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WTOにおける途上国優遇制度の見直し論 (特集 WTOドーハラウンドは後発発展途上国に何をもたらしたか)||

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Academic year: 2021

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アジ研ワールド・トレンド No.225(2014. 7) 二〇一三年一二月にバリで開催 された世界貿易機関︵ W T O ︶ の 閣僚会議において 、ラウンド交 渉︵ドーハ開発アジェンダ︶の部 分合意が成立した。しかし、ラウ ンドの主要な議題のひとつである 途上国の開発問題については、先 進国と途上国の意見の対立が激し く合意の目途は立っていない。そ れどころか、他の交渉分野でも開 発問題が議論の俎上に上がり、か えって合意形成を困難にする要因 となっているという指摘もある。 交渉における開発問題の論点 は、途上国に対して供与されてい る ﹁特別かつ異なる待遇﹂ ︵ special and diff erential treatment S & D ︶の強化 ・明確化だが 、最近 、 この S&D 制度自体の見直しを求 める議論が増えてきている。 ●途上国優遇制度とは? 通常の国際機関や国際条約は主 権平等の原則に基づいており、国 の面積や人口、あるいは政治力や 経済力といった要素によらず、す べての参加国が平等に扱われる 。 W T O も例外ではなく、途上国で あるか先進国であるかに拘らずす べての加盟国が条約上の義務とし て一様に W T O 諸協定で決められ ている貿易ルールを遵守しなけれ ばならない。しかし、 W T O ル ー ルを発展段階の異なる国家に一律 に適用するのは現実問題として難 しい。貿易を通じて途上国の経済 開発を促進するという観点から 、 W T O では途上国に対して特恵 ︵ S &D ︶を供与することが認め られている。 S&D の考え方が国際貿易体制 に明示的に導入されたのは、一九 六五年の G A TT 第四部﹁貿易と 開発﹂の追加という形であった 。 S&D は G A T T の基本原則であ る相互主義の例外とされ、先進国 がラウンドにおいて一定の自由化 に合意しても、途上国はそれに対 応するだけの自由化を実施せずに 先進国の自由化措置を享受するこ とができた。さらに S&D は G A TT のもうひとつの原則である無 差別主義に対する例外を正当化す る根拠でもある。一般特恵関税制 度︵ GSP ︶は途上国の輸出増大 を図るために先進国が途上国産品 に対し一般の関税率よりも低い特 恵税率を適用する制度のことであ る。 GSP は途上国とそれ以外の G A TT メンバー︵先進国︶とを 差別するという意味において、無 差別主義と本質的に衝突する。 G SP の無差別原則に対する整合性 を確保するために、 S&D に﹁無 差別原則に拘わらず、途上国をよ り有利な条件で遇することができ る﹂という概念が付加された。 TO における S&D 条項 G A TT / W TO 諸協定のなか で S &D を含んでいる規定は一五 〇近くに上る。これらは﹁ S&D 条項﹂と呼ばれ、途上国はこれら の条項を基に具体的な S&D を享 受している。これら S&D 条項は その内容によっていくつかのカテ ゴリーに分類できる。主なものと しては、⑴先進国市場における特 恵アクセス、⑵協定上の義務履行 における柔軟性、⑶経済的・技術 的支援などがある。 S&D が導入 された頃は GSP といった市場ア クセスに関する優遇措置の供与が 主流であったが、最近では W T O 協定を漸次的に途上国に適用させ ていくための柔軟性が活用されて いる。 S&D は途上国が貿易を通じた 経済発展を実現していく上で重要 な役割を果たしてきた。しかし S &D は政治的妥協として導入され たものであり、その法的基盤は脆 弱である。このため、 S&D を供 与する側︵先進国︶も供与される 側︵途上国︶も恣意的にその内容 を解釈・運用する傾向にある。ま た、導入されてから五〇年近くが 経過しているが、その基本概念は ほとんど変わっていない。グロー

における

途上国優遇制度の見直し論

WTOドーハラウンドは 後発発展途上国に 何をもたらしたか 特 集

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アジ研ワールド・トレンド No.225(2014. 7) WTO における途上国優遇制度の見直し論 バル化の進展で途上国をとりまく 環境は大きく変化しており、 S& D 制度が現在の多角的貿易体制に 適しているかどうか、改めて見直 す必要がある。 現行の S&D 制度に関してはこ れまで多くの課題が指摘されてい る。ここでは、そのなかでも大き な問題となっている二つの論点を 取り上げて検討する。 ●問題点① 途上国の多様化 S&D は、 W T O 加盟国を先進 国と途上国という二つのグループ に分け、途上国に対して一律の優 遇措置を供与する制度である。二 〇〇一年のドーハ閣僚宣言以降 、 ﹁途上国﹂カテゴリーのなかに後 発開発途上国という区分が生じた が、協定上の権利義務関係に関し てはそれ以上の区分は存在しな い。しかし、加盟国が増加し途上 国の属性が増えたことや、途上国 の間で経済発展の度合いに差が生 じてきたことなどから、従来の途 上国、後発開発途上国といった大 くくりではバラエティあふれる途 上国を説明しきれない。途上国の 多様化が進んでいるにもかかわら ず、依然として﹁途上国﹂という 単一のカテゴリーが基本となって いる体制は、現状に合わなくなっ てきている。 たとえば、近年、経済が急成長 しているいくつかの途上国は新興 国と呼ばれ、ドーハ開発アジェン ダにおいても主要なプレーヤーと なっている。こうした新興国は先 進国に匹敵する経済力を持ち合わ せている場合もある。しかし W T O に はそもそもどのような国が途 上国とみなされるかの規定がな い。現在、途上国であるかどうか の判断は各国による自己申告と なっている。このため、新興国と 呼ばれる国々も W T O では﹁途上 国﹂であり、他の途上国と同様に S&D を享受することができる 。 先進国は、こうした新興国に対し ても一律に優遇措置を供与するこ とに二の足を踏み始めている。 また 、おかれている環境の似 通った国々が連携し、ラウンド交 渉においてまとまった声を上げる ようにもなってきた。たとえば領 土が島で構成されている島嶼国 や、陸の国境で囲まれていて領海 をもたない内陸国などが、それぞ れの立場から特別な S&D を要求 している。しかし、ある途上国グ ループに特別な S&D を認めた ら、他の途上国グループからも別 の S &D の要求が生じ、収拾が付 かなくなってしまう。 S&D は、途上国が W T O ル ー ルを遵守したり、ラウンド交渉に 参加するための能力向上を支援し てきており、もはや W T O に おけ る不可欠の要素となっている。し かし、後発開発途上国など S&D を必要としている途上国がある一 方で、著しい経済成長を遂げ、先 進国と同様に W T O 協定履行能力 のある途上国については、 S&D の適用を終了する、いわゆる卒業 が必要になってくる。しかし、現 在の W T O 体制にはこの卒業条件 について明記したものがない。途 上国カテゴリーからの卒業が制度 的に備わっていない現状では、 S &D という既得権益を確保するた めに、いつまでも途上国にとどま ろうとするインセンティブが働 き、途上国の経済発展にブレーキ をかける事態になりかねない。 ●提 途上 区分を 途上国の多様化にともなって 生じる S&D の問題点に対して は、享受できる S&D の内容を発 展段階︵対応能力のレベル︶に基 づいて区分するという考え方を導 入することで解決できないであ ろうか 。その際 、環境分野で先 進国と途上国の義務に相違を認 めいている ﹁共通だが差異ある 責任︵ common but diff erentiated responsibility C BDR ︶﹂ 原則 を援用することで、途上国間の区 分をスムーズに導入することがで きるのではないかと考える。 環境分野においては、すべての 国家には環境保護に向けて共通す る責任があると同時に、環境破壊 を低減するための貢献はそれぞれ の国家で異なるものと考える CB DR 原則に基づいて、先進国と途 上国は区別して扱われる。現在の 環境問題の多くは先進国が引き起 こしており、先進国の環境保護に 対する責任は途上国より重いとい う考えに加えて、資金的にも技術 的にも環境対策を行うための能力 は先進国の方が高いため、環境問 題への対応に関しては先進国がよ り負担すべきという考え方に依拠 している。 S&D も CBDR も途上国に対 して有利な待遇を与えることが主 要な要素である点では共通してい る。しかし、途上国がひとつのグ ループとしてまとまりをもつもの なのか、あるいはより細分化した いくつかのグループへと分かれて

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アジ研ワールド・トレンド No.225(2014. 7) いくことを是認しているのか、と いう点に関しては、異なる考え方 を示している。 CBDR はそれぞ れの国がそれぞれの社会的、経済 的状況や技術的キャパシティに基 づいて環境問題に対処することを 認めており、理論的には、すべて の国の環境保護に向けた責任はそ れぞれに異なる場合もあり得る 。 このため 、﹁途上国﹂として一括 して扱われるのではなく、途上国 のなかであっても経済発展の度合 いなどによってグループ分けさ れ、異なる責任を負うことが可能 となる。つまり、 CBDR におけ る﹁差異ある﹂という概念は連続 的な差異を意味するものであり 、 先進国のなかでも差異があり、途 上国のなかでも差異があることに なる。たとえば、国連気候変動枠 組条約は先進国、途上国という二 分法に依拠することなく、温室効 果ガス削減のための政策実施等の 義務が先進締約国には個別に課せ られており、 それ以外の途上国は、 経済の発展段階に基づいて四つの グループに分けられ、それぞれが 負うべき義務が決められている。 一方の S&D は先進国・途上国 という二分論に基づいており、一 部の途上国にだけ優遇措置を供与 することは認められていない。最 近でこそ、途上国のなかでもとり わけ開発の進んでいない後発開発 途上国に対してほかの途上国より も一層有利な待遇を供与すること が是認されるようになってきた 。 このため、現在の W T O のもとで は先進国、途上国、後発開発途上 国という三つのカテゴリーに区分 されている。途上国をいくつかの サブグループに分割しようとする 動きに対しては、途上国の結束が 崩れるとして否定的な態度が示さ れている。 途上国の定義や S&D の適用条 件を明確化し S&D からの漸次的 な﹁卒業﹂を制度化していこうと する試みに対しては、既得権益を 失うかもしれない新興国や中進国 から反発が出ている。また、途上 国にさらなる区分を持ち込んだ場 合、途上国の細分化が進み、ラウ ンド交渉が一層複雑になったり 、 貿易ルールの断片化が生じるおそ れがある。 ●問題点② 一部の途上国に 対する特恵供与 S&D の代表例である一般特恵 関税制度︵ GSP ︶は全ての途上 国を対象としなければならない 。 しかし、先進国のなかには、歴史 的、政治的に特殊な関係を有する 特定の途上国にのみ特恵を与える 仕組みを備えている国もある。 例えばアメリカは中米・カリブ 海諸国やサブサハラ・アフリカ諸 国向けに特恵関税を供与し、これ ら諸国からのアメリカへの輸出増 大を図っている。サブサハラ・ア フリカ諸国に対する特恵制度はア フリカ成長機会法︵ A G O A ︶と いう国内法として制定されてお り、対象国としての適格性はアメ リカが独自に設定している経済 的・社会的基準に照らして判断さ れる。具体的には、市場経済、法 の支配、貧困削減に向けた経済政 策、国際的に認められた労働者の 権利、汚職撲滅などに加え、アメ リカの国家安全政策や外交政策に 干渉しないこと、国際的に認めら れた人権を侵害しないこと、国際 的テロ行為を支援しないこと、最 悪の形態の児童労働を撤廃するこ と、などの要件も勘案される。適 格審査は毎年行われ、新たに A G O A 対象国となる国もあれば、 A GO A 対象国から外される国もあ る。二〇一〇年にはマダガスカル が前年のクーデタで成立した政権 が民主的に選出されていないとい う理由で、また二〇一一年にはコ ンゴ民主共和国が大規模な人権侵 害を理由に A G O A 対象国から外 されている。 A G O A はアメリカの国内法を 基礎としているため、その対象国 の選定はアメリカの裁量にゆだね られている。特恵の内容もアメリ カ独自の判断で変更が可能なばか りか、 制度自体の終了もあり得る。 サブサハラ・アフリカ諸国にとっ ては、 A G O A は存在基盤が不安 定な制度といえる。 また E U はロメ協定︵一九七六 ∼二〇〇〇年︶およびその後継で あるコトヌ協定︵二〇〇〇∼二〇 〇八年︶を通じて、アフリカ・カ リブ海 ・ 太平洋 ︵ A CP ︶ 諸 国 ︵ 七 七カ国・地域︶に対し特別な待遇 を与えてきた。 A C P 諸国は砂糖 やバナナなど農産品輸出に関して 他国より有利な条件で E U 市場へ アクセスできるのをはじめ、 投資、 金融などの分野でも E U による開 発協力の恩恵を受けてきた。 ロメ協定やコトヌ協定はアフリ カ諸国の貿易を奨励し経済開発に 貢献すると評価されてきたが、一 方で、一部の途上国にのみ特恵を 与えている点が W T O 協定に違反 すると判断された。 S&D はすべ

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アジ研ワールド・トレンド No.225(2014. 7) WTO における途上国優遇制度の見直し論 ての途上国に対して無差別に供与 しなければならないという要件に 反していたからである。 コトヌ協定が W T O ルールとの 整合性を確保するためには、①授 権条項で容認されている GSP と なるよう、コトヌ協定に規定され ている特恵を全ての途上国が享受 できるようにする、②特定国間に おける特恵の相互供与を認めてい る G A T T 第二四条に適合させる ために 、地域貿易協定 ︵ R T A ︶ へと移行する、の二つのアプロー チが考えられる。 E U と A CP 諸 国は後者の方法を選んだが、コト ヌ協定が RT A として認められる ためには、すべての当事国が段階 的に貿易障壁を取り除き自由化を 図らなければならない。 E U と A CP 諸国間全体でひとつの RT A を形成するのは難しいことから 、 A C P 諸国を地理的な要件や既存 の経済統合関係を基礎に七つのグ ループに分割し 、それぞれのグ ループと E U との間で経済緊密化 協定︵ EP A ︶の締結を進めてい る。しかし、参加当事国のすべて が自由化義務を負う双務的な EP A へと転換することにより、ロメ 協定やコトヌ協定が有していた開 発協定としての色彩は薄れてしま う結果となった。 ●提案② 柔軟性のある貿易 協定化 特定の途上国のみを対象とする 特恵制度は、 W T O 法的には違法 と判断されてしまうため、 W T O 協定からのウェーバー ︵義務免除︶ を獲得する必要がある。 A G O A は二〇〇九年に、コトヌ協定は二 〇〇一年にウェーバーを得ている が、ウェーバーは期間が限られて おり、いずれ更新しなければなら ない。しかし、加盟国の三分の二 以上の賛成を必要とするウェー バーの更新は容易ではない。コト ヌ協定の場合はウェーバー供与が 二〇〇八年までとなっていたた め、 E U と A CP 諸国はそれまで に E P A に移行する必要があった のである。 A G O A もウェーバー の更新が得られなければ、 W T O 法違反として提訴される可能性も ある。 こうした制度の不安定性、ある いは特恵供与国の恣意的運用や特 恵的側面の喪失といった脆弱性 は、先進国︱途上国間の RT A と して締結し、そうした RT A に 対 しては S&D を認めることによっ て克服できないだろうか。現状で は、先進国︱途上国間の RT A に は S &D は認められておらず、途 上国も先進国と同様に自由化を進 めなければならない。しかし開発 目的の RT A に 関しては、途上国 に対して双務的な自由化義務を求 めず、先進国の片務的な特恵供与 であっても W T O 整合的とみなす 特例措置を認めるべきであろう。 例えばコトヌ協定の場合、その EP A 化 は E U ︱ A C P 諸国間の 貿易増大をもたらし、 A C P 諸 国 の経済成長や貧困削減に重要な貢 献を果たすとみなされている。し かし、最貧国を多く含む A C P 諸 国に対して E U と同じ条件の自由 化義務を課すことが 、それらの 国々の経済発展に本当にプラスに なるのか、却って国内産業に打撃 を与えるのではないか、といった 疑問が E U 加盟国のなかからも出 てきている。 W T O の場でも先進 国との RT A に 参加する途上国に 対しては、自由化の期限や対象品 目などに一定の柔軟性を認めるべ きという意見が出されている。 ●根本的な見直しの必要性 平等原則を基本とする国際法体 制において、 S&D は途上国の特 別な事情に配慮し、特恵待遇の供 与を容認してきた。しかし、著し い経済発展を遂げる途上国が出現 し、途上国のなかでの経済格差も 広がってきている。途上国が多様 化するなかで、後発開発途上国を 別枠として扱う動きはあるが、基 本的にすべての途上国に対して同 一の優遇措置を供与することの是 非も問われ始めている。 S&D が G A T T に 組み込まれ た当時、先進国は途上国に対する 特恵関税制度を競って導入し、途 上国の側も S&D を活用すること によって多角的貿易制度に参入し ようと前向きに努力した。しかし 現在、 W TO における S&D 制度 は岐路に面している。 S&D をめ ぐる途上国と先進国の主張の溝は 深く、先進国は W T O を通じて貿 易体制の安定性、透明性、そして 予見可能性を期待することができ るのか疑問を持ち始めている。一 方の途上国も W T O を自国の経済 発展にプラスに働く機関としては 期待できなくなってきている。先 進国︱途上国という二分割の構図 を前提として発展してきた S&D は再考すべき時期にきている。 ︵やない   あきこ/アジア経済研究 所   法・制度研究グループ︶

参照

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