京都女子大学現代社会学研究 7
電 子 ジ ャ ー ナ リズ ム の 可 能 性 に 関 す る考 察
単純 化 か ら複 雑 化 へ の技 法 転 換 に つ い て
柴 山 哲 也
要 旨 IT革 命 の進 行 に よ って 、 大 衆 社 会 に お け る メ デ ィア は大 きな変 革 期 を迎 えて い る。 これ に よ り、既 製 の 新 聞 や テ レ ビが 担 って きた ジ ャー ナ リズ ム の機 能 と役 割 は どの よ うに 変 化 す る か。 こ の稿 で は 、 新 し く登 場 しつ つ あ る電 子 新 聞 に着 目 し、 そ の ジ ャー ナ リズ ム と して の 可 能 性 を追 求 した。 特 に 、 事 象(フ ァク ト)を伝 え る既 製 の 新 聞、 テ レビ の方 法 が もつ物 理 的 な 限 界 と電 子 新 聞 の 新 し い方 法 論 を 比 較 分 析 した 。 電 子 新 聞 は 、 記 事 作 成 の 技 法 を 従 来 の 単 純 化 か ら複 雑 化 へ と 180度 転 換 させ る こ とに よ り、 電 子 ジ ャー ナ リズ ム の新 しい 方 法 論 と可 能 性 を 広 げ る こ とを 論 述 した。 キ ー ワ ー ド 電 子 新 聞、 ジ ャー ナ リズ ム 、 公 共 圏 、 ネ テ ィズ ン、 複 雑 系 複 雑 化 へ の ビ ジ ョ ン 21世 紀 の ジ ャー ナ リズ ム は ど うな る か 。 ジ ャ ー ナ リズ ム の 中核 を担 う新 聞 や テ レ ビ の メ デ ィア ・ シ ス テ ム は 現 在 の よ う な 形 態 を保 ち 続 け て い る だ ろ う か 。21世 紀IT革 命 の 進 行 の な か で 、 最 も大 き な 影 響 を 受 け る メデ ィア は 、 既 成 の 新 聞 や 地 上 波 テ レ ビ で あ る とい わ れ る。 こ の論 考 で は 、 現 代 社 会 の 情 報 化 革 命 の な か で 、 ます ま す 複 雑 化 す る フ ァ ク トの 全 貌 を解 読 し、 伝 え る 現 代 の ジ ャー ナ リズ ム の 役 割 を 再 考 し、 新 しい ジ ャー ナ リズ ム の 形 態 で あ る電 子 ジ ャー ナ リズ ム の 可 能 性 を考 察 す る。 と こ ろ で 、 ジ ャ ー ナ リズ ム に つ い て 一一言 す れ ば 、 ジ ャー ナ リズ ム が 誕 生 し た て の 西 欧 で は 、 オ ノ レ ・ド ・バ ル ザ ッ クが い う よ う に 、 ジ ャー ナ リス ト とは 、 新 聞記 者 だ け で は な く、 学 者 、 作 家 、 芸 術 家 、政 治 評 論 家 な ど近 代 的 な 「知 」の 担 い 手 で あ る す べ て の 著 述 家 、知 識 人 を 指 して い た 。ア ダ ム ・ ス ミス 、 グ ロ テ ィ ウ ス 、 モ ン テ ス キ ュー 、 ル ソー な ど も、 ジ ャー ナ リス トの 範 疇 に あ った1)。 し か し、 こ こ で は ウ ォル ター ・リ ッ プ マ ン の 古 典 的 な 著 作 に依 拠 しつ つ、 ジ ャー ナ リズ ム とは お お よ そ 次 の よ う に説 明 し う る。rジ ャ ー ナ リズ ム とは 、 近 代 社 会 に お け る 人 間 共 同 体(公 共)の 場 で 生 起 す る諸 事 実(隠 さ れ た事 実 も含 む)に 光 を 当 て 、 こ れ らの諸 事 実 を相 互 に 関 連 づ け る こ とで 、 社 会 的 、 1)バ ル ザ ッ クrジ ャ ー ナ リ ズ ム 博 物 誌 』鹿 島 茂 訳 、 新 評 論 、pp.24-25人 間 的 な 真 実 へ と接 近 し、共 同体 の 成 員 に 共 通 の 価 値 観 と行 動 の 指 針 を 示 す こ とで 世 論 を形 成 す る。 そ れ に よ っ て 共 同 体 の 成 員 は 心 理 的 、 内 的 な結 合 を 深 め 、 民 主 主 義 的 な 価 値 を深 化 さ せ る 」2)。 市 民 革 命 期 を へ て 近 代 市 民 社 会 が 成 立 して か ら現 代 に い た る ま で 、 上 述 の ジ ャー ナ リズ ム 機 能 の 中核 を担 っ て き た 「新 聞 」の 主 流 は 、 近 い将 来 、 紙 の 形 態 か ら電 子 新 聞(オ ン ラ イ ン ・ジ ャ ー ナ ル)の 形 態 へ移 行 す る と予 想 さ れ て い る。 ま た現 代 社 会 で は 新 聞 以 上 に世 論 に 直 接 的 な 影 響 力 が あ る とさ れ る地 上 波 テ レ ビ は 、IT革 命 の 進 行 す る21世 紀 始 め に は 全 面 的 に デ ジ タ ル 化 す る と予 想 さ れ て い る 。 い わ ゆ るrlT革 命 」下 の 電 子 情 報 化 とグ ロ ー バ ル 経 済 の 拡 大 に よ っ て 、 付 加 価 値 の 高 い 情 報 の 経 済 価 値 が 増 大 す る こ とは 容 易 に 理 解 で き る が 、 事 象(フ ァ ク ト)や見 解(オ ピ ニ オ ン)を 市 民 社 会 に 公 表 し、 世 論 を 喚 起 さ せ る 「公 共 的 情 報 」を担 うジ ャ ー ナ リズ ム の 可 能 性 と肯 定 的 な 役 割 に関 して は 、 予 測 で き な い 部 分 が な お 多 く存 在 して い る3)。 情 報 化 が 加 速 し、 イン タ ー ネ ッ トや 電 子 化 した 情 報 産 業 の 巨大 化 と娯 楽 志 向 の 拡 大 に よ って 、 公 共 的 情 報 を提 供 す る ジ ャ ー ナ リズ ム機 能 は 著 し く弱 体 化 す る の で は な い か とい う危 惧 が 、 近 年 の ジ ャー ナ リズ ム 論 の な か で は む し ろ強 い4)。 し か し な が ら、 た とえ ば 「BBC放 送 の 歴 史 」を 研 究 す る ア ー サ ・ブ リ ッ グ ス は 、 イン タ ー ネ ッ ト を 駆 使 す る こ とで 、 ジ ャ ー ナ リズ ム の 機 能 は 増 進 す る と次 の よ う に 述 べ る。 「イ ン ター ネ ッ トを 有 効 に使 う こ とに よ っ て 、 ジ ャー ナ リス トは 現 在 の 編 集 技 術 を乗 り越 え 、 読 者 に これ ま で 以 上 に統 合 的 で 、 脈 絡 あ る事 件 の 内 容 を 届 け る こ とが 可 能 に な っ た 」5)。す な わ ち 、 複 雑 な 背 景 を 背 負 っ た 社 会 現 象 を 単 純 化 して 説 明 す る試 み は も と も と無 理 な こ とで 、 か え って フ ァ ク トの 全 貌 を わ か りに く くす る 。 ブ リ ッグ ズ は 、 既 成 メ デ ィア の 伝 統 技 法 で あ る 「逆 三 角 形 」の 記 事 執 筆 の 技 法 とス タ イ ル の 価 値 観 を逆 転 さ せ る こ と に、 新 し い意 義 を見 出 して い る 。 ブ リ ッ グ ズ は 、 「ジ ャー ナ リズ ム の 役 割 は も の ご との 説 明 の 単 純 化 で は な く複 雑 化 で あ る。 つ ま り読 者 ・視 聴 者 に事 件 の 複 雑 さ を 理 解 さ せ る こ とが ジ ャー ナ リス トの 使 命 で あ る」と述 べ て い る6)。 つ ま り、 フ ァ ク トの 単 純 化 とい う技 法 の た め に、 ジ ャー ナ リズ ム は現 代 社 会 に お け る複 雑 な事 件 の 背 景 を 読 者 ・視 聴 者 に、 十 分 に 伝 え る こ とが で きな か っ た 。 読 者 は フ ァ ク トの 認 識 や 真 実 に対 す る 枯 渇 感 を抱 い て い た とい う べ き で あ ろ う。 読 者 、 視 聴 者 を こ の枯 渇 感 か ら解 放 し、 フ ァ ク トの 正 確 な 認 識 と真 実 へ の 接 近 を 可 能 に す るの が 、 ジ ャ ー ナ リズ ム の 電 子 化 で あ り、 イン タ ー ネ ッ トの 利 点 だ とい うの で あ る。 な ぜ な ら、 ネ ッ トは だ れ に対 し て も 自 由 に 開 放 され て お り、 記 事 の 掲 載 量 の 制 限 は な い。 読 者 は リン ク サ イ トを ク リ ッ ク して 、 自分 が 欲 す る さ らに 詳 しい 情 報 サ イ トへ 入 る こ とが 出 来 る。 しか し興 味 の な い読 者 は 、 そ れ 以 上 ア ク セ ス す る必 用 は な い。 記 事 の 提 供 者 で あ る ジ 2)W・ リ ッ プ マ ンr世 論 』下 、 掛 川 ト ミ 子 訳 、 岩 波 文 庫 、1987、pp.214-222 3)花 田 達 朗 「情 報 化 時 代 に お け る 公 共 空 間 の 可 能 性 」rメ デ ィ ア と 公 共 圏 の ポ リ テ ィ ク ス 』所 収 、 東 大 出 版 会 、1999、 p.87参 照 4)桂 敬 一r日 本 の 情 報 化 と ジ ャ ー ナ リ ズ ム 』日 本 評 論 社 、1995、p.102
5)Andrew C. Gordon"Journalism and Internet", Media&Democracy, Media Studies Journal, The Freedom from Media Studies Center, Columbia University, Vol 9, No 1, p.175,1995
京都女子大学現代社会学研究 9 ヤー ナ リス トは 気 が 済 む ま で 書 き続 け る こ とが で き る し、読 者 は 十 分 に知 る 権 利 と、読 ま な い 権 利 、 さ ら に い つ で もサ イ トか ら離 れ る権 利 を も って い る。 つ ま りス ペ ー ス と時 間 の制 約 か ら解 放 され た ジ ャー ナ リズ ム の 完 全 な 自 由 空 間 が ネ ッ ト上 に は 存 在 し う る の で あ る。 例 え ば 、 コ ソ ボ紛 争 を 単 純 化 して い う に は 、 実 に わ か り に くい 民 族 ・宗 教 紛 争 が 背 景 に あ る が、 リン ク を増 や す こ とで 関 連 す る歴 史 の 複 雑 な 背 景 を 十 分 に説 明 し、 理 解 を 促 す こ とが で き る。 福 祉 や 環 境 汚 染 の 問 題 や 政 治 へ の 無 関 心 層 に対 し て も、 具 体 的 な事 例 を 多 様 な リン ク サ イ トに よ っ て説 明 し、 自 らア ジ ェン ダ(論 点)を 設 定 して 、 市 民 に対 し て政 治 的 な 参 加 を 促 す こ とが で き る。 こ の よ うに ジ ャー ナ リス トた ち が ネ ッ ト上 の リン ク サ イ トを うま く使 い こな す よ うに な れ ば 、 現 政 府 の 失 敗 を 単 細 胞 的 に強 調 す る た ぐい の ス キ ャ ン ダ ル 報 道 に 陥 る こ とな く、 冷 静 な論 点 と現 実 的 な 処 理 法 を読 者 に 喚 起 す る こ とが で き る は ず で あ る 。 そ れ に よ っ て 、 情 報 的 付 加 価 値 の 高 い ジ ャー ナ リズ ム の 権 威 と影 響 力 は さ ら に増 大 す るの で は な い だ ろ うか 。 これ が ブ リ ッグ ス の 結 論 で あ る7)。 上 述 した よ う に、 電 子 ジ ャー ナ リズ ム の 出 現 は 従 来 の 新 聞 記 事 記 述 の 技 法 や ス タ イル を 百 八 十 度 転 換 す る と考 え られ る。 従 来 の 新 聞 記 事 は紙 とい う限 ら れ た ス ペ ー ス の 制 約 の た め に 、 内 容 を 要 約 し簡 略 化 して 単 線 的 に記 事 を 記 述 す る こ と に 力 点 が 置 か れ て い た 。 い わ ゆ る5WlH(い つ 、 ど こ で 、 誰 が 、 い か な る 方 法 で 、 何 を した か 、 な ぜ そ れ を し た か)と い う取 材 デ ー タ を 完 備 した フ ァ ク ト、 い わ ゆ る 「逆 三 角 形 ス タ イ ル 」の 新 聞 記 事 が そ の 典 型 で あ る。 新 聞 は 、 ど この 国 の 新 聞 で あ ろ う と も、 見 出 し と前 書 き の文 章 だ け読 め ば 、 内 容 の概 略 が わ か る よ うに 書 か れ て い る 。 さ ら に 、 紙 面 の 都 合 で デ ス クが 記 者 の 書 い た 文 章 を ど こ で カ ッ ト して も、 記 事 と して の 完 成 度 は 損 な わ れ な い 書 き方 が 、 逆 三 角 形 型 の 文 章 で あ る 。 重 要 な事 項 か ら記 事 を 書 き進 め 、 スペ ー ス の 都 合 で ど こ で カ ッ トさ れ て も支 障 が な い 文 章 技 法 を 身 に つ け た 記 者 が 、 プ ロ フ ェ ッ シ ョナ ル な の で あ る。 この よ うな 記 事 作 成 の 技 法 は 、 と りわ け言 論 の 自 由 が 保 証 さ れ た 先 進 国 の 自 由 な ジ ャー ナ リズ ム 市 場 の な か で 磨 か れ て きた 。 明 治 維 新 の 西 欧 化 の な か で 、 江 戸 時 代 の か わ ら版 か ら脱 皮 した 日本 の 商 業 新 聞(た とえ ば 朝 日、 毎 日、 読 売 の 各 新 聞)も 、 す で に100年 を 超 え る歴 史 を 持 ち 、 そ の な か で 日本 型 新 聞 ジ ャ ー ナ リズ ム と し て 独 自の 文 章 技 術 とス タ イル を 錬 磨 して きた8)。 し か し な が ら、 こ の 技 法 は フ ァク トと し て の 事 件 を 簡 潔 に 速 報 し て 遠 景 の イ メー ジ を伝 え る こ と に お い て は 正 確 で あ る が 、 近 景 の な か に 記 事 を 置 い た場 合 、 必 ず し も正 確 な フ ァ ク トを反 映 しな い 。 例 え ば 、 た ま た ま 遭 遇 した 事 件 の 当 事 者 が 感 じ る報 道 と現 実 の 落 差 は この こ とを物 語 る。 ひ とつ の 事 件 に は 複 雑 な フ ァ ク トの 集 積 が あ るの で 、 そ れ らの フ ァ ク トを精 密 に再 構 成 す る こ とで し か そ の 事 件 の 本 質 は 理 解 で きな い。 そ の 意 味 で 、 逆 三 角 形 型 の 文 章 技 法 に は 、 真 実 に 到 達 す る うえ で 、 限 界 が あ った 。 ウ ォル タ ー ・リ ップ マ ン は 、 「ニ ュ ー ス の は た ら き は 一 つ の 事 件 の 存 在 を 合 図 す る こ とで あ る。 真 実 の は た ら き は そ こ に 隠 さ れ て い る諸 事 実 に光 を あ て 、 相 互 に 関 連 づ け 、 人 び とが そ れ を拠 り ど こ ろ と して 行 動 で き る よ う な 現 実 の 姿 を 描 き 出 す こ とで あ る。」とい って い る9)。 7)前 掲Andrew C. Gordon論 文 参 照 8)日 本 型 ジ ャ ー ナ リ ズ ム の 特 質 に 関 し て は 、 拙 著r日 本 型 メ デ ィ ア ・シ ス テ ム の 崩 壊 』所 収 、 第4章 「不 偏 不 党 言 論 の 興 亡 」を 参 照 、 柏 書 房 、1997
1922年 に 刊 行 され た 著 作 に お け る上 述 の リ ッ プ マ ン の 指 摘 は 、 「公 共 圏 」に お け る近 代 ジ ャー ナ リ ズ ム の 存 在 理 由 を 理 念 的 に 見 事 に 語 っ て い る。 し か し これ は 、 ジ ャー ナ リズ ム の 実 践 現 場 で は い ま だ 実 現 され 得 な い 「理 想 形 」とい う こ とが で き よ う。 こ こで は 、 リ ッ プ マ ン が 示 した ジ ャー ナ リズ ム の理 想 型 に立 ち 戻 りつ つ 、 イ ン ター ネ ッ ト時 代 に お け る ジ ャー ナ リズ ム の 新 た な 可 能 性 に つ い て 考 察 す る こ とが 肝 要 で あ る。 情 報 化 と通 信 技 術 の 革 新 が 同 時 並 行 的 に 進 展 す る 現 代 社 会 で は 、 生 起 す るニ ュー ス の バ ッ ク グ ラ ウ ン ドは 極 め て複 雑 で 多 様 で あ る。 この よ うな 複 雑 多 様 な 背 景 を も つ ニ ュー ス の 事 象 を 読 み 解 くに は 、 事 件 を 単 純 化 して 伝 え る これ ま で の ニ ュー ス作 りの 手 法 は 通 用 しな くな る だ ろ う。 な ぜ な ら複 雑 な 態 様 こそ が現 代 の 事 件 の 特 徴 で あ り、 これ の 意 味 解 明 の た め に は い わ ゆ る"超 領 域"の ア プ ロ ー チ が 必 要 とな る こ とは 、 論 を ま た な い 。 そ の 点 で 、 スペ ー ス や 時 間 の 制 約 と競 争 しな が ら記 事 を 作 っ て きた 新 聞 や テ レ ビ な ど既 製 の メ デ ィア と違 い 、 電 子 化 した ジ ャー ナ リズ ム は ユ ー ザ ー の 情 報 ニ ー ズ や 知 的 欲 求 の 選 択 肢 を い く らで も 拡 大 す る こ とが で き る。 な ぜ な ら、 電 子 化 した 情 報 空 間 に は 量 的 な 制 約 は な い 。 理 論 的 に い え ば 、 メ ッセ ー ジ を 無 限 に蓄 積 す る こ とが 可 能 で あ る。 読 者 は ク リ ッ ク を繰 り返 す こ とで 、 ニ ュー ス の 全 貌 の ほ か に解 説 、 脈 絡 、 関 連 や 比 較 の 必 要 デ ー タ を 無 制 限 に 入 手 す る こ とが で き る 。こ れ が 電 子 ジ ャー ナ リズ ム の 強 み で あ る。新 聞 の制 約 は ス ペ ー ス の 狭 さ で あ り、 テ レ ビ の 制 約 は 一 日は24時 間 し か な い とい う時 間 の 制 約 で あ った 。 こ う した 物 理 的 な 制 約 の た め に 、 従 来 の ジ ャー ナ リズ ム の 記 事 作 りの 手 法 は 、 必 然 的 に ニ ュ ー ス の特 性 の 単 純 化 に む か わ ざ る を得 な か っ た の で あ る 。 し か し上 述 の ア ン ド リ ュー ・ゴ ー ドン の 指 摘 に よれ ば 、 記 事 の単 純 化 か ら複 雑 化 とい う流 れ が 、 新 し い 電 子 ジ ャ ー ナ リズ ム の 条 件 に な っ た10)。ゴ ー ドン の 指 摘 を ま つ ま で もな く、 現 代 社 会 の カ オ ス に も似 た 複 雑 に 動 く諸 相 を読 み 解 くた め に 、 電 子 ジ ャー ナ リズ ム は既 成 ジ ャ ー ナ リズ ム に は な い 可 能 性 を もつ こ と は 明 らか で あ る。 し か し な が ら、 記 事 の 複 雑 化 は フ ァ ク トに対 す る 予 測 不 可 能 な カ オ ス を意 図 す る もの で は な い 。 こ こ で 、 キ ャニ オ ン ・ロ ー ド沿 い の芸 術 家 村 を 中心 に、 ポ ニ ー テ ー ル の 大 学 院 生 か ら、 物 理 学 者 、 ノ ー ベ ル 経 済 学 賞 の 人 々 が 広 範 に 集 ま っ て1980年 代 に設 立 さ れ た現 代 科 学 革 命 の 震 源 地 とい わ れ る 米 国 の シ ン ク タ ン ク 、 サ ン タ フ ェ研 究 所 が 提 起 した 「複 雑 系 」に お け る 「カ オ ス の 縁 」に か か わ る理 論 を 参 照 し て お き た い。r… す べ て の 複 雑 系 は 、 秩 序 と混 沌 を あ る特 別 な 平 衡 に導 く力 を 有 して い る。 しば しば くカ オ ス の 縁 〉 と呼 ば れ る この 平 衡 点 は、 シ ス テ ム の 構 成 要 素 が秩 序 に 固 定 さ れ て もい な い し、 そ れ で い て 分 解 も混 乱 も し て い な い よ う な状 態 で あ る 。 カ オ ス の 縁 とは 、 生 命 が み ず か ら を 支 え る の に十 分 な 安 定 性 を 有 して い る と こ ろ 、 生 命 とい う名 に値 す る十 分 な 創 造 性 を 有 して い る と こ ろ、 で あ る。 カ オ ス の 縁 は 、 新 しい ア イ デ ィ ア や 革 新 的 な遺 伝 子 型 が 現 状 の 縁 を 永 遠 に 侵 食 し て い く と こ ろ 、 難 攻 不 落 の 古 い 要 塞 が つ い に は 打 ち 砕 か れ る と こ ろ 、 な の で あ る。 カ オ ス の 縁 は 、 何 9)W・ リ ヅ プ マ ン 「世 論 』(下)掛 川 ト ミ 子 訳 、 岩 波 文 庫 、1987、p.214 10)Andrew C. Gordon前 掲 論 文 、 p.176
京都女子大学現代社会学研究 11 世 紀 に もわ た る奴 隷 制 度 や 人 種 隔 離 政 策 が突 然1950年 代 、60年 代 の 市 民 運 動 に 屈 した と こ ろ 、70年 間 の ソ連 共 産 主 義 が 突 然 政 治 的 混 乱 と動 揺 に 屈 した と こ ろ 、 長 い あ い だ 保 た れ て い た 進 化 上 の 安 定 性 が 突 然 大 規 模 な 種 の 形 質 転 換 に 屈 した と こ ろ 、 で あ る。 カ オ ス の 縁 は 、 間 断 な く移 動 して ゆ く r停 滞 とア ナ ー キ ー の 間 に あ る 戦 場 』で あ り、 複 雑 系 が 自発 的 、 適 応 的 で あ り得 る と こ ろ 、 活 気 を帯 び る とこ ろ で あ る。」11)。そ れ は 、 「根 源 的 な 統 一 へ の ビ ジ ョン 」発 見 へ の 欲 求 で あ る。 電 子 新 聞 の 実 験 世 界 の 有 力 な 大 新 聞 は 電 子 新 聞 の 実 験 に 力 を 注 い で い る12)。 オ ン ラ イ ン 料 金 を 課 し て い る 有 力 新 聞 も 多 く、 ニ ュ ー ヨ ー ク タ イ ム ズ や 朝 日新 聞 、 ワ シ ン トン ポ ス ト な ど 日米 の 有 力 新 聞 社 で は オ ン ラ イ ン 新 聞 の 一 部 を 有 料 化 し て い る 。 ニ ュ ー ヨ ー ク タ イ ム ズ は 海 外 に 限 っ て 新 聞 と 同 じ 月 額35ド ル を 徴 収 し て い る 。 朝 日 新 聞 な ど も フ リ ー の オ ン ラ イ ン ・サ ー ビ ス の ほ か に 、 記 事 検 索 や デ ー タ ベ ー ス 部 門 で 料 金 を 課 し て い る 。 し か し ま だ 試 行 の 域 を 出 ず 、 せ い ぜ い 本 紙 の 広 告 の 役 割 し か 果 た し 得 な い と い う の が 現 状 だ ろ う 。 既 成 の 新 聞 社 が オ ン ラ イ ン 新 聞 を 無 料 で 読 者 に 提 供 し て も 経 営 上 の 痛 痒 は な い は ず で あ る 。 し か し 、 現 在 、 日 米 の 大 新 聞 の オ ン ラ イ ン の ヒ ッ ト数 が 一一日200万 回 以 上 に も 達 し て い る こ と を 考 え れ ば 、 ビ ジ ネ ス 的 に も 電 子 新 聞 の 将 来 の 可 能 性 は 大 き い と見 な け れ ば な る ま い 。 日本 の 大 新 聞 よ り発 行 部 数 の 少 な い 米 国 の 新 聞 は 、 発 行 部 数 な み の ヒ ッ ト数 を 確 保 し て い る 。 既 製 の 新 聞 社 に と っ て 、 新 規 の オ ン ラ イ ン 新 聞 経 営 確 立 は 無 視 で き な い 課 題 だ が 、 い ま の と こ ろ ブ ラ ン ド と し て 名 の あ る 大 新 聞 が 日 米 と も オ ン ラ イ ン で も 優 位 に た っ て い る 。 し か し 、 そ の 優 位 は い つ ま で 続 くの で あ ろ う か 。 世 界 の オ ン ラ イ ン 新 聞 の 数 は 、 イ リ ノ イ 大 学 のEric K. Meyerの 調 査 に よ る と、1998年9月 現 在 で 、 約5000に の ぼ っ て い る 。 こ の 数 字 は 、1994年 の20に く ら べ 、250倍 に な っ て い る 。 約5000の オ ン ラ イ ン 新 聞 の57%が ア メ リ カ に 拠 点 を も つ が 、 残 り の43%は 、 カ ナ ダ 、 イ ギ リ ス 、 ノ ル ウ ェ ー 、 ブ ラ ジ ル 、 ド イ ツ が 占 め 、 ア ジ ア の 中 で は イ ン ドが 圧 倒 的 に 多 い(AJR NewsLink, Week of Jan. 9 through 15,2001)o 一 日 の ヒ ッ ト数 を 見 る と 、 朝 日新 聞 が 世 界 一 で 一 日250万 回 前 後 、 ロ サ ン ゼ ル ス ・タ イ ム ズ の 百 万 回 や ニ ュ ー ヨ ー ク タ イ ム ズ の5、60万 回 、 ル ・モ ン ド4万 回 、 タ イ ム ズ が 一 月350万 回 、 イ ン ド の ザ ・ヒ ン ズ ー25万 回 、 中 国 の 人 民 日 報6-8万 回 な ど を 記 録 し て い る13)。 ま た シ リ コ ン バ レ ー の 経 済 情 報 に 力 を 入 れ て い る サ ン ノ ゼ ・マ ー キ ュ リ ー ・ニ ュ ー ズ の 場 合 、 一 日 の 紙 面 更 新 は 数 十 回 を 数 え 、 ヒ ッ ト数5、60万 回 で 紙 の 新 聞 と 同 等 の 精 力 を オ ン ラ イ ン に 傾 け て い る14)。 サ ン ・ノ ゼ ・マ ー キ ュ リ ー は 全 米 で 第 二 位 の ナ イ ト ・ リ ッ ダ ー ・グ ル ー プ に 属 す る が 、95 年 に イ ン タ ー ネ ッ トを 利 用 し た 電 子 新 聞 開 発 に 、 会 社 の 方 針 を 切 り替 え た と い わ れ る 。 こ れ に つ い 11)M・ ミ ッ チ ェ ル ・ワ ー ド ロ ッ プr複 雑 系 』田 中 三 彦 、 遠 山 峻 征 訳 、 新 潮 文 庫 、2000年 、pp.14-15 12)「世 界 の ニ ュ ー ス サ イ ト」「朝 日新 聞 」朝 刊=大 阪 本 社 版 、1997年1月6日 付 13)前 掲 、 「朝 日新 聞 」参 照 14)前 掲 、 「朝 日新 聞 」参 照
て 同社 幹 部 は 、 「… 昨年 来 の イン タ ー ネ ッ トの 普 及 は 、 既 存 の 技 術 的 条 件 の な か で 進 展 、 これ に よ る 電 子 的 な情 報 提 供 サ ー ビ ス の 可 能 性 が現 実 に 急 速 に拡 大 した 。 そ の た め 、 イ ン タ ー ネ ッ トを利 用 す る方 向 を 追 求 しな か っ た ら、 そ こか らは み 出 さ れ て し ま う恐 れ が 生 じ て お り、 わ れ わ れ と して も 方 針 転 換 せ ざ る を 得 な か っ た 」と語 って い る15)。ま た世 界 的 な メ デ ィア 王 とい わ れ るル パ ー ク ・マ ー ド ック が 買 収 した 英 国 の 名 門 新 聞 「ザ ・タ イ ム ズ 」は 、 将 来 は オ ン ラ イ ン 分 野 で 金 を 稼 ぐ こ とを う た い 、 「新 聞 を 超 え る イ ン タ ー ネ ッ ト編 集 の 確 立 」を 目標 に 掲 げ て い る。 こ う した 通 信 技 術 の 進 化 と記 事 や 内 容 を 作 る方 法 論 の 変 容 は 、 肝 心 な 中味 と して の コ ン テ ン ツ に どの よ う な変 化 を もた らす の で あ ろ う か。 よ り本 質 的 な 問 題 は 技 術 の 進 化 で は な く、 イ ン ター ネ ッ トに お け る 電 子 新 聞 の 内容 で あ り、 コン テ ン ツ に あ る か らで あ る。 上 述 した よ うに 、 先 進 諸 国 の 既 製 の マ ス メ デ ィア は 、 新 聞 、 テ レ ビ を 問 わ ず 競 っ て イ ン ター ネ ッ トを 利 用 した 電 子 化 の 方 向 に動 い て い る。 しか し これ らの イ ン タ ー ネ ッ トサ イ トで 使 わ れ る記 事 や コ ン テ ン ツ の 多 くは 必 ず し も オ ン ラ イン 用 に作 られ た もの で は な い 。 新 聞 で い え ば 、 ニ ュー ス の 素 材 は 印刷 メ デ ィア と して の 新 聞 に 掲 載 さ れ た ニ ュー スや 記 事 を そ の ま ま 援 用 し た も の が 多 い 。 従 っ て 本 紙 の 紙 面 を読 ん で い る 人 に とっ て 、 紙 の 新 聞 の 焼 きな お し に す ぎ な い オ ン ラ イ ン 新 聞 は 必 要 で は な い の で あ る。 た と え電 子 化 して も、 ハ ン デ ィ で 持 ち運 び が で き、 す ぐ読 め る紙 の 新 聞 が な くな る こ とは な い だ ろ う。 し か し新 聞 読 者 は 減 少 傾 向 に あ り、 若 い 世 代 に浸 透 して い る新 聞 離 れ を見 れ ば 、 既 成 の 新 聞 の 将 来 は あ ま り明 る くは な い 。 少 な く と も 日本 の 日刊 新 聞 の 総 発 行 部 数 と販 売 部 数 の伸 び 率 お よび 販 売 収 入 、 広 告 収 入 は 、90年 以 降 、 長 期 的 に頭 打 ち な い し は 減 少 傾 向 に あ り、 高 度 成 長 時 代 の よ う な膨 張 を 続 け る こ とは む つ か しい16)。 日本 で は 昭 和45年 く らい か ら新 聞 の 総 発 行 部 数 が 増 大 した 結 果 、 人 口 に 占め る新 分 母 総 和 が 大 き くな り、 一一部 あ た りの 読 者 数 は2人 以 下 に な っ た 。 新 聞 普 及 率 を 示 す この 数 字 の 比 率 は45年 以 降 、 ほ ぼ横 ば い で 推 移 して お り、 新 聞 販 売 の マ ー ケ ッ トが す で に 飽 和 状 態 に あ る こ とを示 して い る17)。す な わ ち 、 あ る新 聞 の 部 数 拡 大 の た め に は 他 紙 の シ ェア を食 い つ ぶ す し か な い の で あ る。 こ う し た 現 状 の な か で 、 電 子 新 聞 が 新 た な ビ ジ ネ ス チ ャ ン ス の 可 能 性 を 広 げ て い る。 既 成 の プ リン トメ デ ィ ア と して の新 聞 は 、 紙 、 印 刷 、 発 送 、 販 売 、 読 者 を 結 ぶ 複 雑 な ル ー トで 結 ば れ て い る。 ま た 紙 面 の 編 集 に 必 要 な 経 費 に 加 え て 、 印 刷 発 行 か ら販 売 に い た るサ ー キ ュ レー シ ョ ン の 維 持 に は 莫 大 な 金 が か か る 。特 に 数 百 万 か ら1千 万 とい う 巨大 部 数 を 発 行 す る 日本 の 大 新 聞 は 、 零 細 な ジ ャー ナ リズ ム 産 業 で は な く、 社 員 を数 千 人 も か か え る 巨大 な メ デ ィア 情 報 産 業 で あ る。 と こ ろ が 、イ ン タ ー ネ ッ トを 使 って 同 様 の 電 子 新 聞 を 出 した とす る と、紙 は い らな い し、 印刷 も不 要 、 発 送 か ら販 売 ま で も電 子 化 で き る か ら従 来 の よ う な 経 費 は 不 要 に な る。 さ ら に紙 を 使 わ な くな っ て 15)桂 敬 一 「マ ル チ メ デ ィ ア と新 聞 の 変 容 」、 天 野 勝 文 ほ か 編 『岐 路 に 立 つ 日本 の ジ ャ ー ナ リズ ム 』所 収 、 日本 評 論 社 、 1996, p.172 16)表1の グ ラ フ 参 照 、 「新 聞 事 業 の 経 営 動 向1999年 」よ り、r新 聞 年 鑑 』2000-2001年 版 、 日本 新 聞 協 会 発 行 、 p.439 17)前 掲 「新 聞 年 鑑 』、p.431
京都女子大学現代社会学研究13 表190年 代 日本 に お け る新 聞 事 業 の 経 営 動 向 一 一 一売 ヒ高 一… … 一・販 売 収 入 … 一 一 層広 告 収 入 一一一一一そ の 他 営 業 収 人 一一一一 営 業 費 用 経 常 利 益 実 質 国 内総 生産GDP 「日 本 新 聞 年 鑑'00-'01」(日 本 新 聞 協 会 発 行 、2000年10月) パ ル プ は い らな くな る し、 古 紙 もで な い 。 パ ル プ の た め の森 林 伐 採 は な くな り、 環 境 に は 優 し くな る。 オ フ ィス ビ ル の 縮 小 で 土 地 使 用 コ ス トも大 幅 に 削減 で き る。 記 者 は 在 宅 勤 務 が 可 能 に な り、 社 員 数 は 大 幅 に減 らす こ とが で き る だ ろ う。 料 金 徴 収 は ネ ッ ト上 の ク レ ジ ッ ト決 済 で す む か ら、 販 売 業 務 や 集 金 に か か る コ ス ト も不 要 に な る。 電 子 新 聞 社 の 必 要 経 費 は、 取 材 と編 集 の た め の 人 件 費 と 通 信 経 費 、これ に 組 織 管 理 の 費 用 だ け に な る。この よ う な 大 幅 な コ ス ト削 減 に よ っ て 、本 来 の ジ ャ ー ナ リズ ム の 仕 事 に豊 富 な 人 材 と資 金 を投 入 す る こ とが で き る。 販 売 競 争 は 紙 面 の 質 だ け の 勝 負 とな り、 紙 面 の 外 で 行 わ れ て き た 景 品 や ク ー ポ ン 付 きな どの 競 争 は不 必 要 に な る。 机 上 の 計 算 だ と、 大
学 の 大 教 室 く らい の ス ペ ー ス と数 十 人 の ス タ ッ フ、 十 数 台 コ ン ピ ュー ター が あ れ ば 、 部 数 十 万 部 に 相 当 す る オ ン ラ イン 新 聞 を 発 行 す る こ とは 可 能 だ とい わ れ て い る。 サ ン ・ノ ゼ ・マ ー キ ュ リー の よ うに 数 十 万 部 ほ どの サ イ ズ の 既 成 新 聞 社 で あ れ ば オ ン ラ イン 新 聞 へ の 移 行 は ま だ し もや りや す い が 、 日本 の 全 国 紙 の よ う に従 業 員 数 千 人 規 模 を か か え る大 企 業 の 場 合 、 印刷 、 輸 送 、 販 売 、 広 告 、 事 業 な どに 関 わ る系 列 の 子 会 社 を か か え て い る。 も し も ビ ジ ネ ス レ ベ ル の 合 理 化 で オ ン ラ イ ン 化 を 一 方 的 に推 し進 め れ ば 、 当 然 な が ら大 規 模 な 人 員 整 理 一 リス トラ に 直 面 せ ざ る を 得 な い。 こ の 場 合 、 新 聞 の 中 味 を ど うす る か とい う問 題 だ け で は な く、 新 聞 社 の 社 員 だ け で は な く関 連 産 業 の 合 理 化 の ゆ くす え ま で が 問 題 とな る 。 そ の さ い の 問 題 の 中 心 は 雇 用 問 題 で あ る。 し た が っ て オ ン ラ イン 新 聞 が 実 験 的 に は 成 功 し た と して も、 実 際 の ビ ジ ネ ス の 分 野 に ど う適 用 で き る か は 未 知 数 で あ る。 オ ン ラ イ ン新 聞 購 読 者 に対 し て ど の よ うに して 料 金 を課 し、 徴 収 す る か 、 バ ナ ー 広 告 の よ うな 広 告 料 金 の 算 定 を ど うす る か な ど に か か わ る具 体 的 な方 法 論 は ま だ 確 立 して い な い 。 し か し そ れ 以 上 に重 要 な 点 は 、 オ ン ラ イン 記 事 の 信 頼 性 を どの よ うに し て 確 保 す る か とい う こ とだ ろ う。公 共 圏 の 形 成 に 関 与 す る 「公 共 情 報 財 」と して の 電 子 ジ ャ ー ナ リズ ム を どの よ う に育 て 、 オ ン ラ イン 上 に確 立 す る か 。 ま た 無 秩 序 で ア ナ ー キ ー な イ ン ター ネ ッ ト情 報 空 間 に お い て 、 公 共 的 役 割 と機 能 を もつ 情 報 を どの よ う に選 別 し読 者 に提 示 す る こ とが で き るの か 。 そ れ が 問 題 で あ る。 も し も電 子 空 間 が 単 な る 自己PRや 商 売 や 趣 味 、 欲 望 や 嗜 好 を 表 現 す るた め の 個 別 の 情 報 消 費 空 間 に す ぎ ず 、 情 報 の 公 共 性 を担 保 す る 方 法 論 が 見 つ か らな い の で あ れ ば 、 電 子 ジ ャー ナ リズ ム の 可 能 性 は 希 薄 な もの とな らざ る を え な い 。 こ う した 電 子 メデ ィア の コ ン テ ン ツ と公 共 性 の あ りか た に か か わ る 問 題 は 、 ア メ リ カ の コ ロ ン ビ ア 大 学 の 自由 メ デ ィア ・フ ォー ラ ム を は じめ 、 地 域 に根 ざ した 市 民 ジ ャー ナ リズ ム や イ ン デ ペ ン デ ン トの ジ ャー ナ リス ト ・市 民 団 体 、NPOが 模 索 を 続 け て い る18)。市 民 の 草 の 根 の ジ ャー ナ リズ ム の 運 動 は 米 政 府 の 外 郭 組 織 で あ るFCC(連 邦 通 信 委 員 会)な ど、 メ デ ィ ア と言 論 機 関 の 寡 占 を 監 視 す る公 的 な機 関 が サ ポ ー トし て い る の が特 徴 で あ る 。 し か し現 状 で は イ ン タ ー ネ ッ トが 巨 大 ビ ジ ネ ス の 道 具 に な る可 能 性 は 否 定 で きな い し、 ア メ リカ の 巨大 情 報 資 本 が 、 イン タ ー ネ ッ トの 世 界 支 配 や 部 分 的 所 有 を 目標 に し て活 動 して い る な どの 問 題 点 が い くつ か 報 告 さ れ て い る19)。 こ う した な か で 、 ア メ リ カ で96年 、 本 格 的 な 電 子 ジ ャー ナ リズ ム を 目指 す こ とを うた っ た2つ の 電 子 新 聞 が 誕 生 し 、 ジ ャ ー ナ リズ ム 界 の 注 目 を 集 め た 。 こ れ は 、 「lntellectualcapital. com」 と rThe Slate」で あ る。 前 者 は保 守 系 、 後 者 は 進 歩 的 リベ ラ ル 系 と一 応 の 立 場 政 治 的 立 場 は あ る が 、 既 成 の ジ ャー ナ リズ ム が で き な い こ と、 や っ て こ な か った こ とを オ ン ラ イ ン 上 で 実 験 す る とい う コ
18)Media, Democracy and the Information Highway, The Freedom Forum Media Studies Center, Columbia University,1993, pp.16-18
19)Edward S. Herman and Robert W. McChesney, The Global Media, CASSEL,1997, Edward S. Herman, TRIUMPH OF THE MARKET, South End Press,1995
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ン セ プ トは 共 通 で あ る。 こ れ らの オ ン ラ イ ン 新 聞 は 、 辛 口 の 批 評 、 オ ピ ニ オ ン 掲 載 の ほ か に 、 論 争 性 の 高 い生 資 料 の 提 供 を 売 り物 の ひ とつ に して い る。rIntellectualcapita1. com」 が ス タ ー トした96 年 初 夏 、 ホ ワ イ トハ ウ ス が 政 敵 の 共 和 党 員 数 百 人 分 の 身 辺 調 査 書 をFBIか ら入 手 し た とい う事 件 が 起 こ り、 米 国 の 新 聞 、 テ レ ビ を 騒 が せ た 。96年 の 大 統 領 選 た け な わ の こ ろ で あ る。rIntellectu-alcapita1. com」 は す か さ ず 情 報 公 開 法 を使 っ て 、 FBIが ホ ワ イ トハ ウ ス に 漏 洩 し た とい う問 題 の フ
ァ イ ル を 入 手 し、 プ ラ イ バ シ ー に か か わ る部 分 を 除 き、 これ らを オ ン ラ イ ン 上 に公 開 した 。 この 生 資 料 公 開 の や りか た は 読 者 に 対 して 迫 力 が あ り、 官 庁 や 地 方 行 政 の 腐 敗 を 示 す 原 資 料 を解 説 や 分 析 な し に そ の ま ま の 姿 で 読 者 市 民 に 届 け る とい う効 果 が あ る 。 感 情 的 な 反 応 も含 め 、 価 値 判 断 は 読 者 に ゆ だ ね るの で あ る。元 資 料 を集 め 、取 材 した デ ー タ を そ の ま ま 加 工 せ ず に 読 者 の も とへ と届 け る 。 こ れ を 、rIntellectualcapital. com」 の編 集 方 針 と して うた っ て い る 。 取 材 費 とプ ロ の ジ ャー ナ リス トの 労 力 を か け た オ ン ラ イ ン 新 聞 は無 料 と い うわ け に は ゆ か な い 。 そ の う え、 記 事 の 意 味 、 内 容 を きち ん と解 読 で き る知 的 能 力 の 高 い読 者 が 必 要 で あ る。 した が っ て イン ター ネ ッ トの 情 報 を 有 料 化 す る に は 、 情 報 の 付 加 価 値 の 質 を 理 解 で き る読 者 が 求 め られ る。 そ れ に よ っ て 、 電 子 ジ ャー ナ リズ ム は 自立 した 公 共 圏 に お け る言 論 空 間 を形 成 す る こ とが で き る。 つ ま り、 ほ か の ア ナ ー キ ー で 無 差 別 的 な 情 報 群 とは 隔 絶 し た 情 報 空 間 を 独 自 に形 成 す る必 要 が生 ま れ る。 この よ うな 電 子 ジ ャー ナ リズ ム の 試 み を 、 マ イ ク ロ ソ フ トな どの 企 業 が 技 術 的 に バ ッ ク ア ップ し て い る場 合 もあ る20)。 「lntellectualcapita1. com」 は 、 元 大 統 領 補 佐 官 で ロ シ ア 問 題 の 専 門 家 の ズ ビ グ ニ エ フ ・ブ レ ジ ン ス キ ー 、 イギ リスBBC放 送 の 元 経 済 部 長 で 元 駐 米 イギ リス 大 使 の ピ ー ター ・ジ ェ イ 、 有 力 オ ピ ニ オ ン 雑 誌 「ニ ュー リパ ブ リ ック 」や 「ア トラン テ ィ ッ ク」の 発 行 人 や 社 長 を つ とめ た ジ ェー ム ズ ・グ ラ ス マ ン 、 ウ ォー ル ス ト リー ト ・ジ ャー ナ ル 論 説 記 者 、 ほ か に 世 論 や メデ ィア に 大 きな 影 響 力 を もつ ワ シ ン トン の 有 力 シ ン ク タ ン クの 政 策 研 究 者 、 教 育 問題 専 門 家 、 女 性 問 題 専 門 家 、 大 学 教 授 らの 知 識 人 集 団 で あ る。共 和 党 系 の 著 名 な 知 識 人 や 経 験 豊 か な ジ ャー ナ リス トを核 に執 筆 陣 を 固 め て お り、 近 い 将 来 に 、 「ニ ュー ヨー ク タ イム ズ 」や 「ワ シ ン トン ポ ス ト」に と っ て 代 わ る新 聞 を め ざ す 」と宣 言 し て い る。 い う ま で もな くオ ン ラ イ ン新 聞 に と って 重 要 な こ とは 、 記 事 の 信 頼 性 の ほ か に、 複 雑 な 現 代 社 会 を 解 読 す るシ ャー プ な 視 点 と き め の 細 か い フ ァク トの発 掘 と積 み 重 ね で あ る。 さ らに は雑 多 な 情 報 群 、 情 報 ゴ ミ の 山 の 中 か ら、 真 実 の 発 見 に と っ て 有 効 な 情 報 を選 別 す る た め の 指 標 と して 、 新 聞 の ブ ラ ン ド的 な 権 威 も必 要 に な る。 ブ ラ ン ド価 値 の な い情 報 を 、 読 者 は 膨 大 な イ ン タ ー ネ ッ ト空 間 に ひ しめ く情 報 の 中 か ら、 わ ざ わ ざ ピ ッ ク ア ップ して は くれ な い。 ま して や そ の 情 報 に 対 価 を支 払 う こ とは な い 。
そ こ で 問 題 は 、「lntellectualcapita1. com」 や 「The Slate」の よ う な オ ン ラ イ ン新 聞 が 、「ニ ュー ヨー ク タ イ ム ズ 」や 「ワ シ ン トン ポ ス ト」の よ うな 新 し い 新 聞 ブ ラ ン ド とな る可 能 性 は あ る か とい う こ と
で あ る 。 か り に そ の よ う な オ ン ラ イ ン 新 聞 が 世 界 に 認 知 さ れ る 新 た な ジ ャ ー ナ リ ズ ム を 作 る こ と が で き る とす る と、 た と え ば 「ニ ュ ー ヨ ー ク タ イ ム ズ 」の よ う な 権 威 あ る 新 聞 社 は 、 や が て は 通 信 社 の よ う な 存 在 に な っ て ジ ャ ー ナ リ ズ ム の 表 舞 台 か ら退 く時 代 が や っ て く る か も し れ な い 。 著 名 な オ ン ラ イ ン 新 聞 の 記 事 に は 、 「ニ ュ ー ヨ ー ク タ ム ズ 発 」と い う ク レ ジ ッ トが つ け ら れ て お り、 読 者 に と っ て 「ニ ュ ー ヨ ー ク タ イ ム ズ 」は す で に 遠 い 過 去 の 新 聞 ブ ラ ン ド に な っ て い る 。こ う し た 夢 物 語 を 、 「Intellectualcapita1. com」 の 第 一 号 は 伝 え て い る 。 コ ン ピ ュ ー タ ー は ペ ン よ り も強 し2 既 製 の 新 聞 で は 対 応 し きれ な い 新 聞 電 子 化 の 未 来 を見 越 して 、 「ニ ュー ヨー ク タ イ ム ズ 」は 、 新 し い オ ン ラ イ ン ・ジ ャー ナ ル の 実 験 に 力 を注 い で い る 。 実 際 の 印 刷 用 の 版 と同 じ よ う に読 め る電 子 新 聞 を 家 庭 の パ ソ コン に 自動 配 信 す る技 術 を 開 発 し て い る(「朝 日新 聞 」2001年2月25日 付 朝 刊3面)。 ま た 紙 の ペ ー パ ー に つ い て は 、 ハ ー バ ー ド大 学 な ど一 流 大 学 が あ り、 東 部 エ ス タブ リ ッシ ュ メ ン ト に 属 す る 人 々 の 住 む 高 級 住 宅 街 が あ る ボ ス トン 近 郊 の 特 定 の 地 域 を 選 ん で 、 質 の 高 い コ ミ ュ ニ テ ィ ・ペ ー パ ー 作 りを模 索 して い る21)。 ニ ュー ヨー ク タ イ ム ズ の オ ン ラ イ ン 新 聞 は既 成 の 新 聞 の 内 容 を そ の ま ま ホ ー ム ペ ー ジ で 紹 介 し て い る の で は な い。 こ こ に登 場 す る の は 、 ニ ュー ヨー ク タ イ ム ズ の傘 下 に あ る「サ イバ ー タ イム ズ 」と い う オ ン ラ イン 専 用 の 電 子 新 聞 な の で あ る。 この 新 聞 に は オ ン ラ イン な らで は の 新 ら し い コン セ プ トや 試 み が 見 られ る。rサ イバ ー ・タ イ ム ズ の 編 集 巻 頭 言 」は 、 「ペ ン は 剣 よ り も強 し、 さ れ ど「コン ピ ュ ー タ ー ・シ ュ ミ レ ー シ ョン 」はペ ン よ り も強 し?」 と う た っ て い る22)。ジ ャー ナ リズ ム の 世 界 で は 不 滅 の 格 言 と考 え られ て い た 「ペ ン 」よ り強 い も の が 現 れ 、 「こ れ が コ ン ピ ュー ター だ 」とい う意 味 で あ る。 しか しな が ら、 これ は ま た ペ ン の 力(無 力 さ へ の 反 省 と 自戒 を こ め て か?)に 対 す るア イ ロ ニ ー と考 え る こ と もで き る 。 コン ピ ュー タ ー ・シ ュ ミ レー シ ョン を駆 使 す る 「シ ュ ミ レ ー シ ョン ・ジ ャー ナ リズ ム 」は 、 現 実 社 会 で は 実 験 で き な い が 、 い ま の ま ま の 現 実 の 状 態 が 続 く と明 らか な 危 険 や 危 機 が や っ て くる とい う よ う な予 測 的 問 題 に適 用 す る とい う。 例 え ば 、 環 境 破 壊 、 エ ネ ル ギ ー 不 足 、 人 口問 題 、 財 政 赤 字 、 エ イ ズ 、 医 療 保 険 、 年 金 、 軍 事 衝 突 … な どの 未 来 図 を コン ピ ュー ター ・シ ュ ミ レー シ ョン に よ っ て 予 測 して 行 くの で あ る。 ジ ャー ナ リス トは 言 葉 に よ る レポ ー トや 主 張 の か わ りに 、 コ ン ピ ュー ター 言 語 に よ る シ ュ ミ レ ー シ ョン に よ っ て 、世 界 の 近 未 来 仮 想 現 実 を 知 覚 す る とい う の で あ る。も し も、 政 治 家 が 発 表 す る タ ッ ク ス ・プ ラ ン が 実 現 して5年 後 、10年 後 に は どの よ うな 現 実 が 待 っ て い る か を い ま予 測 す る こ とが で き る。 日本 で い う な らば 、 大 型 ダ ム建 設 に よ る 自然 破 壊 の 損 失 、 消 費 税 ア ッ プ の 財 政 的 効 果 、 減 税 の 影 響 、 公 共 投 資 の 経 済 的 波 及 効 果 、IT革 命 の た め の イ ン フ ラ 整 備 の 経 済 ・社 会 的 効 用 、 年 金 改 革 案 の 予 測 、 整 備 新 幹 線 事 業 の 長 期 的 得 失 と費 用 効 果 、 累 積 財 政 赤 字 の 顛
21)The New York Times Company ANUAL ROPORT 1995
22)CyberTimes Oct.9,1996,「If the pen is mightier than the sword, is the computer simulation mightier than the pen?」
京都女子大学現代社会学研究 17 末 な どの ケ ー ス を、 一 般 論 や 個 別 的 な 評 論 の レベ ル で は な く、 抽 出 され た サ ン プ ル の 範 囲 の な か の ケ ー ス ス タデ ィ と して 、 シ ュ ミ レー シ ョン す る の で あ る。 誤 差 の 範 囲 を 明 確 に 算 出 し て お け ば 、 政 治 家 や 官 僚 の 甘 言 や 、 見 通 しの 欠 如 と嘘 を コン ピ ュ ー ター は す ぐ に見 破 る だ ろ う。 シ ュ ミ レー シ ョン に対 す る 電 子 新 聞 上 の 論 争 も可 能 で あ る。rサ イバ ー タ イム ズ 」は 、 rThe Slate」 が 発 表 した 「乱 交 は エ イ ズ 感 染 の 危 険 性 を 低 下 さ せ る」とい う 内 容 の セ ン セ ー シ ョナ ル な論 文 に 対 す る反 論 の た め に 、 エ イ ズ が 蔓 延 す る仕 方 に 関 す る シ ュ ミ レー シ ョン を お こな い 、 そ の 結 果 を電 子 新 聞 上 に公 開 した 。 これ は 、 電 子 新 聞VS電 子 新 聞 の エ イ ズ 論 戦 とな っ た23)。 「The Slate」の 論 文 は 、 MIT(マ サ チ ュー セ ッッ 工 科 大 学)の 経 済 学 者 マ イ ケ ル ・ク レ ー マ ー が 行 っ た微 分 方 程 式 に基 づ く厳 密 な 数 理 的 検 証 の 結 果 と して い た 。 ク レ ー マ ー 理 論 に よ る と、 な ぜ 乱 交 が エ イ ズ 流 行 の 危 険 性 を 緩 慢 に す る か とい う理 由 は 次 の よ う な も の で あ る 。 「モ デ ル 集 団 の な か の 男 性 は 全 員 乱 交 の 可 能 性 が あ る と して 、 そ の 中 に ご く少 数 の 乱 交 型 女 性 が 混 じ っ て い る」と仮 定 す る と、 少 数 の 女 性 は す ぐに エ イズ に 感 染 す る。 そ の 女 性 は 次 々 に 別 の 男 性 に感 染 さ せ る。 し か し女 性 の側 に乱 交 型 が 増 え て くる と、 感 染 した 女 性 の 比 率 は 減 少 す るの で ひ と りの 男 性 が 感 染 し た 女 性 と接 す る確 率 が 減 り、 感 染 す るチ ャン ス も少 な くな る 。 要 す る に 、 男 女 と も乱 交 型 に な る と集 団 が エ イ ズ に感 染 す る チ ャ ン ス は低 下 す る 」24)。こ れ に対 し て 、「サ イ バ ー タ イ ム ズ 」が 行 っ た シ ュ ミ レ ー シ ョン は 、 ま っ た く逆 の 結 果 を 示 した 。400カ ッ プ ル の サ ン プ ル を コ ン ピ ュ ー タ ー 上 に と り、 カ ッ プ ル は 毎 夜 ベ ッ ドを 共 に す る と想 定 す る。 この な か に乱 交 型 の配 偶 者 が わ ず か に い て 、 そ の 人 が 外 部 で セ ッ クス を し た 場 合 、 相 手 に 感 染 者 が い る と、 コ ン ピ ュー ター は 感 染 者 の 広 が りを示 す よ うに な る。 乱 交 型 の 男 女 の 数 が 変 化 す る と感 染 者 数 も微 妙 に変 化 は す る が 、 男 性 、 女 性 と もに 乱 交 型 の 比 率 が 少 な い 場 合 は 、 全 体 の 感 染 率 は 緩 慢 で あ る。 しか し、 男 性 に 乱 交 型 が 増 え る と400カ ップ ル の 感 染 率 は 高 騰 し、 さ らに 女 性 の 乱 交 型 が10%増 え る と、 エ イ ズ は 急 速 に 広 ま る結 果 に な る25)。 「The Slate」の 記 事 は 、 誤 解 を 招 きや す い が 、 要 は 乱 交 を 認 め る の で は な く、 特 定 の 乱 交 常 習 者 が エ イズ 感 染 源 で あ る こ とを示 唆 して い る の で あ る。 つ ま り、 正 常 な 集 団 に は 、 乱 交 の常 習 者 は い な い とい う社 会 的 常 識 の も とに 、 ク レ ー マ ー の 仮 説 は 成 立 し て い る わ け で あ る。 し か し「サ イ バ ー タ イ ム ズ 」の シ ュ ミ レー シ ョン で は 、 乱 交 常 習 者 で な く と も、200日 間 に一 度 で も他 の 相 手 と浮 気 し た 場 合 、 何 年 か た つ と400カ ップ ル の うち の95%か ら99%が 感 染 して い る とい う結 果 が 出 て い る。 コン ピ ュー タ ー の 仮 想 現 実 の世 界 に は 、 う ま くセ ッ トす る こ とが で きな い 人 間 の 性 行 動 の パ ター ン が あ り、 この シ ュ ミ レー シ ョン は そ の ま ま社 会 的 な 現 実 に は な りえ な い こ とは 当 然 で あ る が 、 エ イ ズ 感 染 の 危 険 を 認 識 す る う え で 、 常 識 を 疑 って み る効 果 は 十 分 に あ る。 こ う した エ イズ 感 染 の シ ュ ミ レー シ ョン の ほ か 、 「サ イバ ー タ イ ム ズ 」は 、 イ ン タ ー ネ ッ トの 証 券 取 引 方 法 や 電 子 マ ネ ー 、 草 の 根 民 主 主 義 を深 め る た め の 新 し い税 制 、 福 祉 制 度 な どに 関 す る電 子 ジ
23)前 掲CyberTimes,参 照 。 ま た オ ン ラ イ ン 上 で の こ の よ う な 論 戦 は 、95年 、 FBIに 関 す る 記 事 を め ぐ るFBIと ニ ュ ー ヨ ー ク タ イ ム ズ 間 の 論 争 の 例 が あ る 。FBIは ホ ー ム ペ ー ジ に こ の 論 争 を 掲 載 し た 。
24)前 掲Cyber Times 25)前 掲Cyber Times
ヤー ナ リズ ム の あ りか た を 真 剣 に 模 索 して い る26)。 シ ュ ミ レ ー シ ョン ・ジ ャー ナ リズ ム が未 来 の 民 主 主 義 形 成 に と って 、 よ り説 得 力 の あ る 政 策 と市 民 的 合 意 を 創 り上 げ る う え で 影 響 力 を 行 使 し う る 可 能 性 は あ る。 問 題 は そ れ が どの よ うな 質 の ジ ャー ナ リズ ム を志 向 して お り、 か つ 従 来 の ジ ャー ナ リズ ム の 欠 陥 を 補 う こ とが で き る か 、 とい う点 で あ る 。 サ イバ ー ・ス ペ ー ス の 可 能 性 ITす な わ ち 電 子 情 報 化 革 命 の 実 体 は テ レ ビ モ ニ ター の 画 面 上 に は な く、 オ ン ・ラ イ ン 上 に 存 在 す る 。 そ れ は 、 テ レ ビ モ ニ タ ー 画 面 的 な る も の と は 似 て 非 な る も の で あ る 。 「空 間 な き 空 間 」 (Spaceless Space)で あ り、 人 間 と情 報 の 関 係 体 ネ ッ トワ ー クで あ る。 し か も この 新 し い 関 係 体 は 、 従 来 の 国 家 や コ ミ ュニ テ ィ の 中 に イ メー ジ さ れ る 関 係 体 や ネ ッ トワ ー ク とは 異 質 の もの で あ る。 す な わ ち す べ て は サ イバ ー ・ス ペ ー ス(電 脳 空 間 、 人 口頭 脳 空 間))に 存 在 す る とい え る。 イン ター ネ ッ トは 、 米 ソ核 戦 争 の瀬 戸 際 に立 っ た キ ュー バ 危 機 の 教 訓 か ら、70年 代 ア メ リカ で 軍 事 的 な 目的 で 作 られ た も の で あ る こ とは 周 知 の 事 実 で あ る。 サ イ バ ー ・スペ ー ス が もつ 一種 、 黙 示 録 的 な 要 素 は 、 冷 戦 時 代 の 核 戦 争 の 想 定 か らス タ ー トし た 人 類 滅 亡 の シ ナ リオ か らの脱 却 、 情 報 的 サ バ イバ ル の 必 要 か ら発 想 さ れ た イン ター ネ ッ トに端 を 発 す る と見 て よ い だ ろ う。 い わ ば イ ン ター ネ ッ トは現 代 に お け る"ノ ア の 箱 舟"な の で あ る。 米 国 ワ シ ン トン に あ る有 力 シ ン ク タ ン ク、 ラ ン ド コ ー ポ レー シ ョン(RAND Cooperatiom)は 、 前 述 し た よ う に1962年 の キ ュー バ 危 機 の 後 の1964年 に 、 米 国 の4つ の ス ー パ ー コ ン ピ ュー ター を つ な い で 、 す べ て の軍 事 情 報 や 国家 機 密 を含 む 情 報 の 共 有 す る た め の 方 法 を 公 表 した 。 この コン ピ ュ ー ター ラ イ ン の 連 結 は 、 中央 の コン トロ ー ル ・シ ス テ ム を も た ず 、 司 令 塔 もな い。 核 攻 撃 を 受 け て ど こ か の 大 型 コン ピ ュー タ ー が 破 壊 さ れ て も、 ど こ か の コン ピ ュ ー タ ー が サ バ イ バ ル す る の が 目的 で あ る。 ネ ッ トワ ー ク を 結 ぶ ホ ス トコ ン ピ ュ ー ター は す べ て 同 等 で あ る 。核 戦 争 で ひ とつ が攻 撃 破 壊 さ れ て も、 他 が 代 替 で き る よ うに す る た め に、 あ え て そ の よ う に デ ザ イ ン さ れ た の で あ る。 こ れ が 大 学 間 の ネ ッ トワ ー ク に利 用 さ れ る よ う に な り、 研 究 や 教 育 の ッ ー ル と し て 、 あ る い は 電 子 メー ル に利 用 され る よ う に な り、 今 日の よ う に ビ ジ ネ ス の ッ ー ル と し て発 展 的 に使 わ れ る よ う に な っ た 。 そ し て政 府 や 国 際 組 織 、 企 業 や 専 門 家 だ け で は な く、 一 人 一 人 の 市 民 に とっ て も、 さ ま ざ ま な 生 活 上 の 局 面 で 、 社 会 的 、 経 済 的 、 公 的 、 私 的 活 動 の た め の情 報 の 収 集 と連 絡 の た め に、 イン タ ー ネ ッ トを 利 用 し、 サ イ バ ー ス ペ ー ス へ 参 加 す る こ とは 大 き な社 会 的 、 経 済 的 利 益 を もた らす こ とが 理 解 さ れ る よ うに な っ た 。 い う ま で もな くIT革 命 の 本 質 的 な 意 味 は 、 デ ジ タル 化 した 電 子 技 術 の 進 化 に あ る の で は な く、 知 識 情 報 化 社 会 の な か に生 き る 人 間 の 意 識 の 変 化 に 求 め られ る。 送 信 と受 信 が 同 時 進 行 し、 人 々 は 双 方 向 で 情 報 の や り と りを 行 い 、 情 報 を選 別 す る こ とが で き る。 コン ピ ュー タ ー は 、 市 民 が あ ら ゆ 26)前 掲Cybertimes
京都女子大学現代社会学研究 19 る問 題 に対 して 知 的 で 合 理 的 な 判 断 を下 し な が ら、 他 人 に 左 右 さ れ る こ とな く、 自分 が主 人 公 で あ る 日常 生 活 を送 る た め の 必 須 の 道 具 に な る。 か つ て マ クル ー ハ ン が指 摘 した よ う に メ デ ィ ア は 人 間 の 脳 や 視 覚 、 聴 覚 の 拡 張 で あ る が 、IT技 術 は この マ クル ー ハ ン 的 拡 張 を よ りい っ そ う拡 大 す る27)。 上 述 した よ うな サ イバ ー ・ス ペ ー ス に 積 極 的 に 参 加 し て 、 情 報 を送 受 信 し、 ネ ッ ト社 会 の 市 民 社 会 化 と意 見 や ア ジ ェン ダ に か か わ る 公 共 の ス ペ ー ス(電 子 公 共 圏)を 模 索 す る す る人 々 の こ とを 、 「ネ テ ィ ズ ン 」(Netizen、 ネ ッ トワ ー ク 市 民)と い う。 こ れ は 、 従 来 の 市 民(Citizen)に 対 応 す る言 葉 で あ る。 サ イバ ー ・ス ペ ー ス で は 価 値 観 や 文 化 の 衝 突 は も ち ろ ん 、 核 兵 器 や 領 土 問 題 か らフ ァ ッ シ ョン 、 食 べ物 、 ポ ル ノ に い た る 多 様 な 中 身(コ ン テ ン ツ)が 混 在 し、 意 見 が表 明 さ れ 、 い ろ い ろ な 趣 味 の 世 界 が交 錯 す る。 た と え偏 向 した 狭 い 趣 味 で あ れ 、 サ イ バ ー ス ペ ー ス に 同好 者 が 集 合 す る と、 そ れ だ け で ひ とつ の 世 界 が 出来 上 が る。 現 実 の コ ミ ュニ テ ィの な か で は 孤 独 な 人 で もサ イ バ ー ス ペ ー ス に 入 る と、 仲 間 が た くさ ん で きた と感 じ る こ とが で き る。 サ イバ ー スペ ー ス に は 人 間 の 頭 脳 の あ らゆ る複 雑 性 と多 義 性 が そ の ま ま存 在 して い る。 た と え ば 、 自殺 願 望 とい う特 殊 な動 機 を 持 った 男 女 が イン ター ネ ッ ト上 で 結 び つ き、 現 実 に会 っ て 心 中 を した とい う事 件 が 、 テ レ ビ ニ ュー ス で 報 道 さ れ た りす る が 、 この よ う な 事 件 は 、 サ イ バ ー ス ペ ー ス が な け れ ば 起 こ りえ な い。 多 様 な 個 別 情 報 が 集 積 し、 奇 跡 的 な 出会 い を 果 た す 有 様 は 、 ま るで 宇 宙 の 星 座 の 運 動 と流 星 群 の 衝 突 の よ うな イ メー ジ を 、 人 々 に もた らす 。 人 間 の知 識 と感 覚 の 果 て しな い拡 張 は 、 情 報 流 通 の 障 壁 とさ れ た 国 や 言 語 、 文 化 、 国境 を超 え て 、 世 界 を い っ そ う複 雑 化 し つ つ あ る。 マ ウ ス の ク リ ッ ク の動 作 に よ って 瞬 時 に 画 面 に あ らわ れ 、 次 の ク リ ッ ク で 消 え る。 マ ー ク を きち ん とつ け て お か な い と、 二 度 と思 い 出 せ な い 夢 の よ うな もの に な り、 二 度 と同 じサ イ トへ 行 き着 く こ とが で き な い か も しれ な い 。 銀 河 系 宇 宙 と これ を超 え る全 宇 宙 の ア ナ ロ ジ ー に似 た 存 在 を わ れ わ れ は コ ン ピ ュー タ ー の な か に 想 像 し、 発 見 し て い る。 しか し な が ら、 す べ て の もの は、 人 間 の 頭 脳 が 生 み 出 した 情 報 の 断 片 で あ る こ とを 理 解 す る の で あ る。 イ ン ター ネ ッ トは 、 個 別 の 表 現 、 見 解 表 明 に か か わ る絶 対 の 自 由 を 要 求 し、 さ らに は 個 人 が相 互 に 結 び つ く結 社 の 自 由や 平 等 の 権 利 とい っ た も の を 最 大 限 に 追 求 す る 習 性 を も って い る。 同 時 に そ こ に存 在 して い るす べ て の 情 報 に、 自 由 に ア ク セ ス す る権 利 を保 障 す る よ う要 求 して い る。 した が っ て こ れ ら の表 現 を 規 制 し た り、情 報 に ア ク セ ス す る権 利 を奪 お う とす る た く らみ は 、 人 間性 に反 す る行 為 に な る。 そ の 意 味 で は、 サ イ バ ー ス ペ ー ス とは、 あ らゆ る 国 家 や 権 力 の 検 閲 が 困 難 な 超 越 的 な メ タ ・コ ミ ュニ テ ィな の で あ る。 サ イバ ー ス ペ ー ス に お け る 人 間(個 人)は 生 身 の 肉 体 か ら切 り離 さ れ た 情 報 的 存 在 で あ る。 個 人 は 実 生 活 で 肉 体 的 を伴 う生 活 を し な が ら、 サ イバ ー ス ペ ー ス で は抽 象 的 、 情 報 的 存 在 に な る。 情 報 化 社 会 に お け る 人 間 は 、 二 重 の 現 実(肉 体 的 、 物 質 的 現 実 と頭 と想 像 力 の な か の 仮 想 現 実)を 生 き る こ とに な る。 しか し な が らた と え そ れ が 仮 想 現 実 で あ ろ う と、 実 生 活 の 磁 場 か ら遊 離 し た 人 間 た ち が ネ ッ ト上 に 集 ま り、 情 報 を 交 換 し、 共 同 体 を 形 成 し た い とい う欲 求 を もつ よ う に な る。 この 欲 求 は 27)M.マ ク ル ー ハ ンrメ デ ィ ア 論 人 間 拡 張 の 諸 相 』栗 原 裕 ・河 本 仲 聖 訳 。 み す ず 書 房 、1987、 参 照
バ ー チ ャル な もの で は あ る が 、 こ こか らや が て 肉体 的 、 物 質 的 な現 実 環 境 に 作 用 と影 響 を 与 え る観 念 や 思 想 が生 ま れ て くる。仮 想 現 実 は 本 当 の 現 実 に 影 響 を 与 え る 思 想 や 観 念 を生 産 す る の で あ る28)。 真 実 を 含 む 仮 想 現 実 は 、 相 当 の 時 間 を へ て 現 実 へ と移 行 す る。 古 代 ギ リシ ャ の 民 主 主 義 は 都 市 ア テ ネ に形 成 され た 市 民(奴 隷 階 級 を含 ま な い)の フ リー ス ペ ー ス と して の 広 場 か ら発 生 し た 。 や が て そ れ は 現 実 の ポ リ ス型 民 主 主 義 の 制 度 を生 ん だ 。 ま た 近 代 の 市 場 は 中世 社 会 の 封 建 的 な 桎 梏 か ら離 脱 し た 商 人 の 情 報 と物 の 交 換 の 場 で あ っ た 。 市 場 は プ ラ イベ ー トな 人 間 や 権 力 や 国 家 が 管 理 す る場 で は な く、 商 人 が 自由 に集 ま る 公 共 の 場 と して 発 展 し た 。 富 裕 に な っ た 商 人 は や が て ブ ル ジ ョワ 階 級 誕 生 の 基 盤 を作 っ た 。 新 し い コ ミ ュニ テ ィの 発 端 は 仮 想 現 実 に近 い もの だ っ た と考 え られ る が 、 そ れ が歴 史 的 な 時 間 を 経 過 す る こ とで 、 現 実 に 社 会 化 した の で あ る。 そ の 意 味 で 、 今 日の サ イバ ー ス ペ ー ス も、 古 代 ア テ ネ の 広 場 、 近 世 の 市 場 とい っ た もの の ア ナ ロ ジ ー と考 え る こ とが で き る。 サ イ バ ー ス ペ ー ス に お い て も、 これ を 介 して 人 と物 の 交 流 、 交 換 は可 能 な の で あ る。 と こ ろ が 、 経 済 や テ ク ノ ロ ジ ー を コン トロ ー ル して きた 古 い 政 治 、 官 僚 制 度 や 経 済 シ ス テ ム が サ イ バ ー ス ペ ー ス の 出現 で 混 乱 を 起 こ し て い る。 イ ン タ ー ネ ッ トの社 会 化 に か か わ る 多 くの 問 題 が こ こか ら発 生 す る。 特 に 日本 で は 混 乱 の 傾 向 が顕 著 で あ る と、 米 国 ・ハ ワ イ 州 の 国 立 シ ン ク タン ク、 イ ー ス ト ・ウ エ ス ト ・セ ン タ ー の 上 級 研 究 員 メヘ ロ ・ジ ュサ ワ ラ は 指 摘 して い る29)。グ ロ ー バ ル な ネ ッ トワ ー ク経 済 に お け る 規 制 緩 和 の 要 求 や 官 僚 シ ス テ ム に対 す る情 報 公 開 要 求 な どは 、 政 治 の 民 主 化 や 行 政 改 革 の 側 面 か らだ け の 要 請 で は な く、 今 日のIT革 命 と密 接 な 関 係 が あ る。 こ れ ま で わ れ わ れ が 現 実 と考 え て き た も の が 旧 体 制 とな り、 新 し い 現 実 は 仮 想 現 実 の な か に あ っ た サ イバ ー ス ペ ー ス の 側 へ とシ フ トし て い る。 上 記 の ジ ュサ ワ ラ の 指 摘 はIT革 命 に 付 随 し て 起 こ る 社 会 的 諸 課 題 の 所 在 先 を 示 唆 して い る 。IT革 命 へ の 移 行 が あ た か も 自然 の 摂 理 で あ る か の よ う に 明 快 に 用 意 さ れ る わ け で は な い し、 そ う な る根 拠 もな い。 い ず れ に せ よ、サ イバ ー ス ペ ー ス の 真 の 社 会 的 可 能 性 は 、進 化 す るハ イ テ ク技 術 の 領 域 に は な く、 知 的 で 豊 富 な 情 報 を も って い る人 々(ネ テ ィズ ン=ネ ッ ト市 民)が 作 り出 す も の だ とい う こ とで あ る 。 ネ ッ ト市 民 は 主 体 的 に サ ・イバ ー ス ペ ー ス に 参 加 し て そ の知 的 、 経 済 、 政 治 、 社 会 的 な 影 響 力 の 深 さ と大 き さ を学 ん で ゆ く。 情 報 革 命 は この よ う に し て 人 間 的 な進 化 を とげ る の で あ る。 い ま の と こ ろ、 ネ ッ トワ ー ク は 何 か の 権 力 に よ る コン トロ ー ル は 受 け て い な い。 ま た 巨大 ビ ジ ネ ス が 支 配 し て い る わ け で もな い。 し か し、 こ う し た 自 由空 間 の 状 態 が い つ ま で も続 くか ど うか は わ か ら な い 。 い ず れ 権 力 や 資 本 は 、 自 らの 目的 を 遂 げ るた め に サ イバ ー ・ス ペ ー ス へ 接 近 す る方 法 を 考 え 出 す と 思 わ れ る。 従 っ て 、 サ イバ ー ス ペ ー ス の 自 由 を い か に して 確 保 す る か 、 権 力 や 資 本 の 力 に 影 響 され な い 自 由 な ネ ッ トワ ー ク市 民 に よ る ネ ッ ト運 営 方 法 を論 議 す る こ とが 、 今 後 の 中 心 的 な テ ー マ とな ろ う。 さ らに こ の テ ー マ は 、 この 稿 で 課 題 とす る電 子 ジ ャ ー ナ リズ ム の 編 集 理 念 と重 な る もの で あ 28)こ の 関 係 は 、 た と え ば 、 ウ ォ ル タ ー ・ リ ッ プ マ ン の い う 、 擬 似 環 境 と 現 実 環 境 の 相 互 作 用 の 関 係 に 類 似 し て い る 。 前 掲 、 リ ッ プ マ ンr世 論 』上 、 下 、 参 照
29)Meheroo Jussawalla, Introduction, TELECOMMUNICATIONS, A Bridge to the 21st Century, ed. Jussawal- la, Elisevier 1995, p.12,
京都女子大学現代社会学研究 21 る30)。 い ま の と こ ろ 、 成 熟 した サ イバ ー ・ス ペ ー ス な ど、 ど こに もな い。 しか し な が ら、 そ の 不 完 全 さ の 要 因 は、 従 来 の コ ミ ュニ ケ ー シ ョン ・メ デ ィア の 発 達 史 の 過 程 か ら も引 き 出 す こ とが で き る。 印 刷 や 映 像 や 音 声 の 既 製 の 諸 メ デ ィア が 、 成 熟 し、 完 全 で あ っ た とい う こ と は な い か らだ。 メ デ ィア の 変 容 に つ い て い え る確 実 な こ とは 、 か つ て 言 語 が 誕 生 し、 印刷 術 に よ る コ ピ ー の伝 達 方 法 が 生 ま れ 、 電 信 、 電 話 と映 像 技 術 が進 化 し、 コン ピ ュー タ ー が 生 ま れ 、 い ま や デ ジ タ ル な 双 方 向 通 信 が 可 能 な イン ター ネ ッ ト時 代 に 入 っ た とい う こ とで あ る。 と こ ろ で 、 イ ン ター ネ ッ ト通 信 の 場 とは い っ た い ど こ に あ る の だ ろ うか? 電 話 の 会 話 は ど こ の 場 で 行 わ れ る の か。 電 話 の 会 話 の 場 は 電 話 線 上 に あ る の か? で は携 帯 電 話 の 通 信 の 場 は? ク レ ジ ッ ト ・カ ー ドの 確 認 の 場 は? SF作 家 ウ ィ リア ム ・ギ ブ ソ ン は 、 わ れ わ れ が と ら え て い る 世 界 の 現 実 とは 、 様 々 な 先 進 国 の10億 人 ほ どの 人 々 の 営 為 が 、 集 積 し て作 りだ し て い る世 界 の 経 験 を基 盤 と し て い る が 、 しか し実 は こ れ も現 実 幻 想 に す ぎ な い とい う こ とを 描 い て い る31)。な ぜ な ら一 人 の 人 間 の 精 神 は こ の10億 人 の 人 々 が 作 り出 して い る世 界 の表 層 の 経 験 よ りも っ と深 い か も し れ な い の で あ る。 人 間 の 頭 脳 シ ス テ ム の 内 部 か ら コン ピ ュ ー ター が 抽 出 す るグ ラ フ ィ ク ス は 、 信 じ られ な い ほ ど複 雑 で あ り、 心 の 中 の 空 間 な き空 間 に は 無 数 の光 が 並 び 、 星 雲 の 束 の よ う に デ ー タ が記 憶集 積 さ れ て い る。 サ イバ ー ス ペ ー ス とは こ う した ひ と りひ と りの 人 間 た ち の 頭 脳 の ネ ッ トの マ ト リク ス で あ る とい う こ とな の で あ る 。 そ して 、 そ の 集 積 は 、 相 互 に 結 合 して 、 「ば らば らで は け っ し て も ち え な い 生 命 、 思 考 、 目的 とい った 集 合 的 特 質 を 獲 得 して い く。 … 地 震 で 岩 が 転 が る よ う に 、 出 来 事 に受 動 的 に 反 応 す る とい う こ とで は な い 。 そ れ らは 積 極 的 に 、 す べ て の 出 来 事 を 利 益 に変 え よ う とす る。 た とえ ば 、 人 間 の脳 は 、 経 験 を学 習 す べ く、 何 十 億 の ニ ュー ロ ン 結 合 の組 織 化 、 再 組 織 化 を た え ず お こな って い る。」32)。 イ ン タ ー ネ ッ トヘ ア ク セ ス す る に は 、 モ デ ム を 使 っ て 情 報 を発 信 し、 受 信 す る。 し か し、 ギ ブ ソ ン は近 未 来 に お い て 人 間 は モ デ ム を 使 う こ とな く、 各 個 人 が 直 接 自分 の 脳 と視 神 経 を 使 って コン ピ ュー ター と交 信 す る世 界 を 描 い て い る。 自分 の 視 神 経 を プ ラ グ に して コ ン ピ ュー タ ー に接 続 し、 複 雑 な 電 子 プ ロ グ ラ ム を 人 間 の 頭 脳 で 直 接 認 識 可 能 な 事 象 や 言 語 に 変 換 す る の で あ る 。 この 小 説 は 、 い ま やSFと い う よ りは 、 近 未 来 の 予 言 で あ る と感 じて い る人 々が た くさ ん い る33)。 21世 紀 に サ イ バ ー ・ス ペ ー ス が 進 化 し、 既 成 の20世 紀 型 メ デ ィア(新 聞 、 テ レ ビ は も と よ りい ま わ れ わ れ が使 っ て い るパ ソ コ ン も)は 古 び た もの とな り、 さ ら に本 格 的 な 双 方 向 マ ル チ メ デ ィア に よ っ て 、 匂 い や 感 触 、 情 緒 とい っ た よ り生 物 的 な5感 を 含 む サ イバ ー ・ス ペ ー ス の世 界 が 作 られ る 可 能 性 が あ り う る。 つ ま りは個 人 の 脳 と精 神 と感 覚 器 官 の 限 りな い拡 張 と し て の サ イバ ー ・ス ペ ー ス の創 造 とい う課 題 で あ る。 も うひ とつ の 現 実 的 課 題 、 す な わ ち 情 報 の グ ロ ー バ リゼ ー シ ョン に と
30)Micheal R Ogden, Is there a future for Cyberdemocracy?Journal Offprintpaper,1994 31)ウ ィ リ ア ム ・ギ ブ ソ ンrヴ ャ ー チ ャ ル ・ ラ イ ト 』浅 倉 久 志 訳 、 角 川 文 庫 、1999 32)前 掲 ワ ー ド ロ ヅ プr複 雑 系 』、p.13