Jap. J. of Educ. Psychol., 1985, 33, 295•\306 295
中年 期 の 自我 同一 性 に 関 す る研 究
岡
本
祐
子*
A STUDY ON EGO IDENTITY IN MIDDLE AGE
Yuko OKAMOTO
The purposes of this study were to clarify the characteristics of psychological changes
in middle age from the viewpoints of eight stages of ego identity in Erikson's Epigenetic
Scheme (1950), and to specify the reconfirmation process of ego identity and identity
status. Method : a sentence completion test (SCT) was carried out by 49 subjects
between 40 and 56 years old, and an interview was done to 22 of them. Results : (1)
There were positive and negative aspects in the psychological changes in middle age .
(2) The process of ego identity reconfirmation in middle age had the following four
stages : a) The crisis period with the awareness of the changes of somatic sensation; b)
The period of the psychological moratorium; c) The period of modification or turnabout
of the life track; and d) The period of ego identity reconfirmed. (3) Four Identity
Statuses were specified by the analysis from the viewpoint of Marcia (1964) 's identity
status. These findings suggested that middle age was one of the transitional period in
life cycle playing an important role for identity achievement.
Key words : adult development, identity crisis, identity status, identity reconfirmation
process, middle age.
問題 お よび 目的
人 間 の 精 神 発 達 をライ フサ イ ク ル全 般 にわ た って と ら え よ う とす る成 人 期 の 発達 に関 す る研 究 は,近 年 急 速 に 増 加 しつ つ あ る 。精 神 分 析 的 自我 心 理 学 の 領 域 に お い て は,Erikson(1950)の 提 出 した 人格 発 達 分 化 の 図 式, Epigenetic Schemeが そ の 理 論 的 基礎 を与 え る もの と な った 。 この 図 式 に よ ってEriksonは,人 間 生涯 全般 に わ た る心理 ・社 会 的 発 達段 階 を明 確 化 し,成 人 期 に お い て も発達 的 な危 機 が あ る こ と を示 して い る 。 これ ま で成 人 期 は,発 達 的 な方 向 性 を持 っ た もの とは 見 な され ず,成 人 期 にお こ る心 理 的 変 化 や 危 機 的 な現 象 に対 して は,そ の 時 々 の 状 況 に応 じた 解釈 が な され て き た 。そ れ に対 し て,成 人 期 に も発 達 的 な方 向 性 とそ れ に対 応 した危 機 が あ る こ と を示 し た点 は,Eriksonの す ぐれ た洞 察 の1つ で あ る 。 Erikson(1950)に よれ ば,自 我 同 一性 の 獲 得 は,青 年 後 期 の 課 題 であ る。 しか し,個 々人 の 自我 同 一 性 は, 青 年 期 以 降 も さ ま ざま な 心理 ・社 会 的 変 化 を契 機 に問 い 直 され,再 吟 味 され て,さ ら に成 熟 して い く もの で あ ろ う と考 え られ る 。 また,成 人 期 にみ られ る 発達 的 危 機 期 にお こ る 心 理 的 変 化 は,自 我 同 一 性 の成 熟 に重 要 な意 味 をも つ と思 わ れ る 。 とこ ろ が,青 年 期 に獲 得 され た 自我 同 一 性 が,以 後 どの よ うに 変 化 す るの か,あ るい は 変 化 しな い の か とい う問題 は,い ま だ未踏 の領 域 で あ り,わ ず か に,Donovan(1975a,b),Marcia(1976)ら の 青 年 期 の 同 一 性 ステ イ タス研 究 に よ っ て,問 題 提 起 ない しは 示 唆 され て い るに す ぎ な い 。 とこ ろ で,一 般 に 中年 期 は,生 物 学的 に も社 会 的 ・心 理 学 的 に も,ま た 家族 サ イ クル の 側 面 に お い て も変 化 の 多 い時 期 で あ る 。身 体 的 に は,体 力 の衰 え を感 じ始 め, 職 業 的 に は 自分 の 能 力 や地 位 の 拡 大 に 限界 が見 え始 め る 時 で あ り,若 い 頃 設 定 した 自分 の 人 生 の夢 とそ の達 成 度 *旧 姓 武 則 *広 島 大 学 教 育 学 部(Department of Psychology,Hi-roshima University) ― 23 ―296 教 育 心 理 学 研 究 第33巻 第4号 を改 め て問 い 直 す 時 で も あ る 。多 くの 家 庭 では,子 供 達 は青 年 期 に達 し 自立 し よ うと して い る 。 しか し,中 年 期 にお こ る さま ざま な変 化 に関 して組 織 的 に 行 わ れ た 実 証 的 研 究 は 少 な く,中年 期 の と らえ方 に は,こ の 時 期 を比 較 的 ス トレス の 少 ない 平 穏 な時 期 で あ る とす る 「平 穏 説 」 (Neugarten,1968;Lowenthal,1972;Livson,1976) と,人 生 の 中 で危 機 的 な転 換 期 であ る とい う 「危 機 説 」 (Jaques,1965;Sheehy,1974;Levinson,1974,1978;
Lionells & Mann,1974;Rosenberg,1976)の 一 見, 相 矛 盾 す る よ うに思 われ る2つ の立 場 が 見 られ る 。 本 研 究 は,中 年 期 の心 理 的 変 化 の 内 容 とプ ロセ ス を, 自我 同一 性 の視 点 か ら考 察 した もの で あ る 。本 研 究 は, 以 下 の3点 を 目的 と して行 わ れ た 。 1.中 年 期 の心 理 的 変 化 の特 徴 を,Erikson(1950)の 図式 に示 され た心 理 ・社 会 的課 題(基 本 的 信 頼 感,自 律 性,自 主性,勤 勉 性,自 我 同 一性,親 密 性,生 産 性,自 我 の 統 合)の 観 点 か ら明 確 化 す る 。 2.中 年 期 の心 理 的 変 化 を,中 年 期 に お け る 自我 同一 性 展 開 の プ ロセ ス と して縦 断 的 に考 察 す る 。 3.1.2.で み られ た状 態 像 を 自我 同 一 性 ス テ イ タス の 視 点 か ら分 析 す る こ とに よ り,個 々 の被 調 査 者 間 に見 ら れ た 相違 につ い て検 討 す る。 ま ず,予 備 調 査 に よ って,中 年 期 の心 理 的 変 化 の概 要 を把握 した 。次 に こ れ を基 盤 に,本 調 査 で は個 人面 接 を 行 い,上 記 の3点 に焦 点 化 し さ らに分 析,検 討 を加 え た 。
予 備 調 査
目 的 中年 期 の心 理 的 変 化 の特 徴 の概 要 を把 握 し,本 調 査 の 対 象 者 を選 択 す る 。 方 法 (1)被調 査 者 1.研 究 者(大 学 教 官),2.会 社 員,3.事 務 系 公 務 員, 4.高 校 教 員,5.看 護 婦,6.主 婦 の6職 業 群 に属 す る40∼ 56歳 の 男女49名(男 性31名,女 性18名,平 均 年齢47.3 歳)。 第5群 の看 護 婦 群 は,就 労 して い る既 婚 女 性 とい う意 図 で設 け,第6群 の 専 業 主婦 群 との 比較 を試 み た 。 (2)手続 (1)以下 の 内容 か らな る文章 完 成 法(SCT)39項 目 。 こ れ は,時 間的 展 望,家 族,仕 事,自 分 の 人 生 な ど,Eri-ksonの 図 式 に示 され た心 理 ・社 会 的課 題 や 危 機 の 諸 側 面 に焦 点化 した26項 目,お よび 中年 期 の 心 理 的 特 徴 が 現 わ れ や す い と考 え られ る13項 目(例.「40歳 に な っ た時, 私 は」,「私 が 自分 の 年 齢 を意 識 す るの は」,「年 を とる に つ れ て」,「私 の 一 生 の う ち で今 は」,「子 供 が 独 立 す る と」,「私 は 自分 の 一 生 を ふ り返 っ て み て」 な ど)か らな る 。(2)身体 的 精 神 的 自覚症 をたず ね る 二 者 選択 式 の質 問 128項 目。 これ は,Cornell Medical Index(CMI)より,中 年 期 以 降 に 関 連 の 深 い125項 目 を選 択 し,3項 目 を筆 者 が追 加 した 。 これ は,被 調 査 者 の 身 体 的精 神 的 健 康 度 をお さえ る こ と を意 図 し,補 助 資 料 を して 用 い た 。 質 問紙 は郵 送 に よ って配 布 回収 され,回 収 率 は98.0% で あ っ た 。 結 果 と考 察 SCT に対 す る反 応 は,以 下 の観 点 か ら内 容分 析 を行 っ た 。 中年 期 の心 理 的特 徴 に 関 す るSCT13項 目は,(1) 40代 を迎 え た時 の意 識,(2)自 分 の年 齢 に対 す る意 識 とそ の契 機,(3)現 在 の ラ イ フ ス テー ジ に対 す る意 識 の3点 に つ い て分 析 し た 。Eriksonの 心 理 ・社 会 的課 題 や危 機 の 諸 側 面 に関 す る項 目は,各 項 目別 に特 徴 を分析 した 。 (1)中年 期 に 対 す る意 識 40代 を中心 とす る 中年 期 に対 す る意 識 は,SCT「40歳 に な っ た時,私 は 」,「私 の一 生 の うち で今 は」 に対 す る 反 応 に最 も顕 著 に現 わ れ て い た 。 40代 を迎 えた 時 の意 識 に関 す る特 徴 は,TABLE1に 示 した 。TABLE1に 示 した とお り,「(40歳 に な っ た時 私 は)こ れ か らや る ぞ とい う気 持 ち だ っ た 。」 「人 生 半 ば だ 。 が んば ら な けれ ば と思 っ た 。」 な ど,生 産的,活 力 的 自覚 を感 じ させ る もの が,被 調 査 者 の24.5%を 占 め て い た 。 しか し,「 これ か らだ と思 っ た がす ぐに だ め な こ と を知 らされ た 。」 「は じめ て生 命 の 限 界 を知 っ た 。」 と い う限 界 感 の 認 識(10.2%),や 「人 生 の折 り返 し点 を感 じ た 。」 「老 後 の 生 活 に向 か っ て歩 き始 め た 。」 と い う ラ イ フ サイ クル の 上 で の転 換 期 の 認識(12.2%),職 業 的,精 神 的 な転換(8.2%),さ らに 自分 の再 認 識(4.1%)な ど, 改 め て,自 分 を問 い直 し,生 き方 の 修 正 を求 め られ た人 が,は るか に そ れ を上 回 っ てい た 。 ま た別 の一 群 と して, 「特 に何 も感 じ な か っ た 。」 「ま だ20代 とあ ま りか わ らな い感 覚 でい た 。」 と答 え た人 々が 見 られ た(18.4%)。 TABLE2は,SCT「 私 が 自分 の 年齢 を意 識 す るの は 」 に対 す る反 応 で あ る 。TABLE2に 示 した とお り,1.体 力 の衰 え や体 調 の変 化,2.対 人 関 係,3.バ イ タ リテ ィや 精 神 的 変 化 に関 す る もの が 特徴 的 で あ り,1.2.は,過 半 数 の 人 々 に とっ て,自 分 の 年齢 を意 識 す る契 機 に な っ て い た 。 これ らの 内容 の ほ とん どは否 定 的 な 変 化 を表 わ して い るが,こ の点 は 中 年 期 の 変 化 を示 す特 徴 の1つ で あ る と思 わ れ る 。 TABLE3は,SCT「 私 の 一生 の うち で 今 は 」 に対 す る 反 応 で あ る。 こ の結 果 に よ る と,TABLE2に 示 した よ う な 自分 の否 定 的 変 化 の側 面 へ の 気 づ き に もか か わ らず, ― 24 ―
岡 本:中 年 期 の 自我 同 一 性 に 関 す る研 究 297 TABLE1 40才 に な っ た 時 の 意 識 (SCT「40歳 に な っ た 時,私 は 」) 過 半 数 の人 々 が,安 定 感,充 実 感,幸 福 感 な ど を表 現 し,現 在 を肯 定 的 に認 識 してい た 。 これ らの結 果 よ り,40代 を中心 とす る 中年 期 は転 換 期 と意識 され る こ とが 多 く,こ の年 代 の意 識 内容 には,否 定 的 な もの と肯 定 的 な もの の両 面 が 見 られ る こ とが 示 さ れ た 。 これ らの 意 識 の 両 面性 に関 して は,本 調 査 にお い て さ らに検 討 を加 え た 。 (2)Eriksonの 心 理 ・社 会 的 課 題 や 危 機 の諸 側 面 に 関 す る特 徴 自我 同一 性 に関 す るSCTは,各 々 の項 目別 に,反 応 内容 を分 析 した 。予 備 調査 の段 階 に お い て も,個 々 の被 調 査 者 の人 格 像 は か な りは っき り と描 き出 され,特 に, 時 間 的 展望,自 己確 信,職 業 に対 す る 意 識 や生 産 性 に関 して 顕著 な特 徴 が見 られ た 。 これ らの 内 容 に つ い て は, 面 接 調査 で さ らに詳 細 に分 析 され た た め,本 調 査 にお い て 報 告 す る 。 (3)身体的 精 神 的 自覚 症 CMIに 対 す る反 応 は,身 体 的 自覚 症2∼21,(Ave. 8.18),精 神 的 自覚症0∼24(Ave.5.82)に 分 布 して い た 。 これ よ り,本 研 究 の被 調 査 者 は,心 身 と もに健 康 で あ る とみ な した 。 な お,(1)∼(3)の 結 果 に は,職 業 に よ る 相 違 は 特 に認 め られ な か った 。 これ ま で の 中年 期 の諸 側面 の変 化 に 関 す る研 究 にお い て は,中 年 期 平 穏 説 と危 機 説 の両 者 が 唱 え ら れ て い る が,本 研 究 か らも,こ の両 者 が予 側 され る結 果 が得 られ た 。中年 期 の安 定 感 と転 換 期(危 機)的 な意 識 は,お そ TABLE2年 齢 を意 識 す る契 機 (SCT「 私 が 自分 の年 を意 識 す る のは」) *反 応 の 中 に は,複 数 の内 容 を記 述 し た もの がみ られ た た め, パ ーセ ンテ ー ジ は,100%を こ え る 。 TABLE3ラ イ フ サ イ クル の 中 で現 在 に対 す る意 識 (SCT「 私 の 一生 の うち で 今 は」) ら く個 々 人 の 中 に異 な った 次 元 で 並 行 して存 在 して い る で あ ろ う と思 われ る。
本
調
査
目 的 1.40代 を 中心 とす る 中年 期 の 心 理 的 変 化 の内 容 につ い て,安 定 した側 面 と不 安 定 な側 面 の特 徴 を,Erikson の 図式 に示 され た心 理 ・社 会 的 課 題 や 危 機 の諸 側 面 か ら 明確 化 す る 。 2.1.の 特 徴 を中年 期 に お け る 自我 同 一性 展 開 の プ ロ セ ス とし て縦 断 的 に考 察 し,発 達 の諸 段 階 を明 らか にす る 。 3.1.2.の 特 徴 を 自我 同 一 性 ス テ イ タ ス の視 点 か ら分 析 す る こ と に よ り,個 々 の被 調 査 者 間 に 見 られ た相 違 に つ い て検 討 す る 。 方 法 (1)被調 査 者 予 備 調 査 の 被 調 査 者 の 中か ら,SCTに 対 す る 記 述 内 容 が詳 し く,中 年 期 の 心理 的 変 化 過 程 が 明 確 に意 識 され て い る と思 われ る 人 を,各 職 業 群 か ら3∼5名 ず つ,合 ― 25 ―298 数 育 心 理 学 研 究 第33巻 第4号 計22名 選 択 し,ひ き続 き本 調 査 の対 象 と した 。 これ らの被 調 査 者 の プ ロフ ィ ー ル は,TABLE4 に示 した 。 (2)手続 以 下 の質 問 項 目か らなる半 構 成 的 面接 を行 っ た 。個 別 に,ほ ぼ2∼3時 間 ず つ,1∼3回 に 分 けて実 施 した 。面 接 質 問項 目 :(1)生育歴,(2)職 業 の経歴,(3) 半 生 の 中 で心 身 に大 き な変 化 の あ った 時期 に つ い て,(4)40代 の 意 識(40歳 に な っ た時 の感 情, 40代 で体験 した 心 理 的 変 化,厄 年 に対 す る感 情),(5)Erikson の心 理 ・社 会 的 課 題 お よび危 機 の諸側 面 に つ い て(a.時 間 的 展 望,b.自 己 確 信,自 律 性, c.目 的感,d.勤 勉 性,有 能 感,e.夫 婦 関 係,f.子 供 を育 てる こ と,g.職 業,h.思 想,価 値 観 人 生 に対 す る感 じ方 に つ い て,そ れ ぞれ,着 眼 点 をそ えて 質 問 し た*。)(6)青年 期 の モ ラ トリア ム や 同 一 性 危 機 の 体験 に つ い て 。 (3)結果 の整 理 面 接調 査 の 結 果 は,(2)に 示 した 質 問 項 目の うち,(4)と (5)(a∼h)に つ い ては,各 質 問 項 目別 に反応 内容 を整 理 し,特 徴 を分 析 した 。まず,TABLE5に 示 した とお り,各 質 問 項 目別 に各 々 の被 調 査 者 の 反 応 を肯 定 的 内容 と否 定 的 内容 に 分 類)した 。 そ の う ち,パ ー セ ンテ ー ジ が 50%を こ え る も の を,中 年 期 の特 徴 的 な変 化 を表 わ す も の として,さ らに詳 しくそ の 内容 を検 討 した 。 同時 に, 各 々の被 調 査 者 を個 別 に,臨 床 的,事 例 的 に分 析 し,目 的1∼3に そ っ て 個 々の被 調 査 者 の 状 態 像 の把 握,考 察 を試 み た 。 結 果 と考 察 (1)中年 期 の 心 理 的 変 化 の特 徴 1)否 定 的 変 化 の特 徴 中年 期 の 心 理 的 変化 の特徴 は,面 接 質 問 項 目の う ち, (4)と(5)に対 す る 反応 を中心 に 分 析 した 。 これ らの 反 応 内 容 の概 要 は,TABLE5に 示 した 。TABLE5に 示 し た と お り,質 問 項 目(4)40代の意 識 変 化,お よび(5)のうち,時 間 的展 望 と職 業 の項 目につ い て,過 半 数 の被 調 査 者 が, 否 定的 な変 化 の 体 験 を報 告 し て い た 。 これ らの内 容 を, TABLE4面 接 調 査 対 象 者 の プ ロフ ィ ー ル 中年 期 に お け る否 定 的 変 化 の特 徴 と して さ らに詳 し く分 析 した 。 自分 が 中年 期 に入 っ た こ とへ の気 づ き,す な わ ち,も うそれ ほ ど若 くは な い とい う意 識 は,さ ま ざ ま な面 で 自 分 の心 身 の調 子 が変 化 して き た こ と と,そ れ に よ る 限 界 感 の認 識 か ら始 ま っ てい た 。TABLE6に 示 した とお り, 中年 期 の否 定 的 変化 に は,以 下 の4つ の側 面 が特 徴 的 で あ った 。 (a)体力 の 衰 え 中年 期 の否 定 的 変化 を最 も如 実 に 認 識 させ る の は,体 力 の衰 え で あ り,22名 中20名(90.9%)の 被 調 査 者 に と っ て,こ れ が 自分 の限 界 感 を感 じる最 初 の契 機 で あ っ た 。ま た 残 りの2名(9.1%)も40代 に な っ て健 康 に対 す る関 心 が 高 ま っ た と述 べ てお り,こ れ も体 調 の変 化 が 大 き く影 響 して い た 。 自分 の 身 体 に対 す る感 覚 や 感 情 は, 自己 イ メ ー ジ を形 成 す る大 き な要 で あ り,身 体 イ メー ジ は 自我 同 一 性 の感 覚 とも深 く関連 して い る 。 した が って 体 力 の 低 下 をは じめ とす る身 体 感 覚 の変 化 は,同 一性 の 基 盤 を脅 し,再 認 識 させ る も の と考 え られ る 。 (b)時間 的 展 望 の せ ば ま りと逆 転 「残 り時 間 が少 な い とい う限 界 感 は徐 々 に深 ま っ て い る 。」,「何 か をや り始 め る には も う遅 す ぎる と常 に 感 じ る 。」,68.2%の 被 調 査 者 か ら聞 か れ た これ らの現 象 は, 時 間 的 展 望 の せ ば ま り と考 え られ る 。 これ らは,自 分 の 持 ち得 る時 間 的 展望 の 中 で 「求 め る もの が得 られ ない 」 (Erikson,1964)と い う感 情 で あ り,被 調査 者 に と っ て,こ の 限 界 感 は 痛切 で あ っ た 。 *こ れ ら の 質 問 内 容 の 概 略 は,TABLE5に 示 し た 。
岡本:中 年 期 の 自我 同一 性 に 関 す る研 究 299
TABLE5面 接 調査(質 問 項 日(4),(5))に 対 す る反 応 内容
* Pos. : Positive, Neu. : Neutral, Neg. : Negative. **複 数 回 答 が み られ た た め,パ ー セ ン テ ー ジ は100%を こ え る 。 中年 期 に 見 られ る も う1つ の特 徴 は,「時 間的 展 望 の 逆 転 」 とい う現 象 であ る。8名(36.3%)の 被 調 査 者 は,近 親 者 や友 人 の 死,中 で も父親 の 死 は 自分 の寿 命 を意 識 す る大 き な き っ か け とな り,親 の死 に よ って,「 自分 が あ と どれ だ け生 き られ るか」 と考 え た と報告 してい た 。 こ れ らは,今 ま で 生 きて き た年 齢 で は な く,こ れ か ら生 き られ る年 数 の方 が よ り重 要 に な り,死 の側 か ら 自分 の年 齢 を考 え る よ うに な った こ と を意 味 して い る と思 わ れ る 。 (c)生産 性 に お け る限界 感 の認 識 中年 期 に あ る職 業 人 に と っ て,体 力 の衰 え と時 間 的 展 望 のせ ば ま りに よ る限界 感 を最 も痛 切 に感 じるの は,職 業 や職 業 に対 す る能 力 にお い て で あ った 。 ま た,限 界 感 の認 識 に よ るあ せ りに加 え て,「 肉体 の しん ど さに 加 え て精 神 年 齢 の け だ る さ を感 じる 。」 「だ ん だ ん怠 惰 に な り 努 力 を しな く な った 。」 とい う停 滞 感(Feelings of sta-gnation)が 顕 在 化 してお り,こ れ らの被 調 査 者 は,抑 う つ 状 態 を呈 して い た 。 (d)老い と死 へ の不 安 40代 に な っ て 自分 が 老 い て い く こ とや 死 へ 近 づ き つ つ あ る こ とへ の 関心 や不 安 が強 くな った とい う 報 告 は, 54.5%の 被 調査 者 か ら聞 か れ た 。 そ の 中 には,「 自分 が いつ 倒 れ て も よい よ うに大 事 な もの は ま と め てお く」 と い う よ うな具 体的 な準 備 を して い る人 も あ っ た 。 2)肯 定 的 変化 の特 徴 ― 27 ―
300 教 育 心 理 学 研 究 第33巻 第4号 TABLE6中 年期 の心 理 的 変 化 の特 徴 中 年期 に入 っ た こ とは,1)で 述 べ た否 定 的 な変 化 へ の 気 づ き に よ っ て意 識 化 され たが,中 年 期 の主 観 的 意 識 の 中 に は,肯 定 的 変 化 も同時 に存 在 し て い た 。 それ は, TABLE5に 示 した よ うに,質 問 項 目(4)40代の意 識 変 化 お よび(5)のうち 自己 確 信 と有 能感 の 項 目 にお い て特 に 顕 著 で あ り,過 半 数 の 被 調 査 者 が肯 定 的 内容 を報 告 し て い た 。 「これ ま で は,学 ぶ 時 期 だ った が,40代 に な って よ うや く教 え る こ とが で き る と感 じ る よ うに な った 。」(事 例2,42歳,男 性,大 学 教 官),「 私 に 対 す る会 社 での 評 価 は ベ テ ラ ン とい うこ とに な っ て き た 。」(事 例9,43 歳,男 性,会 社 員)と い う報 告 や,地 域 社 会 の 中 で認 め られ 根 づ い て きた と い う意 識,定 住 に よ る安 定 感 な ど は,40代 に な っ て 自我 同 一 性 の 確 立 感,安 定 感 が 増 して き た こ と を示 し てい る 。 これ らは 多 くの 場 合,40代 の始 め に意 識 され て い た 。 ま た,中 年 期 に至 って 初 め て精 神 的 な模 索 が終 わ り, よ り深 い レベ ル で 内 的 な安定 感 と 自己 確 立 感 が得 られ た 事 例 が3例 見 られ た 。 これ らの3事 例 では,外 的 に は青 年 期 に 一応,自 我 同 一 性 は 獲 得 され て い る に もか か わ ら ず,真 に傾 倒 で き る価 値 観 思 想 や 真 の 自 己像 を求 め て の 精 神 的 な模 索 は そ の 後 も長 く続 き,中 年 期 に至 っ て初 め て本 当 に納 得 で き る 自分 を見 出 して 安 定 した とい う点 が 特 徴 的 で あ った 。筆 者 は,こ の3事 例 を,中 年 期 の状 態 像 を示 す1タ イ プ と して 「積 極 的 自 己受 容 型 」 と名 づ け た(TABLE10参 照)。 以 下 に,そ の うちの1事 例 を 紹 介 す る**。 事 例16.48歳.男 性 高校 教 員 大 学 を 卒 業 後,某 私 立 高 校 の 教 師 と し て社 会 科 を教 え て い る。30歳 の 時,結 核 を患 い,そ の 頃 か ら禅 や カ ウ ン セ リン グな ど内 的 な も の に関 心 を 持 ち 始 め た。42歳 の 時,某 大 学 へ 内 地 留 学 し,1年 間 心 理 学 を 学 ん だ。 以 後,生 徒 の 心理 ・教 育 相 談 を 担 当 して い る。 彼 は,40代 の 変 化 につ い て次 の よ うに述 べ て い る。 「42歳の 時,1年 間,単 身 で東 京 へ 行 っ た が あの 頃 は, ガ タ ガ タ して い た 。 今 考 えて も転 換 期 だ っ た と思 う。 そ の こ ろま で は,過 去 の 自分 の環 境 や 育 ち,性 格 で 気 に な る こ とが ず い ぶ ん あ っ た。 が,5―6年 前 か ら,そ れ は 育 ちの せ い だ とい う気 が しな くな った 。 過 去 の 自分 の 生 い た ちか ら独 立 した 気 がす る。」 彼 は,自 分 を 肯 定 的 に 見 る こ とが で き る よ うに な った こ とが,自 分 の 転換 の基 盤 に な った と語 って い る。 彼 は,青 年 期 か ら,内 省 的 な 性 格 で あ った が,常 に 自分 に 対 して 否 定 的 な見 方 の方 が ま さ って い た とい う。40代 に 上記 の よ うな 内的 転 換 を 体 験 した が,禅 や カ ウ ン セ リン グな ど,30代 に始 め た こ と が,そ の 頃 に 実 って き た とい う実 感 も 同時 に体験 され て い た 。本 事 例 の場 合,外 的 に は,青 年 期 に大 学 を 卒業 し, 教 師 とな った 時 期 に 自我 同 一性 は達 成 され てい る。 しか し,精 神 的 に は,そ れ 以 後 の30代 を 通 じ て,真 に肯 定 で き る 自分 を求 め て 模 索 が続 い て い た と考 え られ る。 他 の2事 例 も,中 年 期 に至 っ て初 め て精 神 的 な模 索 が 終 わ り,内 的 な安 定 感 と 自己確 立 感 が 得 られ た とい う共 通 の特 徴 を示 して い た 。 3)再 生 同 一 性(Renewed Identity)の 確 立 2)で 述 べ た 自我 同一 性 の確 立 感 や 安 定 感 は,青 年 期 に 方 向 づ け られ た同 一 性 の軌 道 の上 で認 識 され た もの で あ り,1)で 述 べ た否 定 的 変化 もまた,そ の軌 道上 で の変 化 で あ っ た 。 しか し,本 研 究 の被 調 査 者 の 中 に は,青 年 期 に選 択 した 自分 の方 向 づ け を中年 期 の否 定 的 変 化 の体 験 **こ の 事 例 の 中 年 期 に お け る 変 化 の プ セ ロ ス に つ い て は,TABLE8に 示 し た 。
岡 本:中 年 期 の 自我 同 一 性 に 関す る研 究 301 を契 機 に問 い 直 し,こ れ らの 生 き方 を模 索 した 末 に新 し い生 活 様 式 や 社会 的 役 割 を選 択 して 自我 同 一 性 を再 確 立 した 事 例 が3例***見 られ た 。 これ らの事 例 は,TABLE 7に 示 した よ うな共 通 の プ ロセ ス をた どっ て い る 。彼 ら に とっ て,自 分 自身 に対 す る問 い直 し を行 う契 機 が,大 病 や子 供 の巣 立 ち とい う中 年 期 の 急激 な否 定 的 変 化 で あ っ た 。 この 危機 を経 た後 に 獲 得 さ れ た 同 一 性 を,筆 者 は,「 再 生 同 一 性 」(Renewed Identity)と 名 づ け た 。以 下 に,TABLE7に 示 した事 例5に つ い て紹 介 す る 。 事 例5.43歳 男 性 会 社 経 営 大 学 卒 業 後,某 建 設 会 社 へ 就 職 し,有 能 な エ リ ― ト社 員 と し て 活 躍 を 続 け た 。30歳 で 若 く し て,某 市 支 店 長 と な り'以 後,各 地 の 支 店 長 を 歴 任 し た 。 と こ ろ が41歳 の 時,大 病 を 患 い,そ れ を 機 に 退 社,自 分 の 会 社 を 創 設 し た 。 こ の 事 例 の 場 合'自 我 同 一 性 は,青 年 期 に 大 学 を 卒 業 し,就 職 し た 頃 に 一 応 達 成 さ れ て い る 。 し か し,彼 は, 職 業 選 択 は,ほ と ん ど 迷 い や 試 行 錯 誤 な く,知 人 の す す め に 従 っ て 決 定 し て お り,青 年 期 の 同 一 性 ス テ イ タ ス は'早 期 完 了 型****に 近 か っ た と考 え ら れ る 。 彼 は'有 能 な サ ラ リ ー マ ン で,仕 事 一 途 の 人 で あ り,仕 事 に お い て は,し っ か り と し た 自信 と 大 き な 成 功 感 を も っ て い た 。 「私 は,サ ラ リ ー マ ン だ っ た が,考 え 方 は 社 長 み た い に な っ て し も う と る 。 全 身 を う ち こ ん ど っ た し,会 社 は 自 分 の 子 供 み た い な 気 が し て い た 。」 と い う よ う に, 40歳 ま で は,仕 事(会 社)が,彼 の 自 我 同 一 性 の 基 盤 で あ っ た と考 え られ る 。 彼 の 方 向 転 換 の 契 機 は,41歳 の 時,突 然 の 大 病 と い う 形 で お こ っ た 。 こ の 入 院 体 験 に よ っ て,彼 は,今 ま で に 味 わ っ た こ と の な い み じ め さ と空 虚 感 を 体 験 す る 。 こ の 病 気 と い う危 機 が,自 分 の 半 生 へ の 省 察 を 深 め,自 分 を 問 い 直 す 契 機 とな っ た 。 特 に 「こ れ か ら は,自 分 の 考 え と 行 動 が 一 致 す る 方 向 へ 行 き た か っ た 。」 と い う彼 の 言 葉 か ら,外 面 の み な らず,内 面 的 に も 納 得 で き る 自分 を 得 た い と い う気 も ち が 伺 わ れ る 。 彼 の 場 合,自 分 で 創 設 し た 会 社 は,現 在 は ま だ 安 定 し て お らず,彼 自 身 も,ま だ 新 し い 生 活 様 式 に な じ み こ ん で い る と は い え な い 。 し か し'彼 は,中 年 期 の 危 機 以 前 よ り も は る か に 納 得 で き る 生 き 方 を し て お り,内 的 な 自 己 肯 定 感 も 増 大 し て い る 。 他 の2事 例 も 同 様 に,青 年 期 の 同 一性 形 成 は 早 期 完 了 的 で あ っ た の に対 し て,中 年 期 に は'こ れ か ら の 半 生 に 対 して,本 当 に納 得 で き る生 き方 を模 索 した末 に'深 い 自我 関与 を伴 っ て 自分 の方 向 を選 択,決 断 して い る 。 こ れ らの事 例 で は,中 年 期 に体 験 した 変 化 が ま さ に 「危 機 」 と呼 ばれ る ほ どの 大 きな否 定 的 変 化 で あ っ た に もか か わ らず,そ れ を主 体 的 に受 け とめ,以 前 の 自分 よ りも 肯 定 的 に受 け と め られ る 自分 を獲 得 し なお して い る とい う点 が特 徴 的 で あ る 。 これ ら,再 生 同 一 性 達 成 型,お よび積 極 的 自己受 容 型 に分 類 され た事 例,す な わ ち,中 年期 に 顕 著 な心 理 的 変 化 が 体 験 され,自 我 同 一 性 の再 確 立 が行 わ れ た事 例 は, 6事 例 見 られ,こ れ は,被 調 査 者 の27.3%を 占 めて い た 。 これ らの 事 例 は'中 年 期 は 自我 同一 性 の 真 の確 立 に 重 要 な意 味 を もつ こ と を示 す もの で あ る と考 え られ る。 しか し なが ら,後 述 す る よ うに,こ れ らの タ イ プの 特徴 や一 般 性 につ い て は,今 後,よ り多 くの被 調 査 者 を対 象 に,さ らに 検討 して い く必 要 が あ ろ う。 (2)中年 期 の 自我 同一 性 展 開 の プ ロ セ ス 以 上 の 心理 的変 化 は'各 々 の被 調 査 者 に 自分 の 問 い直 し と将 来 の再 方 向づ け を促 し,彼 らの同 一一性 に大 きな影 響 を与 え て い た 。 これ らの 変化 を,一 転 換 期 にお け る 自 我 同 一 性展 開 の プ ロセ ス と して縦 断 的 に考 察 す る と,以 下 の4つ の特 徴 的 な段 階 が 見 出せ た 。 <第1段 階:身 体 感 覚 の変 化 の認 識 に と も な う危機 期 〉 自我 同一 性 展 開 の プ ロセ ス の最 初 の 段 階 で あ る この時 期 は 「も う若 くは ない 」 とい う 自分 の 内 的 な 変化 を認 識 す る気 づ き の段 階 で あ る 。(1)で述 べ た よ うに,そ れ らの 変 化 は,体 力 の衰 え を は じめ とす る身 体 感 覚 の 変化 に伴 う 自我 同一 性 の基 盤 の 動 揺 と時 間 的 展 望 の せ ば ま りに よ る生 産 性 の危 機,お よび 老 い と死 へ の 不 安 が特 徴 的 で あ っ た 。 そ して'こ の 時 期 に体 験 され る感 情 は,限 界 感 の 認 識 に よ る焦 燥 感 と抑 うつ感 が基 調 と な っ て い た 。 <第2段 階:自 分 の再 吟 味 と再 方 向 づ けへ の模 索期 〉 これ らの否 定 的 変 化 へ の認 識 がひ きが ね と な っ て, 「自分 は これ で よか っ た の か」 「本 当 の 自分 は何 な のか 」 とい う 自分 自身 に対 す る 問 い直 し が お こ る 。 こ の時 期 は'改 め て 自分 の人 生 をふ り返 り'そ の 意 味 の 問 い直 し が 行 わ れ る こ とが 特 徴 で あ り'そ れ は,こ れ か ら半 生 の 方 向 づ け を決 め る も の で あ る 。 この 時 期 は,定 年 退 職' 老 後'自 分 自身 の死 と い う人生 の総 決 算 が 目前 に迫 っ て き て い る とい う意 識 が 強 く,「 も う遅 す ぎ る」 「も う問 に 合 わ な い 」 とい う気 持 ち を強 く感 じ るが,そ の 一 方 で 「ま だ やれ る」 とい う意 識 も大 きい 。 こ の よ うに'こ の 時 期 は,自 分 自身 に対 す る不 安 感 や ア ン ビバ レ ン トな意 識 が特 徴 的 で あ る 。 <第3段 階:軌 道 修 正 ・軌 道 転 換 期> ***再 生 同 一 性 確 立 の プ ロ セ ス の 図 式 化 に は,事 例 数 と し て は 少 な い が'こ の3事 例 は,中 年 期 の 自我 同 一 性 再 体 制 化 の プ ロ セ ス を 最 も 顕 著 に 示 し て い た 事 例 で あ っ た た め,1つ の モ デ ル と し て 図 式 化 を 試 み た 。 こ の 図 式 の 確 定 は,今 後 の 課 題 で あ る 。 ****Foreclosure(Marcia,1964). ― 29 ―
302 教 育 心 理 学 研 究 第33巻 第4号 TABLE7再 生 同一 性 確 立 の プ ロセ ス とそ の 事 例 「 」 内 は,被 調査者 の言葉 をその ま ま掲載 した。 第2段 階 での 「問 い直 し」 に ど うい う答 え を 与 え る か,そ して'以 後 の 人生 に どの よ う な方 向 づ け を見 出す か が この 段 階 の主 要 な課 題 で あ る 。 この時 期 に,子 供 の 巣 立 ち,親 や 友 人 の 死,役 割 喪 失 な ど,第1段 階 の危 機 期 に 変 化 が み られ た 自分 と対 象 との 間 に,再 び 適 応 した 関 係 が 得 られ る よ うに な る 。 <第4段 階:自 我 同 一性 再 確 定 期> 最 終 段 階 は,「 自我 同 一 性 再 確 定 期 」 で あ り,こ れ は, 軌 道 修 正 の結 果,一 応 の安 定 が 得 られ た時 期 で あ る 。中 年期 転 換 期 の 始 ま りに意 識 され た さ ま ざま の変 化 に も慣 れ,軌 道 修 正 期 に得 られ た 方 向 づ けや対 象 関 係 に も な じ み こみ,そ れ を基盤 に 内 的 統 合 が 進 ん で い く時 期 で あ る 。 第1段 階 の 否 定 的 変 化 の認 識 に よ る危機 期 よ りも,自 分 が安 定 し,自 分 を肯 定 で き る よ うに な った場 合 が 多 い 。 以 上,中 年 期 の変 化 過 程 を 自我 同 一 性展 開 の プ ロセ ス と して 考 察 す る と,4つ の 特 徴 的 な段階 が あ る こ とが 示 唆 され た 。 この4段 階 は,中 年 期 以 前 に獲 得 され た同 一 性 が,崩 壊 あ るい は 動揺 し,再 び組 み直 され て 安 定 化 し て い くプ ロ セ ス を示 して い る 。 したが って こ の プ ロ セ ス は 「自我 同 一 性 再 体 制 化 の プ ロ セ ス」 と呼 ぶ こ と が で き る と思 わ れ る 。TABLE8に,こ の プ ロセ ス の各 段 階 にそ っ て,い くつ か の事 例 を呈 示 した 。TABLE8に 示 した と お り,40代 とい う年 代 は'そ れ 自体 プ ロ セ ス の途 上 に あ り,本 研 究 の被 調 査 者 がす べ て,最 終 段 階 の 「自我 同 一 性 再 確 定期 」 に達 し て い た わ け では ない 。 ライ フ サイ ク ル の 中 で現 在(中 年 期)は,流 動 的 な プ ロ セ ス の 中途 で あ る とい う意 識 は,多 くの被 調 査 者(54.5%)に よ っ て 報 告 され て い た 。 Mahler(1975)は,生 後6か 月 か ら3歳 ま で の乳 幼 児 期 を 「分 離 一 個 体 化 」 の時 期 と し,そ の プ ロセ ス は4つ の 下 位 段 階 か らな る こ と を示 して い る 。 ま た,Blos(1967) やBrandt(1977)に よ る と,青 年 期 の 自我 同一 性 発 達 の プ ロセ ス に は'そ れ に非 常 に類 似 し た特 徴 が見 られ る 。 TABLE9に 示 し た とお り,こ れ らの乳 幼 児 期,青 年 期 に共 通 の特 徴 は,中 年 期 の 自我 同 一 性 再 体 制 化 の プ ロセ ス に お い て も同 様 に 見 出 され た 。す なわ ち,① こ の プ ロ セ ス は,体 力 の衰 え を は じめ とす る身 体 感 覚 の変 化 の認 識 が契 機 とな って い る 。② そ の次 の段 階 と して,自 分 の 問 い 直 しが行 われ,将 来 へ 向 け て の再 方 向 づ け が試 み ら れ る模 索 期 が あ る 。③ 子 供 の 自立 や 親,友 人 の死 な ど' 多 くの対 象 関係 に変 化 が お こ る 。④ これ らの変 化 に応 じ た軌 道 修 正 の結 果,再 び安 定 した 自我 同 一 性 が確 立 され ― 30 ―
岡 本:中 年 期 の 自我 同 一性 に 関 す る研 究 303 TABLE8中 年 期 の 自我 同 一性 再 体 制 化 の プ ロ セ ス とそ の事 例 「 」 内 は ,被 調 査 者 の 言 葉 を そ の ま ま 掲 載 した 。 *TABLE10参 照 。 る こ と,で あ る 。 これ らの結 果 は,中 年 期 は,乳 幼 児 期,青 年期 と並 ん で,ラ イ フ サ イ クル の 中 で重 要 な発 達 的危 機 期 で あ り,こ の転 換 期 は,自 我 同 一性 の真 の確 立 や成 熟 に大 き な影 響 を及 ぼす こ と を示 唆 す る もの で あ る と考 え られ る 。 しか しな が ら,こ の 自我 同一 性 再 体 制 化 の プ ロセ ス は,研 究対 象 者 数 と して は 比較 的少 数 の22名 の事 例 か ら見 出 され た結 果 を1つ の モ デ ル と して仮 説 的 に提 示 した も の で あ る 。 こ の プ ロセ ス の 一般 性,普 遍 性 お よび,各 段 階 の特 徴 につ い て の検 討 は,今 後 に残 され た課 題 であ る 。 (3)中年 期 の 自我 同 一 性 ス テ イ タ ス (1)(2)で述 べ た特 徴 は,本 研 究 の 被 調 査 者 にほ ぼ 共 通 し て見 られ た 基 本 的 特 徴 であ った が,個 々 の被 調 査 者 の 状 態 像 には,か な りの相 違 が 見 られ た 。そ れ らの 相違 は, (1)で報 告 した 中年 期 の心 理 的 変 化 を被 調 査 者 が どの 程 度' 主 体 的 に うけ と め て い るか,お よび(2)で述 べ た 自我 同 一 性 再 体 制 化 の プ ロ セ スの どの段 階 に あ る か に応 じて い た 。 Marcia(1964)は,青 年 期 の大 学 生 を対 象 に,①crisis (意志 決 定 期 間)と ②commitment(積 極 的 関 与)の 有 無 に よ っ て,同 一 性 達 成(Identity Achiever),モ ラ トリ アム(Moratorium),早 期 完 了(Fomeclosure),同 一 性 拡 散(Identity Diffusion)と い う4つ の 同一 性 ス テ イ タ ス を定 義 し て い る 。FIG.1は,Marciaの 同 一 性 ス テ イ タス論 を参 考 に,成 人 期 に み られ る危 機 期 に,各 々 の ス テ イ タス が た どる同 一 性 再 体 制 化 の プ ロセス を仮 定 した もの で あ る 。成 人期 の同 一 性 ス テ イ タ ス は,そ れ ぞれ の 時期 に遭 遇 す る で き ご と(「 危 機 の基 盤 とな る事 象 」)を ど う認 知 し,そ れ を ど う解 決 す るか の連 続 に よ っ て定 め られ る と思 わ れ る 。 そ こ で,本 研 究 では,被 調査 者 に よ って報 告 され た 中 年 期 の変 化 過 程 を'① 危 機(心 身 の感 覚 の 変 化)の 体 験, ② 自分 の 問 い 直 しと再 方 向 づ け へ の 模 索,③ 危 機 の 解 決 (軌 道 修 正 ・転 換),④ 危 機 の解 決 後 の安 定(現 在 の生 活 へ の 積 極 的 関 与),の 有 無 の4つ の 観 点 か ら分 析 し た 。 これ ら① ∼ ④ は,そ れ ぞ れ(2)で述 べ た 同 一性 再 体 制 化 の プ ロセ ス の第1∼4段 階 に対 応 し て い る 。 ま た,② は
Marcia の crisis,④ は,commitmentに 対 応 す る と考
え られ る 。TABLE10は,こ の分 析 の結 果,分 類 され た
304 教 育 心 理 学 研 究 第33巻 第4号 TABLE9ラ イ フサ イ クルに お け る3つ の発 達 的 危 機 期 の プ ロ セ ス 各 々 の タイ プ*****の 特 徴 を示 した もの で あ る。 これ らの うち,同 一 性達 成 群 に属 す る再 生 同 一性 達 成 型,積 極的 自己 受 容 型'安 定 マ イ ペ ー ス 型 の 人 々 は,同 一 性 再 体制 化 が完 了 し てお り,最 も成熟 した同一性 を備 え て い る と考 え られ る 。TABLE10に 示 した よ うに,再 生 同一性 達 成 型 と積 極 的 自己受 容 型 に 分類 され た事 例, す なわ ち'中 年 期 に 自我 同一 性 の再 体 制 化 が 顕 著 に行 わ れ,自 我 同 一 性 が 再 確 立 され た事 例 は,6事 例 見 られ た 。 これ は,(1)―3)で 述 べ た よ うに,被 調 査 者 全 体 の27.3% に あた り,ま た,同 一 性再 体 制 化 の プ ロセ ス が完 了 した 同一 性達 成 群 の54.5%を 占 め て い る 。 こ の結 果 に よれ ば, 中年 期 は 自我 同 一 性 の 再 体制 化 が行 わ れや す い時 期 で あ る と推 測 され る 。 しか しな が ら,一 方,(1)で 述 べ た 中 年期 の心 身 の 変 化 に ともな う不 安 定 感 をそ れ ほ ど深 く体 験 せず,か な り う ま くそ れ らの変 化 に適 応 して い っ た 人 々(安 定 マ イペ ー ス 型)が,本 研 究 の被 調 査者 の 中 で は 最 も多 く見 られ た (22.7%)。 ま た,一 般 的 に もこ うい う人 々 は か な り多 い の で は な い か と予 測 され る 。 こ の タ イ プ の 人 々 は,中 年 期 の心 身 の変 化 をそ れ ほ ど大 き な危 機 とは 体験 せ ず,従 って,自 分 の再 吟 味 や将 来 の再 方 向 づ け,軌 道 修 正 もそ れ ほ ど苦 労 な く行 って,同 一一性 再 体 制 化 プ ロセ ス の各 段 階 を通過 して い った 人 々 で あ ろ う。 中 年 期 に 見 られ る同 一 性 ス テ イ タス とそ の 状態 像 の特 徴 や 一 般 性 に つ い て は,自 我 同 一 性 の 再 体 制 化 が どの程 度'中 年 期 の 一般 的 な現 象 で あ るの か とい う問題 と も関 連 し て,今 後,さ ら に検 討 を加 え てい か ね ば な らな い 。 本 研 究 は,成 人 期 の 心理 ・社 会 的 発達 に関 す る基 礎 研 究 と して行 わ れ た もの で あ る 。本 研 究 に よ って,中 年 期 は,心 身 に さ ま ざ ま な変 化 が見 られ,こ の変 化 が 自我 同 一性 の 再 吟 味 を促 す こ と,ま た,中 年期 は自我同一性 の 再 体 制 化 が行 わ れ や す い 時期 で あ る こ とが 示 唆 され た 。 これ らの結 果 は,自 我 同 一性 は成 人 期 にお い て決 して 固 定 した もの で は な く,さ らに展 開 し,成 熟 して い く もの で あ る こ と を示 してい る 。成 人 期 にお い て も,同 一 性 再 体 制 化 の プ ロ セ スが 完 了 す る毎 に,個 々人 の 自我 同 一 性 は成 熟 して い くで あ ろ う と考 え られ る 。 しか し なが ら'こ れ まで述 べ て き た本 研 究 の 結 果 は, 22名 の被 調 査 者 か ら導 き出 され た 結 果 を1つ のモ デ ル と して提 示 し た も の で あ り,こ れ らは 未 だ仮 説 の段 階 で あ る 。今 後,よ り多 くの人 々 を対 象 に,特 に以 下 の点 に つ *****こ れ ら の タ イ プ の 分 類 は,筆 者 が 行 っ た 後,他 の 評 定 者 に 検 討 を 依 頼 し た 。 タ イ プ の 分 類,お よ び 命 名 に つ い て は,討 議 の 結 果,多 少 修 正 し た 。 *Whitbourne(1979)の 仮 説 を筆 者 の 研 究 に も とつ い て 再 構 成 し た。 ― 32 ―
岡 本:中 年 期 の 自我 同 一性 に 関す る研 究 305 TABLE10中 年 期 の 同 一 性 ス テイ タス と そ の状 態像 い て考 察,検 討 を深 め てい く必 要 が あ る と思 わ れ る 。 まず 第1に,中 年 期 の 同 一 性再 体 制 化 は,社 会 的 階 層,知 的 文 化 的 水 準,心 身 の健 康 度 等 に か か わ らず,ど の程 度 の 一 般 性,普 遍 性 を もっ た現 象 で あ るの か とい う 問 題 で あ る。本 研 究 の 被 調 査者 は,適 応 度 や 安定 度 が比 較 的 高 く,ま た 高 い 同 一 性 ス テ イ タス に 分 類 され た 人 々 が 多か った が,こ れ は,精 神 的,身 体 的 に健 康 で知 的 水 準 の高 い 職 業 群 に 属 す る人 々 を調 査 対 象 と した た め で あ る と思 わ れ る 。本 研 究 の 対 象者 は,教 師 が 男 性 対象 者 の 50%を 占め て い た が,他 の職 業群 や 女 性 を 対 象 に した 研 究 も重 要 で あ ろ う。 ま た,本 研 究 に よ っ て見 出 され た ライ フ サイ クル にお け る3つ の 発達 的 危 機 期 の 類 似 点 (TABLE9)に 関 して も さ らに検 討 を加 え る こ とが必 要 で あ ろ う。 本 研 究 は,質 問 紙 に よ る同 一 性研 究 と同 様 に,自 我 同 一性 の意 識 され てい る側 面 に焦 点 化 し て行 われ た。面接 とい う手 法 を用 い た た め,多 くの質 問 紙 調 査 よ り もそ れ らの 意識 内容 は 深 く把 握 で き'意 識 変 化 の プ ロセ ス もか な り明確 化 され た 。 しか し,こ れ らは 自我 同一 性 の一 側 面 にす ぎ ない。。 自我 同一 性 の再 体 制 化 に つ い ては,さ ま ざ ま な角 度 か ら,今 後 もさ らに考 察 を深 め てい か ね ば な らない 。 第2に,中 年 期 に顕 著 に同 一 性 再 体 制 化 が行 わ れ た事 例 と,そ の 他 の事 例 の相 違 点 や 関 連 性 の考 察 も重 要 な課 題 で あろ う。再 性 同一 性 達 成 型,積 極 的 自己受 容 型 に代 表 され る よ うに,中 年 期 に顕 著 な 自我 同一 性 の 再 確 立 が 認 め られ た 事 例,安 定 マ イペ ー ス型 の よ うに比 較 的 徐 々 に 中年 期 の 変 化 に 適応 し,自 我 同 一 性 に それ ほ ど大 き な 変 化 が見 られ な か った事 例,ま た,不 安 防 衛 型,現 実 逃 避 型 の よ うに,再 体制 化 プ ロセ ス の第1段 階 の 不 安 定 期 に長 くと ど ま り,再 体制 化 が 進 ま な い事 例 の相 違 は,ど うい う要 因 に よ るの で あ ろ うか 。 本 研 究 に よれ ば,再 生 同一 性 達 成 型 は,青 年 期 の 自我 同一 性 ス テ イ タス は,早 期 完 了 型 に近 い こ とが 予 測 され ― 33 ―
306 教 育 心 理 学 研 究 第33巻 第4号 てい る 。ま た,積 極 的 自己 受容 型 の青 年 期 の 同 一性 は, 内 面 的 には モ ラ ト リア ム的 な一 面 を残 してい た こ とが 推 測 され る 。 こ の よ うに,中 年 期 の 自我 同一 性 を考 察 す る には,そ れ 以 前 の 同 一性 の確 立'展 開 の プ ロセ ス を縦 断 的 に検 討 し て い く視 点 が必 要 で あ ろ う。 最 後 に,「 発 達 的危 機 」 の概 念 に つ い て述 べ てお き た い 。発達 は,こ れ まで,た だ前 向 き の もの とし て と ら え てい た が'Erikson(1950)は'退 行 的 要 素 と病 理 的 方 向 へ の動 き を も含 め て考 え られ る こ と を示 唆 して 「危 機 」 と呼 び,成 人 期 に も,そ れ ぞ れ の時 期 に 問題 とな りや す い心理 ・社 会 的課 題 に と もな う危 機 が あ る と した(Inti-macy crisis,Generativity crisis,Integrity crisis)。
Eriksonsよ れ ば,自 我 同一 性 の危 機 そ の もの は,青 年 後 期 の問 題 で あ る 。そ れ に対 して,自 我 同一 性 め危 機 は 青 年期 のみ に と ど ま らず,成 人 期 に も存 在 す る とい う視, 点 が本 研 究 の 基礎 と な って い る 。 中年 期 に顕 在 化 しや す い危機 は,生 産 性 ・生 殖性 の危 機 で あ るが,本 研 究 に よ れ ば'生 産 性 に お け る限界 感 の認 識 は,自 分 の再 吟 味 の 契 機 とな り,自 我 同 一性 の再 体 制 化 を促 す も の で あ っ た 。こ の結 果 は,青 年 期 に獲 得 され た 自我 同一 性(特 に, 不+分 に し か確 立 され て い ない 自我 同 一性)は,以 後 の 成 人期 に よ り十 分 に 確立 され 直 す こ とが求 め られ る こ と を示 してい る と考 え られ る 。1 また,Marciaの 同 一性 ス テイ タ ス は,青 年 期 を対 象 に 定 義 され た も の で あ るが,同 様 の臨 床 的特 質 をもつ ス テ イ タス は,本 研 究 の 中年期 の被 調 査 者 に も見 出 され た 。 これ らの同 一 性 ス テイ タスや 同 一 性 再 体 制化 の プ ロ セ ス は,成 人 期 の さ ま ざ ま な 「危 機 期 」 に共 通 に見 られ る も の であ ろ うか 。 ま た,成 人期 の 同 一 性再 体 制化 の プ ロセ ス を促 進 し,同 一 性 ステ イ タ ス を決 定 す る条 件 や要 因, す なわ ち,自 我 同 一 性 の成 熟 を促 す 条 件 や 要 因 は ど うい う もの で あ ろ うか 。 これ らは,成 人 期 の発達 を考 察 す る 上 で,今 後 に 残 され た重 要 な課 題 で あ る と思 わ れ る 。
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<附 記> 本 研 究 は,1980年 に広 島 大 学 教 育 学 部 に提 出 され た修 士 論 文 の 一 部 を加 筆 修 正 した もの で あ る 。研 究 に あ た っ て ご懇 切 な ご指 導 を賜 わ り,本 論 文 をご校 閲 い た だ い た 広 島 大 学 教 育 学 部 教 授,鑪 幹 八 郎 先 生 に深 く感 謝 い た し ます 。(1985年4月2日 受 稿) ― 34 ―