43 -Ⅴ 音 楽 科 五十嵐正登 自らのソルフェージュ力を生かして、仲間と共に豊かな音楽を創造できる生徒の育成 1 研究の概要 (1) 生徒の実態 音楽科では、生徒の現状を次のようにとらえている。 (2) 目指す生徒像 音楽科では、生徒の実態をふまえ目指す生徒像を次のように設定した。 ① 確かな読譜力を生かして、音楽表現に自信をもてる生徒 ② 聴き取る観点を基に、楽曲を分析できる生徒 ③ 仲間と共に適切な表現方法を見いだし、効果的に演奏できる生徒 ①本校音楽科では「読譜力」を、楽譜から音の長さや高さを読み取るだけではなく、作曲者の主張や 作曲意図を読み取る力も含んでいるととらえた。読譜力を高めるためには、より多くの楽曲にふれる中 で、音符や記号の価値を一つ一つ意味付けしていく必要がある。「音楽表現に自信をもてる」とは、追 究結果として表現する音楽だけでなく、追究過程における読譜力や表現力の高まりを仲間と共に実感し ながら音楽表現していくことである。 ②本校音楽科でとらえる「楽曲を分析する」とは、音楽的な効果について、楽曲における音楽の諸要 素同士を結び付けて分析することである。主に諸要素を聴き取る観点として、楽曲を分析していく。 ③「適切な表現方法を見いだし、効果的に演奏する」とは、音楽的な知識や技能の効果的なインプッ トとアウトプットを表す。現在、自分が抱えている音楽的な課題を解決するための知識や技能を仲間と 共に探り、よりよく表現するための手だてを得て、アウトプットしていくのである。 (3) 研究の構想 本校生徒の実態と、本校音楽科が目指す生徒像をふまえて、以下のような構想で研究を進めていく。
44 -(4) 今年度重点的に取り組む手だてについて 本校生徒の実態と、本校音楽科が目指す生徒像とをつなぐ手だてを次のように考え、授業実践を進め ていく。 -表現領域- ① 楽譜への書き込み方の工夫・統一による読譜力の育成 ② 効果的な自己評価を行うための「STEP UP シート」の導入 ③ 生徒の主体的な学習活動を支援するための環境づくり ①表現上、注意する点を4色ボールペンや蛍光ペンを用いて色分けを工夫し、書き込みのポイントに 沿って楽譜への書き込みを統一させることで、作曲者の主張や作曲意図を全員で共通理解しながら音楽 表現する力を育成する。書き込みのポイントは、以下のとおりである。 楽譜への書き込みのポイント ① 記号の意味の理解につながる書き込みであること ② 記号の種類や重要度により色を使い分けること ③ 書き込んだ生徒自身にとって、いつ見てもポイントが理解できるように図化してあること ②「STEP UP シート」(自己評価シート)で、授業への取組方や発声、表現の仕方に至るまで自己の 活動を詳細に振り返らせたり、その評価を蓄積したりしていく。シートを見て、自分が何をインプット したりアウトプットしたりしてきたかを理解し、その後の音楽表現に役立てていくことができるように する。「STEP UP シート」には、姿勢や呼吸、発声などの技能や、読譜力に関わる能力を評価する欄を
45 -設け、身に付けた能力を確かめ、音楽表現活 動に対して自信をもてるようにする。 ③生徒の主体的な学習活動のために、始業 時の柔軟体操や発声を輪番制によるリーダー を中心として全体やグループで行わせたり、 課題追究の場面において適切なグループ編成 を行ったりする。また、指揮者、伴奏者、パ ートリーダーを育成していくことで、更に生 徒主体の学習活動を行うことができるように する。さらに、母音や子音の発音の仕方、歌 う際に必要とされる筋肉の図や名称などの掲 示を充実させることで、歌唱表現において気 を付けることをいつでも確認できるようにする。 STEP UPシート 2 実践例 今年度重点的に取り組む手だてを設定して実践した授業の流れは、第3学年の題材「曲にふさわしい 豊かな表現」を例にすると、次のようになる。 3 省察と展望 (1) 実践例について 重視した具体策については、生徒から次のような感想を得た。 ○発声リーダーをしてみて、はじめは毎回の授業で同じような発声の仕方を繰り返していましたが、 だんだんと、どんな工夫をしたらクラス全員の発声がよくなるのか考えるようになりました。ま た、自分が常に正しい発声を心掛けなければならないと強く感じました。 ○指揮はとても難しいなと思いました。4拍子なら4拍子をただ振るだけではなく、作曲者の意図
46 -を表現するためにクラスで工夫したところを分かりやすく指示できるようにがんばりました。 ○最初の頃は書くのが大変だった STEP UP シートですが、書いておくと、次の授業の時に、前回ど んなことを工夫したのか分かるし、これからの授業の予定を立てるのにも便利だと思いました。 ○今までは、教科書や配られた楽譜にあまり書き込みをしなかったけれど、書き込んでもいいんだ と分かりました。 ○クラスで決めたように楽譜に書き込むので、書き方が分かりやすかったです。がんばって練習し たところがはっきり分かるし、どこをどのように歌ったらよいのか分かるのでいいと思います。 右は、本題材において生徒が記入した STEP UP シートの一部である。ソルフェージュ力を生か して音取りをした様子や、「楽譜への書き込みの ポイント」を基に、仲間と共に話し合いながら 楽譜へ書き込みを行った様子が記入されている。 今年度重点的に取り組む手だて①②の効果を見 ることができる。 意識調査では次のような結果を得た。すべて の項目において、「全然あてはまらない」として いた生徒がいなくなった。また、特に重点を置 いてきた項目①について、「A」と「B」判定の合 計が11%増えた。具体的な手だてにより、自ら 生徒が記入したSTEP UP シート の読譜力を高め、意欲的に音楽表現に取り組むことができる生徒が増えてきたことを示している。しか し、書き込みのポイントを十分に理解できず、楽譜への書き込み方が分からなかったり、不十分であっ たりする生徒もいる。これは、楽譜への書き込みに抵抗を感じていたり、書き込みたい内容は分かって はいるもののうまく図化できなかったりすることが原因であると考えられる。言語活動のより一層の充 実を図り、抵抗感を感じずに、適切な書き込みを行うことができるような支援を工夫していくことが、 今後の課題として残された。 (2) 今後の展望 研究主題「自らのソルフェージュ力を生かして、仲間と共に豊かな音楽を創造できる生徒の育成」を 掲げ、本年度は特に読譜力の向上を重点として取り組んできた。手だてとして主に楽譜への書き込み方 の工夫・統一を行ってきたが、先にも述べたとおり課題が見えてきた。今後は読譜力の向上を目指しつ つ、鑑賞領域における分析する力の向上にも重点をおいた指導を行っていく。 <参考文献> 1)藤沢 章彦 (2008) 『中学校・音楽科 新学習指導要領ガイドブック』 教育芸術社 2)西園 芳信 (2009) 『中学校音楽科の授業と学力育成』 廣済堂あかつき