートル以内にあり、「これに近寄る 労働者に接触してこれを巻き込む危険が あつたのに右車軸等に囲い、覆いまたは スリーブを設け、もつて右機械との接触 による危害を防止するに必要な措置を講 じなかつたものである」として、起訴さ れた事件について、第一審は次のように 判示して、無罪を言い渡した。 すなわち、「本件公訴事実は、『被告人 は京都府福知山市○○に本店を有し、総 直轄事業場の安全管理者に指名され、会 社のため労働者の安全管理に関する業務 を担当していたものであるが、昭和41年 2月ころから同43年2月28日までの間、 同市字○○番地所在の同会社直轄事業場 であるアスファルトプラントにおいて稼 働させていた砕石用ホッパー外側の動力 伝導用車軸を始め当該車軸末端のユニバ ーサルジョイント及びその取付部におい て2センチメートル位突出した締めつけ ボルト等は夫々床上1.8メートル以内に あつてこれに近寄る労働者に接触してこ れを巻き込む危険があつたのに、前記期 間右車軸等に囲い、覆いまたはスリーブ を設け、もつて右機械との接触による危

好 評

発売中

(6)

害を防止するに必要な措置を講じなかつ たものである』というにある。そこで、 右車軸、ユニバーサルジョイントおよび 締めつけボルト等(以下、単に車軸等と いう)が、検察官主張のように、労働者 が作業中接触する危険のあるものであつ たかどうかについて判断する」として、 以下のように事実を認定して、本件車軸 等については、労働者が「作業中接触す る危険のあるものであったか否か」につ いて、次のように判示した。 「(1)作業員は、調節用ハンドルを、 前記溝の前方から、その溝を隔てて操作 するのであつて、その操作位置が、ベル トコンベアーとは30センチメートル以 上、本件車軸とは75センチメートル以上 離れているため、作業員が右ハンドル操 作中、誤ってベルトコンベアーまたは車 軸等に接触するおそれは存しないこと、 (2)また、砕石の出具合は、右ハンド ル操作位置から確認できるので、砕石の 出具合を確かめるために本件車軸等に接 近する必要もないこと、(3)注油の場 合および大きな石が調整版の部分につま つた場合に、本件車軸等に接近して注油 作業および石の取り除き作業を行うこと があるが、右各作業は必ずモーターを止 めてから行うものであり、その際、作業 員が本件車軸等に巻き込まれるおそれは 存在しないこと、以上の事実によると、 本件車軸等は、通常の業務の過程におい ては、特段の注意をしなくとも、接触等 による事故の発生する危険性はないもの というべきであり、かような場合に、異 常な作業方法または極端な過失を伴う行 為による接触の危険を予想して、危害防 止の措置を講ずる義務はないものといわ なければならない」とした。 そして、「最後に、Aの事故死の事実 自体から、本件車軸等に接触の危険があ つたものと推認できるかについて考える に、本件各証拠を精査しても、右Aの事 故時における具体的な作業状況を認め得 る証拠は全くなく、同人がどのような原 因で右事故に至つたかを知ることができ ない(Kの検察官に対する供述調書中、 右Aの事故の原因に関する部分は、単に 推測にもとづくものにすぎず、措信でき ない)。かえつて、前記に掲記の各証拠 によると、同人は通常の作業衣の上に背 広を着用するという通常でない服装で右 事故に至つたのであることを認めること ができるから、むしろ右事故は、同人の 何らか通常でない行為によつて生じたも のではないかとの疑いももたれるのであ る。そうすると、右Aの事故死の事実自 体から本件車軸等の危険性を推認するこ とはできない。 そうすると、被告人は、本件車軸等に、 検察官主張のような危害防止措置をなす べき義務を負わないものというべきであ り、結局本件公訴事実についてはその証 明がないことに期するから、刑事訴訟法 336条により、被告人に対し無罪の言渡 をなすべく、主文のとおり判決する」(昭 和45年9月28日福知山簡裁判決、西田工 業事件)とされた。

問われる労働災害の刑事責任

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