都市の保全緑地における植物調査への深層学習法の応用
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(2) 環境共生Vol.37 No.1(2021.3)__________________________________________Journal of Human and Environmental Symbiosis Vol.37 No.1(Mar. 2021). れ 7),様々な分野でその応用研究がなされている.植. 1.はじめに. 物分野では,葉病理診断 8),作物の機械的損傷の検出 都市部における河川敷や公園等の緑地等の保全は,. 9). ,種子画像による半数体の選別 11). 10). ,花の図鑑アプリ. 等がなされている.また,小型. 生物多様性の保護だけでなく,環境教育や住民の憩い. ケーションの開発. の場としても重要である. 福岡県北九州市においては,. UAV で得られた画像から植物種の特徴量を抽出し,機. 撥川や板櫃川が従来の治水優先の河川改修から植生を. 械学習によって植物の検出や識別を行う実践的な研究. 伴う河川改修へ転換した .板櫃川ではその後水辺の. もなされている 12) 13) 14). DL 法による画像識別を植物. 国勢調査や水辺の楽校が実施され 2),モニタリングや. 調査に活用することが出来れば, 専門家の負担も減り,. 環境学習の場となっている.また,ひびきの北公園で. 定期的且つ包括的なモニタリング実施のハードルも下. は,周辺の開発時に確認されたハンノキやトラノオス. がると考えられる.しかし,花の図鑑の正答率は 70%. ズカケを保全, 繁殖させるための保全地区が整備され,. 程度であり,ILSVRC の 1000 種の識別項目の中に植物. 響灘埋め立て地では, 区内で確認された重要種 (昆虫,. は花を主として 10 数種しか含まれておらず, 草本類や. 鳥類)を保全するため,区画の一部が響灘ビオトープ. 木本類における多種の正答率は低いと言われている 15).. として整備された.これら都市部の緑地等は整備後の. 最新では Seeland 等が西欧の植物 1000 種の画像データ. 維持管理が課題となる.特に生態系のベースとなる植. ベース PlantCLEF 2016 を用い,種で 82.2%,科で 88.4%. 物種の把握や,その分布を示す植生図の作成は重要で. の確度を得ている 16).PlantCLEF 2016 も花画像が多い. ある.上記の事例においては,定期的且つ包括的な調. が,葉や樹木の枝の画像も含まれている.. 1). 査がなされているのは板櫃川のみで,撥川は平成 25. 本研究の予備的研究として ImageNet17)の 47 種の花. 年度撥川・笹尾川生態系調査等不定期な調査が行われ. 画像を用いて植物種の分類に適した神経回路網モデル. 3). や響灘ビオトープでは重要種で. の評価を行った.Xception18)モデルでハイパーパラメ. ある昆虫,鳥類以外の生物種,特に生態系の基盤であ. ータを最適化することによって 90%以上の確度を達成. る植物種のモニタリングは行われていない.これは,. した 19).また,ImageNet は分類が間違った植物画像や. 希少動物種の保存にとって重要な植物生態系の重要性. 低解像度で判別困難な画像も含まれ質の問題があるた. が十分に認識されていないことに加え,植物種の識別. め,植物園で独自に撮影した 53 種の植物画像を用い,. と撮影に専門家や経験者が必須となり,調査の頻度や. 枝葉等の細部情報を補完するため切り抜き画像も元画. 地域が制限されるためである.保全すべき全国の都市. 像と合わせて学習させることにより 99%の確度を得た.. 緑地に共通の保全上の困難を軽減するために,保全上. これらの手法を用いて,都市における保全緑地の植. 重要なモニタリングの困難さを軽減する植物種の効率. 物種の分類を高い確度で効率的に行うことが本研究の. 的な分類手法が必要とされているが,北九州市のこれ. 最終目標となるが,そのためには調査緑地の数や季節. らの緑地,ビオトープ等は保全すべき都市緑地に共通. 毎の調査を継続し,植物種の質の高い画像データベー. する属性を持った典型的な緑地であるために,これら. スと学習モデルを構築することが重要となる.2019 年. の地区における植物種の分類の効率化を行うための手. 1 年間の調査では 2 地域で 81 種の植物を撮影し学習地. 法の改善について研究することは,全国的にも意義が. 点での画像では 95%以上の確度を得たが,学習に用い. ある.その際,最近発展が著しい深層学習法を用いる. なかった地点の同種の植物の分類を行うと,植物種に. ことが有効と考えられる.. よって確度のバラツキが大きく,6 割の植物種は 80%. ,ひびきの北公園. 4)5). 以上であるものの 3 種は 20%以下であった 20).. 計算機による画像処理や画像認識は古くから研究さ れてきたが,AlexNet6)が開発されて以来,深層学習法. 本論文では,①植物種によって確度が大きく低下す. (DL 法)がブレークスルーとなり,画像認識技術が. る要因を解明して植物の撮影や学習方法の改善指針を. 急速に発展してきた.1000 種の画像認識コンテスト. 得ること,②改善指針に基づき新たな植物調査と学習. (ILSVRC)では人間の正答率 95%を超える結果が得ら. を行い改善の効果を確かめることを目的とした.. ─ 56 ─.
(3) 環境共生Vol.37 No.1(2021.3)__________________________________________Journal of Human and Environmental Symbiosis Vol.37 No.1(Mar. 2021). 2.植物調査地域および調査の概要 2-1 ひびきの北公園 北九州学術研究都市の里山保全地区であり,キンラ ン,ハンノキなどの希少種も移植・保全している.場 所および植物調査日時を表 1 に示す.本地域の調査地 点はライントランセクト法 21)に基づいて選定した. 表 1 ひびきの北公園の植物調査概要 調査場所. 北九州市若松区塩屋 2 丁目. 調査回数. 3 回(春期・秋期) 2019 年 5 月 09 日 16:30~17:40. 調査日時. 図 1 響灘ビオトープの観察地点. 2019 年 9 月 12 日 10:00~12:00 2020 年 5 月 21 日 09:40~12:00. 調査方法. 表 3 撥川の植物調査概要. ライントランセクト法. 2-2 響灘ビオトープ 響灘ビオトープは,響灘地区にある廃棄物処分場跡 地に誕生した日本最大級の広さ 41ha のビオトープで. 調査場所. 北九州市八幡西区岸の浦. 調査回数. 1 回(春期). 調査日時. 2020 年 5 月 19 日 09:00~12:00. 調査方法. ライントランセクト法. あり,市民が生物多様性に配慮しながら自然とふれあ える自然環境学習拠点として利用されている 22).場所. 3.深層学習方法. および植物調査日時を表 2 に示す. 本研究では深層学習フレームワークに Keras24 ) /Tensorflow を使用し,神経回路モデルには Xception18). 表 2 響灘ビオトープの植物調査概要 調査場所. 北九州市若松区響町 1 丁目. を用いた.深層学習のハイパーパラメータはエポック. 調査回数. 3 回(夏期・秋期). 数 30,バッチサイズ 16 で,学習率は 0.01 から 5 エポ. 2019 年 06 月 11 日 10:30~15:20. ック毎に減衰率 0.6 で小さくした.. 調査日時 調査方法. 2019 年 10 月 09 日 09:30~14:00. 深層学習に用いた画像の撮影にはデジタルカメラ. 2020 年 05 月 26 日 09:30~12:30. Panasonic DC-FZ85 を用い,4896x3672 の画素数のオリ. コドラート法. ジナル画像を取得した.枝葉等の細部情報も学習させ るため,オリジナル画像から 1024x1024,2048x2048 の. 響灘ビオトープではコドラート法. 画像を切り抜いた(以降,部分画像と称す) .切り抜く. 23). に基づいて湿. 地 3 地点および台地 3 地点の計 6 地点で調査を行った. 響灘ビオトープの観察地点を図 1 に示す.. 場所は乱数を用いて無作為に決定し,画像間の重なり も許して最大 10 枚ずつの部分画像を作成した.部分画 像を加えた全画像データを学習,検証,試験それぞれ に 7:2:1 の割合でランダムに振り分けて深層学習を行. 2-3 撥川. った.. 2020 年は河川公園である撥川河川敷 1)を調査対象に. Xception の学習はカラー画像を用いて行ったが神経. 加えた.場所および植物調査日時を表 3 に示す.撥川 河川敷はライントランセクト法を用いて調査を行った.. ─ 57 ─. 網の大きさが 299x299 であるため,入力画像は学習や.
(4) 環境共生Vol.37 No.1(2021.3)__________________________________________Journal of Human and Environmental Symbiosis Vol.37 No.1(Mar. 2021). 試験時には全て 299x299 にリサイズされて処理される.. 表 4 2019 年の深層学習結果. 学習を繰り返す際に,過学習を防ぐためデータ増強処. 植物種. 理が必要となるが,Keras が標準で用意している設定を そのまま用いた. 植物種により確度が低下する要因を解明するため, 神経回路モデルが画像識別時に着目する画像内の箇所 種に加えて, を可視化できる SHAP 解析も実施した 25). 属,科の識別確度の解析も行った.. 試験時. 1242. 0.996. 0.991. ビオトープ. 57. 2368. 0.964. 0.988. 総合. 81. 3610. 0.979. 0.979. 表 5 別地点で撮影した画像による分類試験結果. 像 数. アキノノゲシ アメリカ. 2019 年に調査したひびきの北公園(春期・秋期)30. 学習時. 30. 種類. 4-1 2019 年 2 調査地点の深層学習結果. 枚数. 北公園. 画. 4.結果. 確度. 撮影. accuracy. 正答画像数. 1st 2nd 3rd. top1. top3. 2. 2. 0. 0. 1.000 1.000. 16. 16. 0. 0. 1.000 1.000. 12. 10. 0. 1. 0.833 0.917. 種,響灘ビオトープ(夏期・秋期)57 種,2 地点を総. ウンランモドキ. 合した 81 種による学習結果を表4に示す. 学習確度. アレチ. は学習中に検証用画像で正答した割合であり,試験確. ハナガサ. 度は学習後に学習に用いていない試験画像で分類した. チガヤ. 3. 0. 0. 2. 0.000 0.667. 時の正答率である.調査地点別の試験確度は 99%,総. ヘクソカズラ. 10. 8. 0. 0. 0.800 0.800. 合した 81 種の試験確度も 98%であり,植物種が 81 種. ヘラオオバコ. 2. 1. 0. 0. 0.500 0.500. ヒメジョオン. 9. 8. 1. 0. 0.889. クズ. 10. 2. 1. 1. 0.200 0.400. 5. 3. 0. 0. 0.600 0.600. 7. 6. 0. 1. 0.857 1.000. 6. 6. 0. 0. 1.000 1.000. 6. 0. 1. 0. 0.000 0.167. まで増えても確度は小さくならないことが分かる. この極めて高い確度を与える深層学習結果は非常. 1.00. に有望であるものの,撮影地点が狭くオリジナル画像. セイバン. の撮影枚数も少ないため画像に映り込む背景が影響し. モロコシ. た可能性も考えられる.そのため,響灘ビオトープで. セイタカ. 2019 年秋期に調査とは異なる別地点で植物種を撮影. アワダチソウ. した. 撮影した画像 14 種 107 枚の分類結果を表 5 に示. スギナ. す.表には確度に用いる予測確率 1 位(1st)の枚数だけ. タチスズメ. でなく,2 位(2nd),3 位(3rd)の枚数も示した.また,top1. ノヒエ. は予測確率 1 位のみの正答率(確度) ,top3 は予測確. ヨモギ. 12. 5. 2. 1. 0.417 0.667. ヨシ. 7. 6. 1. 0. 0.857 1.000. 率 3 位までに正答が含まれている場合の正答率である. 植物種別にみると,確度が高いのはアキノノゲシ. 表 6 部分画像を含めた分類試験結果. (図 2) ,アメリカウンランモドキ(図 3) ,スギナ(図. 画. 4)が 100%,アレチハナガサ,ヘクソカズラ,ヒメジ 種類. ョオン,セイタカアワダチソウ,ヨシが 80%以上であ. 像 数. った.確度が低い植物はクズ(図 5)が 20%,チガヤ(図. 正解画像数. accuracy. 1st 2nd 3rd. top1. top3. 6)とタチスズメノヒエ(図 7)は 0%であった.確度. チガヤ. 42. 19. 7. 6. 0.452 0.762. が高い植物はアキノノゲシ,アメリカウンランモドキ. クズ. 227. 96. 30. 18. 0.423 0.634. など花が含まれるか,スギナなど特徴的な茎や葉が画. タチスズメ. 62. 9. 8. 5. 0.145 0.355. ノヒエ. 像全体を占めていた.. ─ 58 ─.
(5) 環境共生Vol.37 No.1(2021.3)__________________________________________Journal of Human and Environmental Symbiosis Vol.37 No.1(Mar. 2021). 図 2 アキノノゲシ. 図 3 アメリカウンランモドキ. 図 5 クズ. 図 4 スギナ. 図 6 チガヤ. 図 7 タチスズメノヒエ. 確度が低い 3 種は背景や他の植物の映り込みの影響. を算出した.解析結果を図 8 に示すが, 小葉 2 枚で確. が考えられるため,細部を切り出した部分画像. 度は 60%,3 枚で 71%となる.予測確率の平均値は 2. (1024x1024 もしくは 2048x2048)を用いた分類を行っ. 枚の 0.42 から,3 枚では 0.75 まで向上する.クズは,. た.結果を表 6 に示す.確度は向上し,チガヤやクズ. 3 小葉で 1 つの葉である 26)ことからも,クズの確度向. は 45%,42%となった.一方で,122 枚の画像は対象. 上には,3 枚の小葉が完全に写っている画像を用いる. 植物が中央に写っているにもかかわらず予測確率上位. ことが望ましいと考えられる.. 3 位まででも識別できなかった.これらクズ・チガヤ・ タチスズメノヒエの 3 種について.確度が低下する要. 表 7 クズの学習時の小葉枚数を増やした試験結果. 因を詳細に解析した.. 画 像. 4-2 正答率の低い植物の要因解析. 数. (1)クズ 学習に用いたクズの画像 1094 枚を小葉の枚数別 に分類した.大きく一枚の小葉を映しているものや完. accuracy. 正答画像数. 1st. 2nd 3rd. top1. top3. 学習後試験. 201 201. 0. 0. 1.000. 1.000. 別地点画像. 10. 2. 0. 0.100. 0.300. 42. 22. 0.521. 0.816. 部分画像. 1. 217 113. 全に小葉 1 枚が写りきっていないものを「1 枚以下」 , それ以上を「2~9 枚」 , 「10 枚以上」と分類した結果, 学習画像の 39.8%が「1 枚以下」 ,54.6%が「2~9 枚」 , 5.6%が「10 枚以上」であった.それに対し,別地点の 試験画像は「10 枚以上」のものばかりであり,学習用 画像との小葉の枚数の違いが確度に影響している可能 性がある.学習用画像の小葉の枚数を増やすため,切 り出す部分画像のサイズを 1024x1024, 2048x2048 から 2048x2048,3072x3072 に拡大して学習させた結果を表 7 に示す.別地点画像(全体画像)の確度は改善しな いものの部分画像は top3 までなら 81%まで向上した. また部分画像を完全に写っている小葉の枚数で区. 図 8 小葉の枚数ごとの確度と平均予測確率. 分けし,枚数別にクズの予測確率(probability)の平均値. ─ 59 ─.
(6) 環境共生Vol.37 No.1(2021.3)__________________________________________Journal of Human and Environmental Symbiosis Vol.37 No.1(Mar. 2021). (2)チガヤ チガヤの部分画像の確度は 45%に向上した.別地点 で撮影した試験画像には穂が映っており,穂と葉で識 別感度が異なるか調べるため,1024x1024 の部分画像 は葉のみの画像(例:図 9)と,穂も写っている画像(例: 図 10)に分けて分類テストを行った.各部分画像の結 果を表 8 に示す.. 図 11 チガヤの原画像による SHAP 解析結果. 図 9 葉のみの画像 図 10 穂も写っている画像. 図 12 チガヤの部分画像による SHAP 解析結果. (3)タチスズメノヒエ. 表 8 チガヤにおける試験結果 正方形サイズ(枚数). top1. top3. タチスズメノヒエは,穂が細いため背景の影響を大. 3672(3). 0.000. 0.667. きく受けると考えられる.背景の影響を排するため,. 2048(32). 0.429. 0.595. ポリゴン分割によって対象植物だけを切り抜いて分類. 1024(38). 0.308. 0.538. 1024 葉(32). 0.188. 0.438. 1024 穂(6). 0.833. 1.000. テストを行った(図 13 の切り抜き画像が図 14,図 15 の切り抜き画像は図 16) .結果は,原画像と切り抜き 画像での差異はなく,タチスズメノヒエの予測確率は 0.01 以下だった.図 15,図 16 には SHAP 解析画像も 示した.図 15 はチガヤと分類したが,画像中の識別に. 正方形サイズ 1024 画像で,葉のみの確度が 18%に. 反応した箇所は背景のロープのみであり,これをチガ. 対して穂が写っている画像では確度が 83%まで向上す. ヤの穂と誤認したと推測できる.切り抜き画像の図 16. る.原画像でも穂は写っているが,1024 部分画像で確 度が向上する理由を調べるための SHAP 解析を行った. 原画像の結果を図 11, 部分画像の結果を図 12 に示す.. では,後ろに杭が残るが対象の植物に反応している. 図 13 の SHAP 解析では切り取り画像において穂の部 分に反応しており,メヒシバに次ぐ 2 番目の確率でタ. 原画像でも穂に反応しているが形が小さく, 0.982 の確. チスズメノヒエを予測した.. 率でオギと認識し,チガヤの確率は 0.047 しかない. 図 12 の部分画像では拡大された穂全体に反応し, チガ ヤを最も特徴づける穂の形態が明確になったことで 0.797 の確率でチガヤと認識できたと考えられる. また,葉のみの場合でも同じイネ科のセイバンモロ コシ(別地点テストの確度が 60%)を top3 で解答し ていることから,植物種は分類できないがイネ科に共 通の特徴を認識できていると思われる.他の誤答はウ. 図 13 タチスズメノヒエ 図 14 タチスズメノヒエ. キヤガラやヒメガマなどで,学習画像において無造作. の切り抜き画像. に葉が生えているような種に分類したと考察する.. ─ 60 ─.
(7) 環境共生Vol.37 No.1(2021.3)__________________________________________Journal of Human and Environmental Symbiosis Vol.37 No.1(Mar. 2021). 2019 年と 2020 年に行った計 7 回の植物調査で撮影 した植物は全 103 種となった.その一覧は巻末の Appendix に示す.これらを1つの画像データセットに 統合し,部分画像についても対象植物が中心に写って いる画像のみを選別して学習したものを統合改良モデ ルとした.深層学習結果を表 10 に示す.植物種が 103 種と増えたため top1 の確度は 90%となったものの top3 では 95%以上の確度で分類することが出来た.. 図 15 タチスズメノヒエの SHAP 解析画像. 統合改良モデルについても表 5 の別地点 14 種の分 類試験を実施した.14 種の平均は 2019 年のみの学習 モデルと大きな差はなかったが,植物種別にみると確 度の低かった 3 種(クズ・チガヤ・タチスズメノヒエ) の正答率は表 11 に示すように向上した.また統合改良 モデルでは,タチスズメノヒエの切り抜き画像の予測 確率が向上し,図 13 は 10 位から 2 位(図 14) ,図 15. 図 16 切り取り画像の SHAP 解析. は 6 位から 4 位(図 16)となった.. 4-3 2020 年調査を追加した統合改良モデルの 深層学習結果. 表 11 分類試験結果(14 種). 2020 年調査は撥川を含む 3 地点で行ったが,前節で. accuracy. 正解画像数. 得た要因解析結果に基づき,被写体深度を狭くして穂. 種類. や茎が細い種は後ろに板を置いて対象植物以外の背景. 1st. 2nd. 3rd. 確度. 上位 3位. の影響を小さくなるように撮影した.また学習に用い. クズ. 4. 1. 3. 0.400. 0.800. る部分画像は対象植物が中心に写っている画像のみを. チガヤ. 3. 0. 0. 1.000. 1.000. 選別した.2020 年の調査において観察した植物種の一. タチスズメ. 覧と学習および学習後テストの結果を表 9 に示した.. ノヒエ. 1. 0. 0. 0.167. 0.167. 0. 0. 0. 0.000. 0.000. 8. 0. 0. 0.667. 0.667. 1. 1. 1. 0.083. 0.250. ヘラオオバ. 表 9 2020 年の深層学習結果 植物種. コ. 確度. 撮影. アレチ. 枚数. 学習時. 試験時. ハナガサ ヨモギ. 撥川. 20. 682. 0.999. 0.937. 北公園. 21. 945. 0.999. 0.978. ビオトープ. 27. 800. 0.996. 0.925. 一方で表 11 に掲示したヘラオオバコ,アレチハナガ. 総合. 50. 2427. 0.997. 0.955. サ,ヨモギの正答率は下がった. ヘラオオバコは試験画 像 2 枚とも不正解となったが,学習画像に全体像が少 ないことが原因であると考えられる.アレチハナガサ. 表 10 統合改良モデルの深層学習結果. は統合改良モデルでは細部を拡大した画像の割合が増. accuracy 学習時. 試験時. top1. 0.990. 0.898. top3. 0.999. 0.955. えたため,相対的に背景が多い試験画像(全体画像) では正答率が低下した.ヨモギは葉の形が明確に写っ ていない画像は誤答が多く,葉が画像の全面に明確に. ─ 61 ─.
(8) 環境共生Vol.37 No.1(2021.3)__________________________________________Journal of Human and Environmental Symbiosis Vol.37 No.1(Mar. 2021). 写っている場合は正答率が高い.ヨモギの花の画像で. った植物の識別を向上することができた.今後も都市. は,ギシギシやアレチギシギシと誤答する傾向があっ. の保全緑地での調査を継続して行い,植物画像のデー. た. これは 2020 年春の調査では葉の画像は追加された. タセットを充実させ,学習モデルの質を高めていく.. が,花の画像の追加は無いため統合改良モデルでは葉 への反応がより強くなった結果と推察できる.. 引用文献 1) 西野友子(2019):北九州市内河川公園の植物相とその特徴,. 5.考察. わたしたちの自然史特別号,初版,pp.31-62 2) 北九州市建設局河川部水環境課(2016):平成 27 年度板櫃. 画像単位の深層学習法では高い正答率を得るために. 川(高見地区)水辺の楽校生態系調査ほか業務委託報告書. は大量の学習用画像が必要で,ILSVRC では 1000 種対. 3) 北九州市建設局河川部水環境課(2014):平成 25 年度撥川・. 象で 45 万枚の画像が用意されている. 本研究のように. 笹尾川生態系調査業務委託報告書. 独自に撮影した画像を用いる場合には各対象の撮影枚. 4) 学研北部環境影響評価(自然環境)事後調査業務委託報告. 数は少なく,より確度の高い学習法を工夫・改善して. 書,北九州市建築都市局整備部学術・研究都市開発事務所. いくことが重要である.植物種調査への深層学習を応. 5) ひびきの北公園:https://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/. 用する上で,本論文で得られた知見,指針を以下にま. 000853683.pdf(最終閲覧 2020.7.3). とめる.. 6) Alex Krizhevsky,Ilya Sutskever,Geoffrey E.Hinton(2012):. ① 撮影した画像は各対象 50 枚程度であっても Keras. Image-Net Classification with Deep Convolutional Neural. で用意された神経回路モデル Xception の転移学習. Networks,In NIPS. で 100 種を超える植物種に対して確度の高い学習. 7) ILSVRC:http://www.image-net.org/challenges/LSVRC/. が可能である.. 8) Sharada P. Mohanty,David P. Hughes,Marcel Salathé (2016):Using Deep Learning for Image-Based Plant Disease. ② 撮影した植物の全体画像から細部情報を切り出し た部分画像を加えて学習させることが確度向上に. Detection,,Front. Plant Sci.,Vol.7,pp.1-10. 有効である.. 9) Wang Z,Hu M,Zhai G(2018):Application of Deep Learning Archit-ectures for Accurate and Rapid Detection of Internal. ③ 部分画像は対象が中心に写り,小葉など葉の多い 場合は葉が完全に複数写っている画像を選別する.. Mechanic-al Damage of Blueberry Using Hyperspectral Transmittance Data,,Sensors,vol.18, p.1126. ④ 茎,葉,穂などが細くて背景が写り込む植物は被 写体深度を狭くするか,後ろに板を置いて撮影す. 10) Hasan MM,Chopin JP,Laga H,Miklavcic SJ(2018):. ることで背景(他植物や物体)の影響は低減する.. Detection and analysis of wheat spikes using Convolutional. ⑤ SHAP 解析により神経回路モデルが識別時に反応. Neural Networks,,Plant Methods,vol. 14,p.100 11) ハナノナ:https://www.it-chiba.ac.jp/skytree/exhibitions/ %E3%83%8F%E3%83%8A%E3%83%8E%E3%83%8A/ (最終閲覧 2020.11.13). する画像内の箇所が明確になり,確度高低の要因 解明に有用である.. 12) 山本裕加・田中健太(2019):ドローンによる草原性植. 6.まとめ. 物の花の検出,つくば生物ジャーナル,Vol.18,p.89 13) 小熊宏之・井手玲子・井鷺裕司(2016):UAV 観測画像. 全 7 回の植物調査を行って,103 種の植物画像のデ. を用いた絶滅危惧植物の花の自動検出手法,Journal of. ータセットを作成し,90%(上位 3 位では 95%以上). Remote Sensing Society of Japan,Vol.36,pp.72-80. の高い正答率で分類することが出来た.正答率の低い. 14) 鈴木太郎・土屋武司・鈴木真二・山場淳史(2016):小. 植物種の要因を SHAP 解析も用いて解明した.植物別. 型 UAV による空撮画像からのスーパーピクセル分割と機. に撮影方法を改善し,学習時に部分画像は対象植物の. 械学習を用いた植生分類手法の構築,Journal of The Remote. 割合が大きいものを選別することによって確度の低か. Sensing Society of Japan,vol. 36, pp.59-71. ─ 62 ─.
(9) 環境共生Vol.37 No.1(2021.3)__________________________________________Journal of Human and Environmental Symbiosis Vol.37 No.1(Mar. 2021). 15) 神沼英里:深層学習による植物注釈タスクと PublicCloud 活用 https://www.slideshare.net/ekaminuma/20190314-jspp19-public-cloud(最終閲覧 2020.11.13) 16) Marco Seeland,Michael Rzanny,David Boho,Jana Wäldchen,Patrick Mäder(2019):Image-based classification of plant genus and family for trained and untrained plant species, BMC Bioinform,Vol.20,No.4. 25) Erik Štrumbelj,Igor Kononenko(2014):Explaining prediction models and individual predictions with feature contributions,Knowledge and Information Systems,vol.41, pp.647-665 26)林弥栄(2002):野に咲く花,株式会社山と渓谷社,p.288. 17)ImageNet:http://image-net.org/(最終閲覧 2020.11.10) 18) Xcepition:http://openaccess.thecvf.com/content_cvpr_2017/ html/Chollet_Xception_Deep_Learning_CVPR_2017_paper.html (最終閲覧 2020.11.10) 19) 中⼭紘喜・曙瑠美・井畔実穂・⻄野友⼦・野上敦嗣 (2019):深層学習法による高精度植物識別システムの構築 と里山保全への適応,環境システム研究論文発表講演集, 47 巻,pp.43-48 20) 白石瑠菜・中山紘喜・西野友子・野上敦嗣(2019):植 物調査への深層学習法の応用に関する研究,環境システム 研究論文発表講演集,47 巻,pp.103-107. 著者連絡先 白石 瑠菜 〒808-0135 福岡県北九州市若松区ひびきの 1-1 北九州市立大学大学院 国際環境工学研究科 E-mail: [email protected] 2020 年 7 月 6 日受付 2020 年 12 月 23 日受理 ©日本環境共生学会(JAHES) 2020. 21) 竹内均(2002):地球環境調査計測事典第 1 巻 陸域編②, 株式会社フジ・テクノシステム,初版,p.263 22) 響灘ビオトープ:http://www.hibikinadabiotope.com/ (最終閲覧日 2020.11.10) 23) 竹内均(2002):地球環境調査計測事典第 1 巻 陸域編①, 株式会社フジ・テクノシステム,初版,pp.713-714 24) keras:https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-3-030-42363-6_123(最終閲覧 2020.7.3). Appendix-1 ひびきの北公園調査植物種 植物種名(全 45 種) アキノノゲシ. キンエノコロ. ツユクサ. ホソイ. アゼナルコ. キンラン. トゲミノキツネノボタン. マメアサガオ. アメリカフウロ. クサイチゴ. トラノオスズカケ. マルバハッカ. イ. クスダマツメクサ. ニワゼキショウ. ムシクサ. オオイヌタデ. コウガイゼキショウ. ネズミムギ. メマツヨイグサ. オオジシバリ. コマツヨイグサ. ネズミモチ. ヤハズソウ. オオスズメノカタビラ. コメツブウマゴヤシ. ノゲシ. ヤブガラシ. オニタビラコ. シロツメクサ. ハンノキ. ユウゲショウ. オニノゲシ. シロバナサクラタデ. ヒメムカシヨモギ. ヨモギ. カスマグサ. セイタカアワダチソウ. ブタナ. カモジグサ. セイヨウヒキヨモギ. ヘクソカズラ. ギシギシ. チガヤ. ヘビイチゴ. ─ 63 ─.
(10) 環境共生Vol.37 No.1(2021.3)__________________________________________Journal of Human and Environmental Symbiosis Vol.37 No.1(Mar. 2021). Appendix-2 響灘ビオトープ調査植物種 植物種名(全 64 種) アカツメクサ. キシュウスズメノヒエ. スギナ. ヒメガマ. アキノノゲシ. キダチコンギク. スズメノチャヒキ. ヒメクグ. アゼナルコ. ギョウギシバ. セイタカアワダチソウ. ヒメコウガイゼキショウ. アメリカウンランモドキ. クサネム. セイバンモロコシ. ヒメコバンソウ. アレチギシギシ. クサヨシ. セイヨウヒキヨモギ. ヒメジョオン. アレチハナガサ. クズ. セリ. フトイ. イ. グミ. タガラシ. ヘクソカズラ. イガガヤツリ. コウキヤガラ. チガヤ. ヘラオオバコ. イヌビエ. コニシキソウ. ツルマメ. マルバハッカ. ウキヤガラ. コバンソウ. テリハノイバラ. ミヤコグサ. オオイヌタデ. コブナグサ. トゲミノキツネノボタン. メヒシバ. オオスズメノカタビラ. コマツヨイグサ. ナワシログミ. メリケンガヤツリ. オギ. コメツブウマゴヤシ. ノイバラ. ヤブガラシ. カナムグラ. コメツブツメクサ. ハマハナセンブリ. ユウゲショウ. カモジグサ. シロバナサクラタデ. ヒエガエリ. ヨシ. ギシギシ. スイカズラ. ヒエガエリ. ヨモギ. Appendix-3 撥川河川敷調査植物種 植物種名(全 20 種) アカツメクサ. カモジグサ. チガヤ. マルバハッカ. オオスズメノカタビラ. クスダマツメクサ. ドクダミ. ムラサキカタバミ. オオバコ. コマツヨイグサ. ネズミムギ. ヤブガラシ. オニウシノケグサ. シロツメクサ. ヒメコバンソウ. ヨシ. オランダガラシ. セイヨウヒキヨモギ. ヒメジョオン. ランタナ. ─ 64 ─.
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