特集にあたって (特集 途上国政治研究の地平)
著者
川中 豪
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
190
ページ
2-3
発行年
2011-07
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00004196
発展途上国(以下、途上国)の 政治をめぐる研究は、一九九〇年 代以降、大きく変化した。本特集 では、そうした変化を念頭に、途 上国政治研究において現在注目さ れ て い る ト ピ ッ ク、 ア プ ロ ー チ、 理論などを整理し、紹介してみた い。途上国政治研究が大きく変化 した理由は主に二つに整理するこ とができる。ひとつは、研究対象 である途上国自体が大きく変化し たことである。特に重要なのは民 主化が進行したことだろう。もう ひとつは、途上国を対象とする政 治学の理論・方法が大きく進展し たことである。それは、政治事情 を記述するタイプの研究から、政 治現象の因果関係を特定しようと するタイプの研究に大きくシフト しつつあることと関係している。
●途上国政治研究の対象
「 途 上 国 」 と い う 括 り は、 厳 密 にいうと所得水準という経済的な 指標を使ったものである。にもか かわらず、途上国を対象とする政 治が一定程度、政治学のなかでま とまりを持って扱われるのは、所 得水準と政治の間に何らかの相関 関係があると経験的に理解された からである。所得水準の低い国々 のほとんどは植民地支配を経験し た新興国という属性を共有してい る。また、所得水準の低さには社 会経済構造がリンクしていて、こ れが政治に影響を与えているとの 了解もあった。あるいは経済停滞 の原因を政治に求める研究も行わ れてきた。 途上国政治を扱う政治学の分野 は、比較政治学と呼ばれる。アメ リカの比較政治学系学術誌の論文 ( 一 九 八 九 〜 二 〇 〇 四 年 ) を 分 析 したムンクとシュナイダーによる と、 研究対象地域としては、 西ヨー ロッパ(四一・〇%)や北米(一 七・〇%)など先進国が多いもの の、 ラテン ・ アメリカ (二七 ・ 二%) 、 アフリカ(一二 ・ 四%) 、中東(一 一・八%)などもかなりの割合を 占 め る。 東 ア ジ ア( 二 〇・ 三 %) も大きな割合を占め、そこには途 上国も含まれる。日本での同様の データはないが、 東アジアに加え、 ア メ リ カ で 少 数 派 の 東 南 ア ジ ア (六 ・ 九%) 、南アジア(五 ・ 九%) といったアジア関係の割合が大き いことは容易に推測できる。途上 国政治研究は比較政治学のなかで も重要な位置を占めている。 そうした途上国政治研究におい て、伝統的に大きな関心が払われ てきたトピックは、政治体制であ る。 途 上 国 政 治 研 究 が 拡 大 し て いった一九七〇年代、途上国の多 く が 権 威 主 義 体 制 を と っ て い た。 そうした時代状況のなかで民主主 義体制崩壊のメカニズム、さらに は、権威主義体制の持つ特徴など が関心の中心となっていた。 一九七〇年代後半以降、広く途 上国を席巻した民主化の「第三の 波」は、途上国政治研究の関心を 転換させた。民主化の進展は、民 主化がなぜ起こったのかという問 いに多くの比較政治学者の関心を 向けさせた。さらに、新たに生ま れ た 民 主 主 義 体 制 の 持 つ 特 徴 や、 そ う し た 民 主 主 義 体 制 が「 定 着 」 する過程も取り上げられるように なった。さらに、民主主義が途上 国政治研究においても研究対象と なるに従って、これまで先進国政 治研究で扱われていたトピックが 途上国政治研究でも取り上げられ るようになった。選挙研究が本格 的に行われるようになり、政党シ ステム・政府の形態といった民主 主義制度の機能、さらには、市民 社会や社会運動などが、途上国政 治研究のメニューのなかに取り入 れられた。一方、 民主化が進むと、 なぜ民主化しない国があるのかと い う 関 心 も 強 く な っ た。 さ ら に、 民主化と並行して冷戦が終結する なか、暴力的紛争の多くが内戦と いう形で噴出し、内戦、エスニッ ク紛争にも新たな関心が向けられ るようになった。それは国家建設 という古典的なトピックを途上国 の問題として再検証することにも つながった。 先進国政治研究とは分断されて きた途上国研究が、民主化ととも に先進国政治研究と同様の研究ト特
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アジ研ワールド・トレンドNo.190 (2011. 7)ピ ッ ク を 扱 う よ う に な っ た こ と は、比較政治学のなかでこの二つ の融合を促進した。それは二つの 効果を持つと考えられる。ひとつ は、途上国政治研究、先進国政治 研究双方にとって比較の事例を増 やし、比較政治学全体として理論 の 進 展 を 促 し た。 も う ひ と つ は、 先進国政治研究で培われてきた理 論や方法が途上国政治研究に適用 され、試されるようになった。さ らに、こうした理論や方法は、民 主主義の研究を超えて、途上国政 治研究独自のトピック、すなわち 紛争研究などにも波及するように なった。