教員養成コースにおけるカリキュラムの課題
-資格取得コースの特色と質保証-
中村 章二【要旨】
初等・中等教育を担う教員の養成は大学教育の一環として行われており、近年の大 学改革で注目される「教育の質保証」と無縁ではない。しかし、各科目の単位修得が 教員免許に直結するため、修得単位が多くなる等、資格取得コースならではの問題が 生じている。 また、教育には連続性があることから、初等・中等教育の充実は、大学教育にとっ ても重要な課題でもある。 本研究は、教員養成大学職員として修学指導や就職支援等に携わった経験と高等教 育に関する研究を継続する中で、教員養成カリキュラムの課題を大学の教育システム における質保証の観点から論じたものである。 キーワード:教育の質保証、教員養成、カリキュラム、教員免許、単位制度はじめに
大学設置基準の大綱化以降、各大学においては、18才人口の減少に代表される様々な社会的 要因により、大学改革が進められている。特に2008年の中央教育審議会答申「学士課程教育の 構築に向けて」は、学士課程という教育プログラムに着目し、3つの方針(学位授与、教育課程 編成・実施、入学者受け入れ)を打ち出すとともに、単位制度の実質化を踏まえた教育の質保 証にも言及した画期的なものである。しかし、2012年に再び大学教育の質を問う「新たな未来 を築くための大学教育の質的転換に向けて」(中央教育審議会答申)が示されたことは、課題と なった改革が進んでいないことを意味している。 また、この答申と同時に中央教育審議会は、「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総 合的な向上方策について」(答申)を公表している。この答申は、義務教育等を担う教員の資質 能力向上を図るものであり、就職前の養成段階から就職後の研修の他、教員免許制度について も改善を促す内容となっている。 今日、大学教育を論じる際、ゆとり教育に代表される高校までの学力低下が話題となること もあるが、教育には連続性があるため、教育の最終段階である高等(大学)教育には過去の教 育成果が反映されることになる。その初等・中等段階の教育を担う教員は、大学における学習 の成果として「教員免許状」という職業資格を得て教壇に立つことから、教員養成コースの運営は教育界全体に大きな責任を持っているとも言える。 本研究では、このような特性を持つ教員養成制度に関し、大学の単位制度に基づく質保証を キーワードに検討を進める。この分野の先行研究としては、国立の教員養成系大学学部の在り 方に関する懇談会の報告において修得単位数が過大であることが指摘されているが、単位制度 に基づく検証やカリキュラムにおける指導内容の検討は行われていない。 本研究では、修学指導や就職支援を経験した職員の立場から、教員養成コースにおける現実 的な課題を大学教育における質保証との観点で論じることで、将来の人材を養成する教育とい う営みの初期段階を担う教員を養成するコースが行う改革の一助としたい。
1.大学教育における教員養成コースの歴史的経緯
「教育は国家百年の計」との諺にあるように、教育は国家が継続的に繁栄するためには必須 のことであり、その方向を誤ると国が傾く大きな要因となる。 これについて、我が国は、第二次大戦による大きな過ちを経験し、その後、目覚ましい経済 成長による復興を成し遂げたという経験がある。そして、現在の繁栄に義務教育を始めとする 充実した教育制度が、社会を担う人材養成に寄与したことは多くの教育関係者が認めている。 ここでは、初等教育を中心とした義務教育制度と教員養成制度について、戦前・戦後の概略 を確認しておきたい。 (1)義務教育 戦前の教育制度について、学制120年史(文部省 1992:22)は、①明治の大日本帝国憲法に は、直接教育に関する条文は設けられず、天皇の大権事項に含まれていた、②立法事項以外の 教育に関する基本事項は勅令により規定される教育法規の勅令主義方式であった、③軍人勅諭 に倣って教育勅語が定められた、④国民及び国民教育の基本として国家の精神的支柱として重 大な役割を果たすことになった、と当時の様子を示している。明治時代に始まった近代教育制 度は、明治8年の「学制」により始まったが、力点が置かれたのは、国民全般を対象とする初等 教育の普及と欧米の技術的文化的水準に追いつくための高等教育の設立であった。この創始期 について学制120年史(文部省 1992:15)は、欧米の近代教育を伝統と風土を異にする東アジ アに定着させる試みは模索と試行の道、と当時の様子を示している。このように明治期の様々 な制度改正を経て、明治40年の小学校令改正により「義務教育6年制」が翌41年度から実施さ れたが、初等教育を6年とする基本的な構成は今日まで変わっていない。なお、中学校が義務 教育となったのは戦後であり、3年制であることを含め現在まで大きな変化はない。 (2)教員養成制度 初等教育を担う教員養成機関として、戦前には師範学校が設置されていたが、制度が確立し たのは明治30年の師範教育令による。この師範学校は、高等小学校卒業を入学資格とする本科 第一部(4年)と中等学校卒業を入学資格とする本科第二部(男子1年、女子2年)であり、大 学よりも低い位置付けであった。その後、大正10年の大学令により多くの専門学校が私立大学 に昇格したが、職業教育を低く見る時代でもあり、師範学校は大学よりも一段下の位置付けのままであった(表1)。 表1 学制の概要 学制120年史766–769 学校系統図を基に筆者が編集・作成 このような戦前の学制が敗戦に伴い戦勝国である米国の主導により一新される。中でも「大 学」には戦前の大学に「専門教育機関、大学予備教育機関、教員養成機関(師範学校)」を加え て再編された。これは「1府県1大学の原則」とも呼ばれ、①府県には1つの国立大学を作る、 ②学部や分校が他府県にまたがることは避ける、③各都道府県には必ず教養及び教育に関する 学部または部をおく、④現在の組織・施設等を基礎とする、というものであった。この大きな 変革の中、寺崎昌男(寺崎 1979:181, 189)は、特に教員養成について、①米国教育使節団が、 教員養成の年限は4年が適当としていた、②教育刷新員会が教員養成は大学で行うことを原則 とした、と大きなポイントであったことを示している。 現在、教員の資格となる教員免許は、教育職員免許法第5条の規定により、原則として大学 の学修(単位)により得られるものとなっているが、この原則が定められたのを寺崎昌男(寺 崎 1979:189)は、1946年12月に教育刷新委員会が定めた、と述べているが、その狙いは何で あったのだろうか。これについて、浪本勝年(浪本 1987:6)は,①戦前日本の教師養成が、富 国強兵といった国家目的に従属した閉鎖的な制度で行われていた、②これらの反省が、大学で の開放的な教師教育を構想させた、と述べ、この教師教育について改革を主導したアメリカ教 育使節団の報告書から、「そのカリキュラムは、将来教師たるべき者を一個の個人として、また 公民として教育するやうにしなくてはならない」(浪本 1987:5)と述べている。 このように、教員の資格を原則、大学卒業である学士としたことは、当時の世界情勢におい
ても画期的であり、この高い資質に裏付けられた教員が義務教育を担ったことが、国民全般の 教育の質を高め、戦後の驚異的な復興と高度経済成長を支える人材を育て上げる背景となっ た。このことを佐藤学(佐藤 2007:2)は、①大学での教師教育は当時の世界最高水準、②教師 の資質力量を支えたのは自主的な研修文化、と述べているが、まさに大学で得た高い教養に基 づく「自主的な学び」が卒業後も根付いていることを表している。 また、改革の根幹を成す、教員養成が大学という「高等教育機関」における単位制の基に位 置付けられたことも重要な観点と考えられる。このことについて、浪本勝年(浪本 1987:4)は、 大学が行う教師養成は、戦後の民主化の一環として大学主導に転換した、と述べ、この大学主 導の意義を「批判的探究精神が横溢する大学で、幅広い教養、教職に関する基本的知識、さら には、科学性・教育専門性に裏付けられた指導力などを身に付けた教師を養成する」(浪本 1987:6)であったことを示し、教員は大学という高等教育機関で養成することが世界的な共通 理念であると述べている。 このように、職業教育として始まった師範学校が敗戦の反省を基に戦後の民主化を進める中 で、教員養成は高等教育機関である大学が担うこととなったが、そこには、市民教育を基本と した、批判的思考力を含めた大学の「自主的な学び」があった。 その背景として存在する単位制に基づく米国の修学指導体制をも念頭に置きながら、次で は、以降近年の改革等を考えていきたい。
2.近年の教員養成大学・学部における改革
先に述べたように、現在、教員の養成は大学で行われるが、近年の動きとしては、国立の教 員養成系大学学部の在り方に関する懇談会が 2001 年に報告した「今後の国立の教員養成系大 学学部の在り方について」(以下、在り方懇報告)であろう。 この報告は、教育現場で生じている困難な課題や新たな教育課題に応えられる教員を養成す るために、長期的な視点に立って国立の教員養成系大学・学部の在り方について検討したもの で、「U 今後の教員養成学部の果たすべき役割」として、次の6項目が示されている。 ・学部教育で身につけさせるべき資質 ・教員養成カリキュラムの在り方 ・教員養成学部としての独自の専門性の発揮 ・成績評価の厳格化 ・教員養成学部の教員の在り方 ・評価システムの確立 ここで注目したいのは、成績評価の厳格化に関する次の3点である。 (1)単位制の趣旨に基づき、あまりに多くの単位を修得することが困難であることを示し、登 録単位数の上限を設定するよう求めている。 (2)個々の学生が複数免許を取得するため、修得単位が増加し、単位制度の形骸化が指摘され ていたが、その背景として、免許取得上必要という理由の下に授業科目の履修を学生の任意に委ねていたこと。 (3) 単位制度の実質化を図るため、シラバスの作成、事前・事後の学修の明確な指示の義務付 けなど、責任ある授業運営や成績評価の厳格化を図ることが求められている。 さらに、これらについて、同報告は、「求められるのは大学としての自己規律であり、複数免 許の取得が就職のために必要であるということで黙認するのではなく、教授すべき内容を精選 するとともに、その内容の修得を徹底させていくことが結果的に大学教育の質の向上、ひいて は教員となるべき学生の質の向上につながる」と、高等教育機関である大学としての方向性が 示されている。 なお、この報告が発表された時期は、大学設置基準の大綱化に続く一連の大学改革が進んだ 時期であり、特に国立大学にとっては、大学の再編・統合や法人化が示されたことから、多く の教員養成大学・学部がカリキュラム改革を行った。 これらの改革状況は、日本教育大学協会の第二常置委員会教科教育学に関する検討部会が会 員大学・学部へアンケート調査を行い、「教員養成カリキュラム改革に関する調査報告書」 (2006)として報告されている。言わば、国立大学が法人化という大きな制度改革を迎える時期 に、教員養成大学・学部で行われたカリキュラム改革について、日本教育大学協会が取りまと めたものである。 さて、具体的に、この報告書を見ると、アンケートの調査項目に「教科教育」「教科専門」「教 職専門」という教育内容に関する項目が多いが、成績評価の厳格化に関する項目は見当たらな い。報告書の内容も個々の授業内容に関するものが多く、成績評価の厳格化に関しては、シラ バスに関する個別大学の取り組みが取り上げられている程度であり、単位制に基づくカリキュ ラム改革に関する事項は見当たらない。むしろ関連する内容として指摘しておきたいのは、教 科教育と教科専門と教職専門という三領域間の協働に関する報告である。この設問には5大学 が回答し、これらを踏まえ教員養成大学の現状を次のように報告している。 概していえることは、三領域間での教員の協働は、むしろなされている方が珍しいという ことである。なされている場合でも、教育実習や総合演習等の特定の授業科目に限定され ている状況が読み取れる 出典:教員養成カリキュラム改革に関する調査報告書(2006:93) 既に多くの大学関係者が承知しているように「教育の質保証」は、社会における大学として 喫緊の課題であるが、その前提となる厳正な成績評価において、教育者(評価者)である教員 グループの共通理解は必須の事項である。この報告が2005年の調査を基にしていることから 既に7年を経過しているため、その間に示された2008年の学士課程答申等、その後の大学改革 により、進展しているとは思われるが、本調査において「三領域間の協働」という調査項目を 設定することそのものが、教員養成大学・学部の教員同士が共通認識を持つことの潜在的な難 しさを暗に表していると考えられる。
3.教員養成大学・学部のカリキュラムと質保証
前項で述べたように、教員養成大学・学部においては、教育の質保証の基となる成績評価制 度の厳格化について、必要性は論じられているが、個別大学における実際の検討は進んでいな いことが窺がえる。ここでは,「教育の質保証」について,少し視点を変えて,教員養成大学・ 学部のカリキュラムを教育システム(CAP制、GPA制度)と関連付けながら,組織としての課 題を考えてみたい。 (1)カリキュラム 教員養成大学・学部のカリキュラムは、その目的から教員免許状を取得することを主眼に設 定されている。次の表は、大学における教員養成の仕組みを表しているが、教員養成大学・学 部では、履修する多くの科目が教職課程として認定されているため、卒業に必要な科目・単位 を修得すると同時に教員免許状が取得できる(表2)。 表 2 教員免許を取得するための単位修得方法(概略) なお、実際のカリキュラムは次のような配置となっている(表3)。 表 3 教員養成大学のカリキュラムイメージ ※2013愛知教育大学「履修の手引き」を基に筆者作成また、小学校の教員は全ての教科を1人の教員が担当するため、幅広い分野を学ぶことにな るが、教員養成大学・学部では、「ピーク制」を採用していることが多い。このピーク制とは、 小学校教科から一つを専門分野とすることで、大学教育としての「深く専門を学ぶ」ことを組 み入れたカリキュラムである。 (2)学生の単位修得状況 次に「教員免許」という資格に直結するカリキュラムを持つ教員養成コースに学ぶ学生の単 位修得状況を検証する。 公立学校の教員は公務員であり、定期的な異動があるため、複数の学校種・教科の教員免許 状を持っていることが人事上、有利となる。このため、多くの学生は複数の教員免許を取得す るが、これは卒業に必要な単位数に当該免許取得に必要な単位を上乗せして取得する。これが、 一般的に教員養成大学学生の卒業までに修得する単位数が多い所以である。この単位修得と教 員免許の現状について「在り方懇報告」では、現状を次のように報告している(表4、5)。 表 4 教員養成課程卒業者(平成12 年 3月)の単位修得状況 表 5 教員養成課程卒業者(平成12 年 3月)の教員免許取得状況 出典:今後の教員養成大学学部の在り方について (参考資料―教員養成課程卒業者の教員免許取得状況及び単位修得状況(2001) このように、161単位以上を修得する学生は42.8%、免許状取得者の82.1%が2種類以上の 教員免許を取得している。これは、教員養成課程の学生が複数の教員免許を取得するために多 くの科目・単位を修得している状況を表しているが、この単位修得状況は、単位制における大 学教育の質保証において課題が生じることを示している。 しかし、学生の修得単位が多く、教育の質に疑問が生じることは、教員養成大学・学部に限
ったことではない。2009年に筆者が行った調査では、国立大学のCAP単位数は、回答のあっ た41大学の内、40大学が20単位以上であった。このようにセメスター当たりの修得単位数が 多いことは、大学教育全体の問題でもあるが、修得単位が教員免許に直結する教員養成大学・ 学部は、より重い問題と考えられる。 (3)修得単位が多いことに起因する教員養成大学・学部の問題 このように、修得単位数が多いことは大学教育の質保証として問題が生じるほか、教員養成 大学・学部は修得した単位によって教員免許が得られることから「職業資格」としての信頼性 という点からも問題が生じる。 まず、教員免許という職業資格であるが、「免許」を広辞苑第六版で調べると、「特定の事を 行うことを官から許すこと」とあり、まさに、教育することを国が許可することである。それ は、教員免許を手にした時から有効であり、大学卒業時に教員免許を得た教員1年目であって も、先輩の教員と同様に教壇に立って子供達を教えることになる。これは、一般的な職業と比 較すると極めて異例なことである。一般的には、仮に専門的な知識があっても、新入社員は先 輩の指導を受けながら、その業界や職業上の様々な経験を得て一人前の社会人となる。 これに比べて、現在は初任者研修があるとは言え、卒業と同時に「一人前の教育者」と遇さ れ、子供や親から「先生」と呼ばれる立場となる。このような制度において、教員免許取得の 基となる「単位」の質を保証することは、将来の我が国を支える子供たちへの影響を考慮する と、他の分野と比べて重いのではないだろうか。 このような背景から、再掲とはなるが、在り方懇報告の「Ⅱ 今後の教員養成学部の果たす べき役割 1 学部の在り方 (4)成績評価の厳格化」に、「求められるのは大学としての自己規律 であり、複数免許の取得が就職のために必要であるということで黙認するのではなく、教授す べき内容を精選するとともに、その内容の修得を徹底させていくことが結果的に大学教育の質 の向上、ひいては教員となるべき学生の質の向上につながる」と述べ、大学の自己規律が求め られていることを改めて指摘しておきたい。 (4)教育実習の影響 次に少し目を転じて、教員免許を取得する上で、全ての校種で必須となる「教育実習」につ いて考えてみたい。 教育実習は、当該校種の学校で行うが、「教員養成は大学で行う」ことから、大学の科目とし て設定し、実習校の評価を基に大学が単位を認定するが、実際の運営では、実習生を受け入れ る学校を取りまとめる都道府県教育委員会と協議の上で、実施時期等を定めている。 さて、学校に教育実習生を迎え入れるということは、当然、通常の教育活動に影響を与える。 学校側は、未熟な教育実習生を受け入れることで生じる授業計画の遅れ等、学習への影響を最 小限にするために年間の教育計画を年度当初から調整する。昨今、学校教育には「いじめ」に 象徴される様々な課題がある中、指導する学校の教員は「将来、自分たちの後輩として学校教 育を担ってくれる」と思って、日々、忙しい中、教育実習生の受入・指導に携わっている。 しかし、教員免許に関しては、古くから「資格だから取っておこう」という傾向もあり、教
員免許を取得した者と実際に教員として就職した者の間には大きな開きがある。 次の表6は教員免許取得者と教員採用の状況を表したものである。 表 6 教員免許取得及び公立学校教員採用状況(学校種別) ここで検討に入る前に、この表を見る上で留意すべき点を一つ挙げておきたい。それは、こ の表6の中で、免許状取得者のみが「延人数」となっていることである。先に述べた、「教員養 成コースの学生は、複数の教員免許を取得する」現状から、「免許状取得者」では、1人が3つ の校種にそれぞれカウントされているが、教員採用試験は1つの校種しか受験しない。そして、 多くは小学校を受験するため、国立教員養成の、中学校、高等学校の受験者、採用者は少なく なる。このような教員就職の特性を考慮しながら検討すると、次のことが読み取れる。 (a)小学校 当該年度免許取得者の2倍以上が受験していることは、過年度卒業者が再チャレンジしてい ることを表している。また、国立教員養成が小学校教員主体であることからも、小学校免許取 得者は教員志望が強いと考えられる。 (b)中学校、高等学校 先に述べた複数免許を取得する教員養成の特性と受験者に過年度卒業者が含まれていること を考慮すると教員養成以外の受験率は決して高くはない。中学校の実数では、免許状取得者 48,309人に対し、採用者が1,669人と少ないが、過年度卒業を含めた受験者は38,719人と小学 校の状況と比べ少ないと言える。 このように、国立の教員養成コースを中心とする小学校免許取得者は、教員志望が強いが、 中学校、高校の免許状取得者の大勢を占める教員養成以外の免許状取得者は、教員志望が低く、 多くは他の進路を選択していると推測される。 一般大学・学部では、教員免許を取得する教職課程はオプションであり、当該学生が所属す る大学・学部の特色を考えれば当たり前とも言えるが、教育実習を受け入れる学校側からすれ ば、苦労して教育実習の場を与えても教員の職には就かない、ことになり、一部の学校関係者 間では「実習公害」と揶揄される状況にある。 なお、実習生を受け入れる時期の多くは最終学年となっているが、これも、進路の方向性が
ある程度定まった後に実施することで、学生の進路選択を促すとともに実習校側の過剰な負担 を避けるための方策であることを示しておきたい。 ここでは、教員養成課程・学部では、複数免許取得のために修得単位数が課題となることに 加え、一般大学・学部の教育実習が学校現場において負担になっていることが明らかになった。 どちらも教員という資格が必要な職業に就くための問題であり、社会が就職問題に注目する現 在、重要な問題とも言える。次では、この点を教育システムの中でどのように捉えていくか、 を検討する。
4.教員養成コースの課題と改善方策
前項で明らかになった、修得単位数が多いことや教育実習における課題を解決し、我が国の 将来に影響の大きい教員養成コースの「教育の質」を高め、学生に充実した学修を提供するた めにどのような方策があるのだろうか。 筆者は、長く教員養成大学に勤務し、学生に関する様々な業務を経験しながら、大学院にお いて高等教育を学んだ後、業務の傍ら研究活動を行っているが、これらの経験から、戦後改革 の趣旨である「教員養成は大学で行う」を見つめ直すことを提示したい。 具体的には、国立の教員養成大学の多くが「ピーク制」により専門教育を行っていることが 示すように、単なる職業資格を得るためだけではなく、大学教育として相応しい内容と、それ を支える教育システムを大学教育の基本に立ち返って再構築することである。なお、このこと は、文部科学大臣が2012年6月に示した「社会の期待に応える教育改革の推進」にも次のよう に示されている。 教育改革の7つのポイント ③大学の教育機能の再構築とミスマッチ解消 大学生の学修時間の欧米並み実現【H24年度∼】 出典:社会の期待に応える教育改革の推進(文部科学大臣 2012:6) このように大学教育の質が社会的に注目を集めている現状において、一連の大学改革で示さ れた「授業を支えるツールのシラバス、CAP制、GPA制度」が相互に連携する教育システムの 構築こそが、学生の学習意欲を刺激し主体的な学びに導くとともに、教育実習参加者に比べ教 員就職者が少なく「実習公害」とも揶揄される現状を打開する方策となる。次にこれらのツー ルの意味と効果、そして、ツールを活用した学生指導で成果を挙げ、近年の大学改革のモデル としなっている米国の教育システムについて現状を紹介するとともに、日本の大学が必要とす る教育システムについて述べたい。 (1)大学の教育システム 〔授業を支えるツールの意味と効果〕 シラバス……各科目の授業内容と教育方法を学生へ示し,予・復習を促すCAP制………履修登録単位数の上限を定め学生の学修時間を保証する GPA制度……良い評価を得た学生にメリットを与え,学習意欲を喚起する 〔米国の大学で行われている教育システム〕 まず、各授業科目の内容はシラバスに明示され、授業の目的・計画、評価基準のほか、科目 のグレードNo.(難易度)や先修条件(先に履修しておくべき条件、A科目を履修済みに限る 等)等が記載されている。これは、科目選択の材料となるほか、予・復習のガイドでもあり、 例えば「○回目の授業にはテキストの○頁までをレポート○枚にまとめて当日持参すること」 と示され、当日の授業は、学生のレポートを基にした議論となる。「ハーバード白熱教室」の活 発な議論の背景には、このような授業形態が存在する。米国では、このような双方向の活発な 授業で得た成果(単位・評価)を数値化(GPA)し、学生生活の様々な場面で活用しているが、 修学指導の面では「CAP」を増減するための材料となっている。 このような教育システムを持つ米国の大学について、筆者が2012年8月に米国ミネソタ州の 3大学を訪問し、現地の協議により得た内容を紹介したい。次の表は、州立大学と私立のリベ ラル・アーツ型大学の授業料制度を比較したものである(表7)。 表 7 米国における大学の授業料制度 この2つの大学は、フルタイムで学ぶ学生のCAP上限が20単位に設定されているが、これ は、授業料に関連する財政運営上の制限である。そして、教育指導上の基準は多くの大学では 15単位/セメスター程度であった。これは、日本の大学設置基準に示された1単位45時間の学 習量に基づいて算出されるセメスター当たりの単位数と同じであり、単位制度に基づいた学修 時間を教育指導上も保証していることを表している。 そして、保証された学修時間の中で得られた評価指標であるGPAの数値が良ければ「優秀な 学生」として授業料制度上の上限である20単位/セメスターまでの履修が認められ、本人が望 めば短期卒業も可能となる。 このような学生の能力に応じた教育的な指導を行い成功へ導くのがアカデミック・アドバイ ジングであり、日本で行われている修学指導とは大きく異なる。 なお、本研究では、資格取得に関する科目・単位の社会的な信頼に対するカリキュラム上の 課題を検討することを目的とするため、米国の教員養成コースの具体的な内容(科目等)には 言及しない。
(2)教育システムの再構築 次に、全入時代を迎えた日本の大学生が大きく変化していることを再認識した上で、教育シ ステムの再構築について次のように提案したい。 大学生の質の変化について一例を挙げれば、近年、高校生が就職難から「就職できないから 進学する」ということが新聞記事に取り上げられている。これは、入学者層である高校生の資 質、意欲が、かつてないほど多様化していることを示している。教員養成の主体は国立大学の ため、あまり危機感を感じていないと思われるが、「ゆとり世代」が話題となるように、現代の 若者に共通することであり、国立大学であっても無視はできない。また、定員充足に苦労する 大学にも教職課程は存在することからも米国の大学と同様、学生個々の能力に合わせた修学支 援が必要と考えられる。 ここで、大学教育の基本に立ち返って、多様な個々の学生に合わせた教育システムの構築を 提案したい。 【新たな教育システムの概要】 a.シラバスに、科目No.を付すとともに、必要に応じて先修条件を付す b.セメスター当たりの登録単位数の上限を20単位以下とする c.指導上の登録単位数を16単位程度に設定し、GPAによる増減を行う d.学修以外にもGPAを活用し、学習意欲を高める (奨学金等の支援、留学等の審査材料、優秀学生の選出等) e.教員免許取得を希望する場合、GPAによる審査を行う 5項目の内、a ∼ dは、全ての大学に共通する事項だが、dは、教員養成コースに特化され た事項であり、教員免許取得が必須である教員養成大学・学部とオプションとなる他の大 学・学部とは、その取り扱いが異なる。 【教員養成大学・学部】 主たるコース以外の教員免許取得を希望する場合、当該校種に対する教育実習の参加資格 にGPAを設定し、学習成果が不十分な者の参加を認めない。 これは、資格取得を目的とした単位修得に「学習成果」という条件を付けるもので、「c.指 導上の登録単位数を16単位程度に設定し、GPAによる増減を行う」ことと併せて個々の科 目に対する学習を充実させるものである。 【一般大学・学部】 教育実習への参加資格にGPAによる評価を加える。 なお、その際、教職科目のGPA評価に重みを持たせることが望ましい。 これは、教員免許取得が、本人の希望によるため、GPAによる学習成果の視点を組み込む ことで一定の制限を加えるものである。この方策により、教職への意欲が低い者は、結果 として教育実習への参加が難しくなり、希望する学生を充実した学習へ導くものとなる。 なお、このようシステムを導入した場合、教員養成大学・学部では、4年間で卒業すること が難しくなることや、副免を取得するために卒業を延期するケースが生じると思われるが、先
に示したアメリカの大学に設定されている授業料のように「履修登録単位数」を基準とした授 業料設定とすることで解決できると思われる。例えば、卒業を延期した場合、残った単位数に 応じた授業料設定となり、学生に過剰な負担を強いることを避けることが可能である。 また、一般大学・学部では、予想される教員免許取得者の減少が学生募集への影響を懸念す る声もあるかと思われる。これに関しては、先の表6から推測される教員採用状況が高くない ことを考慮すると、「教員免許は取得できるが就職は難しい」ことが拡大するよりも、意欲の高 い学生に絞ることで「採用状況の好転が望める」ことから、評価を高める要素となる。 これらは、中央教育審議会答申「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方 策について」(2012:12)にも、①実習前に学生の知識・技能を評価する取り組みを推進、するこ とを示している。さらに、②教員免許状取得状況や教員就職率等の情報の公表を検討、と社会 に対する説明責任の観点から教員採用に関する情報の公開を全ての教職課程認定大学に求めて いることでもある。 なお、教職課程には、教職分野の非常勤講師が必要となる等、財政的な負担もあり、履修者 の質的向上を図ることで、「教員就職」という評価を高めることは経営面からも重要と考える。 このような教育実習参加について一定の条件を加えることは、中央教育審議会答申「教職生 活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」(2012:14)にも、学校ボラン ティアや事前の面接・レポート等を課すことが「実習公害」を是正する、と示されているが、こ れを一歩進めて教育システムの一つであるGPAを活用することで、大学教育としての質を維 持・向上させていくであろう。
おわりに
本論文の後半に示した「教員実習参加へのGPA活用」は、能力が不足する学生に「複数免許 (副免)が取得できない」状況が生じ、教員養成大学にとっては教員採用試験への影響が懸念さ れる。 しかし、文部科学大臣が 2012 年 6 月に示した「社会の期待に応える教育改革の推進」には 「大学の機能の再構築」が求められ、大学が教育機関としての信頼を社会において取り戻すた めには、大学生の学修時間を欧米並みにすることが示されている。 さらに、「在り方懇報告」(2001)には、「求められるのは大学としての自己規律であり、複数 免許の取得が就職のために必要であるということで黙認するのではなく、教授すべき内容を精 選するとともに、その内容の修得を徹底させていくことが結果的に大学教育の質の向上、ひい ては教員となるべき学生の質の向上につながる」と、教員免許という資格に必要以上に縛られ ることが大学としてふさわしくないことを指摘している。 また、教育現場へ目を転じると、少子化と団塊世代の大量退職により、1校当たりの教員数 が減少しており、同僚や先輩教員が少ないことが若手教員の資質向上に影を落としている現状 がある。これらの状況は、中央教育審議会答申「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総 合的な向上方策について」(2012:7)、「教員養成の改革の方向性」の中でも述べられ、これらの解決策として教職大学院を始め教員免許の修士レベル化等の改革が示されている。 このような状況において、教員養成の主体となる教員養成大学・学部が今後も「高等教育機 関としての大学」の質を維持し続けるためには、大学制度の根幹である「単位制度の原則」に 基づいた学修の支援(タイム・マネジメント)により、大学にふさわしい教育を学生に施すこ とこそが、資質の高い教員を輩出し、社会からの信頼を得ることに繋がることであり、本論文 の最初で述べた、社会が教員養成を大学という高等教育機関へ委ねたという歴史的な経緯に対 し、大学が誠意を持って応えることになるであろう。